テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第十二話 赤い光の謎と新たな仲間達

ルバーブ連山。カイ達は願いを叶える存在と噂されている赤い煙の調査の為、ここを訪れていた。

 

「ここにいるのか……」

 

カイがぼそりと呟きながら歩いていく。と、レイが「む」と呟いて足を止め、メルディもあっと声を出す。彼らの前には一般人らしい男女二人組が立っている。

 

「あそこが人、山登るか? やめる言わないとダメだな!」

 

「おーい、そこの二人! そんな軽装じゃ、この山登れないぜ!」

 

メルディの言葉に頷いてティトレイが目の前にいる軽装の一般人らしい二人組に呼びかけ、歩き寄る。

 

「登れないつったって、こっちゃ登らなきゃならないんだよ」

 

チャラそうな男性がやはりチャラい口調でそう言う。

 

「願いを叶えてくれるってのが山の上にいるんだろーよ?」

 

「アタシら、そいつに会いに行くんだよね。で、この山って危ないの?」

 

「魔物がたくさんいる」

 

チャラそうな男性に続き、我儘そうな顔つきをしてきつい化粧をした感じの女性がそう言い、この山が危ないのかと聞くとカイがそう答える。

 

「っていうかさ、おたくら武器とか持って、なんなの?」

 

「俺達は、アドリビトムってギルドのもんだ」

 

「ギルドって何でも屋でしょ? ちょっとウチらの護衛頼まれてもいいんじゃない?」

 

チャラそうな男性の質問にティトレイが答えると我儘そうな顔つきの女性がそう言う。

 

「オレら、この山にいる願いを叶える奴に大金持ちにしてもらうんだよ。だから、報酬はその後払うからさー」

 

「断る」

 

チャラそうな男性の頼みをカイが一刀両断で切り捨てる。と、男性はチェッと言った。

 

「じゃあ、いいや。元々二人だけで行くつもりだったし」

 

「んとな、それはな……んと……な」

 

「……あー。ああー!!」

 

四人に背を向け山の方に行こうとする二人をメルディが止めようとしかしなんて言おうかと迷っていると、突然ティトレイが声を上げる。

 

「残念だったなぁっ!! 今あの、街……街にいるらしいぜっ!! ほら、早く行かねえとまたどっか行っちまうぜ!!」

 

あからさまに出まかせ。しかし女性は「なあんだ」とつまんなそうに呟いた。

 

「だったら、こんなトコいないで帰ろ帰ろっ!」

 

「つまんねえのっ!」

 

そう言って二人組はすたすたと街の方向けて歩き去っていく。

 

「命知らずな上に、俗っぽい奴らだぜ。人の欲って、際限ねえからな」

 

二人組がいなくなってからティトレイが呟く。

 

「あんな連中が私利私欲のために一斉に願いを叶えまくったら、世の中滅茶苦茶になっちまう」

 

「さ、メルディ達も行こー、行こー!」

 

ティトレイが毒づき、メルディが明るい声でそう言うとカイもああと頷いて歩き出し、メルディもスキップしながらその後に続き、ティトレイも二人について行こうとするがふと足を止めて振り返る。

 

「おいレイ、どうしたんだ? 行こうぜ?」

 

「……ああ」

 

ティトレイの呼びかけに、レイはさっき俗っぽい二人組が去っていった方を睨みつけるような目で見た後頷き、歩き出してティトレイを追い抜き、それからティトレイも改めて歩き出した。

それから彼らは登山口へと向かう。と、ティトレイが何かに気づいて走り出し、登山口のある一つの方向で止まる。普段門で閉ざされている登山口、しかしその門が開かれていた。

 

「こっちは通れなかったはずなのに……」

 

「きっと誰かが通ったよ」

 

「……”願いを叶える存在”を探しに来た奴かもしれない」

 

「そうだな。こっからちいっと急ぐか!」

 

ティトレイの呟きにメルディがそう言うとカイが続け、その言葉にティトレイは頷くと「少し急ごう」と声をかける。

 

 

 

 

 

「剛・魔神剣!!」

 

レイが剣を地面に叩き付け、発生した衝撃波が二本の木の枝を棍棒のように振り回す二足歩行のウサギみたいな魔物――コパンを吹き飛ばし、

 

「飯綱落とし!」

 

空中に吹き飛んだコパンをカイが空中を舞うような縦回転斬り落としで斬り倒す。

 

「轟裂連牙弾!!!」

 

その近くでティトレイが、一本の巨大な木の枝を肩に担いだ二足歩行のウサギみたいな魔物――デカパン目掛けて至近距離から気功弾をぶつけ、デカパンを一撃で仕留める。彼の額に皺が寄っていることにレイが気づいた。

 

「ティトレイ……怒っているのか?」

 

「大して努力もせずに、夢を叶えようってヤロウを見るとムカムカするんだよ。正直、登山口にいた奴も一発殴らせろって思ったくらいだ」

 

レイの問いかけにティトレイが吐き捨てるように答える。

 

「ああいうヤロウは、なんでもしてもらって当然って思ってやがる。だから、他人の大事なものを平気で踏みにじって、奪い取れるんだよ。大国の偉い奴らなんか、そうだろ。小さい国を食い潰していくだけだ」

 

「サンダーブレード!!」

 

ティトレイの言葉の直後その声と共に天空から雷の剣が落ち、辺りに雷撃を放つ。その雷撃がコパンとデカパンの間くらいの大きさのウサギみたいな魔物――チューパンを倒した。

 

「でもな、ティトレイ。エステルが、違うよ。みんなが全部、そうじゃない」

 

そしてその術を放った少女――メルディが言う。

 

「……ああ、わかってるさ」

 

その言葉に、ティトレイは少し悲しげで申し訳なさそうな目を見せながらそう返した。

 

 

「霧が深くなってきたな……」

 

それから彼らは魔物を倒しながら山道を進んでいき、中腹くらいに差し掛かった辺りで霧が深くなってくるとカイが呟く。

 

「おい、ありゃなんだ?」

「光ってるよ!」

 

ティトレイとメルディが声を出し、彼らは足を止める。白い霧が立ち込める中、赤く光る何か変な物体がその道の先に佇むように存在していた。

 

「こいつが、赤い煙だった奴か? 願いを叶える存在なのか?」

 

少し歩き寄り、ティトレイはその赤い物体を見ながら呟く。と、レイが銃を抜いて一歩前に出た。

 

「お、おいレイ!?」

 

「……あなたは、何者なんだ?」

 

銃を突きつけながら赤い物体へと問いかけるレイ。と、その赤い物体は全身をゆらゆらと揺らしながらゆっくりとした足取りでレイに近づき、それにカイもレイの隣に立つように一歩前に出る。

 

「お、おい……カイ……レイも、大丈夫なのか? 気をつけろよ……」

 

心配そうにティトレイが声をかけ、カイとレイはその赤い物体と睨み合う。

 

「っ!? ぐぅっ……」

 

「レイ!? くそ、こいつ何かしやがったのか!?」

 

と、突然レイが頭を押さえてがくりと膝をつき、ティトレイは悲鳴を上げた後赤い物体に拳を向ける。

 

「いたぞ!! ディセンダー様だ!!」

 

「!?」

 

しかしその直後、彼らが登ってきた山道からそんな声が聞こえてきた。

 

「願いを叶え、全ての者を導き給うお方。ディセンダー様! やはり、降臨されていたか!」

 

「ディセンダー?……何言ってやがる、そんなワケあるか!! こいつ今レイを苦しめてやがんだぞ!?」

 

「あの人、街でチラシ配ってた。“暁の従者”だな」

 

山道を駆け上ってきた二人の男性、その内の一人の言葉にティトレイが憤慨し怒鳴り声を上げる。その隣でメルディがそう言うと、ティトレイが彼女の方に目を向ける。

 

「あのディセンダーの出現を待ち望んでるって、アレか?」

 

そう言い、「こりゃ、ややこしい連中に出くわしたもんだな」と額を手で押さえる。

 

「我々の救世主をお運びするぞ!」

 

暁の従者のもう一人の男性がそう言い、赤い物体に近づこうとする。

 

「おっと、待てよ!」

 

が、その前にティトレイが立ちはだかった。

 

「コイツがディセンダーだって確証はあるのか? うかつに接触しない方がいいぜ」

 

「なんだ、お前達は。邪魔をするな!!」

 

「その方こそが、貧しき者を救いに導き、私欲に肥え膨れ、堕落した大国の者共を成敗する為に降臨したディセンダー様だ!!」

 

ティトレイの言葉に男性二人が声を荒げる。

 

「コイツは人だけじゃなく、生物全てに害を成す危険な存在かもしれねえんだぞ! 小難しい説法してねえで、とっとと帰りやがれ!!」

 

「ディセンダー様を侮辱するか!!」

 

ティトレイと暁の従者二人組が怒号を上げて睨み合う。メルディは男性二人の謎の威圧感に怯えてティトレイの背中に隠れ、レイは未だ赤い物体の前にひざまずくように座って頭を抱え唸り、カイは赤い物体から目を離していなかった。

 

「お前達、ディセンダー様を私欲のために独占する気だな。ならば、これでもくらえ!!」

 

男性の一人がそう叫んで球を地面に叩きつける。と、同時に霧深い山の中に突如閃光が走った。

 

「バイバ!! 見えないよぅ!」

 

「ぐぅっ!? なんだこりゃぁ!?」

 

メルディとティトレイが悲鳴を上げ、やがて閃光が消える。

 

「……あの赤い奴がいない」

 

「なにっ!?」

 

カイが息を飲みそう言うとティトレイはさっきまで赤い物体がいた方を見る。しかしそこには赤い物体もそれが発していた赤い光もなくなっていた。ただ、その代わりレイが倒れている。

 

「って、おい、あいつらどこへ行きやがった!?」

 

「イナイよー。連れてかれたな!」

 

さらに彼は中腹を見回す。さっきの暁の従者二人組の姿がなくなっておりメルディが叫ぶ。

 

「急いで戻って報告……じゃねえ、レイも運ばねえと!」

 

ティトレイはそう言ってレイをおぶり、カイ達に「急ぐぞ!」と呼びかけると急いで元来た道を走り出す。

 

「アレが人の手に渡ったんだ。えらい事になるぜ……」

 

その道中、ティトレイは悔しそうに歯を噛みしめながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「まさか、あの存在が人の手に渡ってしまうなんて。しかも、暁の従者に……」

 

「申し訳ありません」

 

アンジュが呟き、カイが頭を下げる。

 

「いや、カイだけの責任じゃねえ。俺も同罪だ……」

 

「そうよ。気を落とさないで」

 

頭を下げるカイにティトレイとアンジュが声をかける。

 

「それで、願いを叶える存在なんだけど……」

 

「赤い煙が違った。ヒトが姿してたな。けれど、なぜ姿が持ってたかわかんなかったよー」

 

「うす気味悪いやつだったぜ。何を考えてるか、まるで読めねえ感じだな」

 

メルディとティトレイが報告をし、さらにティトレイは「そうだな」と呟いて考えるように顎に手を当てる。

 

「なんとなくなんだけどよ、あの存在、どうも自分が何者か分かっていないようだったぜ」

 

「ディセンダー? いいえ、まさかそんなはずは……」

 

ティトレイの言葉にアンジュはディセンダーを連想するが、すぐにそんなはずはないと考えを打ち消す。

 

「もし、あのまま信仰の対象にされて、多くの人々に接触してしまったら大変なことになってしまう……」

 

「ジョアンさん達がみたいにたくさんのヒトが魔物になるか?」

 

「大いに考えられることね」

 

アンジュの言葉にメルディがジョアンのことを思い出すと、アンジュは「大いに考えられることだ」と返す。

 

「“暁の従者”か……これから、その団体は変な真似しねえように見張ってねえとな」

 

ティトレイがそう言うと、医務室に続くドアからアニーが出てくる。

 

「あ、アニー! レイの様子はどうだ!?」

 

「あ、はい……診断の結果は異常ありませんが、まだ目は覚めません。命に別状はないみたいですが……」

 

「そうか……」

 

アニーに気づいたティトレイの言葉にアニーがそう結果を話すと、ティトレイは安心したように微笑む。

 

「レイは、あの赤い物体を見てから気を失ったの?」

 

「あ、ああ。急に苦しみだして、暁の従者の連中が多分閃光弾か何かでも使ったんだと思うが俺達の目をくらませて、赤い物体と共に姿を消した。その時には気絶してたんだ」

 

「そう……」

 

アンジュの問いかけにティトレイはそう答え、アンジュは「一体なんで……」と呟く。が、そのすぐ後に「そうだ」と思い出したように声を出す。

 

「リタの研究に進展があったみたい。今から話を聞くために、研究室に行きましょう」

 

「はい」

 

アンジュの言葉にカイは頷き、彼らはそのまま研究室へと向かう。

 

「待ってたわよ。それじゃあ、早速説明を始めるわね。コクヨウ玉虫のドクメントを調べたんだけど、やっぱりこの虫本来のドクメントが侵食されてるみたいなの。全く違う生物にドクメントが書き換えられてる。ううん……生物という仕組みじゃないわね。あたし達の世界には、存在しえないドクメントなのよ」

 

「そういえば、前に助けた二人のドクメントも確かめてきたんだけど、ちゃんとヒトのドクメントに戻ってたわ」

 

リタはコクヨウ玉虫が入っているケージを見ながらそう言い、ハロルドが補足を入れるように続けて口を開く。

 

「あの、赤い煙……だった存在は……あたし達の世界にはない“異質なドクメント”なのかもしれない。でも、どこからどうやって現れたかはわからないし、目的が何かも分からないわ」

 

「目的がねえのが、一番タチ悪いんだよ……」

 

「“赤い煙”が他の生物に接触する事で、その生物のドクメントが変化……そして“赤い煙”自身の変容……」

 

リタの言葉にティトレイが眉を吊り上げながら言うと、いきなりしいなが呟き始める。

 

「例えば、だけどさ」

 

そして自分の中で何かの考えに至ったのか突然皆に話しかける。

 

「今までの出来事から“願いを叶えて欲しい”という強い想いに“赤い煙”は反応しているらしいじゃないか。その“赤い煙”って奴は意思を持ってて……相手の“想い”に接触する時に、相手の“ドクメント”を覗き込むことで学習、進化してる……としたらどうだい?」

 

「人はそうかもしれねえ。でも、虫や植物の変化も起きてるじゃねえか。そいつらにも意思や、願いがあるってのか?」

 

しいなの言葉にティトレイが反論する。

 

「ああ、あるよ。“生存欲”さ」

 

しかししいなはきっぱりとそう返した。

 

「生物が瀕死に陥った時、もしくは絶体絶命の危機が迫った時の意識は絶大だからね」

 

「うーん。分かるような、分かんねえような?」

 

「そうだねえ。じゃ、もっと具体的な例を見せようか」

 

しいなの説明にティトレイが頭を悩ませているとしいなはふっと笑ってそう言う。それから研究室の一個のサボテンが用意され、リタがそのサボテンのドクメントを展開する。

 

「さて、見ててごらん」

 

そう言うと共にしいなは懐からお札を出し、どういう仕組みかその札の先に火がつく。

 

「さーて、このサボテンはもう要らないし、燃やしちまおうかねぇ?」

 

そう言って火のついた札をサボテンに近づけるとその瞬間ドクメントはまるで波のようにあらぶり、それを確認したしいなは札から火を消して懐に戻し、サボテンを申し訳なさそうな目で見る。

 

「ごめん、試させてもらったよ。さ、みんな、これで分かったかい? “光気丹術”、つまりソウルアルケミーで言えば、生物の生存欲ってものは、ドクメントにそれだけ影響を及ぼすって事さ。今まで赤い煙が現れた場所には、星晶がなかったんだろ? 星晶がなくなり、土地からマナが枯渇したために、植物や虫達に取って危機的な状況となった。赤い煙は植物や虫、動物の生存欲を察知して接触、ドクメントに干渉……やがて、その対象となりヒトとなり学習、やがて“赤い煙”自体が進化……ってとこかねえ」

 

「なるほどね~。“赤い煙”が意識体、と仮定するならば、意識もドクメントの一つ。進化ってのも考えられなくないわね」

 

「でも、仮定だからねぇ。そもそも、そいつが現れた理由がわかんないね……」

 

「“赤い煙”……いや、“願いを叶える存在”がいて、生物に影響を及ぼしているのはわかったよ。でもよ、なんでそいつは相手の願いを叶える? なんで相手の姿形を変えちまうんだ? 目的がわかんねえよ」

 

しいなの仮定にハロルドが興味深そうに頷くとしいなは「仮定だから」、「そもそもそれが現れた理由が分からない」と返し、ティトレイも頭をかいてそう呟いた。

 

それから彼らは研究室を出ていき、ティトレイとメルディはレイの様子を見に医務室へと向かい、カイもそれに続こうかとしたその時、甲板に続く扉が開いた。

 

「申し訳ありません。アドリビトムというギルドはここでしょうか?」

 

「ああ」

 

「ふう……ようやく着いたか……」

 

茶髪に白服の青年の質問にカイが頷くと彼はそうとだけ呟く。

 

「何かご用でしょうか?」

 

「ああ、すみません。ここに探している人がいるのですが……」

 

「あら、カイ。そちらはお客様かしら?」

 

以前教えられたマニュアル通り丁寧な口調を使って用件を伺うと青年は用件を言おうとする。と、そこにアンジュがやってきた。

 

「あなたがこのギルドのリーダーでしょうか?」

 

「ええ。私はアンジュと言います。あなたは?」

 

「私は、ガルパンゾ国騎士団に所属する、アスベル・ラントです。横にいるのが……さあ、ソフィ」

 

「私の名前……ソフィ。アスベルが……そう呼ぶから」

 

青年――アスベルはアンジュに名乗った後、自分の横に立つ紫色の髪をツインテールにした少女に促し、少女――ソフィも自分の名前を名乗る。

 

「……すみません。ソフィにはその、事情がありまして……」

 

「いいえ、お気になさらず。それで、御用件はなんでしょうか?」

 

アスベルの申し訳なさそうな言葉をアンジュは柔和に微笑んでお気になさらずと返し、丁寧な態度で要件を承る。

 

「はい。ここにガルパンゾ国王女、エステリーゼ様が滞在されているはず……すぐにお会いしたいのです」

 

「……なぜ、そう思うのかしら?」

 

アスベルの言葉にアンジュがそう尋ねる。と、アスベルは真剣な空気を放ち始めた。

 

「……王女誘拐の罪で指名手配になっている、ユーリ・ローウェルはご存知ですね? 彼と同じギルドだったという仲間が二人、このアドリビトムに逃亡してきたはずです。私達は彼らを追って来ました……エステリーゼ様はここにいるはずです」

 

「(エステルを連れ戻しに来たのね…)…騎士団の権力があれば、武力行使だって出来たでしょうに……紳士的な対応、感謝いたします。さあ、中へどうぞ。カイ、彼らを案内して」

 

アンジュは相手の要求内容から、本来ならば武力行使も出来たはずなのに、まず話し合いを求めてきた事に感謝の意を示して彼らを招き入れ、カイに案内を頼む。

 

「いいんですか?」

 

「ええ」

 

「……分かりました」

 

仲間を誘拐犯だの逃亡者だの言われて少しばかり頭にきたのかカイはアスベルを若干睨みながらエステルの部屋に案内。部屋のドアをノックし、中にいるエステルから「どうぞ」と入室を促されてから部屋に入る。

 

「どうしたんですか、カイさん?」

 

「……エステルに、客」

 

「エステルに客? まさか……」

 

エステルが柔和に微笑みながら用事を尋ねるとカイは言葉少なくそう言い、その言葉を聞いたユーリはまさかと呟く。

 

「エステリーゼ様」

 

その直後、部屋にアスベルが足を踏み入れた。

 

「あなたはたしか、アスベル?」

 

「覚えていてくださり光栄です」

 

アスベルの姿を見たエステルが少し迷いながら彼の名前を出すと、アスベルは真面目な視線を彼女に向けながらそう返し、エステルは少しうつむき気味になる。

 

「……私は……戻りません。そう、フレンに伝えて下さい。私は、自分の国が起こしたことによる異変を解決するまで、ガルパンゾへは戻らないと決めたんです」

 

「起こした、こと?……」

 

「星晶の採掘が原因で、生物が変化するっていう珍現象だよ。今このギルドではその調査をやってんだ」

 

エステルの言葉にアスベルが呟くとユーリがそう説明し、アスベルは僅かな沈黙の後、カイに目をやる。

 

「カイ、と呼ばれていたね? それは本当なのか?」

 

「ああ。俺達もついさっきそれの調査をしてきた」

 

「疑うってんなら研究室でも見てこいよ」

 

アスベルの質問にカイはそう言い、ユーリがそうも言うとアスベルはエステルの方を向き直す。

 

「ですが、エステリーゼ様が仰った生物が変化する現象の調査は、これから評議会に提起すれば……」

 

「それでは、いつまでも変わりません」

 

アスベルの言葉をエステルは毅然とした態度と声で遮り、彼女は顔を上げてアスベルの目を見る。

 

「アスベル。私は国を守るためにも、ここにいなければと思っています」

 

「……異変については分かりました。私も国、そして守るべき民のために尽くしたい思いは同じです……」

 

エステルの言葉にアスベルは頷いた後、困ったように顔に手を当てる。

 

「ですが、フレン様はあなたを連れてくるまでガルパンゾへは戻るなと……」

 

「だったら、ここにいていいんじゃありません?」

 

アスベルのその困ったような言葉にエステルはあっさりとそう言う。

 

「ここに? このギルドにですか?」

 

「はい。ここなら、色んな人を守る事が出来ます」

 

「おいおい、いいのかよ。こっちゃ誘拐犯になってんだ。お前がここに残れば、このアスベルって奴にまで罪が及ぶぞ」

 

「フレンならわかってくれます。いえ、わかってくれてるはずです」

 

アスベルが驚いたように絶句し、エステルがそう言うとユーリはツッコミを入れる。が、エステルは柔和に微笑んでそう言い、その姿を見たアスベルは考えるように目線を下に向ける。

 

「……分かりました」

 

そして顔を上げ、頷く。

 

「ここに残って、王女のために尽力いたします」

 

「ありがとうございます。さっそくアンジュに伝えないと、ですね。そして、同じギルドのメンバーとして、これからもよろしくお願いしますね」

 

「同じ、メンバー……ですか?」

 

エステルの言葉にアスベルは驚いたように呟く。それにエステルはこくんと頷いた。

 

「はい、だからここでは堅苦しい言葉はなしです。いいです?……これは、私からのお願いです」

 

「えっと、その……努力します」

 

エステルの言葉に気圧されたアスベルはこくんと頷いてそう呟くように言った。

 

 

 

 

 

それから数日の時が経過する。

 

「ねえねえカイカイ~、お宝探し付き合ってよ~!」

 

黄色い服に身を包んだ茶髪の少女がカイにすり寄る。彼女の名前はノーマ・ビアッティ、数日前セネル宛への手紙が届き、要約すれば「アドリビトムに入りたいから迎えに来い」というその依頼をセネルとカイで受け、ブラウニー鉱山から連れてきた新たな仲間だ。

 

「何かそれと分かるものがあるのか?」

 

「ううん~別に~。でもこうさ、冒険って言うか~」

 

「依頼として提出してくれ」

 

「……いいわよ、セネセネ誘うもん。なんか見つけてもカイカイには分けたげないから」

 

セネル直伝のあしらい方でノーマをあしらい、彼女はぷく~っと頬を膨らませるとそう言って部屋に戻っていく。

 

「国に属さない中立のギルド、アドリビトムはこちらでしょうか?」

 

と、ノーマと入れ違いになるように甲板への扉が開いたかと思うとそんな、冷静そうな男性の声が聞こえてきた。

 

「はい。私がリーダーのアンジュです。何か依頼でしょうか?」

 

それにカウンターに座っているアンジュが頷き、何か依頼でしょうかと尋ねる。

 

「依頼というか、そうですねぇ……しばらく、かくまって欲しいのですが」

 

「かくまう、ですか?」

 

アンジュと話す長身にメガネの男性の言葉にアンジュは首を傾げる。

 

「ええ。ここはどの国にも属さない自由のギルドと聞いているのでね。高貴な身分の方を隠すには、丁度いいと思いまして」

 

「高貴?」

 

男性の言葉にカイが首を傾げ、男性はそちらをちらりと見た後自分の胸辺りに手を当てた。

 

「申し遅れました。私はライマ国国軍大佐、ジェイド・カーティスです」

 

男性――ジェイドは自分の名を名乗った後、優雅な動作で自らの隣に凛とした姿勢で立つ茶髪で高貴な雰囲気を漂わせる少女を指す。

 

「そして、こちらがライマ国王女のナタリア姫です」

 

それに少女――ナタリアがふっと笑う。

 

「ジェイド。あなたは私の家庭教師でしょう? いつもの通り、ナタリアで構いませんわ」

 

「おや、そうですか。では、遠慮なく」

 

ナタリアの言葉にジェイドは微笑みながらそう返し、それを見て満足そうに頷いてからナタリアはアンジュとカイを見た。

 

「ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアです。よろしくお願いしますわ」

 

ナタリアが名を名乗った後、ジェイドは残る一人の冷静そうな目を見せた少女を指す。

 

「そして彼女は、私の部下のティア。ナタリアの護衛です」

 

「私はティア。ティア・グランツ」

 

ジェイドの紹介に少女――ティアが名を名乗る。それにアンジュは「はい、よろしく」と返した。

 

「ともかく、込み入った事情がありそうね。それじゃ、ジェイドさん。部屋へお通ししますね。お話はそこで伺いますね」

 

アンジュはそう言った後カイを見る。

 

「カイ。あなたも部屋の用意を手伝いに来てちょうだい。お願いね」

 

「はい」

 

その言葉にカイはこくんと頷いた。

 

 

それからしばらく部屋の掃除をし、それが一段落してジェイド達が荷物を置いてからアンジュが切り出す。

 

「部屋は気に入ってくれたかしら?」

 

「ええ、素敵ですわ」

 

「ふふ、良かった。もちろん、お部屋代もしっかり頂きますけど♪」

 

「まあ!……」

 

アンジュの言葉にナタリアが嬉しそうに言い、それを聞いたアンジュがちゃっかり切り出すとナタリアは「まあ」と声を上げて沈黙し、ジェイドは参ったように額に手を当てた。

 

「困りましたねぇ。今、我々は持ち合わせがないもので」

 

「このギルドでは、王族だろうと容赦しません」

 

ジェイドの言葉にアンジュはニヤリ、と笑みを見せてそう言った。

 

「エステルやウッドロウもそうだ」

 

「そうそう。王族だろうとここではみ~んな平等です」

 

カイの本人に自覚はないだろうが援護射撃にアンジュはニヤリとした笑みを深くしながら続ける。

 

「居付くなら家賃を払うか、ここでギルドのメンバーとして働くか、好きな方を選んでね♪」

 

「私は構いませんわ。いつライマ国に戻れるか、分からないのでしょう?」

 

アンジュの言葉にナタリアがすぐさまギルドのメンバーとして働く旨を承諾するようにそう言った。それにジェイドもこくんと頷く。

 

「暴動が収まるまでは仕方がありません。では、ここで働くという事で」

 

「決まりね♪」

 

ジェイドの言質を取った瞬間アンジュは嬉しそうな笑みを浮かばせた。

 

「それじゃあ、次の話をしましょう」

 

しかしその次の瞬間には、再びアンジュは真剣な顔を見せていた。

 

「あなた達の国では、何があったの?」

 

「我がライマ国で、暴動が起こりましてね。“暁の従者”という宗教組織の導引によるものです」

 

「暁の従者……」

 

アンジュの問いかけにジェイドが真剣な表情でそう言い、その組織名にカイが反応する。

 

「この前あなた達が出会った、ディセンダーを奉るという新興宗教ね」

 

反応したカイにアンジュもそう言った。

 

「“暁の従者”の信者達は皆、人を超えた異様な力を持っていました。国民は信者に煽られてしまい、城を攻め落とそうと……」

 

「まあ、そんなわけで王族には安全の為、国を離れた方が良いと思いましてねぇ」

 

ナタリアの証言の後ジェイドがそう言い、

 

「そういえば、ディセンダーが降臨したと言っていましたね」

 

思い出したように続ける。

 

「その“ディセンダー”と呼ばれる者を連れていたの?」

 

「そこまでは、確認していません」

 

アンジュの言葉にジェイドは首を横に振る。

 

「私達王族が至らないばかりに……国は星晶の利権には恵まれず、国民には、苦しい思いをさせてしまっていましたわ」

 

「そこで“暁の従者”が現れ、ディセンダーを担ぎ出して、救いとやらを持ち出したことで、国民の不満が爆発してしまったようですねぇ」

 

ナタリアが浮かない表情で呟き、ジェイドはそう言って「困ったものです」とぼやくように言う。

 

「“暁の従者”は大国に搾取されるがままだった人達により興ったと聞いたな……でも、小さな宗教団体が、大きな力を手に入れ一つの国を没落寸前に追い込むなんて、考えられない事態よ……信者が、人を超えた異様な力を持っていたって、そこが気になるんだけど……」

 

アンジュは分析の後、「私達も、“暁の従者”を追っているから」と続ける。それにジェイドがアンジュを見た。

 

「そうですか。こちらでは、彼らの拠点情報を掴んでいますよ」

 

ジェイドはそう言い、「アルマナック遺跡」という場所を口にした。

 

「そう……貴重な情報をありがとう。じゃあ、仕事については後で説明するから、今はゆっくりしていてください」

 

「お気遣いどうも」

 

アンジュはそう言って部屋を出ていき、カイもアンジュが出ていった後に部屋を出ようとする。

 

「あ、お待ちになって」

 

「?」

 

と、いきなりナタリアが呼び止め、カイは足を止めると振り返る。

 

「先ほどあなた、ウッドロウと言っていましたが……このギルドにウッドロウがいらっしゃるの?」

 

「ああ」

 

ナタリアの問いかけにカイは素直に頷く。それにナタリアは「そうですの……」と嬉しそうに頷いた。

 

「申し訳ありませんが、ウッドロウに会わせていただけませんか?」

 

「構わない。ついて来てくれ」

 

ナタリアのお願いをカイはあっさり聞き入れ、ナタリアを連れて――というか勝手に部屋を出ていってウッドロウの部屋まで歩いていき、ナタリアが慌ててその後を追ったという方が近いが――ウッドロウの部屋へと向かう。そしてウッドロウがいる部屋に辿り着いて三度ノックを行い、部屋の中から丁度ウッドロウの「入ってくれ」という声が聞こえてくる。

 

「あ、こんにちは。カイさん」

 

「エステル、いたのか……ウッドロウ、お客さんだ」

 

「客? チェルシーでも来たかな?」

 

ウッドロウと話をしていたらしいエステルの挨拶にカイは呟き、その後の彼の言葉にウッドロウが呟くと、ナタリアは悪戯っぽく微笑みながら部屋に入る。

 

「私ですわ、ウッドロウ」

 

「ナタリア君。久しぶりだな」

 

その姿を見たウッドロウは柔和に微笑んで返した。

 

「まさか、この様な場所であなたにお会いできるとは……思ってもいませんでしたわ」

 

「私もだよ……ああ、エステル君。彼女はライマ国の王女、ナタリア姫だ。ナタリア君、彼女はガルパンゾ国王女、エステリーゼ姫だ」

 

ナタリアの言葉にウッドロウは頷いた後エステルとナタリアにお互いを紹介、二人はお互い向かい合うように立った。

 

「私はエステリーゼと言います。よろしくお願いしますね」

 

「ナタリアです。こちらこそよろしくお願いしますわ。ところで、あなたはガルパンゾ国の王女とお聞きしましたけれど……何故ここに?」

 

エステルの挨拶にナタリアも返した後、何故あなたはここにいるのかと尋ねる。それにエステルは「はい」と頷いて微笑んだ。

 

「城の中にいるだけでは、国民や、世界の為に成すべき事も出来ませんでしたから。私にできる事をしようと、ここで働かせてもらってます」

 

「世界の為に……ですか……」

 

その言葉にナタリアは考えるように沈黙、

 

「素敵ですわ!」

 

そして嬉しそうにそう言った。

 

「私も国民の為に何かできないかと思っていましたの。王女という身でありながら、国民の為に尽くしたくとも、なかなか自由に行動させてもらえなくて。ここでなら、国民のみならず様々な人を助けていけるのですわね」

 

「はい」

 

「私、ギルドという仕事は初めてですので、至らないところもあるかと思います。どうぞよろしくお願いしますわね」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ナタリアとエステルは微笑み合い、挨拶をし合った。

 

「どうやら、新たな友好関係を結ぶのに一役買ったようだね、カイ君」

 

「……そうなのか?」

 

「ああ。君は近い未来、ガルパンゾ国とライマ国が友好関係を結ぶきっかけを作った偉人となるかもしれないな」

 

そして嬉しそうに笑い合っている二人を見たウッドロウはカイに向け冗談っぽくそう言ったのであった。

 

それからナタリアはウッドロウとエステルに任せてカイは甲板に誰か居ないだろうかと考えホールに行く。

 

「「あ、カイ」」

「やあ、ナタリアがご迷惑をおかけしました」

 

と、そこに二人の女性の声と一人の男性の声が重なる。

 

「アンジュ、カノンノ……」

 

「カイ、お願いがあるんだけど……」

 

アンジュが真剣な表情でカイにお願いがあると言い、カイも何かを感じ取ったのかカウンター席へと歩いていく。

 

「緊急かつ重要な仕事よ。アルマナック遺跡にある“暁の従者”の拠点へ行くの……きっと、あの赤い煙、光の存在もいるはず」

 

「絶対に“暁の従者”から引き離さないと!」

 

「この仕事には私とアンジュ、そして、たしかカノンノと言いましたかね? この子が同行いたします」

 

アンジュ、カノンノ、ジェイドの順番で話す。

 

「あなたはアドリビトムのエース候補だとアンジュ、カノンノから聞いています。是非ともその力、見せていただけないでしょうか?」

 

「分かった」

 

ジェイドの言葉の真意を考えるまでもなく、カイはその依頼を受ける事を了解した。




《後書き》
さて今回は赤い煙のクエスト。そしてもう次回次回と言い続けてますけどやっと次回本当に彼女が登場します。
んでその間に仲間が色々加入しましたけど……個人的にノーマが違和感あるんですよねぇ……いや、明るい馬鹿なのは間違いないんですけどなんて言うか……ノーマってトレジャーハンターを名乗ってはいるんですけど、お宝よりはそこに至るまでの冒険を楽しむタイプのように見えてるのであの守銭奴っぷりが違和感なんですよね……守銭奴はルーティに任せたいです。
さあ本当にようやっと次回彼女の登場です。お楽しみに。それでは。
ご意見ご感想などお待ちしておりま~す♪
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