ワカメのペルソナ5   作:モンです

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第5話

 

『奥村社長が記者会見中に意識不明になり、病院へ搬送されました。警察では近年話題となっている怪盗団の仕業と見て調査を進めています――』

 

 奥村社長の改心が失敗した。そのニュースは衝撃を伴って日本中に広がった。今まで改心だけをさせていた怪盗団が、危害を加えたということに、世間は驚き、怒りの矛先を向けた。

 

『怪盗団って結局犯罪者じゃん』『早く自首しろよ』『今まで正義とか言ってヤツwww』『こういう奴らが日本を悪くするんだよ』

 

 怪盗団のHPも炎上して、世間の評価は地に落ちた。今まで応援していた人も掌を返した。今までの功績も全てなかったかのように。盛者必衰の理をあらわすとは言うが、あまりにも綺麗な凋落だ。十中八九、誰かに嵌められたのだろう。

 

 岸波は普段通りだった。表面上は。

 時折覗かせる暗い表情は、失敗を悔いているのに他ならないだろう。危害を加えてしまったっていうのも落ち込んでる理由の一つか。本当に岸波が原因かどうかは怪しいがね。

 

 ま、そのうち立ち上がるだろう。鋼のハートだし。

 

「おい、お前」

 

 自分の部屋で考えていると、ニャーと声が聞こえたので振り向く。黒猫が此方を見ていた。そういえば岸波がネコを飼っていたっけか。動物は好きじゃ無いからあんまり意識してなかった。名前は確かモル……モル……。

 

「モルヒネ?」

「ちっがう! モルガナだモルガナ! 名前くらい知っとけ!」

 

 猫がすっごい鳴いて抗議している。違ったか。

 しかし、モルなんとかはなんで僕の部屋にいるのだろうか。岸波が遊びに来るときはルブランに置いてきているらしく、これが初対面だし、あれ、マジでなんでここにきてるんだ?

 

「お前がジョーカーに情報を与えていた男だな。……すまなかった。お前が忠告してくれたにも関わらず、ワガハイ達は失敗してしまった。そしてありがとう。お前のおかげで、春の親父を殺されずに済んだ。シャドウを傷つけられたが、時間をかければ眼を覚ますだろう。聞こえてないだろうが、感謝する」

 

 ……なんかすげぇニャーニャー言ってる。

 

「その上で頼むのも虫が良い話だと思うが、どうか助けてくれないか。ジョーカーが落ち込んでいるんだ。あいつはワガハイ達の柱。立ち直ってくれないと、怪盗団は始まらない。ジョーカーを慰めてやってくれ。……本当はワガハイ達がやらなければならないのは分かってる。でも、今は、ワガハイ達も、慰めれるほど、余裕がない……」

 

 超悲しげに鳴いてる……なんだこいつ……。

 

 岸波の部屋に返そうと考えるが、ルブランは営業してるし、持っていけないな。鞄に詰め込むのも、おとなしくしているはずがないし。

スマートフォンを起動し、岸波に連絡を入れる。しばらくして、迎えに行くからそれまで預かってて、と返信が来た。

 

「そら、岸波を呼んどいたぞ。それまでおとなしくしとけよ」

 

 猫は返事をするように一つ鳴いて、床に寝っ転がった。

 

 不思議なやつだ。初対面なのに警戒心が無いし、話が通じているっぽい。心の怪盗団なんてやっているやつの飼い猫だ。多少特殊であってもおかしく無い。それどころか怪盗団のメンバーかもしれない。あるいはサーヴァントだろうか。猫の鯖なんていたっけか。

 

 つらつら考えていると、ドアがノックされた。

 

「ごめんね、来たよー」

「……ノックするとかお前偽物か?」

「いやいや」

 

 苦笑しながら岸波が入ってくる。迷惑かけたねーと声をかけながらモルガナを無造作にバックに突っ込んだ。おいおい。猫は猫で文句言えよ。なぜ指定席のように顔を出していらっしゃるのでしょうか。

 

「じゃーね」

「待て」

 

 用が済んでさっさと帰ろうとする岸波を呼び止め、頭をかく。

 

「一度しかやらないからな」

「?」

 

 首を傾ける岸波を尻目に、僕は。

 机の引き出しの中にある。

 

 ――黒縁メガネをかけた。

 

「…………」

 

 静寂の時が流れる。岸波は凍りついたように固まっていた。

 さらに時が流れる。岸波は凍りついたように固まっていた。

 そして時が流れる。岸波は凍りついたように固まっていた。

 

 その顔には赤い液体が滴り落ちて……。

 

「……とりあえず鼻血拭けよ」

「…………」

「なんだよこいつ、怖いよ、ホントなんなんだよこいつ……」

 

 僕の言葉が全く耳に入っていないのか、ひたすらに僕の顔を見る岸波。流石に床を汚されると困るので、ティッシュを鼻の下に当てる。勢いが増した。止まれよ。

 

 食い入るように僕のメガネを見る。というかこの人、まばたきしてない。メガネの効果がありすぎてやばい。

 本気で恐ろしくなって来たのでメガネを外した。瞬間、ブバッと鼻血を出して岸波が倒れた。……え?

 

「き、岸波ぃ!? どうしたお前!?」

「セカンドに続いてサードインパクト……か。私の人生、幸せだったな……」

「ぜんぜん意味がわからねぇぞジョーカー!?」

 

 目を閉じて、穏やかな顔で意味不明な供述をする岸波に、鞄から出てきた猫がツッコミするように鳴いた。猫がツッコまざるを得ない事態を初めて見た。

 

「取り敢えず鼻血を止めないと……。いや、まて、もういっそこのまま葬った方が世のため人のため、僕のためなのでは……?」

「こいつも錯乱してる!? 気持ちは分かるが落ち着け!」

 

 猫の声に正気に戻り、取り敢えず鼻にティッシュを詰める。穏やかな顔をしながら鼻のティッシュを真っ赤に染めるその姿は、花の女子高生とはとても思えなかった。

 

「だめだ、止まらない。トリアージは黒。ここまでか……」

「諦めるのが早い!! 私怨混ざってるだろその判断! おいジョーカー、このままくたばって良いのか? こいつのメガネ姿がもう見れないんだぞ!」

 

「!!!!!!」

 

 猫の鳴き声を聞いた瞬間、岸波は目を見開いた。

 

「―――終わらない。

 ここは違う。これは違う。

 ここはまだ、結末ではないと思う。

 呆れてしまう。結局のところ、この心はソレだけはできないらしい。

 何故なら―――

 何故なら。たとえ心が折れていても、(メガネ)はまだ、この手の内に」

 

「キモい」

「ジョーカー……」

 

 僕らの引きつった顔を他所に。

 こうして岸波は立ち直ったのだった――。

 

 

 

 

 

 ルブランの屋根裏。岸波白野はベッドに座りながら、膝上のモルガナを撫でていた。

 

「しっかしジョーカー、お前結構愉快な奴だったんだな」

「だって、いきなりメガネが来ると思わなかったし……」

「メガネってなんなんだろうな。……まて、妙に双葉に甘いのは、まさか」

「そういった一面があることも否定できない」

「マジかこいつ」

 

 即答しやがった、とモルガナは慄いた。

 モルガナのジョーカーに対するイメージは、無口だが正義感が強く、その情熱でチームのメンバーを引っ張るリーダー。真面目なだけではなく、時折飛び出すジョークで空気を和ませる、完璧超人だった。

 

 それがどうだ。鼻血を出しながらメガネを見るその姿は変態。とてもお近づきになろうとは思わない。むしろ積極的に避けていかざるを得ないものだ。

 

 こんな岸波を見たことがあるのは、怪盗団の中にいるかどうか。団で一番一緒にいるであろうモルガナでさえ、ここまではっちゃけている岸波を初めて見た。

 

 しかし、慎二は岸波の反応に、慣れた様子で対応していた。アレに慣れているのだろう。

 それは、それだけ岸波が慎二に心を許しているということで。

 

「あいつはジョーカーの恋人なのか?」

「……そうだったら良いなー」

「片思いなのか」

「残念ながらね」

 

 岸波が男を落とせていないという事実にモルガナは驚く。男女問わずモテている岸波が片想い。モルガナにはとてもじゃないが想像出来ない。

 

「そんなにガードが固いのか?」

「というより……うーん」

 

 岸波はおでこに指を当て、慎二を想う。

 

「慎二は本来はチョロいと思うの。……訂正、本来は女の子に笑顔を向けられただけで、『あれ、こいつ僕のこと好きなんじゃね?』って考えちゃうような、普通の男の子だと思うの」

「あんまり意味変わってないよなそれ」

 

 モルガナのジト目に、冷や汗を浮かべながら岸波は続ける。

 

「だけど、何処かで感情にブレーキが掛かっているというか……。なにか障害物があって、本来のルートを通っていないような。そんな歪な感じがする」

「ブレーキ、障害物、そして歪な感じか。……おい、まさか」

「うん、パレスを持ってる」

 

 強く歪んだ心を持つものの歪んだ認知が具現化した異世界の迷宮、パレス。今まで怪盗団はその中のオタカラを奪い、改心させてきた。

 

 そして慎二にも、そのパレスがある。

 

「改心させるか?」

「慎二は悪いことをしているわけじゃないし、本人から助けてと言われた訳じゃない。だから、しない方がいい。そう、それは分かってるんだけど……」

 

 岸波は頭に手を当て、顔を歪める。

 

「慎二はいつも苦しいの」

「苦しい?」

「笑うのが苦しい、話すのが苦しい、……生きるのが苦しい。きっと、自分の事が嫌いなんだ。そうなる出来事があったんだと思う。だから、何をやっても苦しい、辛い」

「自分が、嫌い……」

「だから、私は慎二に自分の事が好きになって欲しくて、でも、慎二に嫌われたくなくて、ずっとずっと踏み込めなくて。だから、パレスに行って、慎二にバレないように慎二の事を知りたいって思ってしまう。……最低だよ」

 

 岸波は自嘲し、項垂れる。

 落ち込む岸波を見て、モルガナは。

 

「……ジョーカー、なんで相談しなかった」

 

 ――激怒していた。

 

「今までジョーカーが悩みを持っていたなんて思いもしなかった。あぁ――腹が立つ。隠していたジョーカーに、気づけないワガハイに。

ワガハイ達は怪盗団だ。仲間だ。……そのはずだ。

それなのに、ワガハイはジョーカーが助けを求める姿をほとんど見た事がない。

ワガハイ達はそんなに頼りないか? 悩みが打ち明けられない程に? 相談相手にすらならないのか?

 

 それのどこが仲間なんだ」

 

 モルガナは怒る。頼らない岸波に。頼りない自分に。

 

「ジョーカーはワガハイ達をいつも助けてくれた。だから、ワガハイ達もジョーカーを助けたいんだ。互いに助け合うのが怪盗団なんだ」

 

 モルガナが自分の為に怒ってくれているのを見て、岸波は視界を滲ませる。

 

「ワガハイ達は仲間だ! そうだろ!!」

「っ、うん……!」

「なら、ジョーカー、お前がワガハイに、ワガハイ達に言う言葉は一つだ! 言ってみろ!!」

 

 

 

 

「たす、けて。たすけて、かいとうだんっ……!」

 

「おう! 任せろ!」

 

 

 

 

 こうして怪盗団は動き出す。

 岸波白野の涙を止めるために。

 シンジ・パレス、攻略開始―――。

 

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