とりあえず一話ができたけど、連続で投稿します。
ので、これを読んでるときには既に次話が完成してたりします(´・ω・`)
第1話【叛逆】
レッドリボン軍本部の司令室で轟音が響き渡った。
狭くないとはいえ場所は密室。50AE弾の装薬からもたらされた破壊の福音は、誰よりもまず撃った張本人の耳を激しく叩いた。
「────……!」
「ああ、悪いが何言ってるかわからん」
キン、と内耳を叩くようにして反響する頭痛のような音にしかめ面をしながら、
撃鉄が撃針を叩き、雷管を通して燃焼した火薬が爆発によってエネルギーを産み出し、それによって生じたガスが弾頭を発射する。
ひとつ。ふたつ。
床に倒れた男レッド総帥に向けて放たれた弾丸は、狂うことなく彼の心臓を穿ち潰し、続けざまに発射された三発の弾丸をもって背の低さに生涯悩み続けた男の人生は終わりを告げた。
「い、生きていたのですか
大柄な黒人であるブラック補佐は冷や汗を流しながらも突然の凶行に思考が追い付いていなかった。
「桃白々、礼を言う。あんたが睨みを利かせてくれたおかげでコトがスムーズに済んだ。おい、死体を片付けろ」
だが当のJr.と呼ばれたクリムゾンは冷静に腰のホルスターへ銃をしまいながら立っていた兵士に死体の回収を命じると、自らの横に立っていた殺し屋桃白々へと礼を告げる。
「やれやれ長い契約もようやく終わりか。ふん、それにしても殺し屋を雇っておいてただ突っ立っていろなどと依頼したのはお前が初めてだ。それでどうする。まだお前さんがトップに立つのを気に入らん連中がいるなら、ついでに殺してやろうか? 勿論、料金はいただくがな」
不敵に笑いクリムゾンへと告げる桃白々。だがそんな殺気混じりの問いかけにも、クリムゾンは冷静に返す。
「そうだな────ブラック補佐、お前は俺が総帥になるのは反対か?」
まるで人を見る視線ではない、凍てつくような眼差し。今現在のブラック補佐になんら期待を抱いていない、路傍の石ころを見つめるような眼にブラック補佐は総毛立つ。
「い、いえ……! で、ですが何故突然レッド総帥を……?」
動揺しながらもここでクリムゾンが総帥になることへ“否”と唱えようものなら、即座に目の前の殺し屋に殺されるのは明白。ゆえにブラック補佐は自身が気がかりとなっているレッド総帥殺害の理由を尋ねる。
「聞くより見る方が早いだろう。おい、見せてやれ」
クリムゾンは整髪料で固めたオールバックの長い赤毛を撫で付けると、コンソール前に待機していた兵士に命令し、モニターにある日の映像を映し出す。
ブラックはコンソールを操作する兵士の落ち着いた様子から、自身の知らないところですでに下克上が始まっていたのだと今になって理解した。
「こ、これは……!」
そしてモニターに映し出された内容。それは今は亡きレッド総帥とその息子であるクリムゾンとの会話であった。
そこで行われていた会話はひどいものだった。軍の今後を左右する規模で展開しようとしているドラゴンボールの捜索。
その理由を、レッド総帥自らが“自身の背を伸ばす為だ”と断言したのだから。
当然というべきか、クリムゾンは説得した。そんなことに万能の願望器と言われるドラゴンボールを使うべきではない、と。
だがそれに対するレッド総帥の回答は実に残酷なものだった。
厳かに懐から銃を取り出すと、躊躇うことなくクリムゾンの右目を撃ち抜いたのだ。
その場に倒れたクリムゾンを、レッド総帥は死んだと思ったのだろう。しかし彼を慕う兵士らによって一命を取り留めたクリムゾンは、実質的に軍を裏から操っていると言っても過言ではない男ドクターゲロと交渉をした。
すなわち、自身がレッドリボン軍を乗っ取ることに協力しろと。
見返りすらない一方的な要求だったが、くだらない目的の為に軍を動かそうとするレッド総帥はドクターゲロにとっても煩わしい存在となった。
そこでドクターゲロはクーデターに協力はしないものの、クリムゾンが生きていることを黙っていることを約束した。
それからのクリムゾンの動きは早かった。まだ回復していないながら、複数の幹部の元へ自ら赴き、彼らを説得し、あるいは懐柔し、あるいは脅迫し、自身への支持を取り付けていった。
クリムゾンとて最高幹部のひとりである。個人の戦闘力は高いとは言えないが、低いわけでもない。
一部の人間はそんな彼を侮り逆に自らがレッドリボン軍総帥足らんとしたが、そんな相手には問答無用で殺し屋が送り込まれた。桃白々である。
クリムゾンと桃白々の働きにより、三日と経たずレッドリボン軍は彼のモノとなった。
知らぬはレッド総帥とブラック補佐のみである。
そして、眼帯を着けて姿を現したクリムゾンは問答無用で父であるレッド総帥を撃ち殺したのであった。
全てを聞かされ、ブラック補佐は揺れていた。
確かにそんなくだらない目的の為にあたら兵士を消耗しかねない全世界への捜索行為など言語道断である。
だが、だからといってこれまで燻っていた彼の野心が消えるわけではない。ブラック補佐は仮にも組織のNo.2である。レッド総帥が倒れたならば、次に組織の頂点に立つのは自分であるべきだという自負もあった。
しかしそれは、すべて目の前で佇む隻眼の青年に見透かされていた。
「お前の気持ちもわかる。クソ親父がせっかく死んだのだから、軍のトップは自分だという気持ちはな。だから今後も実務や大まかな指示はお前に任せよう。お前がNo.2だということは何ら変わらない。精々俺にとって役立たずにならないでくれよ、ブラック補佐」
肩に手を置かれ、見つめあったクリムゾンの無事な方の目を見てブラック補佐は確信した。
(……ああ、儚い夢だった。だがこのお方ならばよほどよい。あんなチビに嫌味を言われながら忠誠を誓うよりも、よほどこのお方のほうが相応しいではないか)
クリムゾンの背は、父親とは対照的に長身である。
これは、彼の母親が当時絶世の美女として話題となったスーパーモデルだったことが大きい。哀れ彼女は誘拐まがいにレッド総帥の元に連れてこられ、彼を産んだ。
世を儚んだ彼女は幼い息子を残して自殺したが、クリムゾン自身は母親が自殺したことなど知らない。今日は世代を越えて復讐が果たされた日でもあった。
長く伸ばした赤毛をオールバックにし、クリムゾンは予てより用意していた真紅の肩当て付きマントを羽織ると、レッド総帥が腰かけていた椅子の前で高々と宣言した。
「これより、我らレッドリボン軍は生まれ変わる! 名を改める必要などない、諸君らは私に付き従う勇猛果敢な精鋭である! 我らこそ最強の軍隊! 我らこそ無敵の軍隊!
我らが前に立ち塞がる敵の悉くを粉砕し、撃滅し、蹂躙する!! 今ここに、新生レッドリボン軍の誕生を宣言する!!!」
いつの間にか用意されていたのか、クリムゾンを撮影し放送する為の撮影班達がその場にいた。
そしてクリムゾン総帥となった彼の映像は、恐らく全てのレッドリボン軍の元に届けられているのだろう。
爆発するような歓声が施設のあちこちから響いてくるのを聞いて、ブラック補佐はカリスマというものを意識せざるを得なかった。
「……さて、ワシは帰るぞ」
「ああ、また仕事を頼むかもしれない。その時は頼むぞ」
僅かな間とはいえそれなりの信頼関係があるのだろう。あえて部下として取り込もうとはしないクリムゾンの姿勢に、ブラック補佐は逆に戦慄する。
「ふん、最後までワシを勧誘しないとはな。だがまあいい。精々貴様がワシのターゲットにならないことを祈るんだな」
「それはお互いに、だろう? 桃白々」
お前の暗殺など恐れるに足りんと。そう言わんばかりの眼光で睨み付けるクリムゾン。
桃白々はそんなクリムゾンの様子を楽しげにしばし見つめると、再び鼻を鳴らして帰っていった。
「さて、一段落ついたな。ブラック補佐、先に言っておくがドラゴンボールの捜索は行うぞ」
「まことですか?」
「ああ。くだらない願いを叶えるのでなければドラゴンボールの存在は実に有用だ。無闇に使われないよう、こちらで管理しておくという意味でも重要ではある」
「ですが、正直私は未だに信じられません。あんな小さな玉を複数集めただけでどんな願いも叶うなど……」
「はっ、まあそれは仕方がない。というより、組織のNo.2であるお前まであんな眉唾モノを頭から信じこまれては俺が困ってしまう。お前はそのままでいい。判断するのは俺の仕事だ。だがドクターゲロに分析させた結果、あの玉が特殊な波長の電波のようなものを発しているのはお前も知っているだろう?」
「……はい。確かに我が軍の科学力を用いても大型のレーダーを開発するのがやっとでしたが」
「過去の資料もあの玉が本物だということを証明している。後は、実際に集めてみるまでだが。俺は少し、違うアプローチをしようと思っている」
クリムゾンはブラック補佐にも無い情報をひとつ有していた。
近年で、ドラゴンボールが一度使われたという情報である。それはドラゴンボールの研究をさせていたレッドリボン軍が捕らえた歴史研究者による証言だった。
まだレーダーが完成していないこともありレッド総帥はそれを一笑に付し、あまつさえ始末しようとした所を勘が働いたクリムゾンが死体を偽装し密かに救出していた。
家族のところへ戻ることができた歴史研究者の証言曰く、伝説にある神龍の召喚の際と同じ現象が起きたというのだ。
事実、レーダーが完成してからもしばらくの間ドラゴンボールは反応さえ見せなかった。
これは伝説にあるドラゴンボールが一度使用されてから再び使えるようになるまでの期間だったのではとクリムゾンは考えている。なぜなら実験段階ではレーダーが捉えていたからだ。
(……となると、レッドリボン軍お抱えの科学者が必死こいて作ったレーダーよりも遥かに高性能なレーダーを作った人間がいる。可能性としては、カプセルコーポレーションのご令嬢か)
カプセルコーポレーションのブルマという少女の名は、科学者でなくとも知っている有名人だ。
16歳にして既に大学の講師までしているという超天才。片手間に発明品まで作り出すことから、以前からレッドリボン軍も目をつけていたが重要人物過ぎておいそれと手を出すわけにはいかなかったのが現実だ。
「なに、脅すだけが交渉じゃないさ。案外悪い目的じゃなければ、こっちに協力してくれそうだしな」
「どうかなさいましたか?」
「いや、ただの独り言だ。俺は少し休む。まだ怪我が治りきってないのでな」
そう言って、クリムゾンは自室へと戻っていった。
後の世界征服を夢見ながら。
とりあえず一話目。
今回は18禁ではないのでエロシーンはありませんご了承ください(笑)
とはいえ得意のグロい描写は入れる予定なので、そういったものが苦手な方はお気をつけを。