テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
ルバーブ連山。ここではレイが行商人ガメルからの依頼により商隊の安全のため魔物の討伐を行っていた。
「はぁっ!」
気合一閃。そういうがごとくレイは女性にしては長身な背丈に見合う長い足でオタオタを蹴りあげると左手に握っていたリボルバー――スタンダードマグを空中でくるくる回転しているオタオタに向ける。
「エリアルレイザー!」
叫びと共に銃声が響き、オタオタは銃弾に貫かれる。しかし回転していたせいか上手く銃弾で貫けず、レイはチッと舌打ちを叩くと右手に持った、片手でも両手でも持つことが出来る、片手半剣という通称を持つ剣――バスタードソードを振り回し、オタオタが地面に落ちると同時に振り下ろす。
「剛・魔神剣!!」
そして地面に叩き付けた時に発生した衝撃波にオタオタは呑み込まれ、衝撃波が消えた後レイはトドメといわんばかりにオタオタをサッカーボールでも蹴るかのように無造作に蹴り、近くにあった岩に叩きつけた。
「ウッシッシッシ♪ 容赦ないわねーあんた。気が合いそうだわ」
「そうか?」
「ええ。同じ銃使いだし、色々教えたげるわよ。ほらルカー? ぐずぐずしないで、もうこれで終わりなのー?」
イリアのいやらしく笑いながらの言葉にレイが首を傾げるとイリアはまだいやらしく笑いながらそう言った後ルカに呼びかけ、ルカ――自身の得物である大剣の他色々荷物を持たされている――は辺りを見回して倒した魔物をカウントする。
「え……えっと……あと五体くらいかな?」
「まだぁ? しょうがないわね。ルカ、肉出して肉」
「うぅ……」
ルカの言葉にイリアはめんどくさそうにそう呟き、腹が減ったのかルカに肉を要求。ルカは荷物の中から肉を取り出すと耐熱性のある皿の上に置く。
「ファイアボール!」
そして詠唱して炎の球を放ち、肉を焼くとイリアの元に持っていく。
「お、お待たせ……」
「サンキュー♪ やっぱ持つべき者は携帯コンロになるお友達ねー♪ 肉は焼きたてに限るっ!」
おどおどとするルカにイリアはそう言って肉にかぶりつき、レイはその光景をちらりと見た後休憩の間にと銃に弾丸の装填を行い、剣についている血を拭った。
「はい、レイ。お弁当のおにぎりあげる」
「ああ、どうも……ところでカノンノさん、放っといていいんですか?」
カノンノから渡されたおにぎりを受け取りながらレイはルカを見てそう言い、それにカノンノはくすくすと笑う。
「あれがイリアなりの愛情表現だから。放っといて大丈夫だよ」
「そうなんですか?」
「うん。あ、これイリアには内緒ね?」
カノンノの言葉にレイは首を傾げ、カノンノは迷いなく頷いた後口に人差し指をあててしーっとやった。
「せい、やっ、たぁっ!」
「ふっ!」
一方バンエルティア号の甲板。ここでは現在カイとクレスが模擬戦をしていた。ちなみに怪我したらすぐ手当てできるようにと見物しているミントはおろおろと不安そうな様子を隠せておらず隣でファラが安心させようとし、その横ではリッドが昼寝していた。クレスが鋭い剣捌きで剣を振り下ろし、直後手首を返して斬り上げ、カイが後ろに下がってそれをかわすとクレスはさらにもう一歩踏み込んで剣を振り上げる。それを見たカイは素早く青銅製の剣――ブロンズソードを上に掲げた。
「甘いっ!」
「!?」
それを見たクレスは素早く剣を脇に持っていき、右に薙ぎ払うように横に振る。フェイントだ。もっとも真剣で直撃させては危険なため寸止めにするつもりなのだが。
「なっ!?」
しかしクレスの動きが驚愕で止まる。カイはクレスの動きに反応、ブロンズソードによる防御は間に合わなかったものの懐から短剣――マスケットナイフを抜くとクレスの剣を防御して見せたのだ。キィンッという金属音が響き合い、クレスは剣を下げ、カイもマスケットナイフを懐の鞘に戻す。そして二人は同時にハイキックの機動で回し蹴りを打ち合うが、それは互いの足にぶつかる。が、お互い構うことなく地に着けていた足で地面を蹴る。
「飛燕―-」
「――連脚!」
宙を舞い、鋭く放たれる回転蹴り。踵で蹴りつけたそれが互いの頬に激突し二人はその衝撃で互いに吹き飛んだ。それにミントが息を飲み、ファラも「わ~」と声を漏らす。
「……引き分け、だね」
「……ああ」
起き上がったクレスの笑いながらの言葉にカイも勢いをつけて起き上がり、頷く。それを聞いたミントは大慌てでクレスの方に走り、ファラもカイの方に走った。
「大丈夫、カイ?」
「ああ」
ファラの言葉にカイはそう返して立ち上がるがその時少しふらつく。蹴りを顔面に受けたため無理もないだろう。
「それにしても、クレスのフェイントによく反応できたね? リッドだったら間違いなくくらってたよ?」
「見えたからな」
「み、見えたからって……それと反応できるのは別物だよ……」
「そうなのか?」
ファラの言葉にカイがこともなげに返すとファラは唖然として呟き、それにカイは首を傾げた。その時バンエルティア号がルバーブ連山へと到着し、待っていたらしいレイ、カノンノ、ルカ、イリアが船に乗り込んでくる。
「よお、お帰り」
「ただいま!」
「さてと。じゃあ中に戻ろうか」
カイの挨拶にカノンノがにぱっと笑いながら返し、クレスが立ち上がってそう言うとミント、カイ、ファラも頷き、丁度起きたリッドも伴って彼らは船内に入っていった。
「あ、カイ、レイ。丁度よかった。ね、あなた達って空からやってきたって、本当?」
ホールに入るやいなやルビアがそう二人に尋ねる。
「ああ、そうらしい」
「らしいって……じゃあ、ほんとの事は分からないんじゃない」
ルビアの質問にカイが答えるとルビアは困ったようにそう漏らし、それにカノンノが頬を膨らませる。
「でも、本当なんだもん。光に包まれて、空から降りてきたの」
「そんな事、簡単には信じられないわ」
「真実かどうかは別としても、素敵なお話だと思いますよ?」
カノンノの言葉にルビアがそう返すとミントは柔らかく微笑みながら返し、物思いにふけるように目を細める。
「世界樹が光を発した日に空から降りてきた、なんて……まるで、ディセンダーのようですね」
「「「ディセンダー?」」」
ミントの言葉にカイ、レイ、カノンノが首を傾げる。それにルビアが頷いた。
「そう。あたしやアンジュさんがいた教会には、“救世主”の言い伝えがあるの。世界に危機が訪れた時、世界樹が生み出す存在」
「遠い昔から、教会に伝わる“予言”です。世界樹から生まれたディセンダーは記憶がなく、世界のことも知らず、不可能も恐れも知らない無垢な存在だと言います。そして、人々のために世界を学び、強くなり、ゆくゆくは世界を平和に導き……また世界樹へと還っていくそうです」
ルビアの言葉にミントが教えるように続け、カイとレイを見てにこりと微笑む。
「カイさんとレイさんの“記憶がない”という点は、まさにディセンダーの様ですね」
「じゃあ、二人はディセンダー?」
ミントの言葉にカノンノが驚いたように二人を見る。
「だが、二人がディセンダーかどうかの真偽は分からない。あくまで予言で伝えられているだけだからな」
そこにウィルが口を挟んだ。
「そもそも、その予言自体の真偽すら、誰にも分からない。昔の人の創作話という見方が一般的だろう」
「そう、ですか……」
ウィルの言葉にカノンノは残念そうに声を沈めた。と、ウィルはふっと笑う。
「いや、かくいう俺も世界樹が光ったのを見た時、真っ先に予言の話を思い出したからな」
そう言った後、彼は何かを思い出したようにため息をついた。
「しかし……世間ではディセンダーの出現を待つ宗教が次々に興っているようだな」
「このようなご時世ですし、救いを求める人々が多い証拠ですね。各地で争いが絶えませんからね……救いを求める人が増えても、おかしくはありません」
ウィルの言葉に続けてミントもどこか嘆くような様子を見せながら、そう漏らした。
「もっと詳しく聞かせてくれないか?」
「え? えっと、今の世界の状況?」
「ああ」
「世界の国々では
カイの疑問の声にアンジュが答える。
「
「なんだ、それは?」
「え?……ひょっとして二人とも、この世界についてのことまで記憶を失ってしまったのかな……」
カイとレイの言葉にカノンノは驚いたように声を漏らした後悲しそうにそう呟く。
「えっと、星晶っていうのはね、世界中でいろんなものに使われる、現代のエネルギー資源だよ。マナは知ってる? 世界樹が生み出す、生命の源。マナは私達生命の源とも言える力なんだけど、捉えどころのない非物質のものだから、工業的なエネルギー源としては使えないの」
カノンノはすらすらと説明し、一息置く。
「でも、星晶は違うの。物質で、地下から採掘が出来て、エネルギーとして活用消費が出来るのよ。星晶も、マナと同じ性質を持っているの。世界樹が、長い年月をかけて、マナを結晶化させたものじゃないかって言われてる」
彼女はそこまで言うと「本当の所は、まだ分からないらしいけど」と苦笑する。
「で、さっきも言ったけど今はその星晶を巡って、国同士の争いが起きてる。星晶があるとされる小さな国や村は、力のある大国にそれらを搾取されるがまま……星晶には、土地に恵みを与えるマナを出す力があるの」
「……先ほど、マナは生命の源と言っていたが……」
「そう。星晶が獲り尽されてしまったら、土地はみるみる荒れていく。作物なんか、育たなくなってしまうの……星晶が世界の主要エネルギーになってから、文明は急成長したというわ。でも、多くの国は星晶の採掘権を巡って他国との関係は悪化の道をたどるばかり」」
カノンノの説明を聞いたレイが指摘するとカノンノはうつむいて悲しそうな表情でそう答える。
「それだけじゃないの。星晶を得て大量消費国となった国は、星晶のない他の国や村を植民地化したり、労働を強いたりするんだよ。富める国と貧しい国の差は、開く一方なの……」
カノンノは悲しそうな声でそう言った後顔を上げる。
「アドリビトムは、これらによって貧富の差が拡大した、貧しい土地の出身者ばかりなの。アンジュさんは、みんなの故郷を危機的状況から救うために、アドリビトムを立ち上げたのよ」
カノンノは明るい声でそう言い、それにアンジュもふふっと微笑んだ。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お腹が空いたでしょう? 食堂へどうぞ。シナモンロールが焼けていますよ」
「道理でいい匂いがすると思った!」
出迎えてきたロックスの言葉にカノンノが嬉しそうに笑い、ロックスもにこりと微笑んだ後カイ達に目を向ける。
「皆様もどうぞ」
「ね、二人も一緒に食べよう」
カノンノはそう言って二人を引っ張り、食堂へと向かう。
「おーいカノンノ。先食ってるぜー」
昼寝して一緒に船に入ってきたはずのリッドが既にシナモンロールをがつがつと食べており、隣のファラがもう、と声を漏らしていた。その横ではマルタが満面の笑みでエミルに「はい、あ~ん」とやっており、エミルは顔を真っ赤にして慌てていた。
「さあ、お嬢様もお二人もどうぞ」
「スゴイいい匂い! うん、美味しい!」
ロックスが促し、カノンノは我慢できずにシナモンロールにかぶりつく。
「お嬢様。ちゃんと食べる前に“いただきます”を言わないといけませんよ」
「あ……はい。ほら、カイとレイも両手を合わせて」
ロックスが注意するとカノンノは素直に頷き、両隣に座らせたカイとレイに促し二人もカノンノにならって両手を合わせる。
「いただきます」
「「いただきます」」
「はい。食べ物には感謝をしてから食べなくては、ですよ」
三人のいただきますを聞いたロックスは満足そうに微笑み、その後クレアを見る。
「クレア様、どうしましたか? 食欲がないようですが……」
「ごめんなさい。故郷のヘーゼル村の事が気になって……」
「ああ……でもヴェイグ様が頑張ってくれているじゃないですか。アドリビトムのみんなも」
「そうですね……」
クレアを元気づけようとロックスがそう言うが、クレアは浮かない様子のまま食堂を出ていった。
「クレアは、故郷の何が気になっているんだ?」
「ヘーゼル村の方々が、無事に暮らしているかどうか、心配でならないんですよ」
「ヘーゼル村は今、ウリズン帝国に占拠されていて……住民は星晶の採掘労働を強いられているの」
「ああ。星晶があるとされる小さな国や村は、力のある大国にそれらを搾取されるがまま、とさっき……」
カイの疑問の声にロックスが答え、カノンノが続けるとレイがさっき話していたことを思い出す。
「うん。クレアの故郷、ヘーゼル村もそうなの。ヘーゼル村の大人達は採掘だけを強いられるから、必要な物資や食料を自分達で生産する事が出来ないの。だからヴェイグさん、クレアやアニーはここで物資を集めて送っているのよ」
「なるほど……」
カノンノの言葉にカイはこくんと頷いた。
「ロックス! おやつが出来てるって!」
「あ、シング様にカイウス様。申し訳ありません、お呼びするのを忘れていました」
「別にいいって。さ、コハク、座ろう」
「うん」
と、そこにシングとコハク、カイウスにルビア、そしてアニーがやってきて席に座る。
「ロックスさん、飲み物のお代わりを貰いたい」
「ああ、レイ様。少々お待ちください……レイ様はミルクがお好きでしたね」
「分かっているのか?」
「コンシェルジュとして、皆様の好みを把握するのは当然です。はい、お待たせいたしました」
「ありがとう」
レイからのお代わり注文にロックスは頷いてミルクを出し、レイのコップに注いでいく。そして注ぎ終えてレイにコップを差し出すと彼女はお礼を言ってミルクを飲み始める。
「……」
「カイウス、何を見てるの?」
「はぁっ!?」
と、ルビアがカイウスをジト目で見ながらそう言い、カイウスが驚いたように叫ぶ。
「さっき、レイさんの胸見てなかった?」
「はぁ!? 言いがかりだろそんなの!?」
「そんな事言うとこが怪しい!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
ルビアの言葉にカイウスが叫ぶとルビアも言い返し、コハクがシナモンロール――何か茶色い物体がついている――をお皿に置いて二人の仲裁を始める。
「そもそも! レイさんもレイさんよ! お腹なんか出して、そんな格好してたら危ないじゃないの!」
ルビアはびしっとレイを指差して叫ぶ。レイは現在ピッポ曰く歩兵隊猟兵シリーズの防具を身につけており、それの身体部分は腕は肘から先を籠手で、足は膝から先を足防具で覆っているものの逆に二の腕や膝から上は丸出し。胴部分も丸出しで、胸当てがついているぐらい。一言で言えば胸が強調され、露出の多い格好になっている。と、レイは訳が分からないという様子で首を傾げる。
「アニーさんも似たような服ではないか?」
「ぶっ!?」
突然話を振られ、アニーは飲んでいたジュースを噴き出してごほっごほっと咳き込む。その顔は咳き込んで苦しいのとは明らかに別の意味で赤くなっていた。
「レッレレレレイさんっ!? あのっ、別に私は、その!?」
アニーは真っ赤な顔で慌てて何か弁解を行おうとしており、カイはそれをちらりと見て立ち上がった。ちなみにカイは現在は籠手と足防具はレイと同じものだがサバイバルに適したオーバーオールにゴーグルを使っている。曰く「鎧は動きづらい」そうだ。
「ご馳走様」
「あ、私もご馳走様、ロックス」
カイが立ち上がるのに少し遅れてカノンノも立ち上がり、自分のお皿を片づけると食堂を出ていき、ホールへとやってくる。
「アドリビトムってギルドは、ここで間違いないかい?」
と、それとほぼ同時に船内に二人の女性――一人は赤い髪をツインテールにし、気が強そうな雰囲気を見せる女性。もう一人はピンク色の髪を寝癖みたいにぼさぼさにした、童顔の女性だ――が入ってきてツインテールの女性がそう尋ねてきた。
「はい。何か依頼でしょうか?」
「いや、あたしらは先日ルバーブ連山を村人全員が越えるのに協力してもらったペカン村の者さ。改めて礼を言わせてもらうよ。みんなを助けてくれてありがとう」
「ああ、ペカン村の方なのね。みんな、新天地で落ち着けた?」
アンジュの笑顔での問いかけにツインテールの女性はそう返して頭を下げ、それを聞いたアンジュは嬉しそうな笑顔を浮かべて頷く。
「ルバーブ連山?」
「ああ、あなた達と出会った時に私がやってた仕事だよ。ペカン村の人が安全に山越えできるようにしてたの。そこの人達だよ」
そこに居合わせたカイの言葉にカノンノが説明した。
「新しい村の設立は、なんとかやってるわ」
と、次に童顔の女性が口を開く。
「元の土地は、ウリズン帝国に星晶を採り尽されて、作物も育たないし。新しい土地でやっていくしかないもんね」
「んで、今日は報酬の件で話があってさ。その……」
童顔の女性に続いてツインテールの女性が言いにくそうに口をもごもごとさせる。
「単刀直入に言っちゃえば、お金がないってことなのよね~」
「村の人々が新しい生活を始めるために、色々資金が必要で……報酬の支払いをもう少し待ってもらえないかい?」
童顔の女性のやけにあっさりした言葉と対照的にツインテールの女性は申し訳なさそうにそう言う。と、童顔の女性が一歩前に出た。
「で、提案なんだけど、あなた、この天才を雇わない?」
「え?」
「ここって設備も良さそうだし! 私の研究もはかどりそう~! 私、役に立つと思うわよ~♪ で、働いて返しちゃう☆ グフフ、どう?」
「待ちなよ。それはあたしも考えたけど、村のみんなをほっとくわけにも……」
童顔の女性がそう言うがツインテールの女性はその女性の肩を掴んで首を横に振る。とアンジュはふふっと微笑んだ。
「大丈夫よ。この船で、すぐに戻る事は出来るから。それに、世界中から物資を集められるし。ここのみんなも、そうやってそれぞれの故郷を助けているから」
「そうなのかい?」
「ええ。あなた達が持つ経験や特技での活躍を期待します」
「じゃ、決まり~!」
アンジュの言葉に童顔の女性が明るい声を上げ、ツインテールの女性を見る。
「言ってみるもんねぇ。ねえ、ナナリー?」
「……ありがとう、リーダーさん」
ツインテールの女性はアンジュにお礼を言った後、カイ達の方を向いた。
「そういうわけで、これから世話になるよ。よろしく。あたしはナナリー・フレッチ。家事と弓の使いならお手の物さ」
「ハイハイ、ヨロシク~。私は、ハロルド・ベルセリオス。大天才科学者よ♪」
「カイ」
「カノンノ・グラスバレーです」
ツインテールの女性――ナナリーと童顔の女性――ハロルドの自己紹介を受け、カイとカノンノも名乗る。
「ちょうど良かった! 人手は、もっと必要だと思ってたの。それじゃあ、これから困った人々のためにしっかり働いてね」
「これからよろしくね、ナナリーさん。ハロルドさん」
「ああ」
「んじゃ、研究室覗いてくるわ。グフフ~」
「じゃあ空いてる部屋を教えるね。ついてきて」
カノンノの笑顔でのあいさつにナナリーは頷き、ハロルドは早速研究室を覗きにいく。そしてナナリーはアンジュから空いている部屋へと連れていかれる。
「また新しい方が入られたんですか。いっそう賑やかになりますね」
「あ、ロックス。どうしたの?」
と、そこにロックスが現れてそれぞれの行く場所に消えていったナナリーとハロルドを見ながらふふっと微笑む。それにカノンノが反応するとロックスは何枚かの紙の束をカノンノに見せた。
「お嬢様がクエストに行っている間に街でスケッチブックを買っておいたのを、渡しておこうかと思いまして。そろそろ無くなる頃でしたよね?」
「ありがとう! ロックス! 大事にしまっておかなくちゃ!」
ロックスから渡されたスケッチブックを抱きしめてカノンノは走っていき、カイはそれを見送ってからロックスに目を向ける。
「カノンノは絵を描くのか?」
「はい。時間がある時はいつも、絵を描いています。もう、小さい頃からずっとなんです……」
「小さい頃から?」
「ええ。お嬢様が赤ん坊の頃から一緒なんです」
ロックスの言葉尻にカイが聞き返すとロックスは昔を懐かしむように微笑みながら頷く。
「色々、事情があって……お嬢様を引き取り、育てています。僕に親の役が務まっているか、それに、お嬢様をしっかり育てられているか、不安ですけど……でも、お嬢様を素敵なレディに育ててあげなくては……」
ロックスは不安げながらも力強さを垣間見せる笑みを見せながら、ごそごそとさっきスケッチブックを入れていた袋を動かす。と、その変な感触に気がついたのか袋の中を覗き込んだ。
「あっ、しまった!! 絵筆も渡すんだった!」
「ロックスー! シナモンロールお代わりねえのかー!?」
どうやら絵筆を渡し忘れたらしく、しかしそこにリッドからお代わりの催促。ロックスはあわわと絵筆と食堂への道を何回か見回した後カイにすまなそうな目を見せる。
「カイ様、すみません。お嬢様に絵筆を渡してきてくれませんか? いつも、お嬢様は操舵室にいますから」
「分かった」
「それじゃあ、お願いしますね。リッド様、すぐに参りますので!」
ロックスはそう言って食堂へと文字通り飛んでいき、カイは操舵室へと向かった。操舵室ではカノンノがスケッチブックを持ちながら外の景色を眺めている。
「カノンノ」
「ん?……あ、カイ。どうしたの?」
「ロックスから」
カノンノはカイの顔を見て首を傾げ、カイはそう言って絵筆を渡す。
「新しい絵筆だ! ありがとう!」
そう言ってカノンノは笑顔を見せ、カイは頬をかきながら微笑み返した。
「絵を描くのは好きなのか?」
「ロックスから聞いたの? 好きだけど……独学だから上手じゃないよ?」
カノンノは照れくさそうにスケッチブックに顔を隠しながらそう言い、スケッチブックを広げる。そこには色々、よく分からない光景が描かれていた。
「こんな光景、見たことある?」
「ない」
「そっかぁ……記憶の手がかりになるかと思ったんだけど……」
カノンノの問いかけにカイは即答し、カノンノは残念そうにそう呟く。
「どこなんだ?」
「私もね、この風景を実際に見たことないんだ」
「?」
突然の告白にカイは首を傾げる。
「スケッチブックの白い紙を見てるとね、たまに見えてくるんだ。色んな風景が。その見えた風景を筆でなぞって、出来たのがこれらの絵なの……どうしてだかは分からない。でも、見えるんだ。他の人にも見せたけど、誰もこの風景を知らない。」
カノンノはそこまで呟くと少しうつむく。
「それに、作り話でしょって笑われちゃうの」
「本当のことなのにか?」
「えっ!?」
カノンノの少し笑いながらの言葉にカイは平然と聞き返し、カノンノは驚いたように顔を上げた後、はっとなると恥ずかしそうにうつむく。
「ご、ごめんね。信じられたことあんまりなくって……その……」
カノンノは掠れるような声で呟き、恥ずかしそうに上目遣いでカイを見る。
「あり、がとう」
「どういたしまして」
彼女のお礼の言葉にカイもそう返しておく。
「この船でさ、色んなところを旅して、これらの風景に出会えたら……もし出会えたら、どうして私に知らない風景が見えるのか、その理由が分かるかもしれない……それにね、“知らなきゃいけない”って思いもあるんだ……見えた風景は、綺麗なものだけじゃないの。怖い、この世の終わりみたいな風景も見えたから……」
「……」
カノンノはそう呟き、もう一度カイに微笑んだ。
「本当に、信じてくれてありがとね。カイ」
「ああ……じゃ、俺は戻る。もっかいクレスか、今度は他の奴に模擬戦頼んでみる」
「ふふ、頑張ってね」
そう言ってホールに行こうとするカイにカノンノは微笑みながらそう返した。そしてホールへと降りるとクレアがヴェイグと共にミントを連れ、アンジュに何かをお願いしているのを見つける。
「どうしたんだ、クレアさん」
「あ、カイさん。ヘーゼル村に物資を届けてもらおうと思いまして……」
「俺と一緒に、ヘーゼル村に行ってくれる人をこれから探すところだ。今はミントが同行してくれることになっているが……」
「本当はクレスさんにも同行してもらいたかったんですが、さっきのカイさんとの模擬戦でのダメージが思った以上に大きいらしくて……」
カイが声をかけ、クレアが説明するとヴェイグもそう言い、ミントもさっきの模擬戦を思い出す。
「じゃあ俺が行くよ」
「そうか……ありがとう」
「ん? どうしたの?」
同行の申し出にヴェイグはお礼を言い、するとそこにおやつを食べ終えたらしいシングが声をかけた。
「クレアさんのいつもの依頼よ」
「ああ、ヘーゼル村の? 誰が行くの?」
アンジュからそれを聞いただけで分かったらしく、シングが問うとヴェイグはミントとカイを見た。
「今は俺とミント、あとカイが同行するようになっている」
「じゃあ俺も行くよ。腹ごなしになるしさ!」
「ふふ、あっという間に決まったね」
ヴェイグから同行メンバーを聞いたシングは手を上げて同行に立候補し、アンジュはふふっと笑ってそう言う。
「じゃあ、もう一度説明するね。今回行ってもらうのはコンフェイト大森林。そこで、ヘーゼル村の人と接触し、必要な物資を届けることが仕事よ。ヘーゼル村の人は、ヴェイグ君が知ってるから」
「ああ……」
「それじゃあ、よろしくね」
アンジュが説明し、ヴェイグに顔を向けると彼は頷き、アンジュは微笑みながらよろしくねと言う。
「よし! ガンドコ行こう!」
そしてシングが右腕を天井に突き上げやる気満々という様子でそう叫んだ。
カイナ「さて今回は少しレイのバトルを書いたり模擬戦書いたりカイとカノンノをストーリーに合わせる程度にイチャイチャさせたり……あー早くマジェ並みのカイカノ書きてー」
カイ「耐性が出来るまで待て……」
カイナ「ちぇっ。さて次回は彼とのバトルです……さてどう書こうか。カイをある程度目立たせつつも他のキャラを食わず、さらにヴェイグとサレに因縁を付けつつカイにも因縁を付けねば……ま、そこは書く時に考えりゃいっか。じゃ、今回はこの辺で。感想はいつも心待ちにしております。それでは」