デート・ア・鎧武   作:紅遊星

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今回も紘太は出ません

では本編スタート


第3話 話し合い

時刻は、一七時二十分。

避難を始める生徒たちの目を避けながら、町の上空に浮遊している<フラクシナス>に移動した三人は、艦橋スクリーンに表示された様々な情報に視線を送っていた。

軍服に着替えた琴里と令音は、時折言葉を交わしながら意味ありげにうなずいていたが、正直士道には、画面上の数字がなにを示しているかいるのかよくわからない。

 唯一理解できるのは、画面右側に表示されているのが士道の高校を中心にした街の地図である事くらいだ。

「なるほど、ね」

 艦長席に座ってチュッパチャップスを舐めながら、クルーと何やら言葉を交わしていた琴里が小さく唇の端を上げる。

「士道」

「何だよ」

「早速働いてもらうわ。準備なさい」

「――――」

 その言葉に、士道は身体を硬直させる。

 予想はしていたし、覚悟もしていた。 だがやはり、実際にその時が来てしまうと緊張を隠せそうになかった。

「もう彼を実践登用するのですか、司令」

 突然、艦長席の隣に立っていた神無月がスクリーンに目をやりながら不意に言った。

「相手は精霊。失敗はすなわち死を意味します。訓練は十分なのでしょげふっ」

 最後まで言い切る前に、彼の鳩尾に琴里の強烈な右ストレートがめり込んだ。

「私の判断にケチをつけるなんて、随分偉くなったものね神無月。罰として今から良いと言うまで豚語で喋りなさい豚」

「ぶ、ブヒィ」

 何故かかなり慣れた様子で神無月が返す。すると琴里がキャンディの棒をピンと上向きにしてから、スクリーンを示す。

「士道、あなたかなりラッキーよ」

「え?」

 琴里の視線を追うように、スクリーンに目を向ける。

 さっきと変わらず意味が分からない数字が踊っていたが、右側の地図には先ほどと違った所があった。

 士道の高校には赤いアイコンが一つ、その周囲には小さな黄色いアイコンがいくつも表示されているのだ。

「赤いのが精霊、黄色いのがASTよ」

「それのどこがラッキーなんだ?」

「ASTを見て。さっきから動いてないでしょ?」

「ああ」

「精霊が外に出てくるのを待ってるのよ」

「何でだよ。突入しないのか?」

 士道が尋ねると、琴里が大仰に肩をすくめた。

「ちょっとは考えてものを言ってよね恥ずかしい。粘菌だってもう少し理知的よ」

「な、なにおう!」

「そもそもCR-ユニットは、狭い屋内での戦闘を目的として作られたものではないのよ。随意領域テリトリーがあるとはいっても遮蔽物が多く、通路も狭い建造物の中じゃ確実に機動力が落ちるし、視界も遮られるわ」

「なるほど……」

理屈は分かったが、琴里の台詞に引っ掛かりを覚えた士道は琴里に半眼を向ける。

「だけど、精霊が普通に外に現れてたらどうやって俺を精霊と接触させるつもりだったんだ?」

「ASTが全滅するのを待つか、ドンパチしている最中に放り込んでたわね」

「………」

 士道は先ほどよりも深く、今の状況が本当にどれだけありがたいものかを思い知った。「じゃあ、早いところ行きましょうか。インカムは外してないわね?」

「ああ」

 答えながら士道はインカムが装着されている右耳に手を触れた。

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困ったときはサインとして、インカムを二回小突いてちょうだい」

「ん、分かった。だけど……」

 士道は琴里と、艦橋下段で自分の持ち場についている令音に視線を送る。

 訓練の時の助言を思い出してみると、正直心細いサポートメンバーである。

 士道の表情から思考を察したのだろうか、琴里が不敵な笑みを浮かべる。

「安心しなさい、士道。フラクシナスのクルーには頼もしい人材がいっぱいよ」

「ほ、本当か?」

 士道が心配そうに尋ねると、琴里が上着をバサッと格好よく翻して立ち上がる。

「たとえば」

 言いながら、艦橋下段のクルーの一人をビシッと指差した。

「五度もの結婚を経験した恋愛マスター・『早すぎた倦怠期バットマリッジ』川越!」

「四回は離婚してんじゃねーか! 離婚マスターに改名しろ!!」

「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、『社長シャチョサン』幹本!」

「金目当てだろどうせ!!」

「恋のライバルに次々と不幸が! 午前二時の女・『藁人形ネイルノッカー』椎崎!」

「絶対呪いかけてるだろそれ!」

「百人の嫁を持つ男・『次元を越える者ディメンション・ブレイカー』中津川!」

「ちゃんとz軸のある嫁だろうな!?」

「その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径五百メートル以内に近づけなくなった女・『保護観察処分ディープラブ』箕輪!」

「なんでそんな奴ばっかなんだよ!!」

 頭を抱えて士道は絶叫した。

「……皆、クルーとしての腕は確かなんだ」

 艦橋下段からまるでフォローするようにぼそぼそと令音の声が聞こえてきた。

「そ、そう言われても……」

「良いから早く行きなさい。精霊が外に出たらASTがあっという間に群がってくるわよ」

 令音に士道が苦情を発しかけるが、そんな士道の尻を琴里が勢いよく蹴った。

「痛って……、こ、このやろ……」

「心配しなくても大丈夫よ。士道は一回くらい死んだもすぐニューゲームできるわ」

「ざっけんな。俺は普通の人間だぞ」

「マンマミィーヤ。妹の言う事を信じない兄は不幸になるわよ」

「兄の言う事を聞かねえ妹に言われたくねえよ」

 士道はため息混じりに言うが、そのまま大人しく艦橋のドアへと足を向ける。

「グッドラック」

「おう」

 ビッと親指を向けてくる琴里に、士道は軽く手を上げて返した。

 緊張が完全にほぐれたわけではないが、この機を逃すわけにはいかなかった。

 琴里達には悪いが、倒すとか、恋をさせるとか、世界を救うとか。士道はそんな大それた事はまったく考えていなかった。

 ただ。

 あの悲しそうな表情をした少女ともう一度話をしてみたい。

 

 

 

 

 

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