テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第二十六話 帝国参戦?新たな仲間達

バンエルティア号のホール。普段なら和気藹々とした団欒も行われているこの場は現在、ピリピリと張りつめた空気に包まれていた。

 

「ようこそ、ギルド・アドリビトムへ。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

来客に対し用件を伺うアンジュも、普段より数割増し、相手の出方を伺う様子を見せていた。

 

「ウリズン帝国、現皇帝……アガーテ・リンドブロム陛下」

 

そしてその口から来客――ウリズン帝国現皇帝の名が紡がれる。それに対し頭にネコミミを生やしたガジュマの女性――しかしその顔立ちはどちらかといえばヒューマに近く、それもかなり美人である――は、僅かに目を伏せた後、アンジュを見る。

 

「私たち、ウリズン帝国は……ギルド・アドリビトムへの協力に参りました」

 

アガーテはその口から、ギルドへの協力を口に出す。

 

「……協力?」

 

それに返すのは、ホールの椅子にどっかりと座っていたユーリだ。その目はやや苛立ったように細められており、まるで睨んでいるかのようにアガーテを見据えていた。

 

「今までいろんな村を……いや、国を苦しめておいて、今更俺達に力を貸したい。だなんて随分虫のいい事言ってくれてるんじゃねえのか? まさか、そんなもんで水に流せる。とでも思ってんのか?」

 

「……」

 

ユーリの単刀直入な言葉の一撃にアガーテは言い返せないのか目を伏せ、頭を力なく垂れる。ホールにいたヴェイグも腕組みをしてきつい表情――実際には普段の状態を保っているだけだが――をしており、ティトレイが慌てた様子で「おいユーリ」と彼を止めようとするものの、ウリズン帝国に星晶を奪われた結果、最終的に村を捨てる事にまでなってしまったのは事実であるため帝国側の弁護も出来ず、彼をして口を閉ざすしか出来なかった。

 

「……それに関しては、我々からは何の申し開きも出来ない」

 

アガーテの隣に立つ金髪の騎士らしい男性が、重々しく口を開く。その言葉は苦渋に満ちたものだった。

 

「全てはアガーテ陛下の教育係をなさっていた、ジルバ・マディガンの計画だったんだ……あまり、陛下を責めないでやってくれ」

 

その時、バンエルティア号の奥からそんな声が聞こえてきた。

 

「ユージーン?」

 

ティトレイが声を漏らす。と、アガーテと一緒にいたコウモリのような外見のガジュマ――紳士服を着て杖をついた、初老を越した程度の男性と言えば紳士的な老執事のように思えるが、その鋭い眼光は歴戦の戦士を思わせる――が驚いたように目を開いた。

 

「隊長!」

 

「た、たいちょお!?」

 

老人の言葉に今度はティトレイが声をひっくり返す番だった。と、ユージーンは腕を組んで目を伏せる。

 

「ワルトゥ……もう俺は隊長ではない」

 

「ちょ、ちょっと待てよユージーン! どういうことだ!?」

 

ティトレイがあわあわ腕を上下させてユージーンに問い詰める。その顔には困惑がありありと浮かんでおり、ユージーンはふむ、と声を漏らす。

 

「まず、黙っていた事を謝ろう。すまなかった……俺はかつて、ウリズン帝国の軍人だったんだ」

 

「「!?」」

 

それは同じヘーゼル村に住んでいたティトレイも、ヴェイグですら驚愕を顔に出す告白だった。

 

「ジルバ・マディガン……アガーテ姫……陛下の教育係をしていた者で、ラドラス前陛下が亡くなった後、政治に疎い陛下に変わって国政を取り仕切っていた……だが」

 

「ジルバ様は、帝国の発展のため、星晶を手に入れるために世界各国に軍事侵略を開始……隊長はそれに反対し、その結果軍を追われてしまったのです……」

 

ユージーンに続いてコウモリのガジュマ――ユージーンからワルトゥと呼ばれていた――が説明を続ける。

 

「その後、俺は各地をさまよった後にヘーゼル村に辿り着いた……その後はお前達も知っている通りだ」

 

「隊長がいなくなった後、ジルバ様はかつての隊長の地位、帝国軍総大将の地位となり、事実上の独裁国家として操っていた……ですが、これを止められなかったのは私達の無力……」

 

「私達に出来た事は、アガーテ陛下の命を守る事……しかしその結果、軍事侵攻を止める事は叶わなかった……」

 

ワルトゥは苦渋の様子で説明を終える。騎士らしい男性も拳を悔しそうに握りしめて言葉を吐き出していた。

 

「元はと言えば、私がしっかりしていれば……ヘーゼル村や様々な村の民に酷い事を……謝って許される事ではありませんが、深く謝罪させていただきます」

 

アガーテも心から申し訳なさそうな表情で頭を下げていた。

 

「あー……えーっと……だな……」

 

アガーテの深く頭を下げての謝罪を受けたヘーゼル村住人――ティトレイが頭をばりばりとかいて何かむずがゆそうな様子を見せる。

 

「要するに、そのジルバ? ってやつが俺達の村から星晶を奪うよう命令を出してたってわけか? それで、それをあんたは知らなかった」

 

「……まあ、知らなかった。で済まされる問題でもないがな」

 

ティトレイの単純にまとめた結論に対し、ヴェイグが静かに続ける。

 

「だが、それならそのジルバという奴は今どうなっているんだ? そいつが今もなお国を牛耳っているのならば、お前達が国の使者を名乗ってここまで来れるはずもないのでは?」

 

そして現在国を操っているジルバは今どうなっているんだ、と確信を突く。

 

「それは……」

「陛下、それは私から話しましょう」

 

アガーテが言いよどむと、騎士らしき男性が前に立つ。

 

「挨拶が遅れた。私はウリズン帝国軍総大将、ミルハウスト・セルカーク」

 

「……ヴェイグ・リュングベルだ」

 

男性――ミルハウストが名乗ると、ヴェイグも自身の名を名乗り返す。そして一拍置くとヴェイグは「む」と声を漏らした。

 

「帝国軍総大将?……それはジルバの地位だと言っていなかったか?」

 

「……察しがいいな」

 

ヴェイグの鋭い指摘にミルハウストはふっと息を吐く。

 

「ヴェイグ・リュングベル……君は確か、ヘーゼル村でサレに反抗した者だという報告を受けている」

 

「ああ」

 

ミルハウストの言葉にヴェイグは首肯を返す。

 

「……ジルバ・マディガンは暗殺された」

 

『!?』

 

突然の言葉にその場にいたウリズン帝国軍関係者以外の目が見開かれる。が、ミルハウストは「そして」と言葉を続けた。

 

「その暗殺の犯人は、サレだ。そして奴は今、ウリズン帝国を脱走し、行方不明になっている」

 

ミルハウストはそう、アドリビトムメンバーにとって衝撃の真実を告白した。

 

「しかし、ジルバが暗殺された今、この国の主権はアガーテ様へと戻りました」

 

ヒトが亡くなったというのは不幸だが、不幸中の幸いだというようにワルトゥが続ける。それに対しアガーテも「はい」と頷いた。

 

「ジルバの……いえ、ウリズン帝国の軍事侵略およびに星晶等の強制接収、村人に対する強制労働。それらについて謝罪いたします」

 

実際に命令を下したのはジルバといえ、そのジルバは元はといえば自分の代理として国政を取り仕切っていたとも言える。ならば、それを止められなかったのは自らの責任。というようにアガーテはその罪を背負うというように深く謝罪の言葉を口にする。

 

「どうか、私達に力をお貸しください」

 

深く頭を下げて懇願するアガーテ。それにアンジュも困った様子を見せた。

 

「んーっと、な……協力しても、いいんじゃねえか?」

 

それに助け船を出したのは、なんとウリズン帝国に苦しめられていた一人であるティトレイだった。

 

「そりゃ、俺達の村はウリズン帝国が星晶を持っていっちまったせいで作物も取れねえし、狩りの獲物もいなくなっちまった。でも、それを命令していたジルバはいなくなっちまったんだろ? だったら俺からはあんたらを責める理由がなくなっちまったっていうか……」

 

ティトレイはそこまで言うと、自分の考えをどう説明すればいいのかと腕組みをして考え始める。

 

「ユージーンが元軍人だというのは驚いたが、ユージーンのように侵略戦争に反対し、国同士の共存を望む者もいるはずだ……なら、俺はそれを信じる」

 

彼の言葉を引き取るように、そうヴェイグが続けた。被害者である二人から出た言葉にアンジュはふぅと息を吐く。

 

「アガーテ・リンドブロム陛下」

 

「は、はいっ!」

 

アンジュから呼ばれたアガーテは驚いたように耳をピクンッと動かして顔を上げる。

 

「ティトレイ君やヴェイグ君はこう言っていますが……私としては今までウリズン帝国の行ってきた所業を鑑みれば今回の謝罪のみで全てを水に流し、協力関係を結ぶというのは難しいです」

 

その言葉を聞いたアガーテがしゅんとした表情になる。その耳もぺたんと垂れ下がっていた。

 

「ですから。今までの評価を覆せる行動を見せていただきます。仮の協力関係を結び、私達があなた方の行動を見て、ちゃんとした協力関係を結ぶか判断させていただきます」

 

「!」

 

一応の協力関係を結ぶことは出来た。それにアガーテの顔がぱっと輝き、彼女は再び「ありがとうございます!」と言って頭を下げた。

 

「では後日。私達からアドリビトムへの協力のため、兵士を派遣いたします」

 

「ええ」

 

アガーテがそう言い、アンジュも微笑んで返すと二人は握手を行なった。

 

 

 

 

 

「へえ、そんな事があったのか」

 

「ああ。でも、帝国の奴らも案外捨てたもんじゃねえよな」

 

バンエルティア号の甲板。ウリズン帝国領地のとある港町に停泊しているバンエルティア号のここで、ウリズン帝国からの協力の話を聞いたカイはそれを話したティトレイに対してそう返し、ティトレイは頷いた後、ウリズン帝国の行動を賞賛してにししと笑う。

 

「たのもー! アドリビトムというギルドはここかー!?」

 

その時、そんな大声が聞こえてきた。

 

「このバカ! んな大きな声出したら迷惑でしょうが!」

 

直後、そんなお叱りの言葉とゴスッという打撃音、さらに「あいたー!」という悲鳴まで聞こえて来た。

 

「「……なんだ?」」

 

カイとティトレイの声が重なる。するとカン、カンという数人分の足音が船に乗るために設置していたスロープから聞こえてくる。

 

「あの、失礼いたしました」

 

姿を現したのは男三人に女二人の五人組。その内の一人――銀色の髪にアホ毛がぴょんと跳ねており、優しい目つきをした女性だ――が苦笑交じりにぺこりと頭を下げる。次にその隣に立つ、色黒の肌に金髪で目つきの悪い細目をした男性が敬礼を取った。

 

「自分達はアガーテ陛下の命により、ウリズン帝国軍よりこのギルド・アドリビトムへ派遣された者です。リーダーへのお目通りを願いたいのですが」

 

「ああ、あんたらが。分かった。今案内するぜ」

 

色黒の男性の名乗りにその話を聞いていたティトレイが納得したように頷き、彼らを伴って船内に入っていく。カイもその後に続いて船内に入っていった。

 

 

 

 

 

「あなた達がウリズン帝国から派遣された兵士ね。歓迎します」

 

「はっ! 私はウリズン帝国軍第一部隊所属、フォックスと申します」

 

アンジュの柔らかな微笑みでの歓迎に対し色黒の肌の男性――フォックスが敬礼を取りながら名前を名乗る。ちなみに同席しているのはカイのみで、ティトレイは「ウリズン帝国のやつが来たんだし、ユージーンもいた方がよくねえか?」と言ってユージーンを呼びに行っている。

 

「俺はステイサム! 格闘家やってるぜ!」

 

続けて鳶色の髪を燃え盛る炎のように逆立たせた男性がぐっとサムズアップをし、タレ目を細めて快活な笑みを浮かべながら名乗る。

 

「私はユンと申します。魔術部隊に所属する魔術師です」

 

次に名乗るのは銀色の髪にアホ毛がぴょんと跳ねている少女だ。おしとやかな雰囲気を見せ、穏やかな声で礼儀正しい所作の挨拶は彼女の育ちの良さをうかがわせた。

 

「アタシはロッタ。魔術部隊に所属する僧侶よ……まったく、皇帝命令とはいえこの私がギルド生活なんて……」

 

黒髪を短く切り、何故か頭の上に王冠を乗せた少女が切れ長の目で睨むようにしながら腕組みをして名前を名乗る。

 

「あれ? ロッタってユンがギルドへの派遣に立候補したって聞いて大慌てで立候補したって聞いたんだけど?」

 

「う、うるさいわよ!!」

 

と、ロッタの横に立っていた赤毛の少年が頭の後ろに両手を回しながら不思議そうに尋ね、それを聞いたロッタが顔を真っ赤にして彼を怒鳴る。それに少年はたははと笑った後、アンジュに向けてにこっと快活な笑みを浮かべた。

 

「最後は僕だネ♪ 僕も魔術部隊に所属してるよ。僕は――」

「マオ!!!」

 

赤毛の少年が名乗ろうとした瞬間、そんな驚愕に溢れた男性の声が聞こえてくる。と、その声を聞いた少年が嬉しそうに微笑んで声の方を向いた。

 

「ユージーン!」

 

「マオ、何故お前がここにいるんだ!?」

 

マオと呼ばれた少年が嬉しそうに言うのに対し、ユージーンは彼に駆け寄りながらそう問い詰める。それに対してマオもにししっと微笑んだ。

 

「アドリビトムにユージーンがいるってワルトゥから聞いてね。で、アガーテ様がアドリビトムへ兵士を何人か派遣するって聞いて立候補したんだよ!」

 

「えーっと……ユージーンさん、この子のお知り合いですか? あ、いえウリズン帝国の方なんですからお知り合いでしょうけど……」

 

マオがここまで来た経緯を説明し終えたところで目をパチクリさせながらアンジュがユージーンへと尋ねる。それをユージーンは「ああ」と肯定してマオの頭にぽんと手を置いた。

 

「この子はマオ。昔、俺が軍に所属していた頃にとある任務で保護したのだが、身寄りがなくてな。俺が引き取って面倒を見ていたのだ」

 

「それで、ユージーンが軍を追われた時に僕も一緒に行こうと思ったんだけどワルトゥに預けられた挙句黙って出ていかれちゃってさー。酷いよユージーン」

 

ユージーンがマオの事を説明、マオもユージーンに向けて頬を膨らませぶすくれてみせる。が、すぐに「まあいいや」とけろっとした表情で続けた。

 

「こうやってユージーンに会えたんだしね。じゃ、これからよろしくネ!」

 

ぐっとサムズアップをしてそう言ってみせるマオ。その笑顔も純粋な喜びを見せていた。

 

「ふふ。感動の再会も出来たところで、ウリズン帝国から派遣された皆さんを部屋にご案内します。カイ、あなたも来て」

 

「了解」

 

アンジュはそう言って席を立ち、あらかじめ呼んでいたのだろうか、食堂の方から丁度よくやってきたフィリアにしばらくここを任せると伝えた後カイとウリズン帝国兵士メンバーを連れて階下の居住区へと降りて行った。

 

「お、アンジュ様。今日もお綺麗で――」

「あらゼロス君。悪いけど、今帝国から派遣された方々をご案内してるの。お話はまた後で」

 

と、そこにいたゼロスがアンジュに向けて輝かしい笑顔を見せながら話し始め、しかしアンジュはそれをさらっと受け流す。それにゼロスは「帝国の?」とだけ言って派遣された兵士達を覗き込む。と、すすす、とユンに歩き寄った。

 

「初めまして、麗しきお嬢様。私はゼロス・ワイルダー。不慣れなギルド生活で苦労する事も多いでしょうが、その時はぜひ私めにご相談ください」

 

ユンの手を取ってナンパを開始するゼロス。いきなりのナンパにユンも目を点にして「は、はぁ……」としか返すことが出来ていなかった。

 

「ユンに絡むなこの変態!」

 

と、その隣に立っていたロッタが杖をゼロスの頭目掛けて叩き込む。ゴガッ、という凄まじい音と共にゼロスの口から「ふげっ」という情けない声が漏れ出た。

 

「わ、ロ、ロッタ!」

 

「ユン! あんたはもうちょっと強く言い返しなさい! こんな女の敵の変態に言いくるめられたら終わりなんだからね!」

 

ユンが慌ててロッタに注意しようとするがその前にロッタは言い放つ。ゼロスは床にうつ伏せで倒れ込んでおり、ユージーンが呆れた様子を見せ、マオが「うわー」と言いながら彼をつんつん突っついていた。

 

「やー。いつもながらロッタの一撃はすげえよなぁ、俺も何回意識を持ってかれそうになったか……どうだ、前衛職に転職しねえか?」

 

ステイサムはけらけらと能天気に笑いながらそんな事を言っていた。なお、フォックスは無言でその光景を見守っている。

それから気絶したゼロスはユージーンに任せて彼らは居住区を歩いていき、ウリズン帝国メンバーに割り当てられる部屋に到着する。なお、男女混合の可能性を考慮されてか二部屋準備されている。

 

「では男性の方はこのカイと、医務室にゼロス君を預けた後合流するユージーンさんが部屋の準備をお手伝いします。女性のお二人は私と――」

「アンジュさん、遅れました」

 

アンジュがすらすらと説明していると、そんな声が聞こえて来た。

 

「ああ、クレア。このクレアさんがお手伝いしますね」

 

その相手――クレアを指してアンジュが説明を続ける。

 

「よろしくお願いしますね。今夜はウリズン帝国の方々の歓迎としてご馳走を作ってますから。楽しみにしていて下さい」

 

クレアもにこっと柔らかな微笑みを見せながらそう言う。

 

「うっひゃー。可愛いなぁ!」

 

と、ステイサムが歓声を上げる。

 

「俺、ステイサム! これからよろしくな! ところで飯のメニューって――」

「やめんか!!」

 

さっきのゼロスのような勢いで喋り始めたステイサムを即杖でぶん殴るロッタ。ステイサムも「ぐげっ」と情けない声を出し、後ろのユンがわたわたとしている。

 

「……このままでは進まん。残る話は部屋の掃除と荷物の整理が終わってからで構わないだろうか?」

 

「ええ、そうしましょう」

 

フォックスがそう言い、それにアンジュが賛同すると彼は「行くぞステイサム」とだけ言って彼の首根っこをひっ掴んで部屋に入り、カイとマオとさっきのばたばたと間に合流していたユージーンも続くように部屋に入る。それを見届けてからアンジュ、クレア、ロッタ、ユンも部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

それから時間が過ぎて夜中。クレアが言っていた通り夕食はウリズン帝国からの派遣メンバー歓迎会と銘打った豪華な食事が並んでおり、派遣メンバーだけではなくアドリビトムメンバーも大喜びではしゃいでいた。特にステイサムはロイドやカイル達と意気投合したかジュースで乾杯して一気飲みを続けたり次々肉をたいらげている。

 

「いやー。賑やかだねー」

 

それを見てけらけらと笑っているのは以前シクエリア村で共に戦った行商人――アルヴィンだ。その隣に座っているカイが横目で彼を見る。

 

「つーか。ミラやジュードはともかくなんでお前までここにいるんだ?」

 

「ん? いや、ほら言ったろ? 俺、本業は行商人なんだわ。んでこのアドリビトムは国に所属せず、色んなとこに行くギルドだろ? だったら、この船に乗ってりゃすぐ各地に行けて、そこの名産品を仕入れる事が出来るからな。リーダーさんにお願いして加入させてもらったんだよ。これでも腕には自信あるしな」

 

「ふーん」

 

カイの問いかけにアルヴィンは笑いながらそう説明。カイも乗船理由を聞き出すと興味を失ったのか食事に戻り、アルヴィンも苦笑を見せる。

 

「あの、アルヴィンさん」

 

「ん?」

 

と、いきなり声をかけられたアルヴィンは声の方を向く。そこにはクレアが立っていた。その両手には一切れのパイが乗っている皿があった。

 

「これ、ピーチパイです。よろしければどうぞ」

 

「ああ、ありがと」

 

アルヴィンはクレアからピーチパイを受け取り、クレアはピーチパイを乗せている台車を押して――恐らく一人ずつに手渡ししているのだろう――隣のカイにもピーチパイを渡し、また隣にもと続けて配っていく。

 

「ふーん……」

 

一人ずつ対話をしながら料理を配っているクレアを見つつ、アルヴィンはピーチパイに齧りついたのであった。

 

 

 

 

 

歓迎会の翌日。アンジュは昨日やってきたウリズン帝国からの派遣メンバーのギルド登録など事務作業を行っていた。その近くでは作業済みの資料を纏める係としてカイが手伝いをしている。

 

「アンジュ」

 

そこに一人の男性が声をかけ、アンジュは書類から目を離して顔を上げると「あら」と声を出した。

 

「ウィルさん。調査の方は順調ですか? 昨日の歓迎会にも参加してませんでしたが」

 

「ああ。その件についてはすまなかった。クレアに食事とピーチパイを運ばれてきた時に少し叱られてしまったよ。忙しいのは分かりますが一緒に働く仲間と顔を合わせるくらいはしておいたらどうですか、とな」

 

声をかけてきた男性――ウィルは昨日の事について苦笑を漏らした後、真剣な顔を見せる。

 

「封印次元を作る為の残り二つが判明した」

 

「ホント?」

 

ウィルの言葉にアンジュも反応して真剣な目を見せ、ウィルも首肯。

 

「羽があって飛び回る実……これはツリガネトンボ草の事だ。もう一つ、全身から汗を流すパンというのは、多孔菌の一種、ウズマキフスベというキノコだ」

 

「なら、この前の塩水晶の時と同じようにそれを採ってくればいいんだな?」

 

ウィルからの情報を得たカイが資料をトントンとまとめながらそう尋ねる。が、ウィルは首を横に振って「そうはいかないんだ」と返した。

 

「?……少し危険な所でもなんとかなるだろ?」

 

「そういう問題ではないんだ……」

 

カイが首を傾げるがウィルは残念そうにそう返した後、浮かない顔を二人に見せる。

 

「その二つはもうこの世に存在しない……既に絶滅したものなんだ」

 

「絶滅……そんな……それじゃもう、手に入らないんですか?……」

 

ウィルの言葉にアンジュが呆然とした様子を見せる。が、その後何かに気づいたような目をウィルに向けた。

 

「ウィルさん、その二つはどうやって調べたのですか?」

 

アンジュの言葉にウィルは「その事なんだが……」と言葉を濁し、少し考えた後口を開く。

 

「実は、二つともカノンノが描いた風景の中にあってな……ジュディスがそれを見て、プレートで伝えられた情報と同じものだと教えてくれたわけだ」

 

ウィルはそう言い、「それを元に調べた結果、この二つのものの正体がわかったのだが」と呟いて腕を組む。

 

「カノンノが……」

 

カイはぼそりと呟いた後、席を立つ。

 

「俺、ちょっとトイレ行ってきます」

 

「カノンノの所へ行くのか?」

 

席を立ったカイにウィルが微笑を浮かべながら尋ね、それを聞いたカイの動きが僅かに止まる。

 

「そうしてくれ。今回の件で、彼女も動揺している様だからな」

 

「そういえば、少しカノンノの様子がおかしかったわね……カイ、わたしからもお願い。カノンノの所へ行ってあげて」

 

「……トイレ行くついでに」

 

動きが止まったカイを見て図星だと判断したウィルの言葉に続けてアンジュもそう言い、それにカイはそう返してその場を離れる。が、彼が向かったのはトイレがある居住区ではなくカノンノがいつもいる操舵室だ。

 

「……素直じゃないな」

 

微笑ましく笑っているウィルにアンジュもくすくすと笑いながら同意するのであった。

 

 

 

「ツリガネトンボ草……ウズマキフスベ……」

 

そんなカイを見ていたせいか。彼らの会話を何者かが聞いていたことに二人は気がついていなかった。

 

 

 

「……」

 

バンエルティア号の操舵室。基本的には自動操縦なのか滅多に人が来ないここにカノンノはいつもいる。その彼女は現在、操舵室の正面窓から遠くの景色を眺めていた。

 

「カノンノ」

 

「え?」

 

カイが声をかけ、カノンノはぽやんとした声を出して振り向き、やはりどこかぽやんとした目でカイを見る。

 

「あ、カイ……あなただったんだ」

 

「ただ、何となく来てみた……その、ウィルやアンジュさんが心配してたぞ」

 

「そうなの? ふふ、嬉しいな」

 

カイのやや目を逸らしながらの心配そうな言葉に対しカノンノはにこり、と微笑んだ後、ふと目を落とす。

 

「ヴェラトローパの他にも、あったんだ。ジュディスさんが私の絵を見て、これから探さなくちゃいけない二つのものが、絵の中にあったって……何で、私には知らない風景が見えてるんだろう。何の為に見えてるんだろう。私って、一体何なのかな、って。ちょっと考えてた」

 

カノンノは不安そうにそう言う。と、カイはカノンノに近づくとその頭にぽん、と手を置いた。

 

「お前が何者か、なんて俺には分からん……けど、少なくともお前は俺の仲間だ。お前が何者であろうとも、俺はお前を信じる。だから、心配するな」

 

「うん……ありがとう、カイ」

 

頭を撫でながらカイはカノンノに言い、カノンノもカイからのなでなでを受け入れながら柔らかく微笑んでこくんと頷いた。そしてカイが離れるとカノンノは照れくさそうに笑う。

 

「……私、もう少しここにいるから」

 

「ああ」

 

カイとカノンノはそう言って別れ、カイはホールへと降りる。

 

「カイ」

 

「ジュディス?」

 

ホールに降りて来たカイを待っていたのはジュディス。彼女は真剣な目でカイを見据えていた。

 

「あなたに話があるの。甲板に来てくれて構わない?」

 

「構わないが?」

 

ジュディスから頼まれ、カイは今度は甲板へと向かう。

 

「……何の用だ?」

 

「話したかったの、あなたと」

 

単刀直入に用件を聞き出すカイに対し、ジュディスは静かにそう言って振り返ると右手を手の平を上にしてカイの方に差し出す。その手には金色のなんらかの破片が乗っていた。

 

「……そいつは?」

 

「故郷とディセンダーの為に肉体を捨て、機械に宿った異世界の賢人達……ニアタの欠片よ。あの時、持って帰ったの。これにあった情報……読んでいたのよ。聞きたい、かしら?」

 

ジュディスは妖しく微笑みながらカイに尋ね、それにカイは若干の沈黙の後、静かに首を縦に振る。

 

「じゃあ、あなたに話しておくわ」

 

そう言い、彼女は一拍置くと話し出した。

 

「欠片を読んでみたら、ニアタの故郷のディセンダーの姿が見えたわ……そのディセンダーが、カノンノにそっくりなの。信じられなかったわ。名も……カノンノと言うらしいから」

 

「……面白くない冗談だな」

 

ジュディスの言葉に対しカイは皮肉気な笑みを見せてそう返し、それにジュディスも「最初は読んだ情報を疑ったわ」と返す。

 

「でも、何度読んでも同じだから、認めざるを得なかった」

 

だが次にそう言った時は嘘なんてついていない、という目を見せていた。

 

「欠片からとても強く伝わってくる。パスカという異世界のディセンダー、カノンノを共にずっと、故郷の世界を守り抜いていた固い絆」

 

ジュディスは話す。ニアタはディセンダーを孫や娘のように愛していた。と、そして、私達の仲間のカノンノが、彼のディセンダーと、とても似たヒト、そして同じ名前だったのは偶然なのだろうか。と。

 

「彼、言っていたわね。“この世界は、故郷パスカの情報因子を受け継いでいない”って……でも、カノンノは存在するのよ。まるで世界の記憶が受け継がれていた様に、ね」

 

「……偶然じゃないか?」

 

彼女の出した言葉に対し、カイは腕を組んで静かにそう返してみせる。と、そこでジュディスは口をつぐみ、カイも背後の気配に気がついた。

 

「カノンノ、何か用か?」

 

「ううん。スケッチブックを忘れて、取りに来たの。見なかった?」

 

「さっき、ロックスが持って行ったわ」

 

カイの問いかけに対し、さっきまで操舵室にいたカノンノは用件を言い、尋ねる。それにジュディスがそう返すと、カノンノは「また片づけなかったって怒られちゃうなぁ」と失敗した、というように呟いた。するとその時、ジュディスの持っていたニアタの欠片が輝き出す。

 

「欠片が……」

 

ジュディスがそう呟いた瞬間、欠片は彼女の手から浮かび上がり、空へ飛んでいってしまった。

 

「今のは、なぁに?」

 

「……いいえ、何でもないわ。それじゃ、またね」

 

ぽかんとしたカノンノの問いかけに対しジュディスは艶やかな笑みを浮かべてそう言い、すたすたと船内に戻っていく。

 

「なんだったの、かなぁ?」

 

何でもないと言われても気になるのだろうか、カノンノは欠片の飛んでいった方を見上げており、カイは彼女に一瞬目をやった後、船内に戻っていった。

 

 

 

「ひえええぇぇぇぇ!!!」

 

「!?」

 

船に入った時、食堂から聞こえてきたのはロックスの悲鳴。アンジュもぎょっとしており、カイが「俺が見に行きます!」と言って大慌てで食堂向けて走っていく。

 

「あわわわわわわわ」

 

プシュ、という音が聞こえると共に食堂のドアが開く。そこにあったのはテーブルの上のスケッチブックを見て驚愕に目を見開き声にならない声を出しているロックスの姿だった。

 

「ロックス、大丈夫か?」

 

「はっ!?……い、いらしてたんですか……」

 

「悲鳴が聞こえたから来たんだが……どうした?」

 

「え、ええっ!……ぼ、僕はそんなに大きな声を!? す、すみません……」

 

カイが悲鳴の原因を尋ねるがロックスはそんな大きな声を出していたという自覚はなかったらしく、すみませんと頭を下げる。

 

「実は……お嬢様のスケッチブックを片付けて、ここで絵を見ていたんです。そのテーブルの上の絵ですが……」

 

ロックスはそう言ってテーブルの上のスケッチブック――カノンノのスケッチブック――を示す。そこに書かれているのは男女の絵だ。

 

「お嬢様は知らないはずなんです。旦那様と奥様のお顔は……なのに、お嬢様は……まるで、今しがた見た様な正確さでお二人の姿を描いて……」

 

ロックスは呟くように話す。あの不可思議な風景の絵もカノンノの想像、豊かな才能の結果なのだと思いたかった。だがカノンノの絵にはヴェラトローパや既に絶滅している植物の絵も描かれている。それを聞き、カノンノは自分には計り知れない何かを背負って生きているのだと確信した。と。

 

「お嬢様……」

 

「ロックス……」

 

不安気な表情で呟くロックス。カイも静かに彼の名を呟くがその声は聞こえておらず、カイは静かに食堂を後にし、ホールにいるアンジュに先ほどあった事を報告する。

 

「そう、そんな事があったの……だから、ロックスは悲鳴をあげたのね」

 

アンジュはそう言うとうつむく。

 

「……カノンノだけに見える風景、彼女にしかないドクメント……カノンノには、何か隠された秘密があるのかしらね」

 

「心配しないでください」

 

不安を見せながら呟くアンジュに対し、カイが力強く返す。

 

「さっきカノンノに言ったけど。カノンノは俺の仲間だ。カノンノが何者であろうとも、俺はカノンノを信じる。カノンノがとんでもないものを背負って生きているのだとしたら……俺も、それを共に背負う」

 

カイの決意の表情での言葉。それを聞いたアンジュはくすり、と一つ笑みを見せた。

 

「あなたにそこまで思われて、カノンノも嬉しいでしょうね」

 

「……別に。俺は仲間を守る……それだけだ」

 

アンジュの言葉を受けたカイはふいっと顔を逸らし、そうとだけ言って部屋に戻るつもりなのか居住区へと向かう。それを見送りながらアンジュはくすくすと笑っていた。




《後書き》
今回はちょっとしたオリジナル。アガーテ達リバースメンバー&マイソロの傭兵メンバーの登場&参戦です。ユージーンが原作通り実は元隊長だった等の設定をこっちに落とし込んで、ついでにマオの参戦の流れを変えてみたらこうなりました。(ぶっちゃけマオ参戦クエスト書くのがめんどくさい&まとめられるならまとめちまえ的考え)
さて次回はどうしようかな? もうちょっと日常編を続けようか、話を進めようか。まあそれは後で考えればいいか。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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