序弾 プロローグ
…………ピン、ポ~ン…………。
不意に、慎ましいチャイムの音が聞こえてきた。
どうやら、誰かがやってきたらしい。
(星伽白雪だろうなあ……)
腕時計を見ると、朝の7時を指している。
同居人のキンジが寝坊して遅刻しないように起こしに来たってとこか。
……朝からご苦労だな。
「キンジ。白雪じゃないのか?」
「……げっ」
てっきり寝ているかと思ったが……
こいつ、まさか居留守を決めるつもりだったな? 相手が白雪だから。
オレはそれでもいいんだが……後が怖いぞ?
「出てこようか?」
「いや、いい……俺が出る」
「そうか。早く出てやれよ」
そう言って、既に着替えを済ませていたオレは廊下を渡り、洗面所へと向かう。
歯ブラシ置き用のコップから黒の歯ブラシを取り、シャカシャカと歯を磨く。
――遠山キンジ。
オレと同じ部屋にいることからもわかる通り、キンジとオレは一人で住むには広い学生寮に同居している。
キンジには特殊な体質があるらしく、それによって稀に変な挙動をする奴だが……まあ、悪いやつじゃない。
――星伽白雪。
彼女はキンジの幼馴染で、キンジに好意を寄せる大和撫子。
そのことに当の本人であるキンジの奴は気付いていない。流石は武偵一の鈍感野郎だからな(オレ調べ)。
まあ、それも無理からぬことでもある。彼女はその、キンジへの思いが強すぎてヒステリックな行動を頻繁に起こす。
例えば……キンジの近くにいる女の子を見つけては懐の刀を抜き、『天誅ー!』などと言いながら斬りかかったり、
既成事実を作ろうとして、いきなりキンジに襲いかかってみたり……と、挙げていけばキリがない困ったちゃんなのだ。
そのせいでキンジに気付かれていない節があるし、自業自得だろこれ。
歯磨きを終え、ばしゃばしゃと洗顔クリームを使いながら顔を洗う。
そうこうしている内に、玄関で話していたらしいキンジと白雪が部屋に入ってきた。
よし、スッキリしたしオレも戻るか。
「おはよう、白雪さん」
「あ、おはよう、黒崎くん」
またしても、さん付けで呼んでしまった。
どういう理由かオレは女子のことをさん付けで呼んでしまうクセがある。
直そうとは思っているが、なかなか治らないのだ。
まあ、白雪は特に気にしていないみたいだからいいけど。
「それにしても。朝から豪勢だな、キンジ?」
「ああ、まったくだ。これ……作るの大変だったんじゃないか?」
キンジは塗りの箸を受け取り、苦笑いしながら言う。
白雪が持ってきた漆塗りの重箱には、朝から食べるには重いと思えるほどの料理が入っている。
形の良いふんわりとした卵焼き、向きの揃っているエビの甘辛煮、綺麗な銀鮭、西条柿……そして、下の段には所狭しと詰められた白米。オレだったら間違いなく残すだろうって量だ。
「う、ううん。ちょっと早起きしただけ。それにキンちゃん、春休みの間またコンビニのお弁当ばっかり食べてるんじゃないかな……って思ったら心配になっちゃって」
「そんなこと、お前には関係ないだろ」
そんなことを言いつつも、キンジとオレは春休みの間はコンビニ弁当ばかりを食べていた。でもな? コンビニだって美味しいんだぞ? 特にセイコマの弁当な。
もちろん、オレは白雪の弁当は食べない。既に朝飯を済ませたというのもあるが……キンジ専用弁当なんて畏れ多くて食えるわけないだろ。祟られるかもしれん。
そんなキンジと白雪の食事風景を見ながら、ソファーに腰を下ろしたオレは愛銃の整備を始める。
オレの愛銃――Z-Mウェポンズ・ストライクガン。ベースはコルト・M1911、通称コルト・ガバメント。そのカスタムの中でもかなり攻撃的なフォルムをした銃だ。その特徴として、スパイク付きのマズルガード、グリップ底部に近接戦闘用のスパイク、スライド後部にはハンマーシュラウドなどがある。
武偵は常に防弾服を着用するため、武偵同士の近接戦闘において拳銃は一撃必殺の武器になりえない。至近距離で命中させてこそ真の威力が発揮できる。なので、オレは最初から近接戦闘による格闘戦を想定した銃を携帯しているのだ。
とはいえ、オレはBランク武偵なので極力戦闘は避けるに越したことはない。そもそも諜報活動がメインの
「――ごちそうさまっ!」
何やら慌てたようにキンジが立ち上がる。
「どうかしたのか?」
「な、なんでないっ!」
……いや、顔に何かがあったって書いてるぞ?
白雪に変なことでも言われたのだろうか。たまに変な妄想を口から垂れ流してることがあるし。
「キンちゃん、今日から一緒の二年生だね。はい、防弾制服」
甲斐甲斐しく朝の用意を手伝う白雪。
まるでキンジの奥さんのようだ。
「始業式なんだし、拳銃はいいだろ」
「ダメだよキンちゃん、校則なんだから」
拳銃の受け取りを拒否するキンジだったが、校則だということで帯銃させられてしまう。
武偵高には『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務付ける』という校則があるのだ。キンジ曰く、普通じゃない校則が。
「それに……また、武偵殺しが出るかもしれないし……」
「……武偵殺し?」
「年明けに届いた周知メールが出てた連続殺人事件のこと」
「でもあれは逮捕されたんだろ」
「――いや、あれは誤認逮捕だって話だ。諜報科の見解ではそうなっているらしい」
あまり詳しくは知らないが、一応、言っておく。
そうじゃなければキンジは危機感すら抱かなさそうだし。
「心配ないんじゃないか? 今まで巻き込まれてこなかったんだし、今回も大丈夫だろ」
とはキンジの言葉だが、流石に危機感がなさすぎるんじゃないか?
武偵なんだし緊張感ぐらいは常に持とうぜ。
「で、でも……今度こそ巻き込まれるかもしれないし、今朝、占いしたら……女難の相が出てたし……わた、私……ぐすっ」
女難の相って……それ、白雪のことだったりしてな。
「分かった分かった。これで、いいだろ。だから泣くな」
キンジは溜息を吐き、兄さん――金一さんの形見の刀身が真紅のバタフライ・ナイフをクルッと回しながら収める。
その様子を白雪がキラキラとした目で見ている……何だろう、バカップルのイチャイチャを直で見せられている気分だ。
「俺はメールをチェックしてから家を出る。お前ら、先に行ってろ」
「せ、洗濯とかお皿洗いとか……」
「いいからっ」
「は、はい……じ、じゃあ、後で……メール、くれると嬉しいですっ」
白雪は丁寧にお辞儀をして、バタバタとしながら部屋を出ていった。
「お前は行かないのかよ」
「もう少し銃の整備をしてから家を出るよ」
前の日に
整備不良でまさかの殉職……それは流石に格好悪すぎる。
整備を終わらせ、ふと腕時計を見ると――7時55分。
7時55分のバスには乗れないな……別にいいけど。
メールをチェックすると言っていたキンジはブラウジングに夢中で時間に気付いていないかったので、肩を軽く叩いて時間を知らせる。
「すまん。助かった」
「いや、オレも整備に夢中で忘れてたしな」
そう言いながら、オレたちは慌ただしく部屋を飛び出した。
――この後、起きる事件をオレは一生忘れないだろう。
たぶん、この日をキッカケにオレの運命は僅かに狂い始めたのだ。
女の子が空から降ってくると思うか?
本当にそう思う。だから、これは必然だ。
この日、その瞬間から、オレの物語は始まったのだ――
みなさん、はじめまして。白崎くろねです。
知っている方もいるかもしれませんが、一応、挨拶です。
あまり文章力がある方ではないので、読む際に苦痛に感じるかもしれませんが……この作品に興味を持って読んで下さると幸いです。
さて。今作の主人公「黒崎カイト」。
詳細なプロフィールが省きますが、物語がある程度進行した段階で改めて紹介したいと思います。まあ、作中でも主人公がどんな人物なのか把握できるように書いていくつもりなので、不要っちゃ不要かもしれませんね。
では「緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾」をお楽しみください!