緋弾のアリア - 交わりし銀の銃弾   作:白崎くろね

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第8弾 バスジャック

 ……侵略者(アリア)が部屋からいなくなり、久しぶりに平和な朝を迎えた。

 昨日の夜にセットしたアラームが予定通りに鳴り、オレは目を覚ます。

 キンジも同じ時間にセットしていたようで、布団の中でもぞもぞとしている。

 

「おはよう、キンジ」

「ああ、おはよう」

 

 アリアが勝手に居候していた時は床に侵入対策用の対人地雷が設置されたからな……

 おかげで夜にトイレで目が覚めても怖くて行けたもんじゃなかった。

 が、今日はいつも通りの平和な日々が戻ってきたのだ。

 

「平和だ……」

 

 そんな平和な朝をだらだらと過ごしながら、朝の準備をする。

 

「なあ、今日も5時間目から強襲科(アサルト)だよな?

「そうだな。面倒だがアリアに文句を言われるのも面倒だから行くしかないだろ」

 

 キンジは心の底から嫌そうな顔で言う。

 

「何にせよ1回の協力で終わるんだ。それまでの辛抱だな」

「……1回で終わればいいけどな」

「おいやめろ」

 

 キンジが不穏な言葉を小さな声で呟いた。

 やめてくれよ……あのアリアならありえるんじゃないかって気がしてきたじゃねえか。

 本当に一回で終わりだよな?

 

 すごく不安になってきたオレは、熱々のコーヒーをずずっと啜って心を落ち着かせる。

 アリアにコーヒーを淹れるついでにオレも飲んでいるうちに、朝のコーヒーがクセになってしまった。

 うむ、今日のインスタントコーヒーも美味である。今度は少し高い豆にしてみるか。

 

 そんなこんなでキンジと駄弁りながら、朝の時間をゆっくりと過ごした。

 

 ――はずだった。

 

 オレたちは、ほんの少しだけ早く家を出たはずだ。

 時間も大丈夫だったし、腕時計を何度確認しても時間はいつもより少しばかり早い。

 ……なのに。

 オレたちの目の前には、7時58分のバスが到着していて、雨が降っているということもあり――武偵高の生徒が押し合うように乗り込んでいるところだった。

 

 授業が始まる直前に到着する7時58分のバスは通常時でも混雑し、乗るのが遅いと満員で乗れないことが多々あるのだ。

 だから、オレたちは余裕をもって早めに家を出たはずなのだ。だが、現実は非情である。

 

「のっ、乗せてくれ!」

 

 キンジが最後にバスへ乗ろうとしているヤツ――武藤に声を掛ける。

 

「おう。キンジカイトおはよう。そうしてやりたいが乗れるのは1人だけだ 1人はチャリで来いよ」

「「(オレ)のチャリはぶっ壊されたんだよ! これに乗らないと遅刻する……!」」

「だぁーっ! やめろ! オレを下ろそうとするな! 男なら諦めも肝心だぞ!」

 

 ちっ、武藤のクセに反論しやがって!

 お前の好きなヤツをバラすぞ? と、耳元で囁くと……

 

「おまっ、それは卑怯だぞ!?」

「言われたくなけりゃ格安で電動ロードバイクを提供しやがれ! 10万程度なら買ってやる」

「わ、わかったよ……クソッ!」

 

 ちなみに武藤が好きなのは白雪だ。

 フルネームは星伽白雪。キンジのことをキンちゃんって呼ぶ幼馴染。

 ……残念ながら、武藤が報われることはなさそうな相手だ。お前も、諦めが肝心だぞ。

 

「さて、キンジ……! ここは武偵らしくジャンケンで決めようぜ」

「いいぜ……勝てるものなら、勝ってみやがれ……ッ!」

 

 ――――結果、

 

「勝ったのはオレの方だったみたいだなキンジ」

「二限目に会おうぜ、キンジ!」

 

 大雨に打たれ、項垂れているキンジを置いたまま……バスは出発したのだった。

 

(……てか、増便くらい出してもいいんじゃないのか?)

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 友人を大雨の中、置いていったからだろうか?

 だから罰が当たったのか? 

 

 ――オレは、再び事件に巻き込まれていた。 

 

「その バスには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」

 

 ……などと、どこかで聞いたような人工音声(ボーカロイド)中等部(インターン)の女の子が持っていた携帯から聞こえてきた。

 

「く、くくく黒崎先輩! 助けてくださいっ!」

 

 吊革に掴まっていたオレに、茶髪メガネの女の子が涙ぐみながら抱き付いてくる。

 ……む、胸が……あ、当たって……ッ!

 中学生にしては大きく、だが成長途中の胸の感触が……制服の布越しにダイレクト伝わってくる。

 そのまま抱き締め返して、胸の感触を味わおうとも考え……それはダメだ! ふざけてる場合ではないぞ、オレ!

 

「お、落ち着け。慌てると余計に危険だ」

 

 本当に落ち着きたいのはオレの方なんだが、相手は中等部の後輩だ。

 軽く身体を引き剥がして、肩に手を置いて優しくなだめる。

 こういうのは無敵キンジの専売特許だが、仕方ない。

 

「携帯は預かっておくから、キミは頭を窓から出さないように身を低くしておくんだ。危険なことはオレたちに任せろ」

 

 他の人にも聞こえるような声量で後輩に言ってから、一緒に乗り合わせていた武藤や不知火に声をかける

 この中でオレと最も面識のあるヤツらだ。

 

「武藤! 不知火!」

「わかってるよ、黒崎くん」

「おう。オレだってわかってるぜ」

 

 目を合わせただけで言いたいことが理解で行動に移ってくれる。

 まったく、頼りになるやつらだ。

 

「――アリア。聞こえるか?」

『カイト! あんたいまどこにいるのよ』

「武偵高行きのバスの中だ」

『バスジャックに巻き込まれたのね』

 

 情報が早いな……。

 いつもは傍若無人なアリアだが、今のアリアはSランク武偵として役に立つ存在だ。

 

 武偵殺しに通話していることがバレないように、ポケットに突っ込んだままの携帯を手の感覚だけで操作し、小型のマイク付きワイヤレスイヤホンで通話している。

 

「ああ、そうだ」

『その事件は『武偵殺し』による仕業よ。あんたが巻き込まれたチャリジャックと同じだわ』

「やっぱりな……」

『知ってたの?』

「まあな。諜報科(レザド)では逮捕された犯人が100%誤認逮捕だって話してたよ」

 

 まあ、その話を聞いた時はこうしてオレが巻き込まれれるだなんて思わなかったけどな。

 

「……それなら話が早いわね。これが最初の事件になるわ、全力で対応しなさい」

「やれやれ、最初の事件が約束した日の次とか運命を感じざるを得ないぜ」

 

 それこれもアリアに出逢ってからだ。

 こいつに出逢ってから、オレの日常は非日常に引きずり込まれそうになっている。

 

「……みんな、伏せろぉ!!」

 

 その言葉とほぼ同タイミングで――

 

 ダダダダダダダダ――ッ!

 

「くそっ、またUZIかよ!」

 

 UZIが吐き出す9mmパラベラム弾によってガラスが砕け散り、雨と共にバスの中に入り込んでくる。

 ほとんどの生徒がオレの言葉通りに、頭を守っていた状態で身を伏せていたが……それでも、中にはガラスや銃弾によって怪我をしている生徒が複数人いた。

 

「こんな密閉空間じゃ何もできねぇぞ」

「……そうだね」

 

 かなりピンチだ。

 アリアが通話の向こうで何やら忙しそうにしているが、こっちにたどり着くには時間が掛かるだろう。

 

「 速度を落とすと 爆発しやがります 」

 

 

 さて、どうしたもんかね……

 こっちは他の乗客を人質に取られたような状況で、オレたちが不用意に動けば他の人が無駄なダメージを負ってしまう。

 武偵高行きのバスとはいえ、中には戦闘能力の低い通信科(コネクト)装備科(アムド)中等部(インターン)の連中だって混ざってるのだ。

 

「 ホテル日航前を 右に 曲がりやがれです 」

 

 こいつ、ルートまで指定してくんのかよ……!

 運転手に犯人の言う通りにするように言う。

 次に指示があった時、運転手が聞き取りやすいように運賃箱に引っ掛けておく。

 悪いね、オレの携帯じゃないのに好き勝手にしてさ。あれもこれも武偵殺しのせいだ。

 

『――待たせたわね。今から行くわ!』

 

 ずっと通話状態してあった携帯から、そんなアリアの声が聞こえてきた。

 

「負傷者が既に数人はいる。外にはUZIを搭載した無人車がいるはずだ」

 

 鏡を反射させ、外を確認すると並行するようにしてUZIが搭載されたスポーツカーが見えたことを伝える。

 

「――黙らせたわ!」

 

 そんな言葉と共に、C装備のアリアとキンジが窓から入ってきた。

 Sランク武偵のアリアと元Sランクのキンジが入ってきたことで、バスの中は歓喜やら悲鳴やらで騒がしくなる。

 

「お、お前たち……どこから入ってきたんだよ」

「どこって空からよ」

「空からってお前なあ……無茶するヤツだなほんと」

 

 チャリジャックの時にも思ったが、こいつに怖いって感情はないんだろうね。

 

「中のことはキンジに任せるわ。あたしは爆弾を探してくる」

「……気をつけろよ」

「あんたもね……!」

 

 バスの車体に引っ掛けてあったワイヤーを伝って、バスの外へと出ていく。

 

「武藤――2限はまだだが、また会っちまったな。それにカイトも」

「あ、ああ。ちくしょう……! なんでオレはこのバスに乗っちまったんだ!」

「それは友達を雨の中に身捨てたからじゃないか?」

「お前もキンジを見捨ててただろーが!」

「いやいや、オレは正統な勝負で勝ったんだぞ。勝者の特権だ」

 

 緊迫した状況にも関わらず、オレたちは軽口を叩きあう。

 狂っていると言われても否定はできないが、これが武偵というやつだ。

 

『――爆弾を発見したわ』

 

 キンジが身に着けている無線機から、そんなアリアの声が。

 窓から身体を乗り出して見ると、車体の下の方にアリアの足が見えた。

 ワイヤーで吊った状態で下を覗き込んでるのか。

 

「はえーな。流石はSランク武偵だな……」

『茶化さないで。カミンスキーβ型のプラスチック爆弾(Composition4)、武偵殺しの十八番よ。見えるだけでも――3500立方センチもあるわ!」

 

 なんだそれは。

 こんな小さいバスを吹き飛ばすには過剰すぎるぞ。

 場所次第では周囲のものを巻き込みかねない。

 

『もっと潜り込んで解体を――んっ!』

 

 アリアの悲鳴と同時に、大きな振動がバスを襲った。

 中にいる武偵高の生徒たちが雪崩のように転がり、もみくちゃにされてしまう。

 み、身動きが取れない……っ!

 

「大丈夫かアリア!」

 

 そうキンジが無線機に向かって叫ぶが、

 応答はない――。

 今の揺れで振り落とされたのか……?

 

「くっ……みんな、伏せろ!」

 

 窓から身を乗り出していたキンジが、車内のみんなに向かって叫ぶ。

 

 ダダダダダダダダ――ッ!

 

 またしてもUZIの銃声が響き、バスがどんどん穴を開けていく。

 

「ぐ……ぅッ!?」

 

 オレの胸に被弾した。

 キンジが着ているC装備のような防弾服よりも防弾性能の低い防弾制服では、完全には防げない。

 貫通した弾丸の勢いが殺されず、軽く胸に刺さる。

 

 ――ドクン。

 

 全身が沸騰したように熱くなり、全身を何かが突き抜けていくような、感覚。

 オレの中で軽くスイッチが入りそうになっていく――

 

「――!」

 

 強烈な痛みに床を転げ、仰向けになった状態のオレが見たのは――

 今の銃撃によって頭から血を流す運転手だった。

 

「おい、武藤。運転が怪我をした! お前が運転しろ!」

 

 武偵殺しが言っていた。

 減速させれば爆弾を爆発させると。

 それはマズいからな。

 それに武藤なら運転手よりも巧く運転してくれるだろう。

 

「そ、それはいいんだけどよぉ……! 苦しそうにしてるが大丈夫なのかよ」

「あ? オレは大丈夫だ。気にするな」

「そ、それに……オレ、こないだ改造車がバレて、あと1点しか違反できないんだ!」

「――んなことオレが知るかァ! いいからお前は運転をしろ!」

 

 おっと、言葉が荒くなってしまったな。

 1点しか違反の余地はない武藤を運転席に座らせてから、スピードメーターを確認する。

 

「ああ、これは完全に違反だな。2点の失効で見事にアウトだ。諦めろ、武藤」

「テメェ、そっから飛び降りやがれ! 轢いてやる!」

「あー、どうしようかなー、警察に報告しちゃおうかなー」

「おまっ……! 鬼かっ!?」

 

 失礼なヤツだな、鬼じゃねえぞオレは。

 

「電動ロードバイクを5万で提供してもらおうか」

「お前なああああああ!」

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 武藤に5万で電動ロードバイクを提供してもらう約束を取り付けた後。

 痛いほどの豪雨の中、バスはレインボーブリッジを走り始めていた。

 既にレインボーブリッジには規制が敷かれているのか、橋の上に車は一つもない。

 警視庁が動いているのだろう。

 ……すまん、武藤。オレは連絡してないけど点数は引かれちゃいそうだな。

 

 などと、心の中で武藤に謝罪しながら……

 

「キンジ、アリア!」

「お前も来たのか……」

「キンジ! カイト!? 危ないわ! どうして無防備に出てきたの! それにカイトは制服なのになにやってんのよっ! すぐ車内に――後ろっ! 伏せなさいよ!」

 

 アリアが二丁拳銃を抜き、オレもそれに合わせて二丁拳銃を抜く。

 キンジだけが状況についていけずに、その場で真っ青になっている。

 そんな状態のオレたちに向かって、無慈悲にもスポーツカーのUZIは銃弾を吐き出す。

 回避不能の一撃が、放たれる。

 

 状況についていけず、オレとアリアに挟まれた立ち位置のキンジが顔を真っ青にさせていた。

 そんなキンジを守るようにして、アリアがキンジにタックルを決める。

 だが、そのままではアリアの頭に銃弾が命中してしまう。

 

 オレが、どうにかするしかない……!

 

(不完全だが、今のオレになら――)

 

 全身の感覚を研ぎ澄まされ、それに応えるようにして世界がスローモーションになっていく。

 まるで走馬灯のような世界で、オレは額の前で二丁拳銃をクロスさせる。

 その際にバランスを崩さないようにアリアのタックルを利用し、致命傷となる部位だけを守り――銃弾が拳銃に当たるように調整した。

 

 ――ガツンッ! ズギュンッ!

 

「――――」

 

 アリアが、キンジを守りながらも二丁拳銃でUZIと車のタイヤを撃ち抜くのを確認して……

 オレはその場で倒れ込んだ。

 

「カイトっ!」

「カイト!?」

 

 ――ああ、大丈夫だ。

 

 そう、口にしようとしたが、口が痺れたように動かない。 

 ……おかしいな。銃弾は防いだはずなんだがな。

 意識が……不明瞭に……なっていく……

 

 ――パァン! 

 

 と、破裂音が響いた。

 

 ――パァン!

 

 破裂音が再び響き、バスの後方で大きな爆発音。

 気が付けば、レインボーブリッジの横をヘリコプターが飛んでいることに気が付く。

 誰が乗っているのかは不明だが、UZIを乗せたスポーツカーを完全に沈黙させたようだ。

 

「――私は一発の銃弾」

 

 と、そんな声が不思議と鮮明に聞こえた気がした。

 

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない――」

 

 まるで呪文のように、それが射撃のトリガーであるかのように……

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

 ……見えないが、オレには見える。

 ヘリコプターの搭乗した狙撃手(レキ)が、ドラグノフ狙撃銃(SVD)を構える姿が――オレには見えた。

 

(……もう、大丈夫……だな)

 

 任務完遂率100%の狙撃音を聞きながら、オレは意識を落とした。

 




 実はむっつりであることが発覚したカイト。
 そして、軽く覚醒状態に……

 あの状態でレキの登場って安心要素の塊だと思うんですよね。
 こりゃあ、カイトも安心して意識を落としちゃうわな……って。

 
 とまあ、原作とは違ってアリアは傷物になりませんでした(言い方)
 
 次回は休息回? になると思います。ではっ!
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