テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「でェ、採って来なきゃなんねーオイルツリーってのはどんなモンなんだ?」
「寒冷地に生息する植物で、その名の通り油分を多く含むそうだ」
「外見的なモンは?」
「大型植物で、樹全体が赤いらしい。この環境の中では目立つから すぐ判別出来そうだ」
「大型? そりゃまた、持って帰るのも一苦労だな」
アブソール霊峰。ここに生息するオイルツリーのドクメント採取に来ていたスパーダは目的のものの外見を尋ね、ヴェイグの説明から大型の樹木だと判断したスパーダはめんどくさそうに表情を歪める。しかしヴェイグはコピーズ・ロッドを彼に見せた。
「コピーズ・ロッドを持ってきている。ドクメントさえ採取すればいいそうだ」
「ふーん。じゃあ、まあ楽だな」
ヴェイグの言葉にスパーダは一安心したようにふんふんと頷く。その後両手を後ろに回して何か考えるように空を見上げた。
「しっかし、進化ねぇ。化石になったアレよかずいぶん形状変わってそうだな」
「もらった資料には、種子のサイズをより小さく、そして多くしていった進化種であると書かれていた。寒冷地で生き延びる為に、エネルギー効率の良い油脂の形で樹や種子に養分を蓄えるよう、進化したらしい」
スパーダが思い出すのはツリガネトンボ草の化石。それについてヴェイグはもらった資料に書かれていた事を暗唱するように口にした。
「そんな進化種が世にあふれてるんだ。世界って変化してるんだね……ヒトも変わってるのかな?」
「そうだな。ヴェラトローパから地上に降りた多くの人種も、何らかの変化はしているだろうな」
それを聞いた同行者の一人――カノンノが言うとカイが頷く。
「にしても、一つの生物から2000種ってなぁ。どんだけだよ……ま、やるしかねーんだけど」
スパーダはアドリビトムで集めきれるわけないと狼狽した2000種にも及ぶツリガネトンボ草の進化種や混種を思い出しながら呟き、しかしやるしかないと開き直る。
「んじゃ、とっととやるとすっかねぇ」
「ああ。急ごう……なんとなく、嫌な予感がする」
スパーダは伸びをしてこきこきと肩を鳴らしながらそう言い、カイもスパーダの言葉に頷くとふと虚空を見上げるのであった。
「しっかし、進化種ねぇ……」
雪山を歩きながらスパーダがふと呟くと、何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「なぁ。ヒトの進化種って、どんなのがいると思う?」
「……どういう意味だ」
スパーダの唐突な話題にヴェイグは冷たい目でスパーダを見る。なおヴェイグのこの目は素であり、特にスパーダを呆れているとかそういうわけではない。
「例えば、ほら、種の存続の為にだな……狙ってる女の好みのタイプが見破れる進化種とか、スリーサイズがわかっちまう進化種とか」
「……………」
スパーダの話を聞き、ヴェイグは一瞬で興味をなくしたのか無言で先に進む。
「だってよォ、ただでさえ出会いが少ない世の中だぜ? そン中から、カップルになれる確立なんてそれこそ……」
それに気づかず話し続けるスパーダだが、少しするとヴェイグが先に進んでいるのに気づき「ぅおいっ!」と叫ぶ。
「無視かよっ!? 今のはツッコむところだろーが!」
ヴェイグはスパーダの叫びも聞かず、むしろ「とっとと行くぞ」とやんわり注意をする。それにスパーダは「ったく」と声を漏らすとため息をついた。
「はーやれやれ、ヴェイグには出会いの少ない苦しみが分かんねえのかねぇ。なぁカイ……っと」
スパーダは参ったようにため息をつき、カイに同意を求めるが、直後すまなそうに笑った。
「いや、悪い悪い。お前にはカノンノがいたんだっけな。悪かった、忘れてくれ」
「なっ!? ち、ちちち違うよスパーダ! わ、私とカイはそういうんじゃなくって……」
「あん? 違うのか? てっきりそういう仲なんだからお前とカイ、一緒の部屋なのかと思ってたんだけどよ」
「違うよ!? わ、私はカイの教育係で、レイもそうだったから一緒の部屋だっただけで……」
スパーダの言葉に反応して顔を真っ赤にするカノンノ。それをスパーダは面白がってからかい、カノンノもむきになって反論する。スパーダは完全に面白がっていた。
「でっ!?」
するとスパーダの後頭部にがつんっと衝撃が走る。
「あまりカノンノをからかうな」
カイが鞘に納めたままの刀でスパーダを小突いたらしい。そのままカイはカノンノに「行くぞ」と促し、カノンノも無言で頷くとカイと一緒に先に進む。
「は~……カイの方からカノンノへは脈無しなのかねぇ。対してカノンノの方はっと……ま、あんまからかいすぎても後が怖いし、この辺にしとくか」
スパーダは自己流で分析を行いつつ、そろそろふざけるのはやめるかと思い立って先に行った三人の後を追うのであった。
それから雪山を、先頭をスパーダ、少し遅れてカイ、真ん中をカノンノ、しんがりをヴェイグという陣形で歩いていると、突然ヴェイグが足を止める。
「どうしたの、ヴェイグ?」
振り返ったカノンノが問いかけ、スパーダとカイもどうかしたかと足を止めて振り返る。
「風に乗って、声が聞こえた……」
「ハァ? そりゃお前、ただの空耳じゃねーの?」
ヴェイグの呟きにスパーダが不思議そうに聞き返す。
「きゃあああ……」
しかしその次の瞬間、今度はカイ達三人の耳にも絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「クレア?……」
「クレアは街に買出しに行ってたはずだ……」
「けど、今の声は……」
ヴェイグが声の主を言い当て、しかしカイはクレアは麓の町で買い出しをしているはずだと発言。しかしカノンノも声がクレアのものとよく似ている、と言いたげに言う。
「クレア……クレアアアアァァァァァ!!!」
ヴェイグが絶叫しながら、声の聞こえてきた奥の道へと走る。
「オイ! 落ち着けって!!」
「痛ッ……何をする!! その手を離せ!!」
しかしスパーダが咄嗟にヴェイグの長い三つ編みの髪を掴み、彼を止めた。しかし突然髪を引っ張られたヴェイグは怒り、振り返って声を荒げる。
(やべェ! 咄嗟に髪の毛掴んじまった! こいつの髪、何でこんな長ェんだよ!?)
スパーダは慌てて髪から手を離した後、ゴホンと咳払いをしてヴェイグを真剣な目で見た。
「こ……こうでもしなきゃ、お前は俺の話なんか聞かなかったろーが。ったく……一人で暴走してんじゃねえ! お前がそんなで、確実にクレアを助け出す事なんて出来ンのか? ちったァ、頭冷やせ!」
その言葉にヴェイグがはっとしたような表情になり、続けて面目なさそうにうつむいた。
「……そう、だな……スパーダの言う通りだ……すまなかった」
「おう。わかりゃあいいんだよ」
「大丈夫だよ、ヴェイグ。私達だって一緒なんだから」
ようやく落ち着いたらしいヴェイグにスパーダがうんうんと頷くとカノンノもフォローに回る。
(危ねェ危ねェ……何とかそれっぽく誤魔化せたぜ~)
その後ろでスパーダは何とかそれっぽく誤魔化せたことに安堵の息を吐く。
「だが、もしかしたらクレアに何かあったのかもしれない。急ごう」
しかしカイは落ち着くのは当然だが急ぐよう主張。そこについては反論はないため彼らは一気に山奥へと走り出すのであった。
「クレア!」
「ヴェイグ……」
アブソール霊峰の奥。樹全体が赤い大型植物――オイルツリーを背にしてクレアは立っていた。
「ようこそ、アドリビトムの諸君。そして久しぶり、ヴェイグ」
ただしサレに抱きかかえられ、その首筋に剣を突きつけられながら。
「サレ!」
「やっと会えたね、ヴェイグ」
「ごめんなさい……ヴェイグ……街に出ていた時に――」
「ねえ、クレアちゃん。あんな場所で会うなんて、本当に運命を感じたよ……」
ヴェイグの怒りの声もどこ吹く風というように答えるサレは、クレアの言葉を遮って嫌な笑みを浮かべる。
「クレアちゃんには、キミ達をおびき寄せる餌になってもらおうと思ってね……でも、まさか君達の方……しかもヴェイグがやって来てくれるなんて、ますます運命を感じちゃうなあ」
「クレアを、クレアを離せっ!!!」
サレの言葉で我慢が限界になったのかヴェイグが大剣を抜き、サレ目掛けて突進する。
「ファイアボール!」
「!?」
しかし別の方向から炎の弾丸が飛び、ヴェイグの行く手を阻む。炎、サレが得意とするのは風の魔術。つまり別の人間だ。
「サレ様に近づかないでもらおうか?」
「っ……バカな……お前は……」
「ンな、馬鹿な……」
出てきた色黒で金髪の剣士を見て、ヴェイグとスパーダが声を失う。カノンノが「そんな……」と口を手で押さえた。
「フォックスさん!? どうして!?」
そして我慢できなかったように叫ぶ。先ほどヴェイグに攻撃を仕掛けてきたサレの仲間、それはウリズン帝国からアドリビトムに派遣された兵士――フォックスだった。
「……フォックス、どういう事だ?」
「どういう事も何もないさ。俺は元々サレ様の手下でね、まあ、所謂スパイってやつ?」
「君達の行動はフォックスからしっかり聞かせてもらったよ。なんだっけ、このオイルツリーが必要だとかなんとか?」
カイの言葉に対しフォックスはアドリビトムで見せていた真面目な顔はどこへやら、チンピラのようなあくどい笑みを浮かべながら答え、サレはオイルツリーを見ながらそう答える。
「ああ、そういえば……キミ達が働き手を奪ってくれたせいで、
「ケッ、国のお偉いさんぶっ殺してトンズラこいといて忠誠なんざ、騎士の風上にも置けねえな」
「
サレの言葉に一応仮にも騎士の家系であるスパーダが吐き気を催したような表情で答え、クレアがそう訴える。
「だったら僕は、それを踏みにじるまでさ! 僕は人の心の力なんて信用しないからね……」
サレはそう言うとクレアをフォックスへ押し付け、クレアは逃げようとするがフォックスが力ずくで抑えこむと剣を抜き、首筋に押さえるように突きつけて先ほどのサレのようにクレアを拘束する。
「人の心の力っていうのがあるのなら……これをどうにかしてみなよ!」
サレがそう言ってパチンと指を鳴らす。と、その瞬間突然オイルツリーが燃え上がった。
「なっ!? テ、テメエ何しやがる!?」
「ははははは!!! さあどうするんだい? この樹が必要なんだろう、早く消火しないと燃え尽きてしまうよ?」
スパーダが叫ぶがサレは歪んだ笑みを浮かべながら嘲笑。カイがちっと舌打ちを叩く。
「カノンノ! 水属性魔術で消火を!」
「! う、うん!」
カイから指示を受け、驚愕に硬直していたカノンノは頷くと詠唱を開始する。
「魔神剣!」
「きゃあっ!?」
しかしその瞬間衝撃波がカノンノを襲い、詠唱を妨害する。
「くそ!? まだいやがったのか!?」
まだ伏兵が隠れていたのかとスパーダが辺りを見回す。
「ああ、そうそう。スパイはフォックスだけだと思ってたんだっけ? フフフ……ざぁんねん」
それを見たサレがクククと笑い始め、同時に降り積もった雪を踏みしめ、一人の男性が影を背負って現れる。
一方バンエルティア号が停泊している町。ジュード、アニー、ルカの医学生と医学生希望学生の三人は医学書や参考書、医療道具を買いに三人で買い物に出かけていた。そして今は医学生であるジュードをメインに三人で最近の医学論についての話に花を咲かせている。
「たっ、大変だー! 裏路地で血まみれの男が発見されたらしいぞー!」
「通り魔か、通り魔なのか!?」
「早く、早く医者を呼べー!!」
すると突然そんな大騒ぎが聞こえ、ジュード達三人は顔を見合わせると騒ぎの方に走る。その騒ぎの方には人混みが出来ていた。
「すみません! こちらに怪我人がいるって聞いたんですが!」
「な、なんだ!? 医者か!?」
「私達はまだ医者ではありませんが、ジュードさんは医学生です!」
「そ、そうか! 医者が来るまで応急処置を頼めるか!?」
「もちろんです! アニーとルカも手伝って!」
「「はい!」」
ジュードと町人は慌てながらも要点をまとめ、ジュードが応急処置を行う事に決定。人混みをかき分けながらその怪我人へと近づく。
「「「っ!?」」」
すると三人が息を飲む。先ほどの話通り血まみれ、特に背中を斬られたのだろうか、茶色のコートはボロボロでそこから酷い出血になっている。それだけではない。
「アルヴィン!?」
怪我人は彼らの仲間――アルヴィンなのだ。ジュードが慌てて駆け寄り、アニーとルカが医療道具を準備する。
「ゆ、優等生、か?……」
「アルヴィン、喋っちゃダメだよ!」
「ど、どうしてこんな怪我を!?」
息も絶え絶えのアルヴィンにジュードが喋っちゃダメだと言い、アニーから受け取った脱脂綿をピンセットで挟み、消毒液に浸して怪我の場所を消毒する。アニーも何故アルヴィンがこんな大怪我をしたのかと尋ねた。
「やられた……サレだ……」
「サレって、ヴェイグさん達の村を襲った……」
「そんな!?」
アルヴィンがそう証言する。突如現れたサレがクレアを誘拐、どこかへと消えてしまったと。ルカとアニーがそれに絶句する。
「それだけじゃねえ……ジュード、急いでバンエルティア号の皆に知らせるんだ……っづっ!?」
「怪我人を放ってはおけないよ!」
怪我は思ったより深いのか痛みに呻きつつもバンエルティア号にクレアの誘拐を知らせろと言うアルヴィンにジュードが首を横に振る。
「いいから聞け! 俺を怪我させたのは……サレじゃねえんだ……」
「そんな……アルヴィン程の実力があって、ここまでの怪我をさせる人なんて早々……」
「不覚を取られた。サレがクレアちゃんを攫った時、駆けつけてきた奴がいて、安心しちまったんだ……アドリビトムの仲間だったんだからな」
「そ、それって!?」
「アドリビトムに……裏切り者が?……」
アルヴィンの話を聞き、ルカとアニーが信じられないという様子で呟く。しかしアルヴィンはその信じられない真実をこくり、と頷いて肯定した。
「裏切り者の名前は……げほっ!」
そこまで言い、苦しくなったのかアルヴィンはげほっと咳き込む。
「そ、そんな……」
「まさか……」
「クソ、なんでテメエがっ!?」
アブソール霊峰の山奥。燃え盛るオイルツリーを背にし、影を背負った青年。その嘲るような笑みを浮かべた顔を見たカノンノが絶句、ヴェイグが信じられんというように呟くとスパーダが声を荒げる。
「どういうつもりだ……」
最後にカイがギリッと歯ぎしりをし、睨みを利かせる。
「ゼロス!!!」
そしてその相手――ゼロス・ワイルダーの名前を怒りに燃えた声で告げたのであった。
「……悪ぃな、カイ」
その言葉に対し、ゼロスは静かに呟くと剣をひゅんと軽やかに振るうと涼やかどころか冷たい視線でカイ達四人を見る。それに対しスパーダが拳を震わせた。
「……クソッタレが! 俺が言えるこっちゃねえが、テメエロクデナシだが良い奴だって思ってたのによ!」
「本当にスパーダの言える事じゃないけど……嘘だよね、ゼロス!? 何かの冗談でしょ!?」
スパーダが声を荒げ、カノンノがスパーダにツッコミを入れつつゼロスに呼びかける。
「冗談でもなんでもねーよ……本気で来ないと、お前ら……死ぬぜ?」
そう言い、ゼロスは胸元にかけた見覚えのないペンダントを握る。するとそこから凄まじいエネルギーが放出された。
「あれは……
「
カイが驚いたように叫び、ヴェイグが警戒を強める。その瞬間ゼロスの背中にオレンジ色の光の翼が具現、さらに剣や翼に紫電が走る。
「て……天使?……」
「ああ、言ってなかったか? 俺もコレット達と同じ天使なんだよ。つっても血は薄くてな、
カノンノの呟きにゼロスは自嘲気味の薄い笑みでそう返し、その次の瞬間彼の目が鋭く研ぎ澄まされる。
「さあ、始めようぜ!」
「上等だ。ぶん殴ってバンエルティア号に引きずっていってアンジュさんから説教受けさせてやる!」
ゼロスの言葉に対しカイも刀を抜いて叫び返し、それを合図に全員が戦闘体勢を取った。
「フフフ……仲間に裏切られてるのを目の当たりにしてもまだ、絶望はしないか……」
それを見たサレも剣を構え直し、フォックスをちらりと見る。
「クレアちゃんを逃がすな。だが必要以上に傷つける事も許さない……奴らは僕の獲物だからね」
「はっ!」
サレの指示にフォックスも素直に従い、クレアを連れて下がっていく。
「さあ、本気で叩き潰してやるよ……君達、ヒトの心をね!!!」
「面白ぇ! ケツから蹴り上げてやるぜ!」
「待ってろ、クレア……」
サレの言葉にスパーダが声を荒げて返し、ヴェイグも静かに闘志を燃やしながらそう呟いた。
《後書き》
やっとここまで書けた……。
オリジナルで考えてみた裏切り者編、アルヴィンだと思った?残念、ゼロス君でした!……っていうか、ミスリードのためとはいえアルヴィンに色々怪しい素振りをあからさまにさせまくっただけあるけど。アルヴィン暗躍開始だの怪しいフラグ立ってるだの散々な言われようにアルヴィンの裏切り者ネームバリューパネェと思った。ゼロスも一応本編で裏切り者やってるんだけどなぁ、すぐ裏切り返すか死ぬけど。(汗)
本当はゼロスとフォックスや他数名にも、もう少し怪しい動きをさせて容疑者が数名、怪しい奴は誰だ的なミステリー展開にしたかったんだけど上手く書けませんでしたちくせう。せいぜいゼロスの監視役としてフォックスが毎回ゼロスと一緒に登場しているって書くのが精一杯。やっぱり俺にミステリーを書く技量はなかったんだ……。
あ、一応言っておくとアルヴィンのあの怪しい行動にも全て理由があります。まあそこはこの事件が終わってからのお楽しみに、ということで……お楽しみにしている読者がいるかも分かんないですけど。(泣)
今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。