ワカメのペルソナ5   作:モンです

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第16話

 

 紅い波紋が広がる。

 それを追う様に床に亀裂が走り、魔力が吹き出し、荒れ狂う。

 

 鏡の神宝が宙を舞い、魂と生命力を溢れんばかりに満たしていく。常世の理を遮断する鳥居を展開し、魔力が無限に生み出される。

 

「これは……」

「……助かったわ、白野」

 

 一人、また一人と怪盗団が立ち上がる。

 

 味方の回復と補給を同時に行う宝具。

 通常の聖杯戦争では真価を発揮できない鏡は、今この場に置いて、その力を存分に奮っていた。

 

「理不尽な宝具だな」

『貴方に言われたくないんですが!?』

 

 キャスターが心外極まりないと叫んだ。

 

 抗議の声を聞き流し、再びサタナエルを召喚する。

 

 優れた戦術眼を持つ岸波に加えて、分析が得意な双葉が戦線に復帰したならば、下手なペルソナでは容易く攻略されるだろう。

 

 サタナエルは全属性に耐性を持っているペルソナ。物理にも魔法にも強く、多属性を扱う怪盗団に対して有効だ。

 弱点がないペルソナは他にもいるが、耐性が無い属性を看破されれば、そこを起点に崩されるかもしれない。サタナエル以外はあまり長く出さない方が良いか。

 

 次の手を考えていると、シンジが体勢を立て直した怪盗団に声をかける。

 

『さて、お前ら。まだ戦えるよな?』

「当っ然! あたし達はまだやれるわ!」

「そうね。ここで倒れる訳にはいかないもの」

 

 サタナエルに鋭い視線を向けながら、杏と真が力強く頷く。

 シンジは怪盗団を見渡して、凛然と言い放った。

 

『君達があまりにも不甲斐ないからサ、手伝ってあげるよ。大サービスだぜ? 僕とライダーがいたら、君達の出番が無くなっちゃうと思うけど。ま、そこは必要経費として―――』

「味方してくれるのは嬉しいけど、鍵の件は後で話そうね」

『…………』

「おぅコラ黙ってんじゃねェよ」

「春さん!?」

 

 春の言語機能が崩壊していた。

 

「春がスケバンキャラになってる!? 最近はゲームですら滅多に見ないのにっ」

「落ち着け春、流石に今は駄目だ!」

「フ、フフ、フフフフフ」

「やばいぞこれ、相当怒ってる! 間桐シンジ、今すぐ謝らないと協力どころじゃねえぞッ」

『……………………』

「なんでそこで意地を貼る!?」

 

 ……なんだよこの緊張感の無さは。

 

 一気に弛緩した空気が流れる。戦闘中とは思えない、朗らかで、どこか懐かしい雰囲気に眉を潜めた。

 

 虚勢や空元気って訳では無いな。要らない力が抜けて、自然な姿になっている。

 これが怪盗団のいつも通りの雰囲気なのだろう。良い意味で余裕が生まれている。

 

 彼らが緩んだ隙を突きたいところだったが、キャスターの宝具が発動した瞬間から、アーチャーが弓の標準を此方に合わせていた。迂闊に動けない。

 

 これは、―――流れを持っていかれたか。

 

 キャスターがいる限り、消耗戦では勝ち目が薄い。

 力押しで強引に勝負を決めてしまいたかったが、ライダーの参戦によりサタナエルが打倒される可能性が生まれたため、良い手段では無いだろう。

 

 どうするか。一手でひっくり返された状況に、思わずため息をつく。

 全滅からの復活ってだけでも面倒なのに。

 

 僕の手札を把握して。

 いつもの調子を取り戻し。

 勝利に必要なピースを揃えてきた。

 

 ここまで来ると、単に運が良いってだけでは説明がつかない。

 訪れたチャンスを、決して逃さず掴み取る力。諦めの悪さ。並外れた反逆の意志が、怪盗団の強さの根底か。

 

「ヒートライザ」

 

 全能力強化のスキルを唱える。

 手を静かに握り、強化される感覚を馴染ませる。

 

 集中しろ。研ぎ澄ませ。

 息を深く吐いて、戦闘に潜るように没入する。

 

 ここが、正念場だ。

 

「プロレスはこの辺にしとこっか。―――来るよ」

 

 強化された脚が、地を蹴った。

 アーチャーが剣を投影する。進路上に射られる剣を大きく避けつつ、仮面に手を置く。

 

 岸波が即座に反応し、指示を飛ばした。

 

「すぐに集合して魔法攻撃準備。メギドラオンが来るッ、相殺するよ!」 

 

 岸波が言い切る前に怪盗団は動いた。各自が移動しながらスキルを準備し、魔力が濃度を増していく。

 強大な悪魔に匹敵するエネルギーが収束して形を成す、その前に。無情にも、破壊をもたらす白い波は放たれた。

 

「間に合わないッ」

『―――世話が焼けるなぁ。行くよ、ライダー!』

『あれが神を打倒した悪魔の王かい。いいねぇ、相手にとって不足は無いよ!』

 

 ライダーが背後に砲台を召喚し、連射する。砲弾の雨はわずかに波を押し留め、飲まれる。それで十分だった。

 

 怪盗団のペルソナがぶっ放す、踊る、威を示す、蹴散らす、駆ける、干渉する、惑わす。一斉に放たれたスキルはメギドラオンとぶつかり合い、せめぎ合って、彼らを守る。干渉し合う魔法は互いに譲ることなく消滅した。

 

 距離をつめる。僕が攻撃可能な間合いまで走る。飛来する剣を弾き、岸波に銃を向け。

 セイバーの横薙ぎがそれを阻んだ。

 

『貴様の相手は余だ』

 

 セイバーが剣を振るうと、火炎を纏った斬撃が飛ぶ。剣を避けても炎と衝撃波は避けきれない。ステッキで受け止めれば一瞬で焼き切れる程の熱量。空間が揺らぎ、炎が肌を焦がしていく。

 

 絶え間ない剣戟が続く。銃の距離まで離そうにも、潤沢な魔力から繰り出されるアーチャーの剣がその隙を与えてくれない。

 

 サタナエルはライダーと怪盗団に抑えられている。埒が明かない。

 攻めに転じようとステッキを強く振る。その瞬間、岸波の目が鋭く光った。

 

「半歩下がって。―――そこ」

 

 完全に、読み切られていた。

 セイバーは薄皮一枚で突きを躱し、僕の右肩を穿つ。灼熱の痛みが腕を走り、思わず舌打った。

 

「サタナエル!」

「―――薙ぎ払いだ。物理・銃撃スキル持ちは用意してっ。竜司の右斜め上に、3秒後に発動するよッ」

「あいさー!」

 

 巨体の腕が薙ぎ払われる。単純な質量の暴力。仕切り直しを謀ったこの一撃は、岸波の読みと怪盗団の対応により弾かれる。

 

『焦ったね? こいつを食らいなぁ!』

 

 ライダーの召喚したカルバリン砲が火を噴き、サタナエルの体勢を崩す( C R I T I C A L )

 その機を逃さず、怪盗団は魔法の嵐を放った。

 

 セイバーの流麗な剣技が僕にペルソナチェンジを許さず、直撃を受ける。大したダメージでは無いが、確実に消耗していく。

 迫る剣を上に弾き、左手を傷口に当てる。光る文字が肩に刻まれ、徐々に傷が治っていった。

 

 アーチャーが眉をひそめる。

 

『ルーン魔術か。ペルソナといい魔術といい、あまりにも手札が多いな。マスター、キャスターの宝具が切れる前に決着をつけるべきだ』

「……うん。アーチャー、宝具開放をお願い」

『了解した。―――体は剣でできている』

 

 詠唱が紡がれる。キャスターの生み出す魔力がアーチャーに注がれ、凄まじい勢いで消費されていく。肌が粟立つような悪寒に、駆け出そうとして。

 

「右」

『させぬ』

 

 鋭い剣線に足が止まる。岸波の目が僕を捕らえて離さない。

 止められない詠唱。読まれる動き。何をしても無駄であるような感覚。遅効性の毒のように、徐々に手の打ちようが無くなっていく。

 

 人の動きをここまで読み切れるものなのか。未来を見ていると言われても信じてしまえる程に、正確無比な予測は、まともに攻めさせてもらえない。

 

 サタナエルもライダーと怪盗団に抑えられている。どうしようもない、か。

 

『その体は、きっと剣でできていた』

 

 詠唱が完成する。

 宝具が展開し、景色が一変した。

 

 

 

無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

 

 

 

 ―――そこは無数の剣が大地に突き立つ荒野だった。

 

 燃え盛る炎と浮かぶ歯車が世界を鈍く彩る。

 生命の気配を感じられないこの場所は、戦いを刻み続けた心が創り出した戦場だった。

 

 感触の違う地面を足で叩き、参ったと言わんばかりに笑う。

 

「サーヴァントの同時運用に、未来視レベルの先読み、挙句の果てに宝具の連続使用? ……反則も良い所だ」

「あなた相手に、なりふり構っていられる余裕なんて無いよ」

 

 岸波も笑い、手をこちらに向ける。

 

「勝つよ」

『ああ。―――無限の剣製、貴様に受け切れるか?』

 

 アーチャーの言葉と共に、僕の周りに無数の剣が展開される。隙間なく埋まる空間を見て、体の力が抜けた。

 

 どうやら、覚悟が足りないのは僕の方だったらしい。何もかも捨てて戦わなければ、敵わない。

 

「使いたく、なかったなぁ」

 

 剣が僕に発射される。間近に迫る凶器を前に、冷めた思考で懐に手を入れ、魔術による身体強化を行った。

 

 音速を、超える。

 

「―――ッツ!? アーチャー上ッ」

『なっ!?』

 

 銃弾の雨をアーチャーが弾く。

 しかし彼らの視線の先に僕の姿は無く。

 

 その手は既に、キャスターの胸を貫いていた。

 

『……貴方、本当に人間ですか?』

「残念、シャドウだ」

『そうでした……ごほっ、紙耐久な自分を恨みます……』

 

 そう言って、キャスターは光の粒子となって消えた。

 

『なんだ―――今の動きは!? 魔術で強化したのは分かる、だが個人の魔力でこれほどの出力が出るはずがない!』

 

 驚愕を隠し切れないアーチャーを横目に、シンジが舌打ちをする。

 

『聖杯だ。あいつ、聖杯を魔力リソースにして、身体強化に全振りしてるんだよ』

 

 シンジの言葉に岸波は目を見開いた。

 

 そう、やったことは単純。聖杯の膨大な魔力を使って身体強化を行っただけだ。ただその次元が桁違いなだけ。自身の崩壊を厭わずに魔力を注ぎ込めば、この程度の速度は出せる。

 

 忌々しい聖杯に頼ることになるのは忸怩たる思いがあった。

 そんなちっぽけなプライドを抱えて勝てる相手では無かった。

 

 言葉にできない負の感情を息と共に吐き出す。

 魔術の負荷で垂れる血を拭い、ステッキを右手に握りしめた。

 

「白野、私たちも加勢をッ」

「君たちは参加させない。メギドラオン―――」

「ふっふー、そう何度も通用しな……っ、みんな、防御して!」

「―――追加でマハエイガオン」

 

 駆け出そうとする真を強引に押し込める。

 切迫した双葉の声。重なるように更なるスキルを唱えた。

 

 聖杯を使うならば、魔力消費を考える必要がない。ただスキルを連打する。単純だからこそ、無視できない脅威となる。それがサタナエルであれば、尚更に突破は難しい。

 

 絶え間ない波状攻撃で怪盗団とライダーを封じ込め、アーチャーへと走る。

 全方位から襲い来る剣を武器で弾き、銃で逸らし、前をこじ開けて進む。

 

 動きを読まれても構わない。対応される前に動けばいい。対応を見てから動けばいい。

 誰にもとらえられない速度で動く。先読みで対応されたならば、それに合わせてカウンターを行う。強化された反射神経と思考速度は、その馬鹿げた行為を可能とした。

 

 激しさを増す剣光を掠めながら回避して、

 

『壊れた幻想』

 

 爆発する剣に吹き飛ばされる。

 込み上げてきた血を吐くが、足は止めない。理解など後で良い。

 体の崩壊を厭わずに接近する。

 

『赤原猟っ、間に合わんか!』

 

 アーチャーが弓と矢を消し、両手に双剣を投影する。

 剣の雨を縫って突き出した一撃は、二振りの短剣に容易く受け止められた。

 

 右手で鍔迫り合ったまま、左手で銃を抜き、アーチャーに銃口を押し付ける。

 

『ぐっ―――』

「セイバー!」

『任せよ! 花散る天幕(ロサ・イクトゥス)

 

 セイバーの剣が舞う。

 深紅の刃から噴き出る炎を推進力に、美しい軌跡を描く。僕を仕留めるためというよりは、機先を制するための技。避けられることを前提に、アーチャーを助けようとする一撃を。

 

 ステッキを手放し、右手を犠牲にして止める。

 

『こやつ、余の剣を避けもせぬか―――!?』

 

 アーチャーの心臓を、零距離で打ち抜いた。

 

『がはっ……』

 

 血を吐いたアーチャーは、膝から崩れ落ちる。それをきっかけにして、剣の世界が崩壊していく。

 その最中、硝煙の匂いが残る銃をセイバーに向けた。

 

 セイバーが避けようとするが、僕は右腕に力をこめて剣を離さない。

 

『抜けぬ……! 仕方あるまい!』

 

 絶対に逃がさない。

 

 剣を手放し横に飛ぶセイバー。それを左腕だけで後を追い、銃身が砕ける程の魔力を込めて、弾丸を放つ。

 破裂音が響く。強烈な反動に壊れた銃から、閃光が走り―――セイバーの胸を貫いた。

 

『……すまぬ、奏者よ。期待に、応えられなかった……』

 

 景色が見慣れた牢獄に戻ると共に、サーヴァント達も消えていく。

 

「そん、な」

 

 愕然と立ち尽くす岸波から目をそらし、癒しのルーンを体に刻んだ。

 

「聖杯を使い、右手と銃を犠牲にして、ようやくか」

 

 まぁ、死ななかっただけマシか。

 

 この戦闘中に完治はできないだろう。僕の拙い術式では聖杯の魔力に耐えきれない。単純に体を強化するのとは訳が違う、精々が失血死を防ぐ程度だ。

 シャドウが失血死するのかは、知らないけれど。どちらにせよ僕自身が戦闘を行うのは難しくなった。

 

 重たい体を引きずって、サタナエルを見上げる。

 

「でも、今度こそ。これで終わりだ」

 

 怪盗団とライダーは未だに終わらないスキルの連撃を凌いでいる。時に躱し、時に耐え、時に相殺して耐え忍ぶ。それだけでも驚異的な粘りであるのに、間隙を縫って反撃をしているのは本当に驚いた。

 

 サタナエルを倒すには火力が足りてないのが救いだが、彼らが敵に回るとこれほどまでに厄介だとは。おかげでサーヴァントと戦うのにペルソナが使えない、なんてハードモードを強いられる羽目になった。

 

 無茶ぶりにも程がある。

 

「ペルソナチェンジ、ヴィシュヌ。チャージ」

「―――攻撃が緩んだっ。体勢を立て直すよ!」

 

 ペルソナを変えた瞬間、怪盗団は削られた体力を回復していく。

 

 冷めた思考でペルソナをサタナエルに戻し、壊れた銃をゆっくりと持ち上げる。

 聖杯の魔力を全て詰め込んで、極限まで威力を高めて。

 

 終わりの撃鉄を起こす。

 

「後は頼んだ、サタナエル」

 

「―――駄目ッ! 逃げてぇええええええ!!」

 

 岸波の叫びが牢獄に響き渡った。

 

『大罪の徹甲弾』

 

 衝撃波が体を打付ける。

 

 三度目の銃弾、されどその威力は先程と比較にならない。

 螺旋回転する銃弾が空間を切り裂いていく。

 

 シンジが咄嗟に声を張り上げた。

 

『打ち勝てッ! ライダァアア!』

『無茶いうねぇ、シンジ! だが―――燃えるじゃないのさ! ここが命の張りどころ、野郎共、気合い入れなッ!』

 

黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)

 

 無数の船が宙に浮かぶ。

 フランシス・ドレイクが生前に指揮していた船団が展開され、一斉砲撃がサタナエルへ集中する。

 

 暴風雨のような砲撃、圧倒的な火力。されど、大罪の込められた銃弾には届かない。

 

 わずかに拮抗し、少しずつ押し負けて―――

 

 

 

「今のままじゃ、足りねぇ」

 

 

 

 モルガナが呟く。

 

「ワガハイたちの力では、あの銃弾は砕けない。ただ強力だからってだけじゃない。あれには奴の諦観が、憤怒が、憎悪が、絶望が、込められているからだ。雨宮蓮が途方もない時間、積み上げてきた激情が、『大罪の徹甲弾』の正体。生半可な意思じゃ、あれを打ち破ることはできないぜ」

 

「……だけどよ」

 

 竜司が地を踏みしめて、吠えた。

 

「それが諦める理由には、ならねぇよな」

 

 竜司の瞳が黄金色に光る。

 その心に呼応するように、ペルソナが白く輝いていく。

 

「ぶっ壊すのは得意だろ、キャプテン・キッド―――いや、セイテンタイセイ!」

 

 ペルソナの姿が変わる。より力強く、より洗練された姿に。竜司の意志に応えるように。

 

 反逆の意思は、繋がっていく。

 

「……そうだよね。ここで立ち止まるのは、違う。だって私達は白野の助けになるために、この場所にいるんだ。―――なら、今助けられなきゃいつ助けられるっていうの!? そうでしょ、ヘカーテ!」

 

 杏はサタナエルを睨みつけ、叫ぶ。

 

「諦観は、美しくない。ましてや『誰かのため』に命を懸け続けた雨宮蓮(キミ)の心が絶望で終わっていいはずがない。少なくとも俺は、お前のような人に希望を与えるために筆を取るんだ。―――光を描こう、カムスサノヲ」

 

 祐介が目を細め、ゆるりと笑った。

 

「膝を屈するわけにはいかない。……鈴井さんや金城の時、私ひとりじゃ何もできなかった。あんな思いは、もうたくさん。だからこそ私は、皆と一緒にどんな困難も乗り越える。乗り越えなくちゃいけないの。だから―――応えて、アナト!」

 

 真は力強く立ち上がる。

 

「自分を責める気持ちは、わたしも分かる。罪悪感に押し潰されて、自分が嫌いになっていくんだ。だからみんなが手を差し伸べてくれた時、ほんとーにうれしかった! わたしに似たあなたにも、この気持ちを分けてあげたい。そう思ったから、最後まであがき続けるんだ! ―――プロメテウス!」 

 

 双葉は胸に手を当て、目を見開く。

 

「お父様の命を救ってもらった恩を返す。他の誰でもない、私自身がそう決めたの。ここで諦めたら、その誓いが嘘になっちゃう。あの日の自分を裏切りたくはないわ。何よりも―――白野と惣治郎さんに約束したから。行くよ、アスタルテ」

 

 春は手を握りしめ、前に一歩踏み出した。

 

「皆、頼りになるぜ。―――雨宮蓮。お前の罪、ワガハイ達が頂いていく!」

 

 皆の覚悟を聞き、モルガナは拳を突き上げて。

 傍らに立つ進化したペルソナに、命じた。

 

 

 

「悪魔の王を退治しろ、メリクリウス!」

 

 

 

 言葉とともに、メリクリウスは飛び出した。

 他のペルソナも後に続いて、銃弾に真正面からぶつかっていく。一人加わるごとに銃弾は遅くなり、拮抗していく。

 

 皆必死で、死ぬ気で、全力で。

 命を燃やす彼らを見て、岸波の瞳が潤む。

 

「みん、な。……やっちゃえ、怪盗団―――!」

 

 涙を流す岸波の声援が、彼らの背中を押して。

 怪盗団のペルソナとライダーの宝具が、大罪の徹甲弾に罅を入れていった。

 

 血を流しすぎてぼんやりとする僕の視界を、少しずつ光が満たしていく。

 

 鉄の軋む音が聞こえる。銃弾の破片が皮膚を掠める。

 

 僕の心が、負ける。

 

「……ちくしょう」

 

 銃弾は砕け散り、サタナエルが光に包まれて―――

 

 

 

 

 ―――ああ。悔しいなぁ……

 

 

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