「げほっ、ごほっ……」
……どうやら、オレは第二グラウンドにある体育倉庫に突っ込んでしまったようだ。
優しい入場とはいかず、強引に扉をぶち破っての侵入だったため、全身が痛い。
(……そうだ。キンジとさっきの少女は?)
そう思って周囲を見渡すが、ソレらしき姿は見当たらない。
おかしいな……体内時計的に気絶してたのは数秒程度なはずなんだが……
どこにいった? あいつらだけ外に弾き出されたのか……?
「お、お……痛ッてぇ……」
そんな声が背中から聞こえてきた。
背中……? 後ろを見ると上の段が吹き飛ばされた防弾性の跳び箱があった。
(……まさかとは思うが、跳び箱の中にシュートされたってのか?)
ありえないだろ……漫画の世界じゃないんだからさ。
オレが呆れていると、跳び箱の中にいるらしいキンジが話し掛けてくる。
「お、おい……」
「……なんだ?」
「……! か、カイトいたのか……!?」
いたのかってお前なあ……
「で、何だ? 少し休憩させてほしいんだけど……」
「た、助けてくれ……マズいことになってる」
「……マズいことになってるって? 武偵殺し以上にマズいことなんて――」
ゆっくりと立ち上がり、キンジが入っているらしい跳び箱の中を覗き込んで、絶句した。
「…………マズいことになってるな、キンジ」
箱の中にキンジは確かにいた。
それは間違いない。
だが、そこにはもう一人いたのだ。
気絶した状態の少女が一人……
ピンク髪、ツインテールの少女が。
「あー、その……だな」
「な、なんだ……」
「武偵だからって恩を仇で返すのは良くないと思うぞ……?」
「や、やめろ! 俺がわざとやったみたいに言うな!?」
「……違うのか?」
「……違うに決まってる!」
どうやら偶然の事故らしい。
まあ、わかってたけどさ。わかってたけど……
流石にありえないとは思わないか?
跳び箱の中にシュートされただけでも面白いのに、その上、女の子と絡まってるなんてさ。
しゃあない、助けてやるか……と、手を差し出そうとした時。
「へ……ヘ……ヘ……!」
……? 今、何か声がしたような……?
「ヘンタイ――――!」
聞こえてきたのは、どこか二次元的な声。
オタクだったら携帯から聞こえてきたのではないか、と思わず確認してしまうような声だった。
どこか幼い容姿に、ピンク髪の、幼いアニメ声。まさにパーフェクトだ。
「ささ、ささささ、サイッテー!!」
キンジがまたラッキースケベの類を起こしていたらしい。
女嫌いなのに「ラッキースケベ」を頻繁に引き起こすなんて、よっぽど神様に嫌われてるんだな。
「おっ、おい……! や、やめろっ!」
「このヘンタイ! チカン! 犯罪者!」
「ち、違う……! それは、俺がやったんじゃない……! 冷静に考えろ……ッ!」
ポカポコポカポコポカ……と、ダメージにもならなさそうな効果音が付いてそうなパンチを、少女がキンジの頭へと繰り出す。
なあ、帰っていいかな……?
――――ガガガガガガガガンッッ……!
(銃声……ッ!?)
生身のオレに向かって撃ってきやがった……!
クソッ、セグウェイはアレで全部じゃなかったのかよ……!
「……ッ!」
咄嗟に顔を腕で守りながら、相手側から死角になる方へと飛んだ。
が、守った腕にUZIの9ミリパラベラム弾が命中した……!
「またいたのね……!」
キンジを殴るのをやめたらしい少女が、ぴょこっと跳び箱から顔を出した。
ホルスターから二丁の
「お、おい……! 何が起こってるんだ!?」
「あのヘンな二輪のオモチャが来たのよ!」
あれをオモチャ扱いとは……恐れ入るぜ。
オレにはアレが
「アンタたちも、ほら! 早く撃ちなさい!」
「ム、ムリだって……! どうすりゃいいんだよ!?」
「……すまん、腕をやられた」
別に戦えないこともないが、できるなら相手にしたくない。
音から察するに、あのセグウェイは少なくとも7台はいる。
数でも負けてるし、機動力ですら負けている状態なのだ。そんな状況で何ができるって言うんだ……?
オレは裏活動がメインの
「これじゃあ火力負けする……! 向こうは7台なのよ!」
と、言われてもなあ……
オレにはどうすることもできない。
ショルダーホルスターに収められた二丁の
これを使えば同時発射弾数は四発に増え、火力は補えるだろうが……
(勝てるのか……? 武偵殺しにオレが勝てるのか……?)
武偵殺しは未だに捕まっていない犯人の中でも大物の犯罪者だ。
そんな奴にオレ程度の人間が勝てるのか……?
もし、もしもだ。これに勝てたとして、次は勝てるのか?
次の、次の、次の戦闘では勝てるのか?
(無理だ……)
「オレには――」
――無理だ。
そう口にしようとした時。
ゾクッ、と何かが爆ぜたように背中を突き抜けていった。
「――強い子だ。上出来だよ、お嬢さん」
「……は?」
ああ、この感覚には覚えがある。
「きゃっ!?」
「ご褒美に、お嬢様から少しの間だけお姫様にしてあげよう」
いつもより、クールでキザったらしいキンジが……少女をお姫様抱っこで抱きかかえていた。
抱えられた当の本人は顔を一瞬で真っ赤に染め上げ、口を驚愕で開けている。
突然のことで反応できない少女を抱きかかえながら、キンジはマットに座っているオレの方へと歩いてくる。
「アリアを任せてもいいかな」
「あ、ああ……なったんだな、キンジ」
「もちろんだよ。そうじゃなきゃお姫様に失礼だろ?」
オレはこの状態のキンジのことを『無敵モード』と勝手に呼んでいる。
無敵モードになったキンジは、アリアにウィンクを送ってから、銃を無駄撃ちしているセグウェイの方へと向かっていく。
「あ、アンタ……! 撃たれるわよ!?」
「アリアが撃たれるよりずっといい」
「だ、だから! さっきから何急にキャラ変えてんのよ!! いったい何するの!」
「アリアを、守る」
キンジの愛銃――マットシルバーの
これでは一瞬で蜂の巣だ。いくら防弾制服で守られているとはいえ、秒間10発も弾を吐き出す
だが、今のキンジは――
「遅いよ――」
無敵モードのキンジなのだから。
ズガガガガガン――ッ!
計7発の銃弾が、まるで魔法のように
久しぶりにキンジが無敵モードになっている所を見たが、相変わらずの超人っぷりだ。
隣のアリア(?)ちゃんが『何が起きたの?』とばかりに目を瞬かせている。
オレもこのキンジを初めて見た時はとても驚いたよ。だから、その気持ちはわかる。
キンジと目が合ったアリアは、ダダダッと睨みながら駆け寄っていく。
「お、恩になんか着ないわよ。あんなオモチャくらい、あたし一人でも十分に対処できたんだから! 本当に本当の本当よ!
……『これじゃあ火力負けする……! 向こうは7台なのよ!』とか何とか言ってませんでしたかね?
「そ、それにさっきの件をうやむやにしようったって、そうはいかないわよ! アレは立派な犯罪! 強制猥褻なんだから!」
「それは悲しい誤解だよ、アリア」
しゅるる~っと、ベルトを抜いたキンジは、アリアへと渡しながら。
余裕だな……キンジのやつ。常にあの余裕があればSランク武偵なのに。
ってキンジは自主的にEランクに落ちたんだったか。
「あれは不可抗力ってやつだよ。理解してほしいな」
「ふ、不可抗力ですって!?」
カチャカチャ、とホックの壊れたらしいスカートをキンジのベルトで締めると、キンジを威圧するように仁王立ち。
「は、ハ……ハッキリと……アンタが……!」
ちっこい身体で必死に握り拳を作りながら、肩をわなわな震わせている。
「あ、あたしが気絶してるうちに……ふ、ふふ、服を脱がそうとしてた……!」
小さい子が顔を真っ赤にしている様子って、何だか和むよな……?
「そ、そそそ、それに……!」
ガシっ、ガシっ、と地団太。
……うーん、これ帰ってもいいかな?
「む、胸を見てたああああ!! これは強猥の現行犯!」
更に顔を真っ赤にさせるアリアちゃん。
落ち着かないと血管が切れちゃうぞ……?
いくらキンジでも小学生相手に欲情したりはしないだろう。
「あんた! いったい! 何するつもりだったのよ!」
「よしアリア。冷静に考えよう。いいか、俺は高校生だ。それも今日から二年生になるんだ。中学生を脱がしたりするわけないだろう? 年齢が離れすぎだとは思わないか?」
――あ、これは何か地雷を踏んだな。
と、一目で分かるほどにアリアちゃんが激昂する。
例えるなら、火山噴火の前触れ。
「あたしは中学生じゃない!!」
あーあ、やっちまったなキンジ。
アリアちゃんが小学生だとはいえ、女の子に年齢の話はタブーだ。
それも年齢を間違えてしまうのは致命的だ。
なので、オレがフォローしてあげるか。助けてもらったわけだし。
「それは間違いだぞ、キンジ」
撃たれた腕を押さえながら、二人の間に割って入る。
「アリアちゃんの身長は推定――142センチメートル。これは小学校高学年の身長だ。つまり――ぐべら!?」
彼女はインターンで入ってきた天才の小学生……と、続けようとしたのだが、オレの顎に綺麗なアッパーカットが入った。
宙に浮き上がり、オレの身体はマットへと真っ逆さま。軽く脳震盪を起こしたらしく、視界がチカチカする。
……た、立てないぞ。めちゃくちゃ本気の一撃だった……ッ!
「こんなヤツら……こんなヤツら……助けるんじゃ、なかった……!!」
ババンッ!
「うおっ!」
キンジの足元に二発の銃弾が撃ち込まれる。
お、オレの時とは対応が違くないですかね……?
「あ た し は 高 2 だ ! !」
衝撃の告白と共に、アリアが銃を構える。
キンジがアリアを押さえにかかる。
それに対して、アリアが反射的に引き金を引いていたが……
両手を後ろに押さえ込まれていたため、銃弾はキンジには当たらず、後ろの壁に撃ち込まれた。
そして、今のでアリアの銃は両方とも弾切れになったらしいことが音で判る。
「――んっ、やあぁっ!」
くるっ、と身体を捻らせたアリアが、柔道にも似た動きでキンジを投げ飛ばした。
す、すげえ……あのモードのキンジを投げたぞ!
「逃げられないわよ! あたしは犯人を逃したことは! 一度も! ない! ――あ、あれ? あれれ?」
素っ頓狂な声で、スカートの内側をまさぐる。
……もしかして、
「ごめんよ」
いつの間にか盗んでいたらしい弾倉を、キンジは明後日の方向へと投げ飛ばす。
……あれは見たことがあるぞ。相手の装備を盗る技だ。
「――あ!」
その光景に無用の長物となったガバメントをぶんぶんと振り回しながら、怒りを露わにする。
「もう! 許さない! 泣いて謝ったって許さない!」
ジャキ――ッ!
セーラー服の中から、次は刀が飛び出てくる。
二丁拳銃の次は二刀流か……! マジで多芸だな。
「強猥男は神妙に……わきゃっ!?」
すてん。
キンジが転がしていた銃弾に足を取られたのだ。
こっちもこっちで多芸だな……
「もう立てるか?」
「お、おう……?」
「この隙に行くぞ!」
「……おう!」
転びに転びまくっているアリアを通り抜け、オレたちはその場から立ち去るのだった。
「風穴――でっかい、風穴開けてやるんだから!」
物騒なことを叫んでるけど、大丈夫なのかね……?
報復とかされないことを祈るばかりだ。
――これがアリアとの出会い。
後に『緋弾のアリア』として名を広めることとなる武偵との出会い。
そこで、オレの運命は切り替わったのだと思う。
きっと、この日の出会いは――運命だったのだろう。
相変わらず、ヒステリア状態のキンジは超人っすね……。最初から人間技じゃないものを披露していくんだもん。せめてセグウェイのタイヤを撃ち抜いてパンクさせて転倒とかならわかるけど……。
さて、今回の描写からも理解出来るように、カイトはキンジのヒステリアモードを理解していません。まあ、友達がまさか性的興奮で戦闘力を上げるヘンタイだとは誰も思いませんよ。オレだって思わない。