テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「んっ、んぅ~……」
バンエルティア号のギルドメンバーが生活している居住区。しいなはそこの廊下を歩きながら伸びをしていた。
「あ、しいな!」
「ああ、カイルかい」
しいなに声をかけてきたのはつい昨日一緒にクエストを受けて塩水晶の採取に向かった一人――カイル。彼の挨拶にしいなも右手を軽く上げて返す。
「何してるの?」
「あーいや。昨日の疲れが取れないのか妙に身体に違和感があってねえ。ちょっと身体をほぐすための散歩ってとこかな」
カイルの質問にしいなは答え、「カイルは?」と尋ねると、カイルは剣を引き抜き、それをじっと見る。その目には決意が込められていた。
「昨日、バルバトスと戦った時さ……やっぱり俺はまだまだなんだって思い知ったんだ。だから剣の訓練をしようって思ってさ。今から誰かに模擬戦とかお願いしようかなって思ってるんだ」
「へえ、感心感心。でもなるほどね……あたしも少し付き合おうかな」
「うん!」
カイルとしいなはそう話し合いながらメンバーの大部分が生活している船倉を利用した居住区に向かう。
「……」
と、奥の方の部屋から一人の青年が姿を現す。
「あ、カイ!」
「カイ、おはよ。調子はどうだい?」
部屋から出てきた青年――カイにカイルとしいなが挨拶。カイもしいな達に気づき、そっちを向く。
「ああ、おはよう。しいな」
彼はふっと笑みを浮かべて挨拶。
「今日も綺麗だな」
そしてそんな言葉を吐く。
「「…………」」
その言葉を聞いたしいなとカイルは硬直してしまった。
「ア、アアアアアアニイイイィィィィッ!!!」
「カ、カカカカイがっ!! カイが大変なんだっ!!!」
「ふええええぇぇぇぇぇっ!!??」
一階にある医務室。そこにクエスト等用事がある時以外はほとんど船医として常駐しているアニーはドバァンとドアを蹴り飛ばさん勢いで入ってきたしいなとカイルの血相を変えた様子に悲鳴を上げる。
「あ、頭を打ったかもしれないから急いで診察をお願い出来るかい!?」
「も、ももももしかしたら昨日バルバトスと戦った時、実はポイゾニックヴォイドの毒をくらってて、それが頭に回っちゃったんじゃあ!? げ、解毒剤とか準備出来ない!?」
「え、えええぇぇぇぇっ!!??」
あわあわわたわたと、しいなとカイルはアニーに診察を依頼して、しいなが両腕をカイルが両足を掴んで運んできたカイを突き出し、アニーもいきなりの展開に何が何だかという様子を見せながらも診察の準備を始める。
「……???」
診察を行なったアニーは不思議そうな表情を見せる。
「ど、どう?」
「いえ、どうと言われましても……特に異常はないと思いますよ? 頭を打った形跡も見当たりませんし……」
カイルの心配そうな言葉にアニーが不思議そうな顔でそう返す。
「アニー」
と、カイがアニーの手を取った。
「そんな顔をしないでくれ。アニーが笑顔でいてくれれば、どんな怪我もすぐに治るよ」
キラキラと輝くような笑顔でそう言うカイ。それにアニーの顔が赤く染まり、「は、え?」と変な声を出す。
「えええぇぇぇぇっ!!??」
そして彼女の叫び声が医務室に響き渡った。
「あ、も、もしかしたらちょっとした診察じゃ分からない程の傷なのかもしれません!」
アニーは慌てて立ち上がると「ハロルドさんを呼んで精密検査をしてみます!」と言って医務室を出て行こうとする。
「アニー、ちょっと待ちな」
が、医務室の手伝い兼サボり撃退のためここに常駐しているナナリーが彼女を呼び止め、アニーが足を止めて振り返るとナナリーはすたすたとカイの前に立つ。
「カイ、ちょっと聞きたいんだけどさ……その話し方、誰から教わったんだい?」
「え? 誰って……」
ナナリーの問いかけに、カイはきょとんとした様子で首を傾げた。
バンエルティア号の展望台。滅多に人が来ず、雨の日の素振り等基礎訓練やちょっとした趣味――例えばヴェイグが周りにうるさくしないよう気を遣って趣味であるエレキギターを演奏したり、キールが静かに読書をしたり――など様々な事に活用されているここで四人の男性が喋り合っていた。
「アホゼロスー!!!」
「ロニのバカー!!!」
「こんのスケベスパーダー!!!」
「ついでにレイヴンさん不潔ですっ!!!」
「へぶっ!?」
「がはっ!?」
「げふっ!?」
「なんでおっさんもっ!?」
そこに突如乱入したしいな、カイル、ナナリー、アニーがしゃべっていたゼロス、ロニ、スパーダ、レイヴンを拳(一名杖)でぶん殴る。
「な、いきなりなんだよ!?」
「あんたらがカイに妙なこと吹き込んだことはとっくに分かってるんだよ!!」
ゼロスの抗議の言葉をしいながかき消す勢いで怒鳴り声を上げると、レイヴンを除く三人は一瞬で目を逸らす。
「え? え? ちょ、ちょっと待ってよ! おっさんそんなの知らないわよ!?」
「レイヴン、こんな言葉をしってるかい?」
両手を前に出して弁解を始めるレイヴンに対し、しいなが拳をぽきぽきと鳴らし始める。
「疑わしきは罰せよってね」
「そんな理不尽な!!??」
しいなの言葉にレイヴンは悲鳴を上げるのであった。
『……』
そしていい感じに身体が腫れ上がったり関節があらぬ方向に曲がりかけて死屍累々となっているスケベ男性陣を見下ろしてしいなとナナリーがふんっと鼻を鳴らし、アニーが不潔ですというような目で四人を見る。その杖が若干赤く染まっているのはきっと気のせいだろう。
「にしても、このアホゼロス達の言う事を真に受けるなんてねぇ……」
「カイって真面目で素直だけど、変なとこずれてるからねぇ。女の子とのコミュニケーションとか言われて納得しちまったんだろ」
しいなとナナリーが呆れた様子で話し合い、とりあえずあの喋り方は封印させないと大変な事になりそうだと結論づける。普段とは違う笑顔と口調のせいで、忍びである自分でさえ思わずパニックになっていた。このまま放っといたら騒ぎになる事は想像に難くない。としいなはこめかみに指をやりながら考えた。
「……あれ?」
と、カイルが声を出した。
「そういえばさ、俺達全員来ちゃってるけど……誰か一人くらい、カイを止めてた方がよかったんじゃあ……」
「「「…………あ」」」
カイルの言葉に三人は異口同音でそんな言葉を重ねた。
「ただいま~……あ、誰もいないや」
バンエルティア号の甲板。少し長い仕事で船を降りていたカノンノは帰ってきて挨拶をするが甲板には誰もおらず、甲板掃除の人やここで自主訓練をしてるクレス達もいないなんて珍しいなぁとか思いながら彼女は船に入っていく。
「あ、カノンノ。お帰りなさい」
「ただいま、アンジュさん」
ホールに入って一番に出迎えたアンジュにカノンノは挨拶し、クエストの終了を報告する。
「そういえば、甲板に誰もいないってなんか珍しいね」
「あら、そうなの? 私さっきまで食事休憩してたから。でも確かにね、普段ならクレス君やロイド君達で騒がしいのに」
カノンノの言葉にアンジュは確かにいつも甲板から聞こえてくる騒ぎ声が聞こえてこないのは新鮮だと微笑む。
「ああ、カノンノ、お帰り」
「あ、カイ。ただいま」
医務室のある方の扉から出てきたカイは笑みを見せてカノンノに挨拶し、カノンノも笑顔でただいまと挨拶する。
「お疲れ、怪我とかしてないか?」
「うん、大丈夫」
すたすたと歩き寄りながらそう問うカイにカノンノは心配してもらって嬉しいのか笑顔のまま返す。と、カイはすっとカノンノの手を取った。
「よかった。カノンノの白魚のような肌が傷ついてしまっては一大事だからね」
「……ふぇ?」
カイのタラシ言葉にカノンノは一瞬呆然としてしまい、一拍遅れて顔が赤くなる。隣のアンジュも「へ?」と呆けた声を漏らしていた。
「カ、カカカカイ、どうしたの!?」
「どうしたって、何が?」
「だだ、だって、だって……」
慌てるカノンノに対してマイペースなカイ。あわあわとなっているカノンノを見てカイは「ははっ」と笑う。
「どうしたんだよ、カノンノ。なんか変だぞ?」
今のカイに言われたくないよ、と言いたいがパニックになっているカノンノの口は上手く動いておらず、「あ」や「え」という単語が口から出るのみ。と、カイはカノンノの顎に手をやって親指でくいっと押し上げる。
「まあ、そんなとこも可愛いけどさ」
「ふぇ、あ……」
カイの言葉を聞いたカノンノの顔が真っ赤に染まっていき、彼女の足がふらふらと定まらなくなる。
「やめんかー!!!」
カノンノの気絶一歩手前でそんな女性の声が響き、ひゅんっという風切音が聞こえる。
「はぐっ!?」
そしてカイが突如背後から殴られたかのような声を上げ、カノンノに抱き付くように倒れ込む。
「ひゃあああぁぁぁぁっ!!??」
抱きつかれたような格好になったカノンノがさらに悲鳴を上げる。
「わ、カノンノ! お、お帰り!」
「カ、カイル、ナナリーも……」
「あー。この天然バカが迷惑かけたね」
「こいつ、ゼロス達から妙な事教え込まれたらしいんだよ」
カイルが慌てて駆け寄り、カノンノに挨拶。驚いているカノンノにナナリーがそう言ってカイ――後頭部に符が貼りついている。恐らくしいなが怍力符を投げ、後頭部に衝撃が走ったせいでさしもの彼も気絶したのだろう――を担ぎ上げ、しいなも呆れた様子でそう言う。
「アンジュ、一緒に来とくれよ。こいつがこんな妙な事口走りまくったらこの船が大パニックだよ」
「うん、そうね」
しいなの言葉にアンジュも賛成し、しいなとナナリー、アンジュはカイの再教育の為とりあえず空いているであろう医務室に向かう。ホールに残ったのはカノンノとアニーだけだ。
「……び、びっくりしたぁ……」
「私もです。いきなりしいなさん達が医務室にカイさんを連れて来て診察してって言って……そしたら……」
カノンノとアニーは互いに苦笑を漏らしながらそう話す。
「んっと、でも……」
カノンノは頬を赤らめ、頬をかく。
「ちょっとだけ、その、可愛いって言ってもらって嬉しかったなぁ、なんて……」
「えっ?」
頬をかきかきカノンノの言葉にアニーが目を輝かせ、カノンノは「はうっ!」と声を詰まらせる。
「ち、違うよ! べ、別にそういうのじゃなくって……」
わたわた弁解を始めるカノンノに対し、アニーはくすくすと微笑んでいた。
「なぁ、やってる事俺達と同じなのになんでカイはあんなリアクションされてんだ?」
回復し、降りてきたロニは早速カイの口説きに引っかかっているカノンノを見て細目でぼやく。
「……日頃の行いじゃない? あと、無欲の勝利っていうかさ」
それに対し、カイルが切り捨てるようにそう言い放った。
「ふぅ。昨日は大変だったわ」
「うん、朝はいつも通りでした」
日付が翌日に変わり、アンジュがぼやくとカノンノも苦笑交じりにそう返す。ああいう事は軽々しく言ってはいけない、誤解をされるしセクハラとか色々と問題になるかもしれない、しかしまあ女性を褒める事自体は別に叱られるような事でもないという妙にややこしい説教を行った結果、カイは時々タラシ台詞が出るようになってしまった以外は元に戻っている。
「あ、あのっ! すみませんっ!!」
と、その時バンエルティア号の甲板から誰かが転がり込むような勢いで飛び込んできた。
「あ、い、いらっしゃい!」
カノンノが慌てて声をかける。と、飛び込んできた少女――茶色の髪を短く切り活発な雰囲気を見せる――ははぁはぁと息を荒げながら、声をかけてきたカノンノを見上げる。
「お、お願いします! ミラを助けてください!!」
そしてそうお願いしてきた。
《後書き》
今回はちょっと繋ぎを含めたギャグ回。カイに天然タラシ属性をぶち込みました。なおMP文庫時代はここまでとは言いませんけど割とタラシ属性でした彼。なお原因は今回と同じくゼロス達に悪戯で「女の子とのコミュニケーション方法」として吹き込まれて。カイは頭いいですけど変なところバカですから。ちなみに今回レイヴンはこのカイプレイボーイ化計画には関与しておらず、ただ女性陣&カイルの怒りには巻き込まれただけだという裏設定があります、おっさんマジ不憫。
そしてオリジナルクエストのスタートです。ここから徐々にオリジナルストーリーも含まれていきますのでお楽しみに。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。