テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~   作:カイナ

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第四話 暴風との戦い

「ウリズン帝国のやつら、どれだけ星晶(ホスチア)を奪い取るつもりなんだ!」

 

コンフェイト大森林を進んでいく中でシングが声を荒げる。今彼らはヴェイグとクレア、アニーの故郷であるヘーゼル村へと物資を届けに行っており、そのヘーゼル村はウリズン帝国の植民地にされ星晶を奪われているのだ。

 

「そういえば、シングさんの故郷もでしたね……」

 

「ああ。あいつら、突然村に押しかけてきたんだ。村を封鎖した上に、星晶を採り尽くすまで男の人はみんな働かされて……残された女の人や子供だけじゃ狩りが出来ないから、食べ物も足りなくなったんだ」

 

シングの怒りの声を聞いたミントの悲しげな声にシングは悔しそうにそう呟く。

 

「星晶を失った土地は痩せ衰えて、森からは動物がいなくなったよ……俺の村で有名だった果物もさっぱり採れなくなってしまったし……」

 

「ヘーゼル村も、同じ運命をたどる……ということか」

 

シングの悔しそうな言葉にヴェイグは静かな声で呟く。

 

「えっ!?」

 

それにシングは慌ててヴェイグの方を向いて首を横に振った。

 

「べ、別にそういう意味で言ったんじゃ……」

 

「分かっている」

 

しかしシングの言葉にヴェイグは冷静に返し、「仲間が先で待っている」と言って先へと進んでいく。シング達もその後を急いで追いかけ、シングはにっと微笑んだ。

 

「よーし、ガンドコ行こう!」

 

「ガンドコ、ですか?」

 

その言葉にミントは首を傾げ、シングはああと頷いてガッツポーズを取る。

 

「うん! “ガンガン、どこまでも”で“ガンドコ”さ!」

 

シングの元気な声にミントはふふっと優しげに微笑んだ。

 

「ヴェイグ」

 

「どうした?」

 

その声を後ろで聞きながら、カイがぽつりとヴェイグに問いかける。

 

「ヘーゼル村ってどんなとこなんだ?」

 

「……資源豊かで、小さいがあたたかな村だ。近くの清流から水を引いているため、家庭料理は、どこのものも旨い。素材の味が締まり、引き立つ」

 

「へぇ、美味しそうだなぁ」

 

カイとヴェイグの話にシングが割り込んだ。

 

「ねえ、何か名物料理みたいなものってあるの?」

 

「名物?……そうだな……」

 

シングの問いかけにヴェイグは腕を組んでうつむき、考える。

 

「クレアさんから聞いたことがあります。ヴェイグさんはヘーゼル村のピーチパイに目がないそうですね」

 

「ピ……ピーチパイは別に名物料理じゃない……近所で馴染みのおばさんが親切で持ってきてくれているだけだ」

 

と、そこにミントがそう言うとヴェイグは珍しく頬を赤く染めながら照れくさそうに呟いた。

 

「ヴェイグのために、わざわざピーチパイを作ってくれる人がいるのか?」

 

「すごいや!」

 

ヴェイグの言葉にカイが呟くとシングはすごいやと言って目を輝かせる。

 

「マダムキラーなんだね、ヴェイグ!」

 

「違う!」

 

その言葉をヴェイグは若干怒鳴るような勢いで否定、ミントも苦笑を漏らし、カイは首を傾げる。

 

「まだむきらーってなんだ?」

 

「き、気にしなくて構わないかと……」

 

その純粋な疑問に、ミントは頬を引きつかせながら言葉を濁した。

 

 

 

 

 

「絶氷刃!」

 

少し進み、魔物が出現するエリアに差し掛かると一斉に襲い掛かってくる魔物達。その一体、プチプリにヴェイグは大剣を振りかぶり、大剣に己の持つ特殊能力――フォルスの力を込めて振り下ろす。その時剣に込められたフォルスの力が解放され、プチプリを一瞬で氷に閉じ込めた。

 

「曼珠沙華!」

 

一方カイは苦無に炎のマナを込めて投げ、その三本の苦無がマンドロテンに突き刺さると同時に発火、マンドロテンに炎に包み込んだ。

 

「海連刃!」

 

そしてシングがチュンチュン目掛けて鋭い斬り上げを叩き込み、その身体を両断する。これで襲ってきた敵は全滅だ。

 

「皆さん、お怪我はありませんか?」

 

にこっ、と優しく微笑んでミントが尋ね、シングはにっと笑った。

 

「俺は平気だよ……ところでさ」

 

彼はそう言い、ヴェイグを見る。

 

「ねえ、ヴェイグ。聞いていいかな?」

 

「なんだ?」

 

「ヘーゼル村を支配している帝国の使者は、どんな奴なの?」

 

「どうしてそんな事聞くんだ?」

 

シングの問いかけにカイが聞き返し、シングは胸糞悪そうな表情を見せた。

 

「ちょっとさ……俺の故郷に来たのは、ものすっごい悪い奴でさ。村一番の力自慢がかかっていっても汗一つかかずにあっさりと倒してしまうくらい強い騎士だったんだ……紫色の髪の、変な喋り方をする奴だったけど」

 

「!」

 

その言葉にヴェイグは反応する。

 

「まさか、“サレ”か!?」

 

「じゃあ、ヘーゼル村には今、俺の村と同じ奴が来てるってこと!?」

 

「……そんなに強いのか?」

 

ヴェイグの言葉にシングも驚いたように聞き返すとカイが声を出す。

 

「サレという騎士の悪行は有名です……彼は、嵐を起こす力を持っていて、命令に従わない村をいくつも破壊しているとか……」

 

「俺の村も、初めは星晶を採られないように抵抗したけど、土地も村の人も犠牲になるから大人しく従うしかなかったんだ……」

 

ミントの悲しげな声にシングは悔しそうに拳を握りしめて呟き、地団駄を踏む。

 

「くそっ! 俺にもっと力があればっ!! 村のみんなも、星晶も守る事が出来たのに!」

 

悔しそうな声が響き、ヴェイグもミントも何も言えなかった。しかし、シングはやがて落ち着いたように笑う。

 

「ごめん……行こう」

 

「……大丈夫か?」

 

「ああ。俺が皆を守れるように強くなればいいんだ!」

 

「はい! 行きましょう。ヘーゼル村の方達が待っています!」

 

シングの言葉にミントが強く頷き、彼らはまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

コンフェイト大森林の奥地。桃色の髪を短く整えた少女は何かから逃げるようにここを息を切らしながら走っていた。しかしその道の先にそびえたつのは崖のように高い段差。まるで壁のようにそびえ立っており登って越える事も難しく、少女は慌てたように左右を見回す。

 

「残念、この道はハズレなんだよ。ハ・ズ・レ」

 

と、少女の後ろからそんな相手を舐めまわすような声が聞こえ、少女は振り向くと自分の身を守るように両腕を前に回す。

 

「小うるさいお供の目の届かないところに引っ張り出すのは苦労したよ」

 

そして少女の前に青い軍服に身を包んだ、紫色の髪の男性が悠々と進み出た。

 

「さあ、僕と来てくれるかな? ガルパンゾ国王女、エステリーゼ様。キミさえ来てくれれば、ガルパンゾ国が保有する多大な星晶も帝国のものだ」

 

男性はそこまで言うと嫌らしくにやぁと微笑んだ。

 

「わかるよね? 近々、キミの国とは戦争になる。でも、キミが人質になって、ガルパンゾ国の星晶を渡してもらえれば、多くの人は血を流さずに済む、ガルパンゾ国の命は今、キミの手の中にある。どう?」

 

その瞬間、男性の笑みが最上級に歪んだ。

 

「命って重いのかな?」

 

その笑みにエステルは怯えるように数歩下がる、と彼女は目を見開いた。男性目掛けて一つ、何かが凄まじいスピードで飛んできている。

 

「!」

 

と、男性は直前でそれに気づき、腰に提げていたレイピアを引き抜いて振り向きながら振るい、その何かを弾き飛ばす。キィンッという金属音が響いた。

 

「サレ!!!」

 

「やあ、ヴェイグ。お久しぶり」

 

背中から大剣を引き抜き男性に向けながら怒号を上げるヴェイグ。それに男性――サレはくくっと笑った。

 

「キミの事はよく覚えているよ。僕に歯向かい、村を捨てて逃げたドブネズミくん」

 

「くっ……」

 

「逃げなければ、僕の玩具になれていたのになぁ……残念だ。でも、再会できて嬉しいよ。ここで君をズタズタに弄んでやれるんだもの」

 

サレはそこまで言うとレイピアの切っ先をヴェイグに向ける。その瞳には冷酷な中に何か怒りのようなものが宿っていた。

 

「僕に剣を向け、傷をつけた者なんてキミが初めてだからね!!」

 

そう叫んだ瞬間、彼の周囲に風のマナが集中した。

 

「散れ!」

 

カイが叫び、同時にヴェイグが右に、シングが左に、カイとミントが後ろに下がる。

 

「ウィンドエッジ!」

 

直後、四人の中央を風の刃が斬り刻んだ。

 

「へえ、勘がいいね」

 

「はああぁぁぁっ!」

 

サレはくすくすと笑い、斬りかかってきたヴェイグの剣をいなし、レイピアの切っ先を彼に向ける。

 

「今度は逃がさないよ」

 

そう言いながら放たれる連続突き。それをヴェイグはどうにか剣で受けようとするが数発受け損ない、斬られた頬から鮮血が吹き出す。

 

「空裂閃!」

 

ヴェイグの援護と言わんばかりにシングは叫び、剣を突き出す。その切っ先から刃の形をした光線が放たれ、サレはほうと微笑んでそれをかわす。その合間にも彼の口からは呪文が詠唱されていた。

 

「ウィンドエッジ」

 

「ぐぅっ!?」

 

光線の反動で一瞬動けなくなっていたシングを襲う風の刃。いくつか盾で防いでいたがやはり防ぎきれず、それを示すように身体から血が流れていた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、は、はい……」

 

ヴェイグとシングが気を引いている隙にカイとミントがサレに襲われそうになっていた少女に駆け寄り、カイが声をかけると少女はこくんと頷く。

 

「よし。ミントさん、この人の護衛をしながら俺達の援護を」

 

「はい!」

 

カイの指示にミントは頷き、それからカイは少女に微笑みかける。

 

「もう大丈夫だ。この人から離れないでくれ」

 

「あ、は、はいっ!」

 

カイの微笑での言葉に少女はこくんと頷き、カイはそれを見て一つ頷いた後ブロンズソードを抜いてヴェイグとシングの援護に向かっていった。

 

「連塵裂氷撃!!」

 

連続突きから冷気の斬撃に繋げる奥義――連塵裂氷撃。その冷気にサレが僅かに怯んだ瞬間シングがヴェイグの前に出た。

 

「獅子戦吼!!」

 

「ぐうぅっ!?」

 

獅子の闘気を叩きつけ、サレを思いっきり吹き飛ばし、地面に叩きつける。

 

「どうだ、サレ! これはお前に滅茶苦茶にされた村の皆の分だ!」

 

「ふ、ふふふふふ……」

 

シングは剣をサレに向けながら叫び、それを聞いたサレはふふふと笑い出す。それにヴェイグとシングは訳が分からぬ様子で警戒を強め、サレはゆらりと立ち上がった。

 

「なかなかやるじゃないか。痛かったよ……」

 

サレはふふふと不気味に笑いながら呟き、二人は油断せずに剣を構える。

 

「これは僕からの――」

 

「あ……」

「!?」

 

サレが呟いた瞬間、シングの右肩から血が噴き出、ヴェイグは驚いた表情でシングを見る。

 

「――お礼さ」

 

「っ……」

「シング!!!」

 

笑みを歪ませながらサレは呟く。彼は指一本動かさずに、さらに二人に詠唱を気取られることなくやって見せ、シングに攻撃を仕掛けたのだ。そしてヴェイグがシングの方に意識を向けた隙を狙ってサレは再びレイピアを手にヴェイグ達へと襲い掛かろうと地面を蹴る。

 

「曼珠沙華!」

 

その直前、カイがサレの前の地面に炎のマナを込めた苦無を投げ、サレの足を止める。

 

「閃走牙!」

 

そしてさらに刀を腰に構えて突進、サレもレイピアで刀を受け止め、鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 

「ミント! 早く回復魔術を!」

 

「あ、は、はいっ!」

 

ヴェイグが叫び、目の前で仲間が重傷を負わされたミントは我に返ると詠唱を開始、ヴェイグはすぐに大剣を構え直してサレに突っ込んだ。それを足音で聞き取ったカイは後ろに宙返りをしながら左手に苦無を握る。

 

「曼珠沙華!」

 

「うっ!?」

 

「瞬連塵!」

 

空中で発火しサレに襲い掛かる苦無。それにサレは僅かに怯みつつヴェイグの大剣とは思えない速さの三連突きを弾く。その三つめの突きを弾きながらサレはヴェイグの横に回った。

 

「もらった!」

 

にやぁ、と笑ってレイピアを下げ、その切っ先の狙いを定める。

 

「ディープミスト!」

 

「くっ!?」

 

しかしレイピアを突き出そうとした直前彼の視界を霧が覆い、サレは苦し紛れにレイピアを突き出すが手応えはなく、サレはチッと舌打ちを叩くとこのうっとうしい霧を吹き飛ばそうと風属性魔術の詠唱を始める。

 

「ぐあっ!?」

 

その時彼の身体を走る痛み、それと共にサレの華奢に見える身体が空中に吹き飛んだ。

 

「っ!?」

 

サレの目に、さっき思い切り傷つけたはずの少年――シングの姿が写る。その目には自分に対する怯えなど微塵も写っていなかった。

 

「飛燕翔旋!!」

 

シングは空中を舞うように回転しながら連続斬りを見舞い、最後に思い切り斬りつけてサレを地面に叩き落とす。

 

「絶空裂氷撃!!」

 

「ぐああぁぁっ!?」

 

と、そこにヴェイグが自らのフォルスの力を込めた大剣を斬り上げながら力を解放、無数の氷柱がサレを襲い足を氷漬けにする。

 

「う、動けないっ!?」

 

「今だ、カイ!」

「いっけー!!」

 

動きが封じられたサレが驚愕の声を上げ、ヴェイグが叫ぶとシングも声を上げる。それを聞いたカイがサレ目掛けて突進、それを見たミントも素早く詠唱を完了させた。

 

「刃に更なる力を、シャープネス!」

 

ミントの補助魔術がカイに力を与え、カイはサレ目掛けて突進突きの後左右に刀を薙ぐ。

 

「斬魔――」

 

「ぐふっ!?」

 

さらに右足での後ろ回し蹴りに繋げ、その間に左手に闇のマナを集中させる。

 

「――滅殺剣!!!」

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」

 

そして回転の勢いをも利用した掌底をぶつけると同時に闇のマナを解放、その爆発が氷を砕いてサレを吹き飛ばし、サレの身体は近くにあった木の幹に激突。サレはがふっと息を吐いて膝をついた。

 

「う、ウソだろう?……僕が、本気で……こんな奴に……」

 

サレは膝をつき、苦しげに息を吐きながら声を漏らす。

 

「これまで僕は、ずっと人の心をバカにして生きてきた……軽く遊んでやればいいと思っていた。でも、キミ達との戦いで心の大切さってヤツを学ばされたよ。ああ、今まで大きな間違いを犯していた」

 

サレはそう言うとくくっと笑う。

 

「よく、わかったよ。心の力は強くて、大きい。そして……実に不愉快なものだと!」

 

そこまで言って彼は立ち上がり、歪んだ笑みをヴェイグ達に向けた。

 

「だから……次は本気で叩き潰す。キミ達の……ヒトの心をね!」

 

「逃がすか!!」

 

サレがそう叫ぶとシングは逃がさないと地面を蹴るがサレが指を鳴らすと共に嵐が彼の身体を隠すように吹き荒れ、その嵐が止んだ時彼の姿は消え去っていた。

 

「……もう、大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます……」

 

しかしどうあれサレは去った。そう思ったミントはサレに襲われそうになっていた少女に安心するように声をかけ、少女はミントにお礼を言った後カイ達の方を向いた。

 

「あ、あの。助けていただいてありがとうございます。私、エステリーゼ・シデス・ヒュラッセインと言います。エステルって呼んでください」

 

「ああ」

 

少女――エステルは柔らかく微笑みながらそう言い、カイも短く頷く。

 

「ん?」

 

と、後ろの方から足音が聞こえ、シングが振り返る。

 

「エステル! 怪我はない?」

 

「大丈夫です。この方達に助けていただきました」

 

慌てて駆け寄ってきた茶髪でどこか猫っぽい少女の焦った声にエステルはそう言い、それに全身黒ずくめの、黒髪ロングヘアーの青年が頷いた。

 

「そうか。あの変な口調の奴はどうした?」

 

「駐在しているヘーゼル村へ戻ったのだろう……」

 

青年の言葉にヴェイグは呟き、苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 

「この一件で、サレの監視が厳しくなって、俺の仲間も外には出られない状態になっているかもしれない」

 

「そっか……じゃあどうしよっか?」

 

「なら今日は引き返そう」

 

「ねえ君、エステルって言ったっけ?」

 

「は、はい!」

 

ヴェイグの言葉にシングが腕組みをするとカイが引き返そうという案を出し、シングがエステルを呼ぶ。

 

「俺達はアドリビトムっていうギルドの者なんだけどさ。俺達の船で話を聞かせてもらっていいかな? なんで君がサレに狙われてたのか、とか」

 

「……ユーリ、リタ。どうします?」

 

「アドリビトム?……」

 

シングの言葉にエステルが尋ねると黒髪の青年が、その名前に聞き覚えがあるというように考え始め、やがれ合点がいったように頷いた。

 

「ああ、あの妙な船を拠点にしてるギルドか。ま、お言葉に甘えようぜ。この森で迷ってから、まともに食えてないもんな」

 

「じゃあ、一度戻るぞ」

 

ユーリの言葉にヴェイグはそう返し、彼らは一度森を出てバンエルティア号へと戻っていった。そして船に戻り、アンジュに事情を説明する。

 

「ヘーゼル村に物資を届けられなくて残念だったね。でも、今回はサレがいたんだもん。仕方ないよ。物資を届けるのはまたの機会にしましょう」

 

「エステルさん達は食堂の隣の部屋へ案内しました」

 

「じゃあ、挨拶しないとね。ガルパンゾ国の御姫様だったら、あんな森にいたのも事情がありそうだし」

 

「ガルパンゾ国?」

 

ミントの説明にアンジュがそう言うとカイは首を傾げる。

 

「この世界の大国の一つで、近々ウリズン帝国と戦争が起きるって噂があったんだけど……そんな中王女様が国の外にいるのも不思議ね……興味があるの?」

 

「……なんとなく」

 

「ふふ、ならあなたもいらっしゃい。一緒に話を聞きましょう」

 

アンジュの説明にカイがそう曖昧に返すと彼女はふふっと笑ってそう言い、カイを連れだってミントがエステル達を案内した部屋に向かうとその部屋の扉を三回ノックする。

 

「入っていいかしら?」

 

「あ、はい。どうぞ!」

 

まず最初にノックをして礼儀正しく入っていいかを聞き、それに部屋の中からエステルの声が返ってくる。

 

「人の部屋に入る時は、こうやってまず入っていいかを聞くのがマナーよ?」

 

「へぇ……」

 

お母さんが子供に社会のルールを教えるようなアンジュの言葉にカイはへぇと返し、アンジュは部屋に入る。

 

「初めまして。このギルド、アドリビトムのリーダーをしているアンジュ・セレーナです」

 

「も、申し遅れました。私は、ガルパンゾ国の王女エステリーゼ。エステルって呼んでください」

 

「リタ・モルディオよ」

「ユーリ・ローウェルだ。ガルパンゾ国のギルドの者で、今はこのお姫様に旅の護衛として雇われている」

 

アンジュのぺこりと頭を下げての礼儀正しい挨拶に椅子に座っていたエステルも慌てて立ち上がると名前を名乗り、茶髪の少女――リタと黒髪の青年――ユーリも名前を名乗る。それからエステルはカイを見た。

 

「ええと、先程ミントさんから伺いましたが……あなたの名は、カイでしたね? 助けていただいて、ありがとうございます」

 

「えっと……どういたしまして?」

 

「また後程ヴェイグさんとシングさんにも改めてお礼に伺いますので、よろしくお伝えください」

 

エステルは改めて自分を助けてくれた一人であるカイにお礼を言い、カイが首を傾げながら返すとエステルはふんわりとした礼儀正しい様子でそう続ける。それにアンジュはふふっと微笑んだ後口を開いた。

 

「さて、もしよかったら話を聞いてもいいかしら?……まず、何故あなたのような大国の王女がギルドを雇って旅なんてしているの?」

 

「コンフェイト大森林には、ガルパンゾ国の星晶採掘地があるんです。現在、ウリズン帝国とその土地をめぐって緊張状態なんですが……その採掘地で今、変な現象が起こっているという話を聞いたんです」

 

「変な現象?」

 

アンジュの問いかけにエステルは素直にそう答え、その変な現象という用語にアンジュが食いつく。

 

「採掘がおこなわれた土地の生物が、変化してるって話よ」

 

それにリタが説明を始めた。

 

「どんな変化が起こってるかってのは、明確に分かってるわけじゃないけど、採掘者の間でそんな話が上がってて、それを聞いた学者が“土地にある星晶を取り過ぎたせいではないか”って仮説を立てて、騒ぎ始めたのよ」

 

そこまで言い、彼女は肩をすくめる。

 

「でも、それに対して国の評議会は何も調査をせず、ついには世間を騒がせた罪で学者まで逮捕、ってわけ」

 

「その話を知って、私、本当のことが知りたくて……国が動かないのなら、まず自分で調査をしようと国を出たんです」

 

「そこまでは良かったんだが、森で迷うわ、あのサレって奴にエステルがさらわれるわでな」

 

「サレの所属するウリズン帝国とあなたのガルパンゾ国は、今星晶を巡って緊張状態にあるものね……」

 

リタの言葉にエステルがそう言うとユーリは椅子に座って天井を仰ぎ見ながら続け、アンジュもうんうんと頷く。

 

「コンフェイト大森林の辺りは、様々な国が星晶採掘に関わっていますし……早く、問題の採掘地へ急がないと」

 

「焦っては駄目。まず、あなた達には休養が必要よ」

 

エステルの言葉にアンジュはそう言い、それにエステルは「でも……」といいたげな視線を向ける。

 

「大丈夫だ」

 

突然カイが口を挟んだ。

 

「アンジュさんの言う通りにしてくれれば、あんたがその採掘地に行く時に俺も同行する。だからゆっくり休んでくれ」

 

「……はい。なら、そうさせていただきます」

 

カイの言葉にエステルはようやく微笑んで頷き、部屋を出た後アンジュはふふっと笑った。

 

「ギルドのメンバーらしくなったわね?」

 

「何が?」

 

「依頼人を安心させる。こういう仕事をするにあたって必要な要素よ?」

 

「俺は思った事を言っただけなんだけど……」

 

「それならなお良し。さ、あなたもゆっくり休みなさい」

 

アンジュは嬉しそうに微笑みながらそう言い、カイに休むよう促す。それにカイはこくんと頷いて船倉の自室――なおカノンノとレイが同室(カノンノは相部屋の人が出来て嬉しそうだったしカイとレイもお互い「別に構わない」の一言で相部屋が決定した)である――に戻っていく。そしてぷしゅ、という音と共に部屋のドアが開いた。

 

「「「……」」」

 

その時空気が固まる。カノンノとレイはカイ達とは別の仕事帰りのシャワーでも浴びた後なのだろうか、髪や身体に少し水気が残っている状態で、ベッドの上に汚れた服を脱ぎ捨てて着替えており、カノンノはブラジャーとパンツのみ、さあ今から服を着ようという下着姿で、レイは私服として準備されたのだろうズボンこそはいているものの上はまだブラジャーをつけておらず豊満な胸は申し訳程度にタオルで隠されているくらいだった。カノンノの顔がどんどん赤く染まっていき、カイは真顔で動きを止め、レイは顔が赤くなっていくカノンノを不思議そうに見る。

 

「で……出てってーっ!!!」

 

ついに羞恥の限界になったカノンノが涙目に真っ赤な顔で怒鳴り、カイは反射的に部屋から出ていくと扉を閉める。

 

「なるほど。入ると言わずに入るとこうなるのか……」

 

そしてさっきアンジュから教わった事を守らなかった事による悪い結果をカイはきっちりと理解した。




カイナ「さて今回はサレとのバトル。僕としてはまあまあ書けた方だと思っています。問題は戦闘描写だが、少し駆け足になった気が……」

カイ「で、その後のあれはなんだ?……」(イライラ気味に足をトントンとさせつつ)

カイナ「世間知らずのディセンダーの教育。アンジュがお手本を示し、それを守らなかったせいで酷い目に合い学習する。というのを書いてみた」

カイ「チッ」

カイナ「さて次回も次回で、そろそろもう一人の主人公という立場であるレイの出番も作らないとな……ま、それでは」
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