テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
砂嵐の吹き荒れる不毛な砂の地――カダイフ砂漠。
そこを歩く数人の男女の前を茶色い草が風にあおられてふわふわと転がり、それを見た金髪の青年が「あっ!」と声を出した。
「あの転がってるのが風来草じゃないか? こんな所で見つけられるなんて、意外と楽な仕事だったな」
「スタンさん、必ず地面から生えている状態のやつしかダメって資料に書いてありますよ」
金髪の青年――スタンの言葉にその隣を歩く色黒金髪の青年――ロニが、バンエルティア号を出る時にアンジュから渡された資料を読みながら、地面から生えているものじゃないとダメだと注意。それを聞いたスタンが残念そうにため息を漏らした。
「何だ……結局、奥まで行かなきゃなんないのか。転がっていたのは、枯れたやつなのかな」
「成長したらあんな風に茎から切り離して、転がりながら種を撒くって書いてるよ」
スタンの疑問に答えるのは同じく資料を読んでいるピンク髪の紅一点――カノンノだ。
「あれもツリガネトンボ草の進化種なのか……不思議だな」
「そうだな~……俺もカイル達と一緒にドクメントの抽出作業ちょっと手伝ってたけど、植物ってみんな同じだと思ってたのに全然違うもんな」
最後の一人――カイはアブソール霊峰で見たオイルツリーとは全く違う姿かたちの風来草を見て、ツリガネトンボ草から進化したのは同じはずなのに全く違う姿になっている事から生物の進化というのは不思議だと想いを馳せる。
スタンもその言葉にバンエルティア号に送られてきたツリガネトンボ草の進化種のドクメント抽出作業の経験から得た感想を呟く。そんな彼をジッと見ながら、ロニが何かを考えるように顎に手を当てた。
(この世界のスタンさんは、まだ英雄になっていない……少なくとも、そうは呼ばれていない)
異世界からやってきた――というかハロルドの実験の影響でルミナシアに引きずり込まれたという方が正しいだろう――ロニ達の元の世界ではスタンは英雄と呼ばれている。
しかしそれが原因でバルバトスに狙われ、しかもそのバルバトスも今はロニ達と同じくルミナシアに飛ばされてきている。もしもスタンが英雄と呼ばれるようになれば元の世界と同じようにバルバトスに狙われる可能性があるのかもしれない。
そして元の世界ではともかくルミナシアにはまだカイルは生まれていない。もしもカイルが生まれる前にスタンやルーティがバルバトスに襲われるなどもしものことがあればカイルは生まれてこない可能性がある。ロニはそんな事を考えていた。
「どうしたんだ、ロニ。腹でも痛いのか?」
「えっ……」
しかし急に黙り込んだのが不自然だったか、スタンが首を傾げながらロニに問いかけ、ロニも声をかけられてしかも不審がられたのに気づいたのか、取り繕うような笑顔を彼に向ける。
「えええええ、いやいやいやいやいや。何にも、どこもございませんっ! さーあ、風来草を探しに行きましょう」
そして慌ててそう言ってスタンの後ろに回り込み、彼の背中を押して仕事に戻ろうと誤魔化す。
「スタンさん、ここは俺が守りますから長生きして下さいよ!」
「ええっ? 俺、ロニより年下なのに何でそんな心配されなきゃなんないんだよ!」
しかしそんな言葉が出てしまい、逆にスタンに不思議がられる羽目になってしまうのだった。
「……ロニさんってなんか不思議だよね?」
「まあ、ロニにも色々あるんだ」
カノンノがきょとんと首を傾げてロニを不思議だと評し、彼らの事情を知るカイが微笑を浮かべてそう返すと、二人も先に進んだロニとスタンを追いかけて歩き出した。
「ヒトの争いの火が消えた……」
一方その頃、緑に囲まれたオアシスのような場所で、左目に星のような飾りをつけ、綺麗な鉱石の装飾を身につけた不思議な雰囲気を漂わせる少女――ラザリスがそう呟き、続けて得心がいったように頷く。すなわち、この世界のヒトにとっての敵が自分に変わった。だからヒト同士で争う場合ではなくなったのだ、と。
そんな事を考えた時、彼女の傍らにいる、狼の身体が鉱石化したような姿をした生物がバタリと倒れ、青い鉱石を身体にしたような巨人ががくりと膝をつく。双方とても苦しそうな雰囲気を見せているのが分かり、ラザリスはそれらを憐れむような目で一瞥した。
「苦しいかい……僕の世界とルミナシアは、土壌も大気も理が違うんだ。早く、君達が生きていける様に、この世界の理を塗り替えてあげる」
苦しそうな雰囲気の理由を知るラザリスが鉱石狼と鉱石巨人を撫でながら呟く。
「生きたいよね……」
一方その頃、カイ達は風来草は植物なのだからオアシスに群生してないだろうかという考えのもと、砂漠の奥地にあるオアシスに行ってみたのだが空振りに終わり、辺りを調べながら入り口周辺へと戻ってきていた。
「こっちの道って行けねぇのかな? なーんか、この先が気になるんだよな」
「無理だよ。こんな大きな岩、そう簡単に動かせるわけが……」
ロニがぼやく。彼の見る先にも確かに道はあるようなのだが大岩が道を塞いでおり、先に進めないようになっている。彼の言葉にスタンも動かすどころか破壊するにも難儀しそうな大岩を見上げながらそれに手を当てる。
「うわっ!?」
同時にスタンの悲鳴が響く。スタンが手を当てて軽く体重をかけた途端、大岩が転がっていったからだ。体重をかけようとした場所がいきなり無くなった事でスタンがつんのめり、後ろのロニ、カイ、カノンノがぽかんとする。
「スタンさんが押した途端、動いた……」
「(もしや英雄の力か?……ま、まさか、な…)…スタンさんっ、すげえ! すげえよ!!」
「え、あ?」
カノンノが呟き、ロニは自分達の知るスタンが英雄だからこそ、その力なのかと考えた後、まさかと置いておいた上でスタンを賞賛。つんのめっていたスタンはぽかんとロニを見た後困ったような笑みを見せる。
「いや、今のはたまたまだよ。たまたま」
「よし、道も開けたんだ。ロニの勘を信じてこっちに行ってみよう」
今のはたまたま、褒められるような事じゃないとスタンが言い、カイがこの先に進もうと助け舟を出す。そして彼らは大岩が塞いでいた道の先に進んでいった。
「シャアアアァァァァッ!」
「ブオオオォォォォッ!」
カイ達が歩みを進めた先に生息している魔物。赤い甲殻を持つように進化したボアのアマードボアと、黒光りする鱗で全身を固めたバジリスクのデスシーカーが威嚇の声を上げ、スタンとロニも剣や斧を構えて突進、カイは苦無を投げつけて牽制しつつ走り出す。カノンノは残る三人が前衛に走ったため後衛役を行うために魔術の詠唱を開始した。
「爆炎剣!」
「双打鐘!」
スタンがアマードボアの身体を炎を宿した剣で斬り、ロニがデスシーカーに拳を叩き込んだ後斧の斬撃で追撃。
「忍法・雷電!」
『プギィィィッ!?』
そこにカイが投げて地面に刺さった苦無から電撃が解放。周囲に立っていたアマードボアを麻痺させる。
「仇なす者に、聖なる刻印を刻め! フラッシュティア!!」
さらにカノンノの魔術が発動。聖なる十字架が地面へと描かれ、放出される光の魔力が追い打ちをかけた。
「魔神剣・翔牙!」
ジャンプ状態から魔神剣を放ち、地上の敵を狙い撃つ秘技がデスシーカーに刺さり、動きを止める。
「今だ、ロニ!」
「はい、スタンさん! 戦吼爆ッ破!!」
スタンからの合図を聞いてロニが突っ込み、気合を込めた掌底でデスシーカーを吹き飛ばしその先にいたアマードボアやデスシーカーにぶつけて諸共動きを止める。
まだ斧のリーチ内、と読んだロニはニヤリと笑い、さらなる追撃を狙う。行うは相手を完膚なきまでに叩きのめし、上空からあふれる気合を放射してぶつける秘奥義――ファイナルプレイヤー。
「叩きのめ――」
ぶぅんっと気合を入れて斧を振り上げる。しかしその時、気合が空回ったのか振り上げた斧が彼の手からすっぽ抜けて上空へと飛んで行く。思わずカイ、カノンノ、スタンが斧を目で追って空を見上げた。
「――さねえっ!!」
ロニが声を張り上げる。
「それが真の!」
「あっ」
ロニの口上の途中、ガンッと何かがぶつかったような音が上空から聞こえ、カノンノの声が重なり、思わずロニも空中を見上げる。するとすっぽ抜けた斧がぶつかったらしいホークが落っこちてくる光景が彼の目に映った。
「大丈夫かぁっ!?」
思わずホークに駆け寄って声をかけてしまうロニ。完全に隙だらけの姿に体勢を立て直したデスシーカーやアマードボアが狙いを定めるが、その時ホークにぶつかって落下位置が変わった斧が空高くから勢いよく落下。地面を割るかの勢いでそれらの群れへと直撃するのであった。
「……ん?」
ホークに治癒術をかけていたロニがそれに気づき、落下した斧の衝撃で魔物の群れを倒したことに気づくと慌てて斧を拾いに走り、斧を拾うと僅かな困惑の後、ポーズを決めた。
「お、俺の進化は止まらんぜ!!」
「「ださー」」
どうにか取り繕おうとするロニだが、斧がすっぽ抜けた事からの偶然の産物であることは明らか。カイとカノンノの呆れきった目での冷たい視線と言葉が彼に突き刺さるのであった。
なおホークは治癒されたからか勝手に飛んで去って行った。
それから一行は魔物を倒しながら風来草を探して砂漠の奥へと進んでいく。しかし砂地を随分長く歩き、疲れが溜まってきていた彼らは岩地に出来た影に入って一時休憩、カイとカノンノが水筒の水を飲んだり軽食を食べたりしている中、同じように水分補給をしていたロニはふと気になったかのようにスタンを見た。
「スタンさん……とルーティさんは、なぜアドリビトムへ入ったんですか?」
「フィリアが世界中の人を手助けする仕事があるって教えてくれてさ」
単なる世間話のつもりなのだろう、とスタンはアドリビトムに入った理由を古い仲間の一人であるフィリアに誘われたのだと説明。
戦争で親を失った子ども達の為に自分がしてあげられることをしたいからその手伝いとして、それにその為の資金も稼がなきゃとルーティが言った事も理由としてあげていた。
「(英雄の一人である、フィリアさんからか……けどフィリアさんもまだ、この世界では英雄になってないな…)…ええと、孤児院とかですよね……その、孤児院の……名前は?」
「はは、そこまではまだ決めてないよ。ただ俺は、困ってる人を助けて、子ども達が明るく元気に育っていってくれたらなって思うんだ」
ロニは世間話の振りをしながら情報収集、自分達の世界とルミナシアのスタン達の差異を探っていく。
その企みの元、次に切り出した孤児院の名前。それもまた自分達の世界と同じデュナミス孤児院なのかと探ろうとするが、スタンは気が早いというように笑ってまだ決まっていないと答えた。
「……カイルのヤツも、困ってる人を放っておけない性分なんだよな」
彼の言葉にロニは実際は逆なんだろうがカイルの面影を感じ、思わずという様子で呟く。
「うん、カイルは優しい子だよ。あんな風に、子供が真っ直ぐ育つ場所にしたいよな」
「はい! スタンさんならきっと出来ます!」
ロニの言葉にスタンが同意、自分が目指す孤児院もそういう場所にしたいと話す彼に、ロニは断言するように頷いて答えた後、どこか照れたような笑みを見せる。
「というか、スタンさんもルーティさんもその歳できちんとした夢があって、すごいというか……立派ですよね」
「立派?」
唐突な言葉にスタンはきょとんとした顔を見せ、その後合点がいったように一つこくんと頷いて笑みを浮かべる。
「ああ、ルーティはそうだよな。孤児院を建てるのはずっと昔からの夢というか、目標だったみたいなんだ。俺はその手伝いをしてるけど……自分の夢とか、将来とか、そういうのはまだよくわかんないよ」
「またまたそんな、ご謙遜を。スタンさんはルーティさんと一緒にその孤児院を建てるつもりなんでしょう? なら、スタンさんも十分立派ですよ」
「いやいや、そんな事ないって」
スタンの言葉を謙遜と受け取るロニだが、スタンはそんな事ないと言って笑う。
「ほんとに“家で昼寝してる暇があるなら ちょっと手伝いなさいよ!”って、ルーティに駆りだされただけで、リリス……妹にも、寝てばっかりいるより他人様の役に立つ事をした方がずっといいとか言われたからさ」
笑いながらそう答えるスタンにロニは絶句、あさっての方を向いて何かを考えるように「えーと」と声を漏らした後、恐る恐るという様子でスタンの方を向き直した。
「念の為にお伺いしますが……本当にそれだけ……なんですか? その……スタンさんがルーティさんと一緒にいる理由、っていうのは……」
「ああ、そうだよ」
ロニの問いかけに即答するスタン。その瞬間ロニは再びあさっての方を向いて歯を噛みしめた。今にも頭を抱えそうな彼の様子にスタンが不思議そうな顔を向けた。
「ロニ? 大丈夫か? おーい」
「えっ!? あ、ああ、いえいえ、なんでもございませんですよ?」
スタンの呼びかけにロニは気づくと、取り繕うように笑ってガバッと立ち上がり、岩陰から外を確認する。
「お、おぉ! いい具合に太陽が雲に隠れてる。そろそろ出発しましょうか! おーいカイ、カノンノ。そろそろ行こうぜー!」
太陽が雲に隠れていれば日差しも弱まる。しかしそんなのただ話を切り上げる理由にしたいような様子のロニは、水筒の蓋を締めると残る二人に呼び掛ける。スタンは突然ロニの様子が変わったことに不思議そうな顔を見せながら、自分も出発の準備を始めるのであった。
《後書き》
相変わらず読者が残っているかすごく不安ですがお久しぶりです。いつも言ってる気がするけどMP文庫からの付き合いの人達まだいるのかな?またも一年ぶりの更新となってしまいました。
今回はカダイフ砂漠での戦い。ロニが使った技はテイルズオブザレイズの魔鏡技です。初めて見た時から「これネタになる!」って笑いながら思ってたので。この技を使う事だけは決めてました。
なお、少々長くなりすぎたと思ったので急遽前編後編に分けることにいたしました。
後編は明日のこの時間に予約投稿をするように設定しております。
では今回はこの辺で。後編を投稿後、また更新が遅くなるかもしれませんが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。