君とEG@Oで 作:まったりにわかP
奈緒Pの皆様、申し訳ない。だから石投げないで!
神谷奈緒はアイドルである。
ただし、自他共に認めるそれではない。正確には、今日から正式にアイドル活動を始める少女である。
今日、ようやく彼女を担当するプロデューサーが決まったからこそ、正式に始まるアイドル活動。
その心中は複雑だ。
――これから訪れる輝かしい世界への第一歩、期待。
――自分でもやっていけるのか、先行きが霧のように見えない、不安。
――何より、今もその名を轟かせる伝説のアイドルと同じ事務所に所属する、高揚感。
これから神谷奈緒は担当のプロデューサーと会う。自然、どんな人物か想像が膨らむ。優しい顔つきか、ダンディな男性か、案外平凡な顔つきか、あるいは女性という線も有り得ない話ではない。
「っと、浮かれてちゃダメだよな」
約束の部屋の前に到着すると、神谷奈緒は自分の顔を意識的に引き締めた。そして咳払いをひとつ。声の調子を整え、扉をノックする。
――コンコンコン。
「……あれ?」
返答がない。強すぎず、弱すぎずノックしたため、聞こえていない筈はない。なら、もしかするとトレイだろうか。
――コツン。
部屋の中から音が聞こえた。硬いもので床を突いたような、硬質な音。つまり、中に誰かが居ることは間違いない。
「あー、どうしよ」
返事がないということは、今は何か別件で立て込んでいる可能性がある。声を掛ける暇がないほどに。だからといって扉の前で待つと、単に思い違いだった場合、延々とここで待たされることになる。
考えた末、彼女は意を決して扉をノックする。今度は先ほどよりも強めに。
――コツン。
またも硬質な音が彼女の耳に届く。ノックの直後である。偶然にしてはあまりに出来すぎている。神谷奈緒はこれを、返事の代わりと受け取った。
「失礼します」
少しだけ間延びした声で言いながら、彼女はその扉を開けた。
瞬間、扉の隙間から冷気が肌を刺す。突然のことに鳥肌が立つが、それも忘れる程の衝撃が彼女の目の前に現れる。
『ようこそ。』
まず目に付いたのは、掲げられた立札である。その一言から歓迎されているのはわかるが、彼女は「ちょっと待て」と自分に言い聞かせる。
視線が掲げられた立札に反射的に釣られてしまったが、その時に何か、信じがたい光景を見た気がしてならない。
「――えっ」
部屋の奥に控えていた人物を見て、神谷奈緒は絶句した。続いて、何度も瞬きした。見間違いではないか、疲れているのかな、などと考えながら何度も。
何度見ようが、目の前には包帯人間が立っている。スーツを着た包帯人間が立っている。それも、顔や手だけでなく、首筋までも露出させない徹底ぶり。極めつけは、顔の部分に瞳が描かれている。どこか笑っているような瞳が。
「な、な、な」
『初めまして。
今日から
君のプロデューサーになる者だ』
明らかに動揺している神谷奈緒にお構いなく、包帯人間は新しい立札を掲げた。
突っ込みどころが多すぎて、何から突っ込めばいいのかわからない。まさにその状態に陥った少女は、口をパクパクと金魚のように開閉を繰り返す。
『さて、僕について言いたいことはあると思う。
会話については、昔の事故で声帯をやられてね。
面倒だと思うけど、いつもこうして筆談のような形をとっているんだ』
昇っていた血が、サッと献血の時のように引いていく。事故、ということはつまり、仕方のない事情である。決して、ふざけているわけではない。
「……あぁ、まぁ、うん。あんたの事情はわかったよ」
深くは突っ込まない。事故の記憶なんて、本人にとっても碌でもないものに違いない。触らぬ神に祟りなし、だ。
「だけどさ」
しかし、だからこそ。
神谷奈緒はツッコミを入れざるを得なかった。
「包帯の、その、目ってさ。意味あるの?」
『いや、ないけど?』
「ねぇのかよ!?」
分かっていたことではあった。しかし、だからと言って反射的に上がる声を抑えることはできない。
声を上げた奈緒を見て、得意な雰囲気を放つ包帯人間。何故だか分からないが、彼女は妙な敗北感を覚えた。
『ふふん♪』
「何で得意気なんだよ!」
『突っ込んだら負け。
つまり君は敗者で、僕は勝者。』
謎の理論を展開してくる包帯人間に、奈緒はツッコミをやめた。鋼の意思を以て、これ以上は反応してやらないと心に誓う。
そして、ため息を一つ。本題に入るために仕切り直す。
「これからどーすんのさ?」
『じゃあ、自己紹介からで』
奈緒はふと思う。さっきから使われている立札はどこから現れて、何処に消えていっているのだろう、と。当然、ツッコミを入れたら負けだと自覚しているため、追求はしない。もう、そういう存在なのだと諦めた。
「はぁ……。あたしは神谷奈緒。アイドルになろうとした理由は……あー、こんなあたしでも、アイドルになれるって熱弁されて。それに、か、可愛い服も着れるって……あぁ! 今のなし、やっぱなし!」
『反応に困る自己紹介ありがとう。
ちなみに、僕は謎のプロデューサーX!
この346プロの秘蔵っ子にして、君をプロデュースする者!』
「……あのさ。立札で見せられても、迫力ないんだけど」
書かれている内容からやけにテンションが高いことはわかるが、それだけを掲げられても内容と本人の温度差に違和感が増すばかりだった。それを包帯人間がやっているのだから、シュール以外の何者でもない。
『それは仕方ない!
でも、見ての通りテンションはマックスだね!』
包帯人間は手のひらを上に向けて「はっはっは!」とでも笑っているようなポーズを見せる。音がないのに何がしたいか伝わる、その無駄に高い演技力に奈緒は閉口する。代わりに、目の前の包帯人間をジッと見つめる。
(悪いヤツ、じゃあなさそうだな。いや、いやいやいや。でもこれがプロデューサーって。プロデューサーって、もっとこう、バリバリ仕事デキる! みたいなヤツばっかりだと思ってた……)
奈緒の目から見て、包帯人間はあまりにふざけた存在にしか映らない。第一印象が第一印象だったこともあるが、何より外見と言動の乖離がひどい。はっきり言って、一挙一動がシュールギャグにしか見えない。
『さて、自己紹介も十分かな。
習うより慣れろ、論より証拠、ってね。
だから、親睦会と称してレッスンルームに行こう』
「レッスンルーム?」
『そうそう。プロデューサーが決まるまで、
トレーナーさんからレッスン受けてたでしょ?
君がどれほどの力量か、見ておきたくてね。うん』
よしきた! と、奈緒は心の中で叫んだ。プロデューサーが決まるまでの一ヶ月近く、彼女はレッスンを受け続けてきた。ここで一つ、培ってきた成果を見せつけて、驚く姿を見てやろう、と画策する。
そんな彼女の口元は、これ以上なく緩んでいた。
「そ、そこまで言うなら、見せてやるよ! この一ヶ月の成果を!」
『フラグ建築乙』
「っ。ふん! 見てろよな! 絶対に、あっ、と驚かせてやるからな!」
『あっ』
「~~~っ! ゼッタイ、ゼッタイに見返してやる!」
顔を真っ赤にして、奈緒は部屋から出ていった。包帯人間は「場所わかるのかな」と首をかしげながら、彼女の後についていった。
「……あの、さ」
数分歩いたあと、奈緒は振り返って包帯人間を見た。
歯切れの悪い口調。なかなか本題に切り出せず、気まずそうに顔を引きつらせる様子。それらが全てを物語っていた。
『トレイか?』
「違うっての! ……レッスンルーム、その、何処にあるんだ!?」
頬を紅潮させ、大きな声を包帯人間に投げかける。すると、包帯人間はポンと手を打った後、頷きながら立札を掲げた。
『ボーカルレッスンはバッチリだな』
「その返しはゼッタイにおかしい! あっ、さては、あたしをからかってるな!?」
『さて、レッスンルームに行こうか。
今度は僕の後ろについてくるように』
「~~~っ!」
羞恥心が最高潮に達したところで、奈緒は涙目になりながら包帯人間を睨みつけた。しかし、肝心の包帯人間は既に目的地に向いており、効果はないのであった。
――神谷奈緒、一日目にして、いじられキャラが定着した瞬間である。
奈緒はいじられキャラ。はっきりわかんだね。
尚、筆者はアナスタシア(アーニャ)Pです。
Как дела?(元気? 調子はどう?)
ちなみに、ミリシタでは紬さん推し。
え、どうして推しから書かないのかって?
……純粋なアーニャにこんな変態ぶつけていいとでも?(威圧)
単純な話、アーニャから書くとオリPの設定上、話がシュールギャグ通り越した何かになります。具体的には、オリPのギャグ全てに対して真面目な返答が来る、常時ボケ殺し状態。
……ね? 大変なことになるでしょ?(半ギレ)
紬さんから書け?
いや、そもそも346プロですから。765じゃないですから! 面白そうだけど!
というわけで、もうちょっとだけ続くんじゃよ。