彼が彼女の弟さん    作:kanaumi

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彼女と

 私の友人はとても困った子だった。

 

 最初は上から目線で構ってちゃんな彼女に、クラスメイトもその時は友達ではなかった私もうんざりとしていた。ただ、時折見せる彼女の優しい様子を見ていた為、皆は彼女の側を離れる事は無かった。しかし、1年の後期に彼女が他のクラスの人とトラブルを起こしまった。

 原因は彼女が相手の彼女を無視する態度に対して怒鳴った事だ。彼女はそれまで無視される事や邪険にされる事が無かった。親はもちろん、クラスメイトもなんだかんだと付き合っていたからだ。だからか、皆が自分の話に喜んでいると感じていたようだ。だから、彼女は自分の話を無視した相手に我慢がならず怒鳴ったのだ。それに相手側も怒鳴り出して喧嘩に発展した。更に、それまで彼女にイラついていた周囲の人間も加担し始めた。それにより、彼女は大勢から罵倒を受けてしまった。それが、彼女の自尊心やプライドを強く傷つけてしまったのだ。そして、彼女は引きこもった。

 

 

 

 その時の詩織は、そんな彼女がとても可愛そうに見えていた。そして、偽善だとは理解しているが、彼女の優しさを知っている自分は、彼女がこのまま勘違いされたままで引きこもるのが許せなかったのだ。

 

 それからの行動は早かった。決意した日の放課後に彼女の家に突撃したのだ。

 

 突撃した詩織を見た彼女は自分に構うなと追い返す。しかし、詩織は頑固だった。何度も彼女の家のインターホンを鳴らした。そして、追い返された。しかし、詩織は諦めずに鳴らした。そこに周りの迷惑という言葉は無かった。ただ、彼女を引きずり出す、それだけだった。何度も鳴らした。何度も何度も鳴らした。彼女が出て来るまで何度も。その時に幸いだったのは彼女の家族が夜遅くに帰って来る事だった。詩織は鳴らし続けた。詩織の一刺し指が真っ赤に化膿し、中指に交代した頃だ。開かなかったドアが開いた。ようやく彼女を引きずり出したのだ。詩織は出て来た彼女を見つめた。彼女の第一声は「近所迷惑ですわ!!」だった。詩織の粘り勝ちだった。

 

 

 彼女と無理やり向かい合わせた詩織は彼女に学校に来るように説得した。しかし、彼女の傷ついた心は外に出る事を拒んだ。

 

 -私は悪くないのに、何故あんな罵倒を受けなくてはならないのよ?そんな罵倒される学校に何故行かなければならないの?どうせ皆私に苛立っていたはずです。私がいなくて清々しているはでしょう。ならば、何故私が傷つかなくてはいけないの?悪いのは彼方の方でしょう?何故私が立たなくてはならないの?-

 

 彼女の訴えは、大人から見たらただの子供の我がままだ。先生に言ったって我がままを言うな、社会に出たらそんな事は沢山ある。駄々を捏ねるな、大人になれ。偏見もあるがこういうのだろう。だが、子供の詩織にはそれが理解できた、共感も持てた。だから、彼女に語った。

 

 -貴方が傷つく?大丈夫よ、皆は分かってないだけ。貴方が言い争った子も周りの子もね。貴方は確かに言い方が厳しいし、上からの物言いだよ?それが反感を買った事は紛れもない事実だね。それは貴方が直さないといけない事。でも、貴方はそれだけでは終わる女じゃない。貴方優しいじゃない?私だって貴方のお陰で何度か助かった。それは確かな事だよ。優しいって簡単な事の様に見えるけど、実際行うのは難しい事なんだ。でも、貴方はいとも容易く行うの。それは凄い事なんだよ。だから、貴方は自信を持って良いね。自分は優しい人なんだってね。-

 

 -…自信。-

 

 -そう、自信。貴方は人の為に行動したのよ、それは誇っていい物よ。でも、今のままではまた勘違いされるの。わかる?今の優しさは押し付ける優しさなの。-

 

 -押し付ける、優しさ。-

 

 -そう、人って、押し付けられると内容がどうであれ、むっとしてしまうの。貴方が相手の為を思った事が相手にとっての思った通りで無いの。それを貴方は沢山行った。それが反感を買ったのね。自分がいらない者を押し付けられたら嫌な気持ちになる物でしょ?-

 

 -………そうですわね。-

 

 -だから、貴方は理解しないといけないわ。何が押し付けなのかを。-

 

 -……難しいですわ。-

 

 -うん、私も難しいもの。だから、直ぐに出来る事では無いわ。でも、その練習は出来ると思うわ。-

 

 -練習ですの?でも、やり方がわからないわ。-

 

 -貴方の場合は、他人と対等に話合えば、いずれは分かってくるはずよ。貴方、頭が良いんだもの。理解力は人一倍あるはず。-

 

 -そうですの?…でも、会話なんて繋げられないわ。あの時だって、続かなかったのですもの。-

 

 -それは、貴方が畳掛けるからよ。ゆっくりと相手の話を聞けば、おのずと会話が続くはずよ。貴方は会話のレパートリーを沢山持っているのだし。-

 

 -相手の、聞く。-

 

 -出来るでしょ?-

 

 -ええ、そうですわね。…いえ、出来なくてもやりますわ。貴方は私を見捨てなかった。私の間違いを教えてくれた。ならば、私も答えたいですわ。-

 

 -うん、ありがとうで、良いのかな?-

 

 -いえ、私がお礼を言う側ですわ。…フフッ、貴方はお人好しなのね。-

 

 -あれ、今思えばこれも押し付けになるのかな?-

 

 -そうかも知れないですわね。でも、私はその優しさを嬉しく思っていますわ。…相手次第、なのですね。-

 

 

 彼女はそう言って、嬉しそうに笑みを浮かべた。詩織は言いたい事を言っただけだったと、今になって思い始めていた。言っている事もあやくちゃだっただろうと、でも、彼女がそれでいいと言った。これで、良かったのだと詩織は思う事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 翌日の事だ。学校に出て来た彼女は教卓台の上で此方を見ていた。

 翌日の事だ。頭を下げる彼女をよく見かける。

 翌日の事だ。顔を強張らせて話す彼女を見つめた。

 翌日の事だ。話を真剣に聞く彼女を見ていた。

 

 

 

 

 翌日の事だ。柔らかい笑みを浮かべる彼女を見かけた。

 翌日の事だ。柔らかい笑みを浮かべる彼女を見つめた。

 彼女は、もうちゃんと会話する事が出来ている。私の助けはもういらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の事だ。家の前で彼女が待っていた。

 翌日の事だ。家の前で彼女が待っていた。

 翌日の事だ。雨が降っていた。彼女が待っていた。

 翌日の事だ。今日も雨だ。彼女が待っていた。

 翌日の事だ。今日もいる。

 翌日の事だ。今日もいた。

 翌日の事だ。翌日の事だ。翌日の事だ。翌日の事だ。

 今日も彼女は家の前で私を待っていた。私が何をしたって言うんだ。

 

 

 

 

 

「あら、詩織さん、おはようございます。」

「あ、うん、おはよう。今日も早いね。」

「ええ、貴方が遅刻しない様に気を付けていますからね。」

「私が遅刻したのって、そんな注意する程じゃ無いはずなんだけど?」

「あら、一度やってしまうとなかなか抜けない物ですわよ?」

「なら、続いて無いから大丈夫だよね?」

「私がいたからでしょう?詩織さんだけではやはり心配ですわ。」

「大丈夫なんだけどなぁ。」

「ほら、こうしている内に時間は過ぎていきますわよ?遅刻してしまいますわね。」

「貴方がいるからでしょう?まあ、いいです、早く行きましょう。」

「はい、そうですわね。」

 駆けだした私に彼女は涼しい顔で追い付いていた。彼女は身体能力も高いようだった。

 

 




時系列は前話の前です。
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