テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3~風の青年と輝きの物語~ 作:カイナ
「だだだだっ、だーっ!」
左拳のラッシュで相手の動きを止め、本命の右拳を叩き込む特技――連牙弾。ファラのそれをカイは左右に揺れるように動いて左拳をかわし、本命の右拳を左手の平で受け止めると闇のマナを纏った右掌をファラの腹に押し当てる。
「滅掌破っ!」
掌底と同時に掌に集中した闇のマナの爆発で相手を吹き飛ばす技――滅掌破。しかしファラはそれをサイドステップでかわし、思いっきり右腕を振り回して掴まれていた右拳を外させるとカイの背中に掌底破を叩き込んだ。
「双撞掌底破!!!」
「ぐあぁっ!」
一発目の掌底破の直後そこに重ねるようにもう一発掌底破を放つ奥義――双撞掌底破。それを受けたカイは勢いよく吹っ飛び、バンエルティア号の甲板に叩きつけられた。
「よし、そこまで!」
と、審判をしていたクレスが戦闘をストップさせる。今は体術の模擬戦を行っており、カイも刀を置いて拳と蹴りのみでファラに対抗していた。
「くっ……やっぱ体術だけじゃファラには敵わないか……」
「ふっふーん。当然でしょ?」
「でもカイってすごいよ! 教えたことはすぐ呑み込んじゃうし」
カイの起き上がり、打った背中をさすりながらの言葉にファラは得意気に胸を張り、次に観戦していたシングが目をキラキラさせながら続ける。と、クレスがうんうんと頷いた。
「確かにそうだね。僕は忍者の剣術は専門外だけど、剣士として見るならカイは才能があるように思える。どうかな、本格的に剣士として修行してみない?」
「うん! それなら俺が教えられることも増えるし!」
「あ、ずるいよクレスにシング! それなら格闘家だって私やセネルが教えられること多いよ!」
「え、俺もか?」
クレスとシングがカイを剣士として鍛えようと勧誘するとファラが叫び、こっちもカイを勧誘しようとする。ちなみにいきなり話を振られたセネルは目を丸くして少しきょとんとした様子を見せていた。
「……今のままでいい」
と、カイはそう言って静かに刀を拾い、軽く剣術の要領で振るった後、今度は刀を置いて体術の型を見せる。
「どっちかに集中したら、どっちかがおろそかになる」
「二兎追う者は一兎も得ず、というぞ?」
「どういう意味?」
「えーっと……簡単に言うと、二つの事を同時にやろうとしたらどっちも出来なくなっちゃうよってこと。今回で言うと剣士と格闘家両方の修行を一緒にやろうとしたらどっちも中途半端になるって意味だね」
カイの言葉にセネルが呆れた様子で言うとシングが問いかけ、クレスが説明する。
「出来るか出来ないかじゃない、しなきゃいけない……なんか知らないが、そんな気がする」
しかしセネルの忠告にカイは何か強いものを感じさせる表情でそう呟き、それを聞いたクレスがふっと微笑んだ。
「そこまでの覚悟があるなら僕はもう勧誘しないよ。でも、君が剣士として修行したいっていうなら僕はいつでも歓迎するからね」
「うん。私も、私がカイに教えられることは全部教えるよ。それで格闘家に興味を持ったらいつでも言ってね!」
「ありがとう」
クレスの爽やかな笑みとファラの元気な笑みでの言葉を聞いたカイも笑みを浮かべて返す。
「あの、クレスさん……」
「ん? どうしたんだい、ミント?」
と、ミントが甲板に出てきてクレスを呼び、クレスも首を傾げてミントの方に駆け寄り、彼女と話していく。
「……そっか。確かにもうそろそろついてもおかしくない頃だね……」
「はい。一体どうしたのか……」
「心配だね。うん、分かったよ」
二人は話し合い、うんと頷きあうとミントがカイ達を見た。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
ミントの言葉にファラが首を傾げ、次にクレスが口を開いた。
「実は、僕達の仲間がここに向かっているんだけど、到着予定日が過ぎても連絡がないんだ。それで、最後に連絡のあったコンフェイト大森林まで一緒に探しに行ってもらえないかな?」
「何かの事件や事故に巻き込まれてなければいいんですが……心配で……」
クレスの説明の次にミントが心配そうに呟く。とシングとファラが頷いた。
「それは心配だね。分かった、俺が一緒に行くよ!」
「私も!」
「ありがとう! じゃあアンジュさんに外出許可をもらって……」
シングとファラが立候補し、クレスは嬉しそうに頷いてアンジュに外出許可をもらって来ようと急いで船の中に入ろうとする。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
と、丁度船から出てこようとした少女とぶつかり、二人はしりもちをつく。
「いてて、ごめん。慌ててた!」
「コ、コハクさん! 大丈夫ですか!?」
クレスはお尻をさすりながら慌てて相手に謝り、ミントも慌ててクレスにぶつかった少女――コハクに大丈夫かと尋ねる。
「あ、いえ。私こそ慌ててたので」
「どうしたの、コハク?」
苦笑しながらそう言うコハクにシングが首を傾げる、とコハクが目を吊り上げた。
「どうしたのじゃないでしょ! 今日はシング、私と一緒に食堂の手伝い当番だったの忘れてない!?」
「あっ!?」
コハクの目を吊り上げながらの言葉を聞いたシングが分かりやすいほどに忘れていたとばかりの声を上げ、コハクが「もう」と呟くとシングは慌てて三人に両手を合わせた。
「ご、ごめんコハク! すっかり忘れてた! クレスとミントもごめん!」
「え? クレスさんとミントさん、シングと何か約束が?」
「あ、うん。実はかくかくしかじかで……」
シングの言葉にコハクが首を傾げるとクレスがコハクに説明、それに今度はコハクが目を丸くした。
「た、大変じゃないですか! だったら手伝いは私一人でやるからシングはクレスさん達と……」
「いやいいよ! 別に何かあったって決まったわけじゃないし!」
「はい。他の人に同行をお願いすればいいだけなので……」
コハクが慌てた様子で叫ぶとクレスが両手を前に出してそう言い、ミントもこくこくと頷く。
「あ、そうですか……でも、何かあったら呼んでくださいね!」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ行こう、コハク……気をつけてね」
「うん、ありがとう」
そしてシングとコハクはそれぞれクレスとミントにそう言い残し、船の中に戻っていった。
「クレス、俺が一緒に行こうか?」
「カイ……うん、ありがとう。じゃあアンジュさんから外出許可取ってくるから、準備してて」
カイが同行を希望し、クレスは嬉しそうに頷くと改めて船の中に入っていく。
それからカイ達も武器の他グミやボトルなどのアイテムを準備してから、バンエルティア号がコンフェイト大森林へと到着。彼らはそこに足を踏み入れた。
「連絡のあった場所はここ……ですね」
「魔物の気配がするな……油断せずに行こう」
ミントの言葉にクレスは森の中から魔物の気配を感じ取り、気を引き締めるように目を研ぎ澄ませて呟くように静かに言う。それにカイとファラも頷いた。
「影走斬!!」
森の中を進んでいく中で魔物を見つけた瞬間カイは素早くその魔物目掛けて目にも止まらぬ速さで突進、すれ違いざまに持っていた刀で一閃を決め、その魔物――プチプリを一刀両断にする。
「掌底破!」
少し遅れて前線に入ったファラがマンドロテン目掛けて気を込めた掌底を打ち込み、さらに足に力を込める。
「臥龍空破!!」
下から突き上げるアッパー、それがマンドロテンを空中へと打ち上げ、地面に落下したマンドロテンは動かなくなる。
「……いきますよ、アシッドレイン!」
後衛で詠唱していたミントが目を開き、杖を掲げると辺りに敵の防御力を減らす特殊な雨が降り始め、それを受けたチュンチュン二体は本能的にこの術を使う相手が危険と判断したのかミントに突進、しかしその前に一人の剣士が立ちはだかる。
「ここから先は通さない!!」
剣士――クレスはそう叫んで、右手に握っている剣を光らせる。
「真空破斬!!!」
叫び、剣を目にも止まらない速さで一閃。その一撃を受けた二体のチュンチュンは一刀両断され、地面に落っこちた。
「よし、この調子で行こう!」
クレスがそう言って歩みを進め、ミントもその後を追おうとする。と彼女の視線が少し下に下がった。
「クレスさん、待ってください。何か落とされましたよ」
「え? ああ、本当だ。ありがとう、ミント」
「? 何それ?」
ミントが拾い、クレスに手渡した彼の落し物。それはクレスをデフォルメしたような姿をした人形で、それを見たファラが首を傾げる。
「ああ、これかい? 友人の妹さんが僕にって、わざわざ作ってくれた人形なんだ。お守りみたいなものだよ」
「そのお人形……懐かしいですね。確かあの時、クレスさんにしかプレゼントを用意していないのかって機嫌を悪くされてしまって。あの後が、大変でしたね」
「そうそう。困ったアミィちゃんが、結局代わりにアップルグミをあげたんだ。ああ見えて、結構やきもち焼きなところがあるんだよな。僕にも妹がいたら、同じことを思ったのかなぁ」
「ふふ、クレスさんたら」
「「……」」
クレスとミントは懐かしそうに話しており、カイとファラは困ったように沈黙する。
「あ……ごめん。僕達にしかわからない話をしてしまって」
「今お話ししていたお兄さんというのが、これから私達が迎えに行く友人の事なんです」
クレスが申し訳なさそうに謝るとミントが説明、クレスは爽やかな笑みを見せる。
「妹思いのいい奴なんだよ。それに、弓の名手なんだ。きっと、アドリビトムの戦力として活躍してくれると思う」
「私もそう思います……クレスさん、今度は向こうの方も探してみましょう」
「うん、そうだね。行ってみよう」
クレスがそう言い、四人はさらに森の奥地に向けて歩いていった。
それから彼らは森の奥へと進んでいき、そこに生息するウルフやグリーンローパー、ライニネールなどを倒しながらクレスの仲間を探していく。
「いない……もしかして入れ違いになったのか?」
「もう少し探して、痕跡が見つからなかったら一度戻ろう」
「うん! 大丈夫、きっとその人は無事だよ! イケるイケる!」
「そうですね……ありがとうございます」
クレスの呟きにカイが木の上から辺りを見回しながらそう言い、ファラがぐっと拳を握りながら元気づけるようにそう言うとミントも嬉しそうに微笑んで頷いた。
「っ! 全員走れっ!!!」
「えっきゃっ!?」
突然上空から響くカイの声、それにミントが驚いたように見上げると突然クレスがミントを抱きかかえて前に飛び込む。その直後、ミント達の背後からバンッという何かが叩きつけられるような音が聞こえた。
「くっ!」
前方に飛び込んでかわした後すぐ立ち上がって振り返り、拳を構えるファラに、抱きかかえていたミントを離して後ろにやり、彼女を守るように前に出て剣と盾を構えるクレス。二人が睨む前には樹木そのままの姿をし、頭には桜のようなピンク色の花を満開にしている魔物が存在していた。
「ブ、ブラッサムです……」
「つ、強そうだね……」
「うん。正直今の僕達で敵う相手かどうか……」
どこかで調べたのだろうかミントの言葉にファラとクレスが手に汗を滲ませながら呟く。どうにかして逃げる算段を立てなければまずい……。
「鬼炎斬っ!!」
「「ってちょっとーっ!!??」」
と、二人が思っていたその瞬間カイが炎を纏った十字斬りでブラッサムに先制攻撃。クレスとファラも思わず異口同音のツッコミを入れていた。そしてブラッサムに弾かれ、自分達の横に着地したカイを見て二人はわたわたとなる。
「ちょ、ちょっとカイ! 何挑発してるの!?」
「そうだよ! ここは逃げる方法を……」
「逃げるって……どうやってだ?」
ファラとクレスの言葉にカイは首を傾げながら尋ね、ブラッサムを見る。
「道はあの魔物に塞がれてる。獣道を通ってたら俺達はともかくミントは間違いなく逃げ切れないし、下手したらエステル達みたいに道に迷う可能性もある」
「「……」」
カイの冷静な分析に二人は驚いたように目を丸くし、カイは刀をブラッサムに向ける。
「あの魔物を倒すとはいかなくても、しばらく動けなくする必要はある」
「……確かにそうだね」
「うん」
彼の言葉にクレスとファラは頷き、それぞれの武器を構え直す。それを見たミントも杖を構え、詠唱を始めた。
「……いきます、ディープミスト!」
ミントが叫び、集中していたマナを解放すると濃霧がブラッサムを包み込み、霧の発生を合図に三人が地面を蹴る。
「相手の実力は未知数だ! 最初から全力でいくよ!」
「オッケー!」
「了解!」
クレスの言葉にファラとカイは頷き、クレスは思いっきりジャンプして剣を構え、カイは刀を腰にやって突き出すように構え、ファラは両手に気を込める。
「鳳凰天駆!!!」
「双撞掌底破!!!」
「斬魔滅殺剣!!!」
クレスは炎を纏いまるで獲物を狙い定めた鳳凰のごとく急降下しながら突っ込み、ファラは片手で掌底を打った後もう片方の掌底破も連続して叩き込み、カイは突進突きから左右薙ぎ払いさらに後ろ回し蹴りまで繋げた後左手に集中していた闇のマナを掌底を当てると共に解放、爆発させた。各々の使える奥義の連続攻撃にブラッサムの巨体が吹き飛び、倒れ込む。
「どうだ!?」
クレスは剣を構えながら叫ぶ。が、ブラッサムは何事もなかったかのように立ち上がった。
「う……あいつの身体、結構堅かったからなぁ……」
「ミント! さっきの雨を降らせてくれ!」
「はい!」
ファラが手をぶらぶらさせながら呟き、カイが指示を出すとミントも頷いて詠唱を開始する。
「アシッドレイン!」
「曼珠沙華!」
敵の防御力を減らす不思議な雨がブラッサムに降り注ぐと同時にカイが炎を纏う苦無を投げてブラッサムを牽制、そこにクレスとファラが再び突っ込んだ。
「「飛燕連脚!!」」
息を合わせた連続蹴りが脆くなったブラッサムの樹皮を削ぎ、そのままクレスは剣を振り上げて剣に雷を纏わせ、ファラも片足を振り上げる。
「襲爪雷斬!!」
「鷹爪蹴撃!!」
剣を振り下ろすと同時に放たれる落雷と空中から襲い来る急降下蹴りが同時にブラッサムを襲う。しかし二人はまだ攻撃を止めず踏み込んだ。
「魔神双破斬!!!」
「双撞掌底破!!!」
クレスが地を這う衝撃波を放つのに繋げてジャンプして斬り上げと刃を返しての斬り下げを二セットくらわせ、ファラが先ほどの二連発掌底破を叩き込む。
「ギシャアアアアァァァァァッ!!!」
「「うわあああぁぁぁぁっ!!」」
しかしブラッサムは腕のように伸びている枝を振り回して反撃し、それを受けた二人は吹っ飛ばされてしまう。そしてブラッサムはトドメを刺そうとばかりに尖っている枝を振りかぶる。
「フィリアボムッ!」
と、そこにビンが飛びブラッサムにぶつかって割れるとその中身が爆発。ブラッサムを怯ませた。
「カイ!?」
「二人とも早く回復しろ!」
「い、今のって……」
「フィリアから借りてた!」
クレスとファラが驚いたように呟く横でカイは刀を手にブラッサムの前に立つ。それを見たクレスとファラは彼の邪魔にならない程度に下がり、自らの内部に気を集中する。
「集気法!」
「治癒功!」
自らの身体に気を練り込み、傷を癒し体力を回復する。
「尽く臥せよ、不殺の鉄槌……ピコハン!」
その後ろでミントが魔術でピコハンを作り出してブラッサムに落とし、孤軍奮闘しているカイを援護する。しかし彼女は目の前で死闘を繰り広げている仲間の援護に精一杯だったため後ろから来る気配に気づいていなかった。
「ミント! 後ろっ!」
「えっ!?」
偶然ミントの方を向いていたファラが血相を変えて叫び、そこでミントは後ろからグルルという喉を鳴らしているような音に気づき、振り返る。
「ガウッ!」
「きゃあっ!!」
いつの間にか背後にウルフが忍び寄っており、ミントは咄嗟に目を瞑って杖を横に薙ぐ。
「ギャウッ!?」
偶然それがウルフの横っ面を叩き、ウルフを怯ませるがミントはその衝撃で倒れてしまう。そしてウルフも立ち直すとミントを睨んだ。
「ミントッ!!」
クレスが叫んで彼女の方に走り出す。しかし、ウルフがミントの身体に牙を突き立てる方が明らかに早いと確信できるほどその距離は離れていた。
「ミント! 伏せろ!!」
そこに響く新たな声、それを聞いたクレスが驚いたように足を止め、ミントは頭を抱えてしゃがみこむ。
「紅蓮!!!」
その凛とした声と共に何かが風を切って飛び、それが炎を纏ってウルフの眉間を寸分たがわず貫く。獲物に牙を突き立てる直前で脳を貫かれたウルフがぐらりと揺れ、どさっと倒れ込んだ。
「ミント! 大丈夫か!?」
「あ、は、はい……」
「これは……」
数歩遅れて駆け寄り、ミントの安否を問うクレスにミントはこくこくと頷き、クレスはウルフの眉間に刺さっている炎を纏っていた何か――矢を見る。
「ミント! 大丈夫か!?」
そこに駆け寄ってくる水色の髪を長く伸ばして後ろで一本にまとめた、目つきの悪い青年。その顔を見たクレスが安心したように微笑んだ。
「チェスター! 無事だったんだな!」
「無事? って、もしかしてお前ら、探しに来てくれたのか?」
「そうですよ。到着予定日を過ぎても、連絡がありませんでしたから……心配で」
クレスの言葉に青年――チェスターは少し首を傾げた後気づいたように問いかけ、それにミントが頷くとチェスターは「ああ」と頷いてブラッサムを見る。
「ちょっとあいつに追われちまっててな。悔しいが、今の俺の腕じゃ倒せそうにねえか」
「うん、僕達もそう思う。だから逃げようかと思ってたんだけど余程隙を作らないと逃げきれそうにないんだ」
「はい……獣道を通っていては道に迷う可能性もありますので……」
チェスターの言葉にクレスとミントはそう言い、それにチェスターはふっと笑った。
「だったら安心しろ。俺が先導して森から抜け出す!」
「だ、大丈夫なのか!?」
チェスターの出した案にクレスが心配そうに叫ぶと彼は不敵な笑みを浮かべて見せる。
「別に俺は迷ってたわけじゃなくって、あいつに追われてただけだ。森の中の道は覚えてる!」
「分かった。チェスターを信じよう……」
チェスターの言葉にクレスは頷き、現在ブラッサムを足止めしているカイとファラの方を見る。
「二人とも聞こえた!? 僕は彼とミントを護衛しながら先にこの場を脱出する!」
「了解! ファラも先に離脱しろ!」
「えっ!? で、でも一対一じゃ……」
「倒さなくていいんだろ!? それなら一人の方がやりやすい!」
クレスの言葉にカイは頷いた後ファラにも離脱を指示し、それにファラが心配そうに叫ぶとカイはそれを遮る勢いで叫び、それにファラは渋々頷くとクレス達の方に走り、彼らはチェスターの先導で森の中を走っていった。それを足音で確認しつつ、カイは右手に刀を、左手にナイフを構えてブラッサムとつかず離れずの距離を取り始めた。
「ふっ!」
ブラッサムが伸ばして突き出してきた腕のような枝をカイは素早く横に動いてかわす、がブラッサムはさらに別の枝を伸ばして足元を薙ぎ払うように振るい、カイは咄嗟に刀を地面に突き立てるとそれを杖にしてジャンプ、ついでに刃を枝のように向けており枝を斬ろうかともくろんでいた。
「へ?」
しかし枝が刀に当たった瞬間バキッという嫌な音がし、カイはバランスを崩して地面に倒れ込む。そして右手に握っていた、刃が途中で折れている刀を見た。
「刀が、折れたっ!?」
どうやらブロッサムの枝はブロンズソードを超える強度を持っていたらしい。一番よく使用していた武器が突然折れたことに彼は動揺を隠せず、その隙を突いたブロッサムが伸ばした枝でカイの身体を鞭のように叩き打ち上げた。
「がはっ!」
いきなり上空に打ち上げられ、苦しげに息を吐くカイ。そこを狙い、ブロッサムは再び先端がとがった腕のような枝をカイ目掛けて突き出し、ドスッという何かを貫いた音が響く。そしてブロッサムはゆっくりとさっき獲物を貫いた枝を縮め、獲物を自分の目の前へと持っていく。
「……?」
しかし首を傾げるような動作をブロッサムは見せた。その枝が貫いているのは何か木の幹のようなものだ。
「危ない……ギリギリ変わり身の術が間に合った」
ブロッサムが混乱している間にカイは近くの木の上に上り、安堵の息を吐いて辺りを見回す。
「ま、これくらい時間を稼いでおけば充分だろ……逃げるか」
カイは一人そう言うと木の枝の上を飛び移りながらその場を離れていった。
それからカイは木の枝の上を飛び移り、近くに手頃な枝がなければ地面に降りて、出来る限り魔物との戦闘を避けて森の入り口まで戻ってきた。
「カイ! 無事だったんだね!」
「ああ」
クレスが安心したように微笑むとカイも頷く、とチェスターが話しかけてきた。
「お前、カイって言うんだってな? 俺はチェスター・バークライト。迎えに来てくれた上囮になってくれてありがとな、礼を言わせてもらうぜ」
「……気にしなくていい」
チェスターの言葉にカイは少し黙った後静かにそう返し、チェスターは苦笑するとクレスの方を見た。
「ところでよ、クレス。俺の気のせいかもしれないけど、あいつら、最近凶暴になってないか?」
「ああ……確かにそうだね。あんな大型の魔物、滅多に見かけることはないのに……」
「そうですね……アドリビトムにも魔物による被害の報告や掃討の依頼が増えているようです。チェスターさんにお怪我がないようで、何よりでした」
チェスターの言葉にクレスが腕組みをして呟き、ミントも心配そうに頷いた。と、その言葉にクレスが再び頷く。
「そうだね。本当に無事でよかったよ。でも魔物に足止めされているなら、初めからそう言ってくれればもっと早く迎えに来たのに。なあ、カイ?」
「ああ」
「おいおい、俺の腕を疑うのか? そりゃないぜ……まぁ……心配かけたのは、悪かったけどよ」
クレスの言葉にカイが頷くとチェスターは苦笑、しかし申し訳なさそうに頭をかいた。
「クレスー! 皆ー! 船がきたよー! あ、カイ。戻って来てたんだ。無事でよかった」
「ああ」
森の外から戻ってきたファラはカイを見て安心したように微笑む。
「なんか頑張ってるみたいだな……ま、船の奴らには後で挨拶するとして。カイ、ファラ。クレス達に付き合ってくれてありがとな。そんで、これからよろしく頼むぜ!」
「ああ」
「うん、よろしく!」
チェスターのよろしくという言葉にカイは静かに頷き、ファラは元気よく微笑んでよろしくと返した。そして彼らはバンエルティア号に戻るとホールへ入る。
「ファラー! 久しぶりなー!」
「わっ!? メ、メルディ!?」
と、いきなり何者かがファラに抱きついた。
「よう。お帰り、ファラ」
「元気そうだな」
「キール! 戻って来てたんだ! 二人ともお帰り!」
リッドと一緒に、青い髪をポニーテールにしてローブを身にまとっている青年が挨拶し、ファラがその姿を見て嬉しそうに声を出してカイを見る。
「カイ、チェスター。紹介するね。私の友達の……」
「メルディだよう!」
「キール・ツァイベルだ。元々、僕とメルディもこのギルド発足時からのメンバーだ」
「カイ」
「チェスター・バークライトだ」
ファラの言葉を遮って彼女に抱き付いている紫色のふわふわした髪をツインテールにし、額にガラス玉みたいなものをくっつけている少女――メルディが自己紹介し、ポニーテールの青年――キールも名を名乗るとカイとチェスターも名乗る。と、メルディが浮かない顔を見せた。
「おっきい国が大学で、お勉強してたな。でも、もうすぐ戦争始まるよ……」
「星晶の採掘権を巡っての戦争だ。おかげで大学は休校、こうなってしまったら、休校どころか大学まで潰れるんじゃないかと思うが……ともかく、これから僕とメルディもここに戻って働くことにした。そうするしか、身を寄せる場所もないしな」
メルディの言葉にキールもそう言い、肩をすくめる。と、アンジュがホールに戻ってきた。
「お帰りなさい。キール君、メルディ。手紙で頼んでおいた情報収集は?」
「ああ、色々聞いて来たよ、少し休ませてくれないか? 話は部屋でさせてくれ」
「ええ。あなた達の部屋はそのまま残ってるわ。ギルドへの再登録は話を聞いた後でいっか! カイも、部屋へいらっしゃい」
アンジュの早速の言葉にキールはそう言い、アンジュは頷くとカイに手招きする。
「行ってきなよ。僕達の依頼はここで終了って事でいいからさ」
「今回は本当にありがとうございました。もしも何か困ったことがあったら言ってください。いつでも力になります」
「ああ。ありがとう」
クレスとミントが促し、カイは一言お礼を言ってからアンジュ達と共にキール達の部屋――リッド達と同室だ――に向かい、彼らの荷物を軽く荷解き、それが終わるとキールが「はぁ」と大きく息を吐いた。
「やっと荷解きが済んだ。本が多くて、大変だったよ」
「カイ、キール君とメルディはね、“持続可能な社会”を研究しに大学へ行っていたの」
「持続可能な社会?」
アンジュの説明にカイが首を傾げる。と、キールは途端にきりっとした、生き生きとした表情を見せた。
「僕達の世代が、将来の世代のために、環境をありのまま利用して、充足した社会を作るっていうものさ。よって、星晶の採掘も行わない」
「人間が自然を壊さず、調和して人々が生活するための衣食住が充分に行き渡る社会。その理念で運営する村、“オルタ・ビレッジ”を作るのがアドリビトムの目的なの。みんなでお金を溜めて、オルタ・ビレッジを各地に作って、大国に消費された村の人達を移住させるのよ」
「オルタ・ビレッジ……素敵な村だ」
アンジュの言うアドリビトムの目的、オルタ・ビレッジ。それをゆっくりと反芻し、カイは心の底からそう思っているように頷いた。それにメルディも嬉しそうに微笑んでくるくると回る。
「はいな! みんな幸せ、みんな仲間、みんな友達がなれる村!!」
「しかし、大学が休校になった今は、ここで研究を続けていくしかないな」
「そうそう。あの現象については?」
明るくそう言うメルディに対して静かにそう呟くキール。と、アンジュが思い出したように尋ね、それにキールは「ああ」と声を漏らした。
「星晶の採掘跡地で起こる、生物変化現象か。僕が街で聞いたのは……生物に変化が現れた場所には、赤い煙のようなものが現れていたらしい。その後、生物への変化が見られたと言うが」
「赤い煙?」
「はいな。その赤い煙も、ほんの数日現れただけな。今は消えてしまってるそうだよう」
キールとメルディの報告、赤い煙。それにアンジュはふむと唸った。
「気になる話ね、その赤い煙って」
「街では失職者もいるらしく、遠征採掘の登録所に並んでいる人を見かけたよ。そこで聞いた話では、オルタータ火山が数日前に採掘を終えたらしい。行ってみてはどうだ?」
「そうね。では、依頼の登録をしておきましょう」
さらにキールは情報を提供。それにアンジュが頷くとカイが彼女を見た。
「俺が行こうか?」
「あら、働き者ね」
その言葉にアンジュはふふっと頷く。と、リッドが首を傾げた。
「おいちょっと待てよ。カイ、お前剣はどうしたんだ?」
「あ、ない!」
リッドの指摘を聞いて初めてファラもカイが刀を提げていない事に気づき、カイはぽりぽりと頭をかいた。
「魔物と戦ってたら折れた。まあ、新しい刀買えばなんとかなるはずだ」
「ダメだよ! 剣とか武器は同じ品でもそれぞれ微妙に差異とか癖があるから、そんなぶっつけ本番じゃ危ないよ!」
「確かにそうね。オルタータ火山は今までより厳しい環境だし……カイも疲れてるだろうから、今回は休んでいなさい」
「……了解」
カイの言葉にファラが腰に手を当てて注意するとアンジュも同意してカイに今回は休憩を命じ、カイは渋々頷いた。
それからアンジュはホールへと戻り、キールから聞いたオルタータ火山への調査依頼を纏める。
「とりあえずルビアとウィルさんが調査をしてくれることになったけど、やっぱり前衛も必要よね……」
「アンジュさん」
「ん?」
アンジュがぶつぶつと呟いていると突然女性が彼女に声をかけ、アンジュも顔を上げて相手を見ると微笑む。
「あら、レイさん。何かご用?」
「オルタータ火山への調査依頼ですが、我も同行したい」
「あら、いいの?」
「はい……なんとなく、行かねばならぬ気がして……」
レイは何か真剣な目をして呟き、それにアンジュは首を傾げる。
「へぇ?……了解、登録しておくわね。後一名、探しておいてくれない?」
「了解した」
彼女の残り一名同行者を募っておくようにという指示にレイは頷き、その場を歩き去る。アンジュはそれを見送った後、依頼書のメンバー表に“レイ”の名前を書き足した。
今回はチェスター登場のサブイベントとキール達登場と一気にやらせました。ちなみに本来チェスター仲間入りのクエストの定員は主人公、クレス、ミントの三人ですがキール達の自己紹介の流れを少しスムーズにするためにファラを組み込みました。あとは、このサイトの某マイソロ3小説に影響を受けて作った今の状態だと勝てないようなレベル高い相手に対してある程度戦える理由を作るために……と言ってもブラッサムだと少し微妙だったかな?
カイ「だがケイブレックスにしたら完璧パクリになるぞ」
分かってる。さて! 次回ついにもう一人の主人公と一応銘打っているレイが主役になって暴れる!……予定です。さあ頑張らないと。なんかもうそろそろこれならでは! 的なものが欲しいよなぁストーリーなり戦闘描写なり……平行連載してる他の二つの作品と比べてこれアクセス解析少ないし(実話です)……ま、そこは頑張るしかないよな! ご意見ご感想があれば歓迎いたしますのでお気軽にどうぞ! それでは!