デート・ア・鎧武   作:紅遊星

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天を獲る。

世界を己の色に染める。
その栄光を君は求めるか。
その重荷を君は背負えるか。

人は、己一人の命すら思うがままにはならない。
誰もが逃げられず、逆らえず、運命という名の荒波に押し流されていく。

だが、もしもその運命が君にこう命じたとしたら?
「世界を変えろ」と。
「未来をその手で選べ」と。
君は運命に抗えない…だが、

世界は君に託される。

それでは第1話スタート


第1話 精霊との遭遇

――――紘太視線――――

今日は四月十日昨日で春休みが終わり、今日から学校という朝。

俺は今、琴里が士道を起こしに行っているので朝ご飯を作っている。

するといきなり琴里がダッシュで降りてきた。

「琴里、どうしたんだいきなり」

見てみると琴里が思いっきり震えっていた

「これはどういう事だ?」

すると士道の声が聞こえてきた

「・・・・あ?」

士道がやらかしたな

 

―――――士道―――――

「・・・・・」

足音を殺してテーブルの横側に回り込む。

案の定、琴里が体育座りをしながら身を震わせていた。

「がーっ」

「ギャー!ギャァァァっ!」

士道が肩をつかむと、琴里は欠片らも色気のない絶叫を上げて手足をばたつかせた。

「落ち着け落ち着け。いつものおにーちゃんだ」

「ぎゃー! ぎゃー……あ? お、おにーちゃん? 本当におにーちゃん?」

「本当本当」

「こ、怖くない?」

「怖くない怖くない。俺、琴里トモダーチ」

「お、おー」

すると紘太兄さんの声が聞こえた

「いつまでやってんだ?士道は早く朝飯の手伝え」

そう言われると俺は

「分かったよ紘太兄さん」

―――――紘太視線―――――

あいつらホント仲いいなぁ、ミッチ達今頃何してるんだろ?

紘太と士道が朝ごはんの準備をしていると、背後からテレビの音が聞こえてきた。どうやら先ほどの騒動から落ち着いた琴里が電源を入れたらしい。

 彼女の日課は毎朝星座占いと血液型占いを見る事なのだが、そういうコーナーは大体は番組の最後に放送されている。彼女は一通りチャンネルを変えると、仕方なくニュース番組を見始めた。

 そんな時だった。

『今日未明、天宮市近郊の……』

「ん?」

 アナウンサーの口から発せられた自分達の街の名前に、士道がカウンターテーブルに身を乗り出すようにして画面に視線を放ると、そこには滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。 

「ああ……空間震か」

 紘太は呟きながら、うんざりと首を振った。昨日も確か起こったはずなのに、どうやらあれからまた起こったらしい。あまりの空間震の多さにため息をつきながら、士道は琴里に言った。

「一時は全然起こらなかったのに。どうしてまた増え始めたんだろうな」

「どうしてだろねー」

 琴里はテレビに視線をやったまま首をかしげる。琴里に言っても理由は分からない事は重々承知の上だったが、それでも言わずにはいられない。何せ昨日に続いて今日再び起こったのだ。いくらなんでも回数が多すぎる。

何か、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか? 去年くらいから特に」

「んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

「早い? 何がだよ」

「んー、あんでもあーい」

 その声に、紘太と士道は準備の手を止めた。

 琴里の言葉の内容も気になったが、何よりも彼女が発した声が後半から少しくぐもったからだ。士道は無言でカウンターテーブルを迂回すると、ソファにもたれかかった状態でテレビを見ている琴里のそばに歩いて行く。

 彼女もそれに気付いたのか、士道が近づくに合わせるかのように徐々に顔を背けていく。まるで、士道に顔を見られるのを恐れているかのように。

「おい琴里、ちょっとこっち向け」

「………」

 いつまでも黙った状態なので、士道は実力行使に出る事にした。妹の頭に手を置いて、無理矢理彼女の顔を自分の顔の正面に持ってこさせる。

 すると士道の予想通り、彼女の口元にはあるものが咥えられていた。

 それは、琴里の大好物であるチュッパチャプスだった。士道はやれやれを言うようにため息をついてから、少し怒ったような表情で言う。

「こら、飯の前にお菓子を食べるなって言っただろ」

「んー! んー!」

 雨を取り上げようと棒を引っ張るが、琴里は唇をすぼめて抵抗してくる。凄まじい間でのチュッパチャプスへの執着だった。士道はこれ以上続けても無駄という事を悟ると、チュッパチャプスの棒から手を放した。

「……ったく、ちゃんと飯も食うんだぞ?」

 そう言って琴里の頭をぐりぐりやってから、士道はやっぱり琴里にやさしいな再び料理の準備をするために台所に戻る。

「おー! 愛しているぞおにーちゃん!」

 妹からの愛の言葉を、しかし士道は適当に手を振って流すと作業に再び入る。

「そう言えば、今日は中学校も始業式だったよな?」

「ん、そうだよー」

「じゃあ昼時には戻ってくるよな……。昼飯に何かリクエストはあるか?」

 その言葉を聞くなり、琴里は目を輝かせて士道に半ば叫ぶように言った。

「デラックスキッズプレート!」

「当店ではご用意できかねます。またのご来店をお待ちしております」

「即答!?」

 ガーン、と効果音が出そうなぐらい驚いた琴里は不満そうにキャンディの棒をピコピコと上下に動かす。それを見て士道ははぁと嘆息し、肩をすくめた。

「ったく、仕方ないな。折角だから昼は外で食うか」

「本当!?」

「おう。んじゃ、学校終ったらいつものファミレスで待ち合わせな」

 すると、琴里は興奮した様子で手をぶんぶんと振り始めた。

「絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

「いや、占拠されてたら飯食えねえだろ」

台所の子窓を開けて、晴れ渡っている空を見上げる。

 今日ぐらいも平和で入れますように、と紘太は心の中で本当にいるか分からない神様に拝んだ。

 

士道と紘太は学校に着くと、廊下に張り出されているクラス表を確認してから一年間お世話になる教室へと向かった。ちなみに士道の新しいクラスは二年四組だった。

 三十年前の空間震が起こってから、空間震で更地になってしまった一帯は様々な最新技術のテスト都市として再開発が進められてきた。現在士道が通っている都立来禅高校もその例の一つである。

 都立高とは思えない充実した設備の上、数年前にできたばかりのため学校そのものの損傷もほとんどない。しかも旧被災地の高校のため、地下シェルターも最新のものだ。

 ちなみにそのためからか入試倍率は低くなく、ただ単に家が近いからという単純な理由で受験を決めた士道は少々苦労する事になった。

 士道は教室に入ると、何となく教室を見回してみた。

 まだホームルームまで少し時間があるが、結構な人数が揃っている。しかし、士道の知った顔はあまりいなかった。退屈なので士道が黒板に張り付けられている座席表の紙を確認しようとしたその時。

―――――士道視線―――――

「五河士道」

 士道の後ろから、と唐突に静かな声がかけられた。

 ん? と聞き覚えのない声に士道が振り返ると、そこには細身の少女が一人立っていた。

 肩に触れるか触れないかくらいのショートカットの髪の毛に、人形のような顔が特徴的だ。

 人形のような、という形容はやや失礼かもしれないが、それ以外に少女の容姿を最もうまく言い表せる言葉が無いのも事実だった。

 美少女、と言える顔立ちであると同時に、彼女の顔には感情と呼べるものがまったく窺えないからだ。

「えっと……俺……だよな?」

 士道は自分を指さしながら恐る恐る尋ねる。

「そう」

 そんな馬鹿な行動にもまったく表情を変えず、少女は小さく頷いた。

「な、何で俺の名前を知ってるんだ……?」 

 目の前の少女とはまったく面識がない。なのにどうして自分の名前を知っているのか士道が怪訝に思っていると、何故か少女は不思議そうに首を傾げてきた。

「覚えてないの?」

「う……」

 士道は思わず黙り込んでしまった。この少女の口ぶりからすると、どうやら自分はこの少女と前にどこかで会った事があるらしい。しかし、それでも士道はまったく思いだす事ができなかった。するとその士道の反応を肯定とみなしたらしい。少女は特に落胆らしいものも見せずにそう、と短く言うと窓際の席に歩いて行った。

「……何なんだろう、あの子」

 士道が眉をひそめると、突然背中に衝撃が走った。士道はそれに驚きながら、振り返って背中を叩いた犯人を睨み付ける。

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 こちらの犯人はすぐに分かった。士道の友人、殿町宏人だ。彼は何故かにやにやと笑いながら、

「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」

「誰が淫獣だよ」

 士道が言うと、殿町は肩をすくめて、

「お前だよお前。いつの間に鳶一と仲良くなったんだよ、ええ?」

 そう言いながら殿町が士道の首に腕を回し、ニヤニヤしながら聞いてきた。士道はその名前に心当たりはなかったが、ある事に気づいて友人に言う。

「鳶一……? あ、もしかしてさっきの女の子か?」

「正解だ」

 殿町はそう言って、窓際の席を示した。

 そこには先ほどの少女が座って、何やら分厚い技術書のような本を読んでいた。

 と、士道の視線に気づいたのか少女が目を本から外して、士道に目を向けてくる。士道は思わず息を詰まらせて、気まずそうに目を背ける。

 それに対して、殿町は馴れ馴れしく笑って手を振った。

「………」

 しかし少女は特に何も反応を示さず、手元の本に視線を戻した。

「ほら見ろ、あの調子だ。うちの女子の中でも最高難度。永久凍土とか米ソ連とかマヒャデドスとまで呼ばれてんだぞ。お前、一体どうやって取り入ったんだよ」

「はぁ……? 一体、何の話だよ」

「……え、もしかしてお前本当に知らないのか?」

「ん……。確か前のクラスにはいなかった気がするし……」

 すると、殿町は信じられないといった具合に両手を広げて驚いたような顔を作った。いちいち動作がオーバーな少年である。

「鳶一だよ、鳶一折紙。ウチの高校が誇る天才。知らないのか?」

「ああ、初めて聞くけど……すごいのか?」

「すごいなんてもんじゃねえよ。成績は常に学年主席、この前の模試にいたっちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は常に一個下がる事を覚悟しといた方が良いぜ」

「別にそこまで気にしてないけどな……。ってか、なんでそんな奴が公立校にいるんだよ」

「さぁてね。家の都合とかじゃねえの?」

 大仰に肩をすくめながら、殿町がさらに続けてくる。

「しかもそれだけじゃなく、体育の成績もダントツ、ついでに美人ときてやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも第三位だぜ? 見てなかったのか?」

「やってた事すら知らねえよ」

「お前何してんだよ」

「ったく、お前って奴は……。っと、『恋人にしたい男子ランキング』での第二位は、お前だ紘太」

「ふ~ん・・・はぁ!?」

「お前は。鳶一ほどじゃないけど成績は常に上位にいるし、運動神経も抜群。しかも優しいから、女子からの人気はめちゃくちゃ高い」

二位に入っているのだから大したものである、と士道は思う。そしてそこまで聞くと、自分が一体何位だったのか少し興味が湧いてくる。すると士道の考えを察したのか、殿町が口を開く。

「ああ、ちなみにお前は匿名希望さんから一票入ったから52位だ。安心しろ」

「微妙な数字だなー……」

「安心しろ。『腐女子が選んだ校内理想のベストカップル』では、紘太とセットで見事一位だったぞ。何でも、『五河君が受けで紘太君が責め』らしい。良かったじゃないか!」

「ふざけんな! どこをどう安心しろっていうんだよ!!」

 あんまりな言いように士道は思わず立ち上がって怒鳴った。

 するとそれと同時に、ホームルームの始まりを告げる予鈴が鳴った。まだ自分の席を確認していなかった士道は黒板に書かれた席順に従い、窓際から数えて二列目の席に鞄を置いた。

 そこである事に気付いた。士道の席は、鳶一折紙の隣だったのだ。紘太は窓際で、相川始の席は士道の左斜め上である。

 折紙は予鈴が鳴り終わる前に本を閉じ、机にしまい込むと視線を前に向けて美しい姿勢を取る。

 始は予鈴が鳴ると同時に自分の席に着くと、退屈そうに頬杖をついて視線を前に向けた。

「………」

 何故か二人を凝視している自分に気付いた士道は慌てて二人と同じように視線を黒板の方にやった。

 それと同時に、教室の扉が開かれると教室に眼鏡をかけた小柄な女性が現れ、教卓につく。士道の周りから、嬉しそうな声が聞こえてきた。

「タマちゃんだ」

「マジだ。やったー」

 生徒からそんな声を受けて、タマちゃんと呼ばれた女性は微笑むとクラスの生徒達に挨拶をする。

「はい、みなさんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます岡峰珠恵です」

 そう言って頭を下げると、サイズが合っていないためか微妙に眼鏡がずり落ち、慌てて両手で押さえた。

 生徒と同年代に見える童顔と小柄な体、さらに口調からも分かる通りののんびりとした性格で生徒の間で絶大な人気を誇る先生である。まだ結婚相手はいないらしいが、士道としてはまだ結婚相手が見つかっていない事が不思議でしょうがなかった。

「………?」

 その時、士道は何故か横から強い視線のようなものを感じて顔を横に向けてみる。

 すると、士道の左隣に座っている折紙とばっちり目が合ってしまった。どうやら先ほどからの強い視線の正体は彼女が送っていたものだったらしい。士道は慌てて目を逸らすが、折紙の視線は変わらず士道の方を向いている。

 一瞬士道の先にあるものを見ているのではないかとも思ったが……違う。これは明らかに士道の顔をガン見している。

 何故自分をそんなに見ているのかと尋ねたかったが、ホームルーム中であるし、勘違いであったら恥ずかしいので、士道は額から汗を一筋垂らしながらホームルームを過ごした。

 

 

 

 そんな事が起こってから約三時間後。

―――――紘太―――――

「おい五河に紘太。どうせ暇なんだろ、飯いかね? 最近お前バイトとかで忙しそうだったけど、今日は大丈夫だろ?」

 始業式を終えて、俺と士道が帰り支度を整えていると殿町が話しかけてきた。昼前に学校が終わるなどテスト期間以外ではそうないので、士道達以外にも友人とどこで昼食を食べるかを相談している集団の姿が見る事ができる。

「悪い。今日は先約があるんだ」

「俺も、すまないな」

「何?まさか女か?」

「あー、まぁ一応」

「何だと!」

 殿町はまたもや大げさに驚いた。大げさすぎじゃね?と、紘太は内心ツッコミを入れる。

「一体昼休みに何があったっていうんだ! 鳶一と仲良くお話しするだけじゃ飽きたらず、女と昼飯の約束だと!? 誰だコノヤロー!」

「うるさいぞ、ちょっと静かにしろ!!」

すると殿町は

「はい」

すると士道が喋りだした

「殿町一応言っとくが相手は琴里だぞ。」

「んだよ、驚かすんじゃねえよ」

「そういうことだ」

「お前が勝手に驚いたんだろ。俺のせいにするな」

「でも、琴里ちゃんなら問題ねえだろ。俺も一緒に行って良いか?」

「ん? ああ、別に大丈夫だと思うけど……」

 士道がそう言うと、殿町が士道の机に肘を載せて何故か声をひそめるように言ってくる。

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

「………多分いないと思うけど、何でだ?」

 一瞬昨日彼女の部屋で発見してしまった怪しげな雑誌の事を思い出してしまい遠い目になる士道だったが、すぐに我を取り戻して逆に問い返す。

「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」

「……やっぱ却下だ。お前来んな」

「お前ちょっと外で話そうか」

俺が睨みながら言うと、殿町は肩をビクッとさせた

「冗談です。俺も兄妹団欒をつっつくほど野暮じゃないです。」

「どうしていっつも一言余計なんだよ、お前は」

 俺がため息をつきながら立ち上がりかけたその瞬間。

 

 

 教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレン音が鳴り響いた。

「な、何だ?」

 殿町が窓を開けて外を見やる。教室に残っていた生徒達も、サイレンの音に会話をやめて目を丸くしていた。

 そして、サイレンに次いで機械越しの音声が響いてくる。

『――――これは訓練ではありません。これは訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の発生が予想されます。近隣住民の皆さんは速やかに、最寄りのシェルターに避難してください』

 その声の内容を理解すると同時、今まで黙っていた生徒達が一斉に息を呑んだ。

 空間震警報。

 クラスに残っていた全員の予想が、確信に変わった。

「おいおい、マジかよ……」

 士道の横で、殿町が渇いた声を発した。

 しかし、士道や殿町を含め、教室にいた生徒達は緊張と不安が入り混じった表情を浮かべているものの、パニックなどにはなっていない。

 天宮市は三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、士道達は幼稚園にいた時から嫌と言うほど避難訓練を繰り返している。それに加えて、ここは生徒が集まる高校だ。全校生徒を収容できる規模の地下シェルターが備え付けられている。

「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」

「お、おう。そうだな」

 士道は殿町に言いった。

 廊下にはすでに生徒達がシェルターに向かって列を作っていた。

 しかし、俺はある事に気付いた。

 一人だけ、列と逆方向……昇降口の方に走っている生徒がいたからだ。

「鳶一……」

 その人物は、士道の隣に座っていた少女、鳶一折紙だった。

「お、おい! アンタ 何してんだ! そっちには……」

「大丈夫」

 折紙は一瞬足を止めると、士道にそれだけ言ってから再び駆け出していく。

「大丈夫って、何だよ……」

 首をひねりながらそう呟くと、士道は再び生徒の列に並ぶ。彼女の事は心配だが、もしかしたらただ単に忘れ物でもしたのかもしれない。警報が発令されたからと言ってもその後すぐ空間震が起こるというわけでもない。すぐに戻ってくれば大丈夫なはずである。

 士道は列に並びながら、ある事を思い出してさっき取り出した携帯電話を再び開く。

「士道、どうした?」

「いや、ちょっとな」

 言葉をかけてきた殿町に返しながら、士道は電話帳の中から『五河琴里』の名前を選んで電話をかける。

 だが、繋がらない。何回か試してみても、結果は同じだった。

「……駄目か」

 士道は繋がらない携帯電話の画面を見つめながら、小さく呟く。彼女がまだ中学校にいるならば安全のはずだ。しかし、すでに学校を出てファミレスに向かっていたら話は別になってくる。

 いや、と士道は首を横に振る。ファミレスの近くにもシェルターはあるし、普通に考えれば問題はないはずだ。

 だが……士道の胸から不安が消え去る事はなかった。警報が鳴っても、ずっと士道を待っている妹の姿が想像できてしまっていて。

「い、いや。あいつもさすがにそこまで馬鹿じゃないし……。そうだ。GPS……」

 琴里の携帯電話はGPS機能を用いた位置確認サービスに対応している。携帯電話を操作すると、街の地図と琴里の位置を指し示す赤いアイコンが表示された。

「……っ!!」

 その赤いアイコンを見て、士道は思わず息を呑む。

 そのアイコンは、約束のファミレスの前で停止していた。

「あの……馬鹿!!」

 毒づきながら携帯を閉じて、士道は生徒の列から飛び出して昇降口に向かう。

「お、おい! どこにいくんだ五河!」

「忘れものだ!」

「おい、紘太もどこ行くんだ」

「あいつを止めてくる」

 適当に言いながら、俺は士道は全速力で追いかけに行った。

―――――士道視点―――――

学校を出た士道は学校前の坂道を全速力で駆け下りていた。桜ハリケーンを使えばもっと早く行けたのかもしれないが、残念ながら桜ハリケーンは現在士道の家に置いてある。バイクが無い以上、走っていくしかない。

「こんな事になったら、普通避難するだろうが……!」

 士道の視界には不気味な光景が広がっていた。

 道路には車が通っておらず、街並には人影がまったくない。

 どんな時間帯でも誰か一人は必ずいるはずのコンビニでさえも、人はいなかった。

 大空災以来、神経質なほど空間震に対して敏感に再開発されたのがこの天宮市だ。公共施設の地下だけでなく、一般家庭のシェルター普及率も全国一位だという話をどこかで聞いた事がある。

 それに最近の空間震の頻発もあるのか、避難は迅速だった。

 なのに。

「何で馬鹿正直に残ってやがんだよ……!」

 全速力で走りながら、携帯を開いて現在の琴里の位置を確かめる。

 アイコンは、やはりファミレスの前から動いていない。

 士道は携帯電話をしまいながら、走り続ける。

 そうして走り続け、もうすぐファミレスに辿りつくと思われた時だった。

「……? 何だ、あれ?」

 視界の端に何か動く見えたものが見えた気がして、士道は思わず空を見上げる。

 数は三つか四つ。空に何やら人影のようなものが浮いている。

 衝撃が、士道を襲った。

「うわっ!?」

 何が起こったのかよく分からなかった。ただ、突然進行方向の街並みが光に包まれた事だけは、何とか知覚する事が出来た。さらにそれに続いて、鼓膜を破るんじゃないかと思ってしまうほどの爆音と凄まじい衝撃波が士道を襲う。

 士道は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられながら何とか受け身をとって衝撃を軽減する。それからゆっくりと立ち上がると、目の前の光景に思わず間抜けな声を発してしまっていた。

「はっ……?」

 街並みが、無くなっていた。

 比喩でもなんでもない。まるで地面が丸ごと消し飛ばされたかのように、街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていたのだ。初めて目の前で見る空間震の力に、士道は自分の手が震えるのを感じる。

 そして士道は、ある事に気付いた。

 クレーターのようになった町の一角の中心地。

 そこに、何か金属の塊のようなものがそびえていたのだ。

「何だ……?」

 細かい形状までは読み取る事は出来ないが、その金属の塊がまるで玉座のような形をしているのはどうにか視認する事が出来た。

 しかし、重要なのは玉座ではない。

 その玉座の肘掛けの部分に足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が立っていたのだ。

「あの子、どうしてあんな所に……」

 士道が怪訝な表情を浮かべながら呟くと、少女の視線が自分に向けられるのを感じた。

 すると、少女はゆらりとした動作で玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ると、それをゆっくりと引き抜いた。

 それは幅広の刃を持ち、不思議な光を放つ巨大な剣だった。

 その光は、士道が使うブレイラウザーの刃が放つような金属特有の冷たいものではない。虹のような、星のような幻想的な輝きだった。

 少女が剣を振りかぶり、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いた次の瞬間。

 ゾワッ!!

「っ!?」

 士道の背中を突如寒気がはしり、士道は思わず頭を下げる。直後、少女が士道の方に向かって剣を横薙ぎに振るったのがかろうじて見えた。

 今まで士道の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜ける。当たり前のことだが、剣が直接届くような距離ではない。士道自身も、今の攻撃は空振りだと思った。

 だが、実際は違った。

「……嘘……だろ……!?」

 振り返って街の光景を見た士道は、かすれた声を喉から出していた。

 後方にあった家屋や店舗、さらには街路樹や道路標識などが一瞬のうちに全て同じ高さに切り揃えられていたからだ。遅れて、遠雷のような崩落の音が聞こえてくる。

 それを見ても、士道の頭の中は真っ白のままだった。 

 それからようやく理解できたのは――――さっきとっさに頭を下げていなければ、自分の頭は今頃輪切りにされていたという事だった。

士道が何とか足を動かして逃げようとした時だった。

「お前も、か……」

「っ!?」

 ひどく疲れたような声が、頭の上から響いてくる。

 気が付くと、目の前にはさっきまで遠く離れていたはずの少女が立っていた。

「あ……」

 意図すらしていないのに、声が漏れる。

 年齢は大体士道と同じぐらいだろう。

 膝まであるのではないかと思うほどの黒い髪に、愛らしさと凛々しさの両方を備えた容姿。

 その中心には、まるで水晶のような瞳がある。

 彼女が身に纏っているのは、これまた奇妙な物だ。

ドレスのようなフォルムの彼女の鎧は布なのか金属なのかよく分からない素材で作られている、神秘的な鎧だ。その継ぎ目やインナー部分、スカードなどは不思議な光の膜で構成されている。

 さらにその手には、身の丈ほどはあろうかという巨大な剣。

 それらの衣装や現在の状況などは、どれも士道の目を引くには十分なものだった。

 だが士道の目は、ただ少女のみに引きつけられていた。

 それほどまでに、少女は暴力的なほどに――――美しかった。

「……君、は……」

 呆然と士道が声を発すると、少女がゆっくりと視線を下ろしてくる。

「……名、か」

 とても静かで、とても美しい声が士道の鼓膜を震わせる。

 だが少女は悲しげに、こう言った。

「そんなものは、ない」

 その時、士道と少女の目が初めて合った。

 すると少女が憂鬱そうにも、今にも泣きだしてしまいそうにも見える表情を浮かべながら、剣を握る。

「ま、待ってくれ!」

 さっきの攻撃の破壊力を思い出した士道は、必死で声を上げた。そんな士道の様子を不思議そうに見ながら、少女は士道に尋ねる。

「……何だ?」

「ど、どうする気だよ……!」

「……? もちろん、早めに殺しておこうと」

 当然だろう? と言いたそうな表情を浮かべている少女に、士道は顔を青くする。

 顔を青くしながらも、士道は必死に少女に語りかける。

「な、何でだよ……!」

「何で……? 当然ではないか」

 物憂げな顔を作りながら、少女はさらに続けてくる。

「だってお前も、私を殺しに来たんだろう?」

「え……?」

―――――紘太―――――

このままじゃ士道が死ぬ!人が目の前で死ぬなんてもういいんだよ。

「久し振りにやりますか!」

「変身!」「オレンジアームズ! 花道オンステージ!」

このアームズでどこまで持つか?考えるのはやめた!!

「さぁ、ここからはオレのステージだ」

―――――士道視点―――――

俺は今かなりパニックになっている。

いきなり紘太兄さんが光りだしたら、鎧武者になっていたからだ。

「紘太兄さんその姿は?」

紘太兄さんに聞いた

「これの姿は俺が昔戦っていた時の姿だ、まさか、また使うとは思いもしなかったけどな!」

少女と紘太兄さんの剣がぶつかり合った箇所から凄まじい衝撃波が発せられ、士道は危うく吹き飛ばされそうになるもどうにかこらえる事に成功する。

 紘太兄さんが弾かれる形で二人は一旦距離を離し、武器を構えて互いを睨み合う。その眼には、互いに対する殺気しか存在しない。士道はそれにはさまれる形で立っているのだから、たまったものではない。

 士道は今すぐにでもここから早く離脱したかったが、こんな緊張感が満ちる戦場で動ける人間はそういないだろう。彼の足が微かに動き、じゃりっと音を鳴らす。

 その時、急にポケットの中の携帯電話が軽快な着信音を響かせた。

「「………っ!!」」

 それを合図にし、少女と紘太兄さんが同時に地面を蹴り、士道の真ん中で激突する。

 士道は圧倒的な風圧で吹き飛ばされ、彼は塀に強かに体を打ちつけて気を失った。

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