Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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えー。遅くなりました

遅くなりすぎました

反省してます


十一話

 目を覚ましてはじめに見たのは、白い天井。あれからどうなったのか。腸喰いと遭遇し、腸喰いと交戦。自分はデバイスを壊され、使いものにならず、ただ指をくわえて見ていることしか出来なかった。その後咄嗟に、自分はアイズを庇い腕を切られた。

 

「――ッ!」

 

 そこまで思い出して、ティアナは腸喰いに切られた右腕を見た。ティアナの右腕には包帯がされていた。なんとかくっつきはしたということか。管理局随一の医者に感謝である。

 

 と、感謝をしていると、ドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

 ティアナが言うと、ドアが勢いよく開かれ、

 

「ティアッ!」

 

 ティアナの愛称を叫びながら、ティアナに抱き着いたのは、紺藍の髪を短く切りそろえ、翠の瞳をした女性――スバル・ナカジマである。

 スバルは、「ティア〜、ティア〜!」と言いながら、ティアナに頬ずりしていた。

 

「ちょっ、スバル!痛い!痛いってば!」

 

「あ、ごめん、ティア」

 

 ティアナに文句を言われ、自分の目一杯の力を持ってティアナを抱き締めていることを自覚する。

 

「ホントあんたって、加減ってもんを知らないんだから」

 

「えへへ。ごめんねティア」

 

 ティアナに文句を言われているにもかかわらず、嬉しそうに謝るスバル。

 

「ティア、右腕の状態はどう?」

 

「状態って言われても、動かせないし、痛みどころか感覚自体が無いわよ」

 

「そう、なんだ」

 

 悲しそうに呟くスバルに、ティアナは笑顔で、

 

「大丈夫よ。ハーシャさんがやってくれたならいつかは治るんだから」

 

「そう、だよね。うん!」

 

 怪我人に元気づけられるとは情けない。

 

「それより、アイズはどうなったの?」

 

「ああ、アイズ君なら――」

 

「あいつはまだ目ぇ覚ましてないぜ」

 

 と、スバルのセリフを取った人物は、金髪逆毛、金色の瞳の男性だった。

 

「パルトメストさん!」

 

 「よっ」と手を上げ挨拶をするパルトメスト・アーリーズ。

 

「パルトメストさん。意識がはっきりしていなかったんですが、あの時助けてくれたのはパルトメストさんですか?」

 

「まあ、そうだな」

 

「どうしてあの場に?デバイスは壊れて通信出来なかったんですが」

 

「あの時非番でよ、街をブラブラしてたら轟音が聞こえてな。それで飛んでったら、お前らが腸喰いと戦ってて、そこに颯爽登場ってわけだな」

 

 偶然。それが呼んだ奇跡。アイズとティアナの二人だけでは確実にやられていた。本当に、エース・オブ・エースには感謝である。

 

「ハーシャから伝言だ。ティアナ、お前の腕は、治るのに最低一ヶ月。この期間は完治するのがって事だから、安心していいってよ」

 

「そうですか」

 

 ホッと胸を撫で下ろす気分のティアナ。

 

「ありがとうございます、パルトメストさん。⋯⋯もしかして、その為だけに、わざわざ?」

 

「いや、それだけじゃねぇよ。アイズが起きたら伝えて欲しいことがあってな」

 

「伝えて欲しいこと?」

 

「起きたら、第一訓練場まで来い」

 

 何故訓練場なのか。その疑問は口にしない。

 

「分かりました。伝えておきます」

 

「ああ、頼むわ」

 

 と言うと、パルトメストは病室から出ていった。

 

「訓練場で何する気なのかな?パルトメストさんとアイズ君」

 

「さぁ。あの人の事だから、何かしら意図はある筈だけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故あの女は、自分を助けたのだろうか。自分とあの女との間に、それが出来るだけのものがあっただろうか。

 無い。確実に無い。だというのに、あの女は、自分を助けた。理解は出来ない。自分はあの女の事など毛ほども思っていなかった。なのに何故だ。こんなにも、胸が締め付けられる思いなのは。あの女にも、アリアとフェイトにしか抱く事の無かった感情を抱いたのか。分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズはゆっくりと目を開く。周りを見渡すと、茶髪サイドテールの女性が、自分を見て目を見開き、その目に涙を浮かべた。

 

「良かった、アイズ君!」

 

 アイズに涙ながらに抱きついた女性は、高町なのはである。

 

「心配、したんだよ?」

 

「⋯⋯ごめん、なのはさん」

 

 と、二人が自分の思いを口にしたところで、ドアがノックされる。

 

「――どうぞ」

 

 多分アイズは返事しない。その予想からなのはが返事をする。

 

「失礼するよ」

 

 そう入ってきたのは、長く黒い髪に黒瞳の男性。

 

「やぁ。目が覚めた様だね、アイズ君」

 

 この男はハーシャ・クリットン。管理局随一の魔法医師である。

 

「アイズ君、腕の具合はどうかな?」

 

「⋯⋯」

 

 アイズは切られた右腕を動かしてみる。ちゃんと動くし、痛みも感じない。患部を見ても、切り傷が無い。完治していた。

 

「⋯⋯問題ない様だね。アイズ君は自然治癒力が人より高いから、治りが早かったようだ。――と言っても、半日程度でこれは、異常の域なんだけどね」

 

 アイズの様子を見て、問題ない事を確認する。ハーシャを管理局随一の魔法医師たらしめているのが、ハーシャのレアスキル、「完全治癒」である。回復速度は、患者に依存するものの、患者が死んでいない限り、どんな傷でも治してしまう。このハーシャのレアスキルのお陰で、アイズとティアナの腕は治ったのだ。

 

「アイズ君。一度、身体の検査をしたいから、僕の医務室まで来てもらえるかい?」

 

「⋯⋯」

 

 アイズは無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあまず、ベッドに仰向けで寝てもらえるかな」

 

 医務室まで来たアイズは、ハーシャの言う通り、ベッドに仰向けになる。

 

「今からこれで、君の事を調べるよ」

 

 ハーシャがぽん、と手を置いた機械は、ハーシャの固定型デバイスであるシャルタージ。過去にどんな病気にかかったか、今の体調はどうか、今後どんな病気にかかるか、その可能性は幾らかなどなど、何でも調べられる、まさに神の知恵とも呼ばれる程の機械である。

 そのシャルタージから放たれたであろう光が、アイズの足先から頭までを通る。

 

「――もう起きていいよ」

 

「⋯⋯」

 

 何も言わずに上半身を起こす。

 数十秒が経過した後、印刷機から数枚の紙が出てくる。それを取り、ハーシャはじっくりと読み始める。

 

 

「過去に大きな病気は無し。過去に大きな怪我は二度だけ。⋯⋯一つは今回の事件として、もうひとつはいつの事かわかるかな?」

 

「⋯⋯言いたくない」

 

 怒りを抑え込むような深呼吸をして、静かに答えた。

 

「そう⋯⋯か」

 

 それを聞いたハーシャはなのはに目礼で謝罪する。なのはが大丈夫と首を振ったのを見て、

 

「すまない、嫌な事を聞いてしまったね」

 

 アイズは横に首を振る。それを見て、ハーシャは続きを読み始める。

 

「⋯⋯今、大きな怪我や病気は無し。このままの生活を続けていれば、余程の事がない限りは病気をする事は無い。――ただ、この数年の間に大きな怪我をすると出ている。気を付けた方がいいね」

 

 紙を置いた後一拍置いて、

 

「今、体に異常はないから大丈夫だけど、今後怪我もするだろうし気を付けるんだよ」

 

 こくりとアイズが頷いたのを見て、にこりと笑いじゃあねと言い部屋を出る。

 

 

「ハーシャさん」

 

 病室を出たハーシャを呼び止めたのはなのは。

 

「どうしたんだい?なのはちゃん」

 

「えっと⋯⋯。アイズ君の今後の怪我が、どういうものかって、分かりますか?」

 

 ハーシャは目を伏せ首を振る。

 

「すまないが、それは分からない。シャルタージは可能性を見るだけなんだ。神の知恵、なんて呼ばれているが、そこまでは分からないんだよ」

 

「そう⋯⋯ですか」

 

 ハーシャの言葉で、悲しそうに俯いたなのはを見て、

 

「まぁ、本人や周りが気をつければ、可能性をゼロにすることも出来る。あくまで可能性だから、そこまで気にする事じゃあないよ。まぁ、気にしなさすぎも駄目だけどね」

 

「はい!ありがとうございます、ハーシャさん!」

 

 ハーシャの言葉で笑顔になったなのはは、頭を下げて礼を言ったあと、アイズのいる病室へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

「おう、なのは」

 

「あ、パルトメスト君」

 

 病室に戻る途中で、パルトメストに呼び止められた。

 

「どうしたの?」

 

「アイズは起きてるか?」

 

「うん、起きてるよ」

 

「そうか。じゃあ、ティアナには言わなくていいって言っとかねぇとな」

 

「何の話?」

 

 なのはが問うた所で、パルトメストは真剣な表情になり、

 

「アイズに第一訓練場まで来いって伝えといてくれ」

 

「訓練場?何をする気なの?アイズ君は大怪我を負って、さっき目が覚めたばかりなんだよ?パルトメスト君じゃあるまいし、怪我が完治したっていっても、そんなすぐには激しい運動なんて出来ないよ。訓練なら私が代わりにするから、ね?」

 

「アイズじゃなきゃ意味がねぇんだよ」

 

 息を吐いて、静かに口を開く。

 

「なんであいつが、嫌ってる管理局に入ったと思う?」

 

「それは、罪を償うためじゃないの?」

 

「罪を償うためなら、あんなに自分勝手に行動しねぇだろ」

 

 なのはが不審気な顔をしたところで、フッと笑い、

 

「人の恨みってのは、そう簡単に消えねぇんだぜ。ましてあんなに若けりゃ、尚更な」

 

 それだけ言って、パルトメストはその場を去った。

 

 

 恨み。その言葉がなのはは引っ掛かる。

 まさか。アイズは改心している。その確信から、引っ掛かりを気にしないようにした。


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