ドラゴンボール探しって悟空みたいなチート(飛行機より早い筋斗雲所持。戦闘力は世界でも指折り)でも苦労することですからね。
一般人の類いに含まれるレッドリボン軍ご一行が悲惨な目に遇うのは必然。
ちなみにクリムゾン総帥ですが、デザートイーグルを使って片手で距離20メートル以内を誤差二センチ以内に収める凄腕です。
……わかりにくいですかね? もっと砕いて説明すると引き金を引いた瞬間手首に突然3キロの重石が乗せられる感じです。ちなみに上記みたいなこと出来るのは人間では化け物です。
でもこの世界はドラゴンボールですのでという( ̄▽ ̄;)
クリムゾンはすでに装填済みの弾丸を含め、計八発の.50AE弾を続けざまに発射する。
まともに当たればライフル弾の直撃に近しい威力を持つ最強の拳銃弾。
ハンドキャノンのあだ名を持つ
──全長12メートルはあろうかというティラノサウルスじみた恐竜の目に。
「KIISHAOOOOOOOO!!!」
全弾が狙い通り命中するが、大半は怯んだだけでそれほど効果的ではなかったようだ。
「ごほっ……! 申し訳、ありませ……!」
「喋るな。肺に肋が刺さってる」
ブルー将軍は突如として現れた恐竜からクリムゾンを庇い、巨大な尻尾によって強かに胸を打たれたことで半死半生となっていた。
常人ならば即死の一撃を受けて生きているのだから、この男も大概タフだろう。
クリムゾンは90キロ近い体重のブルー将軍を楽々背負うと出きるだけ彼を揺らさぬように走り出す。
「くそっ、こんなことならライフルを持ってくるのだった!」
舌打ちをしても状況は改善しない。目を奪われた恐竜は直に正気を取り戻し今度こそこちらを食い殺さんと迫るだろう。
その為にはせめてハチやバイオレット大佐のいるジェットの元まで向かわなければならない。
呼べばいいのだが、クリムゾンは無線機を落としてしまっていた。予備はあるが取り出す余裕はなさそうである。
「……ちっ、こいつは虎の子だったんだがな」
言いつつクリムゾンは懐から一つのホイポイカプセルを取り出す。
それを振り向きもせずに後ろへ放り投げると、スイッチが押されていたカプセルは瞬時にその姿を取り戻す。
恐竜との距離約20メートル。あらかじめ装填されていた50BMG弾が連続で火を吹く。
「GYAOOOOOOO!!」
直撃する角度によっては大型装甲車をも破壊する破壊の弾幕が巨大な恐竜の肉を削ぎその足を止めさせる。
その間にクリムゾンはゆっくりと走る。ジェットまで辿り着けばあの程度の恐竜など問題にならないだけの装備があるのだから。
だが、予想よりも早くセントリーガンは破壊されてしまった。
「なにっ!」
「GUROOOAAAAA!!!」
「ぬううんっ!!」
クリムゾンが驚いたのは、セントリーガンが破壊されたことでも、すぐ背後まで恐竜が迫ってきたことでもない。
目の前に、ジェットのなかで待機しているはずの人造人間8号ことハチがやってきたからだ。
ハチは巨大な恐竜の
「……こいつは前言撤回だな。護衛としては最適だ」
クリムゾンは慌ててジェットで追いかけてきたバイオレットへと視線を向けつつ、ハチの評価を改めるべきかと思考した。
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ブルー将軍が重傷を負うトラブルもあったが、ドラゴンボールの探索は概ね問題なく進んでいた。
すでにクリムゾンは3つを手にいれ、残る4つの内二つは場所が深海と火山火口の近辺だった為軍の部隊に任せている。
残るは4つ。そしてその内二つを誰かが持っていることまでわかっていた。
「ドラゴンボールを手にしている者がいるようですが、どうなさいますか?」
気になることだったのか、バイオレット大佐がクリムゾンに訪ねる。
「そうだな。まあ、できれば交渉で手にいれたい。万が一相手が達人級の実力者だった場合、現在のメンバーでは不安がある」
「ちょっと総帥、それはないじゃないですか。俺じゃブルー将軍の代わりにならないとでも?」
そう言ってバイオレット大佐との会話に割り込んだのはシルバー大佐。並みのプロボクサーを上回る実力を持つが、クリムゾンから言わせてみれば所詮
「……シルバー大佐。お前、手から光線出して月を吹っ飛ばせるか?」
「は? 何をおっしゃってるんで?」
思わず間抜けな顔になったシルバー大佐だが、無理もないだろう。録画とはいえクリムゾンも映像を見るまでは本当だとは思わなかったのだから。
その事実を知っているバイオレット大佐だけは冷や汗を流している。
それでも嫌な記憶を押し流そうと、バイオレットはクリムゾンに再び質問を投げ掛ける。
「ということは、総帥はボールを持っている人物に心当たりが?」
「まあな。というか、これだけの短期間で俺たちと同じ程度に早くドラゴンボールを集められる人物など限られている。十中八九、あのカプセルコーポレーションのお嬢さんの関係者だろう。……そしてこれは勘だが、恐らく集めているのはあの天下一武道会に出ていたガキだ」
その少年がブルマと懇意にしているというのは、地道な調査によって判明していた。また、月を吹き飛ばしたのが武術の神様と謡われる武天老師だということも。
「子供相手に何を警戒しているんです? なんなら俺に任せてもらえればすぐに取り上げてみせますよ」
「……シルバー大佐。命令だ、黙っていろ」
「は、はっ! 申し訳ありません」
屠殺場の豚を見るような目で睨まれ、シルバー大佐は思わず敬礼をしてその後気を付けの姿勢でずっと沈黙していた。
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「ダメだぞ、これはじっちゃんの形見なんだ」
「むうぅ、どうにか一度だけでいい。ドラゴンボールを使わせてもらえないだろうか?」
クリムゾンは地面に伏し、土下座せんばかりの勢いで少年──孫悟空に頼み込んでいた。
「そうは言ってもなあ……使ったら石になってまたどっかへ飛んでいっちまうんだぞ。オラまた探すの嫌だぞ」
「もう一度ブルマさんに頼み込んでドラゴンレーダーを借りる。その時は我が軍の総力を上げてその
力強く悟空の両手を握って宣言するクリムゾン。少々困ってはいるが、悪意のない頼みであるため断りきれず悩んでいるようだった。
「……なあ、総帥はなんであのガキにあそこまで平身低頭しているんだ?」
「……そんなこともわからないなら、あなたにレッドリボン軍で幹部をやる資格はないわ。悪いことは言わないから、総帥に殺される前にさっさと消えなさい」
「おいおい、それはないだろう? お前の方が直属とはいえ同じ大佐じゃないか!」
「……まったく我が軍の男共は」
バイオレットは未だ浸透しない階級への認識に頭を抱えたくなったが、この場にこの男を残していては邪魔にしかならないだろうと考え、せめてジェットで待機して監視するべきだろうと連れていくことにした。
「説明してあげるけど、ここじゃまずいからジェットで話すわよ。付いていらっしゃい」
そう言って颯爽とジェットへ向かって歩き出すバイオレット。正直彼女も、自分と隣のシルバー大佐を警戒するインディアン風の大男の睨みに限界を迎えていたのだ。
そうしてすがりつくようなクリムゾンの懇願に悟空がいい加減嫌気が差してきた頃、意外にもレッドリボン軍の一行を警戒していた大男から助け舟が出された。
「悟空、まあいいではないか。それだけの条件を出してくるならば、よほど叶えたい願いなのだろう。だが悪事に荷担はできん。お前はともかく、お前が引き連れてきた男を信用することはできんからな」
そう言ってクリムゾンを見つめる大男ボラは、自慢の槍を握ったまま彼へ向かって詰問した。
(……できるなこの男。下手をすればこの少年以上か。だがこの悟空という少年以上に警戒する必要はなさそうだ。さすがにあんな化け物に変身する人間がそこら中にいては堪らん)
クリムゾンは自分の命をさらけ出すようにまっすぐボラを見つめ返す。
自分がここで殺されるとは微塵も考えていないその様子に、ボラは再び口を開く。
「……強情な男だな。そこまでして一体何を願うというのだ」
「正直に話そう。俺は未来のことを、先のことを知りたいんだ。俺はな、不安なのだ。今までも順風満帆とは言えないまでもうまくやってきた。だがある日、俺の親父は自分に反抗したという理由で俺を殺そうとした。あの日から俺は先のことが怖くて仕方がないんだ。知る手段があるというならば、なんとしてもそれを手にいれる。ドラゴンボールがあればそれが叶う。その為の対価ならば払おう。頼む……もう、満足に眠れない夜はこりごりなんだ」
それは間違いなくクリムゾンの本心であった。
彼は自身が言うとおり、父親に殺されかけてから満足に眠ることができずにいる。
レッドリボン軍本部においては核シェルター並みの防護設備が整った地下の一室を自身の寝所と定めているが、それでも側に置くのは情婦であるバイオレット大佐のみである。
ブルー将軍も忠誠を誓ってはくれているが、実の肉親でさえ突如として牙を向くという行為が彼から安心を奪っていた。
そしてドラゴンボールに未来の知識を、あるいは未来を見る力を願うのは必ずしも自分の為だけではない。
それさえあれば、レッドリボン軍によって世界を征服することも容易くなるからだ。
今はまだ無理だろう。月を見ることによって悟空という少年が大猿の化け物になるのをクリムゾンは見た。その直後、たったひとりの人間が月を木っ端微塵に粉砕するのまで目撃した。
仮にレッドリボン軍の総力を上げて世界征服をはじめたとしても、彼らのどちらかを敵に回しただけでそれは頓挫するのが目に見えている。
それこそが、クリムゾンが頭を下げる理由。立場が上であるという自負があるからこそ頭を下げるのだ。自分にはその価値があるのだからと。
「……ひとつだけ約束しろ。無闇な殺生だけはするな」
「当たり前だ。俺は無駄な人殺しなどこれまで一度としてやっていない」
どこかズレた会話。どこかズレた価値観。だがそのことにボラも、そしてクリムゾン自身も気づかない。
そして本来話の中心である孫悟空は、話がややこしくなったので飽きて寝ていた。
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「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえ!!」
クリムゾンの大声が荒野に響き、それに合わせて周囲が暗くなっていく。
暗雲が空を覆い、稲光が空を照らす。
「……ついにこの瞬間が来たのか」
バイオレット大佐は感慨深げに空を見上げて呟く。
その隣では無理をおして来たのだろう。どこか顔色の悪いブルー将軍が同じように空を見上げている。
「あたしのいない間にさらに仲良くなったみたいじゃない」
「そのことに関してはあのボラという男に感謝だな」
そう言うバイオレット大佐の右手にはきらめく銀色の指輪が嵌まっていた。
なんでもあれから交渉を重ねた結果、クリムゾンは責任を取ってバイオレット大佐を娶るという話になったらしい。
正直クリムゾン自身も困惑していたが、それで願いが叶うならばと頷いた部分もあり、せめてもの譲歩として婚約指輪を送るにとどめていた。
バイオレット大佐自身はあくまで無表情を貫いたものの、見るものが見れば非常に嬉しそうにしているのがバレバレである。
「けっ、嬉しそうに尻尾振ってるんじゃないわよ」
「尻尾か? なんだ、総帥はそういうのも好みなのか」
「……ああ、とうとう色ボケしちゃったわよこのおバカ」
二人が寸劇を繰り広げているなか、とうとう空を覆い尽くさんばかりの巨大な龍が現れていた。
全身を見渡すのが馬鹿らしくなるほど長大な全身が揺蕩い、宙に浮かんで呼び出したクリムゾンを見下ろしている。
『さあ、願いを言え。どんな願いでもひとつだけ叶えてやろう』
そう言って空中に鎮座する神龍。
クリムゾンはあらかじめ、周囲20キロを封鎖していた。呼び出す場所に荒野を選んだのもそのためである。
またこのときの為に再び桃白々を雇い、不審に近づこうとする者がいれば誰であろうと殺せと依頼している。
「神龍よ! 俺に未来を見通す力をくれ!」
『……時の流れの果てを見る力を望むか。ではどこまでを望む』
「俺に関わる事象のすべてを!」
『容易いが、それにお前自身が耐えること叶わぬ。なにか別の願いを言え』
「くっ……! ならば、短時間でいい! それに付随して自分の未来を見ることは可能か!」
『……一度だけ、見れるようにしてやろう。だがあまりにも遠い時間は見ることはできない。あくまで、お前の人生に関わる時間だけだ』
「十分だ、やってくれ!」
『いいだろう……!!』
神龍の赤い目が輝き、クリムゾンの脳裏に未来を見る力が注ぎ込まれる。
それは間違いなく禁忌の力ではあったが、今それを彼自身が知るよしもない。
そして願いは叶えられた。
「くっ……ぐぅぅ……!! ぐああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
脳裏を駆け巡る無数の情報。まるで津波に飲み込まれるかのように、クリムゾンの意識は途絶えた。
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クリムゾンは夢を見ていた。
まるで自分が物語を見る傍観者になったような夢を。
(……なんだここは。俺はどうなったのだ……)
プリズムのように無数の色が反射しひしめき合う空間において、クリムゾンはさ迷うかのように周囲へと視界を巡らす。
よく見れば、きらめくプリズムはそれら全てが記憶を写す鏡のようなものだった。
(……あれは、悟空少年か? 一体ナニと対峙している……)
クリムゾンが見たのは、緑色の肌に桃色の肉を宿した奇妙な人間と対峙する悟空少年の姿。
(……今度は一体どこだ。……これは東の都か? なんだ、あの二人組は。うあっ、光がっ!)
次に見たのは、東の都に突如として現れたらしい妙なボディーアーマーの二人組が、何らかの兵器を使った瞬間。
東の都は一瞬にして破壊し尽くされ、跡形も残らないほどに消し飛ばされていた。
(なんだこれは……! 一体何なのだ……!!)
次に見たのは、地球人を殺戮する異星人らの姿。先程の二人組が着ていたボディーアーマーに似た武装に身を包み、実に楽しげに人間らを殺して回っている。
殺されていく人々の中には幼い子供を抱えたバイオレットの姿もあった。
(……これが。こんなものが未来だというのか……!!!!)
次に見たのは、世界各地を破壊する若い男女の姿。その胸元にはレッドリボン軍のマークが刻まれている。
(……認めんぞ。俺は決して、こんな未来を認めんぞ!!)
最後にクリムゾンが見たのは、桃色の髪をした悟空に似た男が世界各地で殺戮を繰り返し、人類絶滅を記念して祝杯をあげている姿。
(そうか。これは俺が寿命で尽きるまでの時間をそのまま見せているということか。この間に俺が死んでいるかどうかは考慮されていないようだな)
一転してクリムゾンは冷静さを取り戻す。
あるだけの絶望を見せられたなど、なんだと言うのか。
それがどうしたというのだ、と。
それを知るために恥も外聞もなく権力を使い、年下の少年にもすがったのだ。
(神というものがいるならば後悔するがいい。俺は知ったぞ! 絶望の未来を! そして誓うぞ! 絶対にこんな未来は認めん!)
決して折れぬと誓いを立て、運命に反逆する男が目を覚ます。
男の名はクリムゾン。レッドリボン軍の後継者。
※9/19 悟空が悟空の手を握っている誤字修正しました(笑)
ということでクリムゾン総帥の決意表明まででした。
案外あっさりドラゴンボールが集まって拍子抜けでしたかね?
ああ、それと悟空にすがりつくしかなかったのは、まあわかるとは思いますが、突然大猿の化け物に変身する上に月を生身で吹き飛ばす相手と五分の勝負を繰り広げた少年が相手ですから仕方ないです。そんなん出来ることなら関わりたくないですもの。
でもって今回でネタバレになりましたが、実はこの世界絶望時空でしたという。しかも本編よりもやや追い詰められてるくさいという(´・ω・`)
総帥の明日はどっちだ!