世界に痛みを(嘘) ー修正中ー   作:シンラテンセイ

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疑わしきは罰せよ

 周囲は閑散とし、地平線の彼方まで砂漠の光景が続いている。

 そんな猛暑の地獄と化した砂漠の真っ只中にルフィとクロコダイルが向かい合うように佇んでいた。

 

「愚かだな、麦わらのルフィ」

「ん、何がだ?」

 

 その顔に嘲笑を張り付け、クロコダイルは体をこなすルフィに蔑みの言葉を放つ。

 

「あの地下室で俺と戦ったあの男を連れてくれば良かったものを」

「……それじゃ駄目なんだ」

 

 真剣な表情でルフィは立ち上がる。

 

「何、言ってやがる?あの男と共闘して戦えば万が一にも俺に勝てたかもしれないというのに」

 

 クロコダイルは愉し気にルフィを見据える。

 その顔には余裕の笑みを浮かべ、ルフィを格下だと完全に舐め切っていた。

 

 

「アキトはアラバスタ王国に辿り着くまで何度も無茶してきたからな」

 

「俺は皆の船長だ」

 

「船長ってのは何時でも率先して戦わなきゃいけない」

 

「アキトにばかり頼ってちゃいちゃいけないんだ」

 

 

 

「……だから、お前は俺が倒す」

 

 どこまでも真剣な表情でルフィはクロコダイルへと相対し、己の拳を掲げる。

 

「遺言はそれだけか、麦わらのルフィ?」

 

 ルフィの足元に現れるは小さな砂時計

 

「三分だ、それ以上は手前ェの相手をしているわけにはいかねェ」

「ああ、いいぞ」

 

 彼らを妨げる者はおらず、ルフィとクロコダイルの両者は砂漠のど真ん中で相まみえることになった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 ルフィがクロコダイルを倒すべく、"レインディナーズ"に備え付けられている地下室で閉じ込められていた時のことだ。

 

 今やルフィ達の眼前には砂嵐の猛威が地下室に備え付けられた部屋を大きく振動させていた。

 その猛威を一身に受けるはビビを腕に抱えたアキト一人であり、彼らの姿は砂嵐に隠れ、依然として見えない。

 

「お前ッ!よくもアキトとビビを!」

「くはは、怒り心頭な様子だな、麦わらのルフィ?」

 

 クロコダイルは両腕を大きく広げ、愉快気に笑う。

 実に愉し気に、信頼など下らないとばかりに

 

「何を怒っているのかは分からねェが、奴なら生きているはずだ」

 

「俺も腐っても能力者。この密室と化した地下室で全力を出せばどうなるかは分かっているつもりだ」

 

 無論、先程の攻撃は手加減された一撃だ。

 あの程度の攻撃で危険要素であるビビを消すことができれば僥倖、クロコダイルはその程度の認識で攻撃をしたのに過ぎない。

 

「……?」

「よく見てみるがいい。砂嵐が不自然な程に勢いを失っていくぞ」

 

 見れば先程まで猛威を振るっていた砂嵐が縮まり、圧縮され、徐々にその姿を小さくしていく。

 余りにも不自然な程に

 

「砂嵐が……」

「小さくなっていく……?」

 

 ルフィ達の驚愕を他所に、目の前では砂嵐がその勢いを急速に失っていった。

 天井に届く勢いで猛威を振るっていた砂嵐が今ではルフィ達を閉じ込めている檻の大きさまで縮まり、やがて人並みの大きさまでに収束していく。

 

 そして、遂に砂嵐は周囲に霧散し、完全にその姿を消失させた。

 辺りに砂が霧散し、アキトとビビの2人の姿が現れる。

 

「大丈夫だったか、アキト……ッ!?」

「……!?」

 

 ルフィ達は思わず言葉を失う。

 

 見ればアキトの左腕の肘より先の服は無残にも破れ、掌からは決して少なくない量の血が流れていた。

 垂れ落ちる血は床を赤く染め上げ、血溜まりを作り出していく。

 

 アキトは肩を苦し気に上下させ、息を切らしている。

 服の襟も無残に破れ、大胆にも大きく胸元を開けていた。

 

 羽織っている服もボロボロの状態であり、至る箇所が砂嵐の猛威の影響で傷付き、服が服の役割を果たしていなかった。

 

「くはは、生きていたか。流石だな」

「ア、アキト……」

 

 クロコダイルの予想通りアキトは生きていた。

 決して浅くはない傷をその身に受けながらも

 

 ナミは口元に手を当て、アキトの惨状に顔を真っ青に染め上げる。

 ウソップ達も同じように言葉を無くす。

 

「─」

 

 アキトは何も応えない。

 顔を伏し、表情は伺えない状態だ。

 

「どうした、先程までの覇気がないな」

 

「だが、大したものだ。この密閉した空間で俺の砂嵐を無効化するとはな」

 

 珍しくもクロコダイルはアキトに対して賛辞の言葉を放つ。

 事実、クロコダイルはアキトの実力を買っていた。

 その胆力と実力に

 

「……いた」

「……あん?」

 

 そんな緊迫した状況でもアキトは流暢に口を動かす。

 

 

 

 

 

 

 

「……片腕でも止めきれないとは少し、驚いた」

 

 アキトはその場に悠然と構え、ビビを右腕で抱えながら砂で汚れた服を血で濡れた手ではたく。

 

「くはは、強がりは止せ。その様子では説得力は皆無だぜ?」

「─」

 

 アキトは眉根を寄せながらも平静を装い、隙を見せないようにクロコダイルを静かに見据えた。

 

「その腕に抱える無能な王女様を守らなければ怪我を負う必要はなかったというのに、本当に馬鹿な野郎だぜ」

 

 アキトは静かに視線を鋭くさせ、ビビを抱える右腕に込める力を強めた。

 

「ビビは俺達の仲間だ。そこに助ける理由を問う必要はない」

「アキトさん……」

「くはは、それが貴様らの言う信頼というやつか」

 

 理解に苦しむぜ、とクロコダイルは嘆息し、アキトに背を向ける。

 

「そんなに仲間が大事ならば貴様らの言う"信頼"と共に此処で死ね」

 

 クロコダイルは口元に嫌な笑みを張り付け、今度こそルフィ達の前から立ち去っていった。

 

「くはは、何なら貴様らの仲間である"Mr.プリンス"を死体で持ってきてやろう」

 

 クロコダイルは最後まで高笑いを上げ、己のパートナーであるMs.ウェンズデーとともに地下室の扉を閉ざすのであった。

 

 

 

 

 

「アキト───!今すぐこの檻の鍵を開けてくれ───!」

「お願い、アキト!」

 

 その後、アキトはルフィ達の懇願を受け、先程奪った鍵で開錠しようとするも当然、檻が開くことはなかった。

 

 アキトは納得してしまう。

 あの悪趣味なクロコダイルが直に檻の鍵を渡すわけなんてなかった。

 

「偽物だな、この鍵は」

「何──!?開かない───!?」

「おいおい、どうすんだよ!?」

 

 ルフィ達の悲鳴を他所に、アキトは努めて冷静に現状を打開する術を思考する。

 

 強制的に破壊

 自分が能力者である限り不可能だ。

 

 ピッキング

 実質上、無理に近い。

 何故なら、そのための道具が存在しない。

 例え、道具がこの場にあったとしてもピッキングの技術を自分は有していない。

 

 現状、ルフィ達はかなり切羽詰まった状況に陥っていることをアキトは理解した。

 

「グルルルル……!」

「バナナワニが来やがった───!」

「アキト、後ろ!」

 

 アキトはこの場に現れた不届き者を排除すべく、鍵を握りしめた左腕を後方に勢いよく振るう。

 能力込みで放たれた鍵は途轍もない速度で飛び、後方のバナナワニの大きく開いた口内へと入り、瞬く間に突き抜ける。

 バナナワニの身体を激痛が支配し、その巨体は地に崩れ落ちた。

 

『……』

 

 バナナワニの不憫さにルフィ達はまたしても言葉を失う。

 

『グルルルル……!』

 

 しかし、続々とバナナワニ達がこの場にその巨体を現し始める。

 

まったく人の気を逆撫でるのが上手い連中だ

 

 アキトは無感動に後方へと振り返り、身体に力を入れる。

 

「ビビ、少し離れていろ」

 

 抱えていたビビを下ろし、アキトは静かに歩を進める。

 

「安心してくれ。此処より後ろには一匹も通しはしない」

「は、はい」

 

 背後からどこか気の抜けたビビの声が聞こえる。

 気のせいであろうか。

 ビビの声が少し上擦り、頬が上気している気がするのだが

 

「……ビビ、何頬を染めているの?」

 

 ナミの声もどこか底冷えを感じさせる程冷たく、後ろを振り返らなくても不機嫌なのが丸わかりだ。

 普通に怖い。

 

「えっと、何でもないのよ、ナミさん」

 

 アキトは後方から突き刺さるナミの視線から逃げるように、歩を進めた。

 

 

 

「"反行儀(アンチマナー)キックコース"!」

 

 しかし、想定とは異なり、バナナワニの軍勢はサンジの足にとって蹴散らされた。

 その後、一匹のワニの口から出てきたMr.3の能力によって開錠に成功することになる。

 

 干からびた身で必死に水を飲み干すMr.3をまるで"聖母の笑みを浮かべた"アキトとサンジの安心と信頼の説得により、ズタボロになった状態でMr.3が開錠に協力してくれたのである。

 

 開錠した後はサンジの蹴りによって何度も水面をバウンドしながらご退場頂いた。

 お勤めご苦労様でした。

 

 恨むならMr.3の能力を利用することを提案したウソップを恨んでくれ。

 だから自分は悪くない。

 

 アキトは人知れずゲスな思考に浸る。

 だがそこで終わるはずもなく、事態は更に悪い方向へと走った。

 

 クロコダイルとアキトの激突を皮切りに、バナナワニの暴走の影響を受けた地下室の壁が決壊したのである。

 

 ルフィの悲鳴を背後にアキトは本日何度目かの能力の行使を行った。

 

 

 

「サンキュー、アキト!」

「やっぱり凄ェな、アキトの能力は!」

 

 惜しみないルフィとウソップからの賞賛。

 対するアキトは疲労のあまり地に両腕をつき、顔を伏している。

 

キッツ、もぅマジ無理……

冗談抜きで休みたい

 

 今のアキトは真っ白に燃え尽きていた。

 流石にクロコダイルとあの此方が圧倒的に不利な状況でドンパチした後に、ルフィ達を含めた周囲の人間を水中から脱出させるのはキツかった。

 

「だ…大丈夫、アキト?」

「大丈夫ですか、アキトさん……?」

 

 アキトは自分の身を真摯に心配してくれるナミとビビに涙を流しそうになる。

 感激の余りアキトは2人を抱きしめたい衝動に駆られるが、自制した。

 普通にセクハラ案件であるのと同時に女性の身体に無遠慮に迫るものではないと考えてのことだ。

 

「……何故、助けた」

「何故も何も偶然お前がアキトの能力の効果範囲にいただけだ」

 

 お前らは少しぐらい此方を気に掛けて欲しい。

 アキトは切実にそう思わざるを得ない。

 

 その後、ルフィ達はスモーカーの恩情によりその場を離れ、チョッパーが引き連れてきた"ヒッコシクラブ"に乗るのであった。

 

 

 

 しかし背後から迫るクロコダイルの魔の手。

 その魔のフックはビビへと迫るもルフィがその間に入り、"ヒッコシクラブ"から飛び降りる。

 

 こうしてルフィはクロコダイルと対面するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 反乱軍の説得虚しく、ビビは広大な砂漠に佇む。

 先程ビビを最優先にすべくゾロ達が囮作戦を決行した。

 

 B・W(バロックワークス)の幹部達を混乱させ、バラバラにすべくカルガモに跨ったゾロ達が特攻したのだ。

 全員が顔を隠すように深くフードを被り、散開する。

 

 そのカルガモ達の中にはビビの相棒であるカルーの姿も。

 これも全て此方の計画通り。

 

 王女の相棒であるカルーに騙され、ゾロ達の中に本物のビビが紛れ込んでいると錯覚した奴らは走り出した。

 残るアキトは同じくビビの護衛。

 

 因みに反乱軍の説得に失敗し、ビビが踏み殺されようになった時も完璧に防御した。

 ジカジカの実に死角など存在しない。

 

 そして次なる行動に移ろうとしていたビビの目の前にウソップが現れたのである。

 周囲はどこか緊迫した雰囲気が漂っている。

 

「ウソップさん、証拠を見せて……」

 

「おいおい、俺を疑ってんのか?」

 

 ビビの懇願によりウソップが右手の手首に巻いたリストバンドを捲り、仲間の証拠を見せようとしたその刹那……

 

 

 

 

 

 

 

はい、ドーン

 

 情け容赦の欠片もない正面からの飛び蹴りが炸裂した。

 慈悲など存在しない顔面蹴りだ。

 言うまでもなくそれを行ったのはアキトその人。

 

「ほば……ッ!?」

 

 奇妙な悲鳴を上げ、ウソップは砂漠の地平線の彼方に吹き飛んでいく。

 何度もバウンドし、勢い良く転がっていった。

 

「……」

 

 見事な吹き飛び具合だ。

 ビビは唖然とすることしかできない。

  

いや、身体が万全の状態だったらあの数倍は飛んでたな

 

 アキトは得意げな様子でそう確信する。

 万全の状態であれば顔面は深く陥没し、このアラバスタ王国を大きく横断することになっていただろう。

 

「いやいや、可笑しいですから!?今、ウソップさんが仲間である証拠を見せてくれようとしていましたよね!?」

 

 堪らずビビはアキトに苦言を申し立てる。

 

「疑わしきは罰せよ、と言うだろ?」

「いやいや、それでも……!?」

 

 まくし立て、困惑するビビの両膝と両脇に手を差し入れることで抱え上げ、アキトは走り出した。

 アキトがビビの言葉に耳を貸すことはない。

 

「安心しろ、ビビ。何も根拠なくしてウソップを蹴り飛ばしたわけじゃない」

 

アキトさん、噓をつかない、信じて

 

「根拠は全部で3つ」

 

「先ず一つ目は、俺がビビの傍にいるにも関わらずこの場に増援として現れたこと」

 

 ビビの護衛はアキトが請け負うことは決まっていたことだ。

 それにも関わらずウソップが増援に来たことは辻褄が合わない。

 

「二つ目は余りにもタイミングが良すぎること」

 

 先程敵を錯乱させるために散開したばかりだというにも関わらずこのタイミング。

 余りにも出来過ぎている。

 

「そして最後に……」

 

 

 

「乙女の顔を容赦無く蹴り飛ばすなんて男の風上にも置けないわねーい!」

 

うわ、来た

 

 爆走しアキトとビビに迫るはオカマであるMr.2。

 相変わらず奇抜な服装をしている。 

 

「うわ、来ましたよ、アキトさん!?」

 

 幹部の登場に焦りを見せるビビ。

 だが心配ご無用。

 

「安心しろ、ビビ。何があってもビビのことは俺が守る」

 

 ビビを無事、最後まで守り抜く、それが自分の任務だ。

 身体が万全の状態ではないとはいえ、ビビの護衛くらいこなしてみせる。

 

「……あ、ありがとうございます、アキトさん」

 

 予想外のビビの反応にアキトは戸惑う。

 見れば彼女は照れ臭そうに頬を赤く染めていた。

 

「……」

 

 アキトは目覚まし代わりにビビの頬を数度ペチペチと叩く。

 

「はっ…!何ですか、アキトさん!?」

 

 ビビは何とか意識を覚醒させる。

 顔が少し赤いが大丈夫だろうか。

 

「最後の根拠だが、それは……」

 

 

 

 

 

「ウソップがあんなにカッコ良く敵陣営の真っ只中に登場するわけがないことだ。」

「あ。(納得)」

 

 アキトの言葉に思わず納得してしまうビビであった。

 

─こうしてアキトとビビのオカマとの砂漠の鬼ごっこが始まった─




疑わしきは罰せよ、それがアキトさんの至言の一つです
この頃のルフィが一番カッコ良かった(作者の主観)

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