助けた猫が擬人化して愛してくるのだけれど。   作:アルトルト

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第四話 猫娘と自分の思い。

走る、走る、走る。

 

紅く染まり始めた夕空の下、あいつを、珠代を探して走り続ける。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁーっ……」

 

息が苦しい。

普段から運動しないせいだろう、走れどもすぐに息が切れる。

それに、足も痛い。

 

……けど、そんな泣き言は言ってられない。

俺はあいつに、酷いことを言ってしまったのだから。

 

「はぁっ、あいつ、どこに、いるんだ、くそっ」

 

足がふらふらしてきたが、気にしない。

そんな事気にしてたら、あいつを見失ってしまう。猫はすばしっこいからな。

 

手当り次第に走り回る。

モール、公園、商店街、駅前…。

とにかく、めぼしい所は走って走って走り回った。

 

……けど、珠代はどこにもいなかった。

 

「くそっ、なんで、どこにも、いねーんだよ…」

 

息が上がりっぱなしだ。

胸が苦しい。苦しくてたまらない。

だけど。

 

「次だ、次…!」

 

あいつを見つけるまでは、止まれない…!!

 

***

 

走り始めてからどれ位が経っただろう。

もう日は沈みきり、暗い夜の闇に包まれている。

 

探しても探しても見つからないあいつ。

そいつをとうとう、見つけたのだ。

 

「………ケンタ、どうして来たの?」

「決まってる、はぁっ、お前が、心配だからだ、よっ」

 

場所は、あの雨の日に、俺と珠代…もといタマヨが初めて出会った道だった。

 

「……心配とか、本当はしてないんでしょ?」

「んなことねぇ!信じられないかもしれねぇが、心配してた、ずっと!」

「…そんなの、信じられると思う?」

「うっ…そ、それは…」

 

珠代が、俺の言うことを否定してくる。

なんでだ、どうして俺の言う事をわかってくれない?

心配してたんだ、お前に会いたいって思ってたんだ。

なのに、どうして?

 

「……ね、ケンタ。ちょっとだけ、昔話をしてあげる」

「え?昔話…?」

「うん、それはね。ある一匹の猫のお話…」

 

***

 

ある所に、ある一匹の猫がいました。

 

その猫は名前もなく、愛されることもなく、そのまま捨てられてしまいました。

 

捨てられてから数日。

天気は雨だし、お腹はペコペコで、もう倒れてしまいそう。そんな時でした。

 

ある1人の人間が、助けてくれたのです。

 

その人はご飯をくれた。

その人はシャワーを浴びさせてくれた。

その人は、自分を可愛がってくれた。

 

たった数時間でも。

それだけでも、その猫には、たまらなく嬉しくて。

その猫は、その人とは別れてしまったけど。

その人に恩返しがしたい。その人の役に立ちたい。

ーーその人と、愛し合いたい。

 

そう、思ったのです。

けれど、自分は猫。あの人は人間。そもそも愛し合う以前に、言葉を交わすことすらできません。

 

ああ神様、願わくば私を、人の姿にしてはくれませんか。

 

猫がそう強く願うと、目の前が一瞬光り…

 

ーー気がつくと、自分は人の、少女の姿になっていたのでした。

 

なんという奇跡。なんという僥倖。

神の気まぐれか悪戯か。物理も何もあったものでは無いでしょう。

でも、そんな事はどうでもいいのです。

猫、もとい彼女は、これであの人と話せる。触れ合える。それだけでもう嬉しくて嬉しくて堪らなかったのです。

そして次の日。彼女は、愛しのあの人の元へ向かったのでした…

 

***

 

「………それって」

「…うん、私のこと。

嬉しかったの。こうやって、人の姿になれて。あなたと話ができるから。あなたと触れ合うことができるから。

…けど、あなたはそれを拒絶した」

「…っ!!」

 

嬉しそうに話していた彼女の顔が、悲愴に染まる。

…ああ、俺はなんて酷いことをしてしまったんだ…。

 

「あなたは言った。私が嫌いだって。

あなたは言った。私なんて鬱陶しいって。

……だから、私はもう、あなたの前には現れないつもり」

「…っ、待ってくれ!俺の話を…!」

「聞きたくない!!」

 

彼女が大きな声を上げる。

…完全に拒絶されてしまっている。これでは話をする余地もない。

 

「……もう、話すことなんて無いでしょ?じゃあ…さようなら。もう、会うことはないと思う」

 

そう言って彼女は背を向け、立ち去ろうとする。

彼女の背中からは、話しかけるな、と言わんばかりのオーラが出ているような気がする。

…とても、話しかけづらい。

 

…でも、ここで黙っているわけには、いかない。いかないんだ。

 

「……珠代!」

「…何?」

「明後日、この近くの寺でお祭りがあるんだ!その時、夜の7時に、寺の境内の裏手で待ってる!話したいことがあるんだ!大事な事なんだ!

…頼む!」

「…………」

 

彼女は答えない。

 

そして、俺の言葉に答えることなく、そのまま彼女は、闇の中へ去っていった。

 

***

 

その夜。

俺は部屋のベッドに寝転がりながらスマホを見ていた。

すると、ラインの着信。

どうやら祐介からのようだ。

 

『どうだ、言えたか?』

 

「……言えてるわけ、ないじゃん」

 

あれだけ拒絶されていたのだ、そんな状況で「愛してる」だなんて言えるほど、俺の精神は図太くない。

 

『なんだ、ヘタレかよー』

 

「……うっせー。人の気持ちも知らねーくせによー…」

 

デリカシーを知らんのかこいつは。

 

『すまんすまんw

で、予防策は張っといたか?』

 

「予防策?…ああ、夏祭りのことか。一応誘っといたぞ…っと」

 

『ナイスゥ(建前)ナイスゥ(本音)』

 

「…おっ、そうだな」

 

やはりこいつのノリは楽しいな、まったく。

 

『ま、今の状況がどうなのかはよくわかんねーけどよ。ここまで来たら当たって砕けろ、だ。頑張れよ!』

 

「おう、頑張るぜ。…それと、砕けたら意味なくね…?(笑)」

 

『それもそうかw』

 

…やっぱ、こいつ頼りになるわ。ホントに。

 

スマホをスリープモードにして、タオルケットを被る。

 

「……待ってろよ珠代、俺の気持ち、全部真正面からぶつけて、顔真っ赤にさせてやっからよ…!」

 

そんな覚悟をして、その日は眠りについた。

 

 

そして、運命の日がやってくるーー。

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