テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

41 / 43
第四十話 輝ける光器と水の上をすべる花

バンエルティア号の甲板に赤色の風が吹く。縦横無尽に吹く風はやがて甲板の中央近くにて留まり、実体を持つように集まっていく。

いや、これは風そのものではない。風のように素早く動いた結果、その者が纏っている赤い装束が風のように見えていただけだ。赤色を基調に黄色で縁取られた額当てに籠手と具足、同じデザインであることから一緒に着用することを前提として作られているように思えるそれは同じく赤と黄色が半々になるようにデザインされている衣とともに東洋風の雰囲気を見せていた。

首元にはマフラーのように白色の布が巻かれ、その布は首の後ろからだらんと垂れ下がっており彼が動くと共にまるで空気を弄ぶように優雅に宙を舞う。

 

その東洋風の衣装を纏う青年は腰に帯刀していた刀を抜く。標準的な片手剣と同じくらいの長さの刀はこれまた鮮やかな紅色を基調としており、それを青年が振るうだけでも相手を魅了するかのような不可思議な光を放っていた。

 

青年は刀を振るう。最初は一閃、なんの変哲もない振り下ろし。次に横薙ぎ、最後に斬り上げ。そう思いきや今度は回し蹴りや空いている左手での掌底などの体術を交えながら、今度は順手から逆手に持ち替えて刀を振るう。そう思いきや左手で腰の後ろに挿していた短剣を引き抜いて握り、二刀流にて刀を振るう。次々と型が変わっていき、予測不可能ながらまるで舞うような独特の剣術を見せる。

そして一通り満足したのか、青年は刀を腰の鞘へと納めた。するとパチパチパチ、と控えめな拍手が響く。

 

「凄いね、カイ。レディアントをもう使いこなしてる」

 

「ああ。しかし凄いな、この服なんて特殊な魔術がかかってるらしくって下手な鎧以上の強度があるらしいぞ。その上動きやすい」

 

「カイって軽装備な分防御力低かったもんね」

 

拍手をする少女――カノンノの言葉にカイは東洋風の衣装――レディアント装備を見ながらそう答える。

レディアント装備を入手後、封印次元を作るための星晶の代用品を探す間の息抜きと言おうかハロルド達がレディアント装備の分析を行った結果、レディアント装備には遥か昔に使われた特殊な魔術がかかっており、衣服の機動性と鎧のような堅甲さを併せ持つ事が判明したそうだ。

カイは忍者として機動力のある装備を好んでいたが、そのような装備はえてして強度が低く防御力に問題が残っていた。しかしレディアント装備は機動力はそのままに防御力も解決できているということだ。

 

「血桜も手に馴染んできたし……そろそろクエストを受けて実地訓練でも行ってみるか」

 

「私も手伝うよ」

 

「サンキュ」

 

先程鞘に収めた刀――忍刀血桜を手で撫でながらカイがそう言うとカノンノがそう返し、それにカイがお礼を返しながら二人は甲板から船内へと入っていった。

 

 

 

 

 

「カイ、カノンノ。二人にクエストをお願いしたいのだけど」

 

甲板からホールに戻って来たカイとカノンノにアンジュが声をかけ、二人もどうしたのかなと顔を見合わせると「はい」と返事をしてアンジュの待つカウンターへと歩き寄る。

カウンターの横にはアッシュとナタリア、そしてウィルが立っていた。

 

「次に採取する“水の上をスイスイ滑る花”の資料と生息地の断定が出来たからクエストを頼みたいんだ。既にアッシュとナタリアには了承を得ている、カイとカノンノには二人と共にシフノ涌泉洞へと行ってもらいたい」

 

ウィルが説明し、資料を手渡す。カノンノがそれをぺらぺらとめくって確認した。

 

「ユルングの樹?」

 

「そう。“水の上をスイスイ滑る花”とは恐らくそれの花を指すものだと考えられる。そこでユルングの樹が生息するシフノ湧水洞へ行き、コピーズ・ロッドでドクメントの採取をしてきてもらいたいんだ」

 

「コピーズ・ロッドは私が預かりましたわ。責任を持って管理いたします」

 

カノンノが資料に書かれた植物の名を呟くと、ウィルがそう説明。ナタリアがコピーズ・ロッドを見せながらそう返した。

 

「了解しました」

 

「うん、任せといて!」

 

カイは資料をさっと眺めると内容を理解したのか頷き、カノンノもそれに続く。

 

「うん、じゃあ気を付けてね。行ってらっしゃい」

 

そしてアンジュの見送りの言葉を聞きながら、カイ達はバンエルティア号を後にしてシフノ湧水洞へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

「そういえば、ライマ国って今はどうなってるの?」

 

「ライマ国の暴動も収まり、秩序も戻り始めている様ですわ」

 

シフノ湧水洞についたところでカノンノが思い出したように尋ねる。ナタリア達がアドリビトムに来た理由は暁の従者の起こした暴動によって国が荒れたこと。しかしその暁の従者が世間から消えた事で暴動も収まった様だ。だがそう答えるナタリアの表情はどこか暗い。

 

「ですが、民の苦しみは続いている。どうして、もっと前から国民の苦しみに気づけなかったのでしょう」

 

「しけたツラをするな!」

 

暗い表情でそう後悔の言葉を吐くナタリアをアッシュが一喝した。

 

「お前は国のためにアドリビトムへ入ったのだろう。それに……お前がそんな様子では、一緒に国を変えられないだろうが」

 

「アッシュ……」

 

アッシュの言葉を受けたナタリアの顔が嬉しそうにほころぶ。

 

「約束を……子どもの頃に交わした約束を覚えていて下さったのですね。その……プロポーズの……言葉も……」

 

「所詮、俺はルークの影だ。王にはなれない。お前との未来も……」

 

ナタリアの言葉に対し、アッシュは突き放すような言葉で答えるが、続けて彼はナタリアの顔を真っ直ぐに見た。

 

「だが、お前と一緒に国を……世界を変えていくことはできる」

 

「アッシュ……世界を変えられるのなら、私は王族でなくても構いませんのよ」

 

「……ナタリア」

 

アッシュとナタリアはそう言って、じっと見つめ合う。

 

「……アッシュとナタリアって、そういう関係なの?」

 

「な!?……何を聞いているッ!! 死にたいのか、貴様……」

 

その光景を見たカノンノが疑問に思ったようにそう尋ねると、アッシュは驚いたように怯んだ後睨みを利かせて怒鳴る。

 

「……チッ」

 

そしてやがて舌打ちを叩くと「行くぞ、ナタリア」と彼女を呼んで歩き出す。

 

「……はい!」

 

ナタリアもこくりと頷いてアッシュの後を追う。カイとカノンノも彼らを追うように歩みを進めるのであった。

 

パシャリ、と湧水洞なだけあって道に点在する浅い水たまりを踏む音が洞窟内に響く。随分と深いところまで歩みを進めたところでカイとアッシュが足を止め、そのやや後ろを歩いていたカノンノとナタリアも足を止めると共に、カイとアッシュが刀と剣を抜くのを見て弓を構え大剣を抜く。

彼らの目の前に現れたのは通常のオタオタよりも青色が濃くなっている魔物――オタブルと、青色の体毛をした小鳥とでもいおう魔物――ザーザーだ。

 

「一気に行く」

 

そう呟いた瞬間、カイの姿が消える。そう思うとオタブルの一体が上下へと両断され、カイがさっきまで立っていた位置と両断されたオタブルの位置を重ねて一直線上へと至る場所にカイが出現する。

カイが高速で敵に接近、すれ違いざまに渾身の斬撃を入れる影走斬でオタブルを葬ったのだ。しかしそれを理解できなかったオタブルの残りやザーザーやキーキーと奇声を上げて外敵を威嚇することしか出来なかった。

 

「災いを灰塵と化せ……」

 

そしてそれはただ相手に時間を与えるだけの結果に終わる。

 

「エェクスプロォード!!!」

 

炎のマナが空中に結集して火球となり、オタブルやザーザーのいる地点へと落下。地面に着弾すると同時に大爆発を起こす。その炎が消えた後、魔物たちは全て跡形もなく消え去っていた。

 

「ナイス、アッシュ」

 

「ふん……貴様も少しは出来るようになったな」

 

戻って来たカイの言葉にアッシュは剣を腰の鞘に戻しながら悪態の様子で返答する。

カイが高速で一撃入れて相手の気を引き、その隙をついてアッシュが上級魔術を放って一掃する。という作戦を二人は言葉にしない以心伝心でやってのけていた。

自分達の出番がなかったカノンノとナタリアはぽかんとした後二人に拍手を送り、それから一行は再び歩き出す。

 

 

 

 

 

「まあ、花が流れていきますわ」

 

シフノ湧水洞の地下水路を進んでいく途中、ナタリアが水面を流れる色とりどりの花に気づき、「なんて美しいのでしょう」と感嘆の声を漏らす。

 

「ユルングの樹の花だ。この上流に、樹があるんだろう」

 

アッシュは前もって資料を確認していたのか迷いなく、流れている花はユルングの樹の花だと断定する。それから彼は洞窟の壁に目を向けた。

 

「土壁が濡れているな……水位が下がっているのか?」

 

「引き潮……かもしれませんわね。ここは海と繋がっていますもの」

 

アッシュの呟きを聞いたナタリアがそう分析、「潮の満ち引きで水位が変わるのだと思いますわ」と述べた。

 

「ところで、ユルングの樹ってどんなものなのかな?」

 

「ええ。資料には雄花は水上に、雌花は水中に咲くと書いてありましたけれど……受粉の効率が悪そうですわね」

 

カノンノの言葉にナタリアがそう答え、「なぜ、その様な進化を辿ったのか。不思議ですわ」と締める。

 

「それにしても、本当に綺麗だね」

 

歩きながらも水面を流れるユルングの樹の花を見ながらそう言葉を漏らすカノンノ。その言葉にナタリアも「ええ」と首肯をして頬を緩ませた。

 

「こうしていると、世界に迫る危機など何かの悪い冗談のように思えてきますわ」

 

「……」

 

「! ごめんなさい。私ったら……」

 

アッシュのしかめっ面を見て気づかぬうちに不謹慎な発言をしてしまった事に気づいたナタリアが謝罪の声を出す。

 

「……全てが終わったら、またここへ来ればいい」

 

しかしアッシュはナタリアを叱る様子もなくそう言った。

 

「そうすれば、何の気兼ねもなくお前も景色に見入っていられるだろう」

 

「アッシュ……」

 

「そのためにも、今すべきことに集中するぞ」

 

アッシュはナタリアを気遣う様子を見せながら、歩みを速める。「遅れるなよ、ナタリア」と彼女に言葉を投げかけ、ナタリアも嬉しそうに微笑んで「はい!」と返した。

 

 

 

 

 

「……っ!! なんですの、この生物は!?」

 

洞窟の奥深くまで足を踏み入れた時、ナタリアが背負っている矢筒に右手をやり、同時に左手に握る弓を前に突き出して弓を撃つ構えを取る。彼女らの目の前に赤い体色をし、背や口元にヒレがついた巨大な水棲魔物——アンキュラプルプが存在していたからだ。

 

「依頼の品はあるようだが、簡単には持ち帰れないようだな」

 

見覚えのない魔物の姿にナタリアは思わず声を上げるナタリアの隣で、アッシュもアンキュラプルプの後ろにユルングの樹があるのを確認して呟き、剣を構える。カイも右手を左腰に挿している刀の柄へとやり、アンキュラプルプを睨みつけた。

 

「行くぞ!」

 

「キィー!!」

 

カイの叫びに対してアンキュラプルプが吼え、その呼び声に答えるようにクラゲのような魔物――プルプが周囲の池から出現する。

 

「ナタリア! あのクラゲを撃ち落とせ!」

 

「お任せください!」

 

アッシュが素早く指示を出し、それにナタリアは了承の声を出して弓に矢を二、三本番えて一気に放つ。その矢が空中を浮遊していたプルプに突き刺さり、痛みに怯んだのだろう動きが止まった隙をついたアッシュが剣を振り下ろして一刀両断する。

 

「来たれ爆炎、焼き尽くせ! バーンストライク!!」

 

『キュウウウウ!?』

「ギィィィィッ!!」

 

そこにカノンノの詠唱が完了。炎のマナが巨大な火球となって具現して降り注ぎ、プルプを焼くのみでは飽き足らずアンキュラプルプまでその熱波が届く。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

そしてその熱波と爆炎をかいくぐり、カイがアンキュラプルプへと突撃。鞘に収めていた刀——忍刀血桜が引き抜かれると同時にその刀身を炎が覆う。

 

「鬼炎斬!」

 

抜刀と同時の横薙ぎ一閃に続き、素早く刀を振り上げて鋭く振り下ろす二閃、十字を描く形の斬撃がアンキュラプルプの身体を焼き裂く。

それだけで終わらずカイはアンキュラプルプの巨体に乗りかかると相手の身体を蹴って跳躍、素早くアンキュラプルプの攻撃範囲から離脱した。

 

「ギイイイィィィィッ!!!」

 

アンキュラプルプが再び吼え、それと同時に新たなプルプが周囲の池から飛び出してカイ達を包囲。アッシュがチッと舌打ちを叩いて周囲を確認、後衛のナタリアを庇うように数歩後ろに下がる。

カノンノもそれを見て彼らの背後をカバーするように立ち位置を変えると共に、跳躍して離脱したカイもカノンノの近くに着地する。

 

「これじゃあキリがないよ……」

 

「ああ……アッシュ」

 

「なんだ?」

 

周囲のプルプを見て嫌そうな顔をして漏らすカノンノの言葉にカイも同意、僅かに考える様子を見せてからアッシュを呼び、アッシュも返事をしただけで目線で続きを促す。

 

「俺がクラゲをなんとかするから、アッシュは親玉を頼む。ナタリアはアッシュの援護、カノンノはナタリアについて護衛しながら隙を見て魔術で援護を頼む」

 

「……分かった」

 

カイの作戦を聞き、アッシュは首肯。アンキュラプルプを睨むといつでも走り出せるように構えた。

 

「ナタリア、背中は任せたぞ」

 

「!……お任せください!」

 

ただ一言残して走り出したアッシュの背中にナタリアは呼び掛け、弓を構える。カイもアッシュと共に走り出し、カノンノはナタリアの脇に控えるように立って大剣を構えた。

 

『キィィィィッ!!』

 

走り出したアッシュとカイの前に立ちふさがるプルプの群れ。それに対しカイは両手の指に挟むように苦無を持つ。

 

「行くぞ、アッシュ!」

 

「ああ」

 

カイが合図を出し、アッシュも了承を出す。それと同時にカイは両手の苦無をプルプの群れ、そのすぐ目の前の地面目掛けて投擲した。

 

「朧土乱!」

 

そう叫ぶと苦無に込められていた大地のマナが解放され、岩の壁が出現してプルプの行く手を阻む。

 

「はああぁぁぁっ!!」

 

しかし岩の壁が地面から突き出る勢いを利用し、敢えてそこに立っていたアッシュは大ジャンプ。プルプの群れを飛び越えて一気にアンキュラプルプへと斬りかかった。

 

『ピィィッ!』

 

「させません! そこですわ!」

 

それに気づいたプルプが数匹、空中を跳ぶアッシュに襲い掛かる。だがそれにいち早く勘付いたナタリアが弓に数本の矢を番えて放つ特技――シュトルムエッジで襲い掛かるプルプを串刺しにする。

彼女を背後から狙うプルプはカノンノが大剣を振り回して粉微塵に砕いていた。

 

「覚悟しろ!」

 

一方、アッシュはアンキュラプルプ目掛けて空中で剣を上段に構え、同時に雷のマナが剣に収束する。

 

「轟雷喰らいやがれ! 襲爪雷斬!!」

 

「ギィィィッ!?」

 

雷を纏った剣で振り下ろし、同時に落雷を発生させて追撃を行う剣技――襲爪雷斬。剣と電流と落雷の三連続攻撃にアンキュラプルプは怯み、両腕のような触手を振り回してアッシュを追い払おうとする。

しかしアッシュはその触手の攻撃を剣を振るって弾き、時には受け流して回避。アンキュラプルプから離れようとせずに攻撃のタイミングを計っていた。

 

「ギイイイィィィィッ!!!」

 

三度アンキュラプルプが咆哮。またプルプを呼ぶつもりかと周囲へ警戒を向けるアッシュだが、その瞬間アンキュラプルプは巨大な二本の触手を振り上げた。

 

「チッ」

 

まずいと判断し、素早く横に飛ぶ。その直後振り下ろされた触手がズガンと音を立てて床を砕くがそれだけではない。直撃を免れたが振り下ろした触手の衝撃で地面が揺れ、一瞬アッシュの動きが止まってしまう。

それだけではない。アッシュの動きが止まった瞬間、プルプの群れの一部がアッシュ目掛けて襲い掛かったのだ。アッシュは再び舌打ちを叩き、足元が安定しないながらも対応しようと剣を構えた。

 

「アッシュ、走れ!!」

 

「!」

 

その瞬間、アッシュは己の視界に赤い風が走るのを見る。それと同時に聞こえた言葉を聞いた彼はプルプの群れに背を向け、アンキュラプルプ目掛けて走り出す。

隙だらけの背中を狙おうとするプルプだったが、その身体は赤い風に吹かれた次の瞬間細切れへと変わっていく。その風が止んだ時、カイが忍刀血桜を鞘に収めるキンッという音が洞窟内に響いた。

 

「ギイイイィィィィッ!!!」

 

アンキュラプルプがまたも咆哮し、触手を振り回してアッシュに突進。それに対してアッシュも己の中のマナを解放、限界突破(オーバーリミッツ)を行って足を止め、剣を掲げた。

彼の解放したマナが周囲のマナと共鳴し、守護の結界を作り出してアンキュラプルプの突進を受け止める。

 

「雑魚が近寄るんじゃねえ!!」

 

守護の結界からマナの波動が溢れ、アンキュラプルプを攻撃。アッシュはさらに地面に剣を突き刺して結界に直接己のマナを送り込む。

 

「絞牙鳴衝斬!!!」

「ギイイイィィィィッ!!??」

 

マナの波動がまるで獲物を砕く牙の如き衝撃波と化してアンキュラプルプを襲う。アンキュラプルプはその衝撃波から生ずる痛みに呻き、衝撃波が消えた瞬間逃げようとその場を離れ、手近な池に飛び込もうとする。

 

「私から逃れられると思って?」

 

しかし、それを許さぬ狩人がこの場にいた。

 

「降り注げ、星光!」

 

掲げた弓から光の矢が放たれ、それがアンキュラプルプの足元へと着弾。同時にそれを中心として魔法陣が展開し、アンキュラプルプの動きを封じ込めた。

 

「アストラル・レイン!!!」

 

そして動きを封じられたアンキュラプルプ目掛けて無数の光の矢がまるで雨のように降り注ぐ。その光の雨が止んだ時アンキュラプルプはもはや動くことさえ出来ずにぐらりとその巨体を揺らがせて池の中に倒れ込む。

そしてアンキュラプルプが再び浮かび上がることはなかったのであった。

 

「これで邪魔はなくなったな…用事を済ませるぞ、ナタリア」

 

「はい」

 

アンキュラプルプが池の中へと沈み、自分達のボスであるアンキュラプルプが倒れた事でプルプの群れも逃げ出した。アッシュが周囲の安全を確認してナタリアに呼び掛け、ナタリアがコピーズ・ロッドを手に頷いて返事をする。

アッシュを先頭に洞窟の奥、先ほどアンキュラプルプがまるで守っているように立ちふさがってた場所へと向かう。その先にある樹――ユルングの樹の根元は水に沈んでおり、しかしその根から無数の花が蕾を開かせていた。

 

「この時間だけ、雌花が水中から顔を出すのか……」

 

「では、この落ちてくる雄花とは、この引き潮の時間だけしか出会えない、という事ですのね……」

 

アッシュの言葉を聞いたナタリアは、ユルングの樹にコピーズ・ロッドをかざしてそのドクメントをコピーしながら、雄花と雌花がいつも出会えないという事にどこか寂しそうな気持ちを隠したような声で呟く。

その呟きに対してアッシュはそのようだと肯定を行った後、潮が満ちていく時は樹の上に咲く雄花が落下しないように進化したのだろうと推測を口にする。

 

「この資料によると、ユルングの樹は陸から水中に根を下ろすように進化したんだって」

 

「植物も生き残るために、必死に知恵を絞ったのでしょう……栄養が豊富で、他の植物には遮られる事にない場所を目指したようですわ」

 

カノンノがあらかじめウィルに渡された資料を読みながら言うと、ナタリアが生き残るために知恵を絞り進化をした結果なのだろうと言った。ユルングの樹は呼吸を水上では通常通り葉にある気孔を使い、水中では根から直接、水に溶けた二酸化炭素を取り込んでいる。水や養分も、根の表面の細胞から塩分だけを除いて吸収しているのだと、資料に書かれていたことを説明した。

 

「生きていくために、特殊な進化を遂げた植物……ということか」

 

通常植物は地下に張った根から栄養を吸収する。しかしユルングの樹は水から栄養を取るように進化をしている。特殊な進化と言ってもおかしくはないだろう。

 

「生きるために、次の世代を残していくために変わる……か。他の種の生息域を奪わず、新天地に適応する為に自らの変化を選んだんだな」

 

「奪わず……自ら変わる……」

 

アッシュの言葉を聞いたナタリアは、その内容をどこか興味深いものを聞いたような、大事な事を思う雰囲気で反芻する。

 

「私達ヒト、そして国や世界も変化していく事が出来ますわよね……」

 

「……ナタリア。カイを見ろ」

 

ナタリアの呟きに対してアッシュはユルングの樹を見つめているカイを指す。

 

「あいつは、故郷も無ければ 血の繋がった親や兄弟もいない。だがな、こいつは行動する事で世界を変えていっている……俺達にも、出来ない事はない」

 

「アッシュ……そうですわね……」

 

どこか決意に満ちたアッシュの言葉。それを聞いたナタリアも頬をほころばせ、自らの行動で世界を変えていこうという決意を新たにする。

そしてここで行うべき用事も終わったため、彼らはシフノ湧水洞を後にしてバンエルティア号へと戻っていくのであった。

 

「ユルングの樹のドクメント採取、お疲れ様」

 

出迎えてきたアンジュがまずは今回のクエスト終了の労をねぎらう。

既にバンエルティア号にも各地から、どんどん進化種が集まってきており、今は船の皆でドクメントの抽出作業をやっているそうだ。

シングもリタにドクメントの抽出方法を教わったらしく、出来ないと諦める前にまずは教えてもらってやってみる。リタやハロルドのような頭脳派にはなれないけれどちょっと手伝うくらいなら出来ると気合充分に言うシングに、コハクも大きく頷いて同意を示していた。

 

「さあさ、また新しい植物が届いたから、ガンガン手伝ってもらうわよ」

 

「よーし、頑張ろうね、コハク!」

「うん! 頑張ろう!」

 

そこにハロルドがドクメント抽出対象なのだろう植物の入った荷物を持ちながら手伝いを呼び、シングとコハクは頑張ろうと言い合って荷物をハロルドから受け取り作業部屋へと向かっていく。

その後ろ姿を見ながらアンジュはふふっと笑い、「みんな頼もしいな」と言葉を残す。

 

「このギルドを立ち上げて、本当に良かった。さてと、次に採取する植物の資料はまだかな?」

 

「ウィルが作成中よ。あと、ちょっとね」

 

「オッケーよ。それじゃカイ、皆。今回もご苦労様でした」

 

次に採取する植物の資料が完成するまでは間があるらしく、その時まで休んで英気を養ってもらおう。アンジュはそう思い、今回のクエストを行った四人に労をねぎらう言葉を送るのであった。

 

 

 

 

 

カイ達がそんなクエストを行っているのと同時間帯。ルバーブ連山の山頂で剣と剣がぶつかり合う金属音が響き渡っていた。

 

「剛・魔神剣!!」

 

一方の剣士が剣を地面に叩きつけ、前方に衝撃波を発生させて相手の剣士――青色の鎧を纏った黒い何かを牽制し距離を取らさせる。

しかしそれで体勢を立て直すわけではなく剛・魔神剣を放った剣士は左手に握っていた銃をその剣士へと向けて引き金を引いた。

 

――!

 

相手が回避できないタイミングでの発砲を、こちらも同じく青が基調だがどこかメイド服に似たような服を纏った黒い何かが鎧剣士の前に躍り出て左手に構えた盾で防ぐ。

一対二という構図に銃剣士――レイは口元に好戦的な笑みをたたえていた。

 

――!

 

鎧剣士——男性レディアントがメイド剣士——女性レディアントの後ろから飛び出てレイに斬りかかり、レイはそれを右手に握る剣――エクスカリバーで受け止める。

 

「はぁっ!!」

 

そしてエクスカリバーを力任せに振るって相手の剣を押し返したところで相手の腹へと蹴りを入れて蹴り飛ばす。レディアントを纏うための人工精霊を相手に腹への蹴撃が効くかは疑問だが、とりあえず動きを封じる事だけは出来た事を素早く確認したレイは盾を構えたまま突っ込んでくる女性レディアントを睨みつけた。

 

――瞬迅剣

 

盾を目隠しに突きの出所を見せなくしていたがレイはそれをエクスカリバーで受け流して突きを逸らす。突進の勢いを殺せずにたたらを踏む女性レディアントの側頭部目掛けて銃を乱射しながら回転。

 

「くらえ!!」

 

――!?

 

至近距離からの銃乱射に加えての回転斬り。背後を狙われた女性レディアントにそれを防ぐ手段はなく、背中から深く斬られた女性レディアントはそのまま地面に倒れ伏した。

 

――!!!

 

そこに蹴り攻撃による一瞬の行動不能から復活した男性レディアントが、レイの背後から斬りかかる。それに対しレイはちらりと男性レディアントを見据えてニヤリと笑う。

 

――!?

 

同時に男性レディアントは何かの力に吹っ飛ばされ、そこで彼――人工精霊に性別や意識があるのかは不明だが――は気づく。レイから圧倒的なオーラが立ち上っていること、すなわち彼女が限界突破(オーバーリミッツ)を行ったことに。

 

「これで終わりだ」

 

そう言って男性レディアントに向けられる銃には魔法陣が展開している。

 

(クロス)バスター!!!」

 

――!!?? 

 

魔法陣が敷かれた銃口から光の波動が放たれ、まるで光の波のような力に男性レディアントは飲み込まれるしか出来なかった。

 

「我の勝ちだな」

 

――光……光 マトイシ モノ……世界樹 ノ マナ ノ 輝キ……

 

レイの言葉に答えるようにそんな、男とも女とも老いているとも若くあるともとれる不思議な声が聞こえてくる。

 

――否……ソナタ ハ 我ラガ世界樹 デハ ナイ……

 

「その通りだ……だが、我の勝ちには変わるまい……貴様らの力、奪わせてもらう」

 

犬歯を牙のように覗かせ、眼帯で隠していない右目を怪しく輝かせるレイ。

レディアントとそれを纏う人工精霊は光の粒子となって消滅していく。しかしレイが剣と銃を置いてフリーにした両手をその光の粒子に向けて掲げると両手が光を放ち始めた。すると光の粒子はまるで導かれるようにレイの両手の光へと吸い込まれていく。

 

「フ、ククククク……ルミナシアのディセンダー……今度だ、今度こそ……貴様を殺してやる」

 

光の粒子を吸い込むと共に力が沸き上がるのを感じ、レイはただ一人ルバーブ連山の山頂でそう呟きの漏らすのであった。




《後書き》
読者が残っているかすごく不安ですがお久しぶりです。
まさか一年も更新が滞るとは思いもしませんでした……まあ、仕事が忙しかった他に最近衝動的に新連載始めまくったツケもあるんでしょうけども。もし楽しみにしていてくださった方がいたならば申し訳ありません。
というか、MP文庫から付き合いの人達まだいるのかな?

ちなみに数日前から書き上がってはいましたが、「もうここまで来たら丁度一年後に投稿した方が面白くね?」というノリで日時指定して予約投稿を行いました。

テイルズというかこういうファンタジーバトル物を書くのが大分久しぶりだったので勘を取り戻すのに苦労しました。
そしてカイ達がクエストを遂行している間にレイも暗躍します。彼女にも頑張ってもらいたいと思っています。

では今回はこの辺で。また更新が遅くなるかもしれませんが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。