テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「アンジュ、しばらく外出したいんだけど」
「あら、しいな。どうしたの?」
バンエルティア号のホール。いつもの事務処理をしていたアンジュにしいなが外出の許可を申請。アンジュがどうしたの、と尋ねる。
「あーほら、そろそろ世界情勢の調査を進めておきたくてね。ジルディアの牙の出現で戦争は一応収まってるけど、それがいつまで続くかも分からないし。悪いけどしばらく戻らないと思うから」
「なるほどね。分かりました、お願いしますね」
しいなからの説明を受けたアンジュは長期間の外出という申請を受理。やけに多い荷物を提げて船を出ていくしいなを「行ってらっしゃい」と手を振って送り出した。
「……それにしても、しいなにしては荷物が多いわね。まるでどこかに攻め込もうとでもしてるみたい」
なんとなくそんな事を考え、口に出す。だがそこで独り言は終わり、彼女は再び事務処理へと戻った。
「リタ、調査の調子はどうですか?」
「あ~。今はカイ達に取ってきてもらった化石のドクメントを調べてるんだけど……大体、既に化石になっちゃってるものだから、ほとんどが鉱物のドクメントなのよね」
食堂。おやつの時間ということでエステルに研究室から引っ張り出されたリタはエステルからの質問にそう答え、テーブルに突っ伏しながら「結局ツリガネトンボ草本来のドクメントは、あまりわからなかったわ」と浮かない顔で回答を締めた。
「ウズマキフスベの方もまだだな。ただでさえ絶滅していると言われている……早く生息の時期に入ってくれればいいのだが……」
研究班の一人であるウィルもそう唸っていた。
「まあ、根を詰め過ぎても身体に毒だろ」
と、カイがそう言ってリタ、ウィル、エステルの前にお菓子を乗せた皿を一つずつ置いた。
「ユーリ直伝の蜜蜜ザッハトルテだ。疲れてる時は甘いものが一番ってな」
「わあ、ありがとうございます!」
「ん、さんきゅー」
「いただこう」
カイの言葉にエステルは顔を輝かせてお礼を言い、リタはさっさとお礼を言って食べ始め、ウィルも静かにお礼を言うと食べ始める。カイもウィルの隣、リタの向かいに座ると自分の分の蜜蜜ザッハトルテにフォークを突き刺した。
「だが、絶滅してるのは面倒だな。まだ残ってるなら世界のどこだろうが取って来てやるってのに……」
「無茶しないでよね? 大怪我でもされたら寝覚めが悪くなるわ」
「はは、心配してくれてありがとよ」
カイがため息交じりに呟いた言葉にリタはぶっきらぼうながらもカイを心配している様子で返し、それにカイが笑いながら返すとリタは「そんなつもりじゃない!」と怒鳴ってぱくりとザッハトルテを齧る。
「しかし……実際問題絶滅してたら手に入れようがないんだよな……今ある植物のドクメントでどうにかならないのか?」
「無茶を言うな。植物と一纏めにしても一つ一つドクメントは違う。そんなものを代用にできるはずが……む? ドクメントを……代用?」
「一つ一つ違うドクメント……生物の進化、混種……ドクメントの共通性……」
カイの言葉にウィルが呆れたように返すが、そこで何かに気づいたように沈黙。ぶつぶつと何か呟いていた突如リタががたんと立ち上がった。
「ちょっと! ツリガネトンボ草って、何目何科何種!?」
「そうか、その手があった!!」
リタが立ちあがった直後ウィルも同じく席を立つ。そして二人はほとんど同時に叫んでザッハトルテを素早く食べ終えると「ご馳走様」と言葉少なく挨拶をして食堂から出ていこうとする。
「リ、リタ? どうしたんです?」
「カイの言葉がヒントになったのよ! 感謝するわ!」
「こうしてはいられん! 急ぐぞ!」
ぽかんとするエステルにリタは先ほどまでの浮かない顔はどこへやら元気に笑って食堂を出ていく。それをカイとエステルはぽかんとした表情で見送り、顔を見合わせると不思議そうに首を傾げ合うのであった。
「ふ~い、甲板掃除完了っと。さて、昼寝でもすっかねぇ」
「カイ、ロックスにおやつ作ってもらお?」
数日後。甲板の掃除当番だったスパーダは掃除用具を片づけながら伸びをし、部屋に戻って昼寝でもしようかと考える。その横で同じく掃除当番だったカノンノはやはり掃除当番だったカイをおやつに誘っており、スパーダはそれを横目で見ながら「お熱いねぇ」とからかう。と、それを聞いたカノンノが顔を赤くして「違うよ違うよ」と慌て出し、スパーダはキヒヒと意地の悪い笑みを浮かべる。
「あ、スパーダ君。丁度良かった」
「カイにカノンノも、良ければ聞いていってくれ」
「んお、どうしたんだよアンジュ?」
「ウィルさんにヴェイグも、どうしたんですか?」
ホールに入ったところでアンジュがスパーダを、ウィルがカイとカノンノを呼ぶ。ホールで話し合いをしている二人の横にはヴェイグが立っており、カイ達三人も呼ばれて断る理由がさほどないため彼らの方に歩いていく。
「実は、数日前のカイの発言がヒントになってな。ツリガネトンボ草自体は既に絶滅しているが、ツリガネトンボ草の進化種からツリガネトンボ草のドクメントを抽出する方法を思いついたんだ。上手くやれば進化種に受け継がれたドクメントで補完できるかもしれない」
ウィルの説明にアンジュが「絶滅したサーベルタイガーのルーツをトラやライオンに求めるようなものね」と例をあげて補足する。
「ツリガネトンボ草の進化種は14属2000種近くに及ぶ」
「2000種ゥ!? おいおい待てよ、ンなもん集めきれるわけねえだろォが!?」
ウィルは図鑑を見せながら説明し、だがその膨大な種類にスパーダが素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「無論、アドリビトムだけで集めていてはキリがない。比較的安全な場所にあるものはこの船のメンバーの故郷の人々や各国ギルドへ採取を依頼する予定だ」
「ウリズン帝国にも伝書鳩を飛ばして採取の依頼をしたわ。私達は、私達でしか集められないものを採取するのよ。それで……っと、その進化種の名称や分布が不明なものもあるけど、まずは判明しているものからね」
ウィルに続けてアンジュが進化種の名称分布が判明しているものから確実に採取をしていくと説明する。
「今回採取を依頼するのはアブソール霊峰の『オイルツリー』という樹のドクメントだ。オイルツリーの分布地への道は長らく崩落していたが、先日セルシウスに頼み、氷の橋をかけてもらった」
「ヴェイグ君は雪道にそれなりに慣れているそうだから今回の採取を依頼したの。だけど雪山ってもしもの事があるかもしれないでしょ? よかったらスパーダ君やカイ達にも一緒に行ってもらいたいなあって」
ウィルが説明を終えるとアンジュがそう言い、にっこりとした笑顔に手を組むという聖女のお祈りスタイルでお願いを開始する。
「分かりました。俺は行きます」
「私も行くね」
「……チッ、しゃーねぇな。俺も行ってやるぜ」
カイは二つ返事で依頼を受け、カノンノも了承。スパーダも流れに乗せられたかやれやれと肩をすくめて同行を決めたのであった。
「じゃあ、俺達掃除終わらせたばっかりでまだ準備も出来てないし、一度解散。三十分くらい後にまたホールに集合しよう」
「うん、分かった」
「おう」
「分かった」
カイの指示にカノンノ、スパーダ、ヴェイグは頷いて了解の意を示す。それから準備が出来ていないカイ達三人はもちろん、ヴェイグも何か忘れ物でもあるのか船倉の居住区へと戻っていった。
「ではクレア様。買い出しの方、よろしくお願いいたします」
「はい。任せてください」
「申し訳ありません、夕食に使う香辛料を買い忘れていたとは……」
「いえいえ」
一方食堂。クレアはロックスから買い出しをお願いされ、カゴを手にこくんと頷く。普段買い出しとなると一つのギルドでも必要なものが多く、数人単位の班で手分けして行うのだが、今回はちょっと買い忘れたものを買いに行くだけだしそこまでかさばるものを買うわけではないため彼女一人でも大丈夫ということだ。ロックスやアンジュへの挨拶もそこそこに、クレアは停泊していた港から街へと出て街中を歩いていく。
「お、クレアちゃん」
「あ、アルヴィンさん。こんにちは」
すると偶然街に出ていたのだろうかアルヴィンがクレアに声をかけ、クレアもにこっと微笑んで挨拶を返す。
「買い物か?」
「はい。ちょっと買い忘れがあったそうで……」
「そうか……うっし、俺もついてってやるよ。交渉だろうが荷物持ちだろうが任せとけ」
「え!? いえ、でも悪いですし……」
クレアの目的を聞いたアルヴィンは頷いてそう返し、それを聞いたクレアが慌て出す。
「まあ気にするなって。これでも俺は商人だからな、商品の良し悪しを見る目と値引き交渉には自信があるぜ?」
にっ、と笑ってみせるアルヴィン。それにクレアもくすりと微笑んだ。
「分かりました。ではお言葉に甘えます」
「おうよ、任せとけ」
アルヴィンの同行を決めてクレアは再び歩き出す。その後ろでアルヴィンはどこか緊張の面持ちでふうと息を吐いていた。
それからクレアは気づいたら人通りの少ない裏道を歩いていた。いつの間にか追い抜かれたアルヴィンに「香辛料買うのか。だったらいい店知ってるぜ」と先導された結果である。
「あ、あの……アルヴィンさん?」
「……悪い、クレアちゃん。この先にいい香辛料の店があるって話は嘘なんだ……」
クレアの言葉にアルヴィンは良心の呵責を受けたような声で返し、振り返る。
「どうしてもクレアちゃんと二人きりになりたくてさ」
「どういう意味ですか?」
アルヴィンの言葉にクレアはやや警戒の目を向ける。年頃の美少女が年上の男性と人気のないところで一緒、それなりに危険な香りがするシチュエーションである。
「むぐっ!?」
するとその瞬間クレアの背後から何者かの手が回り、彼女の口を押さえつける。それにクレアはじたばたと暴れるが口に押し当てられた布からもごもごと声が出ただけの結果となり、不意にクレアの意識が消えたかのように彼女は脱力する。
「な、え?……」
その光景にアルヴィンがついていけないように目を丸くする。
「うふふ……ご協力ありがとう♪」
その目の前で気絶したクレアを抱きかかえながら、紫色の髪をした青年がいやらしい笑みを浮かべていた。
《後書き》
なんとか一ヵ月ちょっと振りというところでしょうか。皆様お久しぶりです。と言ってもこの作品はマジで読者残ってるか不明ですけどね。この原作の小説を検索してみると未だにこれの前話投稿時が最新のようですし。
一ヵ月振りですけど今回は短く繋ぎくらいになってしまいました。でもってなんか暗躍。次回からちょっとオリジナル展開を挟んでいきたいと思います……これ何回か言ってるような気がするな。(汗)
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。