艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil 作:焼き鳥タレ派
──沼地
ボートで沼を渡ってきた俺は、ただ一人真実を掴むために前進していた。
小屋の中はごちゃごちゃとした物資や無線機があるだけで、
手がかりになるものは見つからなかった。扉を開けて向こう側に出る。
しばらく歩くと、開けた荒れ地の中央にエレベーターの塔が見えた……が、
あちこちでモールデッドの群れが実体化し、おぼつかない足取りで俺に向かってくる。
ざっと見て約6体。俺は手近な1体に先制攻撃する。
「はあっ!!」
全力を込めて顔面に拳を叩き込む。後ろに倒れるモールデッド。
更に追撃し、奴の頭に足を乗せ、
「ふん!」
体重をかけて踏み抜いた。頭を潰されたB.O.Wは、もがくこともなく活動を停止。
2体目が迫ってくる。数は多いが動きは緩慢だ。
落ち着いてアルバート.W.モデル01を構え、頭部を狙う。第一射、銃声、命中。
敵がよろけ、アルバートの内部で銃身とスライドが擦れる重い音がする。
二発目を放つ。命中。今度は頭部が完全に砕け散った。2体排除。
まだ敵は残っているが、全てを片付ける必要はない。
とりあえずの抜け道を見つけ、俺は敵の間を縫うように全力で駆け出す。
エレベーターにたどり着くと、殴るようにボタンを押した。
ポン、と音が鳴りシャッターが開くが、後ろにモールデッドの群れがいる。
このままでは中の開閉ボタンを押してシャッターが閉まるまでに乗り込まれるだろう。
一旦エレベーターから離れ、広場の端に移動する。釣られてB.O.W達も追いかけてくる。
そして、十分に引きつけたところで、奴らを迂回し、
エレベーターに駆け込み、ボタンを押した。
扉に阻まれたモールデッド達が目の前に群がっている。
シャッターが閉まる直前だったのでギリギリのところだった。
ガタンとエレベーターが動き出し、地下へと下りていく。
シャッターが開くと、そこは青白い光に照らされた洞窟だった。
静寂に包まれたそこで聞こえるのは、どこかで地下水が滴り落ちる音だけだ。
俺はエレベーターから未知の領域へ足を踏み出す。
銃口を上にしてアルバートを構えつつ数歩進むと、
天井から四つ足モールデッドが落ちてきた。
そいつは俺を見るなり叫び声を上げてこちらに走ってくる。
俺は素早く照準を合わせ、奴の頭を撃ち抜いた。銃声が洞窟の奥まで突き抜けていく。
あっけなく絶命したB.O.W.を見ながら、ほっとしつつ歩きだしたのも束の間、
目の前にワイヤートラップが仕掛けられていた。
あと一瞬気づくのが遅れていたら死んでいた。
工作班がいないので、しゃがんでくぐり抜ける。次のエリアに入ると、
フェンスに囲まれた鉄柱がある。それを回り込み、更に奥へと進もうとした。
うぐああああ……
しかし、前方から複数のモールデッドが歩いてきた。
俺は引き返そうとしたが、またしてもワイヤートラップ。一体どうなってる。
……待て、これは、このままでいい。しゃがんでワイヤートラップをくぐり、
エリア入り口に戻ると、後ろから爆発音。
俺を追いかけてきたモールデッドがトラップに引っかかったのだ。
手足がちぎれ、完全に死亡。続いて2匹目も1匹目の末路は見ていたはずなのに、
2つ目のトラップに引っかかって同じ運命を辿った。
物は使いようだ、などと呑気なことを考えてはいられない。
トラップがあるということは何者かが敵意を持って待ち構えていると考えたほうがいい。
俺は更に歩を進める。
やはり青白く、怪物さえいなければ美しくすらある洞窟をひたすら歩む。
十字路で四つ足と右腕が巨大な刃になったモールデッドに出くわした。
今度はトールハンマーを構えてタイミングを待つ。
移動速度が異なる2体を同時に吹き飛ばせるその瞬間を。
狭い通路の中、ゆっくり歩く巨大な右腕を押しのけ、四つ足が無理矢理前に出る。今だ。
俺は銃口をやや斜め下に向けてトリガーを引いた。
トールハンマーが、強烈なマズルフラッシュと共に爆発的な加速を得た散弾を吐き出し、
2体の身体を引きちぎった。
身体が細く、モールデッドとしては耐久力の低い四つ足は、
上から叩きつけられた衝撃で潰され、
刃の右腕は両足をもぎ取られ、地面を這い回っていた。俺は慎重に近づき、
「ふん!」
やはり頭部を踏み潰す。余計な発砲などしなくて済むならそのほうがいい。
やたら弾を撃ちたがるのは、新兵かガンマニアくらいのものだ。
一度でも実戦に出れば理解できるだろう。今度は分かれ道に出る。
レールが敷かれ、ゆるい坂になっている。とりあえず右に進むが……
大きなトロッコがあるだけで行き止まりだった。
だが、次の瞬間、さっき2体モールデッドを倒したはずの通路から、
新手が雄叫びを上げて飛び出し、全速力でこちらに走ってきた。
とっさに俺はトロッコを蹴飛ばす。
重い資材を満載したトロッコが加速度的にスピードを上げ、B.O.Wに突進。
緊急回避などできないモールデッドは、
そのまま猛スピードで突っ込んでくる重量物に轢き殺され、
トロッコは行き止まりで壁に激突、派手な音を立てて停止した。
ひとつ息をついて更に脇道へと進む。
そこは、天井が高く、明らかに人が出入りしていた形跡が残されていた。
階段があり、それを上ると小屋があるのだ。
俺は階段を上がろうとするが、ここにもワイヤートラップ。
よほどここには入られたくないらしい。
今度はしゃがんで通ることも、またぐこともできない面倒な高さ。
俺はアルバートで起爆装置を撃って破壊し、階段を上り、
小屋のドアに手を掛け、そっと押し開けた。
そこは洞窟には全く似つかわしくない研究室だった。
空のシャーレ、顕微鏡、レントゲンに光を当てるシャウカステン。
デバイスでトラップの類がないかサーチする。とりあえず心配したトラップはなかった。
その代わり、
[電子ロックの反応あり ハッキングによる解除が可能]
電子ロックを掛けてまで隠したいものとはなんだ。俺は反応があった場所に近づく。
そこには小さなトランクほどの金属製のケースがあった。
デバイスをかざしてハックする。
[ロック解除中 10%...30%...50%...75%...100% 解除完了]
ケースが開くと、内部は奇妙な構造になっていた。中央に胎児らしきもののミイラ。
そしてその両脇に何かを入れるような挿入口が。これはなんだ。
操作スイッチの類がないのでわからない。
一旦この装置は置いておいて、俺はとりあえずこの研究室の捜索を始めた。
何があったのか、酷い散らかりようだ。俺はデスクにある資料を一つ一つ調べる。
そのうち、重要性が高いと思われるものがいくつか見つかった。
・「Eネクロトキシン」資料
Eネクロトキシンとは、E型被験体、つまりエヴリンを殺処分するための壊死毒らしい。
使用時には、毒素を活性化させる必要があり、
エヴリンの体組織を保管装置内に入れることで製造できるようだ。
・感染症例レポート
エヴリンが生成した特異菌に感染した者が変異していく様子が、
時間経過と共に記されている。
・研究報告書 前・後
最も重要なのはここだった。この資料によると、エヴリンは、
H.C.F.という組織の協力の下に戦争兵器として作られた存在であり、
特異菌を対象に埋め込むことで意識を支配する能力を持っている。
彼女に支配されたものは最終的に……くそ、黒塗りにされていて読み取れない。
仕方なく続きを読む。そして、エヴリンは菌糸からモールデッドを生成するらしい。
Eネクロトキシンはイーサンが求めている血清を極限まで高めたもので、
ごく少量で何かができるようだ。“何か”はやはり黒塗り。
資料を読み終えた俺は、先程のケースに向かった。間違いない。
エヴリンという存在は、H.C.F.という組織から技術供与を受けた何者かによって作られた
B.O.W.で、イーサンはその特異菌に感染している。だから血清を求めていた。
そして、エヴリンは特異菌を生み出し続ける危険な存在。消滅させなければならない。
ベストのポケットから小瓶を取り出す。“エヴリンを、止めて”。
通報者の女性の言葉を思い出す。保管装置に小瓶を入れた。
すると蓋が閉まり、装置内で何かが合成されるような動作音が続く。
しばらくすると、今度は右側の蓋が開き、緑色の液体が入った注射器が現れた。
……これが、「Eネクロトキシン」だろう。
俺はベストの一番頑丈なポケットにそれをしまい、研究室奥のドアを開け、
更に奥へと進んだ。それからは一本道だった。
うねうねとした廃鉱の通路をひたすら歩き、現れるモールデッドを倒し突き進む。
全てがわかった。今まで殺してきたモールデッドは、すべてエヴリンが作った人形だ。
元を倒さない限り、このバイオハザードは終息しない。
そして、エヴリンを作った組織や、H.C.F.も発見・壊滅させなければならない。
新たな使命を見つけた俺は更に奥へとひた走った。
大きく開けた場所、上を見上げると空が見える。洞窟の出口が近い。
しかし、脱出するための梯子の近くに、肥満体モールデッド2体がたむろしている。
さっそく俺を見つけた奴らは、腹いっぱいに体液を溜め込んで、一斉に噴射してきた。
横方向に走って回避する。
どうすればいいかはさっき言ったはずだ。余計な戦闘はしないに限る。
俺はグレネードを取り出し、ピンを抜くと肥満体に向けて投げつけた。
トン…トン…爆発。
洞窟の脆い壁が崩れないか心配になるほどの衝撃が、
ファット・モールデッドを吹き飛ばす。
その隙に俺は梯子へダッシュし、急ぎ足で上りきった。
どうにか厄介な敵を振り切ると、背後から恨めしそうな呻き声が聞こえてくる。
無視して前進を続けると、テーブルがあり、今更役に立たない坑道の見取り図や、
物資などが置いてある。必要でないものを持ちすぎても邪魔になるだけだ。
何も取らずに先に進む。そのまま狭い出口を抜けると、そこは民家の地下室だった。
なぜこんなところと地下室が繋がっている?俺はとにかく外に出るため階段を上る。
1階に上がると、中は荒れ果てていた。
キッチンのテーブルには、正体の分からない何かが盛られた皿が並んでいる。
冷蔵庫も、開けたことを後悔するほど腐り切って臭いを放つ食材が詰まっていた。
とにかく玄関から外に出ようとしたが鍵が掛かっている。
しかし、俺達は鍵が掛かっているからと言って前進を止めることなど許されていない。
「はあぁ……であっ!!」
重心を低くして、体全体を使い、扉に体当たりをする。
建物自体が古いこの家は玄関も古く、一度の体当たりで簡単に開いた、
というよりドアが吹き飛んだ。陽の光が眩しい。
俺は外に脱出したことを確認すると、急いでブラヴォーチームに通信を開いた。
──防空壕最奥
……熱い。身体も、空気も、何もかもが熱い。
身体が残っていることを確かめるように、わずかに指先に力を入れ、砂を掻く。
俺は、一体どうなった。まだ朦朧とする意識の中で考える。
確か、血清の手がかりを求めてここまで来たら、
ルーカスにこの世界と俺の世界の関係について聞かされて……そうだ、奴と戦ったんだ。
丸鋸も効かない奴と戦って生きているのは……覚えているとおりだ。
化け物に変異してルーカスを叩きのめしたんだ。
急がないとマズい。血清を手に入れて、エヴリンとルーカスを始末する。
……完全に変異する前に。
立ち上がると耐熱仕様で焼け残っていたバックパックを拾う。不思議と痛みはない。
いや、怪我も完全に治っている。決して喜ばしいことじゃない。
それだけ特異菌の進行が進んでいることなんだから。
俺は来た道を引き返す。
途中、何体かのモールデッドに遭遇したが、丸鋸を構えるのも億劫に感じていると、
突然奴らが激しく燃え上がり、あっという間に燃え尽きた。
これも、人間性と引き換えに手に入れた能力なんだろう。ひどく身体がだるい。
体力は十分過ぎるほど有り余っているが、精神的ストレスで押しつぶされそうだ。
崩れたコンクリートの壁が見えた。もうすぐ出口だ。
俺は冷たいむき出しの石材の壁に手をつきながら、前に進む。
すると、突然視界がぼやける。うつむき加減の顔を上げると、そこにはエヴリンが。
「アハハ……もうすぐ、もうすぐお前も同じになるんだ!
ジャックや、マーガレットみたいに」
「黙れ!」
俺が叫ぶと、周りに積み上げられた物資が激しく燃え上がった。
「今はまだ人間。だけど、最後にはお前が外の奴らを殺すんだ。
みんなみんな殺すんだ!」
「死ね!」
手を振り下ろすと、前方に炎の柱が現れ、エヴリンを包み込む。
だが、そこにいるのは幻。ただ防空壕を焼いただけだ。
一気に火の手が回った室内に煙が充満する。
我に返った俺は、急いで梯子を上り、防空壕から脱出した。
“家族になれたら、また会おうね……”
そこで身体から力が抜け、倒れ込んでしまった。
火災を感知した警報がけたたましいサイレンを鳴らす。
すぐさま近くの艦娘が駆けつけ消化活動に当たったが、
俺にはそれを気にかける余裕もなく、重い体をやっと起こして倉庫を後にした。
──本館
体当たりするように本館の扉を開けると、
3階の客室に向かって一歩ずつ階段を上り始めた。
その時、執務室から提督と長門が出てきて駆け寄った。
「イーサン、一体どうしたんだい!服が丸焦げじゃないか!」
「医務室へ行くぞ、肩を貸してやる!」
「俺に触るな!!」
俺の叫びに二人共言葉を失う。
長門が何か言いたげに手を差し伸べるが、俺はひたすら階段を上り続ける。
「早く、しないと、手遅れに……」
そして3階に着くと、自室のドアにへばりつくようにしてドアノブを回し、
中に転がり込んだ。
這いずるように床を進み、テーブルの電話を掴むと、受話器を上げる。
しかし、ツーという音が鳴るだけで何も応答はない。
「畜生!!」
受話器を電話に叩きつけた。
心配で付いてきた提督と長門も、どう言葉をかけていいのかわからない。
「イーサン、防空壕で何があった!なぜ火災が起きるような事態になったのだ!?」
「頼む、話してくれ。我々に何かできることがあるかもしれない」
精根尽き果てた俺はうつむいてただ首を振る。
「提督、済まない……俺は、金剛を助けられない。俺も、じき化け物になる。
ジャックや、マーガレットのように……」
「君の状況が、悪くなったということなんだね?」
「くそっ、何か、何か方法はないのか!!
……ああ、ご老人。大きな声を出して済まない。だが、今は緊急事態なのだ」
老人?長門が何者かと話しているので、俺はふらふらと立ち上がり、部屋の外に出ると、
見覚えのある人物がいた。それは、ベイカー家の一人、車椅子に乗った老婆!
ゾイを除く他の家族とは違い、何も危害を加えてこなかったから
その存在を忘れていたが、そうだ。彼女も“家族”の一人なんだ!
「……なあ、長門。この婆さん、いつからここにいるんだ?」
「うむ。ちょうどイーサンがこの世界に来たのと同時期だ。イーサンと同じく突然な。
身元を調査しているのだが、会話もままならないので、この鎮守府で預かっている」
「あ、あー……」
「まぁ、この通りおとなしい御仁だから敵である心配も……」
「違う!そいつがベイカー家最後の一人なんだ!!」
「何!?」「なんだって!!」
「俺がこの世界に来る前、屋敷のあちこちにこいつはいたんだ!
長門の言うとおり、何もしてこないから忘れてたが、
こいつもきっと特異菌に冒されてる!」
まくし立てる俺の言葉も聞こえていないらしく、老婆はただうわ言を繰り返すだけだ。
「でも、奇妙だね……彼女も感染しているなら、
とっくに何らかの症状が出ていてもおかしくないのだが」
「彼女が高齢だから肉体が付いてこられないのだろうか?ううむ……私には何が何やら」
ジリリリリ……
その時、客室の電話が鳴った。俺は飛びつくように受話器を上げた。
──B.S.A.A.作戦司令室(旧ベイカー邸 娯楽室)
そして少し時を遡る。
「隊長、アルファチームのレッドフィールド隊長から無線です!」
「回してくれ!こちらブラヴォーチーム・シーゲル。状況を報告されたし。オーバー」
『シーゲル、特異菌の発生源と滅菌方法を手に入れた。
エヴリンとは10歳前後の少女の姿をしたB.O.Wだ。
H.C.F.という組織から技術提供を受けた何者かに作られたらしい。
詳しくは押収した資料を見てくれ。位置情報を送るからヘリを頼む。
エヴリンを始末する壊死毒を手に入れたが、イーサンに届けなければ意味がない。
これは危機レベルAのバイオハザードだ。オーバー』
「了解、すぐに手配する。20分で到着する。アウト」
シーゲルは近くのエリアで警戒に当たっていたヘリに連絡を取り、クリスのGPS座標を転送した。
ヘリはすぐさまクリスのいる廃屋へ向かい、彼を回収。
B.S.A.Aが占拠した洋館に送り届けた。
クリスはすぐさま娯楽室に向かい、シーゲルに資料を渡した。彼は素早く目を通す。
「これは……軍事利用を目的としたB.O.Wの開発計画じゃないか!」
「計画じゃない、もう完成している。ベイカー家の転移とモールデッドの出現。
すべてエヴリンがいなければ起こり得ないことだ」
「直ちにエヴリンを始末しなければ」
「ああ、だが肝心のエヴリンがいない。恐らく、“向こう”の世界にいるに違いない。
彼にこれを届ける必要がある」
クリスは、ベストのポケットから「Eネクロトキシン」を取り出す。
その時、隊員の一人が発言した。
「隊長、こちらからなら要救助者へ連絡が取れるので、
なにか心当たりがないか聞いてみては?」
「そうだ!確か、通報者が“イーサンがくれた手がかり”と言っていた。
何か向こうの世界と物をやり取りする方法があるのかもしれない。
クリス、今すぐトレーラーハウスに行こう。
イーサンにその薬でエヴリンを始末してもらう」
「……待て」
「どうした?」
「シーゲル、この“Eネクロトキシン”だが、培養することはできないか?」
「培養?これで十分じゃないのか?」
「要救助者は民間人だ。戦い慣れた軍人じゃない。
細い注射器一回分のチャンスだと、しくじる可能性がある。
できれば……1マガジン分の銃弾に詰めてハンドガンで撃ち出せるようにしたい」
「確かにそうだが……時間がない。
サンプルに必要な分だけを採取して、残りを要救助者に送る。
成功すればそれで良し、失敗しても急いで猛毒銃を送る。その手筈で行こう」
「ああ、頼む。俺はトレーラーハウスで要救助者と連絡を取る。
ブラヴォーチームはB.S.A.A.研究班にサンプルを送って、急いで特注銃を準備してくれ」
「わかった」
そして、クリスは隊員が差し出した試験管に、
ほんの1mlだけEネクロトキシンを垂らした。
隊員はクーラーボックスに試験管を保管すると、それを担ぎ、
急いでヘリの待機するベイカー家所有の小麦畑へ向かった。
クリスは娯楽室を出てトレーラーハウスへ。
中に入ると、メモの通りに奇妙な番号に電話を掛けた。
──本館3階 イーサンの客室
「もしもし、イーサンだ!そっちで何か見つかったのか!?」
『ああ、エヴリンの正体。そして完全に滅ぼす方法も』
「本当か!?」
クリスは廃鉱で見つけた資料の内容をかいつまんで説明してくれた。
エヴリンは正体不明の組織に製造されたB.O.W.で、
特異菌を生み出し、感染させた相手を支配する能力を持っていること。
そして彼女を滅ぼす薬を手に入れたことを知らせてくれた。
『ただ、そちらに「Eネクロトキシン」を届ける方法がわからない。
通報者の女性が君から何かを受け取ったと言っていたのだが、
そちらに物を送る方法があるのか?』
「ある!屋敷のあちこちにグリーンのコンテナがあるだろ?
1階ならランドリーやサソリの扉近くの小部屋。中庭のトレーラーハウスにもある!
そこに入れてくれ。あのコンテナはこっちと空間が繋がってる!」
『わかった。送るのは細い注射器一本だ。保険は打ってあるが、確実に仕留めてくれ』
「ああ。犯人の目星は付いてる。幸い近くにいるからもうすぐ全部に決着が着く!」
『頼んだぞ』
俺の心に光が差す。立ち上がりパンパンと足を払うと、長門達に向き合い笑顔を向ける。
しけたツラをしていた俺の変わりように彼女達も気づいたようだ。
「おい、一体どうしたのだ。朗報か?」
「エヴリンを殺す方法が見つかった。
ベイカー家を狂わせ、モールデッドを生み出した張本人だ!」
「それは、君達の報告にあった。海に現れた女の子かい?」
「その通り、そして、その正体は多分……」
俺は廊下に出る。が、いない。さっきまで廊下にいたはずの老婆の姿が消えている。
後から続いた長門達も気づいたようで、
「なっ!あのお婆さんはどこに行ったのだ!?」
「だいたい一人でどうやってここから移動したんだろう。
ここに来るには階段を上るしかないのに……」
「それが答えさ。俺はEネクロトキシンを取りに行く。
もう来ないだろうが、さっきの婆さんを見たら捕まえておいてくれ」
「おいイーサン、どこへ行く!?」
長門の問いかけには答えず、俺は一気に階段を駆け下りた。
そして階段脇のアイテムボックスを開く。
ボックスが大きいのか、それが小さすぎるのか、
見落としそうなほどちっぽけなものが空のボックスの真ん中にあった。
Eネクロトキシン。緑色の液体が入った小さな注射器。
それを、ステロイドが収まっていたプラスチックケースに入れると、
俺はエヴリンを探し始めた。
食堂、いない。執務室、いない。自室に戻った。長門達がいるだけだ。
「エヴリンは?」
「来ていないぞ。私達も探そう!」
「助かる。だが、戦闘になったら逃げてくれ。
今は詳しい話をしてる時間がないが、エヴリンは俺しか倒せない」
「わかったよ。せめてこの鎮守府の長として、この事件の結末は見届けたい」
「よし、行こう」
そして3人で連れ立って外へ行こうとしたら、真上からどす黒い思念を感じた。
間違いない。エヴリンだ。
俺は先頭に立って本館を飛び出し、裏手の非常階段へ駆け込んだ。
3人がカンカンとうるさく足音を立てて階段を上る。
そして、屋上に着いた時、その広いエリア中央に彼女が立っていた。
長門は提督を守りながら、非常階段の塔の中で成り行きを見守る。
俺はゆっくりエヴリンに近づき、対峙する。彼女はじっと俺を見据え、口を開いた。
「お前も家族にしてやる。そうしたらきっと少しはお行儀よくなるよね」
「俺は、本気だぞ」
俺も退く気はない。
プラスチックケースからEネクロトキシンの入った注射器を取り出す。
「やめろ!私に近づくな!」
危機を感じた彼女が逃げるようにフッと姿を消し、
突然チェーンソーを持ったミアが現れ襲い掛かってきた。
『悪いのは私なの!!』
狂気に取り憑かれた表情で刃を振り下ろすミア。
思わずマシンガンP19で迎撃するが、次の瞬間、彼女は消えてなくなった。幻、か。
「イーサン!何をしている!」
特異菌の侵食が進んでいるのだろうか。
突然空を撃った俺を不審に思った長門が呼びかけてくる。
俺は何も答えず屋上をゆっくりと進む。すると、再びエヴリンが姿を現した。
宙に浮きながら、彼女は滾る感情をそのまま圧力に変えるように、衝撃波を放ってきた。
「近づくんじゃない!」
とっさにガードし、足を踏ん張るが、その大きな力にずるずる後退する。
しかし、近づかなければ奥の手を使えない。一瞬長門達を見る。
上手く階段を数段下りて衝撃波を回避したようだ。なら、後は俺次第だ。
数歩進むと、エヴリンが再び叫びと共に衝撃を放った。
「お前にわかるもんか!」
変異ジャックの一撃を遥かに上回る力。だが、ここで退く訳にはいかない。
衝撃波が途切れた瞬間を狙って俺は彼女に駆け寄る。
「あっちいけ!」
あと少し。ガードとダッシュを繰り返し、着実にエヴリンに近づく。
彼女はもう目の前だ。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
ついに、その時が来た。
「いやだ!いやだ!いやだ!」
俺は、その肩を掴み、Eネクロトキシンをエヴリンの首に刺した。
緑の液体が彼女の体内に注入される。彼女が絹を裂くような悲鳴を上げる。
その瞬間、視界がまばゆい光に包まれる。そして、光の先に見た光景は。
「やっぱり、お前が」
車椅子の老婆がすすり泣く。顔を上げるとその頬には血の涙が滴っていた。
「どうしてみんな私を嫌うの……」
その身体だけが老いた姿で、悲哀に満ちた声を上げ、彼女はむせび泣く。
エヴリンのしたことは決して許されるものではない。
しかし、母や姉と慕った者から見捨てられ、ルーカスからは化け物としか見られず、
そして俺からは一度も受け入れられることがなかった彼女の悲しみは本物だった。
例えそれがどれだけ身勝手なものであったとしても。
「……終わりだ、エヴリン」
俺が彼女に最期の言葉を告げると、
エヴリンの身体が突然崩壊を始め、体中が真っ黒な液状に溶け始めた。
「苦しい!苦しい!苦しい!」
断末魔の声を上げながら、死んだモールデッド達の様に黒いヘドロになっていく。
『イタイ! オマエタチ ミンナ ジゴクニ オチレバ イインダ!!』
これで、終わりなのか……?と思った瞬間、液状化し、屋上に広がったエヴリンが
最後の抵抗を見せた。まるで一枚の壁の様に実体化・膨張し、
巨大な顔面と触手でこちらに迫ってくる。
俺の後ろには提督と長門、いや、鎮守府に暮らす全ての艦娘がいる。
ここで食い止めなければ!
俺はショットガンM37を構え、
十分な威力を出せ、なおかつ奴に食いつかれないよう距離を取りながら、
12ゲージ弾を何度も叩き込む。さっきまでエヴリンだった物の顔面から激しく出血する。
4発撃ち、弾切れになる。スタビライザーやアップグレードで器用になった指先で、
素早くリロード。攻撃を再開。
向こうも時折触手で攻撃してくる。一発撃っては様子を見て、必要ならガード。
隙があれば中距離で発砲。
強化されたM37でそれを繰り返していると、巨大な顔がどんどん潰れていく。
すると、突然奴が雄叫びを上げ、触手で俺を突き飛ばし、その巨体を立ち上がらせた。
20mは有るだろうか、もはや完全に生物の枠組みすら超えたその姿は、
おぞましいとしか形容できない。
俺はマグナムを手に取り、辛うじて人の形をしている顔面を狙い、
何度も大型の.44AMP弾をえぐり込む。
だが、ひっきりなしに四方八方から奴が触手で叩きつけてくる。
時々ガードが遅れ、直撃を受ける。顔から流れる血で視界が塞がれそうになる。
腕で血を拭った瞬間、奴が触手を俺の左脚に刺し、自分の目の前に持ってきた。
「ぐああああ!!」
『私は家族が欲しかったの!』
至近距離に迫る真っ白な顔。俺はショットガンM37に持ち替え、
弾倉内の散弾を撃ち尽くした。2発。
強化済みのショットガンはその散弾で顔面の目を潰し、口の中をズタズタに引き裂いた。
奴が悲鳴を上げ、俺を再び地面に放り出した。
衝撃で体中が痛み、意識が消し飛びそうになる。
とにかく身体を横にして立ち上がろうとすると、
幻聴だろうか、ヘリの音が聞こえてくる。
目の前には開いたヘリから投下されたグリーンの輸送ケース。
『それを使え!』
コデックスから通信。聞き覚えのある言葉。
輸送ケースの近くを見ると、1丁のハンドガン。俺のアルバートと形状が瓜二つだ。
とにかく這いずってそれを手にする。そして振り返り再び奴と対峙する。
「ままごとは終わりだ!」
俺は両手でアルバートに似た大型の銃を巨大な怪物に向ける。
4本の触手から奴が顔を覗かせる時を待つ。奴が俺を睨みつけてきた。今だ。
俺は慎重に狙いを定め、顔面に向けて何度も撃つ。
もう一発ごとにチャンスを窺っている余裕がない。
金属を叩き合わせるような銃声と共に、特殊弾頭が着弾。
緑色の煙が奴の顔面に降りかかる。恐らく中身はEネクロトキシン。
命中する度、奴が悲鳴を上げる。何発かは触手に邪魔されたが、
俺は最後の一発を顔に放った。その一発が奴の顔で弾けると、怪物に最期の時が訪れた。
鎮守府全体に響き渡る断末魔の叫びを上げ、苦しみに全身をくねらせるが、
足元から石膏と化し、とうとう完全に固まった身体が半分に折れて、
その身はガラガラと砕け散った。
「やった……」
そうつぶやくのがやっとだった。俺はエヴリンの成れの果てを一瞥し、空を見上げた。
そこには1機のヘリコプター。“青い傘”のエンブレムがペイントされた機体が
上空を旋回している。とにかく俺は、長門達の元へ帰ろうと後ろを振り返った。
ドシン……
その時だった。
超大型の、B.O.Wのような存在がエヴリンの亡骸を踏み潰し、本館の屋上に降り立った。
反射的に後ろを見た俺の目に飛び込んできたものは。