緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾   作:白崎くろね

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第3弾 あたしのドレイになりなさい!

 あの後、急いで学校に向かいはしたものの、残念ながら始業式には間に合うことはなかった。

 そのせいで初日から教務科(マスターズ)のお世話になってしまい、陰鬱な気分で新しいクラスへと向かっている。

 

 その隣を歩くのは、先程の勇敢な姿とは打って変わって、どこか陰のある表情をしたキンジ。

 詳しくは知らないのだが、キンジには特殊な力がある。

 特定の状況下でスイッチが入り、普段の何十倍もの力を発揮することができるみたいだ。その状態のキンジをオレは『無敵モード』と勝手に呼んでいるが、これには副作用があるらしい。

 この状態になった後はとても気分が落ち込むようである。要はダウナー状態に陥るのだ。

 そういう理由もあって、以前に「大丈夫か?」と声を掛けたところ、「そっとしておいてくれ……」と言われて以降はそっとしてあげることにしている。

 

 まあ、原因はそれだけじゃなくて、単に始業式を遅刻して二年生デビューという事実に打ちひしがれてるだけかもしれないが。

 

 そして、キンジの『無敵モード』にはもう一つの特徴がある。

 それは女の子に対して、男のオレでさえ聞いているのも恥ずかしいようなセリフを連発し、キザったらしい行動に出るという点だ。

 多分だが……これはキンジの本性というか、心の奥底に眠る『正義感』から来る言動だと思われる。

 去年の冬に本人から聞いた話なのだが、キンジの家は『正義の味方』の家系らしい。あまり詳しくは聞いていないから分からないが。キンジのお兄さんは有名な武偵で、お父さんの方は鬼をも恐れる武装検事。

 であれば、キンジも家族と同じように正義の心というものを継承しているに違いないのだ。なら理由は簡単だ。

 

 覚醒することによって、キンジは正義の味方――男が守ってあげるべき存在である女の子に対して優しい性格に変質するのだろう。

 

(……まあ、ちょっとキザすぎるとは思わなくもないけど)

 

「先生、あたしアイツの隣に座りたい」

 

 オレとキンジがクラス分けされた2年A組、最初のHRにて。

 そんな衝撃の発言したのは、偶然にも2年A組に割り振られていたピンクツインテールの少女だ。

 あろうことか、その少女はオレとキンジの隣――真ん中の席を指定してきたもんだから。

 教室の連中がオレたちに視線を合わせ、わぁーっ! と歓声が沸いた。

 

 これにはオレもキンジも絶句せざるを得ない。

 というか去年の三学期から既に在学してたの……?

 

「よ……良かったなキンジ! カイト! お前らにも春が来たみたいだぞ! 先生! オレ、転入生さんと席譲りますよ!」

 

 オレたちのことをキラキラした目で交互に見ながら声高らかにしながら、隣の男が席を立つ。

 この身長が190オーバーなツンツン頭の大男は――武藤剛気。

 通学に使っていた電動ロードバイクを売ってくれた友人であり、オレとキンジが強襲科だった頃に現場へと運んでくれた車輌科の優等生だ。その優等生っぷりは中々のもので、乗り物と名前の付く物なら『何でも』運転できるという特技を持っている。

 

「あらあら、最近の女子高生は積極的ねぇ……。武藤くん、席を代わってあげて」

 

 何やら誤解したような目つきでオレたちを一瞥してから、これまた変な誤解をしている武藤の提案を受け入れてしまう。ダメだこりゃ。

 

 わーわー。ぱちぱち。ひゅーひゅー。

 歓声に、拍手に、口笛……一瞬で混沌の2年A組となってしまった。

 ……あの、もう帰っていいですかね? 

 恥ずかしさやら、疲れやらで顔を突っ伏させる。

 

「キンジ、これ。ベルト返すわよ」

 

 しゅるる~っ、と良い音を立てながら、キンジへと投げ返すアリア。

 あー、もう。この状況でベルトなんて返したらマズいって理解できないんですかねっ!?

 案の定というか、何というか……それにいち早く反応する人物がいた。

 

「あー! 理子分かっちゃった! これ、三角フラグ立ってるよ! バッキバキだよぉ!」

 

 キンジの左隣に座っている峰理子が、やや興奮気味に席をガタガタッと席を立ちながら――

 

「キーくん、ベルトしてない! ベルトをツインテールさんが持ってた! そのキーくんとカーくんは一緒に住んでる! この謎、理子には推理できちゃった!

 

 アリアよりも少し身長の大きい理子は、キンジと同じ探偵科のオタク女子。

 その服装は学生としては奇抜で、東京武偵高校の臙脂色の制服を魔改造し、フリフリのヒラヒラなフリル付き制服となっている。教えて貰った記憶が正しければ、ロリータ・ファッションと呼ばれるファッションスタイルの一つで、少女らしく、小悪魔的らしくを表現したスタイルなのだとか。誰もがイメージしやすい形で言えば、不思議の国のアリスが当てはまるだろうか。

 

「キーくんは彼女とベルトを取るような何らかの行為をした! そしてそれを同居人のカーくんが目撃して、慌てて飛び出したところ、ベルトを持ち逃げしちゃったんだよ! つまり二人は――三角関係の真っ最中なんだよ! なんだよ!」

 

 ツーサイドアップに結った蜂蜜のような天然パーマの髪をゆさゆさと揺らしながら、理子は名探偵のような動作をしながら推理を披露している。そこには決定的な証拠もなければ、8割以上が理子の妄想によって仕立て上げられているという杜撰な推理だ。

 三角関係ってお前なあ……それ、オレを巻き込む必要ないよな? 周りを煽りたいだけどよな? 

 だが、周りには武偵を本気で目指すバカしかいない。当然のようにクラスは一気に沸き上がってしまう。

 

「き、キンジがこんなに可愛い子と?」「目立たない根暗野郎なのに……!」「カイトの奴もキンジと同類だったか……」「クソッタレ、女ったらしはクラスに二人いやがったか!」「さ、三角関係……」「不潔よ!」

 

 武偵高の生徒は一般科目でのクラス分けとは別に、専門科目の壁や部活の壁を越えて学ぶ。なので、必然的に顔見知りが多いクラスになってしまうのだが……

 新学期、二年生の始まりにも関わらず「クラスの仲の良さ」が図らずも証明されてしまう形となってしまった。

 

「お、お前らなぁ……!」

 

 キンジが遂に我慢ならなくなった、という感じで文句を言おうとしたとき――

 

 ズギュン! ズギュン!

 

 二発の銃声が鳴り響いた。

 騒がしくなったクラスを静めるために教務科の高天原先生が撃ったのではなく――話題の人物である神崎・H・アリア本人だった。

 

「れ、恋愛だなんて……くっだらないっ!」

 

 カランカラーン、と空薬莢が床に落ちる音が響く。

 それほどにクラスが一気に静まったのだ。

 思わず突っ伏させていた顔を上げてしまう。

 

 ……武偵高では、射撃場以外での発砲は『必要以上にしないこと」というものがある。つまり、しても問題はないのだ。武偵高の生徒は銃撃戦が日常茶飯事の武偵になろうとする人間の集まりなんだし、銃撃に関する感覚を戦争屋レベルで慣れておく必要がある。だがまあ、新学期の自己紹介で発砲をしたのは、コイツが史上初かもしれない。

 

「全員覚えておきなさい! そういうバカなことを言う間抜けには……」

 

 まさに、それが神崎・H・アリアにとっての……自己紹介セリフだった。

 

「――風穴開けるわよ!」

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 午前の授業が終わり、昼休みになった瞬間――オレたちはアリアの件で質問責めの兆しが見えたので、クラス連中を撒きながら理科棟の屋上へと避難した。

 尾行の気配は……ないな。とりあえずは一安心といったところか。

 実際、質問責めを受けたとしてもオレたちに答えられるようなこと一つもない。武偵殺しの件は既に教務科が全校生徒に周知メールを送っているので情報は拡散されているし、アリアとの関係だって『助けられた』だけの関係なのだから。それに最後は敵意丸出しで追いかけられそうになったしな……やれやれだぜ。

 もしかしたら、アリアは疫病神なのかもしれない。

 

 オレが自分の不幸を再確認していると、屋上へ上がる階段の方から話し声が聞こえてきた。

 その声には聞き覚えがある。強襲科の女子グループだ。

 念のため、姿を物陰に隠すことに。

 

「さっき教務科から出てた周知メールのさ、男子二人が自電車を爆破されたってやつ。あれって、キンジとカイトのことじゃない?」

「あ。それ思った。始業式にも二人で遅刻してたもんね」

「うわー、今日のキンジとカイトってば不幸すぎない? チャリを爆破されて、おまけにアリアって」

 

 どうやら、強襲科の三人は落下防止の金網に背を預けて座った女子たちは、オレたちの話をしているようだ。好きだよな、女子ってこういう話。

 オレは諜報科の生徒らしく人の話を盗み聞きしたり、人間を観察するのが趣味なので……別に気にしないが、キンジは女子がオレたちのことを話しているのが不満らしく、顔を歪めている。

 

「それにしてもキンジってばカワイソーだよねー」

「だよねー。アリアってば、朝から色々と探って回ってたし」

「私はアリアに聞かれたよー、キンジってどんな武偵なのとか、ついでにカイトってやつのことも、とかね。だから適当に『二人は元強襲科のエースだったんだけどねー』って、適当に返事したけど」

「あ。そういえば、さっきは教務科の前にいたよー。キンジとカイトの資料を漁ってるのかな?」

「うっわー、ストーカーってやつ?」

 

 アリアがオレたちのことを嗅ぎ回っているらしい。

 知ってたけどね。朝から誰かが尾行してるなー、ってヒシヒシ感じてたし。

 でもまあ、Sランク武偵のエリートってこともあって、撒こうにも撒けないから仕方なく適当に過ごしてたケド。

 

「キンジってばカワイソー。女嫌いなのに、アリアなんかに付きまとわれるなんて。アリアってさ、イギリス育ちの貴族だか何だか知らないけど、空気読めてないよね」

「でもでも、アリアって男子連中の中で人気があるんだってね」

「そうみたいだねー、三学期に転校してきてから即効でファンクラブが結成されたみたいだし。写真部が盗撮した写真とか、体育のポラ写真なんかが高値で買い取られてるみたいよ」

「それ知ってる。万単位何だってね」

 

 ポケットから取り出し、諜報科専用のアプリから武偵高の裏サイトへアクセス。暗号化された12桁のパスコードを入力し、三人が言っていた写真を確認する。

 ……マジであったな。アリアの高額写真。

 確かにこれは高額で取引されていても納得の品だ。

 

「でもさあ、アリアってトモダチいないよね。しょっちゅう休んでるし」

「お昼も一人で食べてたよ。教室の片隅でぽつーんって感じで」

「なにそれキモーイ」

 

 どうやら、アリアは際物揃いの武偵高ですら浮いた存在のようだった。

 三人にバレないように戻るか……。

 

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「あー、疲れたぁ……」

 

 朝から武偵殺しに襲われるわ、アリアに殴られるわ、学校では質問責めにされるわの連続で疲れていたオレは、ベッドに身体を沈めていた。このまま気持ち良く寝れそうだ。

 

 今朝の件に関しては、鑑識科がセグウェイの残骸を回収し、探偵科が手動で調査を進めているところだ。その件にはオレたち諜報科も絡んでいて、第三男子寮に駐輪させていた自転車に爆弾が設置されていたことから、付近での聞き込み捜査を行っている。

 諜報科のメンバーが試験的に作った『諜報アプリ』から閲覧できる情報によれば、実行犯は悪名高い『武偵殺し』で間違いないようだ。

 その証拠として、武偵殺しが事件を起こす際に発する特殊な電波を朝の事件時に観測しているらしい。

 

 まあ、武偵殺しが単独犯なのかどうかすら判明していないわけだが……。

 

 ――ピンポーン。

 

 携帯の画面を眺めながら、ウトウトしていたオレの耳にチャイムの音が聞こえてきた。

 ……あー、起きるの面倒だな。キンジに任せるか。

 

 ――ピポポポポン。

 

 …………キンジ早く出てくれよ。

 

 ――ピポポポピポポンピンポポポン!! ピンポーン! ピンポーン!

 

「だああああっ! うっせええええ!」

 

 大きい声を出しながら、ベッドから飛び起きる。

 ちっ、キンジのやつ居留守を決めるつもりだな……。

 仕方ねーな……オレが出るか。

 

「はいはい。宗教の勧誘は遠慮――」

 

 お決まりのセリフで撃退しようとして、思わず沈黙。

 

「遅い! あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」

 

 そこにいたのは、赤紫色(カメリア)の瞳をした――

 

「げぇ……神崎、さん!?」

 

 神崎・H・アリアが立っていた。

 

「アリアでいいわよ」

 

 言うが早いか靴をパッパッと脱ぎ捨てながら、大きなトランクを持ったまま部屋の中へと侵入してきてしまった。

 

「お、おい……?」

 

 止めようとするが、まるで我が家のようにズカズカと進んでいくアリア。

 ここ、男子寮ですよ……?

 

「トランクは中に運んでおきなさい。ねえ、トイレはどこ?」

「あ、ああ……? トイレならそこだけど」

 

 何を素直に答えてるんだ、オレは!

 というか、トランク持参ってなんだよ!? 

 意味がわからん!

 

 女嫌いのキンジじゃないが、流石のオレもアリアの行動に困惑するしかない。

 何やら騒がしいこと気付いたキンジが、自室から出てくる。

 

「なにやってんだカイト――ってか、神崎!?」

「アンタもアリアでいいわよ!」

 

 そう言って、トイレにすたすたと入っていく。

 

「お、おい……どうなってんだよ!」

「オレに聞くなよ。本人に聞いてくれ……」

 

 というか、だな……

 

「キンジ。お前尾けられてただろ」

「は、はあ!? 俺が尾けられてたのか!?」

「いや、オレも尾けられてたっぽいけど、何とか撒いたぞ。それに最後に帰ってきたのお前だろ?」

「ぐぅ……」

 

 探偵科のクセにまんまと尾けられるとは……。

 クラス連中を撒くために別行動したのが仇になったな。

 まあ、色々と調べられてたみたいだし、オレたちが住んでいる場所がバレるのも時間の問題だったとは思うけどな。

 

「あんたたち、二人部屋なの?」

「本当は4人部屋だ」

「ふうん?」

 

 わざわざ答えたのにも関わらず、大して興味のなさそうだ。

 だったら聞くなよ。

 

「とりあえず――」

 

 くるっ――と、その場で身体を回転させ、

 身体を窓から射し込む夕陽に染め、オレたちにビシっと指を突き付けてきた。

 長いピンクのツインテールが、身体に追随して動く様は――とても幻想的だ。

 

 そんな彼女が、オレたちに――

 

 

「――キンジ。カイト。あんたたち、あたしのドレイになりなさい!」

 

 ……そう、宣言したのだった。

 

 

 

 

 




 早く戦闘パートに進めたい……。でも、あと数話は平和な学校生活が進むと思うよ! それに主人公の秘密が発覚するのももう少しだけ先の話……!
 
 
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