そして、2日後。
スマホの時計は17時半を示している。
俺はというと、普段服装にこだわらない俺としては珍しく服に気合いを入れた物を着て玄関にいた。
「健太?どっか行くのかい?」
母さんが呼び止めてくる。
「ああ、友達と夏祭りにね」
「へえ、いつもなら『めんどくさい』って言って行かないあんたが…」
「う、その事は言わないでくれよ…」(苦笑)
そう、普段なら俺はそんな陽キャ共の集まりになんて行きやしない。でも。
「でも、約束があるんだよ。だから、行かなきゃならないんだ」
「そうかい。…約束の相手って、やっぱり珠代ちゃんかい?」
「んー…そんなとこかな」
「……あれま。あんたがそんな直球で照れ隠ししないとはね…アタシの知らない所で成長してるってことかねぇ…」
失敬な。俺はいつも直球で照れ隠しなんてしないゾ。(大嘘)
「ま、とにかく。行ってくるよ母さん」
「おう、行ってきなバカ息子。がんばってきなよ」
「おうとも!」
さて、と…んじゃ、決戦の場に向かうとしますか。
***
ガヤガヤ、ワイワイ。
やたら気合いの入った服装のチャラそうな男に、浴衣姿の女性。
まさに夏のお祭りといった装いだ。
ここは俺んちの近所の寺。寺としては珍しく(?)河川敷に面していて、割と大きめなのもあり新年には近くの街からも初詣に来る人が多い。そのため、毎年三が日は一種のお祭りのようになる。
で、それと並んで毎年夏に地元の自治体と協力して夏祭りを開いているのだが、これがまた地味に大規模なのだ。
しかもしっかりというかちゃっかりというか、毎回毎回花火大会までしているのだ。これがまた派手でなぁ…これを目当てに来る人も多い。
そんな圧倒的陽キャ共の溜まり場と化した寺横の河川敷に俺はいた。
「ウィィィィ↑ッス、どうもー、祐介でぇーす」
「お、大物ユー〇ューバーかな?…まあそれはいいとして、オッス祐介」
「健太パイセンチッスチッス!元気してたかー?」
「もちろんだとも」
ついでに言うと、俺は祐介と合流する約束をしていたのだ。
…まあ、言うて珠代との約束の時間まで暇だからって理由だけど…。
「おっ、そうだな。
…それよりもぉ、おうおうリア充予備軍の健太くぅーん?覚悟は出来た?神様にお祈りは?境内の裏でドキドキしながら告白する準備はOK?」
「お、おう、もちろんだとも…」(震え声)
「ちょっと声震えてんよー」
そりゃそうだ、告白イベントはある意味一世一代の大イベントだ。むしろ緊張しない方がおかしいと思うんですけど。
「ま、緊張しない方がおかしいってわかってっから、俺。ま、暫く野郎2人で祭りを楽しもうや」
「…そうだな。男友達と行く夏祭りってのも、またいいもんだよな!」
「お前ホモかよぉ!?」
「な ん で さ ! ?」
結局いつものノリでした。
***
「ん、そろそろじゃね?」
「え、そんな時間かもう」
祐介の言葉でスマホを見る。
そこには…
「げえっ、もう50分じゃねえか!?走っても間に合うか…!?」
「おう急げ急げー」
「てんめぇ人事だからって…!後で覚えとけよー!?」
全力で煽る祐介を後ろに走り出す。
呼びつけておいて遅刻は流石にないだろう。
しかし…人が多い!
普通なら走って10分はおろか5分位しかかからないのに、人が多いせいで余計に時間がかかる。もどかしいことこの上ない。
結局、約束の場所である境内の裏手に着いたのは、18時59分。ギリギリである。流石に男として、そして呼びつけた側としてどうなんでしょうかこれは。
「はぁっ、はぁっ、あいつは…!?」
……まだ、あいつの姿は見えない。
時が長く感じる。
まだ1分どころか30秒、いや10秒も経ってないのに、もう1分経ったような気がする。
心臓が破裂しそうなくらいに高なっている。
もしも来なかったらどうしよう、来てくれたら何と言おう。そんな事を考える余裕すら持てない程に、俺の頭は緊張で一杯一杯だ。
……にゃぁお。
「……っ!!タマヨ!?」
そこには、暗くて良くは見えにくいけれど、あの日と変わらぬ茶色い毛をした猫がいた。タマヨだ。
そして一瞬目の前が光ったかと思うと、猫の姿は消え、1人の少女が立っていた。珠代だ。
その彼女は浴衣姿で。その姿は、とても美しくて。
…ああ、可愛いな。
そう、心の底から思えた。
「……ケンタ?大事なことって、何?」
「え?ああ…それは、だな…その…」
…ダメだ、緊張が前に出てなかなか言い出せない!
これじゃダメだ、ダメなんだ!
「……どうかしたの?何も無いなら、私帰るよ?」
「あっ、それは…待ってくれ、今言う、すぐ言う!
……ええっと…その…ああもう!」
言えよ、俺!
言うんだよ、お前が好きだって!
言え言え言え言え言えーーーっ!!!
「おっ、俺は…俺はっ!!」
「う、うん」
俺の気迫に珠代が気圧される。
そうだ、それ位の気迫で言うんだよ!インパクト重視だ!
「……俺はっ!お前の事がっ……!!」
「は、はい…」
あと一言!
一言なんだ!
言えーーーーーっ!!!
「……お前のことが、好きだっ!!!」
「…っ!!」
…………言っちまったぁぁぁぁ!!
あー恥っず!めっちゃ恥ずい!
…ええい、こうなったら恥ずかしさに任せて全部ぶちまけちまえ!
「俺はな、お前が好きなんだ!あの雨の日に初めて会った時から!運命を感じたんだよ!お前を見捨てて置けねぇって!よーするに一目惚れってことだよこんにゃろー!!」
「けっ、ケンタ…その、えっと…」
珠代は顔を真っ赤にしてアワアワしているが関係ない。
俺の思いをぶつけるだけだ。
「俺はっ、お前のことがっ、世界で1番好きなんだよっ!!」
「け、ケンタぁ…」
………言い切った!もう悔いなし!黒歴史確定でもいいんだよそれで!
「…え、えっとね、ケンタ?」
「……ん?」
「あのね…恥ずかしいよ…」
「………あ、すまん……」
……勢い任せ過ぎたか?
「で、でもねケンタ…その、ね?」
「お、おう」
珠代も顔を真っ赤にしてもじもじしている。
暫くして、彼女も意を決したようで。
すると。
「……私、とっても嬉しい!私も、ケンタが好き!大好き!!」
だきっ。
「うおわっ!?」
珠代が抱きついてきた。
え、ちょっと急すぎて心の準備が!?
嬉しいけどね!?
「…うぇぇぇん、嬉しいよぉ、ケンタぁ…私、怖くって…また、捨てられるんじゃないかって…でも、それなのに、強がっちゃって…嫌われちゃったのかもって…ひぐ、えっぐ…」
「た、珠代……」
すると、珠代が急に泣き出す。
……そういう事か。
彼女は元々捨て猫。また捨てられることを、恐れていたんだ…。
なのに、俺は…。
「……ごめんな、珠代」
「ふぇ?」
「酷いこと、言っちまった。
…悪かった。怒ってくれてもいい。殴ってくれてもいい…」
俺は、悪いことをしてしまったんだ。
…俺は、責められるだけのことをしたんだ。
だから…
「……いいよ、もう」
「…え?」
「許すよ、私は」
「なん、で?俺は、お前に…」
「酷いことを言った、って?そんな事ないよ。私、確かにあの時は悲しかったけど…でも、今はこうやって分かり合えたから。ケンタは、私のこと嫌いになんてなってなかったんだって…」
「…珠代…俺…ごめん…!」
「謝らないで、ケンタ…大好き」
「ああ…!俺も、お前が好きだ…!もう、離したくない…!!」
2人できつく抱き合う。
…ああ、幸せだ。こんな幸せになれるなんて、今まであっただろうか?
とにかく、今はこの幸せに浸らせてもらうとしよう。
どー…んっ
大きな音と共に、河川敷の向こうの空に美しい炎の花が咲く。
「…ん、花火…か」
「…きれい…」
「ああ…でも、お前の方がよっぽど綺麗だと思うぜ?」
「何その…なんか、ムズムズするセリフ?」
「こういう時はな、クサイくらいが丁度いいのさ」
「…そうだね」
そして俺たちは、ゆっくりと、静かに、そして、幸せを噛み締めるように。
……星空と花火が輝く中、キスをした。
暫くの間、キスを続ける。
…とても、幸せだ。
そして、唇を離し。
「…なあ、珠代。お前今、幸せか?」
「…うんっ!」
俺は、彼女に「幸せにしてもらう」という恩返しをしてもらったのだった。
「そういえば珠代、どうして浴衣姿で来てくれたんだ?」
「え、だって…お祭りって言ったら浴衣姿でしょ?」
「…セオリーを理解してくれる彼女で俺チョー嬉しい。いいね、最高。超可愛い」
「け、ケンタぁ…褒めても何も出ないよぉ…♪」
それから俺たちは、しばらくその場でリア充空間を満喫しましたとさ。
***
…と、まあこれが俺の身に起こったある出来事さ。事実は小説より奇なり。
不思議なこともあるもんだろ?
…え、その娘とは今どうしてるかって?
それはだね…。
***
「ケーンタっ!おっはよー!」
「うげぁ!?」
ある日の朝。
珠代が飛び乗って来たせいで思いっきり腹にダメージを受ける。止めてくだしあ。
「えへへー♪スリスリ…きもちいー」
「はぁ…スリスリするのはいいけどよ、ジャンプして飛び乗ってくるのは止めてくんね?痛い」
「えー?ケンタのケチー」
「ケチも何もあるか!?痛いから今後は止めること!いいな!?」
「えー…はぁーい…」
見るからにしょんぼりする珠代。
まあいくら目が覚めるからって痛いのはNGっていっつも言われてるからそれ。
「ほれ、メシ食いに行くぞおら…」
「はぁーい」
とりあえず珠代と共に1階の食卓へ。
ちなみに、俺の部屋は2階です。
***
あの夏祭りの日の後、俺は母さんや父さんに事情を全部話すことで珠代をウチに居候させてあげることに成功したのだ。
正直説得はめっっっちゃ大変だったが、今こうして好きな人と一緒にいれる事を考えると楽な事だ。
まあなんだかんだ言って母さんは「珠代ちゃん泣かせたら許さんからね?」と歓迎(?)してくれたし、親父も「母ちゃん・・・俺の・・・息子にも・・・彼女・・・できたよ・・・!」とむせび泣いていた。
・・・若いころに恋愛がらみで苦労したんだろうか。
そんなこんなで珠代は両親から可愛がられてる。良かった良かった。
あとはまあ、たまに会う祐介から「おあついねぇー2人とも。ひゅーひゅー」と煽られることがあるくらいか。その都度無言の腹パンを食らわせているが。
い
・・・でもまあ、そんな日常も悪くない。
俺は、この選択をして間違ってなかったって、心の底から思う。
ちなみに、その日は特にこれといった用事もなかった。
***
その日の夜。
「・・・ふう、こんなもんかな」
「ねえねえケンタ、なにしてるの?」
「ん?ああ・・・新作の執筆だよ、個人的には傑作」
「へぇー・・・どんなのどんなの?見せてー」
「おう、いいぞ。ほらよ」
俺の新作。
事実は小説より奇なり、といったけど。
・・・だからって、小説のネタにしちゃいけないわけじゃないよな?
『新作・助けた猫が擬人化して愛してくるのだが。』
完!