テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「……」
バンエルティア号の船倉を利用した乗員の船室。その一室で生活をしている少女は己の武器である銃を解体し、手入れを行っていた。
「……」
手入れの合間、彼女は右目に着けている眼帯にふと手を触れると何か考えるような物憂げな表情を見せる。と、部屋のドアが開いた。
「あ、レイ」
「カノンノ……」
「武器の手入れ中だった? ごめんね、邪魔しちゃって」
入ってきた少女――相部屋をしているカノンノだ――に少女――レイがその名を呼ぶとカノンノは武器の手入れを邪魔したことを謝る。
「いや……ただの暇潰しだ」
が、レイはそうとだけ言って銃を組み立て直し、ホルスターに収めると立ち上がってホルスターを腰の後ろに、銃が横向きになるようにセットする。そして二、三度素早く抜いて構えのポーズを行い、納得がいったのかよしと頷く。
「ところで、何か用か?」
「あ、うん。暇なら一緒にお菓子食べないかなって。ロックスがクッキー焼いてくれたの。でもカイってば新しく入ってきた人と模擬戦やってて、皆それに夢中なの」
「そうか……なら行こう」
レイの問いかけに対しカノンノはそう言い、レイはこくんと頷くと長く伸ばしている金色の髪をふわりと揺らしながら部屋を出て行こうとする。
「……レイ、ちょっと止まって」
「?」
カノンノはその髪をじっと見てふとレイに止まるように言い、レイもぴたりと足を止める。そう思うとカノンノはレイの手を引いて自分が髪型を整えるのに使っている鏡の前に彼女を立たせた。そして髪の頂点から左右に分けた部分を結んだ所謂ツーサイドアップになっている髪型の、髪を止めているヘアゴムを解くと少し櫛を当てる。
「……なんだ?」
「ううん、ごめんね……レイの髪って綺麗だから。たまには他の髪型にもしてみたらどうかなって思って」
櫛で髪をとかしながらそう言い、カノンノはレイの金色の髪を手で持ち上げる。
「……レイの髪って、先っぽが青っぽいよね」
「……我が知っている時からずっとそうだ」
カノンノの言葉通り、レイの髪の色は綺麗な金色だが先の方だけが何故か青っぽくグラデーションがかかっている。それに対しレイもそう答え、カノンノも「そうだよね」と頷く。
(なんだろう……なんだか、ラザリスを思い出すような気がする……)
彼女も銀髪だが毛先は赤っぽいグラデーションがかかっていた、とそんな特徴を思い出してカノンノはそう考える。が、レイが「カノンノ?」と声をかけてくると彼女も「ごめんごめん」と誤魔化し笑いをしながら返し、レイの髪を持ち上げて結い上げる。所謂ポニーテールの髪型だ。
「簡単だけど、こんなのでどうかな?」
「ん……ありがとう」
もさもさと髪を触りながらレイはお礼を言う。彼女は髪型自体にはあまり頓着していないらしく――実際毎日ツーサイドアップに髪を結ってはいるもののなんとなく気分でやっているらしく鏡すら見ていないためたまに左右の結び目や髪の量が見て分かるほど合っていなかったり酷い時はぐちゃぐちゃでその場合気づいたルビアやファラ達が直している――ポニーテールを触っているのも普段と違う髪型が気になっているだけのようだ。
「じゃあ行こっか」
「ああ」
カノンノはレイの手を引いて部屋を出ていき食堂へと向かう。
(今日も平和、というやつか……それが続けばいいのだがな……)
なんとなく、レイはそんな事を心中で呟いた。
一方甲板。カイは先ほどカノンノが言っていた通りここで模擬戦を行っていた。
「はああぁぁぁっ!!」
「せやぁっ!!」
キンキンキンと目にも止まらぬ速さの剣劇がぶつかり合い、カイとその相手である男性は剣をぶつけると鍔迫り合いに持ち込む。そして互いに弾かれたように距離を取るとカイは刀を右手に逆手で握り、相手の男性も剣を右手に、鞘を左手に握ってまるでメイン武器を順手、サブ武器を逆手という疑似的な二刀流のような独特の構えを見せる。
「にっししし。ガイー、負けんなよー! カイって剣だけは強ぇからよー!」
観客であるルークが口の悪い応援を行う。カイの模擬戦の相手は数日前にアドリビトムに加入した青年――ガイ・セシル。元はルークの屋敷に世話になっている使用人でありルークの親友的存在で、クーデターによってルーク達が国を脱出した後、ガイも別ルートで国を脱出。どうにかこうにかあった後ルークの所在を見つけ、はるばるバンエルティア号までやってきたのだ。ちなみに、それを知ったルークが「こっそり迎えに行って驚かせてやる! カイ、お前案内人兼護衛な! この俺の従者が出来るんだから光栄に思えよ!」とお忍びという名の勝手な外出で砂漠に向かい、ガイと合流する前に色々あったのはまた別のお話。
「苦無閃!」
「おっと!」
カイが左手を懐に入れて苦無を投げつけるが、ガイはそれを鞘で弾きながら突進。剣を振りかぶる。
「はぁっ!」
「っと!」
袈裟懸けに振り下ろしてきた剣をカイはとんぼ返りでかわすが、カイが着地する頃にはガイは刃を返してさらに斬りかかってきていた。
「くっ!」
予想していたよりも早い連撃にカイは一瞬焦り逆手に握っていた刀で剣を防ぐ。
「はぁっ!!」
「づっ!?」
しかしガイは左手に握っていた鞘でカイの右腕を殴り、カイが痛みに呻いた隙に剣を振り切って刀を弾き飛ばす。
「弧月閃!」
「くっ!?」
水面に移る月さえも斬り裂くかのような鋭い斬撃、カイは素早く身を引いてそれをかわすが弾き飛ばされた刀からは離れてしまい、さらにガイが一歩踏み込む。
「獅子戦吼!!」
鞘を振り上げると共に獅子の闘気がカイを吹き飛ばす。完全に刀を取りに行ける状況ではなくなってしまい、カイはチッと舌打ちを叩くと邪魔になる刀の鞘を捨て、短刀を引き抜いて右手に順手で構える。
「魔神剣!」
先手を打つのはガイ。剣を剣先で地面を擦るように振り上げて地を這う衝撃波を放つ。カイはそれをかわし、左右に素早く動いて的を絞らせないようにしながらガイに突進、ガイに近づいて来たところで急激に加速する。
「牙突衝!」
叫びと共に突進の勢いを込めて素早く短刀を突き出すがそれをガイは左手の鞘で防ぎ、受け流す。しかしガイが追撃を試みる頃にはカイはその加速突進の勢いを使ってガイから離れていた。
「つっ……」
思った以上の速さの突進にガイは戦慄し、速さに翻弄されてメイン武器である刀を取り戻されたらまずいと判断したのか、カイの挙動に注意を払いながらそろりそろりとカイの刀の方に動いていく。そして斬り合いの隙に取られないように刀自体からは距離を取りつつ、しかしカイが刀を拾おうとすればその隙に斬り込んで制圧ができる程度の距離を保ってガイはカイを睨みつけ、剣を向ける。その間カイは一歩も動かず短刀を口に銜えた状態で両手を組み指を動かし、つまり印を組んでいた。
「忍法、影分身の術!」
印を組み終えると同時にカイからマナが放出され、二人の分身が姿を現す。全員ご丁寧に短刀を銜えている状態も再現されていた。
「なっ!?」
いきなり相手が三人に増え、ガイは絶句した後分身二人に時間稼ぎをされてはカイに刀を拾われ不利になると判断したのか自分からカイに斬りかかり、カイも分身と共に短刀を握り直すと真ん中のカイが懐から何かを地面に叩き付け、同時にそれから煙が発されてカイ達を包み隠す。煙玉だ。
「くっ!」
相手の姿が隠され、ガイが警戒を強めるといきなり煙の中から三人のカイが飛び出してガイめがけて突進、ガイも鋭く素早い剣術でカイ三人を同時に相手するがその激しい波状攻撃に押されていく。
「しょうがない!」
ガイは剣を振るってカイ達の攻撃を弾きながらふぅっと息を吐く。
「俺の本気見てみるか!?」
剣を一振るいすると同時に彼の身体を凄まじいオーラが包み込む。
「「はああぁぁぁっ!!!」」
既に残る二人のカイは短刀を手に突進してきている。しかし同時ではなく微妙にタイミングをずらしている。
(先頭の方で防いで、二人目で仕留めるってわけか……つまり!)
高速での突進に焦って一人目を防ぐ、あるいは返り討ちにしたら間髪入れず後ろのもう一人が止めを刺してくる。つまり一人目は囮だ。そう予測したガイはオーバーリミッツにより一時的に限界を超えた動体視力で一人目のカイの短刀を防ぎ、受け流しつつ二人目の方に突進、
「虎牙――」
飛び上がりつつの斬り上げで二人目のカイの短刀を弾き飛ばし、無防備にする。
「――破斬!」
そして斬り下げでカイを斬り倒す。が、その瞬間カイの姿が霧散した。
「なにっ!? (くそっ、まさかカイ、俺の思考を読んで裏をかいたのか!?)」
自分が囮と読んだのが外れたガイは焦り、背後から短刀を突き立てんと迫るカイの刃を限界を超えた速さで振るわれた鞘でしのぐ。
「牙連刃!」
リーチが短く軽い短刀の利点である切り返しの速さで構えを取り直し、連続してガイを斬りつける。それをガイは鞘で防ぎ、弾く。そして短刀の乱舞が止んだ瞬間ショルダータックルをカイにくらわせた。
「くっ!?」
「獅子戦吼!!」
ショルダータックルにカイが怯んだ瞬間、獅子の闘気をぶち込んでカイを吹き飛ばす。が、その瞬間彼が本物だと断定していたカイの姿が霧散した。
「なっ!?」
三人とも霧散し消滅、それすなわち三人全てが分身だったという事だ。
「はい、ご苦労様でした」
そして後ろからガイの肩の上に、彼の首筋を狙うように刀が置かれる。
「……煙玉で隠れている隙に、分身を一体増やしていたのか……」
「ご名答。そして三人の分身に煙を飛び出させてあたかも俺本人も一緒に戦っているかのように錯覚させ、お前の注意が分身達を向いている隙をついて俺は刀を拾いに行く」
「そして気配を消し、三人全てを撃破した俺が気を抜く、もしくはさっきのように驚きで動きを止めてしまう一瞬を狙っていた。というわけか……」
ガイはそう呟いて観客達を見る。全員、完全にガイがカイの策に引っかかった事に申し訳なさそうな表情を見せ、特にルークなんてティアに手で口を塞がれてもごもご言っていた。
「ご、ごめんねガイ。僕達が教えたら一発でばれるんだけど……」
「いや、一対一という前提の模擬戦で流石にそれは無粋だ。俺が油断していたよ」
クレスの申し訳なさそうな言葉に対しガイは己が油断していたと敗北を認め、剣を鞘に収める。そして刀を鞘に収めたカイに向き直った。
「やられたよ」
「ああ」
ガイの言葉にカイは気のせいか得意気な表情を見せていた。
「ふぅ……皆元気そうね」
「あ、アンジュさん」
模擬戦が終わったところに声をかけてくる女性――アンジュにカイが声をかける。
「あぁ、カイ。ちょっと悪いけど研究室でリタ達に装置の進捗状況を聞いてきてくれない?……さっきまで書類仕事で疲れちゃって、ちょっと休憩したいから」
「分かりました」
アンジュの言葉にカイは嫌な顔一つせずに頷き、船内に戻っていく。
「ディセンダーもあなたの言いなりね」
「あら、言いなりなんて酷いわね。教育の成果って言ってほしいわ」
セルシウスがやれやれと肩をすくめながらそう言うとアンジュは文句をいうように口を尖らせてしれっとそう言う。その姿にセルシウスはふっと微笑を見せた。
「はむはむ……」
一方食堂ではカノンノとレイがおやつタイムに入っていた。メニューはカノンノの言っていた、ロックスが作ってくれたクッキー……だけではない。
「それにしても意外ですね。まさかレイヴンさんがお菓子作りに凝っているなんて」
ロックスがあははと笑う。その言葉の通り、ロックスと一緒にお菓子を作っているのはおっさんことレイヴン。その言葉にレイヴンはにししっと笑う。
「お、なんだい執事君? おっさんがお菓子作りってのがそんなにおかしい? お菓子なだけに」
「あ、いえっ、申し訳ありません! 別にそういう意味で言ったわけでは……」
「でも、ユーリが言ってたけど。レイヴンさんって甘いもの苦手なんじゃないんですか?」
レイヴンのオヤジギャグを交えた台詞にロックスは生真面目に失言を謝り、次にカノンノがレイヴンに問う。
「ま、そうねぇ。甘いお菓子は女の子が大好物でしょ?」
「うん、そうだねぇ」
レイヴンの言葉にカノンノはレイヴン特製パフェを頬張りながら――ちなみに隣ではレイが口を挟むことなくパフェとクッキーに夢中になっている――こくこくと頷く。
「絶品スイーツが乙女のハートをとろかして、彼女は俺様にぞっこんってなもんよ」
レイヴンはダンディを気取っているかのような口調でそう言う。
「おかわり」
その瞬間レイがパフェのおかわりを要求する。
「お、レイちゃん! うんうん、やっぱ女の子には甘いお菓子よね~。どう、どう? おっさんにぞっこん?」
「レイヴンはどうでもいい。おかわり」
「……」
レイヴンは嬉しそうにレイに迫るがレイはレイヴンはどうでもいいと一蹴しておかわりを要求。レイヴンもしょぼんとなってパフェのおかわりを作り始める。その哀愁漂う後ろ姿にカノンノとロックスは苦笑を漏らすしか出来なかった。
「……あ、そういえばお嬢様。あの絵のことなんですけど」
「え、もしかして風景を知ってる人を見つけたの!?」
ロックスがふとカノンノの描く不思議な風景画の話題を出し、カノンノは思わず席を立ってあの風景を知っている人を見つけたのかとロックスに迫るが、ロックスは「いえ、そういうわけではなく……」と首を横に振る。
「その、セルシウス様に見せてはいかがでしょうか?」
「セルシウスに?」
「はい。セルシウス様は私達が知らない色々な事を知っておられるのでしょう? もしかしたら……」
「そっか! うん、そうしてみる! ご馳走様、ロックス!!」
ロックスからの提案を受けたカノンノはこくんと頷くと、ストロベリーとクリームたっぷりのレイヴン特製パフェと材料が余ったからと作ってくれたフルーツサンドウィッチに舌鼓をうっているレイをその場に置いて、いつも持っているスケッチブックを抱えて食堂を飛び出した。
「おっ、どうした、カイ」
研究室に入ってきたカイに声をかけてきたのはロニ。その足元には大きな箱が置かれている事から恐らく彼は荷物を運んできたのだろう。
「アンジュに頼まれて来た」
「アンジュも気を揉んでるんだな……無理もねえか。あれからほとんど進展してないしな」
アンジュから頼まれた、という言葉のみで目的を察したロニは腕組みをしてふぅと息を吐く。
「ん~……あと一歩ってところなのよね~。“アレ”さえあれば、いいんだけど」
「何か必要なのか?……なら依頼を出してくれれば取りに行くが?」
「ああ、俺も協力するぜ?」
ハロルドの言葉を聞いたカイが何か必要なものがあるらしいと思い取りに行くと言い、ロニも協力を申し出る。それにハロルドは「取りに行く、ねぇ……」と漏らした。
「取りに行けるもんならいいけどさぁ……」
「ヴェラトローパを出現させるためには、ヴェラトローパのドクメントが必要なのよ」
ハロルドに続いてリタが説明、それにロニが「おいおい」と言いながら額を押さえた。
「ミもフタもないだろ……それが分かったら苦労しねえよ。見たことも触った事もないもの、探せるわけねえもんなあ」
「確かに。俺達が干渉できない別次元にあるから出現させたいのに、その別次元にあるもののドクメントが必要ってのはな……軽く矛盾してるじゃねえか」
ロニの言葉に続いてカイが矛盾を指摘、リタもそれは分かっているのかこくんと頷きつつも「ほんの一部でもいいから、ヴェラトローパの純粋なドクメントがあれば、ヴェラトローパの次元に共鳴させて干渉する事が出来る」と語る。
「もうちょっと考えてみるわ」
「無理すんなよな……寝てねえだろ」
ハロルドがぼさぼさの頭をかきながら呟くとロニが心配そうにそう言う。確かにハロルドの目の下には若干のクマが目立つ。だがハロルドは「あら!」と言ってにぱっと微笑んだ。
「こんな面白い事なんだもの、寝てる時間も惜しいわよ~♪」
「まあ、ならいいけどよ……身体壊す前にちゃんと休めよ?」
心の底から楽しそうな様子を見せているハロルドにロニは言っても無駄だと諦めたのか一つため息を漏らし、しかし部屋を出る前にもう一度、身体を壊さないようにと注意を行っていた。
「ヴェラトローパのドクメント、か……」
「どっかにありゃあいいんだけどよ……ま、一応アンジュに報告しとくか」
カイの呟きにロニもそう言い、休憩を終えて仕事を再開しているアンジュの方に歩いていくと、カイル曰く「ロニにとっては死活問題」とのことであるナンパもそこそこにさっきリタの言っていた事を説明。しかしアンジュもそれはどうしようもないのか「そう……」と漏らすだけだった。
「あ、カイ!」
と、食堂に続くドアの方から少女の呼び声が聞こえてきた。
「カノンノ……」
声をかけてきたのはカノンノ。その両手には愛用のスケッチブックを抱えていた。
「ねえ、カイ。セルシウスは甲板にいるかな?」
「ああ、さっきはいたぞ」
「うん、ありがと」
カノンノの質問にカイはさっきの模擬戦を思い出しながら頷き、カノンノはありがとうとお礼を言うと、「今まで描いた絵をね、セルシウスに見てもらうんだ」と言う。もしかしたら絵の風景に精霊の世界があるのかもしれないとカノンノは輝いた笑顔を見せるがしかし「いつものように知らないって言われちゃうだけかもしれないけど」と続けて苦笑する。
「……でも、不思議だな。これらの風景がどこかにあるって思えてるのが」
「確かに、不思議な事だ」
カノンノの言葉にカイもふっと笑って返す。
「皆に知らないって言われても、諦められないの……ホント、なんでなんだろうな。それに、どうして描かずにはいられないんだろ」
「まあ、まずはセルシウスに見てもらおうか。ついでに俺も一緒に行くよ」
「うん。ありがとう、カイ」
むむむ、と考え始めるカノンノに対しカイは苦笑して絵をセルシウスに見てもらうという最初の目的を思い出させ、今のところやる事もないためついでに自分も同行を申し出、カノンノもそれを承諾すると二人揃って甲板に移動する。模擬戦も終わり、甲板に残っているのはセルシウスだけだ。
「ねえ、セルシウス。ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど」
「何かしら?」
「私が、描いた絵なんだけど……この中に、知ってる風景ってあるかな?」
そう言ってカノンノはセルシウスにスケッチブックを見せ、セルシウスはそれらをぱらぱらと見ていった後、首を横に振る。
「いいえ……知らないわ。精霊は、この世界の事をヒトよりはわかるけれども。知らないものばかりね」
「そう……精霊にも分からないなら、やっぱりただの妄想だったのかな……」
セルシウスの言葉にカノンノは残念そうな、どこか悲しげな顔を見せ、セルシウスはその顔を見て少し申し訳なさそうな顔を見せながら、ぱらりとスケッチブックをめくる。
「これは!?……」
めくった先にあった絵を見たセルシウスが絶句する。そのページに描かれているのは球体状で硬質的な宙を浮かぶ城のような物体の絵だ。
「この風景、知ってるの?」
セルシウスの反応にカノンノが食いつく。と、セルシウスは「知ってるも何も……」と漏らしながらカノンノに驚いてる表情そのままの顔を向ける。
「あなた、これがヴェラトローパよ! ヒトの祖が地上に降りるまで過ごした……」
「本……当に?」
「その絵を持って、研究室の皆に見せなさい。ディセンダー。早く、カノンノを連れて研究室へ。いいわね?」
「あ、ああ……」
セルシウスの台詞にカノンノが驚きに声を失うとセルシウスは急いでカイに指示、カイもカノンノの肩を抱くようにして彼女を連れ研究室に移動する。
「この風景が、ヴェラトローパ?」
リタはカノンノが持ってきたスケッチブックに描かれているヴェラトローパの光景を見て驚きのまま言葉を口にする。
「しかし、カノンノがなぜそれを?」
次にウィルがカノンノに質問する。しかしカノンノは「分かりません」と首を横に振った。いつものように紙の上に風景が見えたのだとカノンノは述べ、リタは「どういうことなの?」と呟く。
「カノンノ、あんたのドクメントを見てもいい?」
次にリタはカノンノにそうお願い、カノンノも混乱しつつ「いいよ」と言った。そしてリタはカノンノのドクメントを展開、難しい顔を見せる。
「この頭上のドクメント……ハロルド、あんたのドクメントと比べたいの。いい?」
「オッケー」
何かに気づいたのかリタはハロルドにも協力をお願い、ハロルドも軽くオッケーと返しリタはハロルドのドクメントも展開する。と、リタは「やっぱり」と呟いた。
「カノンノの頭上に見えるドクメントは普通のヒトとは違う……」
リタが呟くとセルシウスはカノンノの頭上のドクメントに手をかざす。
「感じるわ。この中にヴェラトローパを……どうして、カノンノの中に?」
セルシウスの呟きにリタが「本当なの、それ!?」と叫び、次に気づいたように「さらに展開すれば、ヴェラトローパのドクメントが手に入る」と呟く。しかしドクメントの細かい展開は被験者の身体に負担がかかってしまう。リタはそれゆえに躊躇してしまっていた。
「ううん、続けて」
しかしカノンノは自分への負担を顧みず、続けてとリタに言う。ヴェラトローパを出現させるために必要なものが今自分の中にある、だったら少しの負担くらい大丈夫。という強い意思にリタも「分かった」と答え、「少し我慢して」と言うとカノンノに手をかざす。その時カノンノの頭上のドクメントがさらに細かく展開され、カノンノは気分が悪くなったのかふらつく。
「これよ。ヴェラトローパのドクメント!!」
セルシウスが合図を出し、リタはすぐにドクメントをコピーを始める。
「コピーできた! 可視化を解除するわ!!」
左手にコピーしたヴェラトローパのドクメントを抱えながらリタはすぐにドクメントの可視化を解除、するとカノンノの身体がぐらつき、華奢な身体が床に倒れ込みそうになる。
「っと!」
そこに素早くカイが割り込んでカノンノを抱き止めた。
「カノンノ! おい、しっかりしろ!!」
カイが呼びかけるがカノンノは「う、ん……」と力のない声を漏らすのみ、リタは「やっぱり、かなりの負担だったのね」と呟き、続けて「肉体とドクメントにズレが生じたのかも」と慌てたように声を漏らす。
「俺が医務室に連れて行く」
「私も一緒に行くわ」
「私はこのドクメントを使って次元チューニング装置の調整をするわ! カノンノがここまでやってくれたんだもん、絶対無駄にはしない!!」
カイはカノンノをお姫様抱っこの形で抱き上げて医務室に連れて行こうとし、セルシウスも同行すると言うとハロルドが「よーく休ませてあげて」と念を押す。リタもこのヴェラトローパのドクメントを使って次元チューニング装置の調整を開始。ドクメントの細かい展開は危険だったが、カノンノの協力によってヴェラトローパに行く手がかりが手に入った。
「アニー、ナナリー。ヴェラトローパの次元干渉が気になるの。カノンノは任せていい?」
「は、はい!」
「ディセンダー、行くわよ」
「了解した」
セルシウスの指示を受け、カイは彼女と共に医務室を出ていき、実験を行う甲板へと走っていった。
「ええ!? その“ヒトの祖”の遺構って、空にあるの!?」
甲板。カイが出てきた時に丁度、改良型次元チューニング装置を運んできた一人なのだろうシングはハロルド達の説明を受けて驚きの声を上げていた。
「でも、何もねえぞ?」
続けて運搬係の一人なのだろうロニが虚空を見上げてそう尋ねる。それに対しリタは「あるの」と確信めいた口調で言い、「何もないところから引っ張り出すのよ」と力強く続ける。
「空間が反応してる……カノンノにあったドクメントと呼応するように……」
次元チューニング装置を操作しているハロルドが静かに呟き「これを、私達と同じ物質の振動数に落としてやれば……」と言う。
「じゃあ、行くわよ!」
そう言って彼女は装置を操作、それと共に装置の上面にある球体が光を放ちながら、キンキンキンという音波を放つ。と、ピンク色の光が虚空に現れ、それが球体状に輝いたかと思うと、その光の中からカノンノが描いていたものと全く同一と言える建造物が姿を現していた。
「なんだ?……宮殿?」
「これが、“ヒトの祖”の遺構……ヴェラトローパ……」
シングが呟き、ジェイドが空中の宮殿――遺構ヴェラトローパの出現に驚きの声を漏らしていた。
「さてと! この世界の始まり、創世の時のヒミツを探りましょうか!」
ハロルドは目の前に玩具がある子供のように、無邪気な声を響かせた。
「……」
その頃食堂、レイはパフェを食べる手を止める。
「およ、レイちゃん? どしたの? お腹一杯?」
レイヴンがそう尋ねる。が、レイは無言のまま、コップになみなみと注がれていたミルクを一気に飲み干すと席を立った。
「御馳走になった」
そして彼女はそう言い残し、静かに食堂を後にした。
「ちょ、レイちゃん……」
レイヴンはそうぼやいてまだ半分ほど残っているパフェを見た。
「いっくらレイちゃんの食べかけつってもさぁ……おっさん、甘いもの苦手なんだよねぇ……」
レイヴンは頬を引きつかせながらそう呟いた。
「世界の始まり……か」
ホール。アンジュは目を閉じてそう呟く。
「その謎が、ヴェラトローパへ行けば分かるかもしれないのね」
アンジュは目を開いてそう言う。その目の前にはカイ、ジュディス、キール、ハロルドが立っていた。
「ラザリスの事をよく知るためにも、今回、あなた達には創世の時についての調査をしてきてもらいたいの」
「任せてください」
「ええ。しっかり働かせてもらうわ」
「世界の始まり……その謎を紐解けるのか……」
「ほいほい。しっかり調査してくるわ~」
アンジュの言葉に対しカイは真面目に頷き、ジュディスは妖艶に笑い、キールは科学者の卵として未だ誰も知らぬ謎の解明に立ち会えることに興奮し、ハロルドは飄々と微笑んでいた。
「待ってくれ」
が、それを遮る声が響く。
「レイ?」
「ヴェラトローパへの探索、我を同行させてもらいたい」
アンジュの呟きに対し食い気味でレイがそういう。それに対しアンジュは「いや、そんな事言ってももう四人決まっちゃったし……」と返す。
「……ヴェラトローパ……我はそこに行かねばならない……何かに、導かれている気がするんだ……」
レイは強い目を見せながらそう言い、その無意識化の威圧のようなオーラにキールがびくっと怯えたような反応を見せる。
「ふぁ~……」
と、空気を読まずに突然ハロルドが欠伸を漏らした。
「アンジュ、悪いけど私やっぱ寝るわ。私の代わりにレイをお願いできる?」
「え? あ、うん……まあ、ハロルドさんが良いんだったらいいけど……」
「んじゃ決まりね……ふあぁ~」
最近寝てないらしいハロルドは大欠伸をしながら部屋に戻っていき、ハロルドが立っていた場所にレイが代わりに立つ。
「え、えーっと、なんかいきなりメンバー変わっちゃったけど……とにかく、ヴェラトローパの調査、お願いね!」
「「「「了解!」」」」
アンジュの指示に対しカイ達四人は異口同音に返し、アンジュも「行ってらっしゃい」という言葉に対してもカイが「行ってきます」と返し、四人は甲板に出る。そしてバンエルティア号もヴェラトローパ向けて急上昇をしていった。
「……なんだ?」
ルミナシアのどこか。銀色の先に赤色のグラデーションがかかったような髪色をした、硬質的な格好をした少女は時空の乱れを感知して呟き、空を見上げる。その視線の先にはついさっきまでこの次元には存在していなかった宮殿が存在していた。
「へぇ……」
宮殿――ヴェラトローパを見上げ、少女――ラザリスは妖しげな笑みをたたえていた。
《後書き》
こんにちは、カイナです。最近スマホのテイルズオブアスタリアにはまってます。なのでというのもなんですけど限界突破をオーバーリミッツのルビ元に採用してみました。面倒でなければこれからも続けてみようかな。そしてレアガチャめんどい。正攻法で星霊石50個集めるの辛いわー。(無課金貫くと決めている)
さあ今回はヴェラトローパの出現です。カノンノは原作通り倒れ、カイ達はレイと共に次回ヴェラトローパの探索に入ります。ここら辺はもう大方の流れは決定してるので、後は細かい流れをきっちり決めていくだけですね。とはいっても最近忙しいのでいつになるのやらですが。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。