君とEG@Oで   作:まったりにわかP

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三話連続投稿~♪

え、分割しないのかって?

今回のは三部構成だし、途中で切ったら気持ち悪いでしょ?
だから連日投稿! 以降は知らん(・ω・`)

というわけで、始まり始まりー。



第三話 全力のレッスン

「ふぅ……。ま、こんなもんかな! どうだった?」

 

 既存の数曲のダンスを踊った後、奈緒は涼しい顔で包帯人間に感想を聞く。休憩を挟まずに続けて踊ったにも関わらず、汗ひとつかいていない。それは彼女の努力に対する成果の裏付けだった。

 

『うん、いい感じだね。

 一ヶ月でこれだけ出来れば文句なし。

 何より、踊り終わったあとの笑顔が満点!』

 

 包帯人間はサムズアップしながら立札を掲げる。きっと、包帯の裏では良い笑顔を浮かべているんだろう、と容易に想像できるほどジェスチャーが生き生きとしている。踊った本人でもないのに、未だに足先や肩にリズムの名残が残っていることもいい証拠だ。

 

「そ、そうか、えへ、えへへ。う、うん、がんばった甲斐があったよ!」

 

 眩しいほど屈託のない笑顔。そこには達成感が満ち溢れている。

 

 それを見て、包帯人間はついつい拍手を送る。自分でも気づかない間に手を叩いていた。包帯のせいか、いい音は鳴っていなかったが、それでもやりきった奈緒にしてみれば万来の喝采を受けたような心地である。

 

「そ、そんなにほめるなって。ほ、ほら、あたしってほめられると、その、ダメになるんだって。コーチにも指摘されて、さ」

 

『いやぁ、見事なものだったから。

 こんなにイイモノに見せてもらうと、

 ついつい体が疼いちゃうね。職業病だねぇ』

 

「……職業病? あんた、ダンスとかやってたの?」

 

『うん、まぁ、たしなむ程度にね。

 スポーツ観戦してると、

 ついつい自分も体動かしたくなっちゃう衝動に近いね』

 

 恥ずかしそうに、後頭部を手で摩りながら筆談する包帯人間。一体、いつ立札に書き込んでいるのか全くの謎だが、奈緒がそれに触れることはない。突っ込んだら負けなのだ。

 

「へぇ……そうなのか。あ、なら一曲、一曲だけでいいから踊ってみせてよ」

 

『ん、何でまた?』

 

「ほら、あたしってずっと同じ人の指導受けてたからさ。ほかの人の踊ってるところとか、見たことなくて……。これからのあたしの成長のためにも、さ」

 

(それに、あんたのこと、まだよくわかんないし)

 

 筆談のみ、顔は分からず、まして性別も不明。立札に書かれている文字はワープロソフトのような明朝体。内容から気のいい人間だということはわかるのだが、それだけだ。判断材料が、立札の内容だけしかない。

 

 まだ一日目だからわからないことが多いのは当然だ。しかし、普通の付き合い方をしているだけで、この包帯人間のことを普通の人間並みに把握する自信が、奈緒にはなかった。

 

 だから、少し強引であろうと、同じ舞台に引き上げようと思った。少しでも相手のことを知るために。

 

『んー、まぁ、いいよ。

 あ、その前にちょっと待ってね』

 

 奈緒が立札を見たことを確認すると、包帯人間はレッスンルームの入口にあるリモコンで冷房を起動させた。ピ、ピ、と数度軽快な機械音が鳴る。

 

 それが終わると、包帯人間はスーツを脱いで、レッスンルームの椅子に掛ける。

 

(……胸は、ないのか? だったら男ってことに……。いや、包帯まいてて、それでないように見えるだけかも……)

 

 この包帯人間、上がシャツ一枚(IN包帯)になっても性別がわからない。基本痩せ型で、筋肉のつき方にも特徴が現れていないために、余計に謎が深まる。

 

『さて、準備オッケー。

 曲は何がいい?

 一応、事務所の所属アイドルのやつ、全部あるけど』

 

「んー、だったら『Last Live』……なーんてね。さすがにここにCDがあるわけ――」

 

『いいね!

 どうせ一曲だし。派手にいこうか!』

 

「って、やるのかよ! というか、CDあるの!?」

 

 喜多美優の『Last Live』は、ユウの最後のライブで初めて発表された曲だ。実はこの曲、ユウが亡くなったあとの事後処理に追われたために、CD一般販売が今も未定なのである。というより、事後処理に追われる形で販売企画(ライブ終了から一ヶ月後の販売予定)が有明無実化してしまったのだ(企画段階のため、ジャケットやCDプレスの依頼を他社にまだしていなかった)。

 

 そのため、『Last Live』のCDはこの世に数枚しか存在しない。マスター音源と、破損した時の為の予備のディスクだけである。それら全て346プロが所蔵しているのは当然のことだが、奈緒もまさか、そんな貴重なCDがレッスンルームにあるとは思ってもみなかった。

 

 レッスンルームに設置されている大きな鏡の内は、収納スペースになっている。そこを開くと、中にはズラッと並んだCDの数々。歌手名から五十音順に並んでいるそこから、包帯人間は慣れた手つきで「喜多美優」の列を見つけ、『Last Live』の予備の円盤を手にする。収納スペースをもとの鏡に戻し、ラジカセのCDを素早く入れ替える。

 

『さて、始めようか』

 

 ラジカセのボタンが押して、数秒。その間に包帯人間は立札をどこかに消し去り、俯いて息を整える。思わず息を呑むほど重苦しい静寂。少し離れた場所に居た奈緒にも、その空気が伝わった。部屋の冷房が効いてきたせいもあり、彼女の体が一瞬震える。

 

 直後、前奏が流れる。

 

 まるで雨が降りしきるコンクリートジャングルに、一人で佇んでいるような。途切れとぎれの頼りない低音とスローテンポの曲。

 

 包帯人間は空を見上げ、雨粒を掬うように、手のひらを空に向ける。

 前奏は僅か五秒。それが終わる直後、振り返って奈緒の方を見た。

 

「っ」

 

 笑っていたように見えた包帯の瞳が、憂いているように見えた。影が差していた。あれほど軽快に、人の良かった面影はどこにもない。梅雨の湿気のように、濡れた服のように、その瞳は重く、暗い。

 

 今度こそ、奈緒は息を呑む。文字通り、圧倒された。

 

 Aパートに入っても、歌詞は聞こえてこない。あくまで音源であり、歌はレコーディングされていないのだ。

 それでも、包帯人間を見ていると、奈緒の頭の中で歌詞が流れてくる。

 

『あの日 あの時 変わった世界

 日常が崩れ去る音に

 耳 目を塞いで閉じこもりたかった

 いつの間にか 捨てられた 一人ぼっちで』

 

 あの笑顔が絶えないアイドルからは想像もつかない、重い歌詞。低い音。暗い世界。

 崩れ去る日常のガラス片を拾おうと宙に手を伸ばす。空振り、何も掴めない。何もできず、耳を塞ぎ、俯き、目を瞑る。

 

『僕の瞳に 悲しい顔が映る

 どうしてか 僕も胸を締め付けられ

 そんな顔は 認めない

 だって僕は 笑顔が大好きだから!』

 

 虚ろに誰かを見つめていた。その顔を見て自分が顔を歪めて、胸が痛くて服を握りしめる。

 俯いた顔が上がった。その瞳に憂いはない。決意に満ち、力に溢れ、開き直って胸を堂々と張り――

 

 ――瞳が笑った。

 

『僕はいつ 終わるのか 知っている

 それでも君が心から 笑ってくれるのなら

 振りまこう 笑顔を 幸せを

 誰かの笑顔こそが 僕の幸せだよ』

 

 サビに入った。

 胸の前で何かを抱擁する。そして目の前の誰かに手を差し伸べて、口を動かす。何かを受け取ったその人は、口を綻ばせ、手をいっぱいに広げた。自信満々に自分の胸に指を置いて、もう一度誰かに手を差し伸べる。

 

「僕の知ってる 君の顔が ひとつ増える

 荒れた野原に 咲いた 一輪の花

 かがやき 眩しさ が愛おしい

 君がいるこの世界で 僕も笑ってる」

 

 気づけば歌っていた。体が動いていた。

 胸に手を置いて一度頷き、その手を相手に向けて、もう片方の手で自分の顔を指さした。腕を凪いで、そっと何かに触れて、微笑みかける。扉を開けるように両腕を振るい、咄嗟に光から目を守るように腕を目の前に持ってきて、続けざまに祈るようにゆったりとした抱擁。誰かに、最高の笑顔を向ける。

 

 一度歌いだしたら、踊り始めたら、止まらなかった。衝動を抑えきれなかった。

 好きな曲だから? 憧れが目の前にあるような気がしたから?

 

(ちがう、ちがう、ゼッタイにちがう!)

 

 ならば何故か。

 それはとても簡単で、子どもの理論。

 

(だって、こんなに楽しそうに踊ってたら、あたしだって!)

 

 踊りたい! ただ、それだけ。楽しそうだから、一緒にやってみたい。理由はそれだけで十分だった。

 

「――っ!」

 

 曲はあっという間に終わった。たった一曲なのに、額から頬に、首筋に、鎖骨に、雫が伝う。肩で息をしている足が生まれたての子鹿のように震える。

 

 確かに疲れた。

 ――だがそれ以上に、全力を出し切った。

 

 充足、満足感が全身を駆け巡る。暖かく、早く、循環する。足を、腕を伝うと爽快感さえ覚える。

 余韻が、続く。

 全力で味わうために、心を暗闇に預けた。

 

(……本物だ)

 

 満ち足りていた。重みがある。どうしてか分からない現実味が質量を持っている。立ったこともないのに、まるでステージの上でやり切ったかのような錯覚。

 

 不意に、肩に何かを掛けられる。余韻に浸っている邪魔をされて、気配のする方を半眼で見ると、そこには包帯人間が居た。

 

『風邪を引いちゃまずい

 早く汗を拭くように、ね』

 

 肩に掛けられたのはスポーツタオルだった。そこまで認識してようやく、現実に意識が引き戻される。今まで感じていなかった肌寒さが火照った体を刺すと同時に、全身がブルッと大きく震えた。

 

「さむっ!?」

 

 急ぎタオルで汗を拭いた。吹き終わればそれを首元に掛ける。あまりにも室温が下がっているものだから、近くに置いてあった上着まで羽織る。それでようやく、肌を刺す冷気から逃れられた。

 

 ふと冷房のリモコンを見てみると、設定温度21℃という文字が見える。

 

「ちょ、さ、下げすぎ! 温度下げすぎだって!」

 

『あー、ごめん。

 冷房もう切るね』

 

 ピッ、と音がすると共に冷房がその機能を停止する。しかし、だからと言ってすぐに温度が高くなるわけではない。包帯人間は気遣いからか、入口の扉を開放して換気を始める。

 

「はぁ……。あーもう、カゼ引いたらどうするんだよ!? まったく!」

 

『いやぁ、ごめんごめん。

 もう室温下げる必要もないし、

 ここからは大丈夫、うん』

 

「……? なんで下げる必要があったんだ?」

 

『単純に熱いのは嫌だからね』

 

「暑いのがイヤって、あのなぁ……。いや、いやいやいや、それ字ちがうだろ!」

 

 小学生か! というツッコミに、包帯人間は肩を震わせながら、見せつけるように立札を掲げる。

 

『ツッコミ入れたら負け。

 今日二度目の勝利。やったね!』

 

「はぁ? いや、待て。それはおかしい! ゼッタイにおかしい! 恥かくのはあんたなんだぞ!」

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

「それ問題しかないだろ!」

 

 そんな言い争いをして十五分。お互いに体温が元に戻った頃には、何を言っても無駄だと、奈緒の方が折れた。

 

「ま、まぁ。認める、認めるよ。あんたが……その、あたしのプロデューサーだって。あ、あんなに満足できたのだって、その、プロデューサーさんの、おかげだし……」

 

 ありがとう、と小さな呟きが確かに包帯人間の耳に届いた。それを聞いた包帯人間、もといプロデューサーは、微笑んだように見える包帯の瞳を奈緒に向けながら、一つ。

 

『ツンデレ乙』

 

「っ、や、やっぱり、やっぱりプロデューサーさんなんて大ッキライだぁ!」

 

 奈緒は顔を真っ赤にしてレッスンルームを飛び出した。包帯プロデューサーは『やりすぎたかなぁ』などと、脳天気に立札を持ちながら、その後ろ姿を見送っていた。

 

 

 

 ――後日、素直じゃないながらも謝ってきた奈緒に心を打たれるプロデューサーが居たとかいないとか。

 

 今日も一日、平和である。

 

 

 

 




ちなみに、私は睡眠時間削ってこれを書いた。
今日も一日、寝不足である。

次回の投稿は16日以降~。
エタる可能性の方が高いので、過度な期待はよしてもらおうか(アンデルセン大先生感)

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