Vivid Strike Loneliness   作:反町龍騎

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九話

「いい加減にしろよッ!」

 

 そんな怒声が、管理局の一室に響いた。

 その怒声を放ったのは男性である。その彼は、握った拳をワナワナと震わせている。

 

「何なんだよお前!何で上官の言う事が聞けないんだよ!」

 

 命令違反で叱られたのだろうか。叱られているのは少年。その少年は、叱られているというのに自分には関係ない、自分は悪くないといった態度でいる。

 そのことが、余計に男性の神経を逆なでする。

 

「聞いてんのかよ!ああ!?」

 

 男性が少年の胸ぐらを掴んだところで、部屋のドアが開かれる。

 

「ちょッ!?どうしたのよアウィリム」

 

「――あっ。ランスター執務官」

 

 部屋に入って来たランスターと呼ばれたオレンジ髪の女性を見て、アウィリムと呼ばれた男性は血の気が引いたのか、少年から手を離す。

 

「何があったの?」

 

「こいつがまた、命令違反やらかしたんですよ。これでもう五回目ですよ!?それにこいつの所為で仲間が危険に晒されたんです!もうこいつを隊には置けません!」

 

「あらら⋯⋯、またか。――はぁ、フェイトさんが居ない時に」

 

 女性は少年の方に目を向けると、

 

「あんたの言い分は?」

 

「――俺はその場の最善の判断をしただけだ。足手纏いを連れて逃げる方が愚かな判断だと思っただけだ」

 

「んだとテメェ!」

 

 少年の言葉に堪忍袋の緒が切れたアウィリムは、少年を掴みにかかる。それを女性に止められる。

 

「まあまあ。――あんた、組織ってのはね、上の命令で動くものなのよ。それがどんな命令でも、自分の意思と違っていても、守るのが組織なのよ」

 

 女性の言葉を聞いて、少年は目を細める。

 

「――信じる事の出来ない奴の命令を、か?」

 

「そうよ。それが命令なら、従うしかない。それが嫌なら、あんたが上に立つしかない」

 

 少年は鼻を鳴らす。その態度に女性は溜息を吐き、

 

「アウィリム。取り敢えずアイズは私が預かっておくから」

 

「はい、分かりました。ありがとうございます、ランスター執務官」

 

「さ、行くわよアイズ」

 

 少年――アイズは嫌々ではあるが、女性に付いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今腕を組みアイズを睨んでいる女性はティアナ・ランスター。アイズがあの夜襲った紺藍色の髪の女性の家に居た女性だ。

 

「ねぇあんた。⋯⋯なんでいつもこうなの?」

 

 ティアナの問いに、アイズは固く口を結び答えない。その態度に溜息を吐き、

 

「あんた、罪を償うためにここに来たんでしょ?なのに、罪を重ねてどうすんの?」

 

「――重ねる?どうしてそうなる」

 

「命令したアウィリムはあんたより職歴も現場経験も上。なのにあんたはアウィリムの命令を無視したの。もしその状況が大勢の人の生死を選択するものだったら?もしアウィリムが正解を選んでいたら?もしあんたの身勝手な行動で大勢の人が犠牲になったら?それでも自分は悪くないっていう気?」

 

「⋯⋯」

 

 ティアナの言葉に押し黙るアイズ。それすらも自分は悪くないと言うほど、アイズは自己中心者ではない。だとしても、だ。

 

「――そういう状況なら言う事を聞こう。でもな⋯⋯、そういう状況でもない限り、命令を聞く気は無い」

 

 言葉を聞いて、ティアナは重い溜息を吐く。

 

「あんたね。反省してないでしょ」

 

「⋯⋯」

 

 無言。つまりは肯定と言う事か。

 そんなアイズの態度に溜息を吐くと、机の上にあった書類を取り、アイズに突き出す。

 

「とりあえず、今日からあんたは私と仕事をする。ああ、言っとくけど、拒否権は無いからね」

 

「――なんであんたとしなきゃならない」

 

 と愚痴を零すアイズに、

 

「言ったでしょ?どんな事でも、命令なら従うしかない」

 

 という、ティアナの言葉にアイズは溜息を吐く。

 

「で、この事件なんだけどね。――あんまりあんたみたいな子供が関わっていい事件じゃないんだけど⋯⋯」

 

「――舐めんな」

 

 と、ティアナの言葉に対し言い返すアイズ。

 

「そう言うと思ってた。この事件の被害者は三人――。一人目はアッシュ・ローランさん二六歳。飲食店の従業員だった人よ。二人目はサブレラ・エストレアさん三二歳。看護師をしてたわ。三人目はターロス・マレスティラさん十九歳。学生よ」

 

 この後ティアナは少し苦い顔をする。この後に続く被害者達の状況を言ってもいいものかと。

 

「⋯⋯続きを言えよ。――聞いた以上、退く気は無い」

 

 そう言われたから、ならば、とティアナは口を開く。

 

「全員に共通するのは、――内蔵が一部無くなっているという事よ」

 

「――あ?」

 

 アイズは耳を疑う。当然だ。アイズの知る限り殺人事件において、内蔵が無くなるというのは今まで存在しなかった事だからだ。

 アイズに構うことなく、ティアナはあえて淡々と続ける。

 

「この事件の犯人の予想はついてるわ」

 

「――もうついてんのか?」

 

「ええ。犯人は腸喰い」

 

 アイズは眉を顰める。そんな気持ちの悪い名前を聞いて、平常でいられるわけが無い。

 

「名前の通り、腸を食べるの。そして最悪な事に戦闘能力も高いわけ。あのなのはさんから一対一で逃げ切った程よ。それになのはさんですら決定打を与えられなかったの」

 

 あのなのはさんが⋯⋯。

 アイズは思う。一度戦わせて貰ったことがあるのだが、アイズでは手も足も出なかった。そんな人が、そんな結果になる程の相手。

 

「まぁでも、これはあくまで予想だから、本当にそいつが犯人ってわけでもないけど、一応覚悟はしておく事ね」

 

「さ、行くわよ」とティアナに言われ、アイズは共に、最初の殺人現場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初の被害者、アッシュ・ローラン。彼の知人達に話を聞いて回る。前回ティアナが聞いた時同様の応えが返ってくる。

 次の被害者、サブレラ・エストレア。彼女の知人達に話を聞いて回る。前回ティアナが聞いた時同様の応えが返ってくる。

 次の被害者、ターロス・マレスティラ。彼の知人達に話を聞いて回る。やはり前回ティアナが聞いた時同様の応えが返ってくる。

 

「三人は顔を見た事も無い赤の他人ばかり。知人に聞いても、恨みを買われるような性格はしていなかった。だとするとやはり、手口から見ても犯人は腸喰いになるわね」

 

 聞き込みが終わり、やはりこいつしかいない、と眉を顰め顎に手をやりティアナは悩んでいる。

 

「――悩む必要あるか?犯人がそいつなら、なのはさんにそいつの情報を聞いて対策すればいいだけだろ」

 

「あのね⋯⋯。たとえ犯人が腸喰いで、それの対策が出来ても、そいつがいつ、どこに現れるか分からなきゃ意味が無いの。それに私達の仕事は犯人を捕まえる事もあるけど、それ以上に市民の安全やこれ以上被害が起きないようにする事にあるのよ」

 

 ティアナの発言に鼻を鳴らし、デバイスを操作しある人に連絡を取る。

 少しコール音がして、その人が画面に映る。

 

『もしも〜し。アイズ君、どうしたの?』

 

 連絡相手は高町なのは。腸喰いと直接対決した唯一の人物だ。

 

「腸喰いについて調べてるんだが、知ってる事を教えて欲しい」

 

『えッ!?』

 

 アイズの言葉に驚くなのは。当然だ。自分が出会った犯罪者の中で最も危険な人物の事を聞いてきたから。

 

『――えっと。どうして調べてるの?』

 

「そいつがやったと思われる事件の捜査をしてるから」

 

『⋯⋯それって、ティアナが請け負ってるんじゃ?』

 

「――一緒にやってるんだ」

 

『そう⋯⋯、なんだ。あんまり無理はしないでね?』

 

「分かってるよ。それより腸喰いのことを教えてくれ」

 

『うん。まず、彼の見た目は黒髪黒目三白眼。長身痩躯の印象があるけど、ただ細いだけじゃなくてしっかりとした筋肉がついてるの。次に、彼は基本ナイフで戦うんだけど、彼は何本もナイフを隠し持ってるから、投擲で得物が無くなったからといって油断はしない事。それと彼は、隙という隙を見せないの。隙に見えるそれは誘うための罠だから、引っかからないように気を付けて。彼は暗殺者みたいに気配を消すだけじゃなくて、攻撃する時の気配すらも消す事が出来るから、そうなってきたら逃げる事を優先する事。最後に絶対にして欲しいこと』

 

 先程までも真剣だったが、次に見せたなのはの表情は、それよりも真剣でアイズを心配した表情で、

 

『腸喰いを見つけたら、一人二人でなんとかしようと思わず応援を呼ぶこと』

 

「――ああ、分かった。ありがとう」

 

 なのはにお礼を言い、別れの挨拶を交わしてから通信を切り、ティアナの方に向く。

 

「――聞いてたか?今の」

 

「ええ、聞いてたわ。⋯⋯まぁ、対処法が分かっても、腸喰いがいなきゃ――」

 

 ティアナが言いかけたその時である。耳元で、ねっとりとした不気味で気色の悪い声がした。

 

「ねぇ⋯⋯、今僕の事、呼んだよねぇ」

 

 ティアナに向かいあっていたアイズすら気づけない程気配を消す技術が高い、あのなのはすら危険だと警鐘を鳴らした男が、――腸喰いが現れた。


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