自業自得な形でバスに乗り遅れてしまったオレたちは、仕方なしに朝の風を全身に浴びながらチャリを漕いでいた。
いつもはバス通学なわけで、チャリには
近所のコンビニとビデオ屋の脇を通り、台場に続くモノレールの駅をくぐる。
その向こうには、まるで海上に浮かんだかのようなビル群。
ここ、武偵高こと東京武偵高校は、レインボーブリッジの南に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした
所謂、学園島であるこの
そして、武偵とは凶悪化する犯罪に対抗するために新設された国家資格で、武偵免許を所持するものは武装が許可され犯人の逮捕権有するなどといった警察官に準ずる活動が可能になる。
ただし武偵はあくまで金で動く。つまり、武偵は金さえ積めば、武偵法の許す範囲であればどんなに荒っぽい仕事であろうとも引き受ける。要は『便利屋』である。
――んで、だ。
この東京武偵高では、通常の一般科目に加えて、各科目の活動に関する専門科目を履修することができる。
その専門科目にも色々あって、隣でチャリを漕いでいるキンジが所属している
他にも、オレが所属している
特に
そんなことを考えているうちに、学内に着いてしまったようで……体育館へと向かうためにチャリをUターンさせる。
どうやら、始業式には無事に間に合いそうだ。
流石に初日から遅刻していくのは悪目立ちしすぎるからな……武偵も始めが肝心だ――
「その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」
突如、
「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると 爆発 しやがります」
ああ、この声には聞き覚えがある。オタクでなくとも、今となっては誰もが一度は耳にしたことがあるであろう
……つうか、爆弾だと? そんなもん、どこにも……ッ!?
片手をハンドルから離し、片手で適当に探っていると――爆弾はサドルの下にあった。
キンジにマバタキ信号で場所を教えてやると、ぎょっとした顔を向けてきた。そんな顔をされても、犯人はオレじゃないからな?
――片手で解体してみるか……?
制服からナイフを取り出そうとした矢先、オレたちを囲むように四機の何かが並走してきていた。
車輪が二つで、まるでキックボードのように伸びたハンドル。
「セグ、ウェイ――っ!」
車輌科の友人が話していたのを思い出す。
生で見るのは初めてだが、まさかこんな場面で見るとは。
「助けを 求めては いけません。 ケータイを 使用した場合も 同様に 爆発 しやがります
本来、人が乗る部分には自動銃座が載っていた。
「ちっ…………!」
思わず舌打ちをしてしまう。
その銃座には、
イスラエル社が開発した短機関銃。オレたちを一瞬で蜂の巣に変える武器だ。
「キンジ! 考えるのは後にして、今はとりあえず人気の少ないところに行くぞ!」
「ちくしょう……!」
オレにはこの仕業が誰の手によるものなのか、ハッキリと理解していた。
――武偵殺しだ。それしかいない。
人の少ない場所を求め、走っているうちに第二グラウンドの近くに来ていた。
幸いにも第二グラウンドには誰もいない。狭い場所よりも広い場所の方がいいに決まってる。
そう思い、第二グラウンドの方へとチャリを走らせる。
ちくしょう。
このまま走らされれば、先に力尽きるのはオレたちの方だ。
――どうして、こうなったんだ?
焦りが更なる焦りを呼び、オレの中で何かがキレそうになった時。
視界の隅に何かが映った。
ピンク髪の、ツインテール。
そこには、髪を風になびかせる武偵高の制服を着た少女がいた。
そして、そいつは7階建てのマンションから飛び降りた……!
「うおわっ!?」
意識が変な方向に取られてしまい、ペダルを思いっきり踏み外した。
バランスを崩し、転倒しそうになり――
「お、おいッ! 大丈夫か!」
「お、おう……だ、大丈夫だ」
キンジに助けられた。
あ、あぶねー! あのまま減速してたらUZIに集中砲火されてたぞ!
再び、さっきの女の子がいた場所を見上げると……
パラグライダーを展開した少女が、こちら向かって降下してきた……!
「ばっ、バカ! こっちに来んな! このチャリには爆弾が――」
キンジが慌てたように伝えようとしたが――予想以上に早く、左右に揺れながら降ってくる。
少女は武偵高の制服を身に付ける者らしく、生足に装着されたレッグホルスターから銀と黒の
そして、
「そこのバカども! 頭を下げなさい!」
ダダダダダダ――ッ!
オレたちが反応するよりも早く、銀と黒の大型拳銃から火が吐き出される。
不安定なパラグライダーでありながら、しかも拳銃の平均交戦距離の倍はあるであろう場所からの水平撃ち。
普通ならまず当たらない。オレには無理――の状態からセグウェイに弾丸が吸い込まれていく。
無敵モード時のキンジなら簡単に出来るかもしれないな。
セグウェイはバラバラに分解され、オレたちを囲むセグウェイはいなくなった。
くるっ、くるくるっ。
綺麗な銃捌きでホルスターに銃を収めた少女は、ひらり、と。
険しい顔のまま、キンジの頭上へと迫っていく。
(彼女は何をするつもりなんだ……?)
「く、来るなって言ってんだろ! こっちは爆弾を抱えてんだから! 減速すると爆発するぞ!!」
「――バカっ!」
げしっ、とキンジを頭を白いスニーカーで踏み付けて、そこから跳躍を重ねる。
まるで演舞だ。武偵高の生徒じゃなくて新体操の選手とかになった方がいいんじゃないか? スレンダーだし。
「武偵憲章1条! 『仲間を信じ、仲間を助けよ』――いくわよっ!」
別に仲間じゃないんだが……って顔のキンジ。
少女は確保した高度を下げ、鋭く∪ターン。
そこから、アクロバティックな動きでブレークコードのハンドルに足を引っ掛けた状態……逆さ吊りの状態になる。
――まさか。まさか、まさか。
少女の考える意図を理解し、オレたちの顔が一気に青褪める。
そんな助け方があるか……! 助けるなら、もっと、こう……な?
「ほら、もっと全力で漕ぐっ!」
ああ、もう……!
なるようになれ!!
オレたちはヤケクソ気味にチャリを加速させ、アリアとの距離を詰めていく。
――空から女の子が降ってくると思うか?
――答えは、降ってくる、だ。
「アンタも手を出す!!」
オレは手を差し出し、キンジはアリアのお腹に顔を埋めた状態で――空へと浮き上がった。
ドガアアアアアアアアンッッッッ……!
閃光と轟音が轟き、熱風が全身を襲う。
爆弾は本物だった。その結果、オレのチャリは爆発四散した。
約20万円の電動ロードバイクが。
ちくしょう……どうせなら安物しとくんだった。
その光景を最後に、オレの意識は、途切れた。