テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第二十二話 最凶の戦士との戦い

ブラウニー鉱山の奥地。塩水晶を採取しに来たカイ達の前に、カイルが追っていた存在――バルバトスが、彼もまた異世界からルミナシアに飛ばされており、彼らの前に立ちはだかっていた。

 

「貴様達はここで骸になるだぁけだぁ。逃げられるとは思うなよ。さあ、来い!!!」

 

バルバトスが声を上げたその瞬間、彼から殺気が膨れ上がる。そのあまりの殺気にエステルは「ひっ!」と悲鳴を上げる。

 

「エステル! 下がって援護に集中してくれ!!」

 

「は、はい!」

 

カイが指示を出し、エステルは詠唱を開始。それと同時にカイは地面を蹴り、瞬間、カイの姿が消える。

 

「む!?」

 

その次の瞬間には、カイはバルバトスの目の前に立っていた。その右手は腰に収められている刀の方にあり、既に抜刀の構えは完了している。

 

「せやぁっ!!!」

 

並の戦士ならば気づかぬ間に斬られる速さの斬撃がバルバトスへと迫る。

 

「ふんっ!」

 

「なにっ!?」

 

が、バルバトスはその刀をなんと武器を握らぬ右手で握り、止めてみせた。

 

「ぬるいわっ!!!」

 

「がはっ!!」

 

まさかの防御方法に硬直してしまったカイ目掛けてバルバトスは膝蹴りを入れ、カイが怯んだ隙に右手を刀から離すと彼の首を掴む。

 

「ぬぅんっ!!!」

 

「がっ……」

 

そしてそのまま腕力に任せ、カイを地面に叩きつけた。

 

「安心しろぉ。今日の俺は紳士的だぁ……楽に殺してやる」

 

嗜虐的な笑みを浮かべ、カイを見下ろすバルバトス。首を掴まれ、勢いよく叩きつけられたカイは意識が混濁しているのか何も返さない。

 

「……なんてな!」

 

と、思ったが突然カイが不敵に笑い、その直後カイの姿が霧散する。

 

「な、なにぃっ!?」

 

突然目の前から消えた敵に今度はバルバトスが驚く番だった。

 

「蒼破!――」

 

驚きに生じる隙をつき、カイルが風の衝撃波でバルバトスを襲う。

 

「――追蓮!!」

 

しかしそれだけには留まらず、さらに斬撃をくらわせる。

 

「ぐぬぅっ!? 舐めるなぁっ!!」

 

連続攻撃に対しバルバトスが声を荒げ、近くにいるカイルを睨みながら斧を振り上げる。

 

「幽幻符!」

 

「ぐぅっ!?」

 

しかしカイルの後ろから走ってきたしいなが投げた符がバルバトスに貼りついた瞬間、彼は己の力が何かに吸い取られるかのように抜けていく感覚を味わい、その間にカイルとしいながその場を脱出。

 

「刃にさらなる力を! シャープネス!!」

 

そこにエステルが詠唱を完了、仲間に力を与える呪文を唱える。

 

「飛燕連脚!」

 

「ぐはぁっ!?」

 

そして背後から力を与えられたカイが空中を舞う連続蹴りをくらわせる。

 

「き、貴様、何故!?」

 

「影分身の術さ。俺、素早さには自信あるもんで」

 

自分が仕留めようとしていたはずの相手が元気に蹴りをくらわせてくるのを見たバルバトスが叫ぶとカイはそう種明かしを行なった。

 

「散力翔符!!」

 

「くらえ、フレイムドライブ!」

「煌きよ、威を示せ、フォトン!」

 

しいなが符を投げつけ、カイルが無数の火炎弾で追撃、さらにエステルが光の陣でバルバトスの動きを封じ、光の爆発で攻撃をせんとする。

 

「片腹痛いわぁっ!!!」

 

が、バルバトスは力ずくで光の陣を粉砕、地面を殴ると共にその周辺が突如腐食し禍々しいエネルギーが吹き上がって符と火炎弾を防いだ。

 

「くっ……」

 

バルバトスを囲むように吹き上がる禍々しいエネルギーに、カイル達に合わせて攻撃を仕掛けようとしていたカイも攻撃を躊躇してしまう。

 

「ぬううぅぅぅんっ!!!」

 

「っ!?」

 

と、バルバトスはその禍々しいエネルギーを突き抜けてカイめがけてショルダータックルをくらわせ、カイはそのタックルに激突し弾き飛ばされる。

 

「骨まで砕けろぃっ!!!」

 

さらに斧を振るい、しかしカイは刀でどうにか攻撃を受け流す。しかしバルバトスはさらに息をつかせぬ攻撃を仕掛け、その凄まじい重圧を見せる攻撃にカイは押されていく。

 

「ぬんっ!!!」

 

「がぁっ!!!」

 

そしてついに斧の一閃がカイを吹き飛ばし、カイは坑道の壁に、壁にヒビが入るほどの力で叩きつけられる。

 

「カイッ!」

 

「エステル! カイの治療を頼むよ! カイル! あたしらは時間稼ぎだ!!」

 

「分かった!」

 

カイルが叫び、しいなはすぐさまエステルに指示を飛ばし、カイルにもそう言って符を両手いっぱいに持つとカイルも剣を構えなおして頷いた。

 

「蛇拘翔符!!」

 

「ぬぅんっ!!」

 

しいなは符をバルバトス目掛けて飛ばし、そのほとんどはバルバトスが斧を振るう風圧で吹き飛ばされてしまうが、一枚だけがその風を潜り抜けてバルバトスに貼りつく。

 

「ぬ、ぐっ!? なんだ、身体が!?」

 

符に込められた言霊の呪いによりバルバトスの身体が重くなる。

 

「空翔斬!」

 

そこにカイルがジャンプし、勢いをつけて斬りかかる。バルバトスも唸り声を上げてそれを防御するがその動きは鈍く、カイルはバルバトスの懐に入ると高速で剣を振り上げる。

 

「閃光翔墜!!」

 

その高速の斬撃が光となって渦巻き、バルバトスを吹き上げる。

 

「そこだ!」

 

さらに空中で身動きできないバルバトスに向けて剣を突き出すが、心臓を狙ったそれをバルバトスは左腕で防御する。

 

「ぬっ!!」

 

そしてその刃を右手で取り、握り締める。刃を鷲掴みにしたせいで彼の手が切れ、血が剣を伝ってカイルの顔に流れ落ちた。カイルの剣をしっかりと握り締められており、その怪力相手ではなかなか奪い返せそうにない。

 

「ぬりゃああぁぁぁっ!!!」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

剣を離させようともがいている隙を突きバルバトスはカイル目掛けて回し蹴りを入れ蹴り飛ばす。その一撃にカイルは吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、バルバトスはカイルの剣を放り捨てると斧をしかと握り締めた。

 

「う、ぐ……」

 

カイルがダメージにもがいている間にバルバトスはゆっくりゆっくりとカイル向けて歩いていく。

 

「そうはいかないよ!!!」

 

が、しいなの叫びが響き、バルバトスは足を止める。

 

「あたしの力を見せてやる! はああぁぁぁ!」

 

しいなは限界突破(オーバーリミッツ)をしているのか凄まじいオーラを放っており、彼女が念を込めると共に、バルバトスが先ほど吹き飛ばし、地面に貼りついた符の一部が陣を形成。光を放つ。

 

「ぬううぅぅぅっ!? なんだこれは!? 身動きが取れん!?」

 

そして辺りに風が舞い踊り、それは強力な風の結界となってバルバトスを捕らえ、しいなはたんっと跳躍すると風をまとって空中を浮遊。目を瞑ってさらに念を込め、その念が最大に達した時、かっと目を開いた。

 

「風塵!! 封縛殺!!!」

 

そしてしいなの声が轟くと同時、風の結界がバルバトスを巻き込んで大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「命を照らす光よ、ここに来たれ、ハートレスサークル!」

 

一方、エステルはしいなとカイルがバルバトスの相手をしている隙にカイの方に走り、詠唱。辺りに癒しの力を放つ領域を展開してカイの回復を行っていた。

 

「悪い、エステル」

 

回復を終え、カイは立ち上がると近くに落ちていた刀を拾い上げる。

 

「風塵!! 封縛殺!!!」

 

しいなの声が轟くと同時、風の結界がバルバトスを巻き込んで大爆発を起こした。

 

「あ……ふぅ、よかった……」

 

エステルは誰の怪我もなく戦いが終わった事を安堵。

 

「……いや」

 

が、カイは静かに呟き、刀を構える。

 

「ぶるあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

直後、バルバトスの咆哮が響き渡った。

 

「なっ!? ウソだろ!? あたしの秘奥義を受けて動けるなんて……」

 

しいなは己の最大の攻撃を耐え切られたことに驚きを隠せず、その隙をついたバルバトスが突進、しいなの首を右手で掴んで持ち上げる。

 

「女ぁ、なかなかいい一撃だぁったがぁ……この俺の渇きを癒すにはまぁだ足りん!!!」

 

「ぐ、この、離しなっ!!」

 

「しいなを離せっ!!!」

 

首を絞められている形になるしいなは苦しそうな表情を見せながらもバルバトスに抵抗しようとしているが手足をばたばたさせるのが精一杯。カイルもダメージを押して、バルバトスが放り捨てた自分の剣を拾いバルバトスに斬りかかるがバルバトスも斧を振るい反撃する。しかも右手に力を込めているのかしいなは「ぐ、が」と苦しげな声を漏らしていた。

 

「く……」

 

下手に攻撃を仕掛け続けるとしいなの命が危ないと思ったかカイルは距離を取り、様子見に徹する。と、カイルの後ろから何かが飛び、それがバルバトスの足元に突き刺さる。

 

「イガグリ流忍術――」

 

カイルの隣に立つカイがそう呟いた瞬間、バルバトスの足元に刺さった何か――苦無の周辺の地面がひび割れる。

 

「――雷電!」

 

「ぐぬおっ!?」

 

地面から雷撃が飛び出し、突然の不意打ちにバルバトスが怯む。

 

「今だ、カイル!」

 

「ああ!」

 

カイが叫び、カイルは皆まで言う前に剣を構え突進、その時剣に風が纏われる。

 

「空破、絶風撃!!!」

 

「ぐおぉっ!?」

 

突風を纏った突きが隙を見せていたバルバトスを吹き飛ばし、右手に掴まれていたしいなも手放される。

 

「わ、っととと!!」

 

首を絞められて気絶してしまったのか何も反応せず投げ出されたしいなをカイルは慌てて剣を放り捨てキャッチ。

 

「カイル、戦線離脱して悪かった。今度は俺が身体を張る番だ」

 

「う、うん! しいなをエステルに渡して回復したらすぐ援護するから!」

 

前線に立ったカイにカイルはそう言い残すと気絶しているしいなを担いでエステルの方に走っていき、カイも目の前のバルバトスを睨みつけると印を組む。

 

「忍法、影分身の術」

 

その言葉と共に三人のカイがカイの隣に姿を現し、全員が刀を抜く。

 

「く、くくく……ちょこざいな。そのような小細工がなければ手も足も出ないか」

 

「ああ。一人じゃ敵いそうにないからな……時間稼ぎをさせてもらう」

 

バルバトスの挑発に対し本物のカイが呟き、構える。

 

「お前はカイルの父親、スタン・エルロンを狙っていると聞いた……仲間に仇名すものは許さん。ここで……葬る!」

 

カイが叫び、同時に本物のカイ、および分身のカイが一斉にバルバトスに斬りかかった。

 

「曼珠沙華!!」

 

「土竜閃!」

 

カイの一人が宙を舞いながら炎を纏う苦無を投げつけ、別のカイが地面に刀を突き刺し、岩の槍で遠距離から攻撃を仕掛ける。

 

「ぬるいわっ!!!」

 

対するバルバトスは斧の一閃で苦無を吹き飛ばし、岩の槍を砕く。

 

「飯綱落とし!」

 

「ぐぬっ!?」

 

しかし斧を一閃した隙を突いてまた別のカイが上空からバルバトスの背後に不意打ちを決め、バルバトスが後ろを睨みつける間に素早く引く。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

「!」

 

その隙に最後のカイが真正面からバルバトスに突っ込んできた。その右手には闇のマナが集中している。

 

「滅掌破!」

 

力と闇のマナを込めた掌底に加え、至近距離からの闇のマナの爆発。

 

「ぬぅん!」

 

「ぐっ!?」

 

が、バルバトスの頑強な筋肉の鎧には通じておらずバルバトスのカウンターボディブローがカイに突き刺さり、彼がふらついた瞬間バルバトスは右拳を振り下ろしてカイを地面に倒すと体重を込めて踏みつける。その瞬間カイの身体が霧散した。どうやらこのカイは影分身らしい。

 

「やってくれる……」

 

曼珠沙華を放ったカイ――恐らく彼が本物なのだろう――が悪態をつき、その隣に二人の分身カイが並ぶ。

 

「お待たせ!」

 

と、その後ろからカイル達が合流。武器を構えた。

 

「くっくくく、死にぞこないどもが集まったかぁ……まぁあいい」

 

バルバトスは笑いながらそう言い、斧を両手で持つとその先端をカイ達に向けてくる。

 

「こぉの一撃で沈めてくぅれよぉ」

 

「まずい! 皆、防御して!!」

 

斧の先端に禍々しい闘気が集中していき、その構えを見たカイルが防御を叫ぶ。

 

「……あの技が、あいつの切り札か?」

 

「……うん。少なくともあの技、まともにくらったら命はないよ」

 

闘気をチャージしているバルバトスを見ながらカイが尋ね、それにカイルが頷くとカイは少し考える様子を見せた後、影分身を消滅、そのマナを自らに取り込みながら三人を見た。

 

「……俺に考えがある」

 

そして三人に作戦を説明。三人は少し驚いた様子を見せつつもこくんと頷き、カイル、しいながカイを守るように経ち、エステルも詠唱を始める。

 

「くっくくくくく……何をするつもりか知らんがぁ……微塵に砕けろっ!! ジェノサイドブレイバー!!!」

 

バルバトスの声が轟くと共に禍々しい闘気が砲撃のように放たれ、巨大なレーザーとなってカイル達に向かっていく。

 

「堅牢なる守護を……バリアー!」

 

エステルが呪文を唱え、杖を掲げて光のマナを解放。障壁を作り出してジェノサイドブレイバーを阻む盾となる。

 

「く、うううぅぅぅぅっ!!!」

 

しかしそのエネルギーを前には耐える事すら難しいのか、エステルは目を瞑り、必死に集中してバリアーを維持していた。しかし、圧倒的な力の前に、ついにバリアーにピシピシとヒビが入り始め、ついにバリアーが粉砕される。

 

「衝弾符!!!」

 

しかし続けてしいなが目の前に特殊な符を投げつけ、結界を張ってジェノサイドブレイバーを防ぐ。

 

「う、く……こいつはきついね……」

 

しかしその結界の維持もバリアーと同じく長くは持ちそうにない。

 

「カイル、カイ……あとはあんた達に託すよ……」

 

「うん!」

「ああ」

 

しいなは少しでもジェノサイドブレイバーの勢いを弱めつつ、残る男子勢に後を託す。そして結界が破れた瞬間しいなは巻き込まれないよう後ろに下がり、ジェノサイドブレイバーの前にカイルが立つ。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

カイルはエステルのような魔術もしいなのような符術も持たない。ただ、己の剣を信じ、身体一つでジェノサイドブレイバーを防ぐ。ただ、耐える。己の身体を、剣を信じ、そして……後ろの仲間を守るために。

 

「うおああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ジェノサイドブレイバーを跳ね返さんとカイルは剣に力を込め、押していく。そして剣が振り抜かれ、ジェノサイドブレイバーは跳ね返すとまではいかずとも、逸らされた。

 

「カイ!!! 今だぁっ!!!」

 

カイルの叫びが響く。その後ろで、カイは限界突破(オーバーリミッツ)によるオーラを纏い、収めたままの刀に手をやって、前方にいるバルバトスを睨みつけていた。

 

「ぶるああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ジェノサイドブレイバーが防ぎきられたものの疲労困憊となっているカイル達を見たバルバトスは、己の斧で直々に引導を渡してくれようと足音を響かせ突進。

 

「葬る!!!」

 

その次の瞬間、バルバトスの視界からカイが消えた。

 

 

「な、に?……」

 

 

奴は、あの猪口才な剣士はどこだ? 俺の目の前にいるのは死にぞこないが三人、奴はどこに消えた?

 

 

「……一斬必殺」

 

 

後ろ? まさか奴は俺の目にも止まらぬ速さで俺の背後に回ったというのか?

 

 

「秘奥義」

 

 

ぽたり、ぽたりと足元から音がする。なんだ、この()()()()は?……腹から流れている……バカな、なんだこれは……どういうことだ?……。

 

 

「暗殺術――」

 

 

いつ、()()()()()()()()?……。

 

 

「ぐおおぉぉぉっ……」

 

「――滅殺」

 

背後でバルバトスが倒れる音、そして悲鳴を聞きながら、カイは既に鞘に収まっている刀に手をやり、静かに呟いた。

 

「し、仕留めた!?……」

 

しいなが思わず声を出す。

 

「クク、ククク……」

 

その直後、バルバトスはふらつきながら立ち上がり、振り返ってカイの顔を見る。

 

「いいぞ……いいぞ、いいぞ! いいぞ!! 貴様だ! 貴様が俺の渇きをいやす者!」

 

バルバトスの高笑いをしながらの言葉に対し、カイは無言でバルバトスを睨みつける。

 

「覚えたぞ、貴様の顔。次に相見える時は血祭りにあげてやる」

 

「そ、そうはいくか!」

 

バルバトスの言葉を聞いたカイルが満身創痍ながらも剣を構えて突進。

 

「それまで首をよーく洗っておくんだな。ククク……ハァーハッハッハッハッ!!!」

 

だがバルバトスは地面をぶん殴って禍々しいエネルギーを噴出、カイル達の足止めをしつつ自らの足元を崩しその場を逃げていった。

 

「とどめを、刺せなかった……」

 

カイルは剣をガシャンと落とし、膝をついて悔しそうに呟く。

 

「カイル……あまり無茶をするな」

 

カイルの近くに歩き寄ったカイが作戦も何も考えずにバルバトスに挑んだカイルを咎める。

 

「でも、あいつを倒さないと父さんが!!!」

 

それに対しカイルがカイを見上げ、必死の形相で叫ぶ。と、その頭を後ろからしいながぱしんとはたいた。

 

「全く、熱くなり過ぎだよ。あんなに見境なく突っ込んでたら、命がいくらあっても足りないね」

 

「……!!」

 

しいなの棘のある言葉を受け、カイルはようやく己の無謀さに気づいたのかうつむいた。

 

「ご、ごめん! 俺、みんなの事を考えて無かった……巻き込んで、ごめん……」

 

「いえ、巻き込まれた事は構いません。カイルの父親を守りたいという気持ちは分かりますし、私も協力はしてあげたいです」

 

「あたしも同意見さ。ただ、何でも闇雲に行くのはよしなって事さ」

 

カイルの慌てた謝罪に対しエステルはにこりと微笑みながらそう言い、しいなもうんうんと頷いて返し、カイルを諭す。それにカイルが「うん……」と頷くとしいなはぱんっと手を叩き、「じゃあこの話は終わりだ」と言って話を打ち切るとバルバトスと戦いをしていた中で多少削れてしまったものの、壁全面と言ってもいいくらいにある、水晶のように輝く空色の石を見上げる。

 

「ふぅ……用があったのはあのバルバトスって奴じゃなくてこいつだったのにね」

 

「それが塩水晶?」

 

しいなの言葉にカイルが尋ね、しいなは「そうさ」と頷くと戦いの中で削り取れた中でも大きな欠片をいくつか拾い上げる。

 

「これで依頼は達成。さあ、船に戻るよ」

 

両手いっぱいに欠片を抱えてしいなはそう言った。

 

 

 

 

 

「ご苦労様。今回は大変だったね。恐い人に目を付けられちゃって……」

 

バンエルティア号に戻り、依頼達成の報告を聞いたアンジュはねぎらいの言葉をかけ、一つふぅと息を吐く。

 

「各国も大変な状況みたい。ジルディアのキバが現れたせいで どこも大騒ぎよ」

 

「以前紛争が起きていた場所も、今は停戦となって、人々は結束し始めている様ですわ。あのキバの出現を目の当たりにする事で、争っている場合ではない、と気が付いてくれたのでしょう」

 

一緒にいたナタリアも嬉しそうに微笑み、報告。しかしその次には浮かない表情を見せた。

 

「ですが……この様な危機を迎える事でしか、人々は手を取り合う事が出来ないのでしょうか?……」

 

「そうね。でも、そんなに悲観的にならないで。手を取り合える事を『知る』その一歩が大事なんだから」

 

「……そうですわね」

 

哀しげに呟くナタリアに対しアンジュはそう元気付け、ナタリアもこくんと頷いた。

 

「じゃあ、皆。今回もお疲れ様。封印次元の材料になる残り二つが分かればまたお願いするかもしれないから、その時までゆっくり休んでて」

 

アンジュの言葉にカイが「はい」と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャクだねぇ、シャクだよ!」

 

とある一室。一見して貴族の部屋だと分かる豪奢な作りのそこで、一人の山羊のような頭をした獣人――ヤギのガジュマだ――が悔しそうに地団駄を踏んでいた。

 

「あの変なもののせいで軍の士気が下がりっぱなしだよ! このままじゃあアタシの計画に狂いが出る!!」

 

吐き出すようにヒステリックに叫ぶ獣人の女性。するとその時、突如コンコンとノック音が聞こえてきた。

 

「なんだい!?」

 

「ジルバ様、サレ様がいらっしゃいました」

 

「ああ、そうかい! 入りな!!」

 

仲介の兵士に対しても女性――ジルバは高圧的に叫び、扉がゆっくりと開いていく。と、部屋に紫色の髪を短く整えた男性――サレがにやりとした意地の悪い笑みを浮かべて部屋に入る。ちなみに部屋に入る前に武器は没収されたのか丸腰の状態だ。

 

「やあどうもマディガン様、ご機嫌麗しゅう」

 

「ハッ、心にもない事言うんじゃないよ! 反吐が出る!」

 

「それはどうも……それで、何のご用でしょうか?」

 

サレの心にもない台詞に対しジルバは吐き捨てるようにそう言い、サレはひょいっと肩をすくめ、ジルバの方から彼を呼んだらしくサレはジルバに用件を尋ねた。

 

「あぁ、そうだったねぇ……最近あんた、アタシの知らないところで色々動いてるらしいじゃないか?」

 

「ああ、その事でしたか……ええ。僕に傷を負わせた奴らをどうしても許せなくてね」

 

ジルバの追及にサレはくっくっと笑いながら返す。それにジルバはふんと鼻を鳴らした。

 

「あんた、アタシとの契約を覚えてるかい?」

 

「ええ、もちろんですとも。ウリズン帝国軍総大将、ジルバ・マディガン様……僕は好きなだけ戦場で敵とみなした存在を蹂躙してもよい。その代わり、僕はあなたの手駒となり指示に従う。でしたっけ? 世の中すべてギブ・アンド・テイク♪」

 

二人はお互いに相手の心中を見透かすような悪い笑みを浮かべて喋り合う。

 

「それにしちゃあ、あんた随分勝手に動いてるんじゃないかい? これは重大な命令違反だね。総大将直々の命令を無視するなら軍規違反として粛清が必要だね」

 

ジルバがそう言ってパチンと指を鳴らした瞬間、扉が開いて兵士が部屋になだれ込む。その全てが熊や鳥、犬など獣の顔をしたヒト――ガジュマだ。

 

「どういうつもりか、教えていただいても?」

 

「ふん、簡単な事さ。あんたの実力は買ってたんだけどね、あたしが育てていたガジュマ軍団にもあんたに匹敵する実力者が出てきた……もはや貴様のようなヒューマを飼っておく必要もなくなったのさ!! いかに貴様といえど、武器がなければこの数には勝てまい!!」

 

ジルバが叫ぶと共に兵士たちが一斉にサレに槍を向ける。

 

「さあ、朽ち果てろ! 私の世界にヒューマなど、いや、ガジュマ以外いらぬわ!」

 

高笑いしながらジルバは攻撃を指示、兵士達が一斉にサレに襲い掛かる。

 

「吹き荒れろ狂乱の嵐!! シュタイフェ・ブリーゼ!!!」

 

しかしその瞬間サレが右腕を掲げ、そう思うと強烈な嵐が部屋の中に吹き荒れ、嵐が吹き止んだ時にはサレとジルバ以外の兵士は全て戦闘不能に陥っていた。

 

「な、に?……ば、馬鹿な!? そんな強力な魔術を、何故そんなにあっさりと?……」

 

「ああ、これですよ。ここに来る前に拝借させていただきました」

 

ジルバが呆然とした様子で呟くと、サレはにやにやと笑って懐から何か――星晶を取り出す。星晶のエネルギーを利用し、強力な魔術を瞬時に使ったのだ。

 

「バ、バカなっ!? それは厳重にっ!?」

 

「ええ。まさか僕が国に納めていたつもりの星晶がジルバ様の懐に横流しされていたとは思いもよりませんでしたよ……と、いうわけで。これはウリズン帝国が押収させていただきました」

 

サレはにやにや笑いを消さずにそう言い、倒れている適当な兵士から剣を奪い取ると、それを引き抜いた。何をするかなど言うまでもない。

 

「ま、待てっ! アタシを殺せば貴様はもう後ろ盾を無くし、今までのように戦えなく、いや、軍に居られなくなるぞっ!! アタシが、お前の本来問題となる行動をアタシが揉み消してやっていたというのに!!」

 

ジルバが命乞いでもしているのか喚き始める。が、サレはそれをふんっと鼻で笑った。

 

「あなたは僕が用済みだと言っていましたよね?……僕もなんですよ」

 

サレは慇懃無礼にジルバに言い捨てる。それにジルバも「なっ……」と絶句した。

 

「もう軍なんてどうでもいい! それよりも、僕はヴェイグを、カイを、僕に屈辱を味わわせた奴らの心を踏みにじる方が大切なんだよ!!」

 

サレは口が裂けたかのような笑みを浮かべながら叫び、剣を振り上げる。

 

「やめろ、やめろおおおぉぉぉぉっ!!!」

 

直後、ジルバの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

「サレ様! 作戦完了いたしました!! ジルバ総隊長が秘密裏に貯蔵していた星晶、回収完了です!」

 

「ああ、ご苦労様」

 

サレがジルバの部屋を後にし外に出た時、一人の兵士が敬礼をしながら報告。サレが一応形だけ労いの言葉をかける。

 

「さてと。じゃあ、これはいただいていくよ? 後は手筈通りによろしくね?」

 

「ははっ! 了解いたしました!」

 

サレは手渡された星晶を入れた袋を受け取り、そうとだけ言い残すと兵士を置いて歩き出す。

 

「ヴェイグ……僕に屈辱を味わわせてくれたお礼はきっちりしてあげるよ……ふふふふふ……はーっはっはっはっは!!!」

 

ウリズン帝国の王城、そこを後にしながらサレは高笑いを続ける。突然強風が吹き始め、その風が止んだ時、サレの姿は消え去っていた。




《後書き》
今回はVSバルバトスと、オリジナル展開です。ここから色々とオリジナルの展開を繰り広げていく予定ですのでお楽しみに。と言っても今のとこある程度オリジナル展開を加えたストーリーの流れは完成してるんですが、そこにもうちょっと色々加えていきたいなぁとさらに考えているところなので……また次の更新はいつになるかです。いやこのすぐ後に行うオリジナルイベントは決めてるんですが……そのオリジナルイベントが終わった後がもう色々と……あはは。(苦笑)
それに僕もうすぐ就職するので執筆の時間も今までみたく取れなくなるでしょうしね……はてさてどうなることか。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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