緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾   作:白崎くろね

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EpisodeⅡ 銀氷の魔女
第13弾 アドシアード


 あの後に何があったのかと言われれば、予想外の誤解的発言から有耶無耶になったというのが正しい。

 そもそも事の発端はキンジを中心とした痴情のもつれが原因であり、暴れるだけ暴れた末に冷静になったアリア&白雪コンビがキンジに『どうなのよ!?』とばかりに問い詰めた結果――ホームズ家の性教育の低さが露呈した。

 

 露呈したというか学ぶまでもなく高校生ならば誰でも理解していてもおかしくはない事実をアリアは知らなかったのだ。もちろん、あの場にいたオレたちは普通に理解している。だからといって懇切丁寧に説明できるわけもなく、あの後は気まずい雰囲気のまま解散となった。

 いやまあ、まさか『キスをしたら子供が出来る』と思っていたとはね。理子辺りならオブラートに包んだ上で説明してくれたんだろうか? 流石の理子でも困惑の表情を隠せなかったかもしれないな。

 

 それから何日か経ったある日の昼休み。

 

「黒崎くん。隣に座ってもいいかな?」

 

 がやがやと騒がしい食堂で、オレがカルボナーラを、キンジがいつものハンバーグ定食を、アリアが持ち込みのももまんを食っていたら、男相手でも笑顔が爽やかな男が話しかけてきた。

 そいつの名前は不知火(しらぬい)(りょう)

 バスジャック事件の時にもお世話になったクラスメイトで、一年の頃はよく武藤や不知火とキンジとでパーティーを組んでいた。

 武偵ランクは文句なしのAランク武偵。このAランク自体は突出した才能があればなれるのだが、不知火の場合は優秀なバランス型。格闘・ナイフ・拳銃・運転・諜報、そのどれもが信頼の置ける実力を持っている。

 拳銃はLAM(レーザーサイト)付きのH&K社製SOCOMと安定感抜群だ。やはり顔が良い男は才能にも恵まれるのだろう。

 

 不知火はクラブサンドを乗せたトレーをテーブルに置いた際に僅かながらにズレたオレのトレーを、丁寧に修正する。ごめんよ、と小さく会釈することも忘れない。ほんと、イケメンだよお前は。

 

 ……余談だが、不知火はとてもモテる。

 

 気配りもできて顔もイケメンで武偵としても申し分ないんだから、モテるに決まっている。オレみたいに影でコソコソと盗撮写真で稼いでいるような諜報科の日陰者とは違う。

 だが不思議なことに、カノジョもいなければ作る気もないらしい。たまにキンジを見る目が怪しいからホモの可能性も高いのが非常に怖いところだ。まあ標的がオレではないので問題はない。

 

「聞いたぜキンジ。ちょっと事情聴取させろ。逃げたら轢いてやる」

 

 その一方でキンジのトレーを押しのけるようにしてトレーを置いてきたツンツン頭は、武藤(むとう)剛気(ごうき)

 車輌科(ロジ)の腕っこきで、乗り物に類するものなら汽車から原潜まで何でもござれな乗り物オタク。

 こっちもバスジャックの件ではお世話になったし、格安で電動ロードバイクを元値25万を5万で売ってくれたいいヤツ。

 

 ちなみにコイツの武器は不知火とは違って最悪で、メンテが楽だという理由だけで選んだ回転式弾倉(リボルバー)のコルトパイソン。装弾数も少なければ、消音器(サイレンサー)も付けられない。まったく武偵に向いていない武器である。

 

 なお先の言動でもわかる通り、剛気はモテない。

 一途にも想いを寄せている相手はいるが、キンジのせいで報われないことも確定している。

 何とも可哀想なヤツだ。

 

「事情聴取ってなんだよ……」

「お前、星伽さんとケンカしたんだって?」

 

 ……情報が早いな。

 まあ、こいつの場合は武偵特有の情報収集能力ではなく、単に白雪のことを目で追ってしまうからだろう。

 

「星伽さん落ち込んでたみたいだぞ。どうしたんだ」

「白雪とは何も……っていうか武藤。白雪を見かけたのか?」

「今朝、温室で花占いしてたのを不知火が見たって言うからよ」

「なんだよ花占いって」

「ポピュラーじゃないか」

 

 不知火が穏やかな笑みを浮かべながら言う。

 

「しらねーよ。アリア知ってるか?」

 

 キンジが聞くと、アリアは「知らない」という感じで首をふるふると振った。

 アリアが大人しいのには理由がある。

 それはももまんを食っているからだ。こいつはももまんを食っている間だけは異様に大人しい。

 

「ポピュラーつっても10年以上も前の話だけどな、流行ってたのは」

 

 少なくとも流行っている類の占いではない。周りで花占いをしているって情報を聞いたのもこれが初だ。

 まあ、一部のヤツは母親や父親に聞いて知っていたかもしれんが、現代の若者の認識としてはキンジが正しいと言えなくもない。

 

「そうなのか?」

「ああ。花の花弁をちぎっていって、スキ・キライ・スキ……ってやっていくやつだよ。大和撫子を地で行く白雪にはピッタリな占いだと思うけどな」

 

 それを聞いて、キンジは納得したような顔をする。

 

「僕に見られているのに気付いたのと、1時間目の予鈴がなったのとで……占い自体は中断してたみたいだけど。なんか涙目だったよ? ……振っちゃったの? 愛がなくなったとか?」

 

 うぎゅっ、とアリアがももまんをノドに詰まらせたかのような音が聞こえてきた。

 愛って言葉に動揺したのだろう。アリアらしい反応だ。

 

「お前なぁ……愛って言うけどな、そもそも俺と白雪はそんな関係じゃない。ただの幼馴染だ」

「幼馴染、か。言い訳の言葉としてはちょっと普通すぎるかな。噂では神埼さんと付き合い始めて、その事実を知った星伽さんが発砲したって話だよ。だから僕の推理では遠山くんを巡って、神埼さんと星伽さんが決闘したって説が有力かな。だって神埼さん強襲科でも遠山くんの話を高頻度でしてるもんね。それも楽しそうに」

 

 さすがは不知火だ。その推理はほとんどが的中している。

 アリアとキンジが付き合い始めたってのはチームのことだし、それを知って白雪が発砲したってのも武偵流に言い換えればそのまんまだ。

 

 ……もきゅ、もきゅ、ごくんっ。

 

 アリアはちょっと不思議な音を立てながら、ももまんを飲み下し、

 

「こ、ここ、このっ――ヘンタイ!」

「ぐおっ!?」

 

 キンジの顔面にアリアのストレートがヒット!

 

「ハッキリ言っておくけどねっ! あ、あたしが白雪を追い払ったのは、やっ、ヤキモチとかなんかじゃないんだからね! あたしとキンジはパートナー! スキとかそういうんじゃないの! 絶対、絶対、ぜっ――たい、にそれはない!」

 

 そんな全力で否定するから怪しいんだよ。

 

「へぇ、そうなんだ。じゃあ星伽さんとも復縁する可能性もあるってこと?」

「復縁って何だ復縁って。ていうか不知火。さっきの話だがな――白雪は今朝の予鈴の時には、俺と一般校区の廊下で出くわして挨拶もせずに女子トイレへ逃げられてんだよ。だからな、お前の見たっていう白雪は見間違いだ。それに仲直りするかしないかなんて、お前の個人的意見なんて求めてないだろ」

「そういえばそうだったね。ごめんよ」

 

 ニコッ、と爽やかな笑みで謝ると、それ以上は追求しなかった。

 

 いや、しかし。どういうことだろうか。

 あの不知火が白雪を見間違える? そんなことがありえるのか?

 そもそも白雪は学内でも目立つ部類の武偵だし、白雪並の美人なんて学内にそうはいない、はずだ

 そんな白雪を不知火がはたして見間違えるだろうか。

 

 ――そもそもの話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 赤面するだとか気まずそうに目を逸らすだとか……そういう行動を取るのが白雪という人間ではないか?

 

「そういえば不知火」

 

 そんなことを俺が考えていると、キンジが話題を変えた。

 

「お前、アドシアードはどうする。代表に選ばれてるんじゃないのか?」

 

 そういや、もうそんな時期か。

 

 ――アドシアード。年に一度行われる武偵高の国際競技会で、簡単に言えばオリンピックのようなもの。

 まあ武偵高らしく普通の競技からはかけ離れており、些か物騒な競技が強襲科や狙撃科の面々で行われるのだが。

 

「たぶん競技には出ないと思うよ」

手伝い(ヘルプ)か。何にするんだ? 何かやらなきゃいけないんだろ、手伝い」

「まだ未定でねえ、何にしようか」

 

 と、これまた女子を堕としかねないアンニュイな表情でため息をつく不知火。

 その反対では武藤が焼きそばパンを全力で頬張っている。麺が、一部口から生えている。

 

 俺は最後のパスタをスプーンとフォークで綺麗に巻きながら、ゆっくりと口にした。

 

「カイトとアリアはどうすんだ。アドシアード」

「あたしも競技には出ないわよ。拳銃射撃競技代表に選ばれたけど辞退した」

「あー、俺はそもそも選ばれてすらいないな。だから必然的に手伝いだ」

「なるほど。で、何の手伝いをするか決めてるのか?」

「……適当」

「あたしは閉会式のチアだけやる」

「チア……? ああ、アル=カタのことか」

 

 アル=カタとは、イタリア語の《武器(アルマ)》と日本語の《型》を組み合わせた造語。ナイフや拳銃による演武をチアリーディング風に改良したパレードのこと。それを武偵高(うち)の女子連中はチアと呼んでいる。世の中には物騒なチアガールもいたもんだぜ。物騒なだけに武装チアガールってな。なんでもないです。

 

「キンジ、カイト。あんたたちもやりなさいよ」

「あ、ああ……」

「別にいいぜ」

 

 女子がチア衣装で演武を踊る一方で、男子は後ろでバンドを演奏するのだ。

 俺は大体の楽器は人並み程度には演奏出来るし、問題は特にない。

 

「音楽、か。得意でも不得意でもないし……この際、それでいいか」

「あ、遠山くんたちがやるなら、僕もそれにしようかな。武藤くんもやろうよ」

「バンドかぁ……カッコよさそうだし、やるか!」

 

 ……単純だな、武藤。

 

「ていうか、アリア。どうして競技を辞退したんだ? 競技で貰えるメダルは持っているだけで人生がバラ色コースの名誉品だぞ。それにアリアなら余裕だろ」

 

 と、オレがそう言うが……

 

「そんな先のことはどうでもいい。あたしには今やらなきゃいけないことがある。そんな競技の練習をしているヒマなんてないわ」

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 

 その決意に溢れる言葉には、心当たりがあった。

 アリアの母親、かなえさんを助けるためだ。

 今後、アリアは数多の犯人を相手にしなければいけないのだ。そうしなければ、母親を救うことができない。

 

 そして、俺は逃した理子を追いかけるためにも……

 

「アドシアードなんかよりも」

 

 話を続けたアリアは、腕組みをしながら状態を僅かに逸らす。

 

「キンジ、あんたの調教の方が最優先よ」

「ちょ、調教……っ? お前ら、ヘンな遊びをしてるんじゃないだろうな……?」

 

 武藤が心配そうな顔で言う。

 ごもっともである。

 想像力豊かな青少年ならば、いかがわしい妄想をしてしまっても不思議ではない。

 俺は既に事情を知っているので、特に感じないが……それでも淑女なら言葉に気を遣ってほしいものだ。

 

「白雪と似たようなことを言うな武藤。あと、アリア……せめて訓練って呼んでくれ」

「うるさい。ドレイなんだから調教で十分よ」

 

 うーん、性知識が疎いからこその発言だなこりゃ。

 キンジもキンジでそこら辺の知識は薄いし、色んな意味で危険な発言だ。

 

「ごちそうさまでした……俺はちょっと野暮用で諜報科(レザド)の教室に行ってくるわ」

「あんたも朝練するのよ朝練!」

「ドレイへの調教ならキンジ一人で十分だろ。――じゃあな」

 

 俺も一緒に巻き込まれるのは面倒だったので、用事ついでに素早く離れることに。

 悪いな、キンジ。アリアの相手は任せたぞ。

 

 カルボナーラの食器を返却口に返し、俺は食堂を後にした。

 

 

 

 




お久しぶりです。
前回のお話から随分と間が空いてしまいましたが、更新再開いたします。
既に内容を覚えていないかもしれませんが……

では、今回はここら辺で失礼いたします
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