テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
コンフェイト大森林。普段は静かなこの土地に現在は銃声や爆音が響いていた。
「ピーッ!」
この森に生息する小鳥型の魔物――チュンチュンが悲鳴を上げてバタバタと羽を羽ばたかせ、空へと逃げ出す。
「烈火閃!」
そんな凛とした声と共にヒュンッと風の切る音が聞こえ、そう思うとチュンチュンの身体が何かに貫かれさらにその貫いた何か――矢が爆発。チュンチュンの亡骸は力なく地面に落ち、爆発に、そのチュンチュンの横を飛んでいた別のチュンチュンが怯えたように動きを止める。
「蒼破ァッ!」
そこを逃さずチュンチュンを襲う風の衝撃波。それがチュンチュンに激突、しかしその風の衝撃波を放った剣士は口元から牙を覗かせ、まるで獲物を見つけた肉食獣のような笑みを浮かべてチュンチュンに突進。さっき風の衝撃波を放つために左腕一本で振り上げた刀を両手で握り締めてチュンチュン目掛けて跳躍、返す刃の振り下ろしでチュンチュンを一刀両断に斬り裂いた。そして勢いそのままに地面に華麗に着地し、左手でヒュンッと剣を振るい刃についたチュンチュンの血を払う。
「へぇ。あんたなかなかやるじゃないか。お姫様に雇われてたってのは伊達じゃなさそうだね」
「テメエこそ。俺の知り合いのおっさんに見習わせてえ腕前だぜ」
剣士――ユーリはいきなり自分を褒めてきた弓士――ナナリーに対し刀を肩に担ぎながら返し、ナナリーもふっと笑って後ろを向く。
「んで、あっちの援護は行かなくていいのかい?」
「ま、問題ねえだろ……それより、チュンチュンの血を嗅ぎつけておいでなすったぜ」
ナナリーの言葉にユーリは肩をすくめてそう言った後、再びさっきの獣の笑みを浮かべてそう返し、ナナリーも彼が見ている方を見ると背中の矢筒に右手を伸ばした。
「ウルフかい。こいつらはもうちょっと奥の方に生息してるんじゃなかっけ?」
「獲物を探しに偶然ここら辺まで来てた途中に血の匂いを嗅ぎつけて……ってとこじゃねえか?」
ナナリーの弓に矢をつがえながらの言葉にユーリは刀を二体のウルフに向けながら簡単な仮説を言って地面を蹴り、彼が飛び出すと同時にナナリーの手から矢が放たれた。
ナナリーの言っていた、援護が必要じゃないかと言われていた二人。それはカイとレイだ。二人はマンドロテンやプチプリにすっかり囲まれてしまっていた。しかしそんな状況でもカイはむしろ楽しそうにブロンズソードを弄び、レイもふんと鼻を鳴らしてバスタードソードを構える。
「曼珠沙華!!」
「ブレイズバレット!!」
そしてカイが炎を纏った苦無を投げ、レイが左手に握ったスタンダードマグを左右に払いながら銃弾を乱射したのを合図にマンドロテンも毒を持つ棘を放ち、プチプリも飛びかかる。
「地裂斬!」
「閃空裂破!!」
しかしカイは大地を掬うように刀を振るって地の衝撃波を放ち、毒の棘や飛びかかって来たプチプリを弾き飛ばし、レイは飛び上がりながらの回転斬りの剣圧で毒の棘を弾き飛ばし飛びかかって来たプチプリを剣圧に巻き込んで巻き上げた後その一体を突き倒す。
そして直後カイは地面を勢いよく蹴って走り出し、その突進の勢いをプラスした斬撃でプチプリやマンドロテンを斬り倒しながら縦横無尽に魔物の群れの中を駆け巡り、レイはステップ移動以外はほとんどその場に足をとめながら魔物の攻撃を銃を収めて左手で構えた盾で防ぎながら剣を振るい相手を斬り倒していく。
「魔神空牙衝!!!」
「斬魔滅殺剣!!!」
そしてレイが地を這う衝撃波から相手を勢いよく貫く突きに繋げる奥義を、カイが刀を突き刺すような突進から刀の左右に薙ぎ払いさらに後ろ回し蹴りに繋げトドメに闇の力を込めた左掌底を叩きこむ奥義をそれぞれ別のマンドロテンに叩き込み、魔物の群れは全滅する。
「よし。ま、こんなもんだろ」
ユーリが辺りを見回し、充分に魔物が討伐できたことを確認してそう呟く。
「それじゃ、帰ろうかねぇ」
ユーリの言葉にナナリーも弓を肩で担ぐようなポーズを取って返し、四人は森を出て行ってバンエルティア号へと戻っていった。
「アンドゥ、トロワッ!」
「おっと、甘いね!」
「ひゃっ!?」
その甲板ではエステルがクレスと剣の手合わせをしていた。が、エステルの剣はクレスの盾に防がれ、クレスがエステルの目の前に剣を寸止めするとエステルはひゃっと声を上げて後ろに倒れしりもちをつく。
「うぅ……ありがとうございました」
「どういたしまして。でもエステルさん、結構筋はいいよ。前衛をずっとっていうのは今は難しいけど、後方支援しながら自分や後衛の仲間を守るくらいは出来る、それは保証するよ。あとは修行して鍛えていけばもっと強くなれるさ」
「あ、ありがとうございます!」
エステルは悔しそうに小さく唸ってクレスに手合わせのお礼を言うが、クレスが爽やかに微笑みながらそう彼女の剣を評価するとエステルは嬉しそうにぱぁっと顔を輝かせた。
「よ、クレス。姫様のお守り頼んで悪かったな」
「あ、カイ、ユーリ、レイさんにナナリーさん。お帰りなさい」
「ユーリ! お帰りなさい!」
ユーリの言葉にクレスとエステルがお帰りを言い、エステルはカイの方に歩いていく。
「あの、カイさん。アンジュさんに、コンフェイト大森林まで採掘地跡の調査に向かう依頼を出したんですが……カイさんも一緒に行ってもらえませんか?」
「ああ、約束だったな」
「はい、お願いします。一緒にフィリアさんが調査に行ってくれることになってますので、あとはユーリにも……」
「ああ。悪いけど俺はパスだ……今エステルと一緒に外をうろついたら厄介な事になるかもしれねえ」
「あ……分かりました」
エステルはカイとユーリにクエストの同行をお願いし、それにカイは頷くがユーリは首を横に振る。今彼はエステリーゼ王女誘拐犯の汚名を着せられており、エステルもそれは理解しているのか浮かない顔で頷いた。
「ねえ、エステルー! コンフェイト大森林の調査の同行者をつのってるってほんとー!?」
「あ、ファラさん。はい!」
「だったらリッドを連れていきなよ! これでも猟師なんだから、森の中については詳しいよ!」
「……ったく。分かったよ」
笑顔でそう言うファラの右手はリッドを掴んでおり、リッドも悪態をつくが今のファラに逆らっても無駄だと理解しているのか割と素直に彼女らへの同行を決める。これでメンバーは全員決定、彼らはコンフェイト大森林へと向かう。
「ここも随分、動物が減ったなぁ。狩りにはちょうどいい森だったのに」
森を少し歩いていると先頭を歩き、辺りを見回していたリッドが浮かない表情で呟く。
「そういえば、魔物は多いけれど、動物はあまり見かけませんでした」
「
「星晶がなくなったせいでマナも無くなってきた、ということか」
リッドの言葉にエステルがそう続け、フィリアが呟くとカイが結論を導く。
「すみません……」
「エステルが謝る事ねえよ。星晶採掘を命じたのはエステルじゃないんだろ?」
「はい。王女ですが、私に止める権限はなくて……」
それを聞いたエステルはしゅんとした様子を見せ、リッドが元気づけるが彼女はまだしゅんとしている。
「だから国を出たんじゃないのか?」
「はい」
と、カイが疑問を持ったようにそう尋ね、エステルはこくんと頷く。
「まず、自分の目で生物が変化するという現象を確かめたくて、もしそれが本当なら、それをどうにかしたくて……」
「これから、できる事をやればいいんです。私達アドリビトムは、そうやって働いているのですから」
「そうだ。エステルはもう、立派なアドリビトムの一員なんだからな!」
「はい!」
エステルの言葉にフィリアが元気づけるように言い、リッドもそれを肯定するとエステルは「はい」と元気よく頷いた。それからまた森の中を歩いているとエステルが一つの方向を見て「あっ」と声を出した。
「ん? この草がどうかしたのか?」
「あ、駄目ですっ!」
カイがその視線の先にある紫色のつる草に手を伸ばすとエステルが慌てて叫ぶ。
「そのつる草とそこの白い花は毒草なんです!」
「へぇ、よく知ってるなぁ。お姫様ってのは、そういうのも普通に勉強してるもんなのか?」
エステルの叫び声にカイはぴたりと手を止め、それを聞いたリッドがへぇと感嘆の声を漏らす。
「いえ……そういうわけじゃ……ただ、私は本を読むのが好きなだけで……」
その言葉にエステルは照れたようにうつむき、恥ずかしそうに首を横に振って説明する。
「では、少し持って帰りましょう」
と、フィリアがたおやかな指でカイが採ろうとしていた紫色のつる草と白い花を採る。
「ちょっと待てよ。毒草だぞ?」
「ですが、毒性自体はそう高いものではありません」
リッドの言葉にフィリアは冷静に返す。
「それに注視すべきはその紫のつる草の汁……」
しかしその次に彼女の声の調子が変わった。
「高い揮発性を有し、おまけに葉の部分は化学反応を促進させる触媒になります。これがあれば、あの研究も……ウフフ……」
その言葉に何か危険性を感じたのかリッドが引く。
「フィリアも植物に詳しいんですね」
「そんな事……それに、私の場合は職業柄致し方なく……ですわ」
しかしエステルは平然とフィリアに問いかけ、それにフィリアはウフフと笑いながら返す。
「へぇ~……神官っていうのはそんなに大変な仕事なのか……」
「いや、職業とは関係ないだろ……絶対」
その言葉に以前彼女が教会に勤め神官をしていたと聞いていたカイが頷くとリッドが呆れ気味にツッコミを入れた。それからフィリアが紫のつる草の採取を終えてから、また彼らは先に進んでいく。と、リッドが何かに気づいて走り寄り、地面に膝をついた。
「どうしたんですか、リッド?」
「ん? いや、ここに足跡があってな……こりゃウルフの足跡だ」
「危険な魔物なのですか?」
「いや、ここに来る前にユーリとナナリーが倒してたぞ」
リッドがウルフの足跡を見つけるとフィリアが尋ね、それにカイがさっきのクエストでの戦いを思い出して返す。
「ああ。危険ってわけじゃなくてさ、コイツの肉は、さっと火を通して塩コショウで味付けすると結構美味いんだぜ♪」
「ウルフって、食べられるんです?」
「ああ、食えるぜ? っていうか、毒性のあるものじゃなきゃ大概のものはなんでも食える。その辺は、腕の見せ所って奴だな」
リッドのにししと笑いながらの言葉にエステルが首を傾げて尋ねると彼は頷き、そう続ける。
「元々ある食材を、より美味しく食せるよう工夫する……お料理の原点ですね」
「エステルも食ってみるか? 案外、価値観変わるかもしれないぜ?」
「お料理の原点を知る、です?……そうですね」
その言葉を聞き、エステルは少し考える。
「ぜひ、お願いします!」
「じゃあ、今度ウルフを倒したらリッドまで届けよう」
エステルの言葉にカイがそう返した。と、そこでふとリッドが思いついたようにエステルに話しかける。
「なあ、星晶の採掘が原因で起こってる生物の変化ってどういうものなんだ?」
「え? いえ……まだ、詳しくは分かりません」
ウルフという生物繋がりで気になったのだろう。しかしその問いにエステルはそうとしか返せなかった。
「現場で作業をしていた人達による話では、まったく別の生物になってしまうほどの変化らしいんです」
「ガルパンゾ国は、この土地以外でも世界各地で星晶を採掘していましたよね。そこでも同じような話があったのでしょうか?」
「はい。他にも三か所の土地で起こったと聞いています」
「三か所も!?」
エステルの報告にフィリアは驚いたように叫び、カイがふと口を開く。
「それは星晶の採掘地に限った問題なのか?」
「はい。決まって、採掘が終盤に近づいた頃から採掘し終えた期間に起こるようです」
「星晶との関連性は分かりませんが……ひょっとしたら、生態系に影響を及ぼす有害な物質を掘り当ててしまったという可能性もあります」
カイの疑問にエステルが答え、フィリアは冷静に仮説を立てる。
「何にしても、この現象が本当なら人体にも影響が及ぶかもしれません」
「ああ。人間に危険なものならちゃんと調べておかねえと、作業してるやつらに注意すらできないもんな」
フィリアの出した結論にリッドも頷き、彼らは森林奥地へと足を進めていった。
そして彼らは森の奥、以前サレと戦った場所へとやってくる。
「す、すごく、大きいです……」
エステルがそう声を漏らす。彼らの視線の先には巨大なオタオタが元気に飛び跳ねていた。それにリッドははぁとため息をつく。
「あーあ、デカオタだ。こいつ、なかなかどいてくれねえんだよな」
リッドはそこまで言うともう一度息を吐き、剣を抜く。
「しょうがねえ。こっちから行って、追っ払うしかないか」
その言葉を聞いたカイが刀を抜き、エステルが杖を構え、フィリアが大剣を構える。それと同時にデカオタがリッド達目掛けて突進してきた。
「魔神剣・双牙!!」
剣を二回振るい、一発ずつ地を這う衝撃波を放つリッド。それにデカオタが怯んだところにカイがデカオタの懐に潜り込み、デカオタの巨体を蹴り上げた。
「飛燕連脚!」
蹴り上げで一撃、さらに空中に飛び上がりながらの後ろ回し蹴りで二撃、続けてもう片方の足での回し蹴りで三撃、そして最後に二撃目の蹴りを放った足で蹴り落とし、デカオタを地面に叩きつける。しかしデカオタはその柔らかい体で叩きつけられた衝撃を緩和、逆にその反動を使ってカイに体当たりを仕掛けてきた。
「堅牢なる守りを、バリアー!」
「ぐっ!」
だがすんでのところでエステルが発動した魔術によりカイを包んだ障壁がタックルの威力を軽減。吹っ飛ばされたカイは空中で回転し、ぶつかりそうだった木に足をぶつけ横向きで止まる。
「サンキュ!」
「はいっ!」
短くお礼を言ってカイは木を蹴って跳躍。左手に三本の苦無を構え、それに炎のマナを集中する。
「曼珠沙華!」
叫ぶと共に投擲、その苦無は炎を宿してデカオタへと突き刺さった。
「炎よ! フレアトルネード!!」
そこにフィリアの詠唱が完了し、彼女が大剣を掲げて叫ぶとデカオタを炎の竜巻が包み込んだ。
「魔神千烈破!!!」
さらにリッドが連続突きから地を這う衝撃波へと繋げる奥義でデカオタを弾き飛ばす。
「はあああぁぁぁぁっ!!」
先程曼珠沙華を放ったカイはその直後刀を掲げてデカオタへと斬りかかる。その時、彼の刀に炎が宿った。
「思いついた……」
呟き、カイは炎を宿した刀を兜割りのように縦一閃、さらに着地と同時に横に回転した。
「鬼炎斬!!」
炎を宿した刀で横一閃、それを受けたデカオタは炎に怯み、やがて森の奥へと逃げ去っていった。それを見届けてからカイは刀を血や火を払うように一閃し、鞘に収める。
「……で、どうやって進むんだ?」
それからカイはきょろきょろと辺りを見回す。辺りに人間が通れるような道はなく、草むらをかき分けていくのだろうかとカイは草むらの方に歩きながら刀を抜こうとする。
「あ、大丈夫ですよ」
と、エステルが声をかけてカイを止め、草むらの一つへと歩いていく。
「サレの追跡から逃れるために、ユーリが道を隠していたんです。ですが、ここで迷った上にユーリ達とはぐれてしまって……サレに捕まりそうになった時はどうしようかと思いました」
エステルはそう言って草を魔術で払いのける。と、リッドが「ひゃ~」と声を出した。
「上手い事作ってあったな。俺には分かんなかったぜ」
「さあ、行きましょう」
「ああ」
リッドの呟きに対してエステルはそう言い、それにカイが頷くと一行は再び歩き始める。
「それにしても……あんな大きなオタオタ、初めて見ました」
と、歩きながらふとエステルが改めて驚いたようにデカオタについてのコメントを述べる。
「この一帯は特別発育がいい様ですね。ギルドにも、これまでに何度か掃討依頼が来ていたようですが……」
「なあ……こんな話を知ってるか?」
エステルのコメントにフィリアが呟くと、突然リッドが口を開く。
「あるところに、そそっかしい女の子がいました」
リッドはまるで昔話でもするかのように話し始める。
「ある日、女の子は森で見つけたオタオタが弱っているのをかわいそうに思って毎日食事を運んであげました。以来、森に生息するオタオタは栄養状態がとても良くなってみるみる大きくなっていきましたとさ」
「も、もしかして……今のオタオタはその時の……」
リッドの昔話を聞き、エステルはうつむき気味で声を漏らす。
「その……そそっかしい女の子と言うのは髪が短くて、格闘技が得意な活発な女の子……ですか?」
「ご想像にお任せします……」
フィリアの遠回しな言葉にリッドはがくっとうなだれてそう返した。
「ん? ファラがさっきのデカオタを育てたのか?」
「「「!!!」」」
と、カイがきょとんとした表情で問い返し、それに三人がギョッとした目でカイを見る。
「……どうしたんだ?」
「あの、カイさん……その事はどうかご内密に……」
「というよりも、そういう事は名前を言ってはいけないんですよ?」
「そうなのか?」
ギョッとした目で見られたカイが再びきょとんとした様子で問いかけるとエステルとフィリアが慌ててそう言い、それにカイはやはりきょとんとした表情で首を傾げた。
それから彼らは先に進んでいき、そこに生息する魔物――生息形態が変わり、ライニネールやグリーンローパーが多くなっている――を斬り倒していくと、ライニネールを斬った後リッドが剣を肩に担いでエステルを見た。
「なあ、やっぱわかんねえんだけど。そんな危ねえもんを、なんでエステルの国は放っておくんだ?」
「そうですね。では、少しお話をしましょうか」
その言葉にエステルの代わりにフィリアが返答する。
「大きな国には、人が集まりますよね。大勢の人は生きるために産業を行っていますが、産業そのものを続けていくには、原動力となる資源が必要になります。大国の資源といえば、今やほとんど星晶ですからね。採掘を止めて星晶が不足すれば、産業は滞り、多くの人が仕事を失います。そうすれば、衣食住に困る人が増えてしまいます」
「食べ物なんて狩ってくればいいんじゃないのか? 今の俺達みたいに魔物倒して」
「ああ。狩りをすればいいし、畑も作ればいいし」
フィリアの言葉にカイとリッドが双方首を傾げる。と、エステルが口を開いた。
「私の国は、産業施設や国民の住宅のために森は切り拓かれて、あまりありません。畑を開墾する土地もないでしょう。食料は、時給ではなく他国からの輸入に頼っています」
「どうでしょう、リッドさん、カイさん。他国から食料を輸入するための産業です。ガルパンゾ国は星晶の採掘を止めることは出来るでしょうか?」
「そうか。大国にも止めるに止められない事情ってのがあるんだな」
「はい。ですが、このまま目を瞑っておくわけにもいきません」
「もちろんです。さあ、では先を急ぎましょうか」
エステルの説明の後にフィリアが問いかけ、リッドが納得したように頷くとエステルがそう返し、フィリアもそれに頷くと先を急ごうと促す。
それから彼らは採掘地跡へとやってくる。
「ここが、その採掘跡地ってやつみたいだな」
先頭を歩いていたカイが最初に口を開くとその横に立っていたリッドが辺りを見回して眉をひそめる。
「なあ、なんか……やばいんじゃねえか? 見てみろよ、周りの植物を。こんなもの見たことねえぞ」
リッドの言葉にフィリアも頷き、近くの植物を観察する。
「一部、無機物化しています……もはや植物と呼んでいいのか分かりません」
「これらは一体?……」
フィリアとエステルが観察を始め、リッドが頭をかく。とカイが左手に苦無を隠し持ちながら背後に目を向けた。
「……誰だ?」
「勘がいいな……お前達、アドリビトムか?」
カイの言葉に返す男性の声。その声を聞いたフィリアとエステル、リッドも声の方を向く。そこに立っていたのは黒豹の獣人と言っていいだろう男性と、濃い緑色の髪を長く伸ばした快活そうな青年。その姿を見たリッドが頬を緩ませた。
「たしか、前にヘーゼル村に物資を届けに行った時に会った……」
「ユージーン・ガラルドだ。アドリビトムにはヴェイグ達の事も含め、いつも世話になっている」
「俺はティトレイ・クロウ。ヴェイグがまたサレとやり合ったらしいな。ったく、あいつもしょうがねえ奴だな」
リッドの言葉に獣人――ユージーンが名乗り、世話になっていると言いながら頭を下げるとその次に青年――ティトレイが名乗った後、どこで聞いたのだろうかヴェイグがサレと戦った話をし、しょうがねえなと肩をすくめる。
「今日はここに何の用だ?」
「星晶採掘地跡で見られる奇妙な現象というのが、本当に起こっているのか。それを確かめに来ました」
「君は?」
ユージーンの問いかけにエステルが返し、ユージーンが訝しげな目で返す。
「私はエステリーゼ。ガルパンゾ国の王女です」
「王女ぉ!? なんでそんな奴がここにいるんだよ!?」
エステルの言葉にティトレイが目を丸くして素っ頓狂な声を出す。分かりやすいびっくりの様子だ。と、ユージーンが口を開く。
「奇妙な現象とは、この生物変化のことか? 見ての有様だ。この採掘地から星晶が出尽くした頃からこうなった。元々ここは薬草などが豊富に採れたのだが、今では何とも言えない妙な植物や、虫が増えている」
「星晶の採掘が原因だってのか?」
ユージーンの言葉の次にティトレイが問いかける。それにフィリアは首を小さく横に振った。
「星晶との関連性は、まだわかりません。ですが、生物の変化というのは実際に起こっているようですね」
「ああ。俺達もこのヤバイ現象をヴェイグに伝えようって、村を出たとこだったんだ。アドリビトムに接触できて丁度よかったぜ」
フィリアの言葉にティトレイが前半真剣な表情で、後半助かったというような安堵の笑みを見せながら返す。
「だが村にはあのサレがいたんじゃないのか?」
「盗るモン取ったら引き上げてったぜ! おかげで俺達の村の星晶はスッカラカンだ!」
カイの言葉にティトレイが怒りのような表情を見せながら返す。
「まあまあ、ここで長話しても仕方ねえだろ」
「そうですね。とにかくお二人に船まで来ていただきましょう、詳しくお話を聞かせていただきたいですし」
「じゃあ、戻ろう」
リッドが怒っているティトレイをいさめ、フィリアがそう言うとカイはその場を離れるように歩き出し、彼らは船に戻っていった。そして船に戻り、エステルがアンジュに事情を説明、リッドとフィリアがユージーンとティトレイをヴェイグが使っている部屋へと案内。エステルも話が終わってからその場を去っていき、アンジュはカイの方を向いてにこりと微笑んだ。
「まずはお疲れ様」
「……はい」
「生物変化現象の事実を確認できただけで、まだ分からない事の方が多いけど……その現象について、ユージーンさん達に詳しい話を聞く必要があるわね。カイも一緒に行く?」
アンジュの言葉にカイはほぼ反射的に頷いていた。それにアンジュは満足そうに微笑み、ユージーン達の待つ部屋へと向かう。そこには既にエステルが同じく話を聞こうと待っていた。
「星晶が採掘されて、あの森周辺の村々にマナの恵みはなくなった」
「あそこらは、マナを生み出す世界樹の根も張ってねえし、星晶がわずかに出すマナだけがヘーゼル村に恵みを与えていたからな」
まずユージーンとティトレイが現状を説明する。
「ああいった生物の変化は、星晶採掘が終盤に差し掛かった頃から始まった。まず、土地が痩せ、畑からは作物が取れなくなっていった」
「あのような場所は他にもあるんですか?」
「ああ。村近辺の星晶はゴッソリ盗っていかれたからな。あ、それから森の生物にも奇妙な変化が現れてよ」
「奇妙な変化? 具体的には?」
ユージーンの言葉にエステルが聞き返し、それにティトレイが返した後思い出したように続けるとアンジュがそれに反応する。
「ほとんどの作物は食えないものになっちまって、狩る動物も同じだ。なんて言やぁいい……」
ティトレイはそこまで言って頭をかき、やがて一つの言葉を思いついたように頷く。
「肉がねえんだよ、生き物って感じじゃねえ。仕留めた先から溶けていくものもあった。ちゃんとした獲物が取れた時は奇跡さ」
「生き物という感じじゃない、仕留めた先から溶けていく……」
ティトレイの言葉をカイがうつむいてぼそぼそと反芻し、思いついたように顔を上げる。
「マナがないからそういうことになった、という事は考えられないのか? 生命の源であるマナが少ないかあそんなことになったとか」
「元々星晶もなく、マナを生み出す世界樹の根もない土地というのはあります。でも、そのような土地で、マナが少ないから生き物に変化が起きたという現象は起こっていません」
「マナが少ない以外に、原因があるかもしれないね」
カイの仮説をエステルが否定、アンジュもふむと考える様子を見せて呟いた。それにユージーンも頷く。
「原因が判明しないことにはな……あの現象も拡大しつつある」
「くそっ!……村の皆は、どうやって生活していきゃあいいんだよ!?」
ユージーンの言葉の次にティトレイが苛立った様子で声を荒げた。
「サレはいなくなったけど、もう村に物資もねぇ、採取もままならねぇ。もっと遠くに行って、探してくるしかねえのか……」
「? 遠くに行って、探す?……ならここに入ったらどうだ?」
ティトレイの言葉にカイがそう提案のような、というよりも思いついたことをそのまま言うように言葉を放った。と、アンジュがくすっと微笑んだ。
「カイの言うとおりね。ここで働いて、ヴェイグ君達と一緒にヘーゼル村に物資を届けたらどう? こっちとしてもそんな話を聞いたら、ますます人手が必要になりそうだもの」
「そうか。その手があったな」
アンジュの提案にユージーンがにっと笑みを浮かべ、ティトレイも笑って頷く。
「なるほどな! お前頭いいじゃねえか!」
ティトレイはそう叫んでカイの前に立つ。
「改めて、俺はティトレイ。お前は?」
「……カイ」
「カイか。んじゃ、よろしく頼むぜ!」
ティトレイは元気に笑って彼に右手を突き出し、カイも右手を出すとティトレイががしっと握手をしてくる。
「ユージーンだ。昔は軍に所属し、鍛えていた。何か力が必要なことになったらいつでも呼んでくれ」
その次にユージーンも改めて自己紹介する。と、カイがユージーンの顔をじっと見た。
「な、なんだ?」
「……?」
「……あ、もしかしてカイ、お前ガジュマを見たことないんじゃねえのか?」
ユージーンが少したじろぐとティトレイが気づいたように言い、それにユージーンは合点がいったように腕組みをして頷いた。
「ああ、なるほどな」
「……すまん?」
「いや、気にしなくていい」
ユージーンの言葉にカイが疑問形で謝ると彼は笑いながらそう返す。
「んじゃ、そうと決まれば俺ぁヴェイグに挨拶してくっから!」
ティトレイはそう言うや否や部屋を飛び出していき、ユージーンは肩をすくめる。
「まあ、何か迷惑をかけるかもしれんが。よろしく頼む」
「ええ。私達は歓迎します」
ユージーンの保護者のような言葉にアンジュはにこっと微笑んでそう返した。
……なんかカイが、成長途中とはいえユージーンというガジュマに興味を持ったりとか子供っぽい感じに違和感が……いやまあ元々子供っぽいとこあるけどさこいつ。
カイ「うっせえ」
さて次回、最近空気になりかけているレイがようやく活躍……予定です。ま、それでは。