テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第三十四話 チーム・テレジア

「ぬりゃあっ!!!」

 

バンエルティア号の甲板。普段鍛錬や組手が行われているここでいつものように組手が行われていた。戦っている一人はカイ、その相手をしているのは筋骨隆々の巨体を惜しげもなくさらしているスキンヘッドの男性だ。

その丸太のように太い腕から放たれるパンチがカイを襲うが、カイはそのパンチを見切ってぎりぎりかわし、その放たれる風圧にやや怯みつつも左腰に挿していた刀を逆手で引き抜きつつ男性目掛けて逆手居合斬りを見せる。

 

「ファルコンフレッジ!」

 

「ぐふっ!?」

 

だが男性は巨体に似合わぬスピードの膝蹴りでカイに反撃、斬撃を与える前に攻撃をくらってしまったカイは怯み、同時に刀が弾き飛ばされてしまう。

 

「あ、カイ!」

 

「もらったぁっ!」

 

観客のカイルが悲鳴を上げ、カイが見せた一瞬の隙を見逃さず男性は両拳を打ち合わせると拳を電撃が纏う。

 

「ボルトスラストォ!」

 

そして電撃を纏うストレートがカイ目掛けて放たれた。

 

「そうは――」

 

「ぬおっ!?」

 

だがカイは攻撃を紙一重でかわしつつ咄嗟に男性の腕を取り、さらに足払いで相手のバランスを崩させる。

 

「――いくかっ!」

 

「ぬおがっ!?」

 

そしてどしゃぁんという音が響く。カイは男性の巨体を背負い投げで投げ、甲板に叩きつけたのだ。そして間髪入れずにナイフを抜くと相手の喉元に突きつける。

 

「……俺の勝ちだな」

 

「……ちぃっ」

 

カイの言葉に男性は悔しそうに舌打ちを叩くと降参の意を示すために両手を挙げる。

 

「そこまで! 勝者、カイ!」

 

そして今回の組手で審判役を務めていたスタンが声を張り上げた。

 

「うっはー。カイ、あんたコングマンの巨体ぶん投げるなんて、やるわねぇ……」

 

見学していたルーティが驚いたように声を漏らす。

 

「セネルから投げ技の際の体重移動や重心のコツを教わってたからさ」

 

「あー……あいつこの前ドラゴンぶん投げてたっけ」

 

セネルは投げ技の達人、なにせ己の数倍の巨体を誇るドラゴンの尻尾を掴み、その巨体を持ち上げて地面に叩き付けるわ投げ技と言っていいのかは不明だが敵の種類によっては巨大な敵の体内に潜り込んで内部からダメージを与えるというトンデモ技の使い手なのだ。それの直伝と言われてしまい、ルーティはつい納得してしまった。

 

「いっちちちち……」

 

「大丈夫か、コングマン?」

 

「けっ、テメエに心配される程やわじゃねえや」

 

頭を押さえながら起き上がる男性――コングマンにスタンが心配そうに手を差し伸べるが、コングマンはその手を払いつつ自力で起き上がる。棘のある言葉や行動だがその顔には笑みが浮かんでおり、ちょっとしたじゃれ合いのつもりらしく、スタンもそれを分かっているのか苦笑を見せていた。

 

「おう。テメエ、カイとか言ったな?」

 

「ああ」

 

立ち上がったコングマンはカイを呼ぶ。それにカイが反応するとコングマンは両腕を組んだ。

 

「改めて名乗るぜ、俺様はマイティ・コングマン。闘技場無敗のチャンピオンだ!」

 

「ま、今はスタンに負けちゃってるけどね~。あと、ついさっきカイにもね」

 

「るせい!」

 

コングマンの威勢のいい名乗りにルーティが茶々を入れ、コングマンはルーティに怒る。

 

「まあ、スタンがチャンピオンを辞退したから、今も俺様がチャンピオンだがな……だが、そんなものでチャンピオンになるこたぁ俺様が許せねえ。だから決めたのよ、俺様はこの船で武者修行に励み、スタン・エルロン。テメエをぶっ飛ばすってな!」

 

「ん~……俺はジルディアの問題の解決を手伝ってくれたらそれでいいんだけど……」

 

「ふん。勝ち逃げなんか許さねえぞ! 俺様はチャンピオン、この世界のガキどもの夢そのものなのよ。チャンピオンは常にナンバーワンでなくちゃなんねえんだ! だからスタン、テメエに勝つまで俺はこの船を離れねえ! そしてカイ、テメエにも勝つ!!」

 

カイに話していたはずなのに唐突にスタンへ挑戦状を叩きつけるコングマン。それに対しスタンも困ったように頭をかくとコングマンはふんと鼻を鳴らして己の信念を語り、スタンのみならずカイへも挑戦状を叩きつけた。

 

「……知り合いだったのか?」

 

「あ~、まあちょっとした腐れ縁ってやつ? 恋敵っていうか」

 

「恋敵?」

 

だがそのカイは挑戦状云々の前にスタンとコングマンが知り合いであることが疑問であるように問い、その質問にルーティが笑いながら答える。それにカイが再び首を傾げた。

 

「あの、スタンさん……こちらにいると伺ったのですが……」

 

と、船の中から緑色の髪を三つ編みのおさげにしたメガネの女性――フィリア・フィリスが出てきてスタンに声をかける。

 

「フィ、フィリアさん! お久しぶりです」

 

「コングマンさん、なぜこちらへ……」

 

と、コングマンは突如フィリアの方を向き、彼女に近づいて跪くと妙にキラキラとした笑顔を振りまきながらフィリアに挨拶。フィリアも驚いたようにコングマンに問いかけた。

 

「ご存知のように、俺はスタンに負けてしまいました。今もスタンの代わりとしてチャンピオンの座を守り抜くと誓っていますが、そのためには力不足。そのため俺は武者修行に励むと誓い、ここへやってきたのです」

 

「は、はぁ……」

 

「ですがフィリアさん、あなたの事も俺が守ります。チャンピオンの名に賭けて!」

 

「え、えーと……ス、スタンさん、アンジュさんがクエストでお呼びなので、その……」

 

「ああ、分かったよ。ありがとう、フィリア」

 

「い、いえ……」

 

コングマンの言葉にフィリアは困ったような反応を見せつつ、用件のあるスタンに説明。スタンが爽やかな笑顔でフィリアにお礼を言うと、彼女はぽっと顔を赤らめてうつむいた。

 

「……ま、そういうわけ」

 

「なるほど」

 

ルーティの言葉にカイは納得いったように頷いた。

 

「カイ、皆。ロックスがおやつだって呼んでるよ」

 

「今日は、クレープシュゼットだよ!」

 

と、スタンと入れ替わるようにカノンノとイアハートが船から顔を出しながら甲板の皆を呼ぶ。と、二人を目の当たりにしたカイルが「うわぁっ!」と声を上げた。

 

「やっぱ、二人並ぶとビックリするなぁ……」

 

「なんでいこの嬢ちゃん? 双子か?」

 

「あ~。まあそういう事にしといて」

 

カイルがふぅと息を吐き、コングマンが首を傾げるとルーティが誤魔化す。そのまま一行は食堂へ行き、グレープシュゼットを食べ始める。

 

「あ、そうだ」

 

と、カイルが何か思い出したようにカノンノ達を見る。

 

「カノンノにイアハート、最近チームで闘技場に参加しなかった?」

 

「ううん?」

「してないけど……」

 

カイルの質問にカノンノとイアハートは首を横に振って返す。と、カイルが「おかしいなあ」と漏らした。

 

「最近、闘技場チームバトル部門の優勝者のメンバーの名前がカノンノって言うらしいんだ」

 

カイルはそう話し、「髪もピンク色で、女の子で……とにかく、カノンノそっくりらしいんだよ!」と証言する。

 

「おう、そういやそんな噂を聞いた事あるな。俺様は個人部門専門だったから興味もなかったが……」

 

チャンピオンであるコングマンがその噂を肯定する。が、「まあ、俺様の筋肉についていける奴がいればチームバトル部門のチャンピオンも俺様だったがな」と彼はがははと笑いながら続けた。

 

「うぅ~……知らないなぁ?」

 

カノンノが首を傾げ、困ったように呟く。

 

「でも、ちょっと興味あるかも」

 

「そだね。あたしも見てみたい」

 

するとイアハートがくすっと笑いながらそう言い、ルキもうんうんと頷く。

 

「確かに面白そうだな」

 

[ふむ。それは、興味あるな。行くのであれば、我々も付いて行こう]

 

カイも好戦的な笑みを浮かべて呟くと、いつの間にいたのかニアタもそう続ける。

それからおやつを食べ終えた辺りでその噂に興味を持ったカイ、カノンノ、ルキ、イアハート、ニアタはその噂を話したカイルと共に闘技場へとやってくる。

 

「世界中の屈強なツワモノが集う闘技場へようこそ!」

 

カイ達を出迎えるのは白い小さな身体で二股の尻尾を羽ばたかせて飛行する、ロックスに似た不可思議な生物。闘技場の支配人であるモルモだ。

 

「すまない。最近、カノンノという少女がチームバトルに出場している。という噂を聞いているんだが……」

 

「あぁ、カノンノのこと? 最近よく聞かれるんだよねぇ」

 

カイの質問にモルモはまるで古い友達が褒められているかのような上機嫌の様子を見せる。

 

「って、うわぁっ!?」

 

「どうした?」

 

と、モルモは突然驚いたように声を上げた。

 

「カ、カノンノ!? なんでここに、確かさっきミアハと一緒に……って、え、二人!?」

 

モルモが驚いた様子で見ているのはカノンノとイアハート。二人ともぽかんとした様子で「え?」と漏らしている。

 

「……そのカノンノっていう子、カノちゃんやグラスバレーとそっくりみたいだね」

 

ルキがモルモの反応からそう述べる。

 

[……]

 

と、ニアタは何か引っかかっているような様子を見せながら無言になった。

 

「……べ、別人なの? あーびっくりした……えっと、カノンノだっけ? それなら今、チームバトルで戦ってるはずだから見てくるといいよ。もちろん、挑戦したいならご自由に。お客さんを楽しませてくれるなら乱入大歓迎が闘技場だからね!」

 

モルモはそう闘技場のスピーチ交えにカイ達を誘い、カイもこくりと頷いて客席の方へと向かっていった。

そして闘技場の客席にやってきた時丁度歓声が聞こえ、その内容から丁度件のカノンノを名乗る少女の試合が始まる様子だ。

 

「さあ、突如現れ、チームバトル部門のチャンピオンとなったチーム・テレジア! 新たな刺客を前にその実力を見せるか!? それとも新たな刺客が新たなチャンピオンへと昇り詰めるか!?」

 

[テレジアだと!?]

 

司会の言葉に反応するニアタ。その横でイアハートが「え?」と口を手で押さえながら呟き、ルキも「ほえ?」と声を漏らす。

 

「ウソ……ぐ、偶然?」

 

「だと……思いたいよね……」

 

イアハートとルキがぼそりと呟き、彼らは客席から闘技場を見下ろす。そこに立っているのは剣士、戦士、魔法使い、僧侶という所謂スタンダードなパーティ。それに対峙するのはオレンジ色のふわふわとした髪質で華奢な身体にローブを身にまとった僧正風の青年と、桃色の髪で頭にチューリップのような髪飾りをつけている。カノンノによく似た少女だ。

 

[っ……]

 

その少女を見た瞬間、ニアタが固まった。

 

「あ、あれってミアハだ」

 

その横でカイルが僧正を見てそう呟く。

 

「知り合い?」

 

「うん。この前闘技場で傷の手当てをしてくれたんだ」

 

「って事は、あの人はスタッフか」

 

カノンノの質問にカイルがそう説明、カイが呟く。

 

「さあ、バトルスタートです!」

 

司会の声と共に、カーンという試合開始を示す鐘の音が響く。それと同時に戦士と剣士が突進、魔法使いと僧侶も詠唱を開始した。

 

「シャープネス! バリアー!」

 

しかしそれよりも早く、いや、もはや無詠唱の速さでミアハが補助魔術を発動。カノンノに力を与え、さらに守りを固める。

 

「怒れる焔、猛追……ファ――」

「ファイアボール!」

「――きゃあっ!?」

 

さらにようやく詠唱を完了させた魔法使いよりも早く、それどころか無詠唱でミアハは炎属性の初級魔術を発動。魔法使い目掛けて火球を放ち攻撃する。

 

「まずい、先にあの魔術師を片づけるぞ!」

 

「おう!」

 

剣士と戦士もミアハに狙いを定め、彼に足を向ける。

 

「そうはいかないよ!」

 

だがそこにカノンノが斬りかかった。

 

「ちっ、邪魔だ!」

 

戦士が己を振りかぶり叩きつけるように振り下ろすが、ミアハが張った障壁が斧の刃からカノンノを守る。

 

「せやぁっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

そしてカノンノが反撃するように剣を振りあげて戦士に斬りつける。さらに刃を返して剣を掲げ、追撃を見舞おうと構えていた。

 

「危ない!」

 

しかし剣士はカノンノへの反撃よりも戦士を守る事を選択。左手に盾を構えながらカノンノの前に躍り出て防御態勢に入る。

 

「すぅっ……せああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

息を吸い、声を放ちながら勢いよく剣を振り下ろす。ガギィンという音が響いて剣と盾がぶつかり合い、そう思うとバギィンという音が響いた。カノンノの剣の一撃が剣士の盾を砕いたのだ。

 

「んなっ!?」

 

見た目華奢な少女が盾を一撃で粉砕してくるとは想像だにしていなかったのか、剣士は驚愕に固まってしまう。

 

「ミアハ!」

 

瞬間、カノンノはその場を横に飛び退きながらミアハに呼びかける。彼は既に詠唱を行っていた。

 

「穿て、灼熱の旋槍! スパイラルフレア!!」

 

叫び、炎のマナを解放。それは灼熱の矢となりて渦巻き、剣士と戦士を呑み込む。

 

「「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!!」」

 

二人の悲鳴が響き、炎が消えた後二人は黒こげになって倒れていた。

 

「やば、回復!」

 

「は、はい!」

 

後衛の魔法使いが僧侶に回復を指示、僧侶も頷くと詠唱を開始した。

 

「させないよ!」

 

「ひぅっ!?」

 

だが、ミアハの攻撃の合間に距離を詰めていたのだろう。僧侶の前にカノンノが立って僧侶に剣を向ける。

 

「くっ!?」

 

「詠唱するならミアハの方が早いし、最悪剣で殴ってこの子を気絶させた後、すぐに追撃する……さあ、どうする?」

 

魔法使いがすぐに詠唱を開始しようとするが、カノンノは冷静に、だが綺麗な微笑みを見せながらどうするかと尋ねる。それに魔法使いは「ぐぬぬ……」と唸り声を上げた後、はぁとため息をついて杖を放り捨てた。

 

降参(リザイン)

 

カランカランと音を立てて杖が床を転がり、魔法使いの降参の宣言が響く。彼女は僧侶にも目を向け、僧侶もこくんと頷くと杖をそっと床に置いた。これでチーム全員が戦闘続行不可能の状態になり、先ほどチームの一人から降参の宣言もなされた。

 

「試合終了! チャンピオンチーム・テレジア! 数の不利をものともせず圧倒!!」

 

カンカンカンカーンと鐘の音が四度鳴らされ、司会の高らかな宣言が続く。

 

「強い……」

 

客席のカノンノもぽかーんとした顔を隠せていなかった。

 

[あれは、もしや……]

 

ニアタが呆然とした、信じられないとばかりの声を出す。

 

「……あのミアハってやつ……」

 

カイも客席からミアハを睨み、声を漏らす。

 

「……気になる?」

 

と、ルキがそう声をかける。彼女もミアハに目を向け、さらにカノンノにも気を向けていた。

 

「ニアタが色々気になってるっぽいんだけど……」

 

ルキはニアタの方をちらりと見ながら、どこか輝いている目を見せる。

 

「……乗ってやる」

 

「おけー」

 

その真意を見抜いたカイの言葉にルキは笑顔で頷き、二人は客席から飛び降りた。

 

「カイ!?」

「ルキ!?」

 

カノンノコンビの驚愕の声が重なるが、二人は既に闘技場へと降り立っていた。そしてルキは背負っていた斧を右手に握り、ズドンと床に叩きつけて床にヒビを入れながらミアハとカノンノをびしっと指差す。

 

「あたしらアドリビトム! チーム・テレジアに挑戦する!」

「乱入オッケーが闘技場のルールだよな!?」

 

びしっと指差しながら宣言するルキに続いて、カイも刀を抜きながら宣言。

 

「おぉっと、ここで乱入だぁ! しかもチーム・テレジア、言うまでもなく挑戦を受ける模様!」

 

司会の声が響く。その言葉通り、既にミアハの元に戻っていたカノンノは剣を構えており、隣のミアハも戦闘準備は万端の様子を見せている。

 

「さあ、あのアドリビトムからの挑戦者! チーム・テレジア相手にどのような戦いを見せてくれるのか! さあ、バトルスタートです!」

 

司会の声と共に試合開始を示す鐘の音が響く。それと同時にカイの姿が消えた。

 

「バリアー!」

 

しかし同時にミアハがやはり無詠唱で魔術を発動、自身の周囲に障壁を張り、同時にその障壁にガギィンという音が響く。カイが透明な障壁に刀をぶつけたのだ。しかしその強度は強く、障壁を砕くには至らない。

 

「焔よ、雷となりて敵を討て――」

 

だがミアハは既に反撃の魔術を発動するための詠唱を開始しており、カイもどのような魔術が来ても対応できるよう距離を取ろうと下がる。

 

「――ファイアボルト!」

「ぐばっ!?」

 

だが詠唱が完了し、魔術が発動しただろう瞬間。カイを小さな爆発が襲う。

 

「な、んっ――」

「焔よ、雷となりて敵を討て!」

「――やべっ!?」

 

自分が反応できない程の速さで発動した魔術にカイは面食らう。特定座標への小規模攻撃、例えばエクスプロードの規模を小さくして威力を劣化させる代わりに詠唱速度やマナ消費量減少に特化させたオリジナル魔術かと咄嗟に思考を働かせて対策を練ろうとするが、同じ詠唱が聞こえてきた事に気づくと動き始める。

じっとしていればただの的、元よりカイは機動力に重視した戦い方を得意とする。彼はすぐさま相手に的を絞らせないように動き回りつつ、ミアハの張ったバリアーの穴を見つけ出す事を試みた。

 

(……くそ、穴が見当たらない)

 

しかしその結果は芳しくなく、カイは思わず舌打ちを叩く。ミアハの張ったバリアーは彼の周辺を完璧にガードしており、苦無を投げつけてバリアーの感触を確かめるがやはり砕くには相当の力が必要になりそうだ。

 

「静かなる焔、捕捉せよ!」

 

と、ミアハが新たな詠唱を唱え、同時に彼の周囲に五つの赤い球が出現。そう思うとそれらは意思を持ったかのようにカイ目掛けて飛んできた。

 

「どわっ!?」

 

咄嗟に伏せて飛んでかわすが、それらは不可思議な軌道を描いて再びカイに迫り、カイも地面を蹴って走り出すがそれらはなんとカイのスピードについてきていた。いや、単体のスピードではギリギリカイの方が上、だが複雑怪奇に動く赤い球体のコンビネーションによってカイの移動先を押さえ、結果としてカイについていっていた。そしてついにカイが赤い球体に囲まれる。

 

「起動せよ、サイレントフレア!!」

 

ミアハがそう唱えた瞬間、赤い球体が紅の光を放ち、一気に爆発。カイを呑み込んだ。

 

「「カイッ!!!」」

 

カノンノとイアハートの悲鳴が重なる。

 

 

 

 

 

「げ、やばっ!?」

 

「よそ見してるなんて余裕だね!」

 

「くっ!?」

 

ルキも爆発に巻き込まれたカイを見て悲鳴を上げるが、その隙をついて猛攻をしかけてくるカノンノに対抗するためすぐ視線を元に戻す。

 

「とう、せい、はっ!」

 

「おっと!」

 

カノンノは自分の身の丈もありそうな両手剣を軽々と振るっており、しかもそれでいて両手剣使いによくある一撃の間に隙が大きいという事もなく、身体全体を使って力と速さを見事に両立させた剣技を見せていた。単純な一撃の重さだけならばルキの方が確実に上、しかしその速さや剣の技によってルキはカノンノに追い詰められていた。

 

「せいやっ!!」

 

「なんの!」

 

カノンノの振り下ろす剣をルキは左腕に装着した盾で受ける。マンダージの民の超技術によって作られた救世主(ディセンダー)用の武具、ただの鉄製だろう盾のように容易く砕かれる事は無く、ぶんと腕を振って剣を押しのける。

 

「こんの、爆砕斬!」

 

「わととっ!?」

 

さらにルキは一度仕切り直すために斧を床へと叩きつけ、砕いた岩片を前方に放射させて攻撃を行う。

 

「カイ!」

 

岩片にカノンノが怯んだ隙にルキは体勢を立て直しつつカイを呼ぶ。その時爆発によって発生した煙が、風によって吹き飛んだ。

 

「……あぶねえ。土乱で壁を作ってなかったらやられてた……」

 

そこにはところどころか砕け崩れている岩の壁に囲まれたカイの姿があった。どうやら咄嗟に地面から岩を隆起させる特技――土乱を応用して壁を作ったらしい。だが爆発の力全てを防ぎきる事は出来なかったらしく、身体に若干の傷がついている。

 

「カイ、大丈夫!?」

 

「あぁ、だけどあいつのバリアーは固い……俺じゃあ突破に時間がかかりそうだ」

 

「そう……あのカノちゃんそっくりのカノンノも、大分強いね……力押しでどうにかなる相手じゃなさそう」

 

カイとルキはさっきまでの戦いから得た己の考えを話し合い、互いに一瞬沈黙。

 

「「いくぞ!」」

 

そして同時に突進する。カイはカノンノへ、ルキはミアハへ。要するに選手交代だ。

 

「崩襲脚!」

 

ダンッと勢いよく地面を蹴って飛び上がり、捻りを加えて蹴り下ろすような形の飛び蹴りを見舞うルキ。しかしその攻撃は障壁に阻まれ、ビリビリと障壁が揺れる。

 

「く……」

 

それと共にミアハもカイの攻撃では全く見せなかった焦りの表情を見せる。

 

「せいっ!」

 

「っと!」

 

カイも鋭く踏み込むと刀を振るい、カノンノはステップを踏んでかわしながら反撃に剣を振るう。しかしカイは引き戻した刀で剣を受け流すという一進一退の攻防を見せた。

 

「だったら」

 

カイは左手を懐に入れ、何かを取り出すと勢いよく地面に叩きつけ、同時にその何かがぼふんと小さく爆発すると彼を煙が包み込む。煙玉による煙幕、カノンノがそう判断した次の瞬間その中から数人のカイがカノンノへと飛びかかった。カイの得意技、影分身の術だ。

 

「ええっ!?」

 

ぎょっとするカノンノだったが待ってくれる相手でもなく、カノンノは刀やナイフを手に斬りかかってくるカイを睨むと剣を振るう。だが数の差もあってか防戦一方の状態になってしまっていた。

 

「カノンノ、伏せて!」

 

と、ミアハの声が響く。それと同時に空中に炎のマナが集中した。

 

「来たれ爆炎、焼き尽くせ! バーンストライク!!」

 

そして巨大な火球が具現、カイとミアハの指示通り伏せているカノンノ目掛けて降り注ぐ。カノンノは伏せていたためダメージはそこまでなさそうだが、カイは回避に精一杯になっており、その内分身が次々と火球に当たって消えていく。

 

「もらったぁっ!」

 

だがカノンノの援護のために攻撃魔術を放つときにバリアーが消えてしまったのか、ルキがミアハに突進。斧を振り上げると叩きつけるように振り下ろし、ミアハは咄嗟にバックステップを踏んで距離を離そうとする。しかし再びバリアーを張られては面倒とルキも考えているのか、彼女はミアハから離れないよう常に距離を詰めるように動いていた。

 

「せいやぁっ!!!」

 

「くっ!」

 

ルキの斧にミアハは杖を振るい対抗する。しかしまともにぶつかり合っては後衛型の彼はもたないため受け流し、回避に努めた時間稼ぎが精一杯の様子だ。

 

「君達が何者なのか知らないけど……こうなったら本気出すしかないみたいだね!」

 

ミアハが何か覚悟を決めたような目でそう叫び、杖をぶんと振るってルキを一瞬引き離した瞬間、彼の杖の先端についている三つの蝋燭を炎が覆い、まるで刃のような鋭い形に変形する。それはまるでトライデントのようだ。

 

「せいやっ!」

 

「え、わっと!?」

 

杖がいきなり槍に変化したという光景に驚いていたルキはしかし炎の槍の突きを反射的に身体を逸らしてかわす。

 

「うっひゃービショップかと思ったのに何、槍戦士?」

 

「あいにくビショップですけど……色々ありまして。護身くらいには近接戦闘を修めてるんです」

 

ルキは斧の柄を伸ばして両手持ちにシフトしながら呟き、それに対しミアハも槍と化した杖をひゅんと振るうと構え直す。

 

「シャープネス、バリアー」

 

相変わらず無詠唱に近い速さで自らに補助魔術をかけるミアハ。しかしそれでもなお近接戦闘のスペシャリストである戦士、それもかなりの実力を持つだろう彼女には勝てないと彼は直感していた。しかしルキも彼が本来はビショップであることから魔術を警戒し、しかし彼が詠唱を始めたらすぐに距離を詰めて攻撃を仕掛けられるよう身構え、互いに硬直状態となっていた。

 

 

 

「刹月華!」

 

「くっ!」

 

左右に刀を切り払い、後ろ回し蹴りへと繋げる特技――刹月華がカノンノに迫り、カノンノは刃を剣で受けつつ回し蹴りを頭を後ろに反らして回避。

 

「掌底破!」

 

「はぐっ!?」

 

だがそこにカイはさらに左手の掌底で追撃を入れ、腹に掌底を入れられたカノンノは苦し気な息を吐く。

 

「こんのっ!」

 

しかしカノンノは下がる事なく逆に踏み込む。

 

「獅子戦吼!!」

 

「がふっ!?」

 

そしてカイ目掛けて膝蹴りを叩き込み、さらに膝から獅子の闘気を放って吹き飛ばす。

 

「やあああぁぁぁぁっ!!」

 

さらに吹き飛んだカイ目掛けて追撃を叩き込もうと突進する。

 

「かかったな」

 

「!? きゃああぁぁぁっ!」

 

しかしカイがそう呟いた瞬間、カノンノが踏み込んだ地面から電撃が流れ、彼女を麻痺させる。

 

「忍法雷電、トラップバージョンだ」

 

苦無に雷のマナを込めて地面に突き刺し、時間差で電撃を起こし攻撃する特技――雷電。カイは獅子戦吼で吹き飛ばされた時、咄嗟にそれを仕掛けていたのだ。

 

「ぐ、げほっ」

 

だがカイも獅子戦吼のダメージで反撃を行う余裕はなく、カノンノの追撃を食い止める結果で終わってしまった。

 

 

 

 

 

「カノンノ!」

 

「よそ見してたら危ないよっ!」

 

ミアハが叫ぶがルキがその隙をついて攻撃を仕掛けると彼はバックステップとサイドステップを駆使して回避を始める。やはりシャープネスとバリアーによる補助を受けていてなおミアハは接近戦ではルキにかなわない。

 

「ファイアボール!」

 

無詠唱に近い速さで火球を放ち弾幕を張ってルキの動きを一瞬止める。その隙にミアハは杖を自分のすぐ横に立てて合掌。その瞬間彼を圧倒的なオーラが包み込む。限界突破(オーバーリミッツ)だ。

 

「緊急用の技だけど、やむを得ない!」

 

そしてミアハは杖を右手で握り締め、右足を後ろに引いて杖を地面と平行に構え、開いた左手をルキの方に向ける。その時ミアハとルキの間に数個の魔法陣が出現した。

 

「秘奥義、クリアレストロッド!!!」

 

勢いよく先端に炎を纏った杖を投擲、それは魔法陣を通り抜けるごとに炎の勢いが増していき、しまいには全体が燃える炎の槍と化す。

 

「!」

 

それを見たルキも咄嗟に限界突破(オーバーリミッツ)を行い、斧の柄を伸ばして両手で握り締める。

 

「秘奥義、烈破焔焦撃!!!」

 

斧に炎をマナを込め、全力で振り下ろす。その斧と杖がぶつかり合い拮抗。

 

「「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

ミアハとルキの声が重なる。だがその時斧と杖に宿る炎のマナが膨張、

 

「なっ!?」

「きゃああぁぁぁっ!」

 

突然の大爆発を巻き起こした。

 

「ルキ!」

「ミアハ!」

 

鍔迫り合いになっていたカイとカノンノも思わず呼びかける。

 

「「きゅ~……」」

 

その爆発が止まり、爆発によって発生した煙が止んだ時。ルキとミアハは二人とも目をぐるぐると渦巻きにして気絶してしまっていた。目の前で爆発をくらえば流石のルキも耐えきれず、多少離れていたとはいえ僧正のミアハでは防御力が足りなかったらしい。審判から二人の戦闘不能アナウンスが響く。

 

「これで残るは俺達だけか」

 

「ふふふ……久しぶりに面白くなってきた」

 

カイとカノンノは鍔迫り合いの状態でそう語り合い、互いに相手の刀剣を弾くと距離を取る。そしてカノンノが目を閉じ、口から何か言葉を紡ぎ出すと共に魔力が彼女の周囲へと集中する。魔術を使う気だ。

 

「詠唱はさせん!」

 

相手の目論見を予想したカイがすぐに苦無を投げつけ、カノンノの詠唱妨害を図る。

 

「そう来ると思った! ストーンブラスト!」

 

しかしカノンノが詠唱していたのは詠唱時間の短い初級魔術、大地から放たれた石礫が苦無を防ぎ、その隙にカノンノは再び詠唱を始めた。

 

「氷結は終焉! せめて刹那にて砕けよ!! インブレイスエンド!!!」

 

水のマナが集中し、巨大な氷塊がカイの頭上に具現。そのまま重力に従い落ちてくる。

 

「っ!」

 

氷塊を見上げたカイも咄嗟にその場を飛び退いてかわす。だが氷塊は落ちた瞬間破砕、強大な質量によるプレスだけではなく破砕時に発生する氷の欠片の刃や鈍器による全方位攻撃にカイは怯む。

 

「やあああぁぁぁぁっ!!」

 

さらに間髪入れずにカノンノが突進、下段に構えていた剣を振り上げるように斬りかかる。

 

「ちぃっ!」

 

氷片を気にする余裕もなくカイはカノンノの剣劇に対抗し始める。右下から右上への斬り上げを刀で受け流すように弾き、続けて先ほどの軌道をなぞるような逆袈裟への振り下ろしをバックステップで回避。続けて突進しつつその勢いを利用した柄による突きを、刀を上空に放り捨てて空けた右手でカノンノの手ごと柄を掴んで防御。さらに自分の方に引き寄せて密着させ、膝蹴り及び獅子戦吼を封じる。客席からカノンノ・グラスバレーの「あー!」という声が聞こえるが気にしない。

 

「もらった!」

 

ともかくカノンノの動きを封じた隙に左手で短剣――グラディウスを抜いて左手をカノンノの後ろに回し、カノンノの背中から短剣を突き刺そうと試みる。

 

「古より伝わりし浄化の炎――」

「え!?」

 

瞬間、カノンノの口から詠唱が聞こえてくる。同時にカイとカノンノの頭上に炎のマナが集中。

 

「――落ちろ!――」

「待て、嘘だろ!?」

「――エンシェントノヴァ!!」

 

焦るカイも何のその、カノンノの魔術発動の宣言が響き、カイを狙う浄化の炎が落ちる。このままではやられるとはいえ術者である自分もろとも狙う自爆行為をカノンノは躊躇いなく行っていた。ドゴォンという爆音が響き、爆発の衝撃で割れた床の破片が辺りに飛び散り、煙が舞う。

しかしその煙の中から何かが飛び出すとゴロゴロと転がる。恐らく落ちてきた浄化の炎と第二撃の爆発を間一髪かわしたカイとそれに掴まれているカノンノだろう。しかしカノンノは自力で回転を止めると倒れていたカイの上に素早く乗っかる。マウントポジションの体勢だ。そのままカノンノは右手を振り上げるが、その手に剣が握られていない――流石にあの緊急回避から持ち続ける余裕もなかったのだろう――のに気づくとそのまま拳を握りしめ、勢いよく振り下ろして直接カイをぶん殴る。

 

「容赦ないっ!?」

 

客席のカイルが悲鳴を上げる。華奢な体格に見合わない大剣を力の限り振り回し、零距離から自分が巻き込まれる事をいとわない魔術を放ち、挙句には得物がなくなったからとマウントポジションでの殴り合いに持ち込む。可憐な容姿からは想像も出来ないダーティな戦い方を見せていた。なおカイも最初はついていけず何度か顔面を殴られていたが、今はカノンノの両腕を自分の両手で掴み、睨み合いに持ち込んでいる。

 

「細やかなる大地の騒めき、ストーンブラスト!」

 

「いててっ!?」

 

しかしカノンノは石礫を呼び出し、それをカイの身体に当ててちくちくと痛めつける。自分が巻き込まれて有利な状態を崩さないよう威力を大分弱めているが、それでも少しずつダメージを蓄積させるには充分。これで相手のギブアップを狙う、それがカノンノの作戦だ。

 

「ここまで持ち込まれるのはミアハやスタン達と戦った時以来だね……」

 

べしべしと石礫に痛めつけられるカイを見ながらカノンノは遠い昔を思い出しぼそりと呟く。するとカノンノは自分の両腕が自由になった感覚を感じる。恐らくカイが掴んでいた手を顔の防御に回したのだろう、顔面は生物の共通である急所、本能的に守りに行くのは何もおかしくはなく、カノンノはならば追撃にとまた拳を振り上げる。

 

「っ!?」

 

直後彼女は嫌な予感を感じ、咄嗟に顔を横に動かす。その時カノンノの頬に何かが掠り、同時にカノンノは見下ろしたカイが自分に右手を向けていることに気づいた。そこから見える袖口から何かがキラッと光を放つ。

 

「外したか! ならもう一発!」

 

「ひゃあっ!?」

 

そう言い、左手で右手首をパンッと叩くカイ、直後光る何かがカノンノ目掛けて袖口から飛び出、カノンノは咄嗟に飛び退いてその暗器をかわす。だがこれでマウントポジションが崩れ、カイも素早く立ち直す。

 

「「……」」

 

互いに睨み合いになる。互いに得意とする武器は遠くに離れており、不用意に取りに行けばその隙を突かれるのは自明の理。

 

「逆巻く水流――」

 

先に動くのはカノンノ、剣の方に走りながらその口から紡がれる詠唱を聞いたカイも地面を蹴り走る。

 

「――弾丸となりて敵を貫け、アクアスパイク!」

 

放たれるのは螺旋を描いて敵を貫かんと迫る水流。カイの移動先を正確に狙った弾丸を彼は咄嗟に前転しハンドスプリングの要領で飛び回避、その隙にカノンノが自分の剣へと飛び込む。

 

「させん! 曼珠沙華!!」

 

だがカイはハンドスプリングからジャンプの二段回避でアクアスパイクをかわした直後、その体勢から炎を纏う苦無を投げつける。相手の最終目的地は剣、ならば狙うべきはそこをという大雑把な狙いながらも燃える苦無がカノンノの手に剣を握らせることは防ぎ、今度は逆に自分が己の刀へと手を伸ばす。

 

「さ、せ、な、い、よっ!」

「ぐっ!?

 

だがカノンノもカイの目的は刀であるためそっちに走り、結果的に先回りをしてカイにタックルをくらわせ押し倒す。

 

「何度も同じ手をくうかっ!」

 

「きゃっ!?」

 

しかしカイも完全にマウントポジションを取られる前に彼女を投げ捨てるように体勢を崩させ脱出。しかしカノンノはすぐに受け身を取って立ち直し、カイが武器を拾いに行くどころか動けばすぐに対処できるように構えていた。

 

(苦無は既にあと一本、遠距離戦に持ち込まれたら魔術が使えるあっちが圧倒的に有利……素手勝負(ステゴロ)に持ち込むしかないか……)

 

カイは右手に握った苦無にちらりと目をやり、精神を集中。一気に力を解放する。限界突破(オーバーリミッツ)を行い、地面を蹴ると縦横無尽に動き回ってカノンノを攪乱する。

 

「ふぅ……私に残された力を!」

 

だがそのカノンノもふぅと息を吐くと力を解放、限界突破(オーバーリミッツ)を行う。そして同時にカノンノから放たれるマナが膨張する。

 

(そら)を越え、今ここにパスカの光を!」

 

「つっ!?」

 

やばそうなプレッシャーを感じ、カイは咄嗟に苦無に呪力を注ぎ込む。

 

「封魔九印剣、苦無バージョン!!」

 

「これが私の!! ラヴ・ビート!!!」

 

呪力を込めた苦無での連続斬りに耐え、カノンノがマナを解放。マナが桜の花びらを形作り、衝撃波となってカイを襲う。カイは衝撃波に吹き飛ばされつつも最後の力で苦無を投げつけ、それがカノンノの右肩へと突き刺さる。

 

「づあっ!」

 

「あ、ぐっ……」

 

衝撃波に吹き飛ばされ地面に叩きつけられたカイが苦痛に声を漏らすと共に、カノンノも苦無に込められた呪力の毒が効いたのかがくりと倒れる。同時ノックアウトによる引き分けだ。

 

「カイ!」

「ルキ!」

 

引き分けのアナウンスが実況から放送されると同時、グラスバレーとイアハートが飛び降りてそれぞれの相棒へと駆け寄る。

 

「え、な、なに?……私にそっくり?」

 

「あ、あの!」

 

カノンノが二人を見てぽかんとした声を出すと、そこにカイルが駆け寄る。

 

「すいません、あの、ちょっと会ってほしい人がいて……この後、闘技場の入り口まで来てもらえませんか?」

 

「え?……あ、うん……いいけど……」

 

カイルの突然の言葉にカノンノはぽかんとしつつこくんと頷いた。

 

 

 

 

 

[やはり……]

 

場所が変わり、闘技場入り口。ニアタはカノンノを見て感極まったような声を出しており、カノンノも驚いたように口に手を当てていた。

 

[そなた……そなたは!! 我等がディセンダー!!]

 

「ええ!」

 

「それじゃ……まさかパスカって世界の…(…でも、パスカは寿命を迎えた世界。まさか、幽……)

 

ニアタの言葉にグラスバレーが驚きの声を上げるとイアハートは自分の知る知識から何か結論を導き出そうとするが、考えると怖くなるので首を横に振って考えを打ち消す。

 

「ニアタ……ニアタ……なの!? 迎えに来てくれたのね」

 

「ニアタ……ニアタ・モナド、もしかして、ディセンダーの玉座!?」

 

パスカも感極まったように話し、その隣に立っていたミアハが驚いたようにニアタに尋ねる。

 

[やはり……そなたはテレジアのディセンダーか。だが、そなたら……現身……いや、一体、どうしてこんな所に…]

 

「ミアハとパスカで遊んでて、テレジアに行こうと思ったら、おかしな力に引っ張られて、ここに飛ばされちゃったの」

 

「それで、モルモがこの闘技場の支配人をやってたから住み込みでアルバイトをしてたんです。腕が鈍ったらいけないのでたまにチームを組んで参加もしてましたが」

 

ニアタの質問にカノンノとミアハが答える。

 

[……カノンノ、今のパスカの年号を教えてもらえないか?]

 

「第四樹暦五十八年だよ? ニアタったら、変な事を聞くね?」

 

(パスカの世界樹が四度目の実りを過ぎた辺りか……では、あと三度の実りの後、パスカの世界は寿命を迎える……我等がディセンダーとテレジアのディセンダーは、時を越えたのか……)

 

ニアタの質問にカノンノはきょとんとしながら答え、ニアタはそこでカノンノとミアハの状況を把握する。

 

「ところで、ここはテレジアじゃないみたいだけど、どこなの?」

 

[そうだな、この世界については船へ戻りながら教えるよ]

 

「船?」

 

[心配は要らない。それより……カノンノ……今は……そなたに会えた事を喜ばせておくれ……]

 

「ふふ、どうしたの? おかしなニアタ……」

 

ニアタは感動したような声を出しており、カノンノはふふっと、どこか包み込むような微笑みを見せながらそう呟く。それからミアハとカノンノでモルモに事情を説明、モルモも「ニアタに会えたの! じゃあ今度改めてオイラからも挨拶に行くから!」と嬉しそうに答え、それだけでしばらく休みの許可を得て闘技場を出ていく。

 

「……ねえ」

 

と、ミアハがカイとルキ、グラスバレーとイアハートの四人に声をかける。

 

「あなた達がこの世界のディセンダーなんですか?」

 

「ああ、俺はそうだが……カノンノとイアハートは違う」

 

「あたしはグラニデっていう世界のディセンダーで、カノちゃん……イアハートもグラニデの住人だよ」

 

ミアハの質問にカイとルキが答え、グラスバレーとイアハートも首肯。

 

「そうですか……では、一つ質問をしていいでしょうか?」

 

ミアハはにこっと、人畜無害な笑みをカイ達に向ける。

 

僕の世界(テレジア)カノンノの世界(パスカ)って、滅んじゃってるんですよね?」

 

「「「「!!??」」」」

 

人畜無害な笑顔からは想像出来ない重い質問に四人は面食らってしまう。

 

「……どうやらそうみたいですね」

 

「あっ、いや、その……」

 

ミアハの言葉にグラスバレーがどうにか誤魔化そうとするが言葉が出てこない。

 

「いえ、予想はついてましたから」

 

「……え?」

 

その言葉にイアハートがぽかんとした声を出す。

 

「答えは簡単です。先ほどの闘技場にいたモルモ、彼は僕がテレジアに生まれた頃にパートナーとして共に戦ったヤウンという世界のディセンダーです。しかしここはヤウンではない……モルモにこっそり聞いたんですが、ここのモルモは転生した存在、ヤウンの記憶は僕達に出会って唐突に思い出したみたいなんです。そしてヤウンは僕、テレジアの世界樹の種子から再生した……つまり、モルモがヤウンの輪廻から解き放たれ、この世界に転生する程の時間が立っている、ヤウンが滅びている。となればその種子の元である僕の世界(テレジア)と、ヤウンと同じくテレジアの世界樹の種子から再生したカノンノの世界(パスカ)が滅びている。と考えるのは当然です」

 

ミアハは筋道立てた考え方でテレジアとパスカが滅びているという仮定の理由を説明する。

 

「あ、でもカノンノはその事にまだ気づいてないみたいなので……秘密にしていただければありがたいです。僕もカノンノの悲しむ顔なんて見たくありませんから」

 

「……分かった」

 

ミアハの申し訳なさそうな言葉にカイも笑みを浮かべ、こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

「ふんふん……これまた、思わぬ事故が起きちゃったわね」

 

バンエルティア号に戻り、ニアタは[時空を越えるといえば心当たりがある]と言ってハロルドを呼び出し、話をすると彼女もふんふんと頷く。ちなみにカノンノ達はいつの間にかいなくなっていた。

 

[では、カイル達を元の世界へ戻すはずが……時間を遡った所に存在する我等のディセンダーを、この世界へ呼び込んでしまったわけだな……]

 

「戻すのには時間がかかるみたいね……カイル君達だって、まだ成功しないし」

 

「まー、そう焦らない焦らない。今回の失敗だって、ひょっとしたら世紀の大発明に繋がるかもしれないのよ♪」

 

ニアタが結論を確認するとアンジュは現状を鑑みて呟き、しかしハロルドは気にしてないかのようににゃははと笑う。

 

[アンジュ、それまで彼女をこの船に置いてもいいかね?]

 

「ええ、断る理由は無いし」

 

[彼女の時間では、まだ故郷は存在している。カイも、アンジュも、パスカが滅びた事や、我々の身の上の事を 彼女に話さないでおいてくれ]

 

「ああ……だが、ミアハは気づいていたようだ。だけどミアハもカノンノには秘密にしてくれってさ」

 

[そうか……やはり、彼は聡明だな]

 

ニアタのお願いに対しカイがそう返すと、ニアタは何か思うような口調でそう呟いた。

 

「ところで、あなたのディセンダーを何と呼べばいいかしら?」

 

[ふむ、あの子には姓がない。故郷の名が姓と言ってもよいな……では、“パスカ”と名乗らせよう]

 

「それじゃあ、パスカのメンバー登録をするね」

 

[感謝する……]

 

ニアタはパスカのディセンダーであるカノンノ改めパスカのメンバー登録をアンジュが行ってくれることに対して礼を言う。

 

「ところで、トリプルカノンノはどこに行ったの?」

 

そこに突然ハロルドがそうぶっ込んだ。

 

「ああっ!? まさか、ロックスの所に!?」

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アンジュがまさかというように叫ぶと同時にロックスの悲鳴が聞こえてきた。

 

「カイ、食堂へ行ってちょうだい!!」

 

「了解!」

 

[我々も共に行こう!]

 

アンジュがすぐさま指示を出し、カイも言われるまでもないとばかりに食堂へと走る。ニアタもそれに続いた。

 

 

 

 

 

「お、お嬢様が三人……あわわわわわ……僕は、僕は、そろそろお迎えが来るのか……」

 

「ロックス落ち着け! お迎えはまだ来ない!」

 

カイとニアタが食堂に飛び込むと、ロックスはトリプルカノンノを見て慌てたようにふらふらと飛んでおり、その目はぐるぐると渦巻きを描いている。完全に錯乱しかけているロックスに慌ててカイが声をかけ、その次にニアタがロックスに近づく。

 

[驚かせてすまない。彼女は、我々のディセンダーだ]

 

「ニアタ様のディセンダー…(…し、しかし……ニアタ様の故郷は……)」

 

「(その話については、触れないでやってくれ…)…ともかく、事情は後で話す。今は、彼女を受け入れてやってくれ」

 

「わ、わかりました……」

 

ロックスとニアタはトリプルカノンノに聞こえないようにこそこそと話し合い、その隙にカイがニアタとロックスの相談を不審に思われないようにするついでに、トリプルカノンノに対して「パスカのディセンダーのカノンノはこっちではパスカと名乗るようにしてくれ」と事情を説明する。

 

「三人に見えたのは、幻覚じゃなかったんですね……」

 

「紹介するね。私の家族、ロックスだよ」

 

ほぉっと安堵の息を吐くロックスを指しながら、カノンノがパスカにロックスを家族だと紹介、パスカもぺこりと頭を下げた。

 

「よろしくお願いします、ロックス。私の事は、パスカって呼んで下さい」

 

「は、はい、こちらこそよろしく……あっ、そのっ、そんな堅苦しくなくて構いませんから。ホント……」

 

「はい!」

 

ロックスはお嬢様であるカノンノとそっくりなパスカに堅苦しく接されるのが気になるのかそう答え、パスカも輝くような笑顔でこくりと頷いた。

 

「しっかしまあ、ほんとそっくりだねぇ……あ、ロックス。皿洗い終わったよ」

 

「ああ、ありがとうございますしいな様」

 

すると当番だったのか皿洗いをしていたしいなが手を布巾で拭きつつトリプルカノンノを見比べながらそう呟き、彼女らに近づくとパスカの肩にぽんと手を置いた。

 

「ま、仲良くやろうじゃないか。これからよろしくね」

 

そしてにっと笑みを浮かべてそう言い残すと食堂を出ていき、自分の部屋に戻っていく。

 

「しっいっ、なーっ!」

 

「のぎゃあっ!?」

 

すると突然背後から何者かがしいなに抱き付き、右手を腰に回し左手で胸を明らかに揉む。そんな事をしでかすバカは彼女には一人しか……いや、船には何人か心当たりがいるが、少なくとも今の彼女の頭には一人しか浮かばない。

 

「このアホゼロスー!!!」

 

「ぶぎゃっ!?」

 

振り払い、振り返り、鉄拳制裁。一連の流れに全く無駄がなく、その拳はゼロスの顔面を的確に捉えていた。

 

「お、おおう、愛が痛いぜ……」

 

「この馬鹿! いきなり何すんだい!?」

 

鼻を押さえごろごろと悶えるゼロスにしいなが腰に手を当てて説教開始。

 

「何があった?」

 

そこにフォックスが顔を出した。

 

「ああフォックス! こいつがまた馬鹿な事をしでかしたんだよ!」

 

「そうか……なら俺が連行しよう」

 

「任せたよ! ったく。ウリズン帝国がいいならゼロスをやるからフォックスを正式にうちに貰いたいくらいだよ」

 

フォックスに対しそう言い、しいなは頭の上から怒気をまき散らしながらその場を後にする。

 

「やっほー、しいな」

 

「ああ、マルタにエミル。なんだい、デートかい?」

 

「残念だけどクエスト。でもコンフェイト大森林にお花畑があったらお花畑デートっていうのもいいなぁ……」

 

その途中で偶然会ったマルタとエミルとしいなはからかうように話しかけ、マルタはデートではなくクエストだと言うがしかしロマンティックな光景を妄想。しいなは苦笑しつつも「気をつけなよ」と言い残して部屋に戻ろうと歩き出す。

 

「あれ? しいなさん、何か落としましたよ?」

 

「え、どれだい?」

 

エミルが突然話しかけ、しいなが振り返る。確かにさっきしいなが歩いていたところに片手に収まる程小さく折りたたまれた紙が落ちていた。

 

「……心当たりないんだけどねぇ?」

 

「そ、そうですか? すみません。でも確かにしいなさんの帯のとこから落ちたような……」

 

首を傾げるしいなにエミルは慌てて頭を下げる。と、しいなはひょいとその紙を拾い上げた。

 

「まあ、あたしの方で調べてみるよ。誰かの手紙が落ちてたんならあたしから届けとくから」

 

「お願いね、しいな。じゃ、エミル。早くデートに行こ♪」

 

「ク、クエストじゃなかったっけ?……」

 

マルタはぱちんとウィンクをしてしいなに紙の件をお願いし、エミルを引っ張っていく。エミルもクエストがデートにすり替わっていることにツッコミを入れながら彼女に引っ張られていき、しいなはそれを生温かい目で見送った後、部屋に入っていった。

 

「あ、お帰りしいな」

 

「ただいま」

 

ルームメイトのコレットから挨拶を受け、しいなも挨拶を返すと自分用に割り当てられた椅子に座り、さっき拾った手紙を見る。

 

「どしたの?」

 

「ああ、ちょっとね」

 

「? あ、私ロイドと遊ぶ約束があるから。行ってきます」

 

「ああ、行ってらっしゃい。あんまり遅くなるんじゃないよ」

 

「はーい」

 

しいなとまるで娘と母親みたいな掛け合いをしながらコレットは部屋を出ていく。それを見送ってからしいなは改めて手紙を確認、しかし宛名などは見当たらず、しいなは不思議そうに目を細める。

 

「……悪いね、ちょっと中身を検めさせてもらうよ」

 

相手も知らぬ手紙の差出人にそう言い、しいなは手紙を広げる。

 

「!?」

 

瞬間、しいなの目が見開かれた。

 

 

 

 

 

バンエルティア号の甲板。そこにいたアルヴィンが空を見上げていると、彼に向けて小鳥が一羽飛んでくる。アルヴィンが左腕を上げ、人差し指を伸ばすと小鳥は小枝に止まるようにその指に止まり、アルヴィンは右手で小鳥の足にくくられていた手紙を外し、中身を確認する。

 

「……もう、時間もねえか……」

 

そして彼は小さな声でそう呟いた。




《後書き》
二か月ぶり、危うく三か月ぶりの更新です。ほんと、マジで読者様残ってるかなぁ……。(ガチの心配)
今回は闘技場、テレジアディセンダーことミアハとパスカディセンダーことカノンノ改めパスカ仲間入りです。
なおパスカのオリジナリティを出そうと頑張った結果……剣・魔術・挙句に体術を組み合わせてとにかく勝ちにいくというダーティファイターが誕生してしまいました……おかしい、マイソロ1原作でボス役を張ったからタイマンではカノンノ三人娘中最強というイメージで書いてたはずなのにどうしてこうなった。(汗)
でもって後に色々伏線も混ぜ込みました。そろそろストーリーを進めたいけど、新しい仲間入りも書きたいしさてどうしよう。ま、そこはまた後で考えるか。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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