テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

17 / 43
第十六話 王からの依頼

アドリビトムの甲板。ここでは現在カイとレイがそれぞれ刀と剣を手に向かい合っていた。アドリビトムでよく行われている自主訓練、その中にある模擬戦だ。立会人はクレスが務めている。その他にもロイドやアスベルなどアドリビトムのメンバーの中でも剣士や格闘家メンバーが観戦にやってきていた。

 

「……始めっ!」

 

クレスが叫ぶと共にカイが走り出し、レイは剣――片手用の片刃で真っ直ぐな刀身のエタムというものだ――の切っ先を地面につける。

 

「魔神剣!」

 

剣を振るうと共に放たれる地を這う衝撃波、カイはそれをジャンプでかわしながら回転、その勢いと遠心力を利用し、右手に逆手に握った刀――こちらもレイと同じエタムだ――を振り下ろす。が、レイは魔神剣を放った勢いのまま、もう一度くるんとダンスのターンステップを踏むように回転しつつ、再び剣の切っ先を地面につける。

 

「――双牙!!」

 

「ぐっ!?」

 

刀がレイに届かないギリギリの位置で、再び放たれた地を這う衝撃波がカウンターの要領でカイに決まる。その衝撃波にカイがたたらを踏むとレイは素早く左手で、腰の後ろにマウントしていた銃を抜き銃口をカイに向けた。引き金を引くと共に銃声が響き銃弾が飛び出すがカイは素早く右に飛んで銃弾をかわし、懐から取り出した苦無を投げつけてレイの持っている銃を弾き飛ばした。

 

「チッ」

 

レイは弾き飛ばされた銃の方に僅かに目をやって舌打ちを叩くが、その隙をついたカイが刀を順手で両手に握って斬りかかってきたためすぐそっちに目をやって右手に握っていた剣を握り直し、ぶつけ合う。その時カイの刀を炎が覆った。

 

「鬼炎斬!」

 

熱にレイが怯んだところに一気に押し切り、横一文字に炎を纏った刀を振るう。ギリギリで下がったため浅く入った程度とはいえ熱を持った刃による痛みと傷口を走る熱にレイは顔を歪めるが、鍔迫り合いと同時に後ろにやっていた左手で背負っていた盾――マーベルシールドを握るとそれを前に出す。その次の瞬間、レイの目の前にいたカイの姿が消え、同時に盾からキィンッという金属音が響きその直後レイの横を風が走る。

 

「影走斬……防がれたか」

 

後ろの方から聞こえるカイの声にレイは無言で振り返る。その時、カイはさっき収めていたはずの刀を抜いており、それを再び鞘に収めていた。

 

「抜刀……俺の技を自分の技に応用したのか……」

 

カイの使った技を見たアスベルが驚いたように呟く。しかし観客がそんな事を呟いている間にレイは自分に背を向けているカイに躊躇いなく斬りかかった。

 

「甘い」

 

しかしカイは振り返りながら刀を鞘から僅かに抜いてその剣を防御し、逆に左足で回し蹴りを胴目掛けて叩き込む。小竜の魂が宿ると言われる脛当てを付けた足で放たれたその蹴りはレイの纏う東方の兵士が着用する鎧――甲冑に阻まれるがその衝撃でレイの動きが僅かに鈍る。その隙に彼は宙返りで距離を取った。籠手と脛当てこそ小竜の魂が宿ると言われている籠手と脛当てを使っているものの胴体を覆うのは功夫使いが着用する衣。身軽さで言えば東方の兵士が使う甲冑で顔を除く全身を覆う――なお頭部は双方小竜の魂が宿ると言われる兜で守っている――レイを圧倒的に上回っていた。

カイは宙返りで距離を取ったかと思うとその次の瞬間には素早く地面を蹴り、一気にレイへの距離を詰める。そして再び鞘に収めていた刀を引き抜き、鋭い抜刀を放つがレイは寸前で盾を構えその刃を防ぐ。刃を返してさらに連続斬りを見舞うがレイはその全てを盾を小刻みに動かして防ぎ、反撃に剣を突き出す。しかしカイは鞘を剣に当てて受け流しつつ剣のある方向とは逆に動いて距離を取り、仕切り直す。互いにメイン武器である剣、刀は届かない。カイが苦無を投げつけても確実にレイは盾で防御できる、レイも落とされた銃を拾えば対抗できるがそんな隙を見せれば一瞬で距離を詰められ斬り伏せられる。そんな絶妙な距離を二人は取っていた。

 

「!」

 

先に動いたのはカイだった。彼は鞘に収めたままの刀を勢いよく振るうと遠心力を利用して鞘をレイに向けて抜き飛ばす。それをレイが盾を突き出して防御している隙をついてカイは機動力を生かして背後に回り込む。しかしレイも盾で鞘を弾きながら半身だけ振り返り、剣を掲げると共に右足を踏み込み身体を回転させて構えを取る。

 

「剛・魔神剣!!」

 

「チッ!」

 

剣を振り下ろした地点から巨大な衝撃波が上空目掛けて壁のように生み出され、カイはもう止まれないが咄嗟にジャンプしてその衝撃波をかわし、空中で回転する。

 

「飯綱落とし!」

 

「くっ!」

 

回転の勢いを利用して斬りかかり、レイは剣を振り下ろした反動でかわせないものの咄嗟に盾を突き出してその刀を受け止める。

 

「せいっ!」

 

「ぐっ!?」

 

そのままぶん殴る勢いで押し、空中にいたため踏ん張れないカイを押し飛ばす。

 

「はあぁぁっ!!」

 

そして体勢を立て直すと、地面に着地しつつも押された勢いで若干体勢が戻せていないカイに躊躇いなく斬りかかる。袈裟懸けに斬り下ろし、横に薙ぎ払い、上段から振り下ろす。それをカイはステップでかわし、それだけでかわしきれないものは刀で受け流していく。そしてレイの右下から左上へとテニスのフォアハンドのように斬り上げるのを刀で受け流し、だがその勢いにカイの刀も流されてしまう。が、その時カイはチャンスとばかりに左手を腰の後ろにやり、そこに差していたナイフ――稲妻のような形状の刃をしているクリスというものだ――を引き抜くとがら空きになっているレイの右脇に突き刺そうと構える。

 

「ぐふぁっ!!??」

 

が、突き刺す直前カイの右側頭部に衝撃が走り、カイは吹っ飛ばされると船の床に叩きつけられる。頭が少しくらくらしながらもカイは立ち上がってレイを見ると彼女は握りしめた右拳を左に振り切っていた。どうやらカイが自分を刺そうとしているのに気づいたレイは咄嗟に剣を離して拳を握り締め、勢いよく裏拳を叩き込んだようだ。と言ってもそのせいでレイの剣は吹っ飛んで観戦者の一人であるスタンが「うひゃあっ!?」と悲鳴を上げながら剣を抜いて上空に弾き、隣に立っていたロイドが二刀を使って落ちてきた剣を器用に受け止める羽目になっていたのだが。ちなみに殴られた拍子にカイの手から刀も飛び出し、そっちは誰に当たる事もなく船の床にカシャンッと音を立てて落ちている。

 

「チッ……」

 

まだ少しくらくらしつつもカイは立ち上がると軽装&武器がナイフのみになったため機動力を生かして俊敏な動作でレイ目掛けて突進、ナイフを突き出すがレイはそれを右手に持ち替えた盾で防御する。突き出したナイフと防いでいる盾という形だがまるで鍔迫り合いのような雰囲気を二人は見せており、その目は火花が散っているというか完全に睨み合っていた。

 

「ふっ」

 

レイが脱力してナイフを外側に受け流し、盾を振りかぶって鈍器のように使いカイに殴り掛かる。

 

「甘い」

 

しかしカイは左手を懐に入れて何かを取り出すとレイに投げつけ、レイの額に当たると思うとその何か――玉から煙が勢いよく噴き出る。煙玉だ。

 

「ぐっ!?」

 

超至近距離から煙が噴き出してきたレイは怯み、さらに煙を吸ってしまったのかごほごほと咳き込む。

 

「隙あり!」

 

「きゃあっ!?」

 

観客たちが見たのは怯んだレイにカイが素早く足払いをかけたところまでだった。その先からは地面に落ちて転がった煙玉から噴き出した煙がカイとレイを隠す。

 

『……』

 

そして風で煙が吹き飛んだ後、その場にいた観客全員が無言になる。

 

「俺の勝ちだ」

 

彼らの目線の先ではカイがレイに対しマウントポジションを取って首筋にナイフを突きつけていた。それにレイもチッと、凄まじく苦々しげな表情で舌打ちを叩く。

 

「しょ、勝負あり……で、カイ。早くどいた方が……」

 

「「?」」

 

クレスが勝負ありと宣言した後カイにそう言い、それにカイとレイは首を傾げる。

 

「あんた、今の状況客観的に見たら明らかに女の子押し倒してるわよ……なんか、見てて物騒」

 

ルーティが呆れたようなというか苦笑交じりにそう言い、しかし理解できてないのか二人は「ふーん」と言っただけでカイはレイの上からどいて刀や鞘、苦無等を拾いに行き、レイも剣と銃を拾いに行く。

 

「……なんかあの二人、似た者同士よね……」

 

「そうですね……」

 

なんか二人揃って平然としてるというか無関心というか、そんな姿にルーティとクレスが苦笑を漏らす。

 

「すまない、少し時間いいかな?」

 

「あ、ウッドロウさん。どうしたんですか?」

 

と、そこに一人船内から来客が来た。それにスタンが首を傾げるとウッドロウは真剣な目つきを見せる。

 

「いや、実は先日からこのギルドに推薦しようと考えていた者がいてね。彼がこの近くに来ているという書簡が国から届いたのだが……どうやら彼は今ある手配犯を追っているそうだ……これを見てくれ」

 

ウッドロウはそう言って一通の手紙を見せ、スタンがその手紙を受け取ると目を通す。

 

「……あ、これって」

「へー。あいつが一人で手配犯を追ってるの?」

 

「ああ。書簡によると手配犯はアルマナック遺跡に潜伏しているようだ。すまないが、彼を迎えに行くついでに援護に向かってくれないかな?」

 

スタンが呟き、後ろから手紙を覗き込んだルーティがそう呟くとウッドロウが説明の後お願い、それにスタンが大きく頷いた。

 

「分かりました! 俺に任せてください!」

「ま、援護なんて必要ないだろうけどね」

 

「……面白そうだ。俺も行っていいか?」

 

「ああ! きっとカイも驚くぞー!」

「あいつ、口は悪いけど実力は確かだしね」

 

スタンとルーティがクエストに行く事を決めるとカイも同行を志願、スタンはこくんと大きく頷いて無邪気に微笑み、ルーティはにししと笑いながら憎まれ口を叩く。それにウッドロウも頷き、カイ達が行く事を書簡で伝えておこうと言うと別のメンバーの方を向き直す。

 

「それと、こちらはごく個人的な用件になってしまうのだが……私の恩師の大切なお孫さんが、どうやら私の後を追って単身旅に出てしまったらしく、恐らく霊峰アブソールにいるのではないかということなのだ。頼む、一緒に探してもらえないか?」

 

ウッドロウは頭を下げてお願いする。それにロイドが一番に「ああ!」と頷いた。

 

「任せろよウッドロウ! ドワーフの誓い第二番、困っている人を見かけたら必ず力を貸そう! だ! 手伝うぜ!」

「俺も手伝います。騎士として、民を守るのは務めです」

 

「感謝する」

 

ロイドとアスベルが同行を志願し、ウッドロウは感謝の言葉を述べる。

 

「我も共に行こう」

 

と、さらにレイも同行を志願した。

 

「先ほどの模擬戦の敗北……さらに腕に磨きをかけねばならん。そのついでにはなるだろう」

 

「……そうか。感謝するよ、レイ君」

 

特訓ついでとはいえ捜索に参加してくれるというレイにウッドロウは再び感謝の言葉を述べる。

そしてアンジュにクエストとして登録をお願いし、バンエルティア号を走らせてカイチームはアルマナック遺跡に、レイチームはアブソール霊峰へと向かうのであった。

 

 

 

そして、場所は霊峰アブソールへと移る。

 

「ブレイズバレット!!」

 

ドガガガガガンッと連続的な銃声が山中に響き渡り、燃え盛る弾丸が炎に耐性の無い雪山の魔物を蹂躙する。しかしその銃弾を潜り抜け、一体のアイスウルフが銃弾を放った者――レイに牙を剥く。

 

「抜砕牙!」

 

しかしその牙がレイに届く前にウッドロウがアイスウルフを切り捨てた。さらに近くでは残る魔物を斬り捨てたロイドが二刀を上に投げ、落ちてきた刀を取ると共にくるくると回転させながら片方ずつ鞘にしまうという曲芸を見せ、アスベルがその姿に感心したように「おぉ」と声を漏らしながらこっちは実直に納刀する。

 

「……助かるよ、レイ君」

 

「気にするな。ところで、探し人とは?」

 

「ああ……先ほども説明をしたが、私の恩師のお孫さんだ。とても活発で良い子なのだが、何分方向感覚に難があってね……行き先で心当たりがあるというのはこの山だという事なのだ」

 

ウッドロウは心配そうな様子で呟く。それにロイドも頷いた。

 

「確かに心配だな。よし、手分けして探そうぜ!」

 

「と言っても、一人だけだともしもの事があった時に危険だな……ここは二人一組で動くことを提案します」

 

「それで行こう」

 

ロイドが手分けをして探すという案を出すとアスベルが一人だと危険なため二人一組で動こうと補強する。それにウッドロウも頷くとロイドがすぐ隣に立っているアスベルの肩を掴んだ。

 

「んじゃ、俺とアスベルで行くよ!」

 

「分かった」

 

「俺達であっちを探すから、ウッドロウ達はあっちを探してくれ!」

 

「うむ、気をつけてくれ。また後程、この場所で落ち合おう」

 

「分かりました! 陛下もお気をつけて!」

 

ロイドとアスベル、ウッドロウはそう話し合い、ロイドとアスベルが雪山に消えていくとウッドロウもレイの方を振り向き、「とにかく、順番に回ってみよう」と彼が言うとレイも頷き、二人も雪山に住む魔物を倒しながら山に分け入った。

 

そして、少し山奥に入る。ウッドロウはきょろきょろと用心深く辺りを見回し、人の気配がないと判断すると気落ちした表情を見せる。

 

「ここにもいない、か……チェルシー……」

 

「……それが、探している者の名か?」

 

「ん? ああ……そういえば教えていなかったか。先生がとても可愛がっている自慢の教え子でね。筋がよく、弓の腕前は確かだ」

 

ウッドロウの呟きにレイが尋ねると、ウッドロウは探す相手の事も教えていなかったことに気づいたのか申し訳なさそうに笑いながら探し人――チェルシーの事を話す。幼いながらもとてもしっかりした子であり、今回の依頼人であるチェルシーの祖父でありウッドロウの師である者に、かつて弓の教えを本格的に請うていた頃は、チェルシーには祖父を取られてしまうと思ったのかとても嫌われたものだ。と懐かしげに彼は話す。

 

「……だが、いくら大人びているように見えても、まだ少女であることに変わりはない。今頃、さぞ心細い思いをしている事だろう。早く見つけてあげなければ……」

 

「……」

 

ウッドロウは真剣な表情で雪山を進んでいき、レイも少し黙った後その後を追い歩いて行った。

 

 

 

 

 

「うう……」

 

更に雪山を進んでいくと突如、そんな泣き声のような声が聞こえてくる。

 

「この声は!」

 

ウッドロウがはっとした様子で声の方に走る。

 

「ぐすっ……」

 

その先には、桃色の髪を頂点で二つ分けに結んだ少女が泣いているような様子で項垂れていた。

 

「もうだめ……どこもかしこも、似たような景色ばっかり……おじいちゃん……ウッドロウさまぁ……」

 

「チェルシー!」

 

その少女に向けてウッドロウは雪をかき分けるかのような勢いで走り、声をかける。その呼び声に反応した少女は振り返ると共に驚きに目を見開いた。

 

「心配したよ。怪我はないかね?」

 

「ウッドロウさま! どうしてここに?」

 

ウッドロウの、相手を安心させるかのような笑顔での言葉に少女――チェルシーが驚きのままに叫ぶ。それにウッドロウが先生、つまりチェルシーの祖父が手紙で知らせてくれたのだと説明。迎えに来たのだと言う。

 

「おじいちゃんが……もう、大丈夫だって言ったのに、また子ども扱いして……」

 

「そう邪険にするものではないよ。先生は、チェルシーを大切に思っているだけなのだ。とにかく、無事でよかった」

 

「ウッドロウさま……」

 

ウッドロウから説明を受けたチェルシーはぷぅと頬を膨らませるが、ウッドロウは彼女を諭すようにそう言い、次に安心したように微笑む。それにチェルシーも感激したように声を漏らした後、ぺこりと頭を下げる。

 

「ごめんなさい、ご心配をおかけしました」

 

「分かってくれればいい。失敗は反省として、次に活かすためにあるのだからね」

 

チェルシーの謝罪にウッドロウはうんと頷き、次にレイを見る。

 

「改めて紹介しよう。レイ君、この子がチェルシーだ」

 

「……よろしく頼む」

 

「あ、もう一人いらっしゃったのですか? よろし……」

 

ウッドロウがレイにチェルシーを紹介、レイも挨拶するとチェルシーはそこでようやくレイに気づいたように彼女に顔を向けて挨拶しようとする。が、チェルシーはスタイル抜群の美女たるレイの姿を見ると絶句した。

 

「?」

 

「レイ君は私が世話になっているギルドの仲間でね。まだ若いが実力は確かだ。スタン君達と共に私が全面的に信頼を置いていると言っていい仲間の一人だな」

 

その様子にレイは首を傾げ、ウッドロウは微笑を浮かべて説明をすると「紹介も済んだところでギルドに戻ろうか」と言う。「チェルシーの祖父にも彼女が無事であったことを報告せねばならない」と話して彼らは麓まで戻る。そこで丁度戻ってきたロイド達と落ち合ってチェルシーを発見したことを報告して今回の協力への感謝を述べ、彼らは雪山を下りていった。

 

 

さて、カイ達がアルマナック遺跡に向かった辺りに時間を戻そう。

カイ達はアルマナック遺跡へとやってきてから、以前カイ達が暁の従者と戦った遺跡の最奥地へと向かっていた。

 

「万策尽きたようだな」

 

と、遺跡の奥の方からそんな声が聞こえてくる。それにスタンが「この声は!」と嬉しそうに声を出すと走り出し、ルーティもふっと笑うと走り出す。カイもその後を追った。そしてカイ達がやってきたのは遺跡の最奥地。そこには黒髪に青い服という華奢な身体の、背を向けているため男性か女性か判断が出来ない人物が立っていた。それと向かい合う形で、顔全体をマスクで覆い、出刃包丁のような形の剣を持った巨漢の男が立っている。

 

「もう逃げ場はない、大人しく投降しろ」

 

「誰に向かって言ってやがる? そんな細っこい腕で、本気で俺様をどうこうできると思ってんのか?んどっからどう見たって、女みてぇなナリしやがって! あんま俺様を舐めんじゃねえぞ!!」

 

背を向けている人物――声から見て恐らく男性、つまり少年だろう――の言葉に巨漢の男がその体躯に似合う野太い声で威圧するような声を出す。と、少年はフッと鼻で笑った。

 

「……どうやら痛い目に遭わなければ、自分の身の程もわからないらしい。おまけに、致命的に悪いのは頭だけではないようだ」

 

「……あァ!?」

 

「安心しろ。貴様の収監先には、腕のいい眼科医が常駐している場所を選んでやる」

 

「な、なんだとっ!? てめぇ!!」

 

少年は挑発するように男性に向けてそう皮肉を放つ。それに乗ったのか男性の目が血走った。

 

「リオーン!! 助けに来たぞー!!」

 

「!?」

 

そこにスタンが声を張り上げるとリオンと呼ばれた少年は驚いたように振り向き、スタン達を見るとあからさまにぎょっとした様子を見せる。

 

「おらぁっ!!!」

 

「!」

 

突然目を離した隙をつき、男は出刃包丁のような剣を手に突進すると勢いよく振り下ろす。が、リオンと呼ばれた少年は咄嗟に身体を引いてかわし、男性が次に首を狙って剣を横に薙ぎ払うがそれは姿勢をひくくしてかわす。

 

「ふんっ!!!」

 

「ぐはあぁっ!」

 

そして勢いよく蹴りを放つとその一撃が巨漢である男性を吹き飛ばして遺跡の壁に叩き付け、そのダメージによって一瞬で身体の自由を奪う。一瞬、それで片が付いた。そして少年――リオンは部下なのだろう年上の男性に男を連れていくように指示をし、男が手枷を付けられて連行されたのを見届けた後。スタンをギロリと睨みつけた。

 

「スタン、貴様――」

「ひっさしぶりだなーリオンー!!!」

「――ぐぶっ!?」

 

しかしその口から皮肉か嫌味か怒号が発される前にスタンは思いっきりリオンをハグ、結果的にその口が塞がれることとなりリオンはじたばたと暴れる。なんだろうか、とっても懐いている大型犬とその飼い主みたいだ。そしてリオンはスタンに至近距離から打撃を叩き込み、スタンを無理矢理引き離してからカイを見てフンと鼻を鳴らす。

 

「ウッドロウの言っていたカイというのはお前の事だな……」

 

「ああ」

 

「いいだろう。話くらいは聞いてやる。ただし――」

 

リオンの言葉にカイは頷き、リオンは再びフンと鼻を鳴らすとそう言って突如、さっき巨漢の男との戦いでは使っていなかった剣を左手に抜いて構え、さらに右手にナイフも逆手で構える。

 

「――それはお前の実力の査定が済んでからだ」

 

「!」

 

「行くぞ!」

 

リオンの言葉を聞いたカイは咄嗟に鞘に手をやり、その瞬間リオンが声を上げてカイに襲い掛かった

 

「空襲剣!」

 

右手に握るナイフでの突進突きから後ろに跳ね上がりながら斬り上げる。しかしカイは突進突きを受けつつ後ろに下がる事で斬り上げをかわした。そして前傾姿勢を取り、刀の鞘に手をやる。

 

「影走斬!!」

 

地面を勢いよく蹴り、その反作用でリオン目掛けて突進する。が、カイはリオンの口から呪文が唱えられているのに気づいた。

 

「大地の壁よ! ストーンウォール!!」

 

「っ!!!」

 

大地のマナが空中に凝縮、巨大な岩が形成されてリオンの目の前に落ちる。カイは寸でで止まり押し潰されることは回避したがその岩が砕けた瞬間岩の向こうから再びリオンが斬りかかる。

 

「くっ!」

 

カイは咄嗟に剣を横に一閃するがリオンはそれを姿勢を低くしてかわし、そのまま姿勢を上に上げる勢いでジャンプし、サマーソルトキックをカイに叩き込んで彼を空中に弾き飛ばす。そしてサマーソルトから着地した後、リオンも剣を手にジャンプする。

 

「飛燕連斬!!」

 

「つっ!」

 

宙を舞い踊るかのような斬撃、カイはそれを刀を盾にして受けるが、リオンの右手に握るナイフによる斬撃が終わった後、リオンの左手に闇のマナが集中する。

 

「デビルスピアー!!」

 

「ぐあっ!?」

 

闇のマナで出来た小さな槍が投擲され、カイはその槍を防げずにうけてしまい苦しげな声を出す。さらにリオンはデビルスピアーを投擲した勢いを利用して蹴りを叩き込み、カイは地面に叩きつけられる。

 

「この程度か?」

 

リオンはナイフを腰の鞘に収めて左肩を右手でトントンと叩きながら皮肉っぽくそう言う。が、カイは手を使うことなく跳ね起きて再び刀を構える。

 

「そうでなくてはな」

 

その姿を見たリオンも再びナイフを抜いて構えを取る。そしてリオンは再び詠唱を始め、カイはその隙を突こうと刀を鞘に収めたまま突進する。

 

「黒曜の輝き、快速の槍となり、敵を討つ!」

 

「影走斬!!」

 

リオンが詠唱しているところにカイは再び高速で接近、抜刀の勢いを込めた居合斬りを見舞うがその斬撃を間一髪でリオンは後ろに大ジャンプをしてかわす。

 

「覚悟はできたか?」

 

カイを見下ろしながらそう問うリオン。その左手には先ほどのデビルスピアーとは比較にもならない巨大な闇の槍が握られていた。

 

「デモンズランス!!!」

 

そしてカイ目掛けて闇の槍を投擲、その槍こそカイはかわすがその瞬間槍が大爆発を起こし、ドーム状の闇の爆発がカイを呑み込んだ。

 

「ふん……」

 

リオンは鼻を鳴らして剣を構え、着地してから追撃を試みようと闇の爆発の中にある人影に目を凝らす。

 

「……!?」

 

人影、と思っていたのは人くらいの大きさと太さの丸太。変わり身の術だ。それに気づいたリオンは周りを見回すが、その次の瞬間背後に気配を感じる。

 

「ぐはぁっ!!??」

 

その直後背中に衝撃が走り、空中で身動きが取れないリオンは吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

「曼珠沙華!!」

 

「っ!?」

 

直後そこに苦無が飛び、リオンは転がって苦無をかわすが地面に着弾した苦無が爆発したかのように炎を放つのを見るとその顔に汗が一筋浮かんだ。カイはさっきのデモンズランスをかわした上でリオンを惑わす囮として丸太を変わり身に置き、デモンズランスの爆発に隠れてリオンの背後に回っていたのだ。

 

「飯綱落とし!」

 

さらにカイは空中から縦に回転して勢いをつけ斬りかかる。それをリオンはバックステップでかわすが着地と共にカイは一気に斬りかかった。

 

「フッ!」

 

「チッ!」

 

左下から右上へと刀の斬り上げ、リオンはそれを後ろにステップを踏んでかわすがその直後カイは左足を踏み込み、左手に逆手に握ったナイフでリオンの首を狙い追撃を仕掛けた。

 

「くっ!?」

 

咄嗟に身を反らして攻撃をかわし、そのままバク転で距離を取りながらリオンは詠唱を進める。

 

「ストーンブラスト!」

「苦無閃!」

 

そして着地と同時に魔術を発動、大地のマナによって形成された石がリオンの周囲に浮かび、弾丸となってカイに襲い掛かる。しかしカイは臆せずにリオン目掛けて突進、石の弾丸を苦無で打ち落としながらリオンへの距離を詰める。そして再び二人の剣がぶつかり合った。

 

「月閃光!」

「鬼炎斬!」

 

リオンが左手の剣を振り上げるとカイも炎を纏った刀を両手で振り下ろして対抗、片手の上に相手は振り下ろしということもあってリオンが押し負ける。

 

「まだだ!」

 

しかしリオンの鋭い回し蹴りがカイに突き刺さり、カイは踏ん張って耐えるものの一瞬硬直してしまう。

 

「虎牙――」

 

そこにリオンが右手のナイフを振り上げながらカイを斬りつけ、飛び上がる。

 

「――破ざ」

 

続けて左手の剣を振り下ろさんと構える。が、その次の瞬間剣が振り下ろされるより早く、リオンの腹に炎を纏った蹴りがめり込んだ。

 

「鬼炎――」

「ぐふっ!」

 

カイが足に炎のマナを集中、燃え盛る蹴りを放ったのだ。しかもその蹴りはさらに続く。

 

「――連脚!!」

「がはぁっ!?」

 

蹴り落としにリオンは再び地面に叩きつけられる。が、その直前ギリギリで受け身を取ってそのまま跳ね上がった。

 

「ふ……」

 

リオンはさっきの蹴りの乱舞の中で切ったのか、口から血を垂らしながらふっと笑う。

 

「まさかこの僕に一瞬とはいえ本気を出させようかと思わせるとはな……褒めてやる。褒美に……この技で決めてやろう」

 

リオンは双剣に炎と闇のマナを纏わせ、カイも刀を構え直す。

 

「塵も残さん!!」

 

「はーいそこまでーっ」

 

リオンが叫んだ瞬間、そんな声と共にリオンの頭が何者かにはたかれた。スコンッという音と共に炎と闇のマナが消え、リオンは自分をはたいた相手――ルーティを睨む。

 

「貴様!!」

 

「そこまでやりゃ査定とやらは充分でしょ?」

「なあなあリオン! カイの実力ってどうだ? 強いだろ!?」

 

睨むリオンに対し呆れたように言うルーティと目をキラキラさせるスタン。その二人を見てリオンはふんと鼻を鳴らし、横槍のせいで戦意をなくしたか双剣を鞘に収めた。

 

「まあ……それなりの技量はあるようだな」

 

リオンはそう言ってカイを見る。

 

「使えない駒に興味はない。だから実力を試させてもらった。それだけだ」

 

「そうか……」

 

リオンの言葉にカイはそうとだけ返し、リオンはまたもフンと鼻を鳴らす。

 

「改めて名乗ろう……僕はリオン・マグナス。ウッドロウの下で客員剣士をしている」

 

リオンは短く己の名を名乗り、その後にスタン達に「バンエルティア号とやらへ案内しろ」と言い、彼らは遺跡を出ていった。

 

 

 

 

 

「ふむ……」

 

一方レイ、バンエルティア号甲板に戻った辺りでレイが声を漏らす。どうにも先ほどからチェルシーが自分の方を刺すような視線で睨んでくるのが妙に気になる。ロイドとアスベルはクエストの終了をウッドロウから受け、後に改めてお礼をするという言葉を受けてから船内に戻っていった。一方ウッドロウはリオンの迎えに行ったスタン達を待って甲板に残り、ウッドロウが残っているからチェルシーも、そして何故か移動できない感じのするレイも残っている形になる。

そしてバンエルティア号がアルマナック遺跡に到着、スタン達が乗り込んできた。

 

「ん? チェルシー! よかった、無事だったんだな!」

 

船に乗ったスタンがチェルシーを見つけて無邪気な笑顔を浮かべ、続けてルーティが走ってきた。その後ろからカイとリオンがゆっくりと乗船する。

 

「心配したんだぞー。それにしても久しぶりだなぁ、元気だったか?」

 

「ウッドロウに聞いたわよ? 単身旅に出たってどうしたのよ? 山で弓の修行に励んでたんじゃなかったの?」

 

スタンは久しぶりと挨拶し、ルーティがそう問いかけてくるとチェルシーは満面の笑顔で「ウッドロウさまがなかなか顔を見せてくれず、今はこのギルドに身を寄せていると祖父から聞いたので、居ても立っても居られなくなって一日千秋の思いで追いかけてきた」と話す。

 

「チェルシー、わかっているとは思うがあくまでギルドは実力主義の世界だ。甘い考えで言えば、支払う代価が怪我だけでは済まない事もある。ここに籍を置く以上は、今後もますます弓の技術に磨きをかけていかなければな」

 

「はい! チェルシー・トーン。緊褌一番頑張ります!」

 

ウッドロウが真剣な顔でギルドという厳しい世界での生き方を諭し、チェルシーもむんと気合を入れた様子で頷く。

 

「きんこ?……」

 

スタンがチェルシーの言葉に首を傾げた。

 

「心から奮起する、という意味だよ」

 

それにウッドロウが意味を説明。ルーティは「相変わらず小難しい言葉使ってるのねぇ」とやれやれというように肩をすくめる。

 

「当然です。もう子供じゃないんですから!」

 

その言葉にチェルシーはえっへんと胸を張って答えた。と、ウッドロウはふっと微笑む。

 

「チェルシー。ギルドは剣士に始まり魔術師から格闘家、私達と同じく弓のような飛び道具を使う者まで大勢の人間がいる。時には皆にも教えを請うと良い、私達とはまた違う視点からの戦い方を知り、己の視野を広げる事も必ず何かの役に立つだろう」

 

「はい、ウッドロウさま!」

 

ウッドロウはチェルシーに様々なヒトと交流をすることの大切さを教える。チェルシーもそれに頷くとレイの方にとことこと歩いて行った。

 

「改めまして、チェルシー・トーンと申します。これからよろしくお願いいたします」

 

「レイだ。こちらこそよろしく頼む」

 

チェルシーの改まっての挨拶にレイもそう返し、次にチェルシーは顔を上げる。

 

「ウッドロウさまは渡しません。負けませんからね!」

 

「?……」

 

チェルシーのそんな宣戦布告にレイは首を傾げるしか出来なかった。

 

「ふふふ……人が増えるとやはり賑やかだな。リオン君も無事に合流できたようで何よりだ」

 

「僕は命令に従ったまでだ。次期国王の直々の頼みとあれば、おいそれと逆らう事は出来ないからな」

 

「そういうつもりで、あの書簡を送ったわけではないのだがね。互いに協力して、この先の危機を乗り越えられればと思ったまでだよ。堅苦しく捉えてしまったのならすまなかったね」

 

「フン……」

 

妹弟子をアドリビトムの新たな仲間を迎えたウッドロウは嬉しそうに微笑み、次にリオンに声をかける。それに対しリオンが皮肉っぽくそう言うとウッドロウは困ったように返し、堅苦しく捉えてしまったのならすまなかった。と謝る。それにリオンはまたもフン、と鼻を鳴らした。

 

「ともあれ、互いに良い関係が築いていければと思っているよ。カイ君、今回はありがとう。君からも何かあればいつでも私に相談してくれ。出来る限り、力になろう」

 

「ああ」

 

ウッドロウからのお礼に、カイもこくんと頷いて返した。




今回はなんか都合よくウッドロウがリオンとチェルシーの仲間入りクエストを出してくれたのでそれぞれカイとレイに一つずつ行かせてみました。恋する乙女チェルシーの方には恋の鞘当てを書くためにレイを、リオンの方はバトらせるためにカイを放り込みました。やっぱバトらせるとなるとカイの方が書きやすいので……まあ今回はまだ自重してる方ですけど、昔に比べて。
さて次回はどうするかな。もうそろそろあのイベントのはず……ま、今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。