違う制服を着た女の子二人が学園の校門をくぐってすぐ、中に入ることなく立ち尽くしていた。
白亜の校舎を前に、五名の武具を携えた女子たちが立ちふさがっていたからだ。鎖鎌、尺杖、薙刀、十手、分銅鎖などずいぶん個性豊かだが、どれも本物の凄みを持っている。
その女子たちを前にしている二人のうち、一人は、紺色のブレーザーとグレーのスカートを着ていた。150センチもないのでは、と思えるような体格に身長の倍近い長さを持つ藍色の布袋と大きな旅行カバンを携えていた。長く白い鉢巻を巻いて、あまった部分が短い髪の毛のかわりに後ろでゆらゆらとそよ風に揺れている。
もう一人は、白いセーラー服に黒いスカート。連れとは反対に170センチを大きくこえて、180に届きそうな背の高さだ。髪はまるでホラー映画にでてくるように顔を隠し、後ろ髪もまた無造作に伸ばしたままだった。右手にはレモンイエローの小洒落たトートバッグが下げられている。
「ともぞー、学園は安全じゃなかったの?」
背の低いほうが、長い布袋から中身を取り出す。
それは、長い、長い槍だった。彼女の身長よりも長い。
柄は漆もぬられていない、木の地肌が露なもの。
穂先は巣槍だが、刃はついておらず木の穂先になっていた。
「……さぁ、興味ないし」背の高いほうは、そっけない返事を返すとトートバッグから短刀を模した木刀を取り出す。「で、真里菜、こいつら殺っちゃっていいの?」
「やっちゃっていいって……相変わらず剣呑だね、あんた」
真里菜、と呼ばれた女の子は、眉をひそめてドン引きしていた。
「おまたせ」
そんな真里菜を無視して、ともぞーは短刀を半身に構える。
「って、あたしらなら無手でも負けるとは思えないけど」
ひゅ、と槍を上段打ちから正眼に構える。
鎖を振り回す風切り音が鳴り出すと、二人の前に立っていた五人は一気に広がって半円に二人を取り囲んだ。
「「ぃえええええええいいぃっ!」」
まず、分銅鎖と鎖鎌の二人が、それぞれともぞーと真奈美に向かって獲物を振るう。
どちらも人を殺せる本物だ。当たり所が悪くなくても骨折は免れぬ代物なだけに、それぞれ手加減をしているのだろう。
分銅鎖はともぞーの腕、鎖鎌は槍へと各々武器を振るう。
素人ならよけることもままならないが、二人はそれぞれ自分の獲物を巻き取らせ、手放す。
「なっ!」
誰かが声を上げたが、そのときには真里菜は、ともぞーに向かってきた女生徒の間近に迫り、
「ふひ?」
ともぞーは鎖鎌の腕を取って足元に転がし、立ったまま足一本で右腕間接を極めて地面に這いつくばらせる。そして、開いた手で分銅鎖の腕を取って立ち脇固めで左腕を極め、
「ね、折らせて。いいよね、ね?」
骨を折る寸前で止めている。
間接を極められた二人は、痛みのあまり声も出せずに脂汗を流していた。
「だからともぞー、いちいちあぶないのよあんた」
「いやだって、本気で命獲りに来たんだ。嬉しいじゃないか。ヒヒ、本気で命獲りに来たから、腕ぐらい折ってもいい。だよね? だって、殺される覚悟がなきゃ、殺しになんてこないもの。だから、ね? いいよね、折るよ? 折っちゃうよ?」
髪の毛の下で、にやぁ、と歯をむき出しにして口をVの字に曲げる。
「「――っ!!」」
二人は火箸を突きこまれたような灼熱の痛みに抗い、声のない声をあげる。
「ぃひ、ぃひひひ、二人ともい~い声だぁ。折るよ、折るよ? 折っていいよね? 殺されそうになったからいいよね?」
一瞬、無表情に変化して、牙を剥いて嗤う。
「折っちゃう♪」
きひ、と女の子らしからぬ笑いをあげると、ともぞーは取った分銅鎖の左腕と鎖鎌の右腕を折ってしまう。
「ぎゃいいぃぃっ!」
「いいぃぃぃぃぃっ!」
折られた女の子は、ばたばたと暴れる。
「いい、いいよぉ、あははははは、折った、折ったよ! 折った! きひぃ、ひひいいぃぃひひひひ」
折ったことで満足したのか、女の子を技から開放すると愉悦の中で天を仰ぎ大笑いする。
「まぁ、こういうやつだから、あんたら、逃げたほうが……」
そう真里菜が言うまもなく、残りの三人が一斉に彼女に飛び掛る。
一度にかかって制圧するつもりなのだ。
それは正しいことだった。
薙刀が左から脛、尺杖が右から首、そして正面から十手が襲いくる。なるほど、普通なら絶対によけられない。まして、ともぞーの体躯ではなおさらだ。
――いや、だから甘いって。
はぁ、とため息をついて首をふった。
まるで風に吹かれた蚊取り線香の煙のように真里菜の体がゆれる。少なくとも、三人にはそう目に写った。
靴下が切れ、前髪が数本、尺杖に絡みとられた。
そして次の瞬間、十手持ちは、獲物を持つ右手の肘間接をはずされていた。悲鳴を上げる暇もなく、その場に崩れ落ちる。
ほぼ同時に、だん、と薙刀の柄を踏みつけて動きを制するや否や、尺杖を手にとって軽く下方向に力を入れてくい、と回転させ、使い手をつんのめるように地面に転がした。
「ほら。甘い。三人ともさ、数に頼るからこうなるんだよ。同士討ちを回避するために、半円になってやってきたのは褒めてあげよう」
薙刀使いのあごをつま先で蹴り上げ、瞬間で脳を揺らして気絶させる。
スカートの中は、紺のスパッツだった。
「でもダメだ。サッカリンのように甘すぎるよ、キミたち。かなわない敵にあったら逃げて仲間を呼ばないと」
地面に転がる尺杖使いを裸締めで瞬時に落としてしまう。
「ところで、どうして転校手続きも始まる前に、私達は襲われたんだ? ともぞー、何か知ってる?」
「しらない」
地面に落ちた小太刀を拾い、トートバッグに戻しながら答えた。
腕を折った時の異常さが、気持ち悪いぐらいに消えうせていた。
「ですよねー。委細は江戸に聞くしかない、か。しかし、なんなんだろ。御三家全員呼び出すなんて」
「でも、楽しい。こんな学校なら、私、ずっと留年したい」
ひひ、と嗤う。
「あたしはとっとと卒業してここの連中をたたきなおしたいけどね。それじゃあ、転校手続き、すませにしきますか」
二人は、地面に転がる生徒達を無視して、校舎へと向かうのだった。
ためしに、二話目をあげてみます。pixivのほうは削除します。