テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
バンエルティア号の依頼カウンター。そこではカイ、カノンノ、ジェイド、そしてアンジュが“暁の従者”の拠点であるアルマナック遺跡に乗り込むための依頼を受けていた。
「依頼の確認をするわね?」
アンジュが真剣な表情で口を開き、次にジェイドがくいっとメガネを直しながら口を開いた。
「今回はアルマナック遺跡にある“暁の従者”の拠点へと行きます」
「“暁の従者”は、この前カイ達がルバーブ連山で見たって言う光る存在を、救世主“ディセンダー”として、ルバーブ連山から連れ出した宗教団体だよ」
「彼らは、ナタリアの国であるライマ国ばかりでなく、様々な所で暴動を起こしているらしいの。彼らの拠点に、きっとあの光る存在もいるでしょう。早く、彼らから切り離さなければ大変な事になってしまう」
「今回はアンジュさんとジェイドさんと私が同行するね!」
ジェイドの言葉に続いてカノンノが説明、次にアンジュがそう言うと再びカノンノが今回のメンバーを言う。
「準備が出来たらすぐに発ちましょう」
「……分かった。じゃあ少しグミとか買い足してくる」
「私も行く!」
ジェイドの締めの後カイはカノンノと共に買い物に行き、買い物や武器の確認などを終えると四人一緒に船を出ていこうとする。
「カイ!!」
「ティトレイ」
と、そこに聞こえてきた青年の声。それにカイが振り返って声の主の名を呼んだ。
「“暁の従者”の奴らのとこに行くんだろ? 俺は一緒に行けねえけど、俺の分まであいつらをぶん殴ってくれ!!」
声をかけてきた青年――ティトレイはカイに駆け寄ってそう言うと右拳を突き出し、カイはそれを見てしばらく硬直した後右拳を突き出す。それにティトレイは満足そうに頷いてカイの右拳を己の拳で押し返した。
「よし、行ってこい!」
「ああ」
ティトレイの言葉にカイは「ああ」と頷いて返し、彼らは船を出ていき、アルマナック遺跡近くまで辿り着くと船を下りてアルマナック遺跡まで歩き、そこに入っていく。
「ホントさ。ディセンダー様が手から金を山のように出したんだ!」
「しかし、ディセンダー様は、救世主という自覚がおありではない。自分が何者かも分からないとは……」
アルマナック遺跡の入り口付近の広場で暁の従者の信者らしい二人組がそう話している。
「ほら、予言でも言うだろう。ディセンダーは、世界樹から生まれたばかりで記憶というものがない。恐怖すら知らないとな」
熱く語っている信者――仮に信者Aとしよう――に対しもう一人の信者――こちらは信者Bとしようか――が困ったような声質で話すと、信者Aはそう言い、少し言葉を区切る。
「少し前に、俺達の間で裏切り者が出たって話があっただろう? 先日、その裏切り者に罰をお与え下さいって願った奴がいたんだよ。そうするとディセンダー様は、表情一つ変えずに……ああ、むごい。口に出すのもはばかられる程のものだった。恐怖という感情があれば……確かにあんなことは出来ないだろう」
「俺もディセンダー様に願いを叶えてもらいたいものだ」
「無理さ。司祭クラスの許可なくしては会えないんだろうし」
二人の信者はそう言うと遺跡の奥の方に歩いていく。
「……行ったみたいですね」
と、それを見届けてからジェイド達が遺跡に侵入した。
「やっぱり、この奥が彼らの拠点なのね。ここは、太古にあったディセンダー信仰の場所だったそうだから、彼らも拠点としてここを選んだんでしょうね」
「ディセンダー様、ですか。そのいかがわしい存在もここに隠しているんでしょうかねぇ……」
アンジュはこの遺跡に伝わる伝説からこの場所を拠点に選んだのだろうと予測を述べ、ジェイドは暁の従者が信仰するディセンダーなる存在もここに隠しているのだろうかと呟いた後、いやはやと首を横に振る。
「いやはや、信仰そのものを否定する気はありませんが……こうして現状を目の当たりにすると、なかなかどうして、色々考えさせられますね」
「元々、信仰の概念が生まれたのは絶対的に信じられる対象を作る事で人々が未来に希望を持つことが出来たから。それをこんな形で痛感させられることになるなんてね……」
ジェイドの呟きにアンジュも神に仕える者としてかどこか浮かない顔で呟き、「ディセンダー様、か……」とも呟く。
「盲目的な信仰は、時として人から正常な判断力を奪います。言うまでもない事ですが、今回の件では、あくまで信者達に悪意がないと言うのが質が悪い」
「彼らは純粋に救いを求めているだけなのでしょうね。でも……」
「ええ。例え異端として残虐な手口で他者を排除しようと、簡単に己を正当化してしまえる。それは既に、信仰という免罪符が通用する域を超えています。暁の従者……恐らく、話の通じる相手ではないでしょう」
「出来れば戦いたくないけれど……万が一の場合も覚悟していかないといけないでしょうね」
ジェイドとアンジュはそう結論を出し、アンジュは今回の同行者であるカイとカノンノを見る。
「カイ、カノンノ、慎重に進みましょう」
「「はい」」
その言葉に二人も頷いて返した。
「牙連刃!」
それから遺跡を進んでいく中で球根から二本葉っぱが生えたような形をした魔物――ムスシプラと石像型の魔物――ペデスタルが現れ、アンジュはその内二体いるムスシプラの一体に向けナイフを連続して振るい攻撃を仕掛ける。
「滅掌破!」
カイは闇のマナを込めた掌底をペデスタルに叩き込む。と、その魔物の石像部分――ガーゴイルが吹き飛ばされ土台部分――ペデスタルにカノンノが斬りかかった。
「こっちは任せて!」
「了解」
ペデスタルをカノンノに任せ、カイはペデスタルを飛び越えてガーゴイルへと斬りかかり、その握っている刀に炎が纏われる。
「鬼炎斬!」
炎を纏った刀の十字斬りがガーゴイルを斬り、カイはそのまま着地と同時に回転、その足に炎が纏われる。
「鬼炎連脚!!」
回転の勢いで飛び上がり、炎を纏った両足での連続蹴りがガーゴイルに直撃。だが、さらにカイは再び刀に炎を纏わせ、その連続蹴りが終わり地面に着地した瞬間刀を腰に構えガーゴイルの方に切っ先を向けて突進した。
「斬魔――」
突進突きの後炎を纏った刀で十字に斬り、さらに回転して勢いをつける。
「――龍炎剣!!!」
掛け声と共に再び炎を纏った足で連続回転蹴りを叩き込み、それを受けたガーゴイルはついに倒れ伏しカイは刀を鞘に収めるとガーゴイルに背を向ける。
「……ふむ、確かにやりますね」
その様子を見たジェイドがカイの事をやりますねと評価する。それにアンジュは得意気にふふんと鼻を鳴らした。
「もちろん。うちの未来のエース候補ですからね!」
えっへんと胸を張ってそう言うアンジュ。それにジェイドもふっと笑う。
「しかし――」
彼がそう呟いた瞬間、ガーゴイルが起き上がり、カイは驚いたように振り返ると鞘に収めている刀に手をやる。
「「カイ!」」
「――ロックブレイク!!」
ガーゴイルがカイに攻撃を仕掛ける直前、床から突き出た岩の槍がガーゴイルにトドメを刺した。
「相手を倒したか確実に見極める、という点ではまだまだのようですね」
不敵に笑ってジェイドはそう言い、「まあ相手は無生物ですけどねぇ」と続ける。
それからカイとカノンノが前衛を歩いている途中、ジェイドがふとアンジュの方を見る。
「それにしても、意外でした。今回の任務、あなたが名乗りを上げるとは。民の信仰を守り、教え諭す神官としてやはり見過ごせないものがありましたか?」
「そうね。それもあるけど……」
ジェイドの質問にアンジュはそう呟いた後、伸びをして見せた。
「たまには外に出て、私も身体を動かさないと」
「それは素晴らしい」
アンジュの言葉をジェイドは笑顔で素晴らしいと評価する。
「我らがリーダーは大変な運動音痴と聞きましたが……」
「!」
「自ら苦難に乗り出しますか。いやぁ流石です。敬服しました」
しかしその次の彼の言葉にアンジュはドキッとなり、彼が笑顔で続けるとアンジュは彼に慌てたように顔を向けた。
「ちょ、ちょっと。その話、どこから……ううん、誰から聞いたの!?」
「運動とは、健康維持の観点からも非常に重要な要素ですからねえ。筋力の低下による生命活動の低下はもちろん、皮下脂肪を蓄える事による基礎運動能力への障害も……」
「ま、待って! それ以上言わないでっ!」
ジェイドの言葉をアンジュは慌てたように叫ぶ。それにジェイドはにやにやと笑いながら不思議そうに首を傾げた。
「何を慌てているんです? ギルドでは有名な話なのでしょう?」
「そんなわけないでしょっ!…(…ジェイド・カーティス大佐……噂以上の辣腕だわ。どこでそんな情報を……っ)」
ジェイドのわざとらしい言葉にアンジュは叫び、彼を睨みながらそんな事を考える。
「そう怖い顔をしなくても。何かまずい事を言いましたか?」
そう言い、彼は再びわざとらしく笑う。
「何分、心当たりがないもので……」
その言葉にアンジュは再びジェイドを睨んだ。二人がそんな話をしていると突然カイとカノンノが歩みを止め、それに気づいたアンジュとジェイドも足を止める。
「はぁぁぁぁ……ッ!」
その先には二人の男性が立っており、その内の一人――前髪を七三分けにしている――が両手を上に掲げ石柱の大きな破片を不可思議な力で持ち上げていた。
「見ろ、この力! ラザリス様がくれたんだ」
そう叫んでからその男性は石柱の破片を地面に下ろす。
「素晴らしい!」
それにもう一人の男性――こっちはスキンヘッズだ――が素晴らしいと歓声を上げた。
「ああ。この力をもって我々のディセンダー・ラザリス様と共に全ての民を平等な世界へと導くんだ」
「いやぁ~。なかなかいいものを見せていただきましたよ」
七三分けの男性がそう言うと、ジェイドがそう言いながらカイ達はそこに姿を現す。
「んっ、なんだお前達は? 我々の同志になりに来たのか?」
「いいえ、そうではないの」
スキンヘッズの男性の言葉にアンジュがそう返す。それに七三分けの男性が「何の目的で来たんだ」と質問する。
「あなた方がディセンダーと呼んでいるものを引き渡してもらいます」
「あれは、ディセンダーなんかじゃないの。もっと得体の知れない何か……危険なものかもしれないの」
ジェイドの言葉に続いてカノンノがそう言う。
「危険な存在だと? バカな事を……」
しかし七三分けの男性はその言葉を鼻で笑った。
「今は誕生されたばかりで、予言通り名前以外何も記憶はない。だが、今この奥でこの世の事を学んでおられるのだ!」
スキンヘッズの男性がそう言って拳を構える。
「それが終わるまで、誰もこの先へは通すわけには行かないのだ!」
「この腐敗した世の中を正す為に降臨されたディセンダー様だ!」
さらに七三分けの男性も構えを取る。
「じきに、自ら立ち上がられ、この世界を理想郷へと造り変えられる。邪魔はさせないぞ!」
二人の様子を見たジェイドがやれやれと首を横に振る。
「ずいぶんな熱の入れ様ですね。話になりません」
「カイ、こうなったら仕方ないわ」
ジェイドはそう言って槍を構え、アンジュも短剣を構えながらカイに呼びかけると彼も黙って頷き刀を抜く。その横でカノンノも大剣を抜いた。
「我らに勝てると思うな! ディセンダー様より授かった力、とくと見よ!!」
そう叫んでスキンヘッズの男性が一気に人間とは思えない速さで飛びかかり、カイ目掛けて拳を突き出してくる。
「!」
カイはそれを地面を蹴りとんぼ返りでかわすが、その拳の一撃が岩でできている遺跡の床を粉々に打ち砕いた。
「そんな!?」
生身の人間の、それも素手での一撃にアンジュは息を飲む。
「曼珠沙華!!」
とんぼ返りをしてかわしながら炎のマナを込めた苦無を投げつける、が、スキンヘッズの男性が拳を横に薙ぎ払うように振るうと同時に衝撃波が地面を走りその力が苦無を吹き飛ばした。
「出でよ、敵を蹴散らす激しき水塊、セイントバブル!!」
「ぐうぅっ!?」
しかしそこにジェイドが詠唱を終え、スキンヘッズの男性のすぐ頭上から巨大な水泡が落ちてきたかと思うとそれが幾度となく弾けていきスキンヘッズの男性にダメージを与えていく。そこに、地面に着地したカイが忍者のスピードで肉薄。右手に闇のマナを溜めようとするが闇のマナの代わりに水のマナが右掌に集中する。
「砕けろ……」
呟くと同時にカイの右掌から氷が具現していく。
「絶破烈氷撃!!!」
「ぐああぁぁぁっ!!!」
氷の力を得た掌底と氷が砕け散った勢いでスキンヘッズの男性が思いっきり吹き飛ばされた。
「澄み渡る明光よ、罪深きものに壮麗たる裁きを降らせよ! レイ!!」
「ぐああぁぁっ!!」
一方アンジュは七三分けの男性に向けて光系魔術を詠唱、男性に光の裁きが降り注ぐ。
「たああぁぁぁっ!!!」
そこにカノンノが大剣オータムリリィを上段に構えながら男性に飛びかかり、大剣を振り下ろす。
「なんのぉっ!!!」
「っ!?」
しかし男性は怯みながらも拳を振るい、大剣にぶつける。
「ぐぅっ!!??」
カノンノは驚きに目を見開く。男性は素手にも関わらず大剣の刃と自らの拳を拮抗させている、その拳に傷一つついておらず、驚きにカノンノは動きを止めてしまう。
「しまっ!?」
動きが止まった一瞬の隙で男性の拳が大剣を押しのけ、大剣が後ろに押されたカノンノはバランスを崩してたたらを踏む。その瞬間七三分けの男性は詠唱を開始した。
「水天の境を見失いし、業深きものよ、汝が罰を示さん!」
叫び、根源たるマナが結集、
「トラクタービーム!!」
「きゃぁあっ!?」
カノンノの足元に魔法陣が組まれると凄まじい斥力が上空向けて発生、カノンノの身体が空中へと投げ飛ばされた。
「がはぅっ!?」
そして重力に従いカノンノの身体は落下、いきなり空中へ投げ飛ばされバランスを崩したカノンノは背中から強かに地面に叩きつけられた。
「もらったぁっ!!!」
そこに男性は拳を振りかぶってカノンノへと襲い掛かり、衝撃と痛みに動けないカノンノは身を縮めてぎゅっと目を閉じる。
「がぁっ!?」
しかし、その直後男性の悲鳴が聞こえてきた。それにカノンノは驚いたように目を開ける。その眼前で、風が走っていた。
「カイ!?」
カイだ。彼は刀を鞘から抜き放ちつつ一閃、男性の拳を押し返しながら刀を振り抜くとそのまま刀を両手で握り刃を返す。至近距離、刀をかわすことも出来ない距離で防御も間に合いそうにない。そんな七三分けの男性の姿と、躊躇いなく、人の命を奪う恐怖すら覗かせずに刀を振り下ろさんとするカイにカノンノは目を見開く。
「カイッ! ダメッ!!」
考える前にカノンノは叫ぶ。その声にカイもびくっと身体を震わせ、刀を振り下ろさんとしていた動きが止まる。
「う、うおおおぉぉぉぉっ!!!」
「っ!!」
と、その隙は見逃さんと男性が右の拳を振り上げてカイの手から刀を殴り飛ばし、さらに左拳も振り上げる。
「あ……」
自分が咄嗟に叫んだせいで今度はカイまで危なくなっている。それにカノンノは顔を青くする。
「なっ!?」
が、次の瞬間カイは上空へと弾かれていた両腕を素早く後ろに回すよう回転、その勢いでさらに自分の前の方で両腕を振り上げると、相手が振り下ろしてきた拳の腕を上空へと弾き飛ばしながら、身体を支えるために片足をぐいっと後ろにやる。さらに回転の勢いのまま両腕を後ろにやって手に気と力をぐぐっと込める。ぐいっと支え、ぐぐっと溜めて、
「轟裂破!!!」
「がはっ!!??」
どんっ、と相手に両掌底を叩きつけながら気と力を解放する。ティトレイ直伝の技――剛裂破が男性に決まり男性は吹っ飛ばされると遺跡の壁に叩きつけられる。
「ぐ……」
七三分けの男性は起き上がろうとするが、その目の前に槍が突きつけられると驚いたように動きを止める。
「いけませんねぇ~。もっともぉ~っと命を大事にしては?」
槍を構えている男性――ジェイドは勝ち誇った笑みを浮かべながら七三分けの男性にそう呼びかける。スキンヘッズの男性は既にアンジュが目を光らせており、変な動きをすればすぐさま魔術で攻撃できるよう準備を整えていた。
「くっ……だが、我らは屈しない!」
七三分けの男性の男性は槍を突きつけられながらも強い調子で叫ぶ。
「一部の者ばかりが益を得る腐った世の仕組み。必ずやディセンダー様が打ち砕く」
「搾取の無い、平等で平和な世界を望んでいる者達の声の為にも……ディセンダー様を、お前達に渡すわけには行かない!!」
その強い調子での声に続いてスキンヘッズの男性がそう言うと、再び七三分けの男性が叫ぶ。
「ディセンダー様……」
と、突然カイが呟く。
「……お前達は、そいつで頼る前に自分で何かしたのか?」
「なにぃ!?」
カイの言葉にスキンヘッズの男性が叫ぶ。とジェイドもやれやれと首を横に振った。
「世を変えるにも、ディセンダー頼りですか。それでは、何も変わりませんよ」
「黙れ!!」
ジェイドの言葉に七三分けの男性が叫ぶ。と、その時二人の男性の身体から赤い煙が立ち込め、ジェイドは驚いたように槍を下げて数歩下がり、アンジュも目を見開く。
「あの時の赤い煙!」
「なんだ……これは」
カノンノが目を見開いて叫び、七三分けの男性が呟く。
「身体が……身体があああぁぁぁぁっ!!」
スキンヘッズの男性が悲鳴を上げ、二人の身体を完全に赤い煙が覆い隠す。そして赤い煙はやがて薄くなり、消え去った。
「ヒィッ!?」
「な、なんだっ、この姿はっ!!」
信者二人が悲鳴を上げ、アンジュ達も目を見開きカノンノが絶句する。信者二人は身体が完全に硬質化、かろうじて人間型だがヒトとは思えない姿に変貌していたのだ。
「ジョアンさんとミゲルさんと同じ……ううん……それ以上に酷い……」
「まさか……生物変化現象!?」
絶句したカノンノが震えた声で呟き、アンジュが、目の前で起きた光景を分析し叫ぶ。
「あぁぁ……なぜ。なぜだ、なぜ……こんな姿に。ラザリス様……」
「ラザリス様……助けてください……」
元スキンヘッズの男性と元七三分けの男性が震えた声で呟く。
「ラザリス?」
その言葉にカノンノが首を傾げた。
「「ディセンダー、ラザリス様ぁぁぁ!!」」
そして二人は悲鳴を上げ、遺跡の奥へと走っていった。
「私達や多くの人と同じように、彼らも平等な世界の理想を持っているのに……なのに、世界はバラバラで、人々の思いは……かみ合わない」
「仮にディセンダーが存在したとして、この世界を見たら、どう思うんでしょうねぇ……」
「……」
アンジュが寂しげな表情で呟き、ジェイドもふぅと息を吐きながら呟く。それにカイは無言で佇んでいた。そしてアンジュは難しい顔を見せる。
「生物変化現象……報告では聞いていたけれど……まさか、あんな事が本当に起きるなんて」
「全くです。それが本質的に、どんな力であったにしろ、あんなものをみすみす放置しておくわけにはいきません」
アンジュの言葉にジェイドは同意し、その力を持つものをみすみす放置しておくわけにはいかないと続ける。
「彼らはわかっていないのね。自分達が信望している存在の本質を……せめて私達だけでも、冷静に、真実を見極めないと……取り返しのつかないことになる前に……」
アンジュはそう呟き、カイとカノンノを見る。
「彼らを追いかけましょう」
「「はい」」
そう言って三人は歩いていく。それを後ろで見ながら、ジェイドは顔を伏せた。
「己の望む“救い”を与えない神、ディセンダー……ですか。現実を目の当たりにした時、信者である彼らはどうするのでしょうね。神を捨てるか、あるいは……」
そう呟きながら、ジェイドも前を歩く三人を追うように歩みを進めていった。
「いた!」
アンジュが叫ぶ。遺跡の最奥地、生物変化現象を起こした二人の信者はもう立ち上がる力もないのかカダイフ砂漠に捨てられそうになっていた、同じく生物変化現象を起こしていたジョアンとミゲルのように身体をずりずりと、最奥地にある豪華なテントへと身体を引きずっていた。
「ラザリス様……ディセンダー様……助けてください……こんな、こんな姿……」
「助けて……だって?」
信者――一度見失ってしまったためもうどっちがどっちなのか見分けがつかない――の弱々しい声に、テントの中からそんな女の子の声が聞こえてきた。
「望んだから、欲しがったから、力をあげたのに……今の君達はとても強いよ? なぜならボクがそうしてあげたから……」
その言葉の後、テントの中から一人の小柄な女の子――銀色の髪を短く切りしかし毛先は赤く染まっており、頭の上や両腕等身体の各所が刺々しい綺麗な鉱石でまるで飾られているかのように石化、左目には赤い星のような飾りものをしているのが印象的だ――が姿を現した。
「君達さ、強くなりたいんだったら、こうならなければならなかったんだよ」
少女は冷淡な声でそう囁くように信者へと言う。
「大丈夫。今はまだ半分ヒトだろうけど、じきに完全に変化するよ。そうすれば、今より強い体になるはずさ」
「そんな! これでは魔物です……元の姿に……」
少女の言葉に信者の一人が悲鳴を上げて懇願する。
「本当に欲しがってばかりだね……」
その懇願に少女は静かに、吐き捨てるように呟いた。
「でも、もう君達に付き合う必要もない」
少女はそう言って自分の身体を見下ろす。
「この醜いヒトの姿は耐えがたいものだけど、まあいい。やっと自ら行動する身体が手に入れられたんだからね……」
「あの子が、あの赤い煙だったもの?……」
少女の言葉が終わるとカノンノが驚いた様子で呟く。
「……誰?」
その呟きに、少女はようやくカイ達の存在に気づいたかのように問いかけた。
「……お前は一体、何者だ?」
「ラザリス……ボクは、ラザリス……」
彼女の問いかけにカイが聞き返し、その問いかけに少女――ラザリスは呟くように自らの名前を名乗った。
「あなたが、人々の願いを叶えてきたの? 願いを叶えるのはなぜ?」
「……どうしてかな? 実のところボクにも分からない」
今度はアンジュが質問する。それにラザリスはどうしてかなと呟いてから少し黙った。
「けども、君らから少しずつ世界を知るのに都合が良かったからだと思う」
「あなたが願いを叶えた生物から、学習した。こういう事ですか?」
彼女が続けた自分がやった事の理由の推測に対し、ジェイドが尋ね返す。それにラザリスは「そうなるかな」と呟いた。
「“願いを叶えて”と、向こうからボクに接触してきたからね。この世界に出たばかりの時は、ボクにも接触する能力がなかった。でも、やがてあらゆる生物がボクの方へ手を伸ばしたんだ。願いを叶えるという意思のコネクトを通じて、ボクはこの世界の生命力と情報を少しずつ手に入れた」
「なるほど……しいなの仮説が当たっていたようですね」
ラザリスの言葉にジェイドはしいなの仮説が当たっていたようだと呟く。
「おかげで実体も思考も手に入れた。思う存分、ボクの好きなように力を振るう事が出来る」
「あなたはさっき、世界の生命力と情報を手に入れたと言ったけれど……あなたはヒトじゃない……何者なの?……」
ラザリスがさらに言葉を紡いだ後、アンジュがさらに彼女に問いかける。
「ボクは、この世界ルミナシアのように、誕生するはずだった“世界”だ」
「誕生するはずだった“世界”?」
その言葉にアンジュは眉をひそめて呟く。
「ああ……ああ……」
と、いきなりラザリスがまるで怒っているかのように声を震わせ始めた。
「この世界にはうんざりだ! ボクならもっといい世界になるはずだった!! こんな、腐りきった世界をもたらすヒトがいる世界なんて、ボクなら造らなかった!!」
「!」
「カイ!?」
彼女が激昂し声を荒げると同時、カイが刀を抜き逆手に構えながら地面を蹴りラザリスへと突進、身体を捻り力と遠心力を込めてラザリスを斬りつけようとする。が、その直前ラザリスの左目を覆う星飾りが赤く光りラザリスが右腕を振るうと同時、凄まじい衝撃波が発生して接近していたカイが右手に握っている刀をへし折るだけでなくカイの身体、さらには遠く離れていたカノンノ、アンジュ、ジェイドまでも遺跡の通路まで吹き飛ばした。
「がぁっ!!」
地面に叩きつけられカイは息を吐く。彼より遠くにカノンノ達三人は吹き飛ばされておりそのダメージで立ち上がれそうにない。そんな状態の中、こつこつとハイヒールで地面を叩きながらラザリスはカイの元へと歩き寄り、彼を見下ろした。
「君も何故こんな者達を守ろうとするんだ。分からないよ」
そう呟いた後、ラザリスの身体が透けていきやがて彼女は消え去る。カイは痛む身体をおして起き上がった後、異形の姿へと変貌を遂げていた二人の信者の元へと歩き自分の両手を見る。と、彼の両手が突然輝かしい光を放ち始めた。そして彼が両手を二人の方に向けた後、両手を広げると二人の姿がカイの両手から放たれている光と同じ輝きの光に包み込まれ、カノンノ達は眩しい光に思わず目を閉じる。
「……」
そして光が消え、彼女はゆっくりと目を開く。
「これは……」
男の声が聞こえてきた。信者の一人の声だ。
「元の姿に!!」
スキンヘッズの男性が自分の身体を見て声を上げ、七三分けの男性も驚いたように自分の身体をまじまじと見る。
「あなた、その力は……」
「砂漠でジョアンさん達を助けた時と同じだ……」
アンジュとカノンノが驚いたように呟き、カイは彼女らの方を見る。
「分からない……だけど、こうしなければならない気がした……」
「あなたにも、その力が何か分からないの?」
「あなたは記憶喪失だそうですが。記憶を失う前に、使っていた力かもしれませんね」
カイの言葉にアンジュが呟くとジェイドは「カイが記憶を失う前に使っていた力かもしれない」と推測を述べる。
「ラザリス様は……あれは、ディセンダーではなかったのか……」
七三分けの男性が呆然とした表情で呟く。
「彼らもやっと、目を覚ましたようですね? 我々も一旦戻りましょうか」
ジェイドは信者達を見てそう呟き、一旦戻ろうと言うと信者達を置いてその場を後にした。
「とうとうあの存在、ラザリスが意思を持ち、一人歩きし始めてしまった。ああ、どうすれば……」
「……すみません。あの時、俺が斬っていれば……」
アンジュが途方に暮れたように呟き、カイは先ほどもう少し速く己の刃がラザリスに届いていればと自分に力がなかったことを謝る。
「そんな事ないって。あなたはよくやってくれたよ……」
その言葉にアンジュは弱々しく笑って首を横に振り、その後「さ」と呟く。
「気を取り直さなくっちゃ。“暁の従者”の信者達に、話を聞いたの。彼らが説明してくれた、今までの経緯をあなたにも話すね」
アンジュはいつもの調子を取り戻し、先ほど暁の従者から話を聞いたと言い、カイに彼らが説明してくれた事を話し始める。
「まず、彼らは願いを叶える存在の噂を聞き、ラザリスを自分達の信ずるところのディセンダーだと思った。そして、“暁の従者”の教義に従い、ディセンダーを迎えた。そのディセンダー、ラザリスは自分の名前以外、何も知らなかった。自我もあまりない状態だった。だけど、ヒトの願いを叶えると、自我、そして思考が生まれていった……」
「……以上が分かった事、か?」
アンジュの言葉をそんな少女の声が遮る。それにアンジュははっとなって声の方を向いた。そこには、金色の髪を長く伸ばししかし毛先が青く染まっている、右目を眼帯で覆った長身の少女――レイが立っていた。
「レイ! もう起きて大丈夫なの?」
「ああ……迷惑をかけた」
アンジュの言葉にレイは静かにそう呟く。
「……彼女は?」
と、まだレイを見ていなかったジェイドが目を細め首を傾げる。
「この子はレイ、この前の依頼でラザリス……その時は赤い何かだったらしいんだけど、それの捜索任務に行った時に倒れて今まで眠っていたの」
「なるほど……」
アンジュがレイを紹介しジェイドがなるほどと呟いてレイに一礼、アンジュはレイが目覚めたことに安心したように微笑み、そこで思い出したように「それでね」と言った。
「彼ら、最後にこう言ったの……願いを叶える事で、何か学習をしているようだったって……」
「ラザリスが言っていた、“誕生するはずだった世界”という言葉……気になりますね」
「誕生するはずだった世界、かぁ。世界は、世界樹から生まれたって言われてる。それも、大昔から……」
ジェイドの言葉にアンジュはこの世界の誕生について言われている事を思い出し、はぁとため息をつく。
「けれど、本当の所は誰も知りはしないのよね」
「認知されているのは、世界樹の生み出すマナの恩恵で生物は生きている事。よって、世界樹が世界創造の礎であることもなんとなく容認されてはいますが……しかし、“本来生まれるはずだった世界”とは一体何を表しているというのか……」
ジェイドもすらすらと自らの知識を述べ、そこからラザリスの言っていたことは何を意味しているのかとも呟く。
「世界の始まりについては、やはり精霊に聞くべきよね」
「精霊?」
アンジュの言葉にカイが首を傾げる。
「教会でも、精霊はヒトよりも古い存在と伝えているもの。きっと、何か知っているはず」
「アンジュ、その件だが」
と、アンジュがそう言うとキールが口を挟んだ。
「精霊のいる場所が特定できた。あとは、この船を安全に着陸させる場所を探すだけだ」
「ありがとう、キール君。それじゃあ、もうすぐ精霊に会えるのね」
キールが精霊のいる場所が特定できたというとアンジュはありがとうとお礼を言う。
「それじゃ、今日のところはこの辺にしましょうか。カイ、カノンノ、お疲れ様。また何かあったらよろしくね?」
「「はい」」
アンジュはカイとカノンノの労を労い、二人はこくんと頷く。
「アンジュさん、申し訳ないが我はもう少し休ませていただきたい」
「ああ、いいのいいの。さっきまで倒れててその原因も不明なんだし、全快するまで休んでて。この仕事は体調管理だって大事なんだから」
「はい」
レイはアンジュからもう少し休憩を取るという許可を取ると自分の部屋へと戻っていく。
「カイ、ロックスのとこ行って何か作ってもらお!」
カノンノはカイを引っ張って食堂へと走っていった。
そしてレイは船倉にある自室――正確にはカイとカノンノとの相部屋――へと戻る。その顔はぼーっとしており、何故か足取りもふらついている。
「ラ、ザ、リ、ス……」
彼女はそう呟くのを限界にベッドに倒れ込んだ。
《後書き》
さて今回はアルマナック遺跡での戦い。で、一番驚いたのが……カノンノがトラクタービームで投げ出されて地面に叩きつけられ、信者が追撃仕掛けようとしたところです……あそこ、本来ならアンジュが術使って援護する予定だったんですが、なんか書いてたらカイが出張って信者殺しかけてました……いやーうん……流石はカイだなーこのカノンノ馬鹿……と頭を抱えています。カノンノ傷つけられてキレるのは確かにお前らしいけど今のお前MP文庫と違ってそういうキャラじゃないんだからちょっと自重してくれよ……。
で、もうすぐあのクエストかぁ……どういう風にするか色々と考えとかないとなぁ……ま、それでは。ご指摘ご感想があればお待ちしております。それでは。
PS:ツチノコさん。ウルフェンさんからの私信というか相談が僕のメッセージの方に感想と共に届いていたのでこの場にてお知らせしておきます。
要約すると“ウルフェンさんが、多分pixivというサイトで、ツチノコさんが応募したキャラが登場する作品を投稿しましたが、キャラを応募したツチノコさんから別サイトでもそのキャラを使用していいか、今後の作品に出していいのかも確認をしたい”ということです。ツチノコさんと連絡が取れないので、ツチノコさんが活動をしていると分かるここで確認をしたいみたいです。
とりあえず、pixivの方で連絡を取れるのならそこで直接、最悪ハーメルンでユーザ登録をしてメッセージを使いウルフェンさんと連絡を取っていただきたいです。ここの感想板でチャットみたいに連絡を取り合うのは本当に止めてくださいね? 他の読者の方に迷惑かもですし何か問題が起きても面倒なので。以上です。