緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾   作:白崎くろね

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第10弾 武偵殺し

 東京強風に見舞われた週明け――

 

 オレはANAのネットワークにハッキングし、アリアが飛行機を利用する時間を調べ上げていた。

 

『ANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー空港行き』

 

 ここまでの情報が揃っていれば、ANAのデータベースをハッキングするだけで簡単に調べることができた。

 ハッキング元を辿られてもオレに辿り着けないように、キンジのパソコンを利用。

 もし、ハッキングがバレたとしてもキンジが悪いってことになる。

 ……まあ、バレるようなヘマはしていないから問題はないはずだ。うん、きっと大丈夫さ。

 

 時間も把握できたことだし、その日のスケジュールはアリアの尾行に費やした。

 この間のような()()な尾行ではなく、勘の鋭いアリアに気付かれないような尾行。

 ……のつもりだったのだが、これがまた難しくてアリアがすぐに気付きそうになるのだ。

 まるで背中にも目が付いているかのような鋭さである。勘弁してくれ、こっちは未熟な諜報科(レザド)のBランク武偵なんだぞ。

 

 そんなこんなで日が暮れ、アリアが羽田空港第2ターミナルに到着した。

 

「うーん、おかしいわねぇ……絶対に誰かが見てる気がするんだけど」

 

 などと、呟いてらっしゃるが……さすがにオレが尾行しているってことまでバレてないようだったが……

 いやいやいや? 影や形も出してないのにどうして誰かがいるって思うの? おかしいよね? 

 キミって推理を勘の極地って言っちゃうような人種だよね? 証拠も何もないのに「あたしはこいつが犯人だと思うわ」っていきなり指を突きつけちゃうようなダメダメ探偵で、それが9割の確率で的中させちゃうような犯人泣かせの探偵タイプだよね、絶対。

 うわー、アリアのことは二度と尾行したくないよぉ……

 

 そんなことを心の中でぼやきながら、オレはカツサンドを頬張る。

 うむ、大変美味です。

 

 ゲートを通り抜け、アリアが機内へと入っていく。

 それを遠くから眺めながら、オレも10分くらいの間を置いてから機内へと入った。

 ロンドン・ヒースロー空港行きの当日券は高かったので、よろしくはないが武偵高の生徒手帳を提示してチェックインを強引に通り抜けることに。

 ……苦学生がロンドンに行くためだけに40万も払えるかよ。

 

「……飛行機に乗るのも久しぶりだな」

 

 飛行機の外見上に違いは見られないが、内装は特殊な形態をしていた。

 1階が広いバーになっていて、2階はリゾート施設のような全席スィートクラスの豪華旅客機。

 そこは座席ではなく高級ホテルのような12の個室を機内に造り、それぞれの部屋にはベッドやシャワー室までもを完備した、いわゆるセレブ御用達の新型機らしかった。

 ……適当な部屋に忍び込むか?

 そこまでは考えてなかったぞ。まいったな。

 

 そんな風にオレが困っていると、ハッチが閉まる瞬間に誰かが滑り込んで入ってきた。

 

「……キンジ!?」

「お前、なんでここにいるんだ!?」

「それはこっちのセリフだ! もしかして……」

「あ、ああ……お前も気付いてたのか。この飛行機が武偵殺しに狙われるってことが!」

「そうなるな。オレとは別口みたいだが」

 

 どうやら武偵殺しがこの飛行機を武偵殺しが狙ってるってことにキンジも気が付いたのだろう。

 ここまで全力で走ってきたのか、その顔には疲れが滲み出ている。

 発汗もやばいし、息も荒すぎて呼吸が正常じゃない。

 

 が、深呼吸をしたキンジが歩いていたフライトアテンダントを捕まえて、武偵徽章を突き付ける。

 

「――武偵だ! 今すぐ離陸を中止させろ!」

「お、お客様!? 失礼ですが、どういう……」

「詳しく説明しているヒマはない! とにかく、この飛行機を止めるんだ!」

 

 必死の形相のキンジにビビったアテンダントがこくこくと何度も頷いてから、2階へ駆け上がっていった。

 

「――ッ」

 

 がくん、と両膝を落とすキンジ。

 

「大丈夫か……? お前、どこから走ってきたんだよ」

「……クラブ・エステーラ。台場の」

「なんでまたそんな場所」

「理子に呼び出されたんだ……そこで、俺の兄さんが……くっ」

 

 もう一歩も動けないって感じのキンジ。

 そうか。キンジは理子に武偵殺しのことを教えてもらったのか。おまけに兄さんの話を付けて。

 サービス精神が旺盛なのもいいが、変なことを吹き込んでないといいけど……

 

 ――ぐらり。

 

 機体が揺れた。

 ……飛行機が、動いているぞ……

 

「だ、ダメでした……! き、規則で、このフェーズでは管制官からの命令でしか離陸を止めることはできないって、機長が……」

 

 2階から降りてきたアテンダントが、ガクガクと震えながらキンジを見ている、

 ……やっぱりか。だろうとは思ったが、ここまで予想通りだと逆にスッキリするな。

 

「バカッ、ヤロウ!」

「ひぃぃっ!」

「おい、よせ……!」

 

 今にも銃を抜いてアリア式の脅しを実行しようとするキンジを手で制す。

 

「……すまない。少し、冷静を欠いてたみたいだ」

 

 止められないものは仕方ない。

 別の手段を考えるしかないだろう。

 爆弾が絶対に仕掛けられているという保証もないが、もしも仕掛けられていた場合は大問題だ。

 

(また、無能の武偵扱いされちまうかもな……)

 

 それだけは避けなければ。

 キンジのためにも、オレのためにも、アリアのためにも――

 全武偵のためにも、絶対に阻止しなければ……!

 

 別の作戦が思い付いたらしいキンジが、脅かしてしまったアテンダントをなだめてから……ロンドンに帰るらしい(?)アリアの席へと案内してもらう。

 既にベルト着用のサインは消灯しており、自由に移動ができる時間だ。

 

「……き、キンジ!? そ、それにカイトまで……!」

 

 オレのような一般庶民には、一生入ることのないようなスィートルームに入ると――アリアが、赤紫色(カメリア)の瞳を大きく見開いた。

 いきなり押しかけてきたことに驚いているようだ。こないだとは立場が逆になったな。

 

「さすがはリアル貴族様だな。これ、チケット、片道20万くらいするんだろ?」

 

 部屋の全体を見渡してから、キンジが嫌味のように言う。

 それを聞いたアリアが、座席から立ち上がってオレたちを睨んできた。

 オレはなにも言ってないし、当日の料金で40万だったぞ、キンジ。

 

「――断りもなく部屋に押しかけてくるなんて、失礼よっ!」

「お前に、そのセリフを言う権利はないだろ」

 

 うんうん。

 本当にそれだわ。

 

「……なんで来ちゃったのよ」

「太陽はなんで登る? 月はなぜ輝く?」

「うるさい! 答えないと風穴よ!」

 

 出たな。アリアの十八番、風穴。

 ムカついたアリアが、スカートの裾に手をやった。

 それを見て、キンジがちょっと安堵する。

 ……なぜに?

 

「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対に守れ」

「ま、そういうことだな」

 

 そう言うオレたちに、アリアは頭を傾げる。

 

「俺たちはこう約束した。強襲科(アサルト)に戻ってから最初に起きた事件を、1件だけ、お前と一緒に解決してやる――『武偵殺し』の1件はまだ未解決だろ」

「なによ……何もできない、役立たずのクセに!」

 

 前にオレのお見舞いに来た時のアリアが言ったように、オレたちのことを役立たず扱いをしてくる。

 が、オレにはその意味することがわかっていた。

 アリアは、オレたちを危険な目に合わせたくないのだろう。

 だからわざわざ「役立たず」なんて言い方で遠ざけようとしているんだ。

 

「帰りなさい! あんたたちのおかげでよ――――く分かったの、あたしはやっぱり『独唱曲(アリア)』! あたしのパートナーになれるやつなんか、世界のどっこにもいないんだわ! 

 武偵殺しだろうが誰だろうが、あたしはずっと1人で戦い続けるって決めたのよ」

 

 アリアの悲痛な叫びが、スィートルームに響く。

 

「もうちょっと早く、そう言ってもらいたかったもんだな」

 

 キンジは室内にあった座席に腰を下ろして、わざとらしく、窓から眼下の街並みを眺め始める。

 

「……ロンドンに着いたらすぐに引き返しなさい。エコノミーのチケットぐらい、手切れ金がわりに買い取ってあげるからっ! あんたはもう他人っ! あたしにはもう話しかけないことっ!」

「……最初から、他人だろ」

「うるさい! 発言禁止!」

 

 まるでキンジにもアリアの言動が移ってしまったかのような……

 そんな会話を見ながら、オレは室内を後にしようとする。

 

「どこに行くのよ! 危ないんだから黙ってなさいよ!」

「……ちょっと。お手洗いに」

 

 女の子っぽい言い方でお茶を濁して、後ろ手を振りながら室内を後にしたのだった。

 

(さて、オレはオレなりの作戦で武偵殺しを何とかしますか……)

 

 オレの推理が正しければ――

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 揺れるような強風の中、ANA600便は東京湾上空へと出た。

 もうすでに引き返すことはできない。

 もしも、武偵殺しが――オレの推理通りに乗員しているとしたら。

 オレたち――3人。アリア、オレ、キンジで武偵殺しを何とかしなければならない。

 

 あの武偵として超有名だった遠山金一さんですら葬られた武偵殺しと、だ。

 

 本当にオレたちだけでやれるのか……?

 そんな思いが頭の中をぐるぐると回っている。

 あのアリアですら苦戦している相手……

 

 本当に、本当に、本当に勝てるのか?

 

 ……そう思うと、身体の芯が熱くなってくる。

 オレの中のスイッチが、軽く入りそうになっていた。

 

『――お客様に、お詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れる見込みでございます』

 

 機内アナウンスが流れ、飛行機は揺れながらも空を飛ぶ。

 窓の外からは雷鳴が(とどろ)き、人の恐怖心を煽る。

 

「……別に雷は嫌いじゃないが、飛行機で聞くと怖さが半端ないな」

 

 通路を適当に徘徊しながら、小さな声で呟く。

 

 オレが機内を適当に徘徊しているのには、意味がある。

 こうすることで、この機内に乗っているはずの武偵殺しを誘うため。

 トイレに駆け込んだ後、オレはふらふらと迷うような素振りで徘徊している。

 

 武偵殺しの事件はとあるパターンがある。

 前に事件を引き起こした際、最初の事件はバイクジャックだった。

 次の事件はカージャック。そして、最後に()()()()()()

 だが、シージャックは『武偵殺し』の事件としては公表されておらず、ジャック事件として扱われていない。いわゆる、可能性事件に分類されてしまっている。

 

 そして、武偵殺しは一定の期間を置いて……再び、事件を引き起こした。

 ――オレたちが巻き込まれたチャリジャックが1件目。

 ――武偵高生徒を巻き込んだバスジャックが2件目。

 ――現在、オレが乗っているANA600便が3件目になる。

 

 去年の浦賀沖海難事故で武偵が殺されたように、

 今回の事件もまた、一人の武偵を殺すために仕組まれた大掛かりな罠……

 つまり、この飛行機が最後の舞台だ。

 

 ――アリア1人を狙った、武偵殺しの挑戦状だったのだ。

 

 

「…………」

 

 携帯にSIMを挿入し、携帯を使える状態にしてから……

 オレにヒントを教えてくれた武偵殺しに、答えのメールを送る。

 

 すると、返事は一瞬で返ってきた――

 

「――正解」

 

 ――パァン! パァン!

 

 返事と銃弾がセットで返ってきた……ッ!

 

「うら……ぁッ!」

 

 心臓が跳ね上がるほどの生命危機に際して、オレは振り向きざまに蹴りを放つことで銃弾の軌道を変える。

 だが、反応したのが遅かったせいで……銃弾がオレの肘と肩に被弾してしまう。

 ――武器は、通常モデルのワルサーP99。装弾数は16発で、悪くない銃だ。

 

 だが、今の一瞬でオレの中のスイッチが完全に入ってしまった。

 

「よォ、手荒い歓迎だな……せっかく、オレが答えてやったってのによォ……」

 

 いつもよりも荒い口調で、オレはいきなり銃をぶっ放してきたフライトアテンダントに向き直る。

 

「ノンノン。これは私なりのご褒美なの」

「……じゃあ、オレもご褒美をやらないとなァ! ここまで導いてくれたお礼だ!」

 

 ホルスターから二丁拳銃のうち一丁を抜き、牽制のための銃弾をばら撒く。

 オレの愛銃――Z-Mウェポンズストライクガンは装弾数が12発。

 純粋なる打ち合いでは、完全にこちらが不利。

 ならば、距離を稼ぎつつ……お互いの銃弾が尽きた瞬間を狙い、一気に間合いを詰めて近接戦闘へと持ち込む。

 

 だが、オレが照準を定めた瞬間……

 飛行機が、大きく揺れた。

 

「……!」

「おろろ、っと!」

 

 その瞬間、狙いを外したオレとの間合いを詰めてきた……!

 咄嗟に守ろうとするが、その判断がよくなかった。

 アテンダントは銃撃ではなく、鋭い蹴りでオレの手首を蹴り上げたのだ。

 バランスを崩し、蹴りが綺麗に決まってしまった。

 ストライクガンが手から離れ、宙を舞って……床に叩き付けられたストライクガンが遠くへ滑っていく。

 

「しまっ……!」

 

 もう一丁の銃を抜こうとした時、またしても飛行機が大きく揺れる。

 くっそ……! どうなってんだ、この飛行機は……!

 

「――そのまま、大人しく眠っててね」

 

 アテンダントの髪が、ふわっ、と舞った。

 まるで、髪が意志を持っているかのように。

 

(……超能力者(ステルス)かっ!?)

 

 さすがに予想外の攻撃だったため、髪による攻撃を思いっきり受けてしまう。

 髪の中にまぎれていた注射器が首筋に刺さり、内容液を打ち込まれながら壁に叩き付けられた。

 そして、アテンダントはその場から立ち去っていく。

 

「待ちやがれ……ッ!」

 

 深呼吸を一つ入れ、全身の筋肉を駆使して跳ね上がるようにして立ち上がる。

 が、すでにアテンダントの姿は見えなくなっていた。

 くっそ、何を打たれたのかわからないぞ。今のところ問題はないっぽいが……

 

 ――だが、武偵殺しに関しては問題ない。

 

 今のどさくさに紛れて、蹴りを放ってきた瞬間に発信機を靴裏に貼り付けておいた。

 超能力者をだったのはちと予想外だが、この場でオレが負けたのはわざとだ。

 ヤツの手の内を測るための準備運動に過ぎない。

 

「あー、それにしても完全にスイッチ入ってんな」

 

 吹っ飛ばされた銃を拾いながら、自分の状態を冷静に分析した。

 オレには、キンジで言うところの無敵モードのような力を持っている。

 武偵用語で言うところの『マル乗』だ。

 

 もっと簡単に言えば、乗能力者(じょうのうりょくしゃ)だ。

 逆に詳しく説明すれば『条件付きのマル乗、レベル50』という用語(ターム)で説明することができる。

 

 そのトリガーは、生存本能を強く感じた時。

 つまりは、死の危機に瀕した際や極度の緊張状態になった時に切り替わるのだ。

 

 この能力を持つ人間は、一定量以上の神経伝達物質であるアドレナリンが分泌されると、常人の約50倍もの量の神経伝達物質を介して、大脳・小脳・脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に飛躍させる。

 その結果、オレは常人を超越した状態になるのだ。つまり、キンジの無敵モード同様に強くなれるというわけである。

 

 本人から聞いたわけではないが、キンジもオレと同じ『乗能力者』だろうことは明白だ。

 トリガーはオレとは違うようだが……

 いったい、何がトリガーなんだろうな。

 

 だがしかし、この状態のオレには決定的な欠点がある。

 武偵として重大な欠点が……

 それは、殺人さえも厭わない性格になってしまうのだ。

 

 

「……1階のバーにいるみたいだな。待ってろよ、お前を――」

 

 オレが必ず――

 

 

 




 不穏なセリフで、今回は終了です。

 ようやく主人公の能力が説明されましたね。
 乗能力者……キンジのヒステリアモードと似たようなもので、トリガーは違うものの性質自体は同じ。
 
 ヒステリア・ノルマーレが『条件付きのマル乗、レベル30』に対して、カイトのは『条件付きのマル乗、レベル50』。
 これはヒステリア・ベルゼとほぼ同等の力になりますね。

 そのトリガーは『生存本能』を強く感じた時、というもので……詳しくは今後説明があると思います。そのうちの一つが生命危機の瀕した時ですね。


 ていうか、序盤からベルキンと同等ってインフレ激しそうですね……まあ、そこら辺も色々と考えてます。

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