緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾   作:白崎くろね

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今回は1万字オーバーです


第11弾 理子

 あの後、武偵殺しが1階のバーに留まっているのを確認してから……

 オレはキンジたちと合流した。

 

 どうやらキンジたちは、オレから逃げるアテンダントと遭遇し、無毒なガス缶に一杯食わされたらしい。

 

 電気が消え、非常灯だけを頼りにオレたちは慎重に1階へと降りていく。

 1階は豪奢に飾り付けられたバーになっている。

 その、豪華なシャンデリアの下。

 バーカウンターに、足を組んで座っている女がいた。さっきのアテンダントに扮していた武偵殺しだ。

 

「なっ……!?」

 

 女に拳銃を向けながら、にじり寄っていくオレたちは眉をひそめる。

 なぜなら、そいつはアテンダントの格好ではなく……臙脂色の、武偵高制服を。

 それもヒラヒラで、フリフリな――まるで理子が着ているような改造制服を着ているのだ。

 

「来ちゃったんだね、カイト」

 

 少しだけ悲しそうな表情を作ってから……ベリベリッ。

 顔を覆っていた、薄い覆面(マスク)のような特殊メイクを剥がしていく……

 探偵科の十八番の、変装道具だ。

 

「――理子、だと!?」

Bon soir(こんばんは)

 

 くいっ、とカウンターに置かれていた青いカクテル――スカイ・ダイビングを飲み、ぱちり、とオレにウィンクしてきたのは、やっぱり理子だった。

 ……あまりに予想外な展開に、オレは軽く目眩を感じてしまう。

 理子が、武偵殺し……だって? 冗談がキツいぞ、理子……!

 

「――さて。アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも……お前の一族は特別だよ、オルメス」

「――!」

 

 ――オルメスという単語に、アリアは感電したかのように身を硬直させた。

 

 その家名には聞き覚えがある。

 理子が前に、口にしていた名前だ。

 ホームズのフランス語読み……

 さっきの『Bon soir(こんばんは)」もフランス語だった。

 

「あんた……一体……何者よ……!」

「くふっ」

 

 眉を寄せたアリアに、理子がいつもの笑いを浮かべる。

 

「理子・峰・リュパン四世――それが理子の本当の名前」

 

 ……フランスの、大怪盗。

 探偵科の教科書にも載っているほどの有名人。

 理子は、アルセーヌ・リュパンの曾孫だって言うのか……!

 

「でも……家の人はみんな理子を『理子』とは呼んではくれなかった。お母さまが付けてくれた、このかっわいい名前を……。呼び方が、おかしいんだよ」

「おかしいだって……?」

 

 オレが思わず言葉を漏らしてしまう。

 

「4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで……理子を呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ」

「――そ、それがどうしたってのよ……4世の何が悪いってのよ……!」

 

 それは禁句だ。

 オレには、わかる。

 かつて、オレも似たような立場にいたからこそ、オレにはよくわかる。

 

「――悪いに決まってんだろ!! あたしは数字か!? あたしはただの、DNAか!? あたしは理子だ! お母さまが名付けてくれた、この名前があたしだ! 数字なんかじゃない!! どいつもこいつもよォ!」

 

 案の定、キレた理子が――

 どこか、オレたちではない、どこかに怒りを露わにしていた。

 

(ひい)お爺さまを越えなければ、あたしは一生あたしじゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイー・ウーに入って、この力を得た――この力で、あたしはもぎ取るんだ――あたしをっ!」

 

 それはまさに理子の心の叫び。

 まるで話を理解できていないキンジと、深刻な面持ちで話を聞いているアリア、

 

「ま、待て。待て待て! お前は何を言っているんだ……!? オルメスって何だ!? イー・ウーって何だ!? 武偵殺しは……お前の、仕業だったのかよ!?」

「……『武偵殺し』? ああ、あんなのは」

 

 じろっ、と理子がアリアを一睨み。

 

「序章を兼ねたお遊びよ――本命はオルメス4世――アリア、お前だ!」

 

 まるで獣のような瞳で、アリアを睨む。

 その姿は、いつもの理子の可愛らしさなんて微塵も残っていない。

 いや、理子はきちんと可愛いけども。

 

「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けで終わった。つまり、オルメス4世を(たお)せば、あたしは曾お爺さまを越えたことを証明できる。キンジ……お前もちゃんと、役割を果たせよ?」

 

 獣の瞳が、今度はキンジを捉える。

 

「オルメスの一族には一体となるパートナーが必要なんだ。曾お爺さまと戦ったオルメスには、優秀なパートナーがいた。だから条件をあわせるために、お前をくっつけてやったんだよ。想定外もあったけどさ」

 

 そして、今度はオレに向けられる。

 ……想定外ってのは、オレのことかよ。

 もしかして、オレって手違いで巻き込まれたの……?

 いやいやいや、ありえんだろ。それはさすがに。

 

 ……ないよな?

 

「俺とアリアを、お前が……?」

「そっ」

 

 オレが困惑している間にも、理子の話は続いていく。

 

「キンジのチャリに爆弾を仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげたの」

「あたしが『武偵殺し』の電波を追っていることに気が付いていたのね……」

「そりゃ気付くよぉー。あんなに堂々と通信科に出入りしてたらねー。でも、キンジの方は乗り気はじゃないみたいでぇ……バスジャックに協力させてあげたんだぁ」

 

 ――キンジのチャリ。

 その言葉に、オレは一つの答えに辿り着く。

 オレが乗っていた電動ロードバイクはキンジもたまに乗っていたのだ。

 つまり、キンジがどのチャリに乗るのかがわからなかったため……オレの方にも仕掛けられていた、というわけか。

 

 もう決めたぞ。次のチャリは絶対にキンジは乗せねぇー!

 

「バスジャックも……!?」

「カイト、キンジーぃ。武偵はどんな理由があっても、人に腕時計を預けちゃダメだよ? 狂った時計を見たら、チコクしちゃうぞー?」

 

 ――そのことにも心当たりがある。

 オレは、理子の手によって腕時計を壊された。

 もちろん、オレは戻ってきた時計が狂ってたんで、時間を戻した。

 

 ――そう、キンジの腕時計でな。

 

 いや、今考えればアホかと思う。

 オレが悪いんだろうな、これは。

 でもよォ……まさか、ここまで運命のイタズラのような感じでハマっていくとさァ……

 

 さすがにキレそうになるってもんだ。

 

「何もかも……お前の計画通りだったってワケかよ……!」

「んー。そうでもないよ? カイトに関しては完全に事故みたいなものだしぃ、キンジとアリアがくっつききらなかったのは、予想外だったのです。理子がやったお兄さんの話を出すまで動かなかったのは、意外だった」

 

 ……いま、ハッキリと事故って言ったな。オイ、ぶっ飛ばすぞ。

 

「……兄さんを、お前が……! お前が……!」

 

 オレが変な部分で激昂していると、キンジが理子の挑発じみた発言に乗せられている。

 仕方ねぇな。ここはオレがキンジに変わりに怒ってやるよ。まだ通常モードのキンジに代わって、な。

 

「……キンジ。挑発なんかに乗るな」

「これが落ち着いていられるかよ!」

「――黙れよ。理子が本当にお前の兄貴を殺したんだとすれば、今のお前には絶対に勝てない」

 

 キンジよりも前に進み、片手で飛び出さないよう制する。

 

「だからって……ッぅ!」

「あー、本当に面倒くせえな」

 

 そのまま振り返り、武偵殺しの自称する理子を前にしても無防備な腹に向かってボディーブローを叩き込む。

 

「カイト……あんたなにやってるのよ!」

 

 オレの行動に、アリアが怒りを露わにする。

 

「今のキンジは冷静さを欠いてる状態だ。しかも、実力に差がある状態で突っ込もうってするのはバカのすることだ。だから、少しだけ落ち着いてもらった」

 

 そこに少しだけ私念がないか、って言われれば微妙だが……

 まあ、少しは落ち着けただろう。

 

「なあ、理子」

「なにかな、カーくん」

「オレは、部外者ってことでいいのか?」

「――そうだよ。お前は本来なら、この場所にいなかったはずの存在だ。端役(エキストラ)なんだよ、カイト」

 

 だから、お前はお呼びじゃない。

 とでも言いたげな態度で、理子が言う。

 よーく、わかったぞ。

 

 つまり、あれだな?

 オレはお前に八つ当たりする権利があるってことだよなァ?

 

「――は。ハ、ハハ。お前よォ、人を勝手にこんな空の監獄まで招いておいてさァ、そりゃねえだろ」

「…………」

「だから、オレは勝手にやるよ」

 

 ジャキッ、とホルスターから二丁拳銃を抜いた。

 今度は手加減なしの本気モードで行く。

 出し惜しみはなしだ。

 

「覚悟しろよ、リュパン4世様?」

「その名前で呼ぶなァァァァ!」

 

 オレの露骨な挑発に、まるで挑発に乗ったかのような感じで飛び出してくる。

 だが、それは挑発に乗った振りだ。少しはイラっとはしてるのかもしれないが。

 さすがは理子だ。嫌いな呼び名で呼ばれたからといって、冷静さを欠いたりはしない。

 

 地面を力強く蹴り、今度は一気に間合いを詰める。

 ストライクガンの適正は超至近距離での近接格闘戦だからだ。

 つまりは、弾丸を発射できる打撃武器。

 

 理子が持つのは、オレのよりも小振りな拳銃であるワルサーP99。

 先の件で既に2発撃っているから、装弾数は14発だろう。

 いや、最初から薬室に銃弾を込めていたとすれば……15発か。

 

「そういや、お前と戦うのも1年振りくらいだなァ!」

 

 そう、オレが最初に理子と戦ったのは――入学試験の時だ。

 キンジと対峙していて、完全にスイッチが入っていたオレは……理子のことを男が女を組み敷くかのようにして決着を付けている。

 だから、本気で戦えば、オレが勝つはずだ。

 

 だが――!

 

「お前、あの時は手を抜いてやがったな……」

「くふっ。実力は最後の最後まで隠しておくべきだよ!」

 

 バッ、ババババッ!

 

 お互いに銃口から火花を散らせながら、まるで剣舞(ダンス)を演じるかのような鮮やかなステップで射撃線を避け、躱し、腕を弾き、銃弾をぶっ放す。

 これが武偵同士の近接拳銃戦(アル=カタ)だ。

 

 そして、先に弾切れを起こしたのは――オレの方だ。

 引き金をカチッ、カチッ、っと露骨に弾切れをアピールしながら、弾倉を抜き落とす。

 その隙を見逃さない理子が撃とうとした瞬間、オレは更に間合い詰め――両脇で両腕を挟み込む。

 顔を少しだけ前に出すだけで、理子と熱いキス楽しめてしまうほどの至近距離。

 

「――アリア、キンジ!」

 

 そんな絶好のチャンスに、アリアとキンジの名を呼ぶ。

 オレの意図に気付いたアリアが、銃を構えながら近付いていく。

 

「そこまでよ理子!」

 

 キンジは赤く光るバタフライ・ナイフを片手に理子を囲むように立つ。

 

「まさかカイトが二丁拳銃(ダブラ)なんて驚いたなぁ……」

「人の前ではあんまり見せてなかったしな。それに両手が塞がるの不便だろ?」

「カイトもアリアと同じく双剣双銃(カドラ)を目指したら?」

「剣は苦手だ」

 

 時間稼ぎのつもりか、理子はオレと得にもならない会話を続ける。

 

「……あー、お前と会話してるのも悪くねぇが、いい加減に諦めて降伏しろ。諦めないってなら強引にキスするぞ? あ?」

 

 オレが理子の唇に顔を近付けながら、冗談めかして言うと……

 

「――え」

 

 理子はその言葉に顔を薄っすらと赤く染め、困惑したような笑みを浮かべる。

 左右の視線が痛いが、気にしない。

 

「やだなぁ……理子、本気にしちゃうよ――っ!」

 

 しゅる……しるるっ。

 理子の、ツーサイドアップの、髪が妖しくふわりと舞い上がっていく。

 まるで蛇のように、髪自体が独立した意志を持つかのような……

 

 シャ――ッ!

 

 理子の拘束を解き、その場から後ろに飛び退く……!

 

 ――ガギィィン!

 

 背中に隠していたと思われるナイフを、間一髪でストライクガンのマズルスパイクでもって防ぐ。

 理子が超能力(ステルス)持ちであることを事前に知っていたオレは、何とか防ぐことができた。

 

 シュ――ッ!

 

 だが、もう一方のテールに握られていたナイフが、鋭い風切り音と共に飛ばされる。

 

「うあっ……!」

 

 そのナイフはアリアの側頭部を掠めるように命中し、鮮血が飛び散った。

 真っ赤な、血が、血染花(けっせんか)のように咲き誇る。

 仲間がやられ、軽く動揺していたオレの隙を狙って、理子が見た目に似合わないほどの鋭い回し蹴りを放ってきた。

 

 ――ババババッ! 

 

「ち……ィッ!」

 

 理子が、懐に隠していたもう一丁の銃――ワルサーP99が火を噴いた。

 致命傷になりかねない部分だけを銃で庇って、滑り込むようにしてカウンターの中へと身を隠す。

 クソっ、思ったように動けねぇ……! 理子が、相手だからなのか?

 

「あは……あはは……! 曾お爺さま。108年の歳月は、こうも子孫に差をつくるんだね。勝負にならない。コイツ、パートナーどころか自分の実力さえ発揮できちゃいない! 勝てる! 勝てるよ! 理子は今日、理子になれるんだ! あは、あははは、はははは!」

 

 狂ったような笑い声を上げながら――

 恐るべき力を持った髪でもって、突き飛ばしたアリアの胸元に銃を撃ち放った。

 いくら制服が防弾だとはいえ、ほぼゼロ距離で打たれれば衝撃で肋骨が吹き飛んでもおかしくないぞ!

 

「アリア……アリア!」

「キンジ、アリアを安全な場所に連れて行け!」

「だが……!」

「いいから、行け! オレが時間を稼ぐ」

 

 そんなオレの言葉に、キンジはアリアを抱えてバーから抱えて走っていった。

 

「きゃははははっ! ねえねえ、こんな狭い場所からどうやって逃げるつもりなのかなぁ?」

「ふん……逃げる必要はない。ただ、あいつが無敵モードになるまで時間を稼ぐだけだ」

「無敵モード? ああ、HSSのことね」

「HSS……?」

 

 こいつ、キンジの力を知っているのか……!?

 

「でもぉ、まさかカイトもHSS持ちだとは思わなかったなぁ……誰でなったの?」

「……? よくわからないが、オレの力のことも知ってるのかよ」

「あはっ、とっても深いとこまで知ってるよ」

「あ、そう……まァ、知ってるってなら教えてやるよ」

 

 お前は、オレにこの飛行機のことも教えてくれたしな。

 

「――理子だ。お前以外に、いないだろうが」

「――えっ。え、あ……そ、そーなんだ」

「あ? どうした? お前が、オレを本気にさせたんだぞ? 喜べよ」

 

 なんか理子の様子が少しおかしい。

 顔も少し赤いし、瞳孔も少し開き気味だし、顔に発汗も見られる。

 ……まさかとは思うけどよ、さっきの酒での酔いが回ってきたのか?

 スカイ・ダイビングなんて度数の高い酒を飲んだ後に激しい運動をするからだ。

 

 理子のバカっぽさに緊張感が軽く解れる。

 いいぞ、もう少しだけ時間稼ぎをさせてもらおうか。

 

「……で、疑問なんだがよォ」

「……う、うん」

「お前、なんでオレに飛行機の情報をメールで送ってきたんだよ」

「……?」

 

 いや、そこで首を傾げられてもな。

 

「……何を言っている? 理子はそんなことしてないぞ」

「…………はァ?」

「お前が勝手に首を突っ込んできたんだろ。せっかく、眠剤(ミンザイ)まで打ってあげたのに。カイトってば人の親切を何とも思わないんだから」

 

 おいおい、ちょっと待ってくれ。

 オレにメールを送ってきたのは、こいつじゃないのか?

 じゃあ、誰なんだよ。

 

 ――オレを、こんな場所に引きずり込んだのは!

 

「まあ、いいさ。過ぎたことだしな」

「じゃあ、時間稼ぎも終わりだよ!」

 

 瞬間、オレはカウンターから勢いよく飛び出す。

 声の方向から、オレはおおよの位置は把握できている。

 銃を鈍器のように振り下ろす。

 

「甘いよッ!」

 

 それを髪がばしっ、と弾き上げる。

 髪のクセにバカみたいな怪力だな……!

 

 オレの残弾数は――0。

 予備弾倉は持ってきているが、込めていない。

 なぜなら、オレは勝てる見込みを感じていないからだ。

 相手が理子だったからか、オレの条件付きマル乗が……理子流に言えば、HSSが切れかけている。

 今でこそ対応できているが、完全に切れたら……オレは殺される。

 

 キンジの、兄貴のように……

 

「だから、お前に最後の技を見せてやるよ。見物料は――お前の心だ!」

 

 まるで怪盗のようなセリフで、オレは片方の銃をふわりと上に投げる。

 今からオレがやるのは、完全に曲芸の域だ

 もしかしたら、これだけでメシが食っていけるかもしれない。

 

 意識を集中させると、視界がまるでハイパースローモーションのように遅くなっていく。

 腰から素早く予備弾倉を取り出し、弾倉にセットされている銃弾を親指で2発分を弾き上げる。 

 銃弾2発と銃が宙を舞う中、理子が黙ってみているわけもなく――長い髪が襲いかかってくるのが見えた。

 

 ――だが、オレの方が早いッ!

 

 銃を思いっきり突き出し、勢いよく引き戻す……!

 すると、スライドが引かれた状態となり、ほんの一瞬、空っぽの薬室が見えるようになる。

 オレは先程弾き上げた銃弾を掴み、薬室の中に直接セットする――!

 後はスライドストップを押せば、いつでも銃弾を撃てる状態に。

 

 ――その間、0.4秒。

 

 そして、セットしたタイミングで手元に落ちてきた銃を掴み、セットした銃を上へ投げる。

 先程と同じ工程を、もう一度。

 

 ――合わせて、0.9秒。

 

 いまだ、1秒も経っていない。

 我ながら神業めいた動きだと思う。

 その証拠に、理子が驚いている。

 

「次の相手はキンジとアリアだ。オレは邪魔者らしく退散させてもらうぞ」

 

 カウンターを蹴り、豪華なシャンデリアの上へと。

 それを支えているチェーンをマズルスパイクで切断。

 

 ガシャァァァァン!

 

 大きな音を立て、シャンデリアが落下する。

 仄暗かったバーの灯りが完全に失われ、理子はオレの場所を見失う。

 だが、オレには見えている。

 理子の靴が、発信機に塗ってあった特殊な塗料によって光っているから。

 

 ――バァン! バァン!

 

 再装填(リロード)した2発の銃弾を、理子の足元に撃ち込む。

 その隙にオレはバーから一気に飛び出した。

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「バッドエンドの時間ですよー。くふっ、くふふっ」

 

 そんな陽気な理子の声が聞こえてきた。

 理子はアリアとキンジが潜むスイートルームの鍵を開け、侵入していく。

 両手には銃を携え、髪の毛には2本のナイフ。

 

「もしかしたら仲間割れして自滅しちゃうかなぁーなんて思ってたけどー、そうはならなかったみたいだから、ここで理子の登場でぇーす」

 

 そこで、理子が何かに気付いたような笑い声を上げた。

 

「あはっ。アリアと何かシたんだ? よくできるねぇ、この状況下で」

 

 ……オレは、息を呑む。

 あの後、無事に逃げ出せたんだが……狭い飛行機の中に逃げ場はなく、キンジたちのいる部屋に駆け込んだ。

 キンジはHSSとやらになっていたみたいで、顔を見るだけで強くなっていることがわかった。

 たぶん、かなり強烈なヤツだ。

 既にHSSが切れているオレでもわかる。

 

(……キンジも、オレと同じタイプなのかもしれない)

 

 生存本能を強く刺激されることで、身体が活性化される。

 キンジもこの状況下に死の恐怖を感じとったのだろう。

 

 そして、オレは冷蔵庫の中に隠れている。

 バレないように電源を付けた状態で入っているから、めちゃくちゃ寒い。

 外の様子はキンジの胸ポケットに仕込んだカメラ映像から。

 

「で、アリアとカイトは? 死んじゃった?」

 

 髪のナイフをベッドの盛り上がりに向ける。

 あからさまなダミー。

 

「さあな?」

 

 今のキンジは完璧なポーカーフェイスになっているだろう。

 まったく、頼もしいぜ。

 

「ああ……その眼……いいよ、最高だよキンジ。勢い余って殺しちゃうかも」

「そのつもりで来るといい。じゃなきゃ、お前が殺される」

 

 理子は瞳を細め、キンジに拳銃を向けてきた。

 

「――(さい)(こう)だよ、キンジ。見せて、オルメスの、パートナーの力」

 

 引き金を引こうとした、理子に。

 キンジは、ベッドの脇に隠していた酸素ボンベを掲げる。

 

「――!」

 

 撃てば爆発する。

 お互いに。

 その一瞬の思考が、理子の手を緩める。

 

 ……その一瞬で、今のキンジには十分だった。

 

 ボンベを投げ、理子に飛びかかる。

 先の件でもわかる通り、男と女で体格に差がある場合――キンジの方が圧倒的に有利だ。

 キンッ! とキンジが折りたたんであったバタフライ・ナイフをを開く。

 

 その瞬間、飛行機が揺れた。

 

「うっ!?」

 

 完全に予想外な揺れに、キンジがバランスを崩す。

 斜めに傾いた部屋の中で、理子だけが自然体でいた。

 そして、キンジの額に向かって引き金を――絞った!

 

 この姿勢では完全に避けられない。

 絶対に、避けられない……!

 思わず飛び出そうとした時――

 

 ――ガギィィィィンッ!!

 

 キンジが、弾丸を銃弾を斬った。

 弾丸斬り。普通ではありえない技を前に、変な笑いが出そうになる。

 

(……さっきの、オレの技も自分ですごいと思っていたが、キンジの方が何倍もすごい)

 

 まさに神業だ。

 

「動くな!」

「アリアを撃つよ!」

 

 キンジがアリアから借り受けた黒のガバメントを構え、

 形勢不利を感じとった理子がシャワールームにワルサーP99を向ける。

 

 だが、そこには――!

 

 ガタンッ!

 

 誰もいない。

 本当に隠れていたのは、天井の荷物入れだったからだ!

 

 ガンガンッ!

 

 理子の左右のワルサーを、精密に弾き落とした。

 

「……!!」

 

 さらにアリアは空中で銃を手放し、目にも留まらぬ早さで日本刀を抜き放つ。

 

「――やぁっ!」

 

 抜刀とともに、理子の左右のツインテールが切り落とされる、

 ばさっ、ばさっ。

 触手として機能を持っていた髪が落とされたことで、ナイフもまた同様に落とされる、

 

(……よし、今だ!)

 

 オレは既にモードが切れかけているが、それでも加勢する。

 数が多いに越したことはない。

 

「理子……いや、武偵殺し! 覚悟してもらおうか」

「……っ」

 

 ここにきて、初めて理子が焦りの表情を浮かべる。

 

「峰・理子・リュパン4世――」「殺人未遂の現行犯で逮捕するわ!」

 

 キンジとアリアが、完全に息のあった動作で黒と銀のガバメントを向けた。

 オレも、いちおう二丁のガバメントを向ける。

 

「そっかぁ、ベッドにいると思わせて、シャワールームにいると思わせて――どっちも、ブラフ。本当はアリアの体格を活かしてキャビネットの中かぁ……しかも、カイトが冷蔵庫の中にいるなんてね……完全に予想外だよぉ」

 

 ……まあ、電源の入った冷蔵庫に。

 しかも飛行機に備え付けてある小さい冷蔵庫に人が入ってるなんて、普通は思わないよな。

 おかげで身体がめちゃくちゃ痛てぇし。

 

「3人とも、誇ってもいいよ。理子、ここまで追い詰められたのは初めて」

「追い詰めるも何も、チェックメイトよ!」

「ぶわぁーか」

 

 負け惜しみのつもりか、理子がそう言うと……

 切られたはずの髪が……もこもこっと全体的に蠢く。

 

「やめろ! 何をしている!」

 

 キンジが捕らえようとした瞬間、飛行機が再び揺れた。

 今度のはさっきよりも大きい。

 立っているのも難しいくらいだ。

 

「ばいばいきーん」

 

 次の瞬間、理子は何事もなかったかのようにスイートルームを飛び出していた。

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「……どこに逃げるつもりなんだよ」

 

 銃を向けながら、オレがそう言うと……

 

「くふっ、カイト。それ以上近付かないほうがいいよー?」

 

 にい、と白い歯を見せながら理子が笑う。

 その背後には理子を囲むようにして、粘土状のもの――おそらくは爆弾が貼り付けられている。

 

「ご存知のとおり、『武偵殺し(ワタクシ)』は爆弾使いですから」

 

 オレが近づくのをやめたのを見て、理子はスカートをちょこんとつまんで少しだけ持ち上げ、慇懃無礼(いんぎんぶれい)にお辞儀してきた。

 こういうのを絶対領域って言うんだったか? 

 などと場違いな感想を抱きつつ……

 

「ねえ、キンジ。この世の天国――イ・ウーに来ない? 1人ぐらいならタンデムできるし、連れて行ってあげられるから」

「――理子。オレはイ・ウーに関して詳しくは知らないが、それって犯罪組織なんだろ? オレは武偵なんだよ。武偵である以上は武偵法9条を守らなきゃいけない」

 

 武偵法9条とは。

 武偵は如何なる状況に()いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない。 

 

「あ。それは困るなー。キンジには武偵のままでいてもらいたいしー」

 

 理子は軽くウィンクしてから、身体を抱きしめるようにして――

 

「じゃ、二人にもよろしく伝えておいてね。あたしたちはいつでも、3人を歓迎するから」

 

 ――ドゥゥゥゥンッ!

 

 いきなり、背後の爆弾を爆発させた……!

 壁に大きな穴が空き、理子はその穴から飛び出ていった。

 パラシュートもなしに。

 

「りっ……!」

 

 オレも一瞬に飛び出そうとして、足が竦む。

 室内の空気が一気に吸い込まれていき、軽いブラックホールのような現象が。

 

 ……いや、諦めるのか?

 

 オレなら、できるはずだ……!

 

「理子ォォォォォォ――ッ!!」

 

 その流れに乗って、オレも勢いよく――飛び出した!!

 もしかしたら、死ぬかもしれない。

 その恐怖が、オレに力を与える。

 

(……理子なら、理子だったなら――絶対に無策で外に飛び出したりはしない)

 

 冷静になっていく頭で分析しながらも、オレの中で不安が募っていく。

 

「……ッ!」

 

 いいや、後のことは後で考えよう。

 オレは理子を信じるだけだ。

 

 

 ――さあ、これが最後の勝負だ……!

 

 オレを見捨てるのか、

 それとも、オレを助けるのか……!

 

「オレを舐めるなよぉぉぉぉ、理子ぉぉぉぉ!」

 

 激しい風、激しい雨、激しい雷鳴。

 その何もかもに飲まれながらも、理子の名前を口にする。

 

 そして、オレは視界の片隅で希望を見た。

 それに向かって、オレは手を伸ばす――

 

「――理子。お前なら、絶対に見捨てないって信じてたぞ」

「――ば、ばかでしょっ!? カイトってば本っ当にバカでしょ……ッ!」

「そうかもしれないが、武偵殺しのクセにオレを見捨てなかった……お前も、同じくらいバカだろ」

 

 ……ていうか、東京上空で下着姿ってお前なあ。

 あのヒラヒラでフリフリな改造制服は、簡易的なパラシュートになっていたんだ。

 そうじゃければ、こんな場所に身を投げ出したりはしないだろう。

 

 ――シュゴォォォォ……ッ!

 

 雲の間から2機のミサイルがキンジたちの乗る――ANA600便を襲う。

 

「……あれもお前の仕業か」

「うん」

 

 素直に返事をされてもなあ……

 

「……っ」

 

 そう思った時、オレの視界が滲み始めた。

 おまけに意識が遠ざかってる気がする……

 これは、睡魔か……?

 

「…………理子」

「どこか怪我でもしたの?」

「…………ね、むい」

「ええっ!!?」

 

 抗いがたい強烈な眠気を感じ、オレは落ちないように理子の身体を強く抱き締めながら……

 深い眠りへと落ちていった……




 今回の話は勘違いに勘違いを重ねてる……
 勘違い物の作品っぽくなってる件について。
 
 色々とツッコミはあるかと思いますが、『EpisodeⅠ武偵殺し編』は次回で終了です。


 ちなみに理子が飲んでてたスカイ・ダイビングは度数30度超えのカクテルですので、激しい運動をする前は控えましょう。
 あと、眠剤に関してはアドレナリンの過剰分泌で効果が抑制されていただけで、別に薬が効かなかったわけじゃあないです。

 ……じゃあ、もうひとつだけ。
 主人公が使った技ですが……キンジの弾丸斬りに比べたら、まだ人間業だと思うんですよね。カイトにも何かかっこいい(?)技を使わせたかったんです。
 あれをする意味があったのか、という疑問は……まあ、

 では、このへんで。

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