テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第十七話 神子、騎士隊長、そして異世界からの仲間入り

「アンジュ」

 

アドリビトムのホール。そこでアドリビトムに届けられた依頼の整理をしていたアンジュは突然呼ばれ、声の方を向く。

 

「リタ……何か用事?」

 

「セルシウスから聞いたことを纏めたから伝えに来たわ」

 

アンジュの言葉に彼女を呼んだ少女――リタはそう伝え、頭をかいて「かなりぶっ飛んだ内容だけど、一応話しておくから」と続ける。それにアンジュも「創世の時について伝え聞いた、という“ヒトの祖”の事ね」とこの前リタに、セルシウスから話を聞いておいてとお願いしていたことを思い出す。それにリタもこくんと頷くと口を開く。

 

「遥か太古……あたし達ヒトは、精霊に近い非物質の存在だったらしいわ」

 

「太古のヒト、今の私たちの先祖は肉体を持っていなかったって事?」

 

リタの話は最初からぶっ飛んでおり、アンジュは自分達の先祖は肉体を持っていなかった事への驚きに目を丸くする。リタが話す事曰く「“ヒトの祖”は物質体を自分達で設計し、今あるヒトとして地上に増え栄えた」。これは逆に言えばヒトの祖はドクメントだけの存在だったという事。自分達の肉体、ヒトたる姿や構造を自ら設計し、非物質から物質を生み出したというのだ。あたかもミブナの里に伝わる人工精霊を創るように。

 

「……だとすると、ソウルアルケミーは、その当時にあった技術で、現代まで細々と伝わっていたわけね」

 

「でも、結局その創世の時の事を知る非物質の“ヒトの祖”は今、いないんでしょ?」

 

リタの話が一段落するとアンジュがそう言い、しかしリタは「セルシウスは“ヒトの祖”が遺した遺構なら知っていると言っていた」と話し、アンジュが「遺構?」と首を傾げるとリタはええと頷いた。

 

「天空にある宮殿、“ヴェラトローパ”よ。“ヒトの祖”、ヴェラトローパの民がその身を物質とするまで居た場所だって」

 

「そこにヒントがあるとしても、それも非物質なんでしょ?」

 

「そうね、そういう事。ヴェラトローパは精霊と次元を同じくした時もあったけど、ヴェラトローパの民が地上に下りる時に、さらに次元を隔てて隠されたらしいわ」

 

リタは天空にある宮殿“ヴェラトローパ”にヒントがあるかもしれないと話すがアンジュはヒトの祖であるヴェラトローパの民がその身を物質とするまで居た場所ならそこも非物質じゃないのかと反論。リタもそれに肯定、かつては精霊と次元を同じくした時もあったけれど、ヒトの祖が地上に下りる時さらに次元を隔てて隠したそうだと話す。

 

「非物質じゃあ、存在しないのと一緒じゃない」

 

結局自分達が干渉出来ない非物質なのでは存在しないのと一緒だ。と自分が使っているテーブルに突っ伏すアンジュにリタも同じ思いなのか困ったように頭をかくが直後何かに気づいたように「いや、待って」と声を漏らす。

 

「……非物質を、物質に……」

 

「何かいい案でも?」

 

「ん……ちょっと、ハロルドと話してみるわ」

 

何か考え始めたリタに対しテーブルに突っ伏したアンジュが顔を上げてそう聞くと、リタはそう言って科学室に戻ろうと踵を返す。

 

「今帰ったよ!」

 

と、今朝からカイ、カノンノと共にルバーブ連山に出かけていたしいなが戻る。曰く「自分の腐れ縁である歩く猥褻物が来るみたいだから、人様に迷惑かける前に捕獲してくる」とのことでカノンノが手伝いを申し出、しいなも手伝ってくれるのはありがたいのだがカノンノが危険だと思い、しかし親切にしてくれるカノンノを突き放すのも良心が痛むという事で、ボディガードとしてその時すぐそこを闊歩していたカイを強制的に同行させたわけである。

 

「よっと」

 

そしてカイが無造作に何か――赤い髪を長く伸ばした男性と思しき人物――を放り捨てるように投げ込む。

 

「……え?」

 

アンジュはうつ伏せで倒れている男性を見て少し沈黙した後、カイを見る。と、カノンノが頬を引きつかせ、しいなもため息をつく。

 

「こいつがあたしの腐れ縁だよ。こいつカノンノを見た瞬間ナンパ始めてね。カイと一緒にぼっこぼこにしたんだよ」

 

「あ、あはははは……」

 

しいなの言葉にカノンノも乾いた笑い声を漏らす。

 

「えっと……よく分からないけれど、医務室に連れて行かなくていいの?」

 

アンジュは困ったような笑みを浮かべながら席を立ち、男性の方に歩いていく。と、その時男性の身体がぴくりと揺れ、突如がばっと立ち上がったかと思うとアンジュの手を自分の両手で覆うように包み込む。

 

「おお、なんてお優しいんだ。その優しさだけでこの身体の痛みが溶けていくような気持ちになる」

 

「……はい?」

 

男性の言葉にアンジュは目を点にする。

 

「お優しい聖女様、私の名はゼロス・ワイルダー。よければ――」

 

「カイ! いくよ!」

 

「おう!」

 

「――みぎゃぐはぁっ!!??」

 

男性――ゼロスがアンジュを口説き始めるとしいなが叫び、直後しいなの右ストレートがゼロスの背中に、カイのハイキックがゼロスの側頭部に同時に直撃。そのハイキックの衝撃によってゼロスの身体が横に吹っ飛んだ。

 

「殴るよ!?」

 

「だ、だから殴ってから言うな……がくっ」

 

しいなの怒号にゼロスはツッコミを入れた後がくっと言いながら気を失い、しいなはため息をつくと彼の首の後ろにあたる部分の服を掴んだ。

 

「じゃあ、こいつはロイド達にでも任せてくるわ」

 

「え、ええ、お疲れさま……」

 

しいなはそう言って気絶しているゼロスを連れて去っていき、アンジュも苦笑交じりにそう言葉を漏らした。

 

「じゃあ、二人もお疲れさま」

 

「ああ。甲板でユーリが模擬戦してたし、混ざってくるか……」

 

「ダメ、休憩」

 

次に二人に労いの言葉をかけ、カイはついさっきクエストから帰って来たばかりなのに元気いっぱいに模擬戦に混ざってこようかと言い出し、しかしカノンノはちゃんと休憩を取るようにカイに言って彼を部屋に引っ張っていった。

 

 

 

「らぁっ!」

 

「くっ!」

 

一方甲板。先ほどカイが言っていた通り、ここではユーリが模擬戦を行っていた。ちなみにその相手はレイで、今はユーリが、レイの放った魔神剣をジャンプでかわして素早く斬りかかり、レイも右手に握った剣で防御。共に両手で剣を握っての鍔迫り合いになっている。

 

「「ふっ!!」」

 

ギィンッと重い金属音が響いて二人は距離を取り合う。と、その瞬間レイは左手を後ろにやり、銃を取り出す。そして素早く銃口をユーリの方に向けて引き金を引いた。

 

「っ!?」

 

咄嗟に横に飛んで銃弾をかわすが、顔のすぐ横を通った弾丸はユーリの長い髪をかすり僅かに削る。

 

「ちっ!」

 

「ふっ!」

 

ユーリは舌打ちを叩いて突進、レイも右手に剣を持ちつつ左手で銃を構え、銃弾を乱射しながら突進。互いに距離を詰めつつレイは剣に繋げる前に銃での攻撃をし続ける。

 

「おらあああぁぁぁぁっ!!」

 

しかしユーリは刀を振り回し、しかもなんの考えもなく振り回しているように見えるその刃の軌跡はレイの撃った銃弾を的確に打ち落とし、弾き、斬り裂いていた。

 

「なっ!?」

 

自分を狙う弾丸を全て打ち落とすというとんでもない剣技にレイは驚き、銃が弾切れになった事に気づくのに遅れてしまう。咄嗟に銃を捨てて背負っている盾を取ろうとするが既にユーリは剣の間合いに入っており、レイは左手を後ろにやりつつ右手の剣をユーリ目掛けて突き出す。

 

「牙狼――」

「っ!?」

 

しかしユーリも剣を突き出してレイの剣を阻み、

 

「――撃っ!」

「ぐっ!!」

 

盾が構えられるより早く、右の拳をレイの腹目掛けて叩き込む。その一撃をくらったレイは鎧を突き抜けた腹への衝撃によって怯み、ユーリは素早くレイの肩を掴んで引き倒すとさらにレイの顔の真横に剣を突き立てる。

 

「俺の勝ちだな」

 

「チッ」

 

ユーリの言葉にレイは舌打ちを叩き、彼を睨みつける。そしてユーリがレイの上からどいて剣を収めるとレイも立ち上がって剣を鞘に収め、盾を背負い直して銃をしまう。と、その次の瞬間ユーリは鋭い目でバンエルティア号の甲板縁に用意されている登り口を睨みつけ、同時に剣を引き抜く。

 

「蒼破ぁっ!」

 

叫び、剣を振るうと共に放たれるのは風の塊のような衝撃波。と、衝撃波が飛んでいく方向から一人の青年が顔を出し、衝撃波を見ると驚いたように目を剥く。

 

「あぶ――」

 

咄嗟にレイが叫びそうになる。が、青年は素早く盾を構えるとその衝撃波を防いでから甲板を見る。そしてユーリの姿を認めるとその目は呆れたように細められた。

 

「ユーリ……危ないじゃないか」

 

「ははっ。悪い悪い、ガルパンゾ国の騎士隊長様が気を抜いてないかと思ってな」

 

「まったく。君って奴は……」

 

青年の目を細めながらの注意にユーリは悪びれもせずに笑いながら返し、青年はやれやれと肩をすくめる。

 

「数日前に手紙を送ったはずだ。エステリーゼ様を返してもらうよ」

 

「あーやっぱそれか……悪い、今ちょっと取り込み中でな……」

 

青年の言葉にユーリは頭をかく。

 

「はーいちょっとどいたどいたー!! 模擬戦やってんならちょっと止めなさーい!!」

 

その時、突如リタの声が響く。その横にはハロルドが立ち、後ろの方からはアスベルやクレス、ロイドにセネルがなんらかの機械――ピンク色の、例えるならチェスのルークの駒を元にしたような形をしたものだ――を前後左右から持ち上げて甲板へと運び出していた。

そして甲板の中央部分にて機械はどさりと置かれ、アスベルはふうと息を吐いた後、人の気配に気づいてそっちを向き、来客を見るとぎょっとした目を見せた。

 

「フ、フレン隊長!? ど、どうしてここに!?」

 

「久しぶりだね、アスベル」

 

慌てて敬礼を取りながらのアスベルの言葉に青年――フレンはにこやかに挨拶をする。

 

「っ、あんた!?」

 

と、そこでリタもフレンを見て絶句した後、睨みながら声を低くする。ちなみにハロルドは鼻歌を歌いながら機械――どうやらなんらかの装置のようだ――のセッティングを行っていた。

 

「君は……」

 

フレンもリタを見て声を漏らす。が、リタが目を閉じてふんっと鼻を鳴らしながら顔を背け、会話する意思がない事を示すと彼も口を閉ざした。

 

「フレン!」

 

「エステリーゼ様!」

 

と、またもフレンを呼ぶ声。それにフレンは大きく反応して声の方を見る。そこにはエステルが驚いた様子を見せて立っていた。

 

「エステリーゼ様、お城に戻ってきてください」

 

「……やはり、それですか……」

 

フレンの言葉にエステルはしゅんとした様子を見せ、ちらりとハロルドがセッティング中の装置を見る。

 

「フレン。そのお話の続きは少し待っていただけませんか?」

 

「は、はぁ……」

 

エステルの真剣な表情での言葉にフレンも威圧され、曖昧に頷く。

 

「私たちの知らないところで、大きなことが起きているんです。今、それを解決できるかもしれない手段を見つけるための実験をするんです。ヒトの祖の遺構、ヴェラトローパへの道を見つけるための」

 

「ヒトの、祖?……」

 

「はい。本来非物質であるものも、己を構成する情報……つまり、ドクメントの波動を濃密にすれば物質になる。精霊セルシウスはそう言い、事実己の姿を実体化させている。それを応用し、現在非物質となっているヴェラトローパの次元振動数を変化させ、物質化させる。これから行うのはその実験なんです」

 

「ヒ、ヒトの祖? 精霊? 遺構ヴェラトローパ?……」

 

突然まくし立てられた言葉にフレンは頭の上でクエスチョンマークを乱舞させていた。

 

「お話は聞かせていただきました」

 

と、そこにアンジュまでも姿を現した。

 

「あなたは?……」

 

「私はこのギルド、アドリビトムのリーダー。アンジュです」

 

「そ、そうでしたか! 私はガルパンゾ国騎士団で隊長を務めている、フレン・シーフォと申します」

 

「エステルとアスベルから話は聞いています。ですが、エステルはこれから行う実験に立ち会いたいそうなので。まず私からお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「は、はい……」

 

「では、こちらへ。エステル、実験が終わった後、食堂まで来てちょうだい」

 

「はい」

 

アンジュの言葉にフレンは頷き、アンジュに誘われて――ちなみにユーリも「暇だし、俺も行くわ」とついて行った――船内へと消える。それとほぼ同時にセッティングを終えたらしいハロルドは「んじゃ、ちゃっちゃと始めちゃうわね」と言って装置を操作、装置の上面にある球体が光を放ちながら、キンキンキンという音波を放つ。が、その光はやがて消え、音波も聞こえなくなっていった。

 

「……何も起きないわねぇ。触媒が足りなかったかしら」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「きゃあああ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

ハロルドが呟いた次の瞬間、突然そんな悲鳴が聞こえてきたと思うとドシィンという音と共にバンエルティア号が揺れた。

 

「今の音、なぁに?」

 

「さあ? そんな事より、その装置はまだ手を加えないといけないんじゃないの」

 

「やっぱ、もうちょっと改良が必要ね。じゃあ、撤収撤収~」

 

科学者二人組はそんな悲鳴や揺れを気にも止めず、装置の改良が必要だと結論づけるとさっさと撤収を決め、アスベル達はさっきの悲鳴や揺れを気にしつつ装置を再び科学部屋に運び入れようと、装置を持ち上げるのであった。

 

 

 

 

 

「星晶採掘により、生物変化現象を起こす謎の赤い煙が発生。それは人の望みを叶えながら成長し、ラザリスという自我を持ち行動を始めた……」

 

「ええ。そして、ラザリスの正体を知るためには精霊ですら知らない創世の時について調べる必要がある。ヴェラトローパにそのヒントがあるかもしれない。というのが現状の結論なの」

 

食堂。アンジュからの説明を受けたフレンは手を組んで顔の前にやり、考える様子を見せる。と、食堂のドアがプシュ、という音と共に開いた。

 

「失礼します」

 

エステルだ。彼女は食堂に入り、フレンの前に立つ。と、少し申し訳なさそうな様子で頭を下げた。

 

「ごめんなさい、フレン。私はまだ帰りません……植物や、魔物……それだけじゃない、たくさんの苦しんでいる人達を私はこれまで見てきました。彼らを、このままにはしておけません」

 

申し訳なさそうにそう言い、頭を上げると彼女は「フレン、分かってください」とお願いするような目で言う。

 

「ですが……」

 

「いいのか? 無理矢理連れてったところで、どうせまた飛び出しちまうぜ。その方がよっぽど危ねえんじゃねえか?」

 

エステルの言葉にフレンが反論しようとするが、ユーリが「このまま連れて帰ってもまたすぐ同じように飛び出してしまうだけだ。そっちの方が危ないんじゃないか」とエステルを援護する。それにフレンはまた黙り込み、再びしばらく考えた後、こくんと頷いた。

 

「……分かりました」

 

「フレン!」

 

「ただし、条件があります」

 

フレンからの言葉にエステルはぱぁっと顔を輝かせる。が、フレンがそう追記するとエステルの表情が再び僅かに曇る。それをちらりと見た後、フレンはアンジュの方を向き直した。

 

「アンジュさん。僕もギルドのメンバーに正式に加えてはもらえないでしょうか?」

 

「「えっ!?」」

 

フレンからの真剣な表情での言葉にアンジュとエステルが驚いたように声を上げ、ユーリもその台詞は思いもよらなかったのか目をパチクリさせる。

 

「おいおい。正気か?」

 

ユーリの言葉にフレンは首肯、「確かに星晶採掘に関する各国の不穏な動向、不可思議な現象は僕も気になっていた」と話し、さらに「国からは、エステリーゼ様の安全確保が最優先任務として言い渡されている」と続ける。どうやら騎士団の事は副官に任せていき、自身はギルドでユーリ達と共にこれからの戦いに挑むつもりのようだ。

 

「任務ねぇ……」

 

その一連の事を「任務」と称するフレンにユーリはそう声を漏らし、フレンはさらに「任務である以上、事の真偽が明白になり事態が落ち着いてきたらエステリーゼ様には国へ戻っていただく」と条件を付け加える。それにユーリはやれやれと息を吐いてエステルを見た。

 

「とんだ屁理屈も考えたもんだ。どうするんだ、エステル」

 

「私はそれで構いません。じゃあ、これからはまたフレンと一緒にいられるんですね」

 

「そういう事になりますね。これからよろしくお願いします。エステリーゼ様」

 

ユーリはエステルに判断を任せるらしく、エステルとしてもフレンと一緒にいられるのならと快諾。フレンも爽やかに微笑んで頷いた。

 

「うん。こっちもガルパンゾ国騎士団の隊長さんなら実力もあるだろうし、ありがたいわ。じゃあ早速フレン君のギルドへの登録手続きを始めないと」

 

アンジュも新たな心強い戦力に嬉しそうに微笑み、フレンのギルドへの登録手続きを始めないと。と席を立つ。

 

「あ、アンジュ様。こちらにおられたのですか」

 

「ロックス、どうかしたの?」

 

「はい。先ほど、人が空から落ちてきたんです」

 

「人が落ちてきた?」

 

ロックスからの報告にアンジュは呆けた声を出し、ロックスはええ、と頷くと「展望室の上に落っこちてきたようです」と詳しく説明する。

 

「ロックス。さっきの人達を、医務室へ運んだよ」

「大きなケガとかはないようだ」

 

と、ロックスに後ろからカノンノとカイが声をかけ、それを聞いたロックスは安心した様子で微笑む。きっと後はこの船の船医であるアニーが診てくれることだろう。

 

「まあ、空からだなんて珍しい客ね。って、カイとレイもだったか」

 

「ええ、まあ」

 

アンジュの言葉にカイは苦笑する。アンジュは「最近どんな客が来ても動じなくなったなぁ」とぼやきながら、空からの珍客に顔を出してこようかなと呟く。カイ達もついでについて行こうという事になった。

 

「はい。皆さん大丈夫ですよ。幸い、軽い傷で済みましたから。それにしても、空から落ちてくるなんて……」

 

「はい。私達は……ある人と戦っていたはずなんですが……」

 

アニーが診察終了、軽い傷だけで特に問題もないという判断を下した後、空から落ちてきたという彼らがこの船にやってきた経緯を呟くと、茶髪にふわふわとした淡い桃色の服を着た少女がそう言い、次に金髪ツンツン、どこかスタンに似たような雰囲気を見せる少年が「急に地面が無くなって一瞬眩しい光に包まれたと思ったら、この船に向かって落下してたんだ」と説明する。

 

「なあ……これって、やっぱり夢なんじゃねえのか?」

 

と、銀色の髪を短く切った色黒長身の青年が突然そう言い、アニーも突然そんな目に遭っては戸惑ってしまうのも当然。と彼の言葉に頷く。

 

「いいえ、お嬢さん! このロニ・デュナミスが今抱く戸惑いは……」

 

と、青年――ロニは真剣な表情に真剣な声色でアニーに目を向ける。

 

「あなたのような美しい方の元へと辿り着いてしまった事です!!」

 

「……はい?」

 

ロニの言葉にアニーはそんな声を出し、金髪少年と茶髪少女、そしてもう一人いる少年――黒色の短髪という髪型に服装も真っ黒。頭には竜の骨で出来ているのであろうか仮面を被っているためよく見えないが、その顔はどこかで見覚えがあるように思える。とカイはちらりと思う――は呆れたように頭をかき、目を閉じ、顔を伏せる。

 

「ひょっとして、頭を強く打ったのかもしれませんね。ハロルドさんに見て貰った方がいいと思います!」

 

アニーはロニのナンパの意味をそう解釈したのか慌てて医務室を飛び出す。多分本当にハロルドを呼びに行ったのだろう。

 

「あ、ちょ、ちょっとお嬢さん!?」

 

ロニはアニーが消えていった扉に向けて手を伸ばし、数瞬――時間にして十秒経ったかどうか程度――の後に扉が再び開く。

 

「はいは~い♪ 脳ミソ見て欲しいのはどちらかしら? 開頭術、穿頭術、好きな方選んでいいわよ~」

 

そして医務室に、両手にドリルを握りギュインギュイン回転させながらハロルドが入ってくる。その言葉に対しロニも引きつった笑みで「その両手に持っているドリルはなんでしょ?」と尋ね、その後血相を変えた様子で「大丈夫です!」とハロルドに向けてアピールするが実験体を見つけたハロルドが本気の目に怪しげな笑みを浮かべてじりじりと近づくと「っつうかお前ら助けろよ!!」と連れの少年達に助けを求めながら「うわああああ!!!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

「その様子だと、みんな無事のようね。とりあえず、一安心かな」

 

ロニが医務室を出ていき、ハロルドがその後を追っていくとアンジュは残る少年達に向けてそう言い、自らの所属、つまりアドリビトムのリーダーであることと自身の名を名乗った後、少年達に名を尋ねる。

 

「俺、カイル・デュナミス!」

「わたしはリアラ。そして、今部屋を出ていったのはロニです」

「僕はジューダスだ……」

 

最初に金髪ツンツン少年が無邪気な笑みを浮かべて名乗り、次に茶髪少女が自分の名を名乗った後、ロニの名前を改めて紹介。最後に仮面の少年が寡黙に名を名乗った。そしてリアラが「落ちたのが船の上でよかった」と安堵する。と、アンジュが「それについては謝らなきゃね。どうやら私達のせいのようだから」と彼らに言う。それからアンジュはリタのハロルドの見解なんだけどと前置きをした後、「次元チューニング装置の不具合のせいで、あなた達をこの船に呼び寄せてしまったらしいの」と説明する。そしてアンジュはカイル達が希望する場所に送ろうと思うんだけど、と提案。希望する行先は? と尋ねる。

 

「えっと、ここからだと……どう説明すればいいかな」

 

「世界樹から、どの方角かでもいいんだけど」

 

海の上では土地勘もないのか、カイルが困ったように呟くとアンジュが世界のどこからでも分かるのだろう。世界樹からどの方角かでもいいんだけどと言う。

 

「世界樹って?」

 

と、カイルが不思議そうな声でそう聞き返した。それにアンジュも首を傾げて「世界樹は世界樹よ? あなた達、知らないの?」と尋ねた。

 

「……まさか、とは思うが。ここは僕達の世界じゃないんじゃないか?」

 

「そういえば、さっき上で見た世界地図。私達の世界のものとは違ってた。でも、そんな事って……」

 

ジューダスが呟き、リアラもさっき自分が見た世界地図が私達の世界のものとは違ってたと気づく。

 

「だったら、元の世界へ戻してくれ。呼び寄せたと言うのなら、戻す事くらい出来るだろう」

 

そしてジューダスが当然ながら元の世界に戻してくれと要求。しかしアンジュは「ハロルドさん達に聞かないと……」と歯切れの悪い返答を見せた。

 

「カイ、研究室へ行って、このことを話してきてくれる? 私はまあ、念のために部屋を用意してくるから。お願いね」

 

「あ、はい」

 

「俺達も行くよ」

 

アンジュが微笑み両手を合わせてお願い、カイが素直に頷くとカイル達も同行すると言い、彼らは科学室に向かう。

 

「元の世界に戻せって言ってもねえ。ま、いずれ戻れる様にはしてあげる」

 

「すぐには戻れないんですか?」

 

ロニを追いかけるのに飽きたのか科学室に戻っていたハロルドの言葉にリアラは悲しげな表情で問う。それに対しハロルドもどういう仕組みであんた達の世界と繋がったのかが分からないからまずはそこから調べないといけないのだと返す。

 

「まずいな……こうしている間にも、“あの男”が多くの者を殺めてしまう……」

 

と、ジューダスが仮面の奥で神妙な表情を見せながらそう呟いた。

 

「あの男?」

 

「とにかく、強いものがいると聞けば戦いを挑むというめちゃくちゃな奴だ。腕の立つ者は目を付けられて、皆命を奪われた」

 

「そいつが、俺の父さんを狙ってるって分かって、それを止めるために旅をしていたんだ」

 

カイがジューダスの台詞の一部に反応をするとジューダスはそう言い、カイルも真剣な目でそう言う。

 

「全く……やっと奴を探し出して、あと少しで倒せていたかもしれないというのに……」

 

「そんな……ごめんなさい」

 

「あ、いえ! あなた達のせいじゃ……」

 

ジューダスの悪態にカノンノが頭を下げるとリアラがわたわたとなる。

 

「まー、そりゃ悪かったけど。無理なもんは無理なんだしさ。そのうち戻してあげるから、それまでここのギルドで働いてればいいじゃない」

 

「そうするしかないみたいね、カイル」

 

「うん。俺、ギルドの仕事って一度やってみたかったし」

 

ハロルドの言葉にリアラはカイルに向けてそう言い、カイルも快諾するとリアラは一つ頷いた後、ハロルド達に顔を向ける。

 

「それじゃあ、私達、しばらくここでお世話になります。これから、よろしくお願いします」

 

「ハイハイ、よろしく~」

「よろしくね」

 

礼儀正しくぺこりと一礼、ハロルドとカノンノも頷いて返した。

 

 

 

 

 

「ぬぅぅぅぅぅ……」

 

一方その頃、どこかの洞窟の奥地であるだろう場所。青いウェーブがかった髪を伸ばし、左手に巨大な斧を握った男性は辺りを見回す。

 

「あの小僧ども、どこへ消えた……待てよ……俺は何故、こんな所にいる? ここは……どこだ?」

 

男性は低い声でそう声を漏らしたのであった。

 

 

 

 

 

一方カイル達はカイ、ハロルドと共にアンジュに挨拶しようかとホールへと出る。ちなみにカノンノはアニーに医務室を片づける手伝いをお願いされて医務室へと向かった。と、甲板の方からスタンとルーティがやってきた。

 

「あら、新入り君? よろしく。あたしは、ルーティ・カトレットよ」

「ああ、新しいメンバーだね。俺はスタン・エルロン。一緒に組む時はよろしくな!」

 

「ル、ルーティ……さんっ!?」

「ウソ……」

 

ルーティとスタンの姿を見たカイルとロニが硬直、ロニは素っ頓狂な声でルーティの名を呼び、カイルに至っては呆然とした様子で、その口からは「ウソ……」という声が漏れ、スタンが「名乗るだけなのにウソなんか言わないよ」と不思議そうな表情で首を傾げた。

 

「あ、いやっ。あ、なんでもありませ……いやっ、なんでもない!」

 

ロニは慌ててそう言った後自分とカイルの名を紹介、よろしくと言うものの声がかなりどもっている。

 

「ははっ、緊張なんてしなくていいよ。ここのみんなは、気さくでいいやつばかりだから」

 

ロニがどもっている理由を緊張と思ったスタンが穏やかに笑いながらそう言い、ルーティが「報酬が多い仕事する時は、あたしを呼んでね~」と言って二人は歩き去っていく。

 

「若かったけど……今のは父さんと母さんだった……別の世界に……父さんと母さんが存在していたなんて……」

 

カイルが呆然とした様子でスタンとルーティを見送り、やはり呆然とした様子で呟く。

 

「あんた達、違う世界から来たのよね? でも、あんたの両親がここにいる……ふ~ん」

 

「ハロルド、これってどういう事?」

 

ハロルドが呟き、カイルが問うがハロルドは「そんなの分かんないわよ」と言う。仮説を立てるにしても様々な事が考えられる。とのことだが、彼女はカイルに対し「あんたが二人の子供であることは伏せておくべきだ」と忠告。カイルが「なんでだよ!」と言うとハロルドは「あの二人の未来はまだ決まっていない、その不確定の未来に干渉するべきではない」と述べる。

 

「ヘタしたら、この世界でのカイルが生まれなくなるかもしれないんだから」

 

「カイルが……生まれなくなる!?……」

 

「だから、あんた達同じ世界の者同士にしかこの話はしないでおいて。それと……」

 

ハロルドの言葉にロニが絶句、彼女はそう結論づけた後カイの方を見る。

 

「あんたも、この件については誰にも言っちゃダメだからね」

 

「りょーかい」

 

ハロルドからの釘刺しにカイも飄々とした様子で、しかし目は真剣な様子を見せながら頷いた。

 

 

そしてアンジュがカイル達の部屋を準備し、カイはカイル達の部屋の掃除と荷物――と言っても突然強制的に連れてこられた形のため各々の武器とその手入れ用の道具、あとは野営セット等の冒険必需品や各々の私物程度だったが――を纏める作業の手伝いをした後、再びホールへと上がる。

 

「一つ、アドリビトムに依頼があるのだが」

 

そこでは丁度、ユージーンを始め、ヴェイグにティトレイ、アニーがアンジュと話していた。

 

「どうかしたか?」

 

「おぉ、カイ。ちょうどいいや、お前も聞いてってくれ」

 

カイが声をかけるとティトレイがそう言って手招き、カイはアンジュ達の近くに立つ。それからユージーンが話し出すが、要約すれば「村近辺の星晶採掘が終わり、ヘーゼル村の働き手も解放されると思ったのだが皆遠くの土地の星晶採掘のため帝国に連れて行かれてしまい、強制労働を強いられている」とのことで、アンジュは「サレという人の仕業ね……」と哀しげな目で呟く。ティトレイも「土地のマナ不足は深刻で、村に残ってる者ももうあの土地では生活していけない。そこで村の皆と話し合って、多少不便でもマナの恵みのある土地で村を立て直すことにしたんだ」と話し、次にアニーも「キールさんが研究しているオルタ・ビレッジの構想を取り入れれば、また村人は豊かな生活を手にすることが出来るでしょう」と話す。さらにヴェイグが話すが、「村人と、強制労働のために連れて行かれた者を連れ、新たな土地へ移動するためにカダイフ砂漠を越える。アドリビトムには村人が無事に砂漠を越えられるよう、魔物の討伐を頼みたい」ということだ。

 

「分かりました」

 

「アンジュさん、俺が行きます」

 

「そう言ってくれると思ったぜ、カイ! ヴェイグとユージーンは帝国に連れて行かれた村人を救出するために船を出ちまうし、俺とアニーはヘーゼル村に残された皆を連れて砂漠に向かうんだ。俺達全員船を出ちまうから砂漠での魔物討伐には参加出来ねえ……すまねえが、頼む!」

 

「任せろ」

 

アンジュが依頼の受諾をすると共にカイが名乗り出、ティトレイは仲間にきつい仕事を押し付けてしまう事に対し眉間に皺をよせ、勢いよく頭を下げる。それに対してカイは言葉少なく「任せろ」と返し、カイとティトレイは互いに深く握手をし合った。

 

「きっとすぐ、他にも名乗り出てくれるわ。皆、今回は船の事は気にしないで、村の人達のために頑張って。皆の無事を祈ってます」

 

「はい。ありがとうございます。では、行ってきます」

 

アンジュは祈りを捧げるように両手を組んでそう言うとアニーがお礼を言って皆で一礼し、ヴェイグ達は下船していく。そしてアンジュは緊急依頼の紙を貼り出し、カイもその依頼についてきてくれるメンバーを探すためホールを後にした。




《後書き》
さて、今回最初の方に登場ゼロス・ワイルダー。MP文庫時代にはカイの悪友兼お兄さん役をしておりました存在です。まあカノンノとかにセクハラ交えたからかいをしてカイとかにぼこられる役でもあるんですけどね。
で、今回は長くなってしまったような気がしますが、フレン登場、D2メンバー仲間入りイベントと続いて緊急依頼の手前で終了となります。一応既にメンバーなどは決定してますけどもここら辺がきりがいいと判断しました。
最近色々忙しくなって投稿ペースが落ちてきていますが、頑張って続けていきたいと思います。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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