テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第十五話 風の青年と輝きの勇者

アブソール霊峰。氷の精霊セルシウスがいるというこの山にカイ、カノンノ、エミル、カイウスはやってきていた。

 

「さ、寒い……」

 

エミルがガタガタと身体を震わせながら呟く。まあ彼は機動力重視なのか薄着で、特に肩なんて思いっきり露出。見事に雪山の冷たい風を受けている状態だ。

 

「そうか? そこまで酷い寒さじゃないと思うけど……」

 

しかし似たような服装のカイウスは平然としており、それにと追記するように「俺はいざとなったら獣人化して毛皮を纏えるし」と言う。と、カイが「獣人化?」と不思議そうに呟いた。

 

「ああ、カイウスはね。獣人に変身できるんだよ」

 

「ああ。俺はレイモーンの民だからな」

 

カノンノが説明し、カイウスが得意気に言うとエミルが初めて変身した姿を見た時はびっくりしたなぁ、と苦笑する。

 

「そうか? 俺は――」

 

「!」

「皆、敵だよ!」

 

それにカイウスが首を傾げながら呟くと、カイが何かに反応して腰の刀に手をやり、カノンノも大剣を構えながら叫ぶ。いつの間にか彼らの進んでいる先の方にこの山に生息しているんだろう魔物達が立ち塞がっていた。

 

「チッ」

 

舌打ちが響く。その主は普段穏やかなエミルだった。彼は腰の後ろに横向きに差している剣を引き抜くと眉間に皺を寄せて炎のように赤い瞳で魔物達を睨みつける。

 

「雑魚が! かかってきやがれ!!」

 

そしてそうドスの効いた怒鳴り声を上げると同時にエミルは我先に魔物の群れへと突っ込んでいく。

 

「――エミルが戦う時に出る、妙な人格の方がびっくりすんだよなぁ……」

 

「あはは……」

 

カイウスは目を逸らし気味にぼそっと呟き、カノンノも苦笑。それから既にエミルと一緒に特攻しているカイに続く形でカイウスとカノンノも武器を構え魔物の群れに突進していった。

 

 

そしてあっという間にその場に死屍累々が築かれ、残った魔物達も怯えて逃走を始める。

 

「他に敵はいねえみたいだな」

 

エミルが辺りを確認してそう呟き、剣を鞘に収める。

 

「あっ、僕……」

 

と、彼はさっきまでのドスの効いた声から柔らかい口調になり、黄緑色の瞳で辺りを見回す。

 

「お、戻った戻った」

 

「え、えと、ごめん……」

 

「いや、いい加減付き合い長いから慣れた」

 

おどおどとしているエミルにカイウスはけらけらと笑う。と、カノンノがふふっと笑った。

 

「それに、アドリビトムには人間だけじゃなくって色んな種族がいるから、誰が珍しいとかってないよね?」

 

「ああ。種族の差とか感じないしさ。まあ外から見たら、相当変わったギルドに見えるかもしれないけどな」

 

その言葉にカイウスも笑って頷く。

 

「精霊も、そうかな? ヒトとあまり変わらないのかな」

 

「……ヒトと同じだと思う」

 

エミルの言葉にカイは静かに呟く。それにエミルは「う~ん」と呟いた。

 

「ヒトと心を通わせてくれるのかな……僕は、不安だな……何かありそうな気がするし……」

 

エミルが不安気に呟き、彼らは足を進めていった。その道中でカイウスがエミルに雪玉を投げエミルも投げ返していきなりタイマンでの雪合戦が始まり、最終的にはなんと戦闘モードの赤眼エミルVS獣化カイウスの一騎打ちになったりと一騒動がありながら、彼らは山頂への道を進んでいく。

 

「なあ、精霊はマナが豊かなところにしかいられないんだろ?」

 

「うん、アンジュさんからそう教わったよ」

 

カイウスがふと疑問に思ったように尋ねるとカノンノが頷き、カイウスは「この山に精霊がいるって事は、ここはマナが豊富なのかな?」と聞く。それにエミルも「そういう事になるのかな?」と首を傾げながら返し、人差し指を立てる、

 

「土地がマナに恵まれる条件は一つあって、まず一つが、地下に世界樹の根が通ってる事……」

 

続けてもう一本今度は中指を立てる。

 

「そしてもう一つが、星晶がある事」

 

エミルの言葉にカイウスが「こんな寒い所に世界樹の根が伸びるのか」と疑問を口に出すと、エミルは「マグマの中にも根は伸びてるっていうし、寒さは関係ないんじゃない?」と反論する。と、カイがふと口を挟んだ。

 

「星晶はマナが物質化したもの。なら根が張ってないところにも星晶があるのは何故なんだ?」

 

「そ、そこまで……僕には分からないよ」

 

カイの疑問の言葉にエミルは困ったように頭をかく。と、カノンノが世界樹は成長の途中であり、まだ世界中に根を伸ばしきれていない。だから世界樹はマナを物質化させることで星晶を作り、根が張ってない土地に星晶を据えて世界中にマナの恵みを与えられるようにしたっていう説があるよと説明する。

 

「でも、ほんとのところはまだ分かってないみたい」

 

「じゃあ、やっぱそういうのも含めて精霊に聞くしかないか」

 

説明の後にカノンノがそういうとカイウスはそう言い、彼らは歩みを進めていった。

 

 

そして寒さと戦い、降り積もる雪を払い、とそこに生息する魔物を退けながら彼らは山を登っていき、彼らはようやく山頂へと到着する。

 

「だ、誰かいるよ?」

 

山頂に着くとエミルがそう言う。確かに彼らの目の前に、赤い髪を長く伸ばした長身の人物が立っている。それにカイウスも「精霊じゃなさそうだな」と呟き、しかしカノンノが「アンジュさんの指示だと目的地は確かにここだよ?」と言う。

 

「エミル、ちょっとあの人に精霊を探してるって聞いてみろよ」

 

「え、えぇっ!?」

 

カイウスに話を振られ、エミルは驚いたように叫んだ後しかしパシリ属性が染みついているためか断れずに、目の前にいる人物に歩いていく。

 

「あ、あの~。すいません……ぼ、僕達、その、せ……精霊を探しているんですけど……」

 

「精霊を探している、だと?」

 

エミルの言葉にその人物は低い声で返し、振り返ると、眼鏡の奥に光る鋭い視線でエミルを射抜き、エミルはひぅっとか細い声を上げると後ろに下がりながら「その、僕達は……」と続ける。と、カノンノが代わりにというように前に出た。

 

「あの、私達はアドリビトムというギルドの者で、精霊の力を借りたいんです」

 

「精霊に会わせることは出来ない。早々に立ち去れ」

 

カノンノの言葉を男性は一蹴。すると今度はカイウスが口を開いた。

 

「でも、俺達は精霊に聞かなきゃいけない事があるんだよ。話がしたいだけなんだ」

 

「話だと?……」

 

カイウスの言葉に男性はふんと鼻を鳴らす。

 

「そんな嘘は、今まで訪れた者は皆言っていた」

 

「う、嘘?」

 

「お前達の目的は、精霊を捕え星晶がある場所を探知させるために利用したいだけなのだろう?」

 

男性の言葉にエミルが声を漏らすと、彼はエミル達を疑っている口調でそう続ける。

 

「い、いいえ……そんな事は……絶対に……」

 

「精霊を知ってるんだな? あんたこそ、何者なんだよ!」

 

男性の威圧するような言葉に、恐る恐るながらエミルが弁解しようとした所で、カイウスがそう言って前に出た。

 

「俺の名はリヒター・アーベント。ここにいる精霊と契約し、この地と精霊を守る者だ」

 

男性――リヒターが名乗ると同時、いきなり雪が舞い上がったかと思うと彼の姿がそこから消える。

 

「っ!?」

 

直後カイウスが息を飲んだ。彼はさっきの一瞬でカイウスの側面へと移動、いつの間にか抜いて右手に構えていた剣を振り下ろそうとしていたのだ。

 

「!」

 

しかしその速さに反応していたカイが、右手に逆手で握っていた片手剣――エタムで剣を防御。リヒターはふんと鼻を鳴らすと素早くバックステップを踏み、さらに左手に斧を構えた。

 

「精霊に会いたくば、俺に勝ってみせろ」

 

「そういう事か。よし、行くぜ! みんな!」

 

リヒターの言葉にカイウスは行くぜと皆を鼓舞し、剣を構える。それを見てエミルとカノンノも武器を構えた。

 

「「魔神剣!」」

「落ちて、ライトニング!」

 

カイウスとエミルが地を這う衝撃波を放ち、カノンノが上空から落ちる雷撃をリヒター目掛けて撃つ。

 

「陽流・甲!」

 

しかしリヒターは右手の剣と左手の斧を交差させて斜め十字に斬撃を放ち、その真空波で魔神剣をかき消す。ライトニングは防げずその身に喰らうものの、僅かに怯む程度の結果に終わる。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

「!」

 

しかしそこにカイが空中で回転しながらリヒターに飛びかかり、勢いと遠心力を込めてリヒターを右手に逆手で構えた刀で斬りつける。

 

「くっ!」

 

咄嗟に下がったため大ダメージは免れるがかわしきれずに僅かに斬撃を受けてしまう。しかしカイは手首を回転させると続けて左下から右上へと斬りあげ、リヒターに連続攻撃をしかける。その攻撃もくらってしまうが、リヒターは多少のダメージを受けつつも斧を振り上げ、カイの水平に薙ぐような攻撃を自らの剣で受け止めると斧を振り下ろす。

 

「陽流・丙!」

 

斧を叩きつけられた箇所から雪山にも関わらず炎が噴き出るが、三発目の斬撃が防がれるのは予想していたのかカイは凄まじい瞬発力で後ろに跳び、その斧と噴き出る炎をかわして雪の降り積もった地面へと倒れ込んだ。

 

「烈空斬!」

「崩蹴脚!」

 

「ぐっ……」

 

と、入れ替わるようにカイウスが剣を構えて縦回転しながら突っ込み、エミルも身体を捻り体重を加えた蹴りを叩き込む。

 

「来たれ爆炎、焼き尽くせ――」

 

さらにカノンノも術の詠唱を開始、それを聞いたリヒターは剣と斧を目の前で交差させた。

 

「陽流・壬!」

 

「「うわっ!?」」

 

そう叫ぶと同時、突如水柱が噴き出てカイウスとエミルの行く手を阻む。

 

「陰流・乙!!!」

 

「「うわああぁぁぁっ!!!」」

 

さらにリヒターは斧で叩き剣で突き、トドメにその二本で斬り払って二人を吹き飛ばした。

 

「――バーンストライク!!」

 

しかしカノンノの詠唱が完了、リヒター目掛けて爆炎が降り注ぎ、爆炎の着弾と爆発がリヒターを包み込んだ。

 

「よっしゃ、やったか!?」

 

カイウスが拳を握りしめながら叫ぶ。

 

「フン……少しはやるようだな」

 

しかし爆発によって発生した煙の中からそんな声が聞こえ、直後突風によってその煙が払われる。そこには雪が解け、薙ぎ払われる程の高熱の爆発があったにも関わらず多少の傷だけで済んでいるリヒターの姿があった。

 

「癒せ、ヒール!」

 

しかも彼は素早く詠唱し、治癒呪文で自らの傷を癒す。しかも煙の中で使えばいいもののわざと手の内を晒している。それほどまでの余裕を彼は見せていた。

 

「嘘……」

 

「実力の差が分かっただろう? もう一度だけ言う……精霊に会わせることは出来ない。早々に立ち去れ」

 

カノンノが両手で口を押さえながら呟き、リヒターは彼らを強い目で見ながら威圧するように先ほどの言葉を口にする。

 

「そうはいかねえ……俺達は、精霊に会わなきゃならないんだっ!!」

 

しかしカイウスがそれに真正面から言い返し、剣を隣に立つカイに渡す。

 

「カイ、こいつを頼む」

 

「……了解」

 

「すぅっ……ガアアアァァァァッ!!!」

 

カイウスから託された剣をカイは受け取り、カイウスはすぅっと息を吸うと咆哮する。ルミナシアに住む生命はすべからく生命の源たるマナをその身体の中に秘めている。そのマナを解放、すなわち己のリミッターを解除し身体能力や精神力を一時的に高める技法。人はそれをオーバーリミッツと呼ぶ。

 

「目覚めろ、俺の中の野生の魂!!!」

 

カイウスはそれと共に己の中の野性を解き放つ。その顔は人間のものからクマのようなものに変貌。身体も動物に近いものへと変化した。

 

「お前はリカンツだったのか……」

 

リヒターも驚きに目を剥き、カイウスは地面を蹴ると一瞬でリヒターへと肉薄しその拳を振り下ろす。ズガァンという音と共に地面が割れるがリヒターは素早い動きでそれをかわしていた。

 

「なかなかの力だが、当たらなければ意味はない!――」

「だったら私達が援護するまでだよ! フラッシュティア!!」

「――ぬっ!?」

 

リヒターがそう言うとカノンノが叫び、直後リヒターの真下に光の魔法陣が敷かれたと思うと浄化の光がリヒターを襲う。

 

「曼珠沙華!!」

 

「な、なんのっ!」

 

さらにそこにカイが炎のマナを宿した苦無を投げつけて追撃、しかしそれをリヒターはどうにか弾きながら魔法陣を脱出した。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

しかしそこにカイウスが突進、リヒターも避けきれんと判断すると剣と斧を構え、直後痛烈な拳撃と剣撃がぶつかり合う。

 

「だりゃあああぁぁぁぁっ!!!」

 

カイウスが力を込めて大地を叩き、その一撃を受けた大地はその身にヒビを入れるだけではなくまるで苦痛に吼えたかのように地響きを起こし、さらにカイウスはそのヒビが入った地面のヒビに手を挿し入れる。

 

「どりゃあああぁぁぁぁっ!!!」

 

そして全身に力を込めて地面をひっくりかえして見せた。

 

「リカンツの力とはこれほどか……」

 

リヒターもリカンツの力に驚きながらも力を込めて斧を投擲、その斧がひっくり返された地面を撃ち砕く。

 

「バーンストライク!!」

 

「な!? ぐあああぁぁぁぁっ!」

 

しかし地面を目くらましに爆炎が迫り、リヒターを爆炎が呑み込む。

 

「へへっ、こっちが本命だよ……」

 

カイウスが獣人化を解きながらしてやったりな表情で呟き、直後へたり込む。

 

「ダメだ、獣人化で体力大分持ってかれた……」

 

「後は任せとけ」

 

へたり込んだカイウスにエミルがそう言い、剣を構える。カイもその横で自分の刀とカイウスの剣を構え、カノンノは後方支援に徹するつもりなのか大剣を下ろして詠唱の準備をしていた。そしてカイとエミルは同時にリヒターに突進し、リヒターも二人目掛けて突進しつつ、その道中に落ちていた斧を拾い上げる。

 

「荒れ狂う流れよ、スプラッシュ!!」

 

リヒターは走りながら詠唱、魔術の発動という器用な技を披露し、カイとエミルを激流が襲う。

 

「エミル」

 

「おう!」

 

二人は左右に分かれて激流をかわす。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

「!」

 

その次の瞬間カイの方にリヒターが特攻、激流でエミルが援護に向かえない間に各個撃破を目論んでいた。さらに激流はこの雪山の寒さの中で凍り始めており、氷壁を形成。すぐに援護に向かえない状態になっていた。

 

「陽流・甲!」

「鬼炎斬!」

 

リヒターの剣と斧のX字を描く交差斬りと、カイの二刀に炎を纏わせながらの十字斬りがまずぶつかりあう。

 

「陰流――」

 

「ぐぅっ!」

 

しかしその次の瞬間リヒターは斧でカイの足元を薙ぎ払うように斬り、払い斬りを足を上げてかわしたカイを剣で斬り上げる。

 

「――丁!!!」

 

「ぐああぁぁぁっ!?」

 

そして斬り上げたカイを地面から噴き上がる炎が追撃する。が、カイはその炎に悲鳴を上げながらも二刀にその炎を纏わせた。

 

「飯綱……いや――」

 

そして炎を纏った二刀を縦に構え、その方向に回転する。

 

「――火車落とし!!」

 

炎を纏った二刀を遠心力の勢いも込めて振り下ろす。それをリヒターが剣斧でぎぃんっという音を立てて防ぎ、弾き返す。

 

「陽流・戊! 陰流・己!!!」

 

「ぐああぁぁっ!!」

 

そこに斧を使った回転斬りからその勢いを利用した剣の斬撃、さらに剣と斧を振るって闇の衝撃波を放ちカイを吹っ飛ばす。

 

「癒しの力よ、ヒール!」

 

しかしカノンノが治癒術で援護し、傷の癒えたカイは二刀を手に再びリヒターへと斬りかかる。

 

「甘い!」

 

右手の刀の振り下ろしをリヒターは斧で受け止め、右手の剣を突き出すがそれをカイは左手に握るカイウスの剣で受け流す。

 

「ぬっ!」

 

そのままガードの隙間をついて前蹴りを叩き込もうとするがリヒターは咄嗟にバックステップを踏んでかわし、構えを取り直す。だがカイは既に地面を蹴り斬りかかっていた。

 

「む!」

 

咄嗟に剣を振るい防御、斧を振り下ろすがカイはそれを紙一重でかわし、飛び上がる。

 

「飛燕連脚!」

 

空中を回転しながらの回し蹴り、それを受けたリヒターはぐっと唸り声を上げるがカイがこちらに背を向けて着地した瞬間を見計らって剣を振るう。しかしその剣をカイは背中を向けたまま左手に握るカイウスの剣で受け止め、そのまま弾きながら振り返って刀を振るう。

 

(こいつ、もう俺の剣技に対応しているだと!?……なんという戦闘センスだ……)

 

リヒターはカイの、相手の動きに瞬時に対応する直感に少し感心しながらも素早く距離を取り、詠唱を開始する。

 

「歪められし扉、今開かれん。ネガティブゲイト!」

 

叫ぶと共に開かれる闇の異空間。しかしカイは俊敏な動きで異空間から脱出すると刀を地面に突き立てた。

 

「土竜閃!」

 

「アクアエッジ!」

 

叫び、大地のマナが解放されると共にリヒター目掛けて突き出ていく岩の槍、しかしリヒターはそれを武器を使うまでもなく水の刃で粉砕していく。

 

「そこ! フラッシュティア!!」

 

「!?」

 

しかしその瞬間カノンノの魔術が炸裂、光の魔法陣がリヒターの真下に敷かれ吹き上がるような光の力がリヒターを襲う。

 

「ぐ……この程度……」

 

「今だ! エミル!!」

 

「なっ!?」

 

リヒターが術を耐えきろうとしていた瞬間カイウスの声が響き、リヒターははっとなった目で、ようやくスプラッシュがこの寒さで凍った事により発生した氷壁を見る。その瞬間氷壁が何かに撃ち砕かれた。

 

「遊びは、終わりだ!」

 

撃ち砕かれた氷壁の中からエミルが飛び出し、リヒター目掛けて突進し剣を振り上げる。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!!」

 

人の限界を超えたかのような速度の連続斬り、それをエミルは叩き込んでいた。そして一閃と共にリヒターをすり抜けるように彼の背後に回り込む。己のマナを解放、己の中のリミッターを解除し身体能力や精神力を一時的に高める技法――オーバーリミッツ。その最中、さらにその力を一点に集中して解き放つ事でのみ使える、奥義を超える奥義。

 

「この一撃で、沈めっ! 魔王!! 獄炎波ぁっ!!!」

 

人はそれを、秘奥義と呼ぶ。

 

「ぐああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

エミルが地面に剣を叩きつけると共に発生したエネルギーの大爆発がリヒターを吹き飛ばし、この激戦によってほとんどの雪が溶けるか吹き飛ぶかでもはや地表が見えている山の頂上に叩きつけられた。

 

「くっ……」

 

地面に叩きつけられたリヒターはくっと声を漏らす。が、すぐに起き上がると吹っ飛ばされていてもなお握りしめていた剣を杖にして立ち上がる。

 

「まだだ、俺はこの山の精霊の守護者として……精霊を私利私欲のために使おうとする者に負けるわけにはいかない……」

 

「ち、違うんです! 僕達はその、本当にただ話がしたいだけで……」

 

リヒターの声に、緑目の平常モードに戻ってしまったエミルが慌てた様子で説得を試みる。

 

「そこまでよ。闘気を収めて、リヒター」

 

そこに氷のように透き通った、美しい声が聞こえてきた。

 

「そのヒト達は、敵ではないわ」

 

そう美しい声が続いた後、リヒターのすぐ横に吹雪が渦巻いたかと思うとその中から青色の髪を長く伸ばしたスレンダーで美しい女性が姿を現す。

 

「私は、氷の精霊セルシウス。あなた達が知りたいことに答えるわ」

 

「あーえぇっと……じゃあまず世界の始まり、創世の時についてかな」

 

美女――セルシウスの言葉にカイウスがそう、まず最初に聞きたいことを尋ねる。

 

「創世の時……」

 

その言葉に彼女は黙り込み、少しすると首を横に振る。

 

「ごめんなさい。それについては答えられないわ」

 

「えぇっ!? そんなぁ……」

 

セルシウスの言葉にエミルが残念そうな声を漏らす。と、セルシウスは「だって、精霊にも世界の始まりの時は分からないんだもの」と続けた。彼女が言うには精霊という存在はマナを自然界の現象に作用させるために、世界が創造された後に生まれた存在とのこと。それにカノンノが「自分が生まれる前の事は分からないよね」と納得したように頷く。

 

「そして、星晶により封じられていた“あの存在”の事しか知らないわ」

 

「あの存在? なんだそりゃ?」

 

セルシウスの呟きを聞いたカイウスが首を捻る。しかしセルシウスは再び「私達精霊にも分からない」と告げ、「精霊が生まれる以前からこの世界にいたもののよう」と続ける。

 

「精霊ですら届かない次元にいる、何か歪んだ力……そして、それが大きな災厄となる事を、本能的に察知しているだけなのよ」

 

「大きな災厄になる、歪んだ力……それを、星晶が封じていたの?」

 

セルシウスの話を聞いたエミルがそういうとセルシウスは首肯。しかし人々が星晶を採り尽くした事で封印は解かれてしまった、と話す。

 

「だから、世界樹は“あなた”を遣わせたのかしら?」

 

「……?」

 

セルシウスがそう呟いてカイ達の方を見る。それにカイはカイウスとエミルの方を見た。

 

「え、俺じゃないぜ?」

「ぼ、僕でもないと思うけど?……」

 

それに二人はふるふると首を横に振る。と、セルシウスはくすっと笑ってカイに手をかざした。

 

「あなたの事よ、ディセンダー」

 

「……」

 

セルシウスの、カイを真っ直ぐに見ながらの言葉にカイは沈黙。

 

「ディッ……」

 

その言葉にカイウスが絶句、

 

「「ええええぇぇぇぇぇっ!!??」」

 

直後カイウスとエミルの絶叫が頂上で響き渡る。

 

「え……え?……」

 

その後ろでカノンノは急展開についていけない様子で目を丸くしていた。

 

「そういう事か、セルシウス……こいつがディセンダーとはな」

 

「世界樹の福音を受けし、光纏うもの……わたしも、あなたに与して力を貸すわ」

 

セルシウスがカイへの助力を宣言、「あの存在が、どんな災厄かは分からないし、何を目的としているのか、私達精霊にも分からないけど……」と呟くと、カイは少し黙った。

 

「あの存在……もしや、ラザリスの事じゃないのか?」

 

「ラザリス?……」

 

カイの呟きにセルシウスはそう呟き、「そうね」と呟くとリヒターに目を向ける。

 

「ねえ、リヒター。この地を守るだけでは済みそうにないみたいだわ」

 

「そのようだな」

 

セルシウスの言葉にリヒターも頷く。それから再びセルシウスはカイを見る。

 

「ディセンダー。私もあなたについて行くわ。解き放たれた災厄より、この世界を守るために」

 

「……ああ」

 

セルシウスの言葉にカイは頷く。

 

「案内しろ」

 

「え?」

 

「お前達の拠点へ案内しろ」

 

「は、はいっ!!……」

 

その横ではリヒターがエミルに(本人に自覚はないだろうが)拠点への案内をしろと脅しをかけていた。

 

 

 

 

 

「まさか、あなたがディセンダーだったなんて……」

 

バンエルティア号に戻り事情を説明するとアンジュはカイを見て絶句する。それにカイが黙って目を細めるとアンジュはすまなそうに笑った。

 

「ご、ごめんなさい。なんというか……あまりにも驚いてしまって、上手く言葉が出てこないの……」

 

「んっと……でも、それなら納得できることもあるんじゃないですか?……その、ジョアンさんや暁の従者の人、どっちも元に戻したのはカイなんだし……」

 

アンジュが驚いているとカノンノがそう言い、アンジュもそうね。と頷く。

 

「ってもなぁ。取り立てて、俺達と違うところなんてないのになぁ……そこぐらいだろ? 俺達との違い?」

 

「という事は、それがディセンダーの力……ということなのかしら?」

 

カイウスが頭をかきながらそう言い、その生物変化現象を元に戻すのがディセンダーの力なのかとアンジュは推測する。

それからカイやアンジュ達は甲板へと出る。というのも本来セルシウスにも部屋を用意しようとしていたのだがセルシウスは少しでも涼しい場所がいいのか甲板でいいと言ったからだ。

 

「さて、セルシウス。色々、あなたから話を聞きたいんだけど」

 

アンジュはそうセルシウスに切り出し、まず星晶に封じられていた災厄、すなわちラザリスの事を尋ねる。

 

「そちらの話も、エミルに聞いたわ。あなた達が、ラザリスと呼ぶ者。それがきっと、災厄でしょうね」

 

セルシウスも災厄=ラザリスだとして話を進めるが、何故ラザリスがルミナシアに封じられていたのか、どのような災厄が起きるのかという事はセルシウスも知らないと首を横に振る。

 

「ともかく、星晶の採掘が原因だったわけね」

 

リタがそう言い、ため息と共に「知らなかったとはいえこんな事態を引き起こすなんてね」と漏らす。

 

「そういえば、この世の創世に立ち会った者がいたらしいんだけど」

 

と、セルシウスが唐突にそんな事を言う。それにリタが「そんなヒトがいるわけ?」と尋ねる。それにセルシウスはもちろん創世に立ち会ったのはヒトではない。しかし精霊でもない。と答える。その存在から創世の時について聞いたものがヒトの祖である。とセルシウスが続けるとアンジュは話が長くなりそうだと察したのか話を聞くのはリタに任せる事にし、彼女はカイを連れて船内へと戻っていく。

 

「えーっと、セルシウスさんとリヒターさんをギルドの団員に登録してっと……」

 

アンジュはセルシウスとセルシウスをギルドメンバーへの登録する作業をしており、カイはその近くで佇んでいた。

 

「あ、あの……」

 

「ん? ああ、カノンノ」

 

おどおどとした様子で声をかけるカノンノにアンジュが微笑む。

 

「あの、カイに用事があるんだけど……」

 

「ああ……」

 

カノンノの言葉にカイは呟き、カノンノは彼の前に立つ。

 

「え、えっとね。その……ディセンダーだって知ってその、驚いたよね? 私もね、なんていうか……まだ整理しきれてないんだ……戸惑ってるっていうか……」

 

カノンノはとぎれとぎれながらも頑張ってカイに伝えていく。

 

「あのね、でもね。カイは私の仲間だから! ディセンダーとか、そういう前に、このアドリビトムの仲間なんだからね! それで、仲間は絶対に守るんだからね!」

 

「!」

 

ぎゅっとカイの手を取って握ってカノンノは熱弁、カイは驚いたように目を丸くする。

 

「う……」

 

次の瞬間、カイの頭の中で何か妙な感覚が起きる。そして自らの中で何かが弾けたような感覚を彼は覚えた。

 

「ふっ……」

 

「え? わっ!?」

 

カイはカノンノに握られていた手を離したかと思った瞬間、ぐしゃぐしゃとカノンノの頭を撫で始めた。

 

「カ、カイ!?」

 

「当然だろ。ディセンダーだろうがなんだろうが俺は俺だ……そして、アドリビトムは俺の居場所であり、皆は大事な仲間だ」

 

「ふ、ふぇ!?」

 

いきなり様子の変わったカイにカノンノは慌てたように彼の顔を見上げる。

 

「ディセンダーがどうだとかに興味はない……俺は俺のやりたいように仲間を、皆を守ってみせる」

 

カイは、今まで見せた事のない不敵な笑みを浮かべ、今にも吸い込まれそうな深い緑色の瞳に光を宿してカノンノを見下ろしていた。




今回はVSリヒターと例のディセンダーイベント……ようやっと本来のカイ、前に連載していたMP文庫風に言えばカイ・レディアントが解放されました。と言ってもカイ・レディアントしばらく書いてないからなぁ……まずこいつのキャラをちゃんと思い出す作業から始めないと……戦法も大きく変わる可能性あるからなぁ……。
ま、それはさておき。次回からカイのキャラが若干変わるかもしれませんけどまあ気にしないでください。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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