テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「と、いうわけでですね。この小説は、決して結ばれないとされる身分と種族間を乗り越えての主人公とヒロインの純愛が見どころなんです!」
「そうなんですか? 例えばどの辺がでしょうか?」
「はい。特に主人公とヒロインが駆け落ちした後、追手に追いつかれそうになった時に主人公がヒロインに言う、“絶対にあなたを守る”という台詞が、この時の状況を的確に表す描写も相まって感動するんです!」
「うんうんそうよね! やっぱり女の子は男の子に守ってもらうって夢だよね!」
食堂。ここではアニーが目をキラキラさせながら恋愛小説の講評をしており、ミントとマルタがそれに聞き入っていた。
「……そんなもんなのか?」
朝のクレスと一緒の素振りを終えた後、ロックスに甘いものをリクエストして出てきたクリームと蜂蜜たっぷりホットケーキを食べているカイが首を傾げるとミントがはいと頷いた。
「恥ずかしながら、私もクエストでの戦いの時、クレスさんに守っていただけると心から安心できると言いますか……」
「やっぱり男はたくましくって、女の子を守れないと! あ、でももちろんエミルみたいに優しさも忘れないでエミルみたいに時々弱いところも見せてくれた方が母性本能がくすぐられるっていうか~」
ミントに続けてマルタがそう言い、だが彼女は頬に手を当てて腰をくねくねさせながら最後には「きゃ~エミル~」と嬉しそうに歓声を上げる。
「一途に自らを愛してもらう、それもまた女性の憧れの一つなのだと私は思いますよ?」
「ふ~ん」
ミントの言葉にカイはそう呟いてホットケーキを食べ進め、その様子を見たマルタがジト目でカイを見る。
「カイ、結局あんたどうでもいいとか思ってない?」
「よく分からん。とりあえず仲間を守るんだろ?」
マルタの指摘にカイはあっさりそう返し、アニーとミントは大きくため息をついた。
そしておやつを食べ終えた後カイは食器を洗い場に置いて洗い物をロックスに任せると食堂を出ていき、ホールへと出てくる。と、そこで彼はアンジュが何か考え事をしている様子なのに気づいた。
「……」
「アンジュさん、どうかしましたか?」
「……あら、カイ。おやつは終わったの? それと、食堂で何か話してた?」
「アニーやミントさんから女の子は男の子から守られるのが夢だとか。よく分かりません」
カイはアンジュからの質問に素直に答え、それを聞いたアンジュはくすくすと笑う。
「あら、そう。情操教育が必要かもね……ところで、丁度あなたのことを考えてたの。ねえ、ちょっと個人的にお願いがあるんだけど」
「はい?」
アンジュからのお願いというのを聞いたカイは首を傾げる。
「私の知り合いの、リカルド・ソルダートっていう傭兵を探しにカダイフ砂漠まで行ってほしいの。彼の仕事が片付いてから、正式に来船する契約だったんだけど、一向に連絡がなくて。大丈夫だとは思うけれど、様子を見てきてもらえないかな?」
「ああ、それぐらいでいいなら」
「行ってくれるのね? ありがとう。とっても助かるな」
アンジュからの説明を受け、要するにこの前のチェスターの時のような人探しの依頼だと考えたカイはあっさり頷き、それを聞いたアンジュは嬉しそうに笑う。
「なんだァ、何の闇取引の話だ?」
と、スパーダが口を挟んできた。
「やみとりひき?」
スパーダの言葉をオウム返しするカイ。と、スパーダは彼の肩に手を回して口を近づけた。
「カイ、気をつけろよ。アンジュはこう見えて結構腹黒いんだぜ?」
「はらぐろ?」
「心外だな。そんな事ないと思うけど……それに、今の話はきちんとした依頼。リカルドさんを迎えに行ってもらおうかと思って」
スパーダの言葉にカイがまた首を傾げるとアンジュは心外そうに口元を尖らせ、スパーダにも依頼内容を説明する。それを聞いたスパーダは「ああ」と頷いた。
「そういやあのおっさん、到着遅れてるみたいだな。迷子ってキャラでもねェのによ」
「だから、正式な依頼としてお願いをしたの。大丈夫だとは思うけど、万が一のことがあるといけないでしょ?」
「なるほどな。そーいう事か……」
アンジュの説明を受け、スパーダは納得したようにふんふんと頷くとカイの方を見てくっくっと笑った。
「カイ、準備は抜かり無くしていけよ? 職業柄っつーか、初対面の相手に容赦ねェからな、あのおっさん」
「あ、そうね。とりあえず私から手紙を書いておくわね……」
アンジュはそう言うと適当な用紙にペンですらすらと手紙を書き始め、カイはその間に砂漠に行く準備として水を貰いに食堂へと向かう。
「はい。リカルドさんに会ったらこれを見せなさい」
「はい。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
準備が終わった後、手紙を託されてカイは挨拶と共に船を出ていき、アンジュも手を振って見送る。
「なんか親子みたいじゃね?」
「あら失礼ね。せめて姉弟って言ってくれる?」
「パシリって言わねェだけ気ィ使ったつもりだったんだけどなァ」
まるでおつかいに出ていく息子とおつかいを頼む母親みたいな光景にスパーダが意地悪く笑ってそう言うと、アンジュは口を尖らせて返し、それを聞いたスパーダはクックッと笑いながら言った。
それからカダイフ砂漠へと到着したカイは水を飲みながら砂漠を歩いていく。
「そこのガキ、止まれ」
突然そんな声が聞こえ、カイは足を止める。と、いきなり額に傷のある、長身で黒髪を長く伸ばし後ろで一本にまとめている男性がライフルを構えながら近づいてきた。
「おい、こんなところで何をしている?」
「……」
男性の言葉にカイは黙ったまま。と、その時いきなり魔物のものと思われる咆哮が聞こえてきた。
「……近いな」
男性はそう呟いて構えを解きライフルを肩に担ぐ。
「ガキ。死にたくなければ、今すぐにここを去れ。さもなければ、命の保証は出来ん……いいな。二度は言わん」
男性はそう言うと歩き去っていく。しかしカイもこの砂漠に用事がある以上帰るわけにはいかず、男性が去っていくまで適当な岩陰に隠れて日光や魔物をやり過ごし、少し時間を置いてから再び砂漠を歩き始めた。
それからカイは岩陰に隠れたり魔物の隙をついて身軽に移動したりと一人での行動なのを最大限に利用して魔物をやり過ごし、
「地裂斬!」
「ギャアアァァァッ!!」
どうしても逃げられない場合のみ、なるべく一対一で戦えるよう工夫して魔物を撃破していく。そのまま砂漠を歩いていき、ついに彼は以前ジョアン達を助けたオアシスへと辿り着いた。
「……少々手間取ったか」
そこには先ほど出会った男性がイノシシのような魔物の死骸を前にそう呟いている光景があり、カイが彼に歩き寄ると男性もその気配に気づいたのか振り返り、カイの姿を見ると露骨に顔をしかめた。
「……まだいたのか。帰れと言ったはずだ。ここはガキの遊び場ではない」
「帰るわけにはいかない。アンジュさんからの依頼がある」
「何? 今、アンジュと言ったか?」
男性の言葉にカイが言い返すと、彼の台詞の一部に男性は反応する。
「おい、詳しく話を聞かせろ」
「……依頼に関して無関係の人間には話すなとアンジュさんから教えられた」
「……あいつ、教育が行き届いてるな……」
律儀かつ真面目なカイの言葉に男性は頭を抱える。
「ったく……俺はアンジュの知人で、リカルド・ソルダートだ」
「リカルド?」
と、このままでは話が進まないと悟ったのか名乗った男性――リカルドの言葉に今度はカイが反応し、懐から手紙を取り出す。
「これをリカルドという男性に渡せと。スパーダが容赦ないからって」
「ふん……見せてみろ」
スパーダからの評価にリカルドは鼻を鳴らしてカイから手紙を受け取り、それを読んでいく。そして手紙を読み終えた後、リカルドはそれをくしゃっと握り潰してポケットにねじ込んだ。
「事情は把握した。俺も仕事の報告が終わり次第、予定通りギルドへ向かう。セレーナにはそう伝えてくれ」
「……」
「今度はそう時間はかからん。俺と契約を結んでいるのはセレーナだけなのだ。契約は遵守する……それが俺の主義でな」
リカルドはそう言ってその場を去っていき、カイもとりあえずリカルドに会って様子を見るという目的は達したため、砂漠を後にした。
そしてバンエルティア号に戻り、アンジュと少し話していると突然甲板に続く扉が開く。
「来たぞ、セレーナ」
「ああ、リカルドさん」
来客――リカルドの姿にアンジュが微笑み、リカルドはカイを見てふんと鼻を鳴らす。
「また会ったな。しかし、よもやこんなガキがギルドで依頼を請け負っているとは……」
「技量も人柄も確かですから。ギルドのリーダーとしては、仕事を任せない理由がありません。これでもウチの期待の新人で未来のエース候補ですからね」
アンジュが得意気な様子でカイを紹介、
「ふむ……まあ、確かに教育が行き届いているな。関係者だと証明しなければ口を割りそうになかった。傭兵として大事な依頼人の守秘義務を守っていたというわけだ」
「えっへん」
リカルドの評価にアンジュは胸を張る。
「だが、融通が利かなすぎる。これではいずれ依頼人とトラブルを起こすぞ」
「そ、それは、まだ一人で依頼をさせたことなくって……大体現地に行く時は仲間が一緒だから……」
「交渉は人任せか。それでは一人前とは言えんな」
しかし続いてのリカルドの厳しい批評にアンジュはがくっと肩を落とし、その批評の対象であったカイは首を傾げる。
「あ……ほんとだ、リカルドさんだ!」
すると、いきなりルカの声が聞こえ、ルカにイリア、スパーダがそこに現れる。
「随分遅い到着じゃない~? もしかして、大御所ぶってるつもり?」
「いや、単に道に迷ってただけって線も残ってるぜェ?」
「二人とも、ちょっと……失礼だよ……」
イリアとスパーダの毒舌にルカが慌てて止めようとする。その光景を見てリカルドはまた顔をしかめた。
「……相変わらず騒がしい奴らだ。セレーナ、ひとまず俺は部屋で休ませてもらう。仕事の話はそれからだ」
「分かりました」
「ああ。言うまでもないことだとは思うが、ガキ共とは別の部屋で頼む」
リカルドの言葉にスパーダが不愉快そうな表情を見せた。
「っか~! 相変わらず不愛想な上にムカつく野郎だな!」
「まぁ、それでこそのおっさんって気もするけどね~」
「アニーミ。その不愉快な呼称は慎めと言っていたはずだ」
スパーダに続けてのイリアの言葉にリカルドがそう指摘、と、イリアは嫌味そうな笑みを見せた。
「あ~ら、そうだったかしらぁ? どうもおっさんのお小言は右から左みたいで、ごめんなさいね~♪」
「……」
「はいはい。じゃれ合うのもそこまで。とにかく、頼もしい仲間が増えたんだから。みんな、協力して、仲良くね。カイも今日はありがとう」
イリアの言葉にリカルドが舌打ちを叩きそうな顔を見せるとアンジュがそれを止め、カイにお礼を言った。それからアンジュがリカルドを連れて部屋に案内しに行くと、それと入れ違いにまた扉が開く。
「やっほー。あたし、アーチェ。アーチェ・クライン。よろしくね」
「……カイ。よろしく」
「はいはい、よろしく。あんたもギルドのメンバーなんでしょ? あたし、今日からここで働くからさ」
ピンク色の髪を長く伸ばし、ポニーテールに結って何故か箒を持っている少女――アーチェの唐突な挨拶にカイは驚きながらとりあえず返し、それにアーチェがそう言っていると、ミントがホールへとやってきてアーチェを見て頬を綻ばせる。
「アーチェさん、お待ちしていました」
「あ、ミント。ミントが欲しがってたのって、これでしょ? ソーサラーリング」
アーチェはそう言ってミントに不思議な形状をした指輪を手渡す。
「はい。これの力を借りれば、未踏の地へ行けるかもしれません。これからアドリビトムにとって、必要なものになると思っていたもので」
「でも、今はまっさらな状態でなーんの力もないのよね。だから、このリングにまず、息吹をふきこんでやんないといけないの」
「では、ひとまずこれはアンジュさんに預けましょう。どなたかが、このリングに息吹を与えてくれるように依頼を出しておきますね」
不思議な指輪――ソーサラーリングは今はまだなんの力もないとアーチェが説明し、息吹を吹き込む必要があると言うとミントがアンジュに預けて、誰かが息吹を吹き込んでくれるよう依頼をしておくと言う。それにアーチェはうんと頷いた後カイを見た。
「んじゃ、カイ。仕事で組みたい時は呼んでね! あたし、専門は魔術だから役に立つわよ」
「ああ」
アーチェはそう言い残してミントの案内で部屋に向かい、カイも自分の部屋に戻っていった。
その頃バンエルティア号の展望室。操舵室から続くこの船の隠れた最上階だが特に何かある訳でもなく、精々雨天時等甲板が使えない時に少し身体を動かしたいというトレーニング馬鹿を除けば滅多に人が来ない場所。レイはそこで一人考え込んでいた。
(この前の砂漠でのクエスト……)
考えていたのは以前カイ、クレス、イリア、そして飛び入りのカノンノと一緒に受けた砂漠での魔物を捨ててきてくれという依頼。実はその捨ててきてほしい魔物と言われていたのが何故か身体が鉱石のように固まり、異形と化しかけていた過去このギルドの依頼人ジョアンと、彼と同じ病にかかり病を治す存在なるものに病を治してもらったというミゲル。
(……)
異形となりかけていた二人を見たレイは、いや、それが入っていたケージを見た時その中にいた二人の気配を感じた時、いや、さらにその依頼を受ける前、オルタータ火山で赤い煙を浴びたのをその目で見たコクヨウ玉虫がまるで鉱石のような異形の存在に成り果てた時……彼女の胸に妙な感情が浮かんでいた。
(なんだ、この感覚は……心休まるような……)
レイはそう考えた後、はぁとため息をついて展望台から降りる。
「ああ、レイさん」
「チャット船長。何をしているのですか?」
と、操舵室にはチャットがいた。その姿にレイが尋ね、船長と言われたことに気分をよくしたのかチャットはふふんと鼻を鳴らした。
「ちょっとここの掃除をしていたんです。船長ですから船を大事にするのは当たり前ですからね!」
「なるほど。では、邪魔にならぬよう我はこれで」
「ああいえいえ。もう終わったとこですから」
えっへんと胸を張ってそう言い、レイが邪魔にならないよう立ち去ろうとするとチャットはもう掃除は終わったからと掃除道具を片づける。それから二人は一緒に一階のホールへと降りてくる。
「あ、レイにチャット。丁度良かった」
ホールへと降りたところでアンジュが二人に声をかけ、ミントが二人の方に駆け寄る。
「申し訳ありませんが、今お時間よろしいでしょうか?」
「えっと、なんでしょうか?」
「少し依頼を受けていただきたくて……」
「構わない。船長も一緒に受けていただけますか?」
「も、もちろんです! なにせ船長ですからね!」
ミントの言葉にチャットが首を傾げるとミントはそう言い、それを聞いたレイは「別に構わない」と話も聞かずにそれを了承し、チャットも再び船長と呼ばれて気を良くしたのか胸を張りながら答え、二人がアンジュの前に立つとアンジュはよかったと微笑んだ。
「よかった。今回の依頼、どうしてもチャットが必要になるのよ」
「すまん、アンジュ。ハロルドもリタも研究が忙しいと言っているのだが……」
と、科学室からユージーンが出てきた。
「あ、ユージーンさん。大丈夫ですよ、今レイさんとチャットさんが同行してくださると」
「そうなのか? すまない。助かる」
「え゙?」
ミントの報告にユージーンが二人に向けて深々と頭を下げると、チャットの表情が固まる。
「ねえねえ、なんかさっきオルタータ火山の、まだ誰も行ってない場所に行くって話を聞いたんだけどさ? 私もついてって構わない? お宝の匂いがするわ~♪」
さらにどこから聞きつけたのかルーティがにまにま笑いながらやってきた。
「今回はミントからの依頼で、オルタータ火山に行ってもらうね。で、何をするかと言うと……」
依頼のメンバーが揃い、アンジュが依頼の説明を初めてさっきアーチェがミントに渡していた不思議な形状の指輪――ソーサラーリングを出す。
「アーチェが持ってきてくれた“ソーサラーリング”に、自然界の息吹を注入してきてほしいの」
「自然界の息吹とは、自然のエネルギーと捉えていただいて結構です。そのエネルギーを注入する場所を、“リングスポット”と言い、そこで初めてソーサラーリングに効力が宿ります」
アンジュの説明にミントが補足する。
「まあ、何が出来るかと言えば、宿らせたエネルギーをリングで撃てるようになるのかな。ま、あちこちで役に立つものだし、損になる事はないから。それじゃ、ソーサラーリングを預けるから後はお願いね」
「はい」
アンジュがそう言ってレイにソーサラーリングを渡し、レイはその指輪を懐に入れる。
「え? あ、あの、ちょっと待ってください。同行者ってミントさんは?……」
「申し訳ありません、アーチェさんの荷物整理を手伝わなければならなくなって……その……」
チャットの慌てた声にミントは心なしか頬を赤く染めながらごにょごにょとした声で説明する。
「まあ、問題はないだろう。行くぞ」
「はい」
「はいはい行くわよ~」
「や、あの!」
ユージーンの号令にレイが頷き、ルーティがチャットの手を引いてメンバーは出発した。
そしてオルタータ火山に場所が移り、そこを歩くレイは二度目で暑さにも慣れたのかすたすたと前衛を歩き、ユージーンもその隣を歩きながら辺りを警戒していた。ちなみにルーティはそこら辺に高く売れそうなものがないか探し回っていたりしている。
「アンジュさん、ボクが、毛がフサフサなのを苦手だと知っていながら……」
「どうした、チャット。忘れ物か?」
「うわっ!?」
二人の後ろを少し遅れながらチャットがぶつぶつ呟いているとユージーンが彼女の方に寄りながら尋ね、それにチャットは声を上げてざざっと下がる。
「……あ、あまり近寄らないでください!!」
「む……すまん」
チャットの叫び声に押されたユージーンは彼女に向けて謝罪し、チャットはむくれた様子を見せる。
「そ、それよりボクを子供扱いしないで下さいよ! いつでも準備万端です!」
「そうか、それは悪かったな。しかし、今回はお前のその小さい身体が必要になる。俺とレイ、そしてルーティは今お前にしか出来ない仕事をする間の護衛というわけだ」
「了承した」
「任せなさいって」
「な、なにをさせる気なんですか?」
ユージーンからの依頼詳細説明にレイとルーティが頷き、チャットが「何をさせる気だ」と叫ぶがユージーンは「行けば分かる」とだけ言って歩き出した。
それから彼女らがやってきたのは以前ここに来た時の目的地であった星晶採掘地跡である洞窟の入り口。しかしユージーンはそこで足を止めて右手側に目を向けた。そこには鉄で出来ていると思われる頑丈そうな扉が立ち塞がっていた。
「ここは通れないでしょう? 進めないじゃないですか!」
「この扉は、向こう側からなら開く」
チャットの言葉にユージーンが説明すると、チャットは口を尖らせて「そう言っても、どうやって向こう側へ行くんですか?」と反論。と、ユージーンはふっと笑って、「それがお前の仕事になる」と答えて壁に空いている穴を見る。
「壁に穴があるだろう? あの穴は、向こう側へ続いている」
「ええ!! バンエルティア号の船長であるボクに何かあったらどうするんですか!」
ユージーンの言葉にチャットが叫ぶ。
「もしものために俺達がいる。安心しろ」
が、ユージーンは真面目な顔でそう答えた。
「……それとも出来ないと言うならば、他の者に代わってもらうか?」
「で、出来ますよ!! ボクが行きます!!」
挑発……のつもりはなかっただろうがユージーンの言葉にむきになったのかチャットはそう叫んで穴を覗き込む。
「う…(…奥にフサフサのネズミとかいたら……どうしよう……)」
しかしそう考えてしまい、彼女の動きが止まる。
「どうした。何かいるのか?」
「うわぁぁああ、こっちもフサフサ!! こっちに来ないでください!! 行きます、行きますってば!!」
心配したらしいユージーンが歩き寄ろうとするとチャットは悲鳴を上げて穴に潜り込む。それから数分程度経過すると扉が開き、その中からチャットが現れた。
「……どうぞ……開きましたよ」
「よくやった、チャット」
自分の仕事をやり遂げたチャットをユージーンが褒め、次に彼は彼女がいつも被っている帽子を見る。
「しかし、その帽子でよく穴を通れたな」
「……そうですね……我ながら不思議です」
その言葉に彼女はそうとだけ返し、再び彼女らは先に進んでいく。
「裂風瞬迅殺!!!」
それからレイ達は火山に住む魔物達と戦い――ついでにチャットが通ってきたらしい出口の穴を発見した――ながら火山の先に進んでいき、ユージーンの槍による二連続斬りと追撃の真空波がオタレドを斬り倒す。
「わあああぁぁぁぁっ!!!」
チャットはしりもちをつきながら鞄からボールやピコハンを投げて攻撃を仕掛けるが、レドゲコはそれをかわしながらチャットに突進、一気にチャット目掛けて飛び上りのしかかろうとする。
「ふんっ!」
「レイさん!」
しかしチャットの前にレイが立ちはだかって右手に持った盾でレドゲコを防ぎ、そのまま押し返すと左手に握った銃の銃口をレドゲコに向け、弾丸を連射して魔物を貫き息の根を止める。
「ローバーアイテム!」
そしてルーティが魔物から素材となる無事な部分を鮮やかな手さばきで奪い取った。
「無事ですか、船長?」
「あ、はい……」
レイの確認にチャットは呆然としながらこくこくと頷く。そして彼らはさらに先に進み、上層ポイントへと進んでいく。と、ユージーンはその道の先にいる、岩のような身体に炎を背中からは羽のように、頭から背中にかけても炎を噴き出している巨大な魔物を見た。
「む……あれはフィアブロンクか……」
ユージーンは呟き、レイとチャットを見る。
「レイとルーティはともかく、チャットは大丈夫か?」
「馬鹿にしないでください。毛がない相手なら、怖くありません!」
「……そいつは頼もしい言葉だ。では、行くぞ!」
ユージーンの言葉にチャットが叫び、ユージーンがそう言って槍を構えるとレイも剣を抜いて盾を構え、チャットも鞄に手を入れて三人はフィアブロンク目掛けて突進、外敵に気づいたフィアブロンクも威嚇するように咆哮し、巨大な腕を地面に叩きつけた。
「裂空斬!」
「天雷槍!」
「氷結せよ、アイシクル!」
その腕に押し潰されないようにレイが空中を縦に回転する回転斬りで斬撃を与え、ユージーンが槍を振り上げて雷鳴を起こし雷撃で攻撃、ルーティが先端の尖った氷柱を生み出してフィアブロンクを傷つける。
「ピコハン!」
さらにチャットがカバンから取り出した大量のピコピコハンマーをフィアブロンクに投げつけた。
「グオオオォォォォッ!!!」
咆哮を轟かせて巨大な腕を振りかぶり、振り下ろしてくるフィアブロンクに、地面に降り立ったレイは盾を構えようとするがすぐさま盾を投げ捨ててその場から逃げ、その直後巨大な腕がさっきまでレイの立っていた場所に突き刺さりその場にあった盾が地面にプレスされる。
「防御していたら潰されていたな……」
「ああ。体格差があり過ぎる」
レイは盾を投げ捨てた左手に銃を持ち替えながら呟き、その言葉をユージーンが肯定する。その直後、レイ、ユージーン、ルーティが再び走り出した。
「ツインバレット!!」
少しスピードを緩めて走りながら銃弾を連射してフィアブロンクの意識を向け、その間に身軽なルーティがいち早くフィアブロンクの懐に突っ込む。
「スナイプロア!!!」
突進の勢いをつけて剣――アトワイトを突き刺し、刃を返して後ろにジャンプする勢いを利用し斬り裂く。
「裂風迅槍衝!!!」
そこにユージーンが槍を回転させて疾風を纏わせ、回転突きでフィアブロンクの身体を抉る。
「グオオオォォォォッ!!!」
フィアブロンクは懐の二人を無視し、銃弾を当ててきたレイに狙いを定め拳を振り上げ、一気にレイ目掛けて右ストレートを放つ。がレイはその拳目掛けて突進、さらにその拳の軌道を見切っていたのかスライディングで拳の下を潜り抜けるようにかわして銃口をフィアブロンクの顔に向ける。
「スライディングバレット!!!」
スライディングしながら銃弾を連射し、フィアブロンクを怯ませる。しかしその直後フィアブロンクは巨体を持ち上げ、彼らを潰さんと試みた。
「まずい! 間に合うか……」
相手の目的に気づいたユージーンとルーティはすぐに逃げようとするが相手の巨体から逃げきれるかと言われると怪しいところ。二人はまだその影の中だ。
「吹き荒れろ、貫け、嵐の矢よ!!」
と、そこにそんな男性の声が聞こえてくる。
「ストリームアロー!!」
そして凛とした男性の叫びと共に辺りに風が舞い、嵐の矢がフィアブロンクを貫く。その痛みにフィアブロンクは呻くと共にバランスを崩し、仰向けに倒れる。その巨体がずううぅぅぅんと地響きを立てた。
「今の術は……一体誰が」
「ま、まさか!?」
ユージーンが驚いたように呟くとルーティがさっきの声及び術に心当たりがあるのかまさかと叫ぶ。
「なにやら奥の方が騒がしいから来てみたが。懐かしい顔に出会ったものだな」
さっき彼女らが来た方から、銀髪をなびかせて褐色の肌をした男性が歩いてきた。
「ウッドロウ! 何やってんのよあんた!!」
その姿を見たルーティが嬉しそうに叫ぶ。と、ウッドロウと呼ばれた男性は「何、気にする事はない」と返す。
「各国を巡る旅の途中というところだ。ところで、手助けが必要かな?」
「ただで働いてくれるってんなら大歓迎よ!」
「分かった。私で良ければ手を貸そう……構わないかな、リーダーさん」
「……」
ウッドロウの提案にルーティが二つ返事で返し、ウッドロウがレイに尋ねると彼女は静かに頷く。そしてフィアブロンクが体勢を立て直すと共にレイとユージーンは走り出し、同時にルーティが詠唱を開始、ウッドロウは背負っていた弓を構えて矢を番え、チャットは鞄の中に手をやる。
「白きに染められし、凍結なる世界。安らかな幕引きを与えん! ブリザード!!」
「豪烈!」
「ポイハン!」
火山に巻き起こる吹雪と吹雪に乗ってフィアブロンクに襲い掛かる、気合が込められた矢と毒が染み込み緑色に変色したピコピコハンマー。体験したことのないそれにフィアブロンクは驚きからか硬直し、吹雪と共に気合のこもった矢や毒のピコピコハンマーを受けて苦しそうに唸る。そこにレイは下におろされていた腕をつたってフィアブロンクの巨体を駆けあがりながら左手の銃をフィアブロンクの足元に向ける。
「アクアバレット!!」
バンバンバンと銃声が鳴り響き、水のマナが込められた銃弾がフィアブロンクの足元に着弾。それと同時に水流が発生し、フィアブロンクの足元を掬い上げる。そしてレイはそのままフィアブロンクの腕を踏み台に大ジャンプし、身体に捻りを加えて銃口をフィアブロンクへと向ける。
「ガトリングバレット!!」
空中を回転しながら銃弾を連射し、フィアブロンクの身体を銃弾が貫く。さらにその頭上にユージーンが上がり、槍をひゅんひゅんと回転させる。その槍に巻き込まれていくのはさっきの技や術で辺りに一時的に拡散した水のマナ。
「水塵渦龍槍!!!」
フィアブロンクの頭部に槍を突き刺すと同時、フィアブロンクの頭部を蹂躙する荒れ狂う水流。その一撃が急所に入ったのか、フィアブロンクは気絶、
「今だ!!」
さらにユージーンから追撃指示が入り、レイは剣を抜き、ルーティとウッドロウもその後に続く。
「スラッシュレイン!!!」
「空破絶掌撃!!!」
ルーティがジャンプして鋭い針のような水流をフィアブロンクに見舞い、ウッドロウが鋭く突きを放つと彼の姿が消え、そう思うとフィアブロンクの背後から二発目の突きを叩き込む。
「思いついた……」
レイはふっと笑いながらフィアブロンクから離れた地点でジャンプ、まるで先ほどガトリングバレットを見舞った時のように剣先を真っ直ぐに構えると同じように回転。
「飛転翔突!!!」
勢いよく回転しながら飛天翔駆の要領で宙を蹴り、突進。まるでドリルのような回転突撃がフィアブロンクを貫かんと迫り、ルーティはその光景を見て苦笑し、その場を離れながら詠唱する。
「刃にさらなる力を、シャープネス!」
ルーティが術を発動すると同時にレイを赤い光が包み込む。そしてレイの空中回転突撃がフィアブロンクを貫き、その一撃を受けたフィアブロンクは断末魔の悲鳴を上げた後動かなくなった。
「終わったみたいね」
「よし。目指すはこの先だ、急ぐぞ」
ルーティがフィアブロンクの死骸を確認し、ユージーンが急ぐぞと号令をかけて彼らは再び歩き出した。ちなみにちゃっかりウッドロウも同行している。
そして、彼女らは火山の最奥地へと辿り着く。そこには不思議な小さな柱のような台が光を放っていた。
「ここがリングスポットだ。レイ、ソーサラーリングをあの台にかざしてみろ」
ユージーンに促されてレイはソーサラーリングを取り出し、言われた通り台にかざす。と、いきなり台の柱部分から光が発され、それにソーサラーリングが共鳴したかのように光り始める。そしてその台からの光はやがて消えるが、ソーサラーリングには輝きが残ったままだった。
「これで、ソーサラーリングに自然界の息吹が宿った」
そう言った瞬間、いきなりこの場所の入り口だった部分の扉が閉まってしまう。
「扉が閉まってしまいましたよ!」
「大体の仕掛けは分かっている」
焦るチャットに対しユージーンは冷静に答え、後ろの崖を見る。その崖の向こうにはこれ見よがしなスイッチが設置されていた。
「後ろにソーサラーリング用のスイッチがある。レイ、あれを撃ってみろ」
ユージーンの言葉に従い、レイは崖っぷちに歩いていくとソーサラーリングをかざし、念じる。と、ソーサラーリングから火花が飛び、一直線に飛んだ黄色い火花がスイッチに当たるとさっき閉まった扉がゴゴゴと音を立てて再び開いた。
「やはりな。そういう仕掛けか」
「よかった。このまま閉じ込められるのかと思いましたよ」
「このように、ソーサラーリングを使うことでしか行けない場所がある。では仕事は終わりだ。戻るとしよう」
自らの予想が当たり、少し得意気な表情を見せるユージーンに対しチャットはほっと安堵の息を吐き、ユージーンはソーサラーリングについてさらに説明。それから彼女らは船へと戻っていった。
「お疲れ様! ソーサラーリングはまだ効力を上げる事が出来るから、新しいリングスポットを探しましょう。リングは……とりあえず預かりましょう。必要になったらそれに応じて貸し出すことにするから」
「はい」
バンエルティア号に戻って依頼成功の報告をした後、アンジュに求められてレイはソーサラーリングを渡す。
「えーっと、ところで……」
それからアンジュはようやく、ちゃっかり船まで一緒に戻ってきたウッドロウに目を向ける。
「あなたはどなた?」
「あーえっと、あたしらの知り合いで……」
アンジュのかくんと首を傾げながらの問いかけにルーティが困ったように紹介しようとする。と、ウッドロウは穏やかに微笑んだ。
「私はウッドロウ・ケルヴィン。話はルーティ君から聞かせてもらったが、このギルドのメンバーではスタン君、フィリア君とも旧知の仲だ」
「ウッドロウ……ケルヴィン……えええぇぇぇぇっ!!??」
ウッドロウの名前を聞いたアンジュが驚いたように叫び、ルーティも「まあそうなるわよね」と苦笑する。
「うわー、すごく丁度いいというかなんというか……」
「どういうことですか?」
アンジュが呟き、チャットが首を傾げるとアンジュは一枚の依頼用紙をウッドロウに見せた。
「これは……我が国からの依頼だ……ふむ、ウッドロウ・ケルヴィンの護衛依頼。私の護衛依頼か」
「うっわー。護衛どころかあたしらが助けられちゃったんだけど……」
ウッドロウの言葉にルーティが冷や汗をかく。
「なるほど……これは、一時の猶予を与えられたと受け取って構わないのかもしれないな」
呟いた後、困ったように「ふむ」と呟く。
「しかし、どうしたものか……私は一応、身分を隠し、各地を遊説している身でね。公式に、ギルドの今回の申し出を受ける事は出来ないのだよ。それでは、身分を隠している意味がなくなってしまうからね……」
そう言って彼は少し考えた後、彼は一つ頷いてアンジュを見た。
「さっそくで申し訳ないが、折り入って頼みたいことがあるのだが……」
「はい?」
「私をこのギルドに入れてもらえないだろうか?」
「はい!?」
唐突な申し出にアンジュは呆けた声を出すしかなかった。その後ろではチャットとユージーンが目を点にし、ルーティが呆れたようにため息をついている。
「表面上はどうあれ、腕に覚えのある者達と寝食を共にするのだ。国の者達も少しは安心出来よう。なにより、ギルドには民からの生の声が多く寄せられるはず。私自身も、大いに学ばせてもらう事が出来そうだ。悪い案ではないと思うのだが」
「まあ、ウッドロウの実力はあたしやスタン、フィリアが保証するわよ」
「ああ。俺も保障しよう、実際助けられたからな」
「は、はい!」
ウッドロウの提案にルーティとユージーン、チャットが彼の実力を保証するという声を出し、アンジュはう~んと考える様子を見せる。
「何も難しく考えなくても構わない。このギルドは国籍を問わず、多くの人間が集っていると聞く。私も王族としてではなくウッドロウ個人としてこのギルドに入れてもらいたいのだ」
「エステルさんと同じ、ということか?」
「エステル?」
ウッドロウの言葉にレイがそう言い、ウッドロウは少し驚いたようにその名前を反芻する。と、アンジュはこくんと頷いた。
「分かりました。そういう事でしたら、私達は心からあなたを歓迎します。その代わり、皆と同じように仕事もきっちりこなしていただきますが」
「構わない。元より、それがこちらの望みでもある」
交渉が成立し、ウッドロウはレイの方を見た。
「レイ君、と言ったね? そういうわけだ。しばらくこちらで世話になる。何かあれば遠慮なく呼びつけてくれ」
「ああ」
ウッドロウの言葉にレイは一言言って頷き、ウッドロウも首肯すると今度はルーティの方を見る。
「ではルーティ君。すまないが皆に挨拶をしたい。部屋に案内してもらえないかな?」
「ええ、任せといて。スタン達の驚く顔が目に浮かぶわ~」
ルーティはきししと笑いながらウッドロウを伴い部屋に戻っていき、ユージーンとチャットも解散する。
「たっだいまー!」
「ただいまなー!」
と、そこに買出しに行ってきていたファラとメルディが帰ってきた。
「あ、お帰り」
「帰ってきたか」
アンジュがお帰りと言うとホールで読書をしていたキールが本を閉じて呟く。と、その後彼はメルディが何か妙な紙を持っているのに気づき目を細めた。ちなみにファラは荷物を持って食堂に行っている。
「メルディ、なんだこの紙は?」
「それな、街に買出し行った時もらった。キールにあげる」
キールが言った紙をメルディはキールに手渡し、キールはその紙を見る。
「なになに……“終末近し”だって? “今こそ救世主ディセンダーが降臨する時”、“ディセンダーをこの世に迎え、腐敗した世界を共に撃ち砕き、輝ける未来を再建しよう”、“世界再建の要……暁の従者”……」
キールはチラシを読み終えた後、それを片手の甲でぴしぴしと叩く。
「最近世間を騒がせている、ディセンダーの出現を待つ新興宗教のチラシだな。大体ディセンダーなんて、いるわけがないんだ。お前もこんなのに引っかかるんじゃないぞ」
「バイバ! なあキール、ほんとにディセンダーいるがいいな! 世界を救うんだよぅ」
キールの言葉を聞いたメルディは嬉しそうにくるくる回りながらそう言う。
「で、結局こういう奴らは何も出来ずに延々とありもしないディセンダーを待ち続けて、何も掴めない人生で終わるんだ」
「待つだけがダメだな。でも、この“暁の従者”信じるが人、増えてるよ。みんな、自分持つが力、知らないか?」
その言葉にキールがそう言うと、メルディは悲しそうな目でそう返す。それにキールはひょいと肩をすくめた。
「さあな。ただ、本気で何かをしたことがなく、我が身の不幸を嘆くばかりの奴がこういうのに入信してしまうんだ」
「メルディ、自分何か出来るが分かると、すぐそれやろうと思うよ。みんな違うか?」
その言葉にメルディは再び悲しそうにそう言う。と、レイがそのチラシを覗き込んだ。
「レイ。お前もこんな得体のしれないものに引っかかるなよ? お前と言いカイと言い、お前達は変なところ無防備なんだ……だからその、なんだ……離れてくれないか?」
キールは最初こそ毅然とした様子で注意をするが、やがて恥ずかしそうにそう呟き、彼女の目的らしいチラシを押し付けて彼女から距離を取る。そしてレイはチラシを流し読みした後、ぐしゃっと握りつぶした。
「バイバ! レイ、どうかしたか!?」
「……なんとなく、むかついた」
「当然だ。僕達が努力しているのにありもしないものを延々と待ち何もしないなんて愚の骨頂だ」
レイの行動にメルディが驚き、レイの言葉にキールはうんうんと頷いた。
場所は食堂に移り、ファラは買い出しした食料をクレアに渡すと食堂内にいるコハクに話しかけた。
「赤い煙は、最近じゃ色々な形に見える、って言ってたよね? もしかして、実体を持とうとしてる……のかな?」
「精霊なら、正体を知っていたりするかな」
「精霊って、本当にいるのか?」
ファラの言葉にコハクが口元に指を当ててそう呟くと、食堂で食事をしていたカイがそう聞く。
「どうかな……昔はいたって聞いたことあるけど、どこまで本当か分からないよね」
カイの質問にコハクが困ったように呟く。その時食堂の扉が開き、
「精霊と交流を持つ、“ミブナの里”という場所がある……行く意思があるのなら、案内する。依頼として届けておこう」
開いた扉の向こうからクラトスがそう言うと、彼は踵を返して食堂に入る事なく去っていった。と、ロックスが神妙な表情を見せた。
「ミブナの里……聞いたことがあります。あそこは妙な昔話があるんです。本が……確か、“異類化生記”だったかな……あの地方に伝わる昔話を集めた本があるんです。人がお化けになったり、動物になったりする昔話です。他にも、悪い事をしてカエルにされた男の話とか……」
「ロックスも元々ヒトだったりしてね!」
「えーぇぇぇ!!!」
ロックスの言葉を遮ってファラがそう言うと、彼は心から驚いたというように悲鳴のような大声を上げる。
「……ぇっと。なんでしょうか、ヤブカラボーに……」
「ふふ、冗談だよ! ただ、ロックスってすごくヒトみたいだから。私達より頭がいいし、色んな事出来るし。なんだかヒトとの違いを感じないもの」
そして頬を引きつかせながら尋ねるとファラは冗談だよと言って笑い、そう続ける。
「そ、そうですか。それは……どうも……ヒトとの違いを感じないって言うのは、そうですね、うれしいものですね……お嬢様のご両親の代わりをして生きてきましたが……僕みたいなのが親代わりなんて、恥ずかしいと思ってはいないだろうか……って。それはずっと……気になっていましたし」
「恥ずかしいなんて思うものか」
ロックスは最初嬉しそうに、その後落ち込んだように呟くとカイは力強くそう言う。それにロックスは嬉しそうに微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえると、救われます。本当に……いつもいつも、好奇の目で見られました。僕が親代わりをしていることに……お嬢様もその事でからかわれて、恥ずかしい思いをしたでしょうに」
「ううん。ロックスは私達の家族だよ」
「はい……ありがとうございます!」
嬉しそうにお礼を言いながらもまだ暗いロックスにコハクがそう言うと、ロックスはやっと元気が戻ったように頷き、元気にお礼を言う。
「そういえば、ロックスってなんて種族なの?」
「ぅ、えーっと……ななななな何でしょうね。ひょっとしたら僕、新種かも……タハハハハ……」
しかしさらに続けてのコハクの問いにロックスははぐらかすように笑うのであった。
……この小説をマルチ投稿してるMP文庫が作品が読めなくなったという報告を受けて心配になってきましたカイナです……いや別にこれそのものはこっちで続けていってあっちが直ったらまとめて投稿すればいいだけの話なんですが、あそこは僕が初めて執筆活動したサイトなので心配なんですよね……。
さて話を戻して今回は……なんか一気に仲間入りイベントが続きました。あとソーサラーリング。あ、ちなみに今回の題名ですが“呪いの輪”は“まじないのわ”と読んでください。で、ソーサラーリングクエストの後ウッドロウの仲間入りクエストが出たのでもうめんどくさくなってソーサラーリングクエストに無理矢理捻じ込みました。どうせウッドロウがいるのもオルタータ火山だしいっか、みたいなノリで。
さーてもうすぐあれだー。もうすぐもうすぐと言いながら結構その間が長いな……ま、今回はこの辺で。ご指摘ご感想があればお待ちしています。それでは。