オレはとある調査のために朝早くから学校を訪れていた。
調査といっても、正式な依頼を受けた
昨日、昼休みにキンジたちと別れてから、オレは一人で聞き込みを行っていた。
内容は星伽白雪の目撃情報。
オレの思い過ごしならば問題はないのだが、あの不知火が見間違えたという白雪の姿がどうしても脳裏を離れてくれなかった。
――不知火が人を見間違えるはずはない、と。
そんな些細な情報だったが、聞き込みによって一つの事実が発覚したのだ。
「……まさか学内に白雪が同時に二人も出没しているとはな」
オレが直接見たわけではないが、目撃証言によると確実に白雪が二人存在している時間帯があった。
白雪が分身している可能性もなくはないが、その可能性は限りなく低いだろう。というか分身なんて出来んだろう。
あるとすれば、それは――
「変装、か」
変装という単語で一瞬だけ、理子の顔を浮かんだ。
まさかとは思うが、理子がこの件に関わっているのか?
理子は変装術の達人(ハイジャック事件の時に知った)だ。この程度の変装は造作もないだろう。
――だが、しかし。
「理子がそんな下手なことをするか?」
そう、そうなのだ。
理子は武偵殺しとして数々の事件を引き起こしてきた。が、その事件はつい先日まで誰も真相に辿り付くことができない未解決事件として扱われるほどの手際だ。
そんな理子が、こんなミスをするだろうか? 可能性としては事実に気が付いた人物をあぶり出すために穴を開けたという可能性もあるにはあるが……その可能性は限りなく低い。
「……じゃあ、いったい誰が」
とりあえず、今は謎の人物ということにしておこう。
変な先入観は調査する上で枷になるからな。
「さて……っと」
そろそろ、時間だ。
オレが調べた情報によれば、白雪はもう少しで登校してくるはずだ。
――午前7時30分、ジャスト。
白雪が校門までやってきた。本当にピッタリだ。
さすがは優等生ってとこだな。
後は今日一日中、誰にもバレずに見守るだけ。
もしかしたら、オレの瞳に映っている白雪が既に偽物の可能性もあるが……
「まあ、それはそれだな」
こうして、オレの1日は始まった。
◆ ◆ ◆
「………………はあ」
愛用の手帳に今日一日の行動を書き込みながら、オレは人に聞こえないように小さく嘆息する。
残念なことに白雪が二人存在しているという謎の手掛かりを掴むことは出来なかった。
どうしたもんか、と悩みながら廊下で尾行を続けていると……
『 生徒呼出 2年B組 超能力調査研究科 星伽白雪 』
という珍しい連絡が掲示板に張り出されているのを見つけてしまった。
あの白雪が先生から名指しで呼び出されるだなんて、意外にも程がある。
「……オレが独断で調べている件と関係しているのか?」
非常に気になる。
尾行は中止にしようかと思ったが、せっかくだし今日一日は尾行に費やすとしよう。
諜報科の仕事とは少しばかり離れ、探偵科のような感じになっているが些細な違いだ。
オレたち武偵は時に探偵となり、時には諜報員となり、最終的には強襲や狙撃といった仕事でさえ受ける『何でも屋』なのだからな。
――よし、盗聴するか。
オレは諜報科の生徒であるため、常に盗聴するための道具を持ち歩いている。
それを内ポケットから取り出し、耳に装着した。
こいつは少しばかり特殊な集音機で、特定人物の声だけを抜き出すことができるという代物だ。
前に装備科の連中から仕入れたモノだが、これが中々に優秀で諜報科の依頼では欠かせない存在となっていた。
「さて、白雪の声は尾行の時に登録してあるから問題ないとして……」
問題は呼び出した先生の声だ。
掲示板の文字は特徴がないから先生の特定は不可能だし……
「非常に面倒だが、周囲の声を全て盗聴するか……?」
オレは聖徳太子じゃないし、複数の声から特定人物の声だけを聴き分けるのは苦手なんだが……この際、仕方がない。
集音器のダイヤルを回し、特定人物の集音から一定範囲内の集音へと
……ジ、ジジ……ッ、ジ……ィッ……
瞬間、押し寄せる声や雑音に環境音。
その全てが頭の中へと流し込まれ、まるでオレの中に周囲の人間全てが収められたかのような騒がしさ。
――談話の声、言い争う男子の声、射撃の音、衣服が擦れる音、激しい呼吸音、足音、扉の開閉音、カラスの鳴き声、電子音、振動音、風切り音、叫び声、爆発音、雑音、獣の声――
その全てがオレには聞こえていた。
「……ぅ…………」
正直、聞いていて気分の良い音ではない。
多すぎる情報がオレの耳を、頭を破壊しようとしているような感じ。
さっさと目的の声を探し当ててしまおう。
『…………失礼します』
……これは、白雪の声か。
『匍匐前進速いな』
……これは、キンジの声だな?
『……強襲科の女子で一番速いわ』
……これは、アリアの声だ。
意外と近くに二人がいることに驚きながら、二人が音の響くような場所にいることに気が付いた。
あいつら何やってんだ……?
『……星伽さんが呼び出しって何やらかしたんだろうね?』
『さあ? キンジと何か問題起こしたんじゃない?』
……違う。
『甘いな、攻撃の瞬間に目線が狙う場所を教えているぞ』
『……難しいですね、攻撃する場所を見ないで当てるのは』
……これも、違う。
『……
ようやく白雪の声を聞き取ることに成功した。
魔剣……? 今回の件はそいつが関わっているのか?
ちっ、話の前後は聞き取れなくてどういう会話なのかがわからん……!
魔剣は超偵ばかりを狙う犯罪者で、諜報科の情報では狙われる可能性の高い人物として白雪の名が、調査報告書に挙がっていた気する……
『それはありません、と言いますか……もし仮に魔剣が実在していたとしても、私なんかじゃなくてもっと大物の超偵を狙うでしょうし』
そんなことはないぞ、白雪。
……じゃなくて、白雪が誰かと会話をしているということは、その後に続く声が先生の声だ。
オレは更に意識を集中させた。
『アンタは
……この声は尋問科の綴!?
げっ、マジかよ。この人が白雪と会話してるのかよ。
ま、まあ……特徴的な喋り方だし、知ってる先生だから聴き分けやすいけどさぁ……
『星伽、
間の言葉が雑音でかき消されてしまったが、何とか言葉は聞き取れた。
要は白雪は危険だからボディガードを雇え、と教務科は言いたいのだろう。
……だがまあ、オレにとっては非常に都合が良い。なんてったって、隠れるまでもなく調査が堂々と出来るのだからな。これほど都合の良い展開はないだろう
オレは集音器を外し、教務科の扉を勢い良く開け放つ。
と、同時――ガシャンッ! という音と共にオレと誰かの声が重なる。
『――そのボディガード、
オレの言葉に被せるようにして聞こえてきたのは、、
キンジの現パートナーであるアリアの声だった。
さっきの声はアリアが通気口で匍匐前進をしてた声だったんだな。
「う、うお……ッ!?」
そして、アリアが飛び降りてきた通気口から――キンジが素っ頓狂な声を上げながら落下してきた。
「うおっ!?」
「ふぎゃっ!?」
一瞬キンジに潰されたアリアだったが、ぽんっ、とキンジをはね退ける。
「き、きき、キンジ! ヘンなとこにそのバカ面をつけるんじゃにゃうぇっ!?」
顔を赤く染め、キンジに抗議するアリアの首根っこを綴は持ち上げられる。
そして、起き上がるキンジもついでと言わんばかりに摘み上げた。
人間二人を掴み上げるってどんな力してんだよ……もう少し、重そうにしろよ。
「んー、なにこれぇ? そいでお前」
二人の顔を見てから、オレに顎を向けるを綴は、
「あんれぇ、こないだのハイジャック事件のカップルと諜報科のオールランカーじゃん」
二人を放り投げてから、すーっ、と煙草を一吸い。
「こいつは神埼・H・アリア――
アリアの特徴的なピンクのツインテールを引っ張ったり、揉んだり、アリアの顔を見ながら、スラスラとアリアのプロフィールを口にしていく。
「い、イタイわよっ。それにあたしはマヌケじゃない。貴族は自分の手柄を決して自慢したりしない! それが例え人の手柄を我が物にしてたとしてもね!」
「ほー、へー。損なご身分だねぇ。アタシは平民でよかったわ。そいえば欠点、アンタはおよ――」
「わぁ――――!」
綴が欠点を言おうとした時、アリアは大きな声を立てて言葉を遮った。
顔を先程よりも真っ赤にさせ、口をあわあわとさせている。
その様子を見るに、よっぽど恥ずかしい欠点のようだ。
「そ、そそれは弱点じゃないわ! 浮輪があれば大丈夫だもん!」
……アリア、泳げないのか。
アリアでも苦手なことってあるんだな。案外、雷とかも苦手だったりしてな。
「んで――」
ギロリ、とキンジの方を見た綴がアリアのプロフィールを口にした時のように続ける。
「性格は非社交的で、他人から距離を取る傾向アリ」
この様子だとオレのプロフィールも入ってるんだろうなあ……
「――しかし、強襲科を含めた一部の生徒からは一目置かれている。潜在的には、ある種のカリスマ性を兼ね備えているものと思われる。今年の
「俺に聞かないでください」
「
……げっ、そこまで網羅してんのか。
「3点バーストどころかフルオートも可能な、通称キンジモデルだよなぁ?」
「あー、いや。それはこないだのハイジャック事件で壊されました。今は米軍払い下げので間に合わせてます。もちろん、合法の」
「へっ、装備科に
……じゅっ。
「あっちっ!」
笑いながら怒るといった器用な表情で、キンジの眉間に煙草を押し付ける綴。
「で、お前は――」
次はお前だ、と言わんばかりの眼光をオレに向け、
「誰とでもある程度の会話が可能なほどのコミュニケーション能力を有しており、元Sランク武偵の
そこまで把握してやがるのか……
相変わらず、教務科には隠し事が通用しねぇな。
「……えっと、違法ではないですよね。銃が重くなるだけで」
「…………ふんっ、まあ見逃してやる」
煙草を灰皿に押し付け、新しく煙草に火を付ける。
……まだ吸うのか。身体に悪いぞ。
「……で、だ。ボディーガードをやるとはどういう意味?」
「そのままの通りよ。24時間体制でボディーガードをやるわ。もちろん無償でね」
「オレも似たようなものです。流石に24時間体制でやるつもりまではありませんでしたが、アリアがやるならオレも24時間体制で引き受けますよ」
そんなオレたちの言葉にキンジが驚きを露わにしている。
いや、お前が驚くのかよ。最初からそのつもりで来たんじゃないのかよ?
「ふぅーん。星伽ぃ、なんか知らんけどSランク武偵とオールランクが
「黒崎くんはいいけど……アリアがいつも一緒だなんてイヤです! けがらわしい!」
……まあ、恋敵が近くでイチャコラしながら四六時中うろつき回られたら最悪だわな。
だがそんな白雪の拒絶に対して――
「だまりなさい! あたしにボディーガードさせないなら、撃つわよ!」
じゃきっ、とスカートの下から黒と銀の
……そっちかよ!
白雪が『はわわっ!』とでも聞こえてきそうな感じで慌てる。
流石に撃つわけないだろうが、さながらキンジは人質にようだった。
いや、撃たないよな?
そんな茶番的光景を見て、綴がこれまた嫌らしい笑みを浮かべる。
「つ、追加で条件があります……! き、キンちゃんも私の護衛をして! もちろん24時間付きっきりで!」
……何というか、かなり難易度の高い任務になりそうな予感がヒシヒシと伝わってくる。
こう言っちゃ悪いが、武偵殺し並の難事件が待ち受けているような……そんな感じの悪い予感がするのだった。
というわけで、綴の口からカイトの人物像が語られました。
オールランクに関しては適当に筆記試験を受けていたら、ランクをふらふらしていたためです。もうひとつの事情がありますが、まだ出てきていないのでそのうちということで。
カイトが持っている武器ですが、プロローグで簡単に説明されています。
とても攻撃的でイカついフォルムの武器で、普段はショルダーホルスターに収められてる感じです。