「加賀観、遅いぞ!早くしろ。」
「…………」
「この教科書を運んだら終わりだ!急げ!」
「・・・・・・・・(この鬼め!)」
よう、正直挨拶なんかしている暇なんてないんだが、礼儀だしやってやる。…今まで挨拶ってどんなのだった?まあ、いいや。今、俺は特別実習で紅先生の手伝いをしている。本当は今の時間は授業中なんだが、欠席になっている。紅先生の手伝いはやってる事が雑用ばっかりなのはなんで何だろうな?今だって、1年生の提出課題を運搬している。普通、教科担当とかをクラスで決めて運ばせるんだろうが、この紅先生様が何故か、自分でやるって言って引き受けたんだ。ならなんで俺がやってるかって、その紅先生様の手伝いだからだ。うちの学園は校舎が複数あるから職員室も複数に別れている。だから、俺は朝から校舎中を駆け巡っているんだ。この前小鹿だったが、そんなの比じゃない位震えてんだ。
「次は、3階だな。いくぞ。」
「……(今いるの校舎外の体育館なんだが)」
「その後は、5階だな。」
「……」
荷物を持って階段を駆け上がる先生について行こうとしたが、とてもじゃないが追い付けそうも無かった。その後も校舎内を駆け巡って行った。普通科Aクラスの課題を運ぼうとした時に、クラス担当がきちんと持って行くそうなのでやらなくて良いとAクラスの担任に言われた。その時の先生の顔はとても残念そうだった。後で聞いた事だが、あの手伝いの時は先生が進んで運ぶ仕事を貰ってきていたようだ。どんだけ俺を苦しめたいんだと思ったな。
「ご苦労様だな。加賀観、ほれっ。」
ようやく、教室の自席に腰かけられた。今日はそのまま寝てしまいたい気分だった。校舎内を駆けまわっている内に午前の授業は終わり、今は昼休みの時間になっていた。神が気をつかってくれたのはフルーツミックスジュースだった。その甘い口当たりにとても癒される。このまま机にダイブしてしまいたくなる。此処まで疲れたのはあの時以来だと、走馬燈の様にいろいろな光景が浮かび上がって来た。段々と瞼が重くなっていった。
「…神、今までありがとう。」
「何バカなことを言ってんだ。起きろ。」
神の容赦のない平手は俺の肩に直撃した。その平手で俺は起き上がった。とても痛かったが、目が覚めた。危ない所だった、もう少しでいってしまう所だった。
「……ありがとう、神、助かった。」
「……大丈夫か?午後から体育だぞ?」
「……休みたい。切実に。」
「まあ、そうだろうな。」
午後は二時間とも体育だった。明日は筋肉痛で確定だろう。
今日の体育は長距離走だった、一周400mの校庭を6周すれば休憩していていいそうだ。いつもだったら喜んで走るのだが、今は死にそうなのでとても走りたくない。まあ、監督が何故か今日は紅先生だから無理だろうけど。なんであの人疲れてないんだ?おれと同じくらいに動いていたはずなのに。
「………」
「……」
スタートしてから大分経ったが、疲れているからかいつもの倍以上の時間が掛かっていた。不思議な事に、一度走り出すと何とかなる物で止まる事無く走れていた。しかし、いつもの倍以上に遅いので俺の後ろにいるのは数人だけだった。さっき神にまた抜かされた。あいつはもう、4週目に入っていた。
1000mを越した辺りから、俺の後ろを走る奴の視線を凄く感じ始めた。カーブでチラッと顔を見たが、奴は布枯 礼だった。あの時は名前を名乗らなかったが、あの後神に名前を聞いたのだ。名前で遊ぶとフカヒレっぽくなる奴だ。
「……フカヒレとは失礼な。感謝はされても遊ばれる覚えはないよ。」
「……(あれ?またですか?)」
「……わかりやすいよね、君。」
何でかこいつの前だと、思った事を口に出してるらしい。理由は不明だ。
「…と言うかお前疲れてないだろ。」
「……失礼な、これでも結構疲れてる。見えない?この滴る汗。」
「……(微妙、かな)」
「……」
表情そんなに変わってないけどあいつ何か切れかかってるぞ。何でだ?
「おーい、加賀観と布枯。後、走っているのはお前らだけだぞ。」
ゴール地点から神が大声で言って来るが、後ろのはともかく俺はこれ以上無理だぞ!
「……では、お先に。」
これ以上無理な俺を他所に、布枯は俺を追い抜いてあっと言う間にゴールした。さっきまでのスピードは何だったのだろうか?と思う位早かった。あいつ、自分から疲れたと言っていたのに自分から余力有るというのは何なんだろうか。その後、ラストでゴールした俺を待っていたのは紅先生曰く愛の鞭だった。死体蹴りであった。
主に身体面で忙しかった一日が終わった。紅先生が放課後に何かさせるほど鬼じゃ無かったが嬉しい所である。しかし、疲れた。今日だけでどれ位動いただろうか?一か月位動かなくても良いのでは無いだろうか。それ程今日は動いていたと思う。
「加賀観、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ問題ない。」
「そうか、けど、服が後ろ前反対だ。」
「……マジだ。」
「あと、鞄持ってないぞ。」
「……あ。」
更衣室で体操服から制服に着替える過程でいろいろ忘れ物をしていたようだ。このまま帰る訳には行かないので、更衣室まで戻る事になった。地味に下駄箱から更衣室までが遠いのがだるい所である。神には先に帰っていて良いと言ったが、お前を放って置いたら何が有るかわからんからついて行くと言われた。嬉しいような悲しいような気持ちになった。
「えーっと、ここら辺かな?……おっ、見っけ。良々、神見つかったから帰ろうぜ!」
「見つけたか、ああ、帰ろうか。」
鞄も無事に見つけていざ帰ろうとした時、ガラッと、大きい音を立てて更衣室のドアが開かれた。俺も神も咄嗟の事だったので、思わず身構えてしまった。しかし、ドアの方を見てホッとした。ドアの前にいたのは、同じクラスの高山だった。高山は俺達を不思議そうに見つめながら自分のロッカーから荷物を取り出して、俺らにサヨナラを言って出ていった。高山が更衣室を出た後、俺達は同時に噴き出した。互いに悪い事はしていないのになぜか物音に敏感に反応してしまった事がおかしかったのだ。少しの間お互いに笑いあった。
「あーおかしかった。何でだろう?危険だった訳じゃないのに凄く警戒した。」
「…ああ、何でだろうな。…確かに、可笑しかったな。」
「高山には何か悪い事した気分だな。」
「確かにな、また明日謝っておくか。」
「おう、そうしよう。じゃあ、帰ろうぜ。」
家に着いた時にはもう、日は沈んでいた。今日は早く寝てしまおう、そう思いながら加賀観は家の中に入って行った。
「そう言えばあの時、色無と田島は何をしてたんだ?あの時間だと更衣室は、運動部の連中しか使わないのにな。…あいつらって運動部だったっけ?あの時間だと運動部以外は立ち入り禁止だったはずだけど。…まあ、良いか。あいつらが窃盗なんてしていたとは思えないし。」
「おーい、高山ー!何やってんだー?早く帰ろうぜぇー!あれ、どこだー?」
「ここだー!今行くー!」
短い話ばっかりですが、いずれは長くしたいです。その前に資料集めなくてはですが。
2/28 追記しました