その不知火の態度に提督は激怒するが、榛名の制止により矛を収める。
そして榛名は、大淀の許可のもと不知火との演習を開始する。そこで明らかになる不知火の思いとは。
「演習場」
そこは日々艦娘たちが各々の弱点を補うために鍛錬する場である。しかし、今この鹿屋基地の演習場では形容しがたいほどの殺意と闘志がにじみ出ており、かなり緊迫した雰囲気が展開されている。
「逃げずに来ましたね」
「駆逐艦相手にアタシが逃げるとでも?ハッ冗談も大概にしろよ」
金剛型戦艦三番艦の榛名はそう言って演習相手である陽炎型「駆逐艦」不知火を睨む。
「さっきは提督がキレてたから我慢してたが、やっぱムカつくわ、お前。」
手の関節をバキバキ鳴らしながら榛名はそう言い放つ。
「不知火は別段間違ったことを言ったつもりなど毛頭ありませんが?」
そういう不知火は片方の口の端を吊り上げ、嘲笑する。
「…………あっそ」
話しても無駄だと悟ったのか、榛名は戦闘態勢に入る。
不知火も戦闘態勢になる。
「……それでは、演習始め!」
演習が始まると2人はお互いに円を描くように回りながら徐々に距離を詰めていく。
「ッ!!」
先に仕掛けたのは不知火。周回をやめたかと思うと急に止まった不知火に混乱する榛名。その一瞬のスキをついて不知火は猛スピードで榛名へ襲いかかる。
「ハッ!!」
その気迫のこもった掛け声とともに拳を繰り出す不知火。
そしてそれを両腕を自分の前でクロスさせ受けの姿勢をとる榛名。
しかし、その時にわかに信じられないことが起きた。
「?!」
ガアァァァン!!!!
艦娘とは軍艦の生まれ変わりである。そのため只の人間よりも身体能力が高くなっている。しかし、やはりそれは艦娘の間でも差は生じてくる。船の大きさと火力に比例し、その艦娘の身体能力が大体分かるようになっているのだ。
だから、不知火のような駆逐艦はどれだけ優秀でも15、6歳程度の男子の力ぐらいしかないのに対し、榛名のような戦艦は軍人でも勝てないほどの力を持つ。しかも、榛名は「はぐれ」の艦娘である。通常のスペックは発揮できないものの、「別の部分」では他の艦娘を圧倒している。それは「戦闘術」である。
「な、……………」
「何が、おこった………?」
呆然とする提督と大淀。この2人は今自分たちの目の前でおこったことに頭の整理が追いついていない。
そう、たった今不知火の拳が榛名を吹っ飛ばしたのだ。
「…フッ、おもしれぇ。」
だが、吹き飛ばされた当の本人は不敵な笑みを浮かべていた。
「(あの駆逐艦にしてはありえない力…やはり、あいつは…)」
「敵を前にして考え事とは余裕ですね、『出来損ない』さん?」
「へっ、流石にそうしつこく言われると慣れちまうなぁ」
二人はそうして会話をしながらお互いの隙を探して激しい攻防を繰り返す。
「確かに、アンタは普通の駆逐に比べたら『力は』あるかもなぁ。」
「?何を…!!!!」
「こういう事だよ」
不知火が気づいた時には既に遅く、榛名は不知火の頭を掴み海に叩きつけたのだ。
ドッパァァァァン!!!
どでかい水柱をたてた不知火は何回か海上をバウンドして榛名から少し距離を置いたところで立ち上がる。
「どうして…戦艦であるはずの貴方が駆逐艦の私より早く動けるはずが…!!」
「なーに一人でべらべら喋ってんだよ」
またも不知火は榛名の接近に気づかず腹に戦艦の重い一撃がはいる。
「ッガハァ……」
榛名が自分の拳を引き抜いた瞬間、不知火は膝から崩れ落ち海の上に倒れ込んだ。
「あーちょっとスッキリ」
榛名はそう言いつつ不知火に方を貸し提督と大淀のいる波止場へ向かった。
「………ここは?……」
不知火は気がつくと白い天井が視界に入り、ここがどこかの部屋であることを察する。辺りを見回すと見覚えのある家具が置いてある。
「あ、目を覚ましたね。気分はどうですか?」
声のするほう見るとそこには大淀が立っていた。
「ここは今日から不知火さんのお部屋になる所ですよ。ほら、あなたの持ってきた荷物が運ばれてるでしょ?」
「そう、ですか…」
「お、目覚ましたみたいだな。」
今度は提督が部屋に入ってきていた。
「どうだ、戦艦に一発入れられた気分は?」
提督はニヤニヤしながら不知火に聞く。
「…すくぶる気持ちが悪いです。まだ頭がズキズキします。」
「はは、結構エグかったもんな。」
「確かに、あれは見てるだけでお腹が痛くなりました…」
「むしろアレ受けて骨が一本もいってないって…」
「だって、ソイツ『はぐれ』だもん。提督も大淀もさっきの演習見て薄々気づいてたんだろ?」
部屋の扉の前には腕を組んで壁にもたれかかる榛名がいた。
「あんな戦闘、普通の駆逐じゃ無理だ。でもソイツにはそれができちまう。つまり、お前はアタシといっ…」
「……ふざけるな。」
先ほどの演習で見せたものとは段違いの「殺気」を放つ不知火。
「私が、あなたと同じ『出来損ない』だとでも……?」
「そうよ。てゆーか、アンタが一番分かってんじゃないの?自分がほかとは『違う』ってこと」
「ッ!!」
「.ほーらやっぱり。」
「…なるほどな。不知火、だからお前は『答え』を見つけるためにあえてここへの転属を『志願』したんだな。」
「どうしてそう思うのですか…」
「ついさっき、お前の元いた呉鎮守府から一通の手紙がきた。」
「え…?」
「呉鎮守府から手紙って聞いた時は俺なんかしたっけとか思ったけど、中身見たら納得したよ。」
提督はそう言うと不知火にその呉鎮守府からきた手紙を渡す。
「お前の元上司、いいヤツだったわ」
提督は不知火の部屋を出ていき、それに大淀も続く。
「………」
榛名は何か言いたげにしたが、提督の無言の制止がかかり、しぶしぶ部屋をあとにした。
「なぜ手紙なんか………」
その手紙には、当時の自分の上司だった「司令」からの不知火が悩んでいたのに関わらず何も出来なかったことへの謝罪と、新しい場所でも頑張って欲しい、ということそして、
「ッ!!!!」
「答えを見つけてこい、俺達はいつでもお前の見方だ。」
という一文が書かれていた。
「……司令……」
不知火の元司令が「.答え」について知っているということは、彼女の僚艦であり姉妹艦でもあった「陽炎」が不知火の知らないところで司令と共に動いていたことを暗に示していた。
「………ありがとう。」
そうポツリトつぶやいた彼女は、かつての仲間達の思いを胸に抱き、新たな一歩を踏み出す決意をしたのであった。