皆は鶴の恩返し、というのをご存知だろうか?
多分誰でも知ってるとは思うが…まああれだ、鶴を助けたらその鶴が人の姿で恩返しに来て、「絶対に覗くな」と言われたけど好奇心で覗いてしまって正体がバレた鶴は泣く泣く野へ帰っていった…というやつだ。
ん?なんでそんな話をするのかって?
それはだな、俺の身に起こったある事を今から語るからさ。それに関連してる訳よ。
んじゃ、始めるぞ。
あれは確か、1ヶ月…いや、半月くらい前のことだったかな…
***
雨が降る。
ざんざか降る。
もう止めてクレメンスと言いたいくらいに降る。
正直言ってもう8月だ、台風でもないのに今更梅雨のぶり返しとかやめて欲しいと感じるこの頃。
「…へっ、へっくち!うう…エアコン当たりすぎたか…?」
俺、
このざん降りの雨の中、そこを歩く俺の目的はただ1つ。魔法のカードをコンビニに買いに行くことだ。夏と言えばソシャゲの回収時。魅力的なあれこれが多いためについつい小遣いをつぎ込みたくもなるのも道理ではないだろうかいやない(反語)。
しかし、いざ外に出てみれば真夏にも関わらずやたら寒い。涼しいを通り越して寒いのだ。いくら服装が半袖とは言え勘弁してくれほんと。
「うーさむさむ…夏だろおい…」
そう愚痴っていると。
にゃー。
「ん?」
猫の声がしたので周りを見渡す。が、パッと見だが野良猫なんてものはいなかった。
では足元か、と見ると…いた。『ひろってください』の文字が書かれたダンボールの中に、茶色の毛をした、子猫という程ではない、でも年寄りというわけでもなさそうな猫。どうやら捨て猫らしい。
「……今時捨て猫かよ…」
そんなもの無視して先に行こう、とも考えたが…何故だろう、この猫を放っておこうとは考えられなかった。
にゃー。
弱々しい声で猫が鳴く。
俺を警戒はしてないらしい。人懐っこいのか、警戒するほどの体力もないのか。
「…俺は竹内健太。お前は、なんて言うんだ?」
…みゃ?
…なにそれ、と言いたげな猫。
つまり名前はまだ無い、と見た。
「…よし、じゃあお前は今日から『タマヨ』だ。どうだよ?」
ああ、なんとまあ捻りのない名前なのか。テンプレを弄っただけじゃん。いやー自分のネーミングセンスの無さに辟易しちゃうねまったく(白目)。
…みゃあ♪
弱々しくも、嬉しそうに鳴く猫。
気に入ってもらえたらしい。良かった良かった。
……ああ、でも。そんな声されたらそれこそ本当に放っておけないじゃねぇか。
俺は勢いで傘をダンボールを覆うように置き、
「ちょっと待ってろタマヨ、今メシ買ってきてやっから」
と言って俺は魔法のカードのことをすっかり忘れ、近くのドラッグストアまで冷たい雨に濡れながら全力で走った。
目的はもちろん、あの猫…タマヨのための猫缶だ。
***
「ぜー、はー、おい、猫缶、買ってきて、やったぞ…」
数十分後、俺はびしょ濡れで猫の元まで戻ってきた。
息は絶え絶え、そして右手にはドラッグストアで買ってきた猫缶(安物)が入ったビニール袋。
とりあえず俺はその袋から缶を取り出し、蓋を開けてタマヨに与えた。
にゃあ~。
タマヨは嬉しそうな声で猫缶の中身を食べる。
こちらとしても、それだけ嬉しそうだとこっちも嬉しくなる。猫相手だけど。
…しかし、勢いで餌付けしたりしたが、これからどうしたものか。
ここに放置?…いや、ここまでしといてそれは無いだろう。このまま雨ざらしというのも可哀想だし。それに、折角名前も付けたのだし。
じゃあ、連れて帰るか?…それしかないかもな。他に手はあるかもしれないが、今の俺にはそれしか思いつかない。
…まあ、親にドヤされるかもしれないがな!
ならばと傘を手に取り、ダンボールを抱える。
にゃあ?
タマヨは不思議そうな声を出す。
「…もう大丈夫だからな。安心しろよ、タマヨ」
そう言って俺は再び走り出した。今度は、家だ。
***
その後、家に帰りついた俺は当然ながら出迎えた母に叱られ、さっさと元に戻してこいというテンプレ発言をかまされ、それに対し俺はじゃあせめて雨が止むまで、と言って何とかタマヨを家で休ませる許可をもらった。
そして、俺はタマヨを風呂場に連れていき、ずぶ濡れになった俺共々シャワーを浴び、それからしばらくリビングでタマヨを可愛がっていたら雨が止んだ。
「あー…ここまでか。悪い、もう相手出来ねぇや」
…みゃあ?
タマヨは、「なんで?」と言いたそうに鳴く。
「ウチさ、別に誰もアレルギーとかがある訳じゃないんだよ。でも親が2人とも動物嫌いで。俺もお世辞にも動物好きって訳じゃないから。
…それに、雨が止むまでって約束だから。悪いな」
………
タマヨは鳴かない。
俺も、何も言わない。
言えば、寂しくなるから。
そして俺はベランダの窓を開けて猫を外に放つ。
「じゃあ、タマヨ。元気でやれよな」
…にゃあ。
タマヨは少し悲しそうに、そして寂しそうに鳴き、塀を飛び越え走り去って行った。
…ああ、なんか寂しいな。別に、たった数時間だけなのに。ただ、名前を付けてあげただけなのに。なのに、何故かやたらと寂しさを感じた。
…未練がましい?いや、違うか…。
その時の俺には、まだわからなかった。
***
翌日。
朝、目を覚ます。
『みゃあ♪』
「…!!」
あいつ(タマヨ)の声が聞こえた。
そう感じた俺は飛び起きて周囲を見渡すが、当然あいつはいない。
「…はあ、なに幻聴聞いてんだ俺」
やはり未練がましいのだろうか、俺。
というかどうしてあいつの姿が頭から離れないのか。あれか、運命か何かか?別にそんな運命いらんのだが。
「…ま、どうとでもなるか、それくらい」
とりあえず、そう考えることにした。
…まさかこの考えが、数時間後に甘いと知ることになるとは思わなかったが。
***
数時間後。
ピンポーン。
「ん、お客さんか」
まあ、お客さんだから何と言うわけではない。親いるし。
というわけで再びパソコンに向き直す。
ドタドタドタ!!…バンッ!
すると凄まじい勢いで母さんが部屋に入ってくる。
「!!?どうした母さん!?てかノックくらいしてくれ!」
「そんなことどうでもいいでしょう!?というか健太アンタ…」
「な、何さ」
今の母さんからはなんというか、殺気?怒気?というより…何だろう、よくわからないが凄まじいオーラ的何かを感じる。一体全体どうしたのか。
「アンタ…女の子の友達いたのね!その子が来るなら来るって言いなさいよこっのー♪」
「………はい?」
ちょっと待て、女の子の友達?
誰だそれは。
俺のようなザ☆陰キャオタクに女子の友人とかいる訳なかろう。詐欺かなんかでは?
「さ、ほら友達を迎えに行った行った!」
「え、あちょま」
待ってとすら言えずに下の玄関まで連れ去られる俺。
そこには。
「やーケンター!元気してた?してた!?」
茶髪のショートヘアの快活そうな女の子が1人。そして見た目だが…うん、ハッキリ言って美少女だ。体型よし、性格も悪そうではないし。
少なくともこんな美少女の友人がいる覚えはないね俺。
「え、あのどちら様「ひどーい!私のこと忘れたの!?私だよ、
だからそんな女子と知り合いになった覚えはねぇつってんだろ!?
「まーまー健太も珠代ちゃんもとりあえずくつろいでって!ほら健太!アンタの部屋行きな!オラッ!」
「理不尽っ!?」
「おじゃましまーす!」
そのまま俺は母さんによって部屋に押し込まれた。
***
「で、どちら様よあんたは。俺はあんたのような美少女の知り合いはおらんぞ」
押し込まれたマイルーム。そこのテーブルを囲むように俺は珠代なる少女に質問していた。
「そんなケンタ…美少女だなんて…えへへ」
「いやだからあんたは誰だって聞いてんの!?」
「えーどうしよっかなー?」
「いや教えろよください!?」
コイツ…なんてマイペースなのか。
「んー、せっかくのケンタのお願いだし、教えてあげるよ!」
「お、やっと教える気になったか。ならあくしてくれ」
「うん、えっとねー…んーよいしょっと」
…ポン!
ん?なんか音がした?
と、珠代を見ると…
「えへへ、どうかな?」
…その頭には、何故か猫耳が付いていた。しかもピコピコ動いてるし。
よく見ると尻尾もついてる。ちゃんと動いてるし。
「……へ、へぇーよくできたコスプレグッズだなー!凄いなー!」
「コスプレじゃないよ!本物だよー!」
「嘘を言うなぁ!じゃあなんだそれは!?擬人化猫娘だとでも言うのか!?」
「ぎじんか?ってのはよくわかんないけど…とにかく、私だよ!」
「だっから私って誰だよ!?」
「私だよ、猫のタマヨだよ!」
「そうかよ猫のタマヨかよ………ん!?」
えっちょっと待って、タマヨ?
タマヨって、あの昨日の!?
「おいまさか…昨日の、あのタマヨか!?」
「そうだよ!とにかく、よろしくね!」
「お、おう…よろしく…」
…ああ神様。そんな運命いらんのだがとは思ったけど。
…まさか擬人化猫娘になって来るという運命はもうわけがわからなくなるのでNG……。