艦隊これくしょん with BIOHAZARD7 resident evil 作:焼き鳥タレ派
──0900 本館前広場
2機のアンブレラ所有、B.S.A.A所属ヘリコプターの前に、
北方水姫討伐隊のメンバーが集結していた。
大勢の艦娘が集まり、俺達の出撃を見送りに来てくれている。
北方水姫と戦う艦娘は皆、
左腕に腕時計と温度計を組み合わせたような計器を装着している。
「これ着けると決戦だーって感じがするよね、いっつも」
北上がベルトをしっかり金具で固定する。
「こないな飾りもん、わちきの着物には似合んしまんせん……」
左腕をくるくる回して眺める尾張は、計器のデザインが不満なようだ。
「文句を言うな。これは装備品なのだ、飾りではない」
そんな彼女にグラーフ・ツェッペリンが注意しながら、自分も計器を腕に巻き付ける。
艦娘達の様子を見ていた俺は、提督に尋ねた。
「提督、彼女達が身につけている物はなんだ?」
「ああ、クリス。あれは超弩級深海棲艦生命反応探知機。まぁ、言ってみれば、
姫クラスの強大な深海棲艦の存在を探知、その生命力を可視化する計器だ。
彼女達はボスゲージって呼んでるよ。
探知とは言っても、有効距離が短くて、反応する頃には既に交戦状態に入っているから、
実質姫級の残りエネルギーの計測器と言ったほうがいいけどね」
「それでもないよりマシだ。何が効いているのかいないのか、わかるだけでも有り難い。
……俺達も準備を始めるとしよう」
俺はヘルメットを被り、ヘリの前で待機している部下達に呼びかけた。
「全員、防護ベストのメインシステムを起動しろ」
“はっ!”
皆が全身に張り巡らされた各種センサー、通信機器、デバイスを管理するOSを起動。
それを確認した俺も、下顎の起動ボタンを押す。
すると、シールド部分にブート画面が現れ、
続いて青い傘のエンブレムと、“UMBRELLA AMD SYSTEM”という文字で構成された
起動画面が表示された。
同時に俺の心電図や電波通信状況を示す、ヘッドアップディスプレイが視界に現れる。
準備は完了だ。俺の防護ベストがオンライン状態になると、すぐさま通信が入った。
『こちら本部。通信は良好です』
「レッドフィールドだ。これより作戦を開始する」
『作戦海域はソビエト領海に隣接しています。
彼らが領空侵犯と見なし、攻撃機を発進する可能性が極めて高いです。
できるだけ速やかに戦闘を終わらせて撤退してください』
「無茶を言ってくれる。だが、長居したくてもできないのも確かだな」
『はい。ディスプレイ左下を見てください』
すると、俺の心電図の上に“120min.”という表示が現れた。
『人間の活動限界を越える寒冷地に入ると、
防護ベストが自動的に体温を維持する防寒モードに入ります。
数値はベスト内部の電熱線を加熱するバッテリーの電力の残り時間です』
「つまり、これがゼロになると俺達は氷漬け、というわけか」
『そうなります。繰り返しますが、早急な超大型B.O.W掃討を願います』
「ああ分かってる、こういうのは慣れてるからな。一旦切るぞ」
『ええ。気をつけて、クリス』
本部との通信を切ると、俺は部下達に輸送ヘリに搭乗するよう指示した。
「全員、ヘリに乗れ。まもなく出発する」
隊員は滑らかな動きで次々とヘリに乗り込み、小さな座席に座ると、
しっかりとベルトを着用。それを確認すると、俺も同様にヘリに乗る。
後は艦娘達を待つだけだ。
「第一主力艦隊、出撃!直ちにヘリに搭乗せよ!」
提督の発令で、艦娘達も軽い身のこなしで一人ずつ中に入ってきた。
重い艤装は事前に外して床に固定しておいたが、
12人と装備品の重量はヘリが飛行できる制限ギリギリだった。
「全員揃った。1号機、2号機、離陸しろ」
“ラジャー”
二人のパイロットの返事と同時に、
2機のヘリコプターがローターをゆっくりと回転させ、徐々に回転数を上げ、
爆音を上げながら、その鋼鉄の機体をふわりと持ち上げた。
段々真下に遠ざかる鎮守府。見送りの艦娘達が手を振っていた。
“みなさん!ジョー!必ず帰ってきてくださいねー!”
“グラーフ、ドイツ艦代表としてしっかりね!”
“貴女が丸一日飲まなかったのは新記録よ!帰ったら好きなだけ飲んでいいからね!”
“北上さーん!私はここよ!私も連れてってー!”
ローター音でかき消されているが、皆が懸命に声援を送ってくれていることは分かる。
戦いたくても戦えない者のためにも確実にミッションを果たさなくては。
ヘリが更に高度を上げ、艦娘達が点になる。
俺達は監視用の小さな窓から見える、この鎮守府と住人達を守り抜かなければならない。
高さほんの2cmほどの窓を閉め、トールハンマーを杖のように立てて、
ただ目を閉じてその時を待った。
──1207 大ホッケ海北方 北方水姫支配海域付近
3時間超の長い道のりだった。硬いシートにずっとベルトでつながれていた隊員達には、
少し疲れが見える。あまり良くない兆候だ。
俺は早めに隊員達にシートを離れ、身体をほぐすように指示した。
「全員、今のうちにベルトを外して軽くストレッチしておけ。
狭いから他の者にぶつからないようにな」
「了解。正直、助かります……」
「ええ、もう身体が固まってて」
「敵は目の前だ。皆、万全のコンディションを維持しておけ」
「はっ!」
一方、艦娘組は退屈そうではあるが、疲れた様子はない。念のため声をかける。
「君達は、大丈夫なのか。間もなく戦闘が始まる。水分補給等は今のうちにな」
「ん~平気平気。姫級との戦いはいつもこんなんだし。
むしろ余計な前哨戦全部パスできた分、今回は楽なくらい。
日本からイギリスまで泳いでいって姫級倒せ、なんて無茶振りされたこともあるし」
北上という艦娘が普段通り、といった表情を変えずに答える。
それを切欠に彼女達がそれぞれの思いを口にした。
「クリスさん、私達艦娘は人より丈夫にできています。ご心配なく」
赤城は不思議な存在だ。
ムラマサという呪いに取り憑かれたジョーを、その声で正気に戻したという。
今も柔らかな笑顔を浮かべているが、何か特別な覚悟があるのかもしれない。
それを詮索するつもりはないが。
「ポーラ、ちょっとお酒入ってる方が頑張れるんですけど……」
どこか不満げな彼女。なんというか、あの鎮守府は軍として少し自由過ぎる気がする。
「呆れたものだ。もう少し軍規を厳しくするよう提督に具申してもいいかもしれん」
グラーフ・ツェッペリンという、真面目さを絵に描いたような艦娘がため息をつく。
ポーラと1セットになると、ちょうどいい感じになりそうだ。
あるいはそのために選定されたのかもしれない。
出発前、挨拶ついでに声を掛けると、“グラーフと呼んでくれ”、と言ってくれた。
「それには賛成だな。遊んでばかりいる潜水艦も少しは勉強する気になるだろう」
武蔵の強さは既にこの目で見た。強化された深海棲艦に致命傷を負わせる46cm砲。
俺の世界でも歴史にその名を残している。それを更に上回るとなると……
「ふぅ。こないな
尾張。異世界の艦艇から生まれた彼女の能力は未知数だが、
提督が恐ろしいほどの力を秘めていると言っていた。
彼女がこの戦いにおけるクイーンとなってくれることを祈る。
その時、操縦席のパイロットが叫ぶように報告。
「1号機から通信!!超大型B.O.Wから成る敵艦隊発見!数、12です!」
一気に機内が騒然となる。
「来た……!」
「数、12か!?全部殺せるのか、俺達に……」
「大丈夫だ、やれる、俺達なら!信じるしかないだろう!」
再び小窓から外の様子を見ると、小さくはあるが、既にその姿がはっきり見える。
俺は全員に呼びかけた。
「間もなく1号機がサーモバリック弾を投下し先制攻撃を行う。
安全な距離は保ってはいるが、衝撃波と水蒸気爆発で激しい揺れが起こるだろう。
皆、警戒を怠らず、降下準備に入ってくれ。艦娘諸君は折りたたんだ艤装を持って着水、
速やかに展開し、我々の降下を援護して欲しい」
「任せろ、クリス。全て予定通りに行くさ」
武蔵が床に固定していた艤装を取り外しながら答えてくれた。
身体を伸ばしていた隊員は再びシートに戻り、
握力の強い艦娘達は機内の適当な手すりに掴まる。
ぐっと機体が斜めになり、大きく方向転換したことがわかる。
100mほど前方を飛ぶ攻撃ヘリの様子を見る。
機体下部に設置された特殊弾頭が下方に傾く。攻撃はすぐだ。再びパイロットが報告。
「サーモバリック弾、投下5秒前!4.3.2.1…投下!」
そして、小型の旅客機のような爆弾が機体から切り離されて、
ゆっくりと、そして速く落下を始めた。皆が唾を飲む。
足元からは既に主砲弾や機銃が空を裂く音が聞こえてくる。
俺達の存在に気づいた敵艦隊が対空砲火を始めたのだ。
届かないとは言え、約10分後にはあの攻撃に身を晒すことになる。
サーモバリック弾を投下すると、攻撃ヘリは一旦海域から距離を取る。
直接爆発に巻き込まれることはなくとも、
今の距離では衝撃波や熱波が機体にダメージを与える。
着弾はまだか?俺が小窓から外を見た瞬間、落下した爆弾が、敵艦隊上空で破裂。
一度霧状の燃料となって広がると……ほんの僅かな間を置き、大爆発が発生。
燃え盛るキノコ雲が一帯の空気を食いつぶすように猛々と立ち昇り、
閃光、爆風、轟音を放ち、巨大な風圧が流氷を吹き飛ばす。
その直撃を受けた深海棲艦の群れ。遥か下から幾つもの小さな悲鳴が聞こえてくる。
一気に1000度以上に熱せられた海水が水蒸気爆発を起こし、敵の視界を塞ぐ。
しかし、相手が見えないのは我々も同じ。
遅れてやってきた爆風がこちらの機体も揺らすが、速やかな降下を優先する!
「艦娘の諸君は全員降下してくれ!後から我々が続く!
俺達も降下の準備を始める!戦闘開始だ!」
“応!!” “はっ!”
俺は搭乗口のドアをスライドして一気に開く。
すると、上空の雪を含んだ暴風が吹き込んできた。
[警告:寒冷地に侵入。防寒モードに移行]
ヘッドアップディスプレイのバッテリー残量が120min.から119min.に変わった。
もう後戻りはできない。防護ベストからじわじわと熱が伝わってくる。
こうしてはいられない。
「行け、行け行け行け!!」
俺の合図で、艦娘が次々と水蒸気と吹雪でほとんど視界のない海に向かって、
飛び込んで行く。
そして、最後の一人がジャンプすると同時に、俺達もロープを下ろし、
2人ずつ慌てず、しかし最大の速度で急ぎながら着水していく。
ちなみにジョーは、また飛び込まないように俺が身体で前を塞いでいる。
ロープの使い方は教えてある。
「なにやってんだ!さっさとしろ!」
「慌てて下手くそな落下をしたら、敵から先制攻撃を食らう羽目になるぞ。
少しは落ち着いたらどうだ……ほら、俺達の番だ」
「ちくしょう、まどろっこしいな!」
スコーピオンとリパブリックのペアが降下し、艦娘の後方に着いたところで、
最後に俺とジョーがロープを伝って海に降りた。
俺達は人間組で唯一陣形の前方に着くことになっている。
雲と雪の膜を抜けて、海に降り立ち、辺りを見回す。そこには何もなかった。
普段は海を埋め尽くしている流氷はサーモバリック弾の高熱で溶かされ、
衝撃波で砕かれ、影も形もなかった。
猛烈な吹雪以外は何もない海域。いや、それは語弊がある。
前方を見据えると、全身が火だるまになった深海棲艦の群れ。
この好機を逃せば多くの犠牲を強いる血みどろの戦いになるだろう。俺は叫ぶ。
「突撃!!」
「行くぜおい!」
《チャージ開始》
ヘリから飛び降りた後、速やかに艤装を展開し、陣形を組んだ艦娘部隊は、
攻撃開始前にボスゲージを確認した。
「真っ赤だな。やはりあの中に北方水姫がいる」
グラーフが左腕の目盛りを見て、視線を敵艦隊に移した。
『姫級含め、やはり敵艦12!北方水姫、戦艦棲姫、戦艦ル級2隻、軽母ヌ級改、
重巡ネ級、軽巡ヘ級、軽巡ツ級、駆逐古姫、駆逐ハ級後期型3隻……
姫級を除き全てフラグシップ以上の能力です!』
赤城が偵察機を放ち、遠くに展開する敵艦隊の詳細を調査、
思念に乗せて全員に報告した。
『こちらレッドフィールド了解。俺達に構わず攻撃を開始してくれ。
北方水姫は陣形の最奥に居るはずだ。俺達は小回りを活かして姫級を叩く』
『おい、いやがったぞ!あの変なクソ女が親玉に違いねえ!』
応答の中にも銃声や砲声が混じる。
きっと同士討ちを警戒して、思うように攻撃できない敵艦の群れを縫いながら、
早くも姫級にたどり着いたのだろう。
突然全身を炎に包まれ、海の彼方から飛び込んできた人間二人に理解が追いつかず、
深海棲艦達は混乱に陥っている。
「この機を逃すな!我々も先手を打つ!ジョー達は陣の奥だ!前列を撃ちまくれ!」
武蔵の号令と共に、北上が61cm五連装(酸素)魚雷を放ち、
ポーラの203mm/53連装砲が吠える。
航跡の見えない酸素魚雷が、サーモバリック弾で大破状態に追い込まれていた、
駆逐ハ級後期型の1隻に襲いかかる。
強化されているとは言え、とても人間型とは呼べない怪物に炸薬の塊が突き刺さる。
一拍置いて、爆発。大きな爆炎が上がり、駆逐ハ級が海面に放り出された。
『キャオオオオォ……!!』
サーモバリック弾で丸焼きにされ、魚雷の爆発で力尽きた駆逐艦。
ずぶずぶと海に沈んでいく。しかし、これだけの攻撃を浴びながらも、
断末魔の声を上げるだけの力は残っていたというのだから、敵の力は底知れない。
「おーし、北上さん1点先取」
ポーラも同じく駆逐ハ級後期型に狙いを定め、203mm/53連装砲を撃つ。
放たれた砲弾は正確に敵艦を捉えたが、
不可解な強化を施された駆逐艦には致命傷を与えることができなかった。
「あ~……ポーラは0ポイントです~」
その時、艦娘の思念、それを受け取ることが出来る通信機、つまり鎮守府側の全員に、
謎の声が届いた。
『ダカラサ……。ソンナノツクッタッテサ……。ナニニナルノサァ!』
「あいつか……!!」
グラーフの視線の先に、ズタズタに引き裂かれた漆黒の着物を来た深海棲艦がいた。
左腕には、やはり怪物と一体化した機銃や砲を装備している。
『ヨォシ、クラエェッ!』
彼女の方が二連続で火を噴く。砲弾は弧を描いて正確に艦娘達を狙ってくる。
「回避だ、回避しろ!」
一発は夾叉、二発目が皆に回避を呼びかけた武蔵に命中。
「うぐうっ!」
「ああ~武蔵さん、大変ですか~!」
「案ずるな、この程度!それより、我々も反撃に!」
「はいっ!」
「グラーフさん、間もなく敵の混乱が収まります!今のうちに艦載機を!」
「了解した」
赤城が空に矢を放ち、空中で炸裂させた。
弾けた矢は戦闘機烈風、爆撃機彗星一二型甲に変化。
グラーフはデータカードを2枚ドロー、飛行甲板にセットした。
するとカード情報が読み取られ、
彼女の機体、戦闘機Fw190T改と爆撃機Ju87C改が実体化した。
「みんな、お願い!」
「全機発艦、攻撃開始!」
B.S.A.AチームはFGM-148ジャベリンによる準備を完了した。
が、早くも混戦の様相を呈してきた中、誰を狙うか決めかねていた。
駆逐艦だの戦艦だの言われても、どれも同じ化け物にしか見えない……!
だがこうして装備を抱えていても意味がない。
「くそっ、どれから先にとどめを刺す!?」
「一番小さいヤツから沈めるんだ!数を減らせ!」
「当たれよ!」
カーチスがミサイルを装填し、ヴァイパーが片膝をついて砲身を固定。
スコープを覗き、一番出血が激しい個体にロックオン。トリガーを引いた。
すると、発射筒から射出用ロケットモーターでミサイルが放り出され、
落下し始めた瞬間に飛行用ロケットモーターが点火され、
バックブラストを後尾から噴出。目標へ突撃していく。
ミサイルは吹雪の吹き荒れる空を駆け、深海棲艦へ猛スピードで接近。
奇しくも目標は、先程ポーラが倒しきれなかった駆逐艦だった。
迫るミサイルに気づいた駆逐ハ級後期型は海を滑って後退し、回避行動を取るが、
自律誘導能力で食らいつく敵弾から逃げ切れず、直撃を受けてしまった。
『ギ…ギギ……』
炸薬が詰め込まれた鋼鉄の飛翔弾を受け、肉体を裂かれ、身を焼かれた駆逐艦は、
今度こそ体中が破け、命尽き果てた。
「命中!敵艦撃墜!カーチス、次弾を頼む」
「待ってろ!」
彼らに喜んでいる暇はなかった。
敵艦隊が、姫を守るには全員で人間二人に構うより、
部隊を二分してこちらに攻撃したほうが効率的であることに気づいたからだ。
俺はトールハンマーを四方八方に撃ちながら、深海棲艦をひるませ、
ジョーを援護しながら突き進んでいた。
敵の数が多く密集している分、奴ら自身の身体を使って、
進んでは砲の死角に退避、を繰り返すのは容易だった。
そして、遂にジョーが北方水姫の元へたどり着いた。
「おい、いやがったぞ!あの変なクソ女が親玉に違いねえ!」
「なんとか後ろを取るんだ!敵の群れがお前を狙っている!そいつを盾に……」
すると、無線に女の声が。考えなくてもわかる。北方水姫だ。
──コノワタシト…ヤルトイフノカ……!……オモシロヒッ!
「面白えのはテメエの頭だ!馬鹿みてえなコック帽被りやがって!」
《チャージ完了》
「おおおお!!」
ジョーが護衛に構うことなく、
フルチャージしたAMG-78を北方水姫の顔面に叩きつけた。
衝撃波が周りの海水を巻き上げ、爆風で俺も護衛艦隊も思わずよろめく。
破滅的な威力の拳を受けた北方水姫は、顔の右半分を砕かれ、
衝撃波で肩から胸を引き裂かれた。
しかし。
「みんな、攻撃の手を緩めないで!次は軽巡を!」
赤城達艦娘は、姫の護衛と敵軍の排除に分かれた深海棲艦のうち、
こちらに激しい攻撃を繰り返す攻撃部隊の迎撃に追われていた。
B.S.A.Aの援護射撃、爆撃機の集中攻撃で駆逐ハ級後期型は3隻とも撃沈。
同じ姫級でしぶとい駆逐古姫に構っていては、他の仲間に集中砲火を食らう。
なんとか手数を減らさないと!
その時、赤城のボスゲージが振動して敵旗艦体力の変動を知らせた。思わず左腕を見る。
すると、真っ赤だった目盛りが5分の1ほど減っている。
「やった!みんな、ジョーが……!」
このペースならすぐに敵の司令官を沈めてくれる。
だが、その期待はぬか喜びに終わった。
「うそ、なにこれ!?」
目盛りがどんどん元に戻っていく。つまり、与えたダメージが回復しているということ。
絶望的な現象にボスゲージをただ見つめる赤城。
「赤城、上だ!」
「えっ!?」
その隙を突かれ、上空から飛来する敵爆撃機に気づくのが遅れた。
上顎を黒の殻で固め、不気味な緑色のライトを装備した敵機が急降下爆撃を行った。
回避する間もなく1000lb爆弾の直撃を受け、後ろに吹き飛ばされる赤城。
「ああああっ!!」
「しっかりしろ赤城!」
「がほっ、グラーフさんごめんなさい、まだ、始まったばかりなのに……」
「お前は下がれ、後は任せろ!守りに徹すればなんとなる!」
飛行甲板が大破した赤城はもう航空機を発艦することができない。
軽空母が放つ敵機をグラーフ1人で迎撃せざるを得なくなった。それだけではない。
『Что ты делаешь?
Это наши территориальные воды!!
(何をしている?ここは我々の領海だ!!)』
ロシア語による無線。
領海付近での戦闘を察知したソビエトが戦闘機をスクランブル発進したのだ。
彼方から小さな重低音が響いてくると、グラーフがハッと目を向ける。
ヤコブレフ Yak-9。グレーの機体に大きな赤い星がペイントされた機体が、
編隊を成して向かってくる。八方塞がりの状況。
その時、戦い慣れしていない尾張がようやく動き出した。
黒い高下駄を滑らせて二人の元へ近づいてきた。
「ん~……わちきにはまだ戦がようわかりんせん。
兎にも角にも、あの虫飛ばしとう敵を撃てばよかろうか」
「軽空母のことか?誰でもいいからとにかく沈めろ!」
「ほな」
尾張は帯から鉄扇を抜くと、
黒い甲殻類のような艦載機を飛ばし続ける軽母ヌ級改を、まっすぐに指した。
すると、彼女が背負う51cm連装砲3基6門が、角度と方位を修正。
陣形の北側隅に控えていた軽空母を睨みつけた。そして、尾張がつぶやく。
「くたばりなんし」
グラーフの視界が閃光で満たされた。規格外の連装砲3基が炎、硝煙、大量の煤、
そして超大型弾6発を撃ち出した。
大気をバリバリと切り裂きながら、その砲弾は正確に軽母ヌ級改に飛んでいく。
隕石の如く降り注ぐ主砲弾に気づいた軽空母が驚いて背を見せるが、もう遅かった。
3人の視線の先で大爆発が起き、キノコ雲が上がる。
それを呆然と見ていた赤城とグラーフ。すぐさま我に返ったグラーフが尾張に叫んだ。
軽空母の生死は確かめるまでもなく、その姿を影さえ留めていなかった。
「何をしている!向こうにはクリス達がいるんだぞ!もう少し加減を考えろ!」
「無茶を言いんすな。わちきの奥の手はこの大筒しかありんせん」
「もういい!とにかく手前の敵から片付けろ!」
「ふぅ、ようざんす」
敵陣の懐にいたクリスとジョーは、突然の爆発に驚かされることになった。
手近な深海棲艦にしがみついて、吹き飛ばされないよう踏ん張るのがやっとだった。
「何が起こっている!?」
「知らねえよ、今はとにかくコイツをぶっ殺すのが最優先だ!
頭潰せば部隊は壊滅したも同然だ!」
尚もチャージを繰り返しながらも北方水姫を殴り続けるジョー。
しかし、彼女は血だらけになりながらも、ただ笑っている。
だが、その時クリスのヘルメットのシールドにアラートが表示された。
[警告:高再生能力により攻撃無効]
さすがのクリスにも冷や汗が流れる。
「ジョー、そいつから離れろ!今は攻撃しても無意味だ!
……本部、まずいことになった。姫級は例の不死性B.O.Wだった!」
『フィーマーが!?少しだけ待ってください!』
通信先でオペレーターが慌ててキーボードを叩く音が聞こえる。
『ありました!輸送ヘリに、再生を阻止するラムロッド弾が積載されています!
今は撤退を!』
『了解した!……ジョー、聞こえていただろう!今は退却するぞ!』
「くそったれ!汚い野郎め!」
北方水姫に肉薄していたジョーが、しぶしぶ彼女から飛び跳ねるように距離を取った。
幸い先程の爆発で敵艦隊は混乱し、艦娘やB.S.A.A隊員に注意を向けている。
退くなら今しかない。
「走るぞ、ジョー!」
「わかってるよ!」
水上を滑りながら、敵艦の間を縫い、仲間の元へ戻るクリスとジョー。
状況は悪化する一方だ。四方で誰が撃ったか分からない砲弾が炸裂し、
爆風に煽られ時折足を取られる。
艦娘達との通信内容を総合すると、敵は北方水姫含め8隻。
どちらが先に倒れるか、まさに極寒の海は修羅場と化していた。
サーモバリック弾を投下し役割を終え、安全な高高度で待機していた攻撃ヘリだったが、
レーダーに新たな敵影を感知。ソビエト軍の戦闘機だった。
「なんだよあの数……!」
パイロットのカーターは編隊を組んで迫るヤコブレフ Yak-9を目の前に、
対応を迫られていた。およそ16機。あれが戦場になだれ込めば、一気に戦局は乱れ、
多数の犠牲が出るのは間違いない。
「くそっ!」
カーターは操縦桿を握り、ほぼ90度に進路を曲げ、
ソビエト空軍の部隊に突っ込んでいった。そして、クリスから通信。
『カーター、何をしている!高度を上げろ!』
「ソビエト空軍が迫っています!今すぐ迎撃しなければ!」
『馬鹿な真似はやめろ!その機体の性能でも、数で押し切られる!』
「弾薬は満載しています!撃たれる前に撃ち落せば問題ありません!」
『カーター、命令だ!今すぐ高度を……』
彼は一方的に通信を切る。もうコクピットから直接ソビエト軍の編隊が見える。
射程距離はこちらが上。……だが、速度では戦闘機には敵わない。
敵が攻撃態勢に入った。B.O.Wの殲滅に来て、まさか人間同士で戦うことになるとは。
もうヤコブレフが機首から20mm機関砲を撃ってきている。やるしかない。
「許せ!」
ガンナーのいないB.S.A.Aの攻撃ヘリ。
カーターはオートターゲットシステムを起動した。
レーダーと連動した全兵装が、前方の機体に照準を合わせる。
強力な30mmチェーンガンが火を噴き、最前列の3機を正確に撃ち落とす。
続けざま、全速で敵の編隊をすり抜け、機銃弾の攻撃をかわす。
しかし、速度と機動性に優れたヤコブレフがすぐさま引き返し、
攻撃ヘリに再度銃撃を浴びせてくる。
抗弾性の高い最新鋭のヘリと言えど、ドッグファイトでは戦闘機に軍配が上がる。
カーターはとにかく機首をソ連空軍に向け、
チェーンガン、ハイドラ70ロケット弾を放つ。
ヘルファイア対戦車ミサイルは空中の敵には全く不向きと言っていい。
やはり機銃には機銃。残り10機!
装備の質はこちらが上回ってる!まともに集中砲火を食らわなければ、なんとか!
……くそっ、後ろに3機張り付かれた!食らいついて放さないソ連軍機。
カーターは操縦桿を引き、一気に急上昇した。
全速で所属不明ヘリを追っていたソ連軍パイロットは、一瞬敵の姿を見失う。
しかし、真上から轟くヘリのローター音に空を見上げた。
「おおおおお!」
敵のヘリコプターが無茶な急降下でこちらに迫ってくる。
そして、機首のチェーンガンが、
コンピューター制御された正確な射撃で機体を貫いてきた。
ほんの数秒炎を上げたヤコブレフが空中で爆発。残り7機。
だが、攻撃ヘリも無数の機銃弾を受け、満身創痍だった。
更に、隊列を組み直したソ連軍が、真正面から一斉に20 mm機関砲を放ってきた。
回避しきれず、コクピットに数発命中。
穴の空いたフロントガラスから凍える風が吹き込んでくる。
更に、チェーンガンに直撃を受け、銃身が大破。
頼みの綱を失い、反撃もままならなくなった。
ハイドラもヘルファイアも自由に空を飛び回る敵7機相手には、
無駄打ちになる可能性が高い。……それなら!
決意を固めたカーターは、全速で敵機に突っ込む。
思わぬ行動に思わずソ連軍もわずかに攻撃が遅れたが、
やはり機首の機関砲でヘリを追いながら攻撃を続ける。
カーターは目的地を目指して回避行動を取りながら、ただヘリを飛ばし続ける。
やがて見えてきたのは、黒く、青い、異形達。
カーターの機体からは、既に煙の筋があちこちからこぼれ出ていた。
レーダーを確認。今は隊長も要救助者もいない。
後ろの連中の始末はB.O.Wに任せるとしよう。高度を下げて敵陣の真上を旋回する。
すぐにソ連軍の機体が追いついてきたが、ここに来てようやく気がついたらしい。
ここが深海棲艦の対空砲火射程圏内だと言うことに。
真下から主砲弾、機銃弾の嵐が吹き付けてくる。カーターは通信を開いた。
「レッドフィールド隊長、勝手なことをして、申し訳ありません」
『今すぐ退避しろ!敵弾の届かない高度へ……!』
「はは、すみません。……もう、コイツも限界みたいです。
今の高度を保つのが精一杯みたいで」
もう、ガタガタとヘリの機体全体が揺れ始めている。深海棲艦の攻撃が熾烈さを増す。
周囲ではソ連軍のヤコブレフが瞬く間に撃ち落とされている。
『なら、脱出しろ!絶対俺が迎えに行く!』
「残念ですが、ダメージを受けすぎました。コクピットのハッチが開きません。
最後に、コイツの役目を遂げさせてやってください。」
『馬鹿なことを考えるな!』
「隊長、お元気で。あなたの元で戦えたことを、誇りに思います」
『待て、カーター!やめろ……』
そこでカーターは通信を切り、最も巨大なB.O.Wに向けて機首を曲げた。
巨大な二本腕の怪物を背負った、鬼のような角を持った女。
既に生還の可能性を失ったカーターは、そいつの真上から一直線に落下した。
その機体にほぼ満載のミサイルを抱えて。
「全砲門、開けっ!」
武蔵の46cm砲で軽巡ツ級が下半身を吹き飛ばされ、
臓物を垂れ流しながら後方へ投げ出された。悲鳴を上げることもできずツ級が轟沈。
残り7隻。だが、鎮守府とB.S.A.Aの面々は、喜ぶ間もなく信じがたいものを目にした。
攻撃ヘリが、深海棲艦の一隻に向かって墜落したのだ。
機体がグシャリと潰れた瞬間、ヘリが抱えていた燃料、銃弾、ミサイル、
全てに引火して周囲の深海棲艦を巻き込み炎の塊となって四散した。
折れた尾翼やメインローターが燃えながらボタボタと海に撃ちていく。
稲妻のような爆発音が遅れて届いてきた。
カーターの最期を目の当たりにした皆は、しばらく動けなくなった。
全ての思念・通信を共有している全員が、決死の覚悟で戦場を守り抜いた彼の死に、
呆然としていた。
「そんな……カーターさん、死んじゃったですか……?」
「北上さん的には、そういうの、よくないな……」
「また、また私のせいで守れなかった!私の戦闘機があればっ……!」
ポーラも、北上も、赤城も、絞り出すような声で悲しみを口にする。
「よせ、赤城。彼は軍人としての本懐を果たした。彼にしかできないことを成し遂げた。
他者がどうこうできたと思うのは驕りでしかない」
武蔵が座り込む赤城を叱咤し、肩を抱いて立ち上がらせる。
そして、彼女の側で怒りに震える男が一人。
「馬鹿野郎……」
「ジョー?」
「ふざけるんじゃねえこの野郎!!」
ジョーがムラマサを抜いて、吠えた。
そして、カーターの捨て身の攻撃で混乱する敵陣に向かって再び駆け出した。
「何をしているジョー、戻れ!」
クリスの呼びかけに応じるはずもなく、怒りを爆発させた沼の王は、
深海棲艦の群れへ突撃した。
──チャージ開始
>防寒モード機能停止まで、あと67min.
ロシア語も付け焼き刃です。すみません。