テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第三十話 ニアタとの再会

「……」

 

バンエルティア号の展望室。そこのテーブルで銀髪の少女は何かの作業を行っていた。

 

「あ、ユンさん。何してるの?」

 

「はい。ちょっと研究中で……」

 

と、そこに偶然やってきたカノンノが声をかけ、少女――ユンが恥ずかしそうに笑って返すと、一緒にいたジーニアスとカイルが「研究?」と興味を持つ。それにユンは「はい」と頷いた。

 

「私の研究テーマは“遠く離れた相手と会話が出来る通信魔術”なんです」

 

「遠く離れた人と……便利だね、それ!」

 

「はい。この研究が上手く行けば、手紙を使わなくても遠くにいる人と話す事ができるんですよ」

 

ユンとカノンノは笑顔で会話をする。

 

「まず、声や音というのは空気の振動によって伝わっているんです……えっと、これが空気の振動を利用して遠くまで声を伝える装置の試作品なんですが……試してみますか?」

 

ユンはそう言って円柱状で中は空洞になっている、まるでコップのような物体を二つ、糸で底同士を繋げているようなものを見せる。

 

「何これ?」

 

「えっと、これを二人が一つずつ持って、離れてください。この糸がピンと張るのがポイントですよ?」

 

「うん、分かったよ」

 

カイルが首を傾げているとユンが説明しながらコップのような物体をカイルとジーニアスに手渡し、ジーニアスも頷くとカイルから距離を取って糸をピンと張る。

 

「で、話す人と聞く人に分かれて、話す人はこの装置を口に当てて、聞く人は装置を耳に当ててください」

 

ユンの教えの元、ジーニアスが話す人、カイルが聞く人に分かれてカイルがコップのような物体を耳に当てるのを確認してからジーニアスがコップのような物体に口を当てる。

 

「カ、カイルー? 聞こえるー?」

 

「わぁっ!?」

 

恐る恐るジーニアスがコップのような物体に向けて話しかけるとカイルの驚いた声が響く。

 

「び、びっくりしたぁ……この中からジーニアスの声が聞こえてきたよ!」

 

カイルが慌てたように言い、今度はジーニアスがコップのような物体に耳を当て、カイルがコップのような物体に口を当てる。

 

「ほら、ね? 聞こえるでしょ?」

 

「ほんとだ!」

 

カイルとジーニアスは二人で目を輝かせる。

 

「この原理を風の魔術を使って、遠くに声を届かせられないか。と思っているんですが……」

 

「ねえねえユン! これちょっと借りていい? 皆にも教えてあげたい!」

 

「え? あ、はい。どうぞ」

 

目をキラキラさせているカイルのお願いをユンは快く受け、カイルとジーニアスは「やったー!」と歓声を上げてユンのいう装置を持っていく。

 

「えっと、なんかごめんね?」

 

「いえ。私の研究に興味を持ってくれて嬉しいです」

 

あはは、と苦笑いしながら謝るカノンノにユンは心から嬉しそうな表情でそう返した。

と、そんな事が起きている中。カイは甲板で行われている朝の鍛練――主に剣士組と一緒に素振りか格闘家組と一緒に型の訓練に始まり、すずやしいなに師事かいなければ独学での忍術訓練をしたり相手がいれば模擬戦もある――を終わらせてホールに戻ってきていた。

 

「ん?」

 

ホールの依頼受付カウンター席の近くでアンジュ、エステル、ナタリア、ロックスが談笑している事に気づき、カイはそっちに歩き寄る。

 

「なにか良い事でもあったのか?」

 

「あ、カイ様。いえ、この前オルタ・ビレッジで少々問題が発生していたんですが……」

 

カイが声をかけるとロックスが話し始める。曰く、少し前にオルタ・ビレッジで違う文化同士の衝突があり、その相談の手紙が来ていたそうだがその返答に互いに違う文化や方法を学んでみてはどうかと提案したところ、一度主義主張を忘れて相手の事を学習したら新しい方法が次々に生まれて効率が良くなった。ということだ。

 

「ロックスのおかげよ」

 

「いいえ、彼ら自身の力ですよ。新しい価値観と手段を、自分達で生み出してくれたんです」

 

アンジュが誇らしげに言うとロックスは謙遜。しかしナタリアは感動した様子を隠していなかった。

 

「星晶の採掘を行わず、環境をありのまま利用して、充足した社会を作るというオルタ・ビレッジの実現!……アドリビトムの皆さんの目標が達成されたのですわね」

 

「人々の間でも、ああやって受け入れ合う事が出来るなら……国同士でも、きっと実現出来ますよね!」

 

「ええ。そうしよう、と私達が働きかければ、きっと出来ますわ!」

 

「ですね! わたし、頑張ります!」

 

ナタリアとエステルも手を取り合い、互いに受け入れ合う社会の実現を誓い合った。その姿を見ながらアンジュはふふっと笑い、仕事に戻る。

 

「アンジュ、皆が集めてきてくれた依頼のメモを回収してきたわ」

 

「ありがとう……あら?」

 

そこにジュディスが数多くの依頼メモを持って話しに入り、アンジュはそのメモを受け取って適当に一枚取る。と、それを見ておかしな声を出した。

 

「どうかしたんですか?」

 

「みんなが街に行った時に、ついでに依頼を集めてきてくれるでしょ。カノンノが集めてきた依頼のメモの中に たまに妙な文字が交じっているのね……ホラ、こういう字」

 

アンジュがそう言って書類――依頼のメモをカイに見せる。それには確かにルミナシアで使われている共通語の中に不思議な文字が書かれており、アンジュはロックスに「この文字知ってる?」と尋ねる。

 

「……いいえ、この文字については、知りません。でも……たまに、こういう事がありました。ええ、昔から……ただ、お嬢様が遊びで考えたものだと。絵を描く時と、同じ様に……」

 

「変ね。カノンノは、仕事に遊びを持ち込む子じゃないし」

 

そう言ってロックスはなんとも言えない不安気な表情を見せ、アンジュもそう呟く。

 

「? ねえ、今、私を呼んだ?」

 

「カノンノ」

 

と、話が聞こえたのかカノンノがやってくる。アンジュも「ちょうどよかった」と言って彼女の書いた依頼のメモを渡す。

 

「あなたが街で集めてきた依頼のメモ……ここに書かれている文字について聞きたいのだけれど」

 

そう言うアンジュに対し、カノンノは依頼のメモに目を通す。そして謎の文字の部分に差し掛かると「あっ」と声を出した。

 

「いけない。急いで書いたから、つい……これは、ええっと……“納品”って書いたつもりだったんだけど」

 

「つい、というのは、この文字、無意識に書いているのね」

 

「……うん。でも、文字の意味は……わからないの」

 

カノンノの言葉から気になったところをアンジュが尋ね、カノンノもそう答える。曰く、文章を書いているといつの間にか書いてしまう事がある。しかし、風景を描く時とは違う。風景は紙の上に浮かんでくるから。ということだ。

 

「ヴェラトローパの事もそうだったわね。絶滅したはずの生物も、あなたは知っていた……あなた、ひょっとして“過去”が見えるんじゃない?」

 

ジュディスがそう、カノンノが以前絶滅したはずの生物や皆の知らないヴェラトローパについて知っていたことからそう仮説を立てる。

 

「過去?……私にはわからない……」

 

「見える……そうね。私達クリティア族の様に、情報を読み取っている……とも考えられるわね」

 

「だが、前にリタがカノンノのドクメントを見た時にヴェラトローパそのもののドクメントがカノンノの中にあったんだから、見えるのとはまた違うんじゃないか?」

 

ジュディスとカイは仮説を立てていくが、エステルがカノンノの謎の文字を見る。

 

「……でも、これらの絵、それに文字。私達の歴史にはないものです……少なくとも、私が城で読んでいた書物で見たことがありません……」

 

エステルはカノンノの書いた謎の文字を、少なくとも自分の知っている限りでは歴史上存在しないものだと言う。

 

「……ニアタなら、わかったかもな」

 

「ニアタ……あのヴェラトローパで、色々教えてくれたっていう……」

 

カイがそう口に出すとカノンノが呟き、それをジュディスが首肯。ルミナシアの創世を見届けた賢人であり、さらにはルミナシアだけではなく異世界も見てきたのだと説明する。

 

「きっと色んな事を知っていたでしょうね」

 

「私、会ってみたいな。ニアタに……」

 

「ニアタはラザリスに壊されてしまったの。行っても無理よ」

 

ラザリスに破壊されてしまった今となっては無意味だが、カノンノはニアタに会ってみたいと言う。

 

「でも、行きたいな……ねえ、カイ。ヴェラトローパへの同行を依頼に出したら、一緒に行ってくれる?」

 

「当然だ」

 

カノンノのお願いをカイは二つ返事で了承。それを聞いたアンジュが穏やかに微笑んだ。

 

「さて、と。カノンノ、後はあなたが依頼を出すだけ、ね」

 

「うん!」

 

そう言って差し出された依頼書をカノンノは笑顔で受け取った。

 

 

 

 

 

「あの風景の中に立ってる……私が描いた、あの風景の中に……」

 

ヴェラトローパに立ったカノンノはどこか感動を交えた様子で呟き、不思議な気分だと感想を述べる。

 

「私にあるドクメントに、何の意味があるんだろう。それが何なのか、分かればいいな」

 

感じる疑問を解決したい。そんな欲求を見せるカノンノだが、次にどこか不安気な様子を見せた。描いた風景はヴェラトローパ以外にもあり、その中には綺麗なものだけではなくまるで世界の終わりのような風景もあったらしい。

 

「ヴェラトローパが実在した様に、世界の終わりの様な風景も、実在……するのかな」

 

「悪い事を考えるな。クラトスだって言ってたぜ、悪い未来はそれを思い描く不安、恐れ、それらの負の感情によって作られる。ってな」

 

「悪い未来が……作られる?」

 

「ああ。悪い事を考えると不安になる。その不安が恐れを作って未来へと踏み出す一歩を奪う。そのせいで望む未来から遠ざかってしまう。ってな」

 

カイはそう言って一つ笑みを見せ、カノンノの頭にぽんと手を置いた。

 

「安心しろ。もしもこの世界にそんな恐ろしい事が起きようとも、俺がなんとかしてみせる」

 

「カイ……」

 

その言葉にカノンノは不安を無くせたのか笑顔を見せる。

 

「あーはいはい、いちゃつくのも結構だけどそろそろ行こっかー」

 

と、今回同行している――アンジュ曰く「この前行った時に通路が失われたみたいだから、今回は箒で空を飛べるアーチェと、よく分からないけど羽を生やせて飛べるっていうコレットに同行をお願いした」ということだ――アーチェが呆れた様子を見せてそう言う。ちなみにコレットは「二人とも仲良しだね~」とほんわかした微笑みを見せている。

 

「な、ちちち違うよアーチェ! わ、私別にいちゃついてるつもりなんて……」

 

アーチェの言葉を聞いたカノンノはぽんっと顔を赤くしてわたわた弁解を始める。が、アーチェは「はいはい」とテキトーに流しており、コレットは相変わらずのほわほわ笑顔を見せ、カイはどうしてカノンノがこんなに焦っているのか分からない様子を見せながら先頭を歩き始めた。

 

それからカイ達はネガティブシザーやスティンローパーの群れを掻い潜りながらヴェラトローパの最奥。以前カイがレイ達とやってきた時、通路が失われた場所までやってくる。

 

「この先なのね……でも、ここを通るには……」

 

「ん~、パッと飛んでって探したいけど」

 

カノンノが呟き、アーチェはそう言ってじっと辺りを観察する。

 

「向こうとこっちの間に気流があって、ホウキで飛んでくのは危険かも」

 

「うん、私もそう思う……」

 

飛行要員の二人は空を飛べるからこそ、ここで飛ぶのは危険だと意見する。

 

「なら、他に道がないか探してみるか」

 

「そうね。戻りながら他の道を探して、いざダメなら船に戻って作戦の練り直しを提案するしかないか」

 

カイの言葉にアーチェも賛同。カノンノとコレットも反対意見はないのか四人は踵を返すと一度入り口まで戻っていく。その道中、ヴェラトローパの宮殿部分から出て石橋を渡っている時。カノンノがふと橋から宮殿の土台となっている部分に目を向けると「あっ」と声を出した。

 

「ねえ、下に道がある」

 

「あ、じゃあ、ちょっとあたしが見てくる!」

「私も行くよ」

 

カノンノが言うとアーチェが箒にまたがってそう言い、コレットも羽を出してその後に続く。それからカイとカノンノが少しばかり待っていると突然床が割れ、隠し階段が姿を現した。

 

「大丈夫、降りられそうだよ~!」

 

「カイ、私達も行こう!」

 

アーチェの呼びかけを聞き、カノンノもカイに呼びかけて階段を降りて行った。

 

「そういえば、そのニアタがいた世界にも世界樹があったんだよね?」

 

「前に会った時はそう聞いたな」

 

「世界樹があるのは、私達の世界ルミナシアだけじゃないんだね……ここは、どこかの世界の子どもなんだ」

 

「そのニアタさんが教えてくれたんだね。異世界からやって来て、このルミナシアの創世を見届けて」

 

アーチェの言葉にカイがそう返すとカノンノは何か不思議そうな様子でそう呟き、コレットも呟く。

 

「故郷を失って、永遠の時間を一人ぼっち……かあ。そうしたくなるのも、わかるかも」

 

「うん……一人ぼっちで生きて行くのは、寂しいだろうね」

 

長命種であるハーフエルフであるため似たような経験があるのだろうアーチェの言葉に、カノンノも同意する。

 

(偶然なのかしらね。私達の仲間のカノンノが、彼のディセンダーと、とても似たヒト、そして同じ名前だったのは……)

 

その言葉を聞いたカイの頭の中に、以前ジュディスから聞いた言葉が反芻される。

 

「カイ? どしたの? だいじょぶ?」

 

「!」

 

と、傍から見て様子がおかしかったのかコレットが顔を覗き込むようにしてカイを呼んでおり、コレットに呼びかけられてようやくカイも気づいた様子を見せる。

 

「いや、なんでもない」

 

「そう? おでこに皺が寄ってたよ?」

「もし、つらかったら戻ってもいいから」

「カイ、無理しないでよね」

 

コレットの言葉を皮切りにカノンノも、アーチェまでも心配してくる有様。カイは自分に呆れたように一つ息をついた後笑みを見せた。

 

「心配かけて悪い。だが大丈夫だ……さあ、とっとと行こう」

 

そう言い、向かう先に目掛けて足を踏み出す。その時グルルという音が聞こえてきた。

 

「アーチェか? 腹減ってるんならこの依頼が終わった後なんか作ってやっから我慢しろ」

 

「どういう意味よそれ!?」

 

呆れた様子のカイの言葉にアーチェの怒号&ライトニングが放たれる。アーチェの手の平から光線のように放たれた雷をカイがひょいっとかわすと、ギャッと小さな悲鳴が聞こえる。

 

「カノンノ!? コレット!? 大丈夫か!?」

 

「なんかあたしと比べて扱い違いすぎない!?」

 

カノンノかコレットが流れ弾に当たったと思ったのかカイが呼びかけるとアーチェがさらに怒る。

 

「カイ? 私達はだいじょぶだよ?」

 

が、コレットは不思議そうに首を傾げており、その隣の無傷のカノンノもうんと頷く。それを確認したカイも悲鳴の方を見ると、そこには白黒の毛が生え、長いくちばしを生やした二足歩行の魔物――ゲオプシティスが群れをなして立っていた。その内一体は毛皮が焼け焦げている。

 

「ああ、あれか」

 

呟きつつカイは腰の刀に手をやり、カノンノも大剣を構える。コレットも両手に戦輪(チャクラム)を構えて背中に光の羽を出す。アーチェも箒にまたがって詠唱を開始。

 

「なんでもかんでも押し潰せ~! ロックマウンテン!!」

 

アーチェが魔術を放つと無数の岩が落下し、ゲオプシティスを押し潰しながら砕け散る。

 

「影走斬!!」

 

さらにその岩石の落下を潜り抜けてカイが刀を振るい、落下してくる岩から逃げ惑うゲオプシティスを斬り倒す。そして落下する岩が消えた時、ゲオプシティスはようやく単身突っ込んできたカイに狙いを定める。

 

「やあああぁぁぁぁっ!!!」

 

その背後からカノンノが強襲。華奢な身体で振るうには見合わない大剣でゲオプシティスを斬り倒し、自分は囮だったのだろう、カイも混乱しているゲオプシティス目掛けて右手に刀、左手に短刀を構え斬りかかった。

 

「御許に仕えることを許したまえ……」

 

そんな二人の援護のため、コレットも詠唱を開始する。

 

「響けんそうれん……あ、間違えちゃった……失敗、失敗~♪」

 

だが途中で詠唱を間違えてしまい、失敗失敗と言いながらてへぺろと舌を出す。

 

「……あれ?」

 

が、直後彼女が見たのは天使の祝福を受けて威力を増した天の裁きが辺り構わず降り注ぐ光景だった。その裁きをくらったゲオプシティスは一撃で浄化され、カイとカノンノも「うおっ」だの「ひゃあっ」だの悲鳴を上げて裁きをかわしていた。後衛のため裁きが降り注いでいないところにいたアーチェは「うひゃー」と呟いてドン引きしている。

そしてその裁きが止んだ時、襲い掛かってきたゲオプシティスどころか騒ぎを聞きつけて獲物がいると思ったのだろうか、他のゲオプシティスの群れやメデューサローパーまでもが駆逐。残っていたのはカイ達四人だけだった。

 

「……えへっ、グー、だね♪」

 

誤魔化すようにウィンクをして右腕を掲げるようにポーズを決めるコレット。しかしカノンノとアーチェはジト目を彼女に向け、カイはすたすたとコレットに近寄る。

 

「きゃんっ」

 

そして彼はびしっとデコピンを決め、コレットの悲鳴が小さく響いたのであった。

 

それから彼らは再び先へと進みだし、ついにヴェラトローパの最奥までたどり着く。

 

「これは?……これが、ニアタ?……」

 

「ってよりは、部品じゃない? 何か光ってるけど」

 

カノンノとアーチェがそう話す。彼らの目の前にあるのは粉々に砕けたニアタと紫色の光。カノンノが「ニアタ」と呟いて一歩近づくと、突然紫色の光が強まり、そう思うとニアタの部品は独りでに集まって元の姿に戻った。

 

「わあぁっ!?……す、すごい!……自分で直しちゃった……の?……」

 

[そなた……カノンノ……か?]

 

「どうして私の名前を?」

 

アーチェが驚いているとニアタもまた驚いたような声色でカノンノの名を呼び、カノンノがなんで自分の名を知っているのか。とニアタに尋ねる。

 

「ジュディスから、ニアタのパーツから読み取った情報を聞いたんだが……ニアタの世界のディセンダーの姿はカノンノにそっくり……いや、彼女の名前もカノンノだったそうなんだ」

 

「ニアタの世界のディセンダーと、私がそっくり? 名前も……同じなんて……でも、私はパスカなんて世界や、ニアタの事なんて何も知らない……」

 

[混乱させてしまった様だね。すまない]

 

カイから話を聞いたカノンノは混乱するが、その姿を見たニアタが謝罪。カノンノがニアタの世界の事を知らなくても当然。何故ならこの世界ルミナシアに故郷パスカの因子はなく、カノンノはこの世界の住人であり自分達の世界とは何の接点もないのだから。と説明する。

 

「わ、私はただ……あなたに聞きたい事があって……色んな世界を旅したあなたなら、何か知っているかもって……」

 

[何を聞きたいのかね……]

 

カノンノのどこか焦ったような言葉に対しニアタは落ち着いた様子で返答。カノンノはニアタに近づくとスケッチブックと謎の文字を書いたメモを取り出し、ニアタに見せる。

 

「あの、この風景を、見た事はありませんか?……この世界にはない風景なんです。この文字も……」

 

[これは……この風景は我々がかつて訪れた別の世界のものだ……この文字にも見覚えがある。これはまた別の世界のものだ……]

 

「それって…」

 

ニアタはカノンノのスケッチブックに描かれた風景や謎の文字を見覚えのあるものだと言う。それにカノンノが驚いているとニアタは[仮定だが]と前置きをして話し始めた。

 

[そなたの中にあるのは、かつてあった世界の因子ではないだろうか? その因子はこの世界のどこにもなく、そなただけに受け継がれているのだ]

 

「それが、なぜ……私に?」

 

[それは、我々にもわからぬ]

 

ニアタの仮定を聞いたカノンノはかつてあった世界の因子が何故自分だけに受け継がれているのか、と問う。が、ニアタはそれは分からない。と返答。しかしカノンノの存在から我々の世界以前にもカノンノの因子があったという事かもしれない、どこかの世界にカノンノという個体の情報の根源があり、その世界から派生したのがここルミナシアや自分達の世界パスカなのかもしれない。という仮定を出した。

 

「皆さ~ん!!」

 

と、そんな焦った声が聞こえてきた。

 

「ロックス、どうしたんだ?」

 

「皆さん、船が……船が……高度を保てなくて、降下し始めたんです! 皆さんの帰還を待とうにも、この高さまでバンエルティア号が上がれなくなってしまって……」

 

「じゃあ、私達はここに残された状態に?」

 

「あたしはホウキがあるけど、せいぜい一人が限界よ!」

「私は……出来るかなぁ……」

 

ロックスの説明を聞き、アーチェが焦り、コレットは他の人達を運べるかと不安になる。ロックスは混乱しているのか「大丈夫です! 僕が持ち上げて飛んで連れて帰ります!!」と言っており、カノンノに「そんなの無茶だよ!」とツッコミを入れられていた。

 

[待ちなさい。そなた、今バンエルティア号、と言ったかね?]

 

「え、ええ。そうですが…(…何だか硬そうなヒトだなぁ?)」

 

[……それは驚きだ。ますますこの世界に興味が湧いた]

 

「話は後だ。一度戻るぞ」

 

ロックスがニアタの事を硬そうな人だなぁという印象を持っている横でカイは一度戻ろうと提案。カノンノ達も頷いて元来た道を戻り、バンエルティア号が待っているはずの場所に戻ってくる。だがそこに船の姿はなく、彼らがヴェラトローパから見下ろすとどうにか視認できるほどの距離までバンエルティア号は下降していた。

 

「も、もうあんな所まで……」

 

「えっと、コレット。あたしがカイを運ぶからあんたはカノンノを……」

 

カノンノが慌て、アーチェはコレットに指示を出し始める。

 

「いや、心配はいらない」

 

が、それをカイが制し、彼は印を組み始める。

 

「忍法、影分身」

 

そう言うと共に彼の両隣に現れる二体のカイの影分身。しかし彼は続けて新たな印を組んだ。

 

「影幻術――」

 

印を組み終えた時、二体の影分身が正に影のように黒くなり、直後溶けるように崩れると組み合わさる。

 

「――鴉」

 

その組み合わさった影は赤く目を輝かせる巨大な鴉の姿に変化していた。その巨大さたるや人二人は軽く乗せられるはずだ。現に背中に飛び乗ったカイの横にはまだ人一人乗るには十分なスペースが残っている。

 

「カノンノ、乗れ。アーチェはロックスを、コレットはニアタを頼む」

 

「オッケー! ロックス、乗って!」

「うん! はい、ニアタさん」

 

カイが指示を飛ばし、アーチェが頷いてロックスに乗るよう促すとロックスは「失礼します」と言ってアーチェの後ろに座り、ニアタはコレットに抱きかかえられる。

 

「んっと……」

 

しかしカノンノは踏ん切りがつかないのかおどおどと視線をさまよわせるばかり。

 

「カ、カイ、やっぱカノンノはあたしが……」

 

アーチェが申し出るが、カイはそれを遮るようにカノンノに向けて手を伸ばす。

 

「カノンノ」

 

カノンノに向けて手を伸ばし、カイは真剣な目を彼女に見せる。

 

「安心しろ。俺を信じろ」

 

「カイ……うん!」

 

真剣な目に相手を勇気づける笑顔でのコンボにカノンノは頷き、彼の手を取ると鴉に飛び乗る。

 

「よし、いくぞ!」

 

カイが合図を出すと鴉は翼をはためかせてジャンプ、そのままグライダーのように少しずつ落下していく。アーチェとコレットもその後に続いた。

 

「……ほんと、あれであの二人付き合ってないってのが信じられないわ」

 

「ふふ。しかし、カイ様にならお嬢様を任せられますね」

 

「ありゃ意外。カノンノは嫁にやらんとかいうお父さんポジションだと思ってた」

 

「私はそこまで言うつもりはありません。私はお嬢様の幸せを心から望んでいますので、恋愛にまで口を出そうとは……」

 

呆れた様子のアーチェにロックスがそう言うとアーチェは悪戯っぽく笑いながら言い、ロックスも穏やかに笑う。

 

「ですが、相手がお嬢様を悲しませる、もしくは私が認められない男だった場合……」

 

だが次の瞬間ロックスの笑みに黒いものが宿り、アーチェは背筋に寒気を感じた後見なかったことにして前を向き直したのであった。

 

 

 

 

 

「ほう、驚きましたね。この船は星晶を使用した内燃機関と思っていたのですが」

 

バンエルティア号の機関室。ニアタはやって来て早々、カイ達からの紹介と説明もそこそこにここにやってきてエンジンの不調を確認していた。すると一緒にエンジンを調べていたジェイドが呟く。

 

[これは半永久機関だ。別の世界で同じ仕組みの船を見た事がある……ふむ……異常の原因は調整に必要な計算を間違えた為だろう]

 

「うっ……」

 

ニアタの言葉に調整をしていたのだろうチャットが渋い顔を見せる。

 

「では、機器類自体に異常は無いのですね」

 

「そういえば、僕達この船に乗って長いけど、燃料の星晶を補充したところは、一度も見た事なかったよね」

 

ジェイドが機器の異常がない事を確認すると古株であるエミルがそう呟き、それを聞いたジェイドがチャットを見る。

 

「チャットは知っていたのですか?」

 

「もちろんです」

 

「……本当ですか? そういう大事な話は、早くして頂かないと困ります」

 

チャットは得意気にジェイドの質問に答えるが、それを聞いたジェイドは目つきを鋭くした。

 

「いいですか。この船は星晶で動いていない。これがいかに重要な話かわかりますか? 星晶を採り尽くし、後退に向かうしかないこの世界を救う光明となるかもしれないのですよ?」

 

「それじゃあ……」

 

「もし、この機関の仕組みを解明し、同じ物が作れたとしたら……星晶を巡って国家同士が争う事も、採掘の為に人々が駆りだされる事も無くなりますよ」

 

「そ、そうですが!……ボクはひいおじいさんとの約束で、この船の技術を守る様に言われていたんですよ!」

 

ジェイドの説明と指摘を受けたチャットはそう強く言い返し、「今回故障したのは想定外でしたけど……」と声を漏らす。

 

「灯台下暗し……だね。変わった船だなぁ、とは思っていたけど」

 

「この機関はヴェラトローパの民によるものか、それとも異世界の物なのか……いずれにしろ、星晶を用いない優れた技術を持った民がいたんですね」

 

[半永久機関、か……方法が無い訳ではないが……]

 

ジェイドの言葉を聞いたニアタが呟く。

 

「何か名案でも?」

 

[いや……今はまずこの船を直そう]

 

ニアタの呟きを聞いたジェイドがそう尋ねるが、ニアタはそう言って調整を再開。すると船の駆動音が変わり、それを聞いたチャットの頬がほころんだ。

 

「ああ、直りました! ううっ……本当に良かった……」

 

「船の高度も上がっている様ですね。やれやれ、一時はどうなる事かと思いましたよ。これでまた仕事に励めますね」

 

チャットの嬉しそうな言葉に続き、ジェイドはそう呟いたのであった。それを見届けたニアタはふよふよと浮遊し、ホールへと移動する。

 

「ニアタ」

 

と、ホールへと来たニアタにカノンノが声をかけた。

 

「なぜ、アドリビトムに力を貸そうと思ったの?」

 

[誓いを立てたのだ。我々の故郷の因子を受け継ぐ世界に力を貸していくと。我々は死ねぬ機械の身体。永遠の時間を生きなければならん……故郷のディセンダーに仕える為に、我々が選んだ道だが]

 

「私も、この世界も、ニアタの故郷の情報因子を受け継いでいないんでしょう。なのに……」

 

ニアタの言葉にカノンノはそう尋ねる。だがニアタは[我々のディセンダーなら、そんな事は考えないさ]と返した。

 

[危機が訪れれば、乗り越える。我々は、その意志を受け継いでいるだけだ……それに因子を引き継いでいないこの世界に、そなたがいる事にも興味がある]

 

ニアタはそう言った後少し黙り、[いや、興味と言う言い方は良くないな……]と言って発言を訂正するように声を出した。

 

[嬉しいんだよ。またカノンノに出会えた事が……]

 

「私は……ニアタの世界のカノンノにはなれないよ……」

 

[我々はそんな事は望んではいないよ。そなたは、そのまま自分の望む姿でありなさい]

 

「……うん。ありがとう」

 

ニアタの言葉に対し不安気にニアタの世界のカノンノにはなれないと言うカノンノだったが、ニアタはそんな事は望んでないと返す。その優しげな言葉にカノンノは嬉しそうに微笑み、返す。

 

「あ、そうだ。カイにもお礼を言わなきゃ!」

 

ニアタにお礼を言って思い出したのか、カノンノはそう言ってカイを探しに走っていき、ニアタはそれを見送る。機械の身体のため目などの器官はない。しかしその様子はどこか愛娘を見守る父親のような雰囲気を見せていた。

 

「カイ!」

 

カノンノがやってきたのは甲板。カイはそこで手すりにもたれかかって風景を眺めており、カノンノの呼びかけを聞いてゆっくりとカノンノの方を見る。

 

「よお、なんか用か?」

 

「うん、用事っていうか……お礼を言ってなかったって思って」

 

カイの言葉にカノンノはそう用件を伝え、カイは「お礼?」と尋ね返す。

 

「ヴェラトローパへ連れて行ってくれた事、嬉しかったよ。ありがとう!」

 

カノンノは元気に微笑んでお礼を言い、それを聞いたカイはふん、と一つ鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 

「別に。俺は依頼を遂行しただけだ」

 

「でも、嬉しかったの。私の存在が何なのか、はっきりとはわからなかったけど……仮にニアタの話が正しかったとしても、私の中に過去の世界の記憶が何の為にあるのかなんて、わからないけど……」

 

素直ではないカイに対しカノンノはやや不安気な様子を見せつつ、しかし嬉しそうに微笑む。

 

「ここまで考えられるようになったのはカイが、依頼を出したら一緒に行ってくれるって言ったおかげだから。だからね、ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

カノンノの輝かんばかりの笑顔でのお礼にカイはそっぽを向いたまま静かにそう返したのであった。

 

 

 

 

 

「ふんふんふふ~んっと♪」

 

それから時間が過ぎて星の輝く夜中。ハロルドは以前ヴェラトローパを出現させようと作った装置――結果的にカイル達をこの世界に呼び込んでしまったものだ――を甲板に出して操作を行っていた。その近くにはカイル、リアラ、ロニ、ジューダスが立っている。が、装置はキンキンキンという音を発した後沈黙。ハロルドはふむぅと声を漏らした。

 

「失敗みたいね」

 

「またかよ~……」

 

ハロルドの言葉にロニは気が抜けた様子で呟く。

 

「いつになったら元の世界に戻れる事やら」

 

「まあ、バルバトスがこっちの世界にいるんだから。放って帰るわけにもいかないけどね」

 

ジューダスはため息交じりにそう呟くがリアラは苦笑交じりに言い、ジューダスは無言でひと足先に船内に戻っていく。

 

「おいジューダス! 片づけんの手伝えよ!」

 

ロニが声を上げるがジューダスは我関せずとばかりに歩いていき、ロニも諦めたのかため息交じりに装置を乗せている台車のタイヤロックを外し、カイルとリアラに前方や周囲の注意を任せると台車を押して船内に戻っていった。

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

バンエルティア号から遠く離れたとある森の近く。そこに突如光が走ったかと思うと二人の人間が姿を現した。一人はオレンジ色のふわふわとした髪質で華奢な身体にローブを身にまとうその姿はまるで僧正を思わせる。もう一人は桃色の髪で頭にチューリップのような髪飾りをつけている。オレンジ髪の方は立って辺りを見回しているが、桃色髪の方は気を失っているように倒れ込んでいた。

 

「ここは一体? 確か……」

 

オレンジ髪の僧正は呟き、何が起きたかを思い出そうとする。しかしその時、近くの森の繁みががさがさっと揺れるとウルフの群れが無防備な獲物である二人に襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

僧正はもう一人の少女が起きそうにないと判断すると近くに転がっていた愛用の杖を握りしめ、持ち上げる。その時杖の先端にまるで三叉槍(トライデント)のようにくっついていた三本の蝋燭に魔力の火が灯った。

 

「バリアー!」

 

叫び、魔力を解放。同時に二人を覆うように魔力の障壁が出現し、ウルフ達は障壁に直撃するとその痛みに怯む。その隙に僧正は己の中のマナを解放、限界突破(オーバーリミッツ)を行った。

 

「原始灼光! エンシェントノヴァ!!」

 

周りのマナをかき集め、解放した己のマナをも加えて古の炎を呼び出し、ウルフ達を一撃で薙ぎ払う。生き残ったウルフもその魔術の威力を見て恐れをなしたのか森の中に逃げていき、僧正は骨も残さず焼き尽くされたウルフを見ると哀しげな目を見せ、杖を置くと片膝をついて両手を組み祈りを捧げるように目を閉じる。

 

「……どうか、あなた方に神の、我らが世界樹のご慈悲があらん事を」

 

ウルフ達の冥福を祈る僧正。と、その後ろから「う、ん……」という声が聞こえてきた。

 

「起きた?」

 

「え?……あれ? ここどこ? 世界樹の麓……じゃないよね?」

 

僧正の言葉に少女は辺りをきょろきょろと見回しながら尋ねる。

 

「えっと、私達って確か……」

 

「状況はよく分からないんだよね……とりあえず、そこに建物があるし。ここで話し合うよりあそこで話した方が安全だと思うよ」

 

少女の言葉に僧正がそう言い、杖で一つの方向を指し示す。そこには石造りでどこかコロシアムのような様相を見せる建造物があった。

 

「ん~……そうだね。ま、何かあっても私達なら大丈夫か」

 

「うん。出来れば荒事は避けたいけど」

 

少女と僧正は能天気にそう笑いながら言い、少女は近くに落ちていた身の丈程ある大剣を背負い、僧正も杖を背負うとその建物の方に歩いていった。




《後書き》
久しぶりのテイルズ小説更新です。
最初の方にやったユンの糸電話は……ほとんどがただの悪ノリだったりします。本編でもキールが虫眼鏡で紙に火をつけたり下敷きで頭を擦って静電気を発生させるってのを実験と称して超真面目にやってたからほとんどああいうノリで。
さて今回はニアタ仲間入りです。さてそろそろ本格的にカイカノをくっつけるように動かし始めようかな……。
そして最後に登場した新キャラ。僕が以前活動していたMP文庫時代からのキャラなので古参の方(MP文庫時代からの読者の意)ならすぐに分かると思います。(笑)……というか、一緒に出てきたキャラがキャラなので設定上どのポジションのキャラなのかは勘の良い方なら分かると思います。
もちろんハーメルン用にリメイクするにあたって設定がやや変更になってますので、そこのところからちゃんと説明は入れていきますからご安心ください。
今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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