テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第四十二話 砂漠に潜む命(後編)

「はぁ~あ……」

 

「どうしたんだ、ロニ? お前が出発しようって言い出したんだろ?」

 

 風来草を探してカダイフ砂漠を歩く中、ロニが唐突にため息をつき、その様子に気づいたカイが辺りの警戒をスタンとカノンノに任せてロニに話しかける。

 

「あ~いや、なんでも……ああ、まあお前ならいいか」

 

 ロニはなんでもないと誤魔化そうとするが、直後自分達が異世界の人間だと知っているカイなら構わないかと頭をかく。

 

「さっき休憩中にちょっとスタンさんと話したんだけどな……スタンさんとルーティさん、本気で全っ然何にも進展してないみたいでな。カイルはちゃんと生まれてくるんだろうな~とか、俺達の未来は大丈夫なのか~とか、ちょっと不安になっちまって……」

 

「この世界の未来のカイルやロニの心配までするなんて、お人好しだよな」

 

「おめえに言われたかねえっつの」

 

 本来カイルとロニ、リアラとジューダス、そしてバルバトスはルミナシアの住人ではない異邦人。そんな彼がルミナシアにこれから生まれ落ちるだろうカイルや、もしかしたらこの世界のどこかにいるのかもしれないロニが自分達と同じような未来へと進めるのかと不安がる様子にカイが苦笑する。

 しかしロニはこの世界を滅びから守ろうとするある意味究極のお人好し、ディセンダーであるカイに言われたくはないと彼を肘で小突いた。

 

「カイ! ロニさん! ちょっと来て!!」

 

 すると先の方の警戒をしていたカノンノが声をかけ、手を振って合図。二人も顔を見合わせて頷き合うと彼女に駆け寄った。

 

「どうした、カノンノ?」

 

「あれ見て、あれ!」

 

「あれ?……って!?」

 

 カイが問いかけ、カノンノが先を指差す。ロニが目を凝らしてカノンノの指差す先を見ると絶句。彼女の指差す先には砂漠には似つかわしくない緑あふれる光景があったのだ。

 

「なんだありゃ? あの辺に水場でもあるのか? それとも地下水でもあるとかか?」

 

「分かんない……けど、スタンさんがちょっと見てくるって――」

「なにぃー!!??」

「――ひゃあっ!?」

 

 砂漠という乾燥地帯に緑があるのは珍しい。それはつまりこの近くに植物が育つだけの水場があるか、あるいは地下水があるという証拠である。カノンノもその辺は分からないそうだが、スタンが一人で調べに行ったと報告。するとロニが悲鳴のような叫び声をあげた。

 

「ス、スタンさん! 一人は危険です!! 今行きますから待っててくださーい!!」

 

 そして猛ダッシュで緑地へと向かい、置いてけぼりになったカノンノはきょとんとしたままカイを見る。

 

「ロニさんって……ホントに変わってるね?」

 

「まあ、色々あるんだ」

 

 カノンノの言葉にカイはそう答え、二人もそこで立ち尽くしているわけにもいかないのでスタンを追うロニを追って緑地向けて走り出した。

 

「ぜえ、はぁ……ス、スタンさん……ご無事でよかった……」

 

 緑地に辿り着いたロニは汗だくで荒い息をしながら、結局魔物もいないため傷一つないスタンを見て一安心、そんな彼の姿にスタンは「大袈裟だなぁロニは」と笑い、緑地を見回す。

 

「この辺りをさーっと探してみたけど、風来草はないみたいだ。もしかしたらこの奥にあるかもしれないけどさ……」

 

 スタンはそこまで言うと、鼻をヒクヒクと鳴らす。

 

「この先に何かあるのかな? ニオイ、じゃないな……妙な空気を感じないか?」

 

「この先、ヤバイのでも待ち構えていそうですね……」

 

 その言葉通り、妙な空気が緑地の先から感じ、ロニも真剣な顔でそれに賛同。うんと一つ頷いた。

 

「じゃあ、スタンさん。あとは俺とカイで行くので、待ってて下さい」

 

「えっ! な、なんでだよ!?」

 

「な、なんでってその……そう、スタンさんとカノンノはこの辺で風来草を探してもらってですね、手分けした方が……」

 

「いや、この辺はもう探したってば。手分けするより一緒に行った方がいいって」

 

「危ない目に遭ってもらっては困るんです。頼みます!!」

 

「それは、みんな同じだろ? 仕事を無事に終わらせる為に、この四人で行けって言われてるんじゃないか」

 

 スタンに安全が確認できた緑地で待っててもらおうとするロニと、彼の意見に反対して、奥から危険な雰囲気がするなら仕事を無事に終わらせるためにも一緒に行くべきだと主張するスタンで意見が平行線になる。カノンノが話の横で困惑し、カイは目を逸らしてふぅと息を吐いていた。

 

「あなたには……スタンさんには。英雄になってもらいたいからです」

 

「え、英雄?……俺が?」

 

「と、とにかく長生きして、結婚して、子どもも欲しいでしょうし……」

 

「そ、そんな先の事は考えてないよ」

 

「いやっ!! そこはもう考えていただかないと! とにかく、ここで待ってて下さい!」

 

「ロニが何を心配してくれてるのか、分からないけどさ……」

 

 英雄という単語や年上のはずのロニが年下の自分に将来の事を言い出した事にスタンが困惑、ロニがその隙に押し切ろうとするが、スタンは頭をバリバリとかいて難しい事を考えているように困った表情を見せながらロニを見る。

 

「英雄にならなきゃいけないのなら、危機に立ち向かっていく力が必要だろ?」

 

「う……そ……そうですね……」

 

 その一言でロニは論破され、結局スタンとカノンノも一緒に行く事に決定。ロニが「徹底的にお助けします!」とスタンに詰め寄り、スタンが困惑の笑みを浮かべて「よく分かんないけどよろしく頼むよ」と握手することで場が治まった。

 

「カイ、ロニさんって……」

 

「まあ、言ってやるな」

 

 不思議そうにこてんと首を傾げるカノンノに、カイはロニのフォローのつもりか苦笑いしながらそう返した。

 それから四人揃って先に進むが、そこでロニが「なんだありゃ!?」と悲鳴を上げる。彼らの前にいるのはサボテンに手足がついたような姿をした魔物――カクトゥスや、先ほどから何度か戦ったバジリスク種の魔物の一体サンドファング。しかしその身体はまるで鉱石に覆われたかのような異様な姿になっていた。

 

「カイ! あれ、ミラを助けに行った時に見たオタオタ達と同じ……」

 

「まさか……皆、魔物は出来る限り無視か、戦わざるを得なかったら瞬殺だ! 先を急ぐぞ!」

 

 以前、レイアから依頼を受けて精霊マクスウェルであるミラを助けに行った時、ジルディアの牙に汚染された洞窟で見た変異種オタオタと似たような特徴にカノンノが声を震わせ、カイもその異変の正体に勘付いたか先を急ごうと指示を出す。

 

「うおおおぉぉぉぉっ!! 魔王炎撃破!!!」

「くらえ、空破特攻弾!!!」

「焼き斬れ、斬魔龍炎剣!!!」

「やぁっ! 空蓮双旋華!!!」

 

 それから先を進む一行は変異種のカクトゥスやサンドファングを斬り倒しながら先を急ぐ。しかしその道中で先頭を走るスタンが「ぐあっ!」と悲鳴を上げた。

 

「何だ、ここ……は、目が痛む……」

 

「喉にも刺激が……」

 

「く……ん? 向こうに何かいるぞ!?」

 

 痛む目をこするスタンの横で彼を守ろうと息巻いていたロニも喉を押さえてげほげほと咳を漏らす。カイも喉を守ろうとマスクで口を覆い、目も辺りを確認できるギリギリまで細めながら前を視認、その視界に誰かいる事に気づくと一行は刺激を気合で押さえながら先へと進む。

 

「これは……ジルディアの……」

 

 その先は地面までもが硬質化、以前ミラを助けに行った時にも見たジルディアの領域だ。

 

「ディセンダー……招かざる客が来てくれたね」

 

「ラザリス!」

 

 そこに立っていた少女――ラザリスを見たカイが声を荒げる。その横でロニがげほごほと我慢できずに咳き込んだ。

 

「ここの空気は、どうしちまってんだ? さっきより、ひでぇ」

 

「ここの空気はボクの世界のもの。君達ルミナシアの民が居る場所じゃない……あまりここに居ると、命に関わるよ」

 

「ラザリス……ここはお前が侵食したのか?」

 

 ロニのぼやきにラザリスが答え、スタンが目を開けるのもやっとだろうに睨むようにラザリスを見て問う。その言葉にラザリスは「そうだよ」と肯定してみせた。

 

「ボクの世界の住人に、快適な環境が必要なんだ」

 

「まさか、そこにいる生物って……」

 

 苦しそうに表情を歪めているカノンノが、ラザリスの手前に立つ青色のゴーレムと、その後ろに立つ紫色の硬質ウルフを見る。それにもラザリスは肯定の意を示すように頷いた。

 

「ボクが生み出した。君達の世界にとって変わる新しい世界、ジルディアの民だ」

 

 まるで友人を紹介するかのように優雅に手を振ってウルフを指すラザリス。続けて彼女はゴーレムを示した。

 

「手前の彼は、元は君達の世界のヒトだった。でも、今はボクの世界の住人さ」

 

「何……だと!?」

 

 それを聞いたロニが絶句、喉の痛みも忘れたかのようにラザリスを睨みつけ、声を張り上げる。

 

「元に戻しやがれ!! この世界をお前なんかに渡してたまるか! おい、カイ! お前の力で戻せるんだろう? ヒトの姿に戻してやってくれ!!」

 

「ああ……」

 

 ロニが絶叫し、カイに懇願。カイも頷くとジルディアへと変質したものを元に戻す光を両手から放ちながらゴーレムの元に歩き、両手をかざす。

 

「っ!?」

 

 しかしその次の瞬間、ゴーレムが腕を振りかぶってカイに殴りかかり、直前で気づいたカイが咄嗟に飛びのいてその拳をかわすが、ゴーレムの振り下ろすような攻撃は地面にヒビを入れており、もしもかわしていなければ大ダメージは免れない。

 それはつまり、相手をそうしてでも先ほどの光を浴びたくない、ジルディアから離れたくないというルミナシアへの拒絶を意味していた。

 

「拒んでるのか? どうしてだよ……」

 

「何も知らないくせに、とんでもないエゴを吐くんだね……彼が、僕と共に生きたいと願ったんだ」

 

「何だと……」

 

 その光景を見たスタンが呟き、ラザリスが苛立ったように眉間に皺を寄せてそう伝えるとロニが絶句する。

 

「君達の世界では、ヒトがヒトを見捨てている。国が民衆を、親が子を、友が友を、隣人が隣人を……ここにいるヒトだった者は、君達ルミナシアの民が見捨てたんだ!!」

 

 ラザリスの言葉に、ゴーレムが静かに頷くような動作を見せ、続けてラザリスはカイをギロリと睨みつけた。

 

「こんなに大地が疲弊するまで、自らのエゴの為に戦い、生き物を殺し、奪い、捨てて! そんな世界に、ボクの民を返して、どうするのさ……彼らに豊かさと、恐れのない未来を約束出来るのか!! そんな事するくらいなら、この世界はボクが貰う!!」

 

「待て、ラザリス! 生命の場はお前が手にしたところで、扱えるものじゃない! むしろそのせいでこの世界(ルミナシア)お前の世界(ジルディア)も滅びるかもしれないんだ!」

 

「じゃあ、諦めろって言うのか! ボクに、このまま死ねと!! 生まれてしまったボクには、死ぬ運命しか残っていないと。そう言いたいんだね?」

 

 ラザリスとカイの言い合いが始まろうとするが、ラザリスはそう自己完結するとギリリと歯を噛みしめる。

 

「じゃあ、こっちも死ぬ気で奪うよ。生命の場を……死ぬかどうかなんて、ボク達にはどうでもいい。ボク達はやり尽くす事を選ぶ!」

 

「カイ! 避けて!」

 

「っ!?」

 

 ラザリスの叫びと同時にカノンノの悲鳴が響く。それで背後から迫る殺気に気づいたカイが振り返りながら腰の鞘に納めていた忍刀血桜を引き抜くのと、その殺気の主が彼目掛けて剣を叩きつけるように振り下ろすのはほぼ同時だった。

 ガギィンと甲高い金属音が響き、殺気の主は舌打ちを叩くともう片方の手で銃を握り、カイに向けると引き金を引く。それによって放たれた銃弾をカイは身体を逸らすことでかわしつつ相手の剣を受け流した。

 しかし相手もさるもの、己の剣の威力を受け流されつつも体勢を崩すことなくカイ達に剣を向けながらラザリス達を守るように彼女らの前に立ち、眼帯で隠していない左目で彼らを睨みつけた。

 

「レイ……」

 

「久しいな、ルミナシアのディセンダー。そしてアドリビトム」

 

 カノンノの寂しそうな声に対し、レイは感情の籠っていない声を返す。

 

「レイ……お前、その装備は……」

 

 カイが信じられないものを見るような目でレイを、正確には彼女の纏う、まるでどこかのメイドに申し訳程度の鎧をつけさせたような装飾の装備を見る。

 気づいたか、と言いたげにレイはニヤリと笑い、スカート部分を銃をしまって空けた左手でつまみ、軽く持ち上げる。

 

「ディセンダーに伝わる装備、レディアントだ」

 

「何故お前がそれを纏っている!?」

 

「我もディセンダーだからな。奪い取らせてもらった……ルミナシアのディセンダーの装備に身を包むなど屈辱だが、あと我はこのデザインはどうかと思うのだが、ラザリス様のために使えるものは使ってやらなくもない」

 

「くそ、ヤベエ……俺達はまともに戦えないってのに、ここでラザリスだけじゃなくレイまでいるなんて……せめてスタンさんだけでも……」

 

「何言ってるんだロニ! お前達を置いて逃げられるわけないだろ!」

 

 ただでさえアドリビトム内でも屈指の実力者だったレイがレディアント装備を纏っている事、そしてジルディアの環境に適応できていない自分達はただいるだけで目や喉に痛みが走ってまともに戦えないという絶体絶命の状況にロニが悪態をつき、せめてスタンだけでも逃がそうと試みるがそのスタンは皆を置いて逃げるわけにはいかないと拒否する。するとそこにカイが声をかけてきた。

 

「……スタン、今魔術は使えるか?」

 

「え? あ、いや……悪いけど喉がおかしくって、あまり長い詠唱は……」

 

「じゃあ、炎のマナをこの周辺にかき集めることって出来るか?」

 

「ああ、それぐらいなら……」

 

「じゃあ頼む。炎のマナさえ何とか出来れば、あとは俺が隙を作る」

 

 カイに何か考えがあるらしく、それを詳しく聞いている余裕はなさそうだと判断したスタンはカイを信じる事に決めて己の剣――ディムロスを握りしめる。その時ディムロスの鍔にくっついている青い宝玉が光を放ち、それに気づいたレイがスタンに銃を向ける。

 

「何をする気だ!?」

 

「おっと! スタンさんはやらせねえ!!」

 

「頼んだぞ――」

 

 引き金を引き、放たれた銃弾をロニが斧を使ってガード。その隙にスタンは仁王立ちになってディムロスを天高く掲げた。

 

 

 

「――ディムロス!!!」

 

「っ、なんだ!?」

 

 スタンの叫びと共に、ディムロスの刀身から赤い光がほとばしり、辺りに炎のマナが奔流。思わずレイが怯み、その隙にカイが印を結んだ。

 

「影分身の術! 変異!」

 

 行うは己のマナを放出、組み直すことで物質化。自分そっくりな分身を作り出す忍術――影分身の術。

 しかしカイはその際にスタンに周囲にかき集めてもらった炎のマナを分身へと練り込んでレイ達向けて突進させる。

 

「皆、伏せろ!!」

 

「っ、まさか! 全員、ラザリス様を守れ!!」

 

 今の状況、そしてカイの指示から相手が何をしようとしているのかを察したレイの叫び声が響き、そこに彼女の懐へと入ったカイの分身が赤く輝く。それをレイが左手に握った盾で殴り飛ばすのと、カイが印を新たに組み、叫ぶのは同時だった。

 

「影分身・爆!!!」

 

 赤く輝いたカイの分身が次々と自爆。ジルディア陣営が爆発とそれによって生じた煙に包まれ、辛うじて至近距離の爆発を盾で防いだレイは、しかし爆発の衝撃に煽られて僅かに後退しつつ表情を歪める。だが彼女は己を包む煙の先で、光を見た。

 

「戻れぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 それは彼女らの世界(ジルディア)を書き換える光、彼らの世界(ルミナシア)へと浄化する光。

 

「これが目的か!!」

 

 爆発は目くらまし、狙いはこの場をルミナシアに侵食し返すこと。それに勘付いたレイが剣を抜き、その光――カイ目掛けて斬りかかる。

 

「貴様を屠る、この俺の一撃!!」

 

「!」

 

 しかしその煙の先から殺気を感じ、レイは足を止めると左手の盾を突き出す。

 

「クリティカルブレード!!!」

 

「ぐぅっ!」

 

 そこにロニの気合を込めた斧の一撃が突き刺さり、甲高い金属音を響かせると共に生じた衝撃波が辺りの煙を吹き飛ばす。

 

「楽になったぜ……悪いが、ここから先は通さねえ!」

 

「貴様ぁ……」

 

 ジルディアの領域が浄化された事で動けるようになったロニははぁ~と気持ちよさそうに息を吐き、ふんと気合を入れ直してレイを睨みつける。レイが睨み返し、右手の剣を握りなおしたその時だった。

 

「ロニ! 準備出来た、逃げるぞ!!」

 

「はい! うおりゃあっ!」

 

「ぐっ!?」

 

 スタンの声が聞こえ、それを聞いたロニも力ずくでレイを押しのけて離れると踵を返して逃げ出した。

 

「なんてな! 俺達の目的はお前らと戦う事じゃねえんだ! あばよーっ!!」

「えいっ!」

 

「に、逃がさん!」

 

「待つんだ、レイ!」

 

 そう言い残して一目散に逃げるロニを援護するようにカノンノが煙玉を投げ、辺りに煙幕を張って逃走。

 レイが彼らを睨みつけて追いかけようとするがラザリスが引き留め、主の声に従って振り返るレイの目に映ったのは傷だらけになり、さらに苦しそうに悶えるジルディアの民の姿だった。

 

「彼らはボクを庇ってくれた……それに、この領域がジルディアのものじゃなくなった以上、このままじゃ皆の命に関わる……今は彼らを救う方が先決だ」

 

「ルミナシアのディセンダー……ここまで読んでいたというのか……」

 

 爆発で目くらましをし、その隙にジルディアの領域を浄化。ジルディアの環境に適応できず動けなかったロニ達を動けるようにするだけではなく逆にルミナシアの環境に適応できないジルディアの民を動けなくさせてレイ達を足止めさせる。

 つまり自分達が逃げるためにジルディアの民を危機に陥れる。という事実にレイはぎりぃっと歯を噛みしめた。

 

「許さん……絶対に許さない……ルミナシアのディセンダー!!!」

 

 レイの怨嗟の声が、ルミナシアの領域へと戻った緑地に響くのであった。

 

 

 

 

 

「う……」

 

 うめき声が口から漏れ、それを合図にしたかのようにカイは目を開け、起き上がる。

 いつの間にかベッドに寝かされていた彼は辺りを見回し、ここがバンエルティア号の医務室だと確認。

 

「俺は、たしか……」

 

「あ、カイさん! 目を覚ましたんですね!」

 

 何があったかを思い出そうとするが、そこに医務室のドアが開いたと思ったら一人の少女が彼に声をかけ、カイも「アニー」とその相手の名前を呼ぶ。

 

「何があったんだ?」

 

「スタンさん達から、カイさんがラザリス達の足止めをしながらジルディアの領域を浄化。その負担で倒れた、と聞いています……」

 

「そうか……皆は無事なのか? 風来草のドクメントはどうなったんだ?」

 

「大丈夫です。一番重症だったのは気絶していたカイさんですし、風来草のドクメントはカノンノさんが採取してくれました」

 

「分かった。ありがとう」

 

 アニーから説明を受けたカイはお礼を言ってベッドから降り、身体をほぐすように軽く柔軟運動を行う。

 

「カイさん!? 目覚めたばかりなんだからまだ安静に……」

 

「充分充分。アンジュさん達に目が覚めたって報告した方がいいだろ?」

 

「もう……」

 

 心配そうな目を向けるアニーだが、当のカイがけらけらと笑いながら返すと呆れたようにため息をつく。

 それから結局もし倒れた時にすぐ処置が出来るようにアニーがついていく事を妥協案として、カイはホールへとやってきていた。

 

「――というわけで、スタンさん、ロニさん、カノンノさんの証言を元にカダイフ砂漠を調査しましたが、ラザリス達の姿は見当たりませんでした」

「あと、ジルディアの領域みたいな変な感じのする土地もなくなってたよ」

 

「そう……ありがとう」

「流石に相手も、所在の割れた拠点に留まる程酔狂ではありませんでしたか……」

 

 ホールではすずとしいなが、アンジュとジェイドに何かの報告をしている様子で、アンジュは難しそうな顔を見せながら、二人に調査のお礼を言い、ジェイドが顎に指を当てながら呟いた後、カイの方を見て「おや」と声を漏らす。

 

「カイ、もう目が覚めたんですか?」

「あら、カイ。身体は大丈夫?」

 

「はい。ところで何の話してたんですか?」

 

 ジェイドの言葉で気づいたアンジュが微笑みかけ、カイも微笑みを返しながらさっきの話が何なのか尋ねる。それに返すのは腕組みをしたしいなだ。

 

「ああ。あんたがラザリス達と一戦交えたっていう、ジルディアの領域があったオアシス周辺の調査さ……とは言っても、あいつらの影も形もなかったけどね」

 

「はい。それに悪い知らせはまだあります……」

 

 しいなに続くすずの表情も暗く、それを察したのかアンジュが代わりにというようにカイに話す。

 

「ジルディアのキバが、また増えたの…」

 

「あなた達が戻ってきて、とにもかくにもカイを寝かせようと決まって、運んでいたスタンが医務室へと行った辺りですかね。突然地震が起きたと思ったら、あのキバが二本、現れたんです」

 

「急がないと、侵食のスピードも上がっていくだろうね。どうにか出来ないのかねぇ……」

 

 アンジュの言葉に続いてジェイドが説明、しいなが大きくため息をつく。ジェイドもふむ、と声を漏らした後カイをちらりと見た。

 

「カイの力でも、あのキバを消す事は出来ない……ならばもう、ラザリスを封印する事だけに集中していた方が、時間の無駄にはならないでしょう」

 

「そうね……」

 

 ジェイドが、現状ジルディアの牙をどうにか出来ないのなら、少しでも希望のある、そして今回の騒動の解決にも繋がるラザリスの封印に集中しようと提案。アンジュもこくんと頷いた後、明るく笑ってぽんと手を打った。

 

「でもね、今回の風来草でやっと、ツリガネトンボ草のドクメントを構築出来るのよ。他は全て手に入ったから……協力してくれた皆様や、珍しい植物を集めてくれたセキレイの羽に感謝しないとね」

 

「残りはウズマキフスベだけですが、そろそろ採取シーズンですね……運よく絶滅を免れた個体がいればいいのですが……」

 

「ま、そこは今更考えてもどうしようもないだろ」

 

 ジェイドが封印次元を作る最後の材料を頭の中で思い描きながら呟き、カイが頭をかいてそう答える。

 

「そうね。カイ、改めて今回もご苦労様。ゆっくり身体を休めてね」

 

「はい」

 

 そしてアンジュは改めてカイに今回の仕事の苦労を労う言葉を投げかけるのであった。




《後書き》
今回は昨日投稿の前編で言った通り後編。ジルディアメンバーとの邂逅が主なところでしたね。僅かなり戦闘もありましたけど……場所が悪かったってことで戦略的撤退です。
バタバタしてばかりだし、ここで何か日常編とかそういうのでも考えようかと思っています……ネタがあれば。

では今回はこの辺で。また更新が遅くなるかもしれませんが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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